瀬戸内海に面しているある街に作られた大きな基地、その入り口からある白い海兵将官の制服を着た少女が、基地内の建物を見上げていた。
「…ふう。ここが、私の担当の鎮守府だね。大きいなぁ…。」
彼女、簓雪幽は今、広島の廿日市にいる。彼女は、ここに建てられている鎮守府の新しい提督として着任し、ここへ来たのだった。廿日市の鎮守府は、粗末なものではなくそれなりにしっかりとした建てつけで、設備もかなり豊富なものである。
「中に入ったらとりあえず、最初の娘を建造しないと。大淀さんは先に行ってるらしいし、大丈夫かな。ま、急ぐに越したことはないけど。」
彼女は、期待半分不安半分の状態で、駆け足で鎮守府へ入っていく。
その姿を、陽の光が眩しく照らしていた。空には、少し雲が湧きはじめていた。
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『…どういうことですかっ!』
簓雪幽が鎮守府の中に入って最初に聞いたのは、この怒号だった。それはあまりにも唐突すぎたので、玄関に荷物を置こうとしていた幽は、ビックリしてバランスを崩し、転んでしまった。
「わあっ!な、何事!?大淀さんの声よね、何が起こったのかしら!?」
幽は、荷物をその場に置いたまま、声の発信源となっていた通信室へ急いで向かうのであった。
・・・・
「はぁ…、全くもう、呉の上層部は何やってるんですか…!」
受話器を置いた大淀は、大きなため息をついていた。
「ああ…、幽さんになんて言えばいいか…。」
大淀がここまで怒りながら呉に電話をしていたのには、ある理由があった。しかも、それは鎮守府的にかなり致命的なものであった。
「これじゃ何にも…」
その時、通信室のドアがかなりの勢いで開き、そこから
「お、大淀さん!一体何があったの!?」
この鎮守府の新任提督である幽が、息を荒げながら駆け込んできた。かなり息が上がっており、相当急いで来たと思われる。
「幽さん…。実は、伝えなければいけないことがあって…。」
「ハァ…ハァ…伝えなきゃいけないこと
…?何なの…?」
「そ、その…ですね…じ、実は…」
大淀は、かなり伝えづらそうにしながらも、その口を開き、
「この鎮守府、提督室が今、使えないんですよ…。」
と、述べた。
「…はぁ!?ど、どういうこと!?」
「なぜだかわからないんですけど、この鎮守府の提督室のところに砲撃…そうですね、弾痕から見るとおそらく35.6cm砲だと思いますが…、それを受けた跡があって、そのせいで、提督室の機能が滅茶苦茶になっていて、直すまで使えなさそうなんです…。」
「なんで砲撃…。まさか、前の提督の残しやがったやつ?あの人、確か…」
「それはわからないです。ですが、出撃と遠征、演習は、直るまで使えないと思います…。」
「本当に全機能使えないの?」
「出撃・遠征関係の提督室を通る通信系統も破損してしまっているので、本当に出来ないわけではないですが、避けた方がいいかと…。」
「ま、まさかの事態ね…。で、上層部はなんて?」
「とりあえず、このような事例が今多発しているらしくて、1ヶ月くらいはかかるかと言っていました。」
「1ヶ月ね…。まあ、いつでも出撃ができるように、それまでゆっくり準備しましょ。」
「はい。あ、それではまず、秘書艦の建造をしませんか?」
「そうね。あ、そういえば荷物そのまま置いてきちゃったし、片付けつつ工廠に行きましょうか、大淀さん。」
「はい。」
まさかの事態が発生したが、とりあえず1ヶ月でいつ出撃などが出来るようになっても対応できるようにすることを目的として、鎮守府の運営が始まった。
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持ってきた自分達の荷物を片付けた後、二人はその足で工廠へと向かった。ここの工廠は海際に建設されており、窓の外からは青く広い海を見れるような建て方になっている。
「ここが工廠ですね。」
「よし、じゃあ秘書艦の建造をしますか。」
「建造に必要な開発資材と資源はありますか?」
「御簓先生の所を出るときに、とりあえず持ってけーって貰ったわ。」
「なんか、過保護すぎません?御簓さん。」
「私たちが小さい頃から、色々面倒みてくれてたからね、心配なんでしょ。いらないって言ったのに、無理やり渡すところをみると。というか、むしろ吹雪さんのほうがヤバかった。」
「吹雪さんがですか?」
「ええ。なんか途中で暴走し出して、やっぱり私もーって言い出した所で、睦月さんに羽交い締めにされて、止められてた。」
「あ、あはは…。」
大淀は御簓の吹雪と睦月の二人を知っているので、なんとなくその場が想像できてしまい、苦笑いをするしかなかった。
ちなみに実際はそんな生易しいものではなく、ネジが1個外れて幽たちを押し倒さんばかりに暴走した吹雪を、睦月が全力を出して羽交い締めにして押さえている状態だった。睦月は、「あれほど暴走した吹雪は、かつて大和さんの時しか見たことがない」と、言っていたという。
「さあ、やるわよー。」
「資源の量は、どうするんですか?」
「うーん、取り敢えず最低資源量でいいんじゃない?」
「そうですね。いきなり大きめの艦出しても、運営できなくなりますからね。」
「それは洒落にならないけどね…。じゃあ決まり。妖精さーん。」
「ハーイ」「ナニナニー」「ヨンダー?」
工廠の奥にある大きな鋼鉄製の扉の中から、小さな3人の妖精が、ふわふわと飛んできた。3人とも、それぞれ手に工具を持っている。
「資源最低量で建造したいんだけど。」
「ワカッター」「ウケタマワリー」「シザイワタシテー」
「はい、お願いね。」
「ガッテンダー」「オマカセアレ」「ヤルヨー」
妖精たちは幽から必要資源を受けとると、資材と資源を持って工廠の奥にある重厚な扉の中へと戻っていった。
「とりあえず、これで大丈夫ね。」
「そうですね。建造時間はどのくらいなのでしょうか?」
「そうね…、聞いてみましょう。妖精さーん、建造時間はどのくらいー?」
『ケンゾウジカンハ20プンデス』
「20分…って、駆逐艦よね。何型の時間だっけ?」
「えっと、確か特型の『吹雪型』『綾波型』『暁型』、それに『初春型』ですね。」
「そう。まあ、どの娘が来てくれても大歓迎だわ。…出撃は出来ないけど。」
「ははは…、そうですね。20分なので、少し待ちましょうか。」
「そうしましょう。20分なんて、あっという間だし。」
幽と大淀は、最初の秘書艦となる船の建造が終わるのを待った。
―20分ケイカシマシタ―
「そろそろ時間になりますね、幽さん。」
「そうね…。あら、建造が終わったみたい。行きましょうか。」
「はい。」
二人は工廠の奥にある大きな扉の前に立ち、中にいる妖精に呼び掛けた。
「妖精さーん、幽ですー。扉開けてくださーい。」
「リョウカイ!」「アケルヨー」
鋼鉄でできた大きな重い扉が開き、その中から駆逐艦の艤装を背負った、幼い少女が歩いてきた。
その少女は、歩いてきて幽の前にたつと、
「電です。どうか、よろしくお願いいたします。」
と、そう述べた。
「電ちゃんね。私が、この廿日市基地提督の、簓雪幽中佐です。よろしくね。」
「主に通信を担当する大淀です。よろしくお願いします。」
「で、早速で悪いんだけど、電ちゃん、貴女にはこの基地最初の秘書艦になってもらうわ。」
「秘書艦ですね。了解なのです!」
「で、そんなハイな状態からいきなりテンション下げることになって申し訳ないんだけど、実はあなたに言わなきゃいけないことがあるの。」
「何なのです?」
「大淀さん、お願い。」
「はい。電さん、実はですね…ゴニョゴニョ…。」
「…え?えええぇぇぇぇぇぇ!?」
着任早々の大問題(提督室が使えない、出撃・遠征できない)を聞いて、電はとても大きな驚愕の叫び声をあげた。
電はこの時こんなことを思っていた。「これは、かなり大変な鎮守府に来てしまったぞ」と。
これが、この基地の一番最初の出来事であった…。
会話と文章のバランスが難しい…。
戦闘回までは、もう少しかかります。