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町に来てから数日が経過し、太公望はご満悦だった。
「見よ雛里……これなら半年は食い物に困らぬぞ」
「す、凄いです師叔」
太公望の手には大金が握られていた。
占いが当たると評判になるやいなや、客が殺到したのだ。
料金的には普通の占いだが数を重ねれば儲けになる。
太公望は僅か数日で町の人々と交友を深め、もはやこの街に知らぬ人無しといった状態である。
そして今日も繁盛する占い屋。
「待たせたの皆の衆!今日は新作の『いわし占い』をやってしんぜよう」
ギャラリーが湧く中、太公望は鰯を取り出すと腕を交差して目を瞑る。
「いわし-!いわし~……いわし~……」
怪しげな宗教家の様にユラユラと揺れながら鰯を連呼する太公望。
「なあ、薪売りよ。あの占い師大丈夫なのかよ?」
「怪しいけど占いは当たったんだって!」
怪しげな占いを訝しむ町民に薪売りはフォローを入れる。
「ふむ。中々、興味深い御仁だ」
怪しげな動きを披露している太公望の前に一人の女性が立つ。
「占い師殿、イッちゃってる最中に申し訳ないが少し宜しいか?」
「む?」
太公望の占いを中断したのは髪が青く、白い着物を着た女性だった。
「私の名は趙子龍。この町を治める公孫賛殿の客将だ。スマぬが公孫賛殿が占い師殿に合いたいとおっしゃっておる。来て頂けるか?」
「うむ。この町を治める方に呼ばれたとあっては仕方ないの。出向くとするか」
趙子龍の言葉に待っていたと言わんばかりの表情で頷く太公望。
「皆の者。スマぬが今日は此処までだ」
太公望はサッサッと店じまいをしてしまうが町民は太公望の性格を把握し始めたの早々と解散していった。
趙子龍の案内で城へと向かう太公望と雛里。
「いやはや、たった数日で人気者ですな」
「そうだのう。コソコソと物影で監視する者が出るくらいの」
太公望の言葉に趙子龍と雛里は目を丸くした。
「気付いておられたのか?」
「す、凄いです師叔。私、全然気が付きませんでした」
町の兵士が監視に来ていた事に気付いていた太公望。
そして、その事に驚く趙子龍と雛里。
「正しくは監視が出るのを待っておったのだ。あれだけ派手に騒げば町を治める者が何も手を打たぬ筈が無い」
太公望の手並みに感心する趙子龍と雛里。
だが太公望は儲けの為に半ば本気で占いをしていた事は隠していた。
「最初見たときは愉快な御仁と思ったが、貴殿は策士の様だな占い師殿」
「お主こそ中々、尻尾を出さぬ様じゃの」
腹の探り合いをする太公望と趙子龍。
そして互いに笑みを浮かべる。
「本当に楽しませてくれる方だ。改めて私の名は趙子龍。貴殿等の名を教えて頂けるか?」
「ワシは呂望。そして此奴は鳳士元。故あってワシの旅の供をしておる」
「あわわ、鳳士元でしゅ!」
趙子龍の言葉に自己紹介をする太公望と雛里。
お約束通りに雛里が噛んでしまったのを見て太公望と趙子龍は顔を見合わせた後に笑った。