前後編の2部じゃなくて、前中後の3部編成です。
呉鎮守府内に入った3人は門から歩を進め、呉本営に近く海に近い、特に人で賑わう所に来ていた。
「凄いです……。こんなに人が多く集まるところがあるんですね。」
「まあ、かなり大きな場所だからね。海軍で働いている人だけじゃなくて、その家族や鎮守府の見学者もここに集まっているし。」
「かなり賑やかなのです!」
3人の目の前にある通りには両側に多くの店が店舗を構えており、それに比例して人の賑わいも多い。親が海軍であろうと思われる小学生や、恐らく修学旅行の一環として訪れたのであろう中学生、白い軍服に身を包んだ海兵等、様々な人がこの通りに集まっていた。
「何か、海軍の鎮守府とは思えないような賑わいですね。」
「写真だけ見せられたら、どこだかわからないと思うのです。あ、暁ちゃんたちにお土産買いたいのです!」
「それは用事が終わってからね。まあ、再建した当初は後々こんな風に栄えるようになるとは思っていなかったんじゃないかな?」
ここまで賑わっているように見えるこの場所が、再建されたもの。この言葉に、幽と一緒に歩いていた二人は疑問を感じ、幽へと尋ねる。
「再建……ですか?この鎮守府って再建したんですか?」
「ん……ああ、口に出ちゃってたか。そうだよ。ここは何回か再建したんだ。」
「全然そんな風には見えないのです。」
羽黒と電の二人は一度前に振り返る。何度見ても、この賑わっている様子からは再建したということがわからなかった。この場所がずっと続いてきたと言われても、納得してしまうレベルであるからだ。
そんな二人に対して、幽はこの呉鎮守府が今まで辿ってきた歴程を、およそ重要な部分に絞って説明し始めた。
「まあ、説明するとね、呉は今までに2回壊滅状態に陥ったんだ。」
幽は指を2本立て、顔の辺りに持っていく。そして二人をそれぞれ見返した。そして立てた指を1本に変え、こう続ける。
「1回目は、『霧の艦隊』と呼ばれる艦隊が海で蔓延った時。このときは『霧の船』からの数発の流れ弾が当たったせいで只でさえ地上が大ダメージを受けたにも関わらず、同時に起こった海面上昇によって、この近辺まで水没してしまったんだ。」
「霧の……艦隊?霧の船?」
「何のことなのです……?」
『霧の船』、『霧の艦隊』。初めて聞く2つの単語に、二人は少し混乱してしまう。この状態について幽は気付くのが、全体的にワンテンポ遅れてしまった。
「……あ、これ話してなかったか……。」
幽はしまった、というような表情をし、額に手を当てる。2秒ほどその格好のまま固まった後、幽は元の様子に戻り、話を続けた。
「私たちから何代も前……、深海棲艦がまだ世界に現れていなかった頃、平和な日常を送っていた世界に、ある日突然巨大船の艦隊が現れた。その艦隊は全世界に現れ、持っていた圧倒的な武力によって制海権、制空権を奪取、各国間を分断してしまったの。日本も例外じゃなくて、国内が分断され分散首都を置かなければならない状態にまで陥ったわ。」
一旦幽は言葉を止め息を吐く。そして、再び言葉を続けた。
「その船に共通して言えたことがある。それは各国の名を馳せた軍艦とその船らが酷似していること。その中には、旧日本軍の大和や長門、ドイツのビスマルク、イギリスのプリンス・オブ・ウェールズなど、各国の中でもかなりの上位戦力だった艦もあったらしいわ。」
幽から述べられる艦名を聞く度、二人は驚きをさらに大きくしていく。何故なら、それらの船、特に長門と大和はその存在をかなり耳にした船であったからだ。
「つまりその艦が……」
「ええ。『霧の船』、その船の多数集まった『霧の艦隊』よ。霧が最初に現れたとき大海戦が起きてね、この付近でも自衛隊と海戦が起こって、その中で出てきた流れ弾がちょうど呉に直撃して、壊滅状態に陥ったの。」
「そんなことがあったんですか……。」
「全然そんな風に感じられないのです。」
二人は再び振り返って見る。多くの人々で賑わっている様子が見てとれる。その景色は、そのような大変なことがあったことを微塵も感じさせない。
幽はまだ説明が終わっていなかった事を思い出し、コホン、と一拍ついて再び話を進め直した。
「まあ、その『霧の艦隊』襲来の際の件については、千早群像、刑部蒔絵、駒城大作の3名を中心とした霧の艦隊との講話の成立後、霧の船が引いた後に水が引いていったのよ。それに霧から受けたダメージもまだ直せる範囲だったらしいから、何とか呉を復旧させることが出来たの。むしろ問題だったのは二回目の方なのよ。」
大型戦艦の流れ弾を受けただけでもかなりのダメージを負う筈なのにそれより問題があったと言われ、二人はそのイメージが思いつかなかった。
「二回目……ですか。」
「ええ。二回目は、約60年前深海棲艦が出現し始めたときよ。このときは、本当に再起不能なんじゃないかと言われるくらいひどい状況になったらしいわ。」
「さ、再起不能なのです!?」
このかなり大きな鎮守府が『再起不能』。その言葉とそれの含有する意味に二人は驚きを隠せなかった。
「深海棲艦が出始めた頃、まだ深海棲艦に対抗できるような手段が無かったの。そんな状態の時に全鎮守府に攻め込まれてしまって、各鎮守府及び各基地は大ダメージを受けた。その中でも、横須賀と呉は特に甚大なダメージを負ったわ。」
横須賀と呉。日本にある5つの鎮守府のうち、中枢として機能している2つの鎮守府が特に甚大なダメージを負ったということに、二人は衝撃を受けた。この2鎮守府が壊滅しかけるということは、日本海軍の中枢が崩壊することに等しいことだからである。
しかし、実際にどの程度のダメージを受けたのか、それが気になった二人は更に話を続けた。
「呉はどうなったんですか?」
「陸地の奥の方にあった建物を除いて全滅だったみたいよ。当時の上位将官の約半数が亡くなったらしいわ。呉の元帥も含めてね。」
想像以上の被害に、二人は驚く。とここで、電がふと疑問に思ったことを呟いた。
「いくら対抗手段が無いと言っても、霧の攻撃には耐えたのになんでなのです……?」
「そう、そこよ。実は霧と深海棲艦には大きな違いがあったらしいの。」
幽は右手の人差し指だけを伸ばし、手を顔の横へと持っていった。
「違いですか?霧の場合はあくまで船の形だから勝手を掴む事が出来たけど、人形(ひとがた)の船、艦娘は当時存在しなかったから予想を立てられなかった、ということですか?」
「そういう外見的な違いじゃないわ。『地上を攻撃できるか否か』という中身の違いよ。」
羽黒の問いに対して、幽ははっきりと答える。しかし、電は「霧も攻撃できたのではないか」という考えから、なぜこれが理由となるのかがわからなかった。
「?どうしてそれが理由になるのですか?」
「地上へと攻撃を加えることも多々ある深海棲艦に対して、霧の艦隊には『地上に攻撃を加えてはいけない』という制約があったらしいの。だから、霧の時は地上が集中的に狙われることがなくて被害を抑えることが出来たけど、深海棲艦は直接地上を狙ってきたから霧の時よりも大きな被害を出してしまったのよ。」
「なるほど、そういうことですか……。」
「でも、この情景を見ると、やっぱり信じられないのです……。」
三度(みたび)、通りに振り返る。やはり、かつて壊滅の危機があったということは、全く読み取れなかった。
ならば、どうやって壊滅状態からここまで持ってきたのか。二人にこの純粋な疑問が浮かび上がった。
「壊滅しかけた状態から、どうやってここまで復興させられたのでしょうか……。」
「それは、生き残った海兵の中で当時中佐だった人が、「呉の本営を絶対に復興させる!」って中心に立って色々な方面で動いたお陰で、ここまで復興させることができたのよ。」
「ほわぁ~。すごい人がいたんですね。司令官はその人を知っているんですか?」
「これでも呉所属の海兵だからね、知ってるよ。その人は」
「私のことだよ。」
「そうなの……って、元帥!?」
「「!?」 」
気が付くといつのまにか幽の隣に、多少皺は入ってしまっているものの可愛らしい、白い軍服を着て左胸に元帥勲章を着けたおばあさんとその秘書艦と思わしき艦娘が立っていた。
いきなりの事に幽は驚いて一瞬身動きをとることが出来なかったが、はっと気を取り戻しすぐさま敬礼をする。羽黒と電もビックリしてしまっていたが、気を取り戻して、幽にならい敬礼をした。
「げっ、元帥!只今のご無礼、誠に申し訳ございません!」
「あらあら、そんなに堅くならなくていいのに。私はただのおばあさんだし、昔はもっと人懐っこかったじゃないか。」
「し、しかし公の場ですので……。」
「いいのよ、私は構わないわ。」
「司令官がたじたじなのです……。」
普段は見せない幽のあまりの慌てっぷりに、二人はうちの司令官もこんな風になるのかと内心思っていた。
二人がはっと意識を戻すと、すでに司令官と元帥の話が進み、呉元帥の視線が自分達の方へ向いていることに気がついた。そして元帥は、二人を見つつ幽へ問いかけた。
「この子達が幽ちゃんの艦娘かい?」
「はい、そうです。二人とも、自己紹介を。」
「「は、はい!」」
幽からいきなり話をふられ二人は慌ててしまうが、ふう、と一息おいて元帥に対して名を名乗っていく。
「初めまして。廿日市基地所属、秘書艦の暁型四番艦電なのです!」
「同じく廿日市基地所属、妙高型四番艦羽黒です。」
「あらあら、礼儀正しく有り難うね。呉鎮守府の元帥海軍大将、双宮帆海(ふたみやほのか)です。よろしくね。」
「双宮元帥秘書艦の、大和型一番艦大和です。よろしくお願いしますね。」
「「よろしくお願いします!」」
全員の紹介が終わったところで、幽は帆海がこの場に現れてから純粋に考えていた事を尋ねる。
「そういえば元帥、ここにいらっしゃるということは、上位将官の会議は終わったのでしょうか?」
「ええ、終わったよ。御簓君は幽ちゃんが来てるって急いで会議室を出ていったから、もう提督室に戻ってるんじゃない?」
「本当ですか!」
なんとなく勘づいてはいたが、やはり上位将官会議は終わったようである。しかも今日会う予定の御簓が急いで自らの提督室に戻ったというのであれば、幽たちも急いで向かう他無いだろう。幽はそう考えた。
「司令官さん、向かいますか?」
「ええ、先生をお待たせする訳にはいかないわ。電、お土産はまた後でいいかしら?」
「わかったのです!」
「元帥、教えていただきありがとうございました。申し訳ありませんが御簓提督の所へ向かう予定がありますので、失礼します!」
「ええ、こちらこそありがとね。気を付けて行きなさいな。」
「ありがとうございます!失礼致します!」
「「ありがとうございました!」」
幽と電、羽黒は帆海に挨拶をし、これから会う予定である御簓の提督室がある方へと走っていく。その後ろ姿を見つつ、帆海は大和に問いかけた。
「あの子の活発さは変わらないねえ……。元気なのは良いことね。で、どうだった、大和……いいえ、『
『ヤマト』と大和を呼びつつ、帆海は秘書艦の方を向く。そこにいるのはやはり秘書艦の大和だが、その表情は先程までの穏やかな笑顔から何かを考えている様な顔に変わっており、放つ雰囲気もどことなく変化していた。
「色々血は混ざっちゃってるけど、素質はしっかりと残っているわ。あの子は多分『彼女』を動かせると思う。」
「そうかい……。出来れば、その素質は目覚めてほしく無いものだね。」
「まあね。でも、実際私達が暴走したときには、あの子とあと二人が中心となって事態の打開を狙うことになっていきそうね。」
「そんな事態にならないように、私達も動いていかなけりゃいけないねぇ。」
「ええ、そうね……。」
二人は踵を返し、自分達の提督室のある本営に戻っていく。先程までの煌々と地上を照らしていた太陽は薄い雲の裏に隠れ、地上にはうっすらと影が現れ始めていた。
呉編の中編でした。
この世界は、先にアルペジオの異変が起こって、それの解決後暫くして艦これ本編という歴史観の世界になります。
呉の元帥も初登場です。この後の話にも関わってきます。
艦娘紹介
06 神通
艦種 軽巡洋艦
役職 第1艦隊
所属 廿日市基地
簡易紹介
3回目の建造で廿日市基地に配属。吹雪、雪風と同期として廿日市基地にくる。
言わずと知れた、二水戦を代表する船。少し引っ込み思案でおどおどしている印象があるが、その心にはしっかりとした一本の芯を持っており、ほとんどぶれる事無くそれに基づいて行動している。
元二水戦旗艦だった影響なのか、訓練に対しては人一倍、基地一厳しい。かつて『地獄の金剛』と呼ばれた金剛すらも、やりすぎだと呟くほどの超実践的訓練らしい。
軽巡洋艦なので砲雷撃戦を得意とする。しかし、ほとんど機会がないのであまり表に出ないが、実は砲雷撃戦より白兵戦の方が性にあっていて得意らしい。
最近裁縫に興味があり、暇があるときに少しずつ作品を作っているらしい。
次回で呉編は終わりの予定です。
その後は、演習からの南西諸島編に進む予定です。