「危なかったわ……。まさかあんなことになるとは思わなかった……。完全に私の失態ね……。」
幽は、ある病室のベッドの近くにおいてある椅子に腰掛け、そのベッドで眠る少女の手に触れていた。
少女は、いつも着ているセーラー服ではなく、白い病人着を着てベッドの上で眠っていた。
「私がもっと早く、電の異変に気付いていたら……。」
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幽が電の異変に気付いたのは、電が駆逐イ級に対し砲を向けているにも関わらずなかなか最後の一撃を撃たない所であった。
(おかしいわね……。何故かさっきから電に動く気配が無いわ……。何かあったのかしら?)
電の行動に疑問を持った幽は、電に向かって声をかけた。
「電!電!聞こえてる?」
『……。』
(反応が帰ってこない!何か様子がおかしいわ!強制リンクして電に正気を取り戻させないと!)
電の異変を感じ取った幽は、すぐに大淀に命令を出した。
「大淀さん!すぐに電の内部システムに強制リンクして!電を正気に戻す!」
しかし、機器を操作する大淀からは、幽が思いもしない言葉が飛び出した。
「無理です!接続が強制排出されて、繋ぐことが出来ません!」
「本当に手の打ちようが無いの!?このままだと電がやられちゃう可能性だってあるのよ!?」
「今は無理です!膨大な量の情報に邪魔をされていて、接続出来ません!」
(膨大な量の情報……?ハッキングとかは有り得ない、となると電の中のもの……まさか!)
幽は出撃できると決まってから今までの間に、電に対して違和感を感じることが何回かあった。しかし一瞬でそれは消えてしまうため、その正体について知ることが出来ず今まで対応出来なかったのだ。
(ああ……、これは完全に私のミスだわ……。)
このときになって、幽は自らの失敗に気づいた。電は、様々な感情の合間に挟まれ悩んでいた。部下のためにケアを行うのは、上司として当たり前の事である。それが出来ていなかった事に、今更ながら気づいたのだ。
(後で電に謝らないと……。本当に悪いことをしたわね。)
幽は後悔の念に埋もれそうになったが、電の現在の状況を考え気を引き閉めた。
(今電は何時やられてもおかしくない可能性の中にいる。そんなことは絶対にさせない!私に出来ることは……)
「大淀さん!電に対して強制リンクを続けてみて!」
「はい!」
(私には今……、声をかけることしか出来ない。なら、それまで電が正気に戻るよう声をかけ続ける!)
「電!電!電!」
幽は、大きな声で電に声をかけ続ける。その声は、最終的に電に届いたが、
「まずい!」
電は、駆逐イ級の5inch連装砲の攻撃を受けてしまう。結果電は大破並のダメージを受け、航行は出来るものの意識を失いかけていた。
「このままだと、電が沈んでしまう……。なら、大淀さん!電に深層リンクを!」
「深層リンクですか!?あれは相当な負荷が脳や体にかかりますよ!?」
「そんなこと言ってる場合じゃないわ!このままだと電が沈んでしまう!」
「!わかりました!駆逐艦電に深層リンクします!」
「了解!……電、体一瞬借りるわよ!」
幽は、電に対して艦娘から機関や行動、火器の制御を預かり司令官自身で艦娘を動かす深層リンクを行った。
「50……75……90……100!深層リンク、完了しました!」
電に深層リンクした幽は、電の体を動かし自分がリンク出来ているかを確認して、こう感じた。
(ダメージはすごいけど、機関がやられて基地に戻れなくなるほど酷くはない。周囲の状況に注意しつつ帰投すれば、無事に帰ってこられる!)
幽は機関を動かし、海の上を航行できる準備を完了させた。
「只今から、駆逐艦電の基地帰投を開始します!」
幽は速度のあまり出なくなった機関を動かし、周囲に注意しながら低速で帰投を開始した。
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「……ん、んぅ……。あ、あれ……、ここは何処なのです……?」
電は病人着を着た状態で、ベッドの上で目覚めた。さっきまで海の上だと思っていたらいつの間にかベッドの上にいたので、驚いてしまった。
「あれ……私は、何でここにいるのです?」
電は自分の身に起こったことを思い出そうとした。しかし、自分に向かって砲弾が飛んできた辺りから記憶が曖昧に、または無くなってしまっていた。
「ん?うーん……全然思い出せないのです。」
「あら、電、目を覚ましたのね。」
「司令官?」
電は声をかけられてようやく、幽が隣に座っていたということに気がついた。幽は普段の正装とは異なり、正装の帽子やコートを身に付けておらず、桜の模様の入ったバレッタで留めている髪もおろされていた。電は、この任務の失敗について謝ろうと幽に声をかけた。
「司令官、あの……」
「ごめんなさいね、電。」
「え?」
自分が謝ろうとしていたところで、幽から突然謝られてしまったので、電は驚いてしまった。幽は続けて口を開く。
「あなたの心が感情で揺れ動いていることに気づけていなかったわ……。しかもその状態で出撃させてしまった。司令としてあるまじきことだわ……。本当にごめんなさい。」
「……そんなことないのです。」
幽の言葉を受け止めつつ、電はこう返す。
「自分の感情を制御できなかった……、思いをまとめられなかった電にも非はあります。精神的に不安定な状態で海に出て、危うく轟沈しそうになって……。こっちこそごめんなさいなのです。」
「……。」
二人とも、この件は自分に大きく非があると考えていた。それが、お互いに自分が悪かったと考えていることがわかったのだ。二人は同時に微笑み、
「じゃあ、この事はおあいこさまね。」
「はい、なのです。」
と、言葉を交わしあった。
するとここで、幽は真剣な顔になり、電にむけこう話した。
「……自分の思いを持って行動することは大切よ。だけど、ただ持っているだけじゃそれを達成することは出来ないわ。思いや願いを叶えるには、それ相応の実力が必要となる。」
そして、続けて、
「私たちはまだ、願いを叶えられるほどの力を持っていないわ。力をつけていく必要がある。だから、今は辛いかもしれないけれど、辛くても引き金を引かなきゃいけないわ。」
と、述べた。
この言葉の裏に何かがあると感じた電は、思いきって幽へと尋ねた。
「司令官……、司令官の願いって何なのですか?」
幽は少し驚いたような表情をしたが、すぐに表情を戻し、電に話した。
「私の願いは、『この世界を私達と深海棲艦が共存できる世界にする』ことよ。人も、艦娘も、深海棲艦も、全てが同等位に過ごしていけるような世界を作っていきたいと思ってる。」
電は、幽のこの言葉とまっすぐな瞳から、幽の本気さをうかがい知ることができた。そして、自分の思いも突き詰めて行けばそこへと行き着く事に気がついた。その時、電はふとこう思い、幽に尋ねた。
「……電の願いは、『沈んだ敵も助けたい』ことなのです。……艦娘として、船として、おかしな考えでしょうか?」
電からの切な質問に対して、幽はこう述べた。
「おかしくないと思うわ。電、自分の決めた願いはまず自分が正しいと信じることが必要よ。貴女の思いは貴女にしかわからない。自分で信じることが出来ないのなら、それは願いではないわ。」
「……!わかったのです。電も、自分の願いを信じるのです!」
電は、幽の言葉を聞いて、自分の願いを信じて進んでいくことを決めた。そしてこれは、これから後、電の根幹を成すものとなり、すべての行動の基準であるものとなっていく。
「……いつか私達の願いを叶えられるように、頑張りましょう。」
「なのです。」
二人は窓の外に見える海を見る。
波は穏やかで、静かな世界が広がっている。太陽の眩しい日差しが蒼い海に刺さるように降り注ぎ、水面は眩しいくらいに輝いていた。
次は早く投稿できるようにしなくては……。
「初陣」は次で終わります。