真・恋姫†演義~舞い降りる賢君~   作:残月

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太公望、真名を授かる

 

 

 

 

 

気絶した鳳士元が起きるのを待つ太公望。

 

 

「ふむ……真名以外にも、この娘の琴線に触れる事が有ったのかのう」

 

 

太公望は支えるのではなく地に座り、鳳士元を膝枕していた

寒くないように着ていたローブを彼女に掛けていた。

 

 

「……あふ……ふぇ?」

 

 

そして目覚めた鳳士元。

 

 

 

「む、起きたか?」

「ふ、ふぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 

太公望に膝枕されている事実に悲鳴を上げる鳳士元。

 

 

素早く離れると鳳士元は帽子を脱いで、その場に土下座した。

 

 

「も、申し訳ありませんでした!太公望様!!」

「………………はい?」

 

 

先程までの対応とまるで違う鳳士元に太公望は目を丸くした。

 

 

 

「ま、まさか太公望しゃまとはつゆ知らず失礼しました!え、えたえと……私の先程までの無礼をお許しくだしゃい!」

 

 

興奮した状態で噛みながら捲し立てる鳳士元に太公望はただ圧倒され、呆然としていた。

 

 

 

 

◇◆数分後◇◆

 

 

 

興奮した状態の鳳士元が落ち着くのを待った太公望は事態の解明に急いだ。

 

 

 

そして、その結果以下のことが判明した。

 

 

①この世界は太公望がいた時代から数百年後

②今の時代は漢王朝

③太公望は殷を倒した武王の軍師、賢者として語り継がれている

④乱世により国は荒れて民は困り果てている

⑤現在大陸中に乱世を治める天の御使いが現れると予言が有った

⑥其処に現れた太公望

 

 

 

「うぅむぅぅぅぅぅ……」

 

 

太公望は片手で顔を覆って自身の迂闊さを再度呪っていた。

太公望は女禍が作った世界に入った段階で同じ時代に飛んだと思っていたがそれは間違いだった。

女禍が予備の世界で作っていたのだから時代が進んでいるか遅れているかは分からなかったのだ。

しかも、その時代に置いて太公望の名が賢者として伝わっているなど夢にも思わなかったからだ。

 

 

 

「あー……鳳士元よ」

「ひゃ、ひゃい!」

 

 

先程までの興奮からは落ち着いたが緊張しまくりである。

 

 

「まずは落ち着くのだ」

「は……はい」

 

 

太公望のから多少感じる威圧感に鳳士元は緊張も少し解かれたようだ。

 

 

「ワシは確かに太公望じゃ。じゃが乱世を鎮める為にこの地に来たわけではないのじゃ」

「………え」

 

 

太公望の言葉に悲しそうな顔をする鳳士元。

 

 

「ワシはある事情からこの地に来た。それは乱世を鎮めるよりも大事になるじゃろう。それにな………」

 

 

太公望は一度言葉を句切る。

 

 

「ワシは仙道が国を導くのは好かぬのじゃ。ワシが介入すれば国はいつかは間違えた道を歩むやもしれぬからの」

「………仙道」

 

 

太公望の言葉に反応を示す鳳士元。

 

 

「やはり太公望様は仙人様だったのですか?」

「む、やはりとは?」

 

 

鳳士元の言葉を聞き返す太公望。

 

 

「先程お助け頂いた際に何も無い場所から強い風が吹きました。地理的に風が強く吹く場所ではありませんでした。それに太公望様が現れた後に風は止んでいましたから、其処から導き出されるのは太公望様が仙術で風を操っていたのではないでしょうか?」

「む、むう……」

 

 

太公望は鳳士元の頭の回転を侮っていた。

 

 

「それに仙人様であるなら太公望様のお姿が若いのにも道理。真名や時代のことを知らなかったのも時代を超えた、もしくは人里から離れていたと思えば納得出来ます」

「む……むう」

 

 

鳳士元は先程までと違い、一度も噛まずに太公望を説く。

 

 

「しかしだな鳳士元よ」

「太公望様が政治に関わらないと言うのはわかりました。でも見て下さい。民を国を……その上でもう一度御言葉を聞かせて下さい」

 

 

太公望の反論を許さず鳳士元は捲し立てる。

対する太公望は鳳士元の目を見つめた。

先程までのビクついた様子はなく真っ直ぐに太公望を見詰めていた。

太公望はその目を見て何処か懐かしい気持ちになっていた。

 

 

 

 

────太公望殿─────

 

 

 

 

 

性格も性別も歳も。

何もかもがあの男とは違うのに思い出してしまった。

国を思い、祖国を離れ、親友と祖国と戦う決意をして、逝った友に。

 

 

 

「…………武成王」

「………ふぇ?」

 

 

懐かしさに目を細めた太公望。

 

 

「っと、すまぬ」

 

 

鳳士元の間の抜けた声に思考を取り戻した。。

そして思考を戻した太公望はクックっと笑いを堪えたかの様な笑い方をする。

 

 

「な、なんで笑うんですか!?」

「いや、笑ったのはワシ自身にじゃよ」

 

 

太公望はヒラヒラと手を振る。

 

 

 

「ワシはな先程まで、この国を巻き込んではならぬと思っておったがそれは間違いであったとお主に説かれたのじゃよ。ワシに間違いを教えてくれたのはお主じゃ」

「あ、あわわ……」

 

 

太公望は鳳士元に歩み寄るとポンポンと頭に触れる。

 

 

「しかしワシはこれから、大陸を回る旅に出て国を知らねばならぬ。どのみち国の政治には関われぬか」

 

 

ムウと顎に手を添えて、悩む仕草を見せる太公望。

それを見た鳳士元は太公望の前に片膝を着いた。

 

 

 

「太公望様、私の真名は『雛里』です。この名を預けると共に太公望様の旅の供をさせて下さい」

 

 

 

鳳士元は太公望に真名を預けると共に旅の同伴を申し出た。

 

 

 

「鳳士元よ……ワシは……」

「雛里です」

 

 

『鳳士元』改め『雛里』に真名を呼ぶように言われて太公望は折れる。

 

 

「雛里よ……ワシは旅をするがお主にとって実りの有る旅になるとは限らぬぞ」

「構いません。私が太公望様に着いていきたいと思ったんです」

 

 

雛里の態度に説得は無理と判断したフゥーと溜息を吐く。

 

 

 

「雛里の友人に会うまでは共に旅をするかの?」

「は、はい!」

 

 

太公望の言葉に雛里は満面の笑みを浮かべる。

賢君と鳳雛はこうして共に旅をする事になる。

この出会いがこの世界に何をもたらすか。

それはまだ誰にもわからない事である。


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