時系列的には前話の少し後です。
電たちが暁と伊58を連れて帰港する連絡を入れてから少し時間がたった頃、廿日市基地の提督室には、四人の人物が集まっていた。その中で、幽と大淀は積み重なった数束の書類を前に話していた。
「……ふう。これで出撃報告書と始末書を書き終えたわ。まあ、まだ少し調べるものがあるけど。」
「お疲れ様でした。後は私が大本営の方に送付しておきますね。」
「よろしく頼むわ。……そろそろ電が、暁と伊58をつれて帰投して来る頃ね。」
「そうですね……。大破している伊58がすぐに入渠出来るように、入渠ドックの準備をしておきます。」
「よろしくね。あ、ついでに3人が帰投したら、提督室に来る前にまず入渠するように伝えて。」
「わかりました。では、行って参ります。」
幽から電たちへの言伝てを預かった大淀は、提督室から出て入渠ドックの方へ向かって行く。部屋の中には、幽を含め3人が残るだけとなった。
「さて……と。ごめんなさいね、顔合わせまで少し時間がかかっちゃうわ。」
「問題ありません。むしろボロボロのままでいた方が問題になりますから。」
「そうですよ。まず先に入渠をすべきです。私達は大丈夫ですから。」
「本当に申し訳ないわね……。じゃあ私は少し、調べものでもしますか。」
提督室にいる3人の内、二人は窓の外に見える海を眺め始めた。窓が締まっているため潮騒は聞こえないが、小波が海にはたっていた。
一方幽は書類ホルダーから数束の書類を取りだし、書類とパソコンを同時に見ながらある調べものを始めた。
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「ふぅ~、入渠してさっぱりしたわ。」
「なのです。」
電と暁は、入渠ドックの入り口にある脱衣所にいた。帰ってきてすぐに入渠するように大淀から言われた二人は、大破している伊58と共に入渠ドックへ向かい入渠していた。二人は比較的軽傷(電についてはほぼ無傷)であったので、すぐに入渠が終わり早々と出てきたのだ。
「伊58は3時間って表示されてたから、もう少し時間がかかるのです。先に二人で提督室に行くのです?」
「そうね、しれーかんを待たせるのはれでぃーとしてあるまじき行為だからね。」
「じゃあ行くのです。電が案内するのです。」
「頼むわね、電。」
電と暁の二人は、手を繋ぎながら入渠ドックから少し離れている提督室に向かっていった。
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「……そろそろかしらね。」
幽はやっていた調べものをやめ、パソコンを閉じ万年筆を置いた。すると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
『只今参りました。電なのです。』
「どうぞ、入って。」
他の部屋に比べて少し大きな提督室のドアが開かれ、電と暁が入ってきた。
「失礼するのです。出撃の報告に……ってそちらの方々は?」
「後で自己紹介の時間を設けるから、その時に紹介するわ。取りあえず出撃の報告を。」
「あ、はいなのです。」
電は今日の出撃において起こった事を事細かに伝えた。幽は、作成した報告書との相違点を確認し、違いが無いことを確認した。
「了解よ、電。ありがとうね。」
「はいなのです!」
褒められたからか、いつもに増して元気がある。というか、さっきから鼻がフンスフンスしている。この流れの中で、先ほど出ていった大淀が帰ってきた。
「じゃあ大淀さんも帰ってきたし、今日からこの基地で過ごす新しい仲間が入ったから、互いに紹介しましょうか。」
そう言って、幽は席を立ち全員がいる方を向いた。
「私がこの基地の提督の、簓雪幽よ。よろしく。じゃ、次、電。」
「は、はい!電なのです。よろしくお願いします。」
「暁型のネームシップ、暁よ!よろしくね!」
「呉の工厰から来ました、工作艦明石です!主に工厰で装備の開発をしてるから、装備の開発とか点検、修理は私に任せて!」
「給糧艦間宮です。基地の食堂で料理を作りますから、いっぱい食べてくださいね。」
「軽巡洋艦大淀です。主に通信業務をしています。」
「じゃあ、皆これから一緒に頑張りましょう。本当はあと一人、伊58がいるんだけど……、どうなの電?」
「さっき出るときには、3時間と表示されてたのです。」
「あら、そう。なら……明石、電と暁と一緒に見に行ってくれないかしら?」
「いいですよ。ついでに工厰も見てきていいですか?」
「構わないわ。よろしくね。」
明石と電、暁は伊58のいる入渠ドックへ行くため提督室から出た。部屋には幽と大淀、そして間宮が残った。
「……大淀さん、少し聞いてほしいことがあるの。」
「はい、なんでしょうか?」
「……あ、私は席をはずした方がいいでしょうか?」
「いや、間宮さんにも一応聞いておいて欲しいの。貴女も関わると思うから。」
「「……?」」
大淀と間宮は少し疑問に思った。上からのお達しか何かか、と勘ぐった。が、その予想はすぐに覆された。
「この話は、今入渠している伊58の事なんだけど……。」
「伊58ですか?何か情報が見つかったんですか?」
「見つかったわ。中枢の情報集積装置に。そして、ある可能性が浮かんできた。」
「ある可能性……ですか?」
「ええ……。もしかしたら、彼女は……」
幽は苦い顔をする。その表情に、大淀と間宮の顔も引き締まる。そして、幽はこう続けた。
「彼女はもう、艦娘として海に立つことは出来ないかもしれない。」
「海に立つことが出来ない……?」
「どういうことですか?幽提督。」
「所謂、黒よ。」
「黒……、まさか!」
「ブラック鎮守府……!」
「ええ……。彼女の場合、ここみたいな基地出身らしいけど。」
そして、机の上に置いてあった紙の束をとり、幽は続ける。
「佐世保鎮守府直属の、鹿児島県にある基地。そこの基地から流されてきたみたい。」
「鹿児島から広島まで流れて来たんですか…。」
「その基地の第2艦隊旗艦として、名簿に伊58の名が載っているわ。ただし出撃回数やその時の艦娘の状態が異常すぎるの。」
「異常って……、どんな風なんですか?」
「過度な疲労、満身創痍の状態での進軍をあたかも普通であるかのようにやったり、帰投してすぐに出撃させたりしている。」
「それって……。」
「ええ。そこの提督は『艦娘を道具と考える』提督だったらしい。何隻も轟沈させてたらしいから。恐らく伊58の前でも、何隻か沈んでしまったと思うわ。」
「……。」
「その提督は最近憲兵隊に検挙されたらしいんだけど、その時その基地に伊58はいなかったみたいなの。」
「いなかった?」
「ええ。それで最後の出撃記録を見てみたら、伊58は帰投中に行方不明になったとあった。だからあんなボロボロで海に浮かんでたんだと思う。」
幽は持っていた紙の束を置き、二人の方へ向き直る。
「こんな背景、無茶な出撃や目の前で仲間が沈む、なんてことがあったから、伊58は身体的に回復しても精神的に回復出来ない可能性があるわ。」
「なるほど……。そういうことなんですね、幽提督。」
「伊58と接することになったときは、一応これを念頭に入れておいてほしい。」
「了解です。電ちゃんや暁ちゃん、明石さんには伝えないんですか?」
「伝えるわよ、大淀さん。後で時間を見て伝えるわ。まあ、だからといって、腫れ物に触れるような接し方はやめてね。」
「もちろんしませんよ、幽さん。取りあえず、彼女が起きてからですね。」
「そうね……。」
3人は窓の外を見る。さっきまで青々としていた空は、いつの間にか灰色の雲に覆われてきている。穏やかで小波がたっていた海は、波が大きくなりうねりが出て荒れはじめていた。
夏イベは、軽巡棲鬼が堅すぎてなかなか抜けませんでした……。
次のイベントこそがんばります!
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