ソードアート・オンライン ~銀~ 作:六尺様
《銀の道》
人とは時に不思議なもので、一度物事の波に乗ると適応するまでが恐ろしく短い。
SAO……ソードアート・オンラインの世界とて例外ではなかった。
かつて、第一層を攻略するまでに至った時間……累計800時間弱、つまりおよそ1ヶ月。さらにそれまでの犠牲者数……約2000人、SAO人口の2割が死んだ。
だが、死者はそのボス攻略を境に激減する。その時より、彼らの攻略速度は加速、安全かつ効率的な攻略方法を模索し、次々と階層のボスを倒していった。ゲームスタート時には攻略に消極的だったプレイヤーたちも、徐々にゲームクリアという遥か彼方であった希望に手を伸ばし始めた。
格段に攻略にかかる死者は減り、ボス戦においては「全員生還」が当たり前の事となりつつあった……。
決して死ぬことは許されない……なぜなら、これはもう一つの現実世界。存在しているのは唯一無二の命。VRMMOにおいてはまるでハードコアなこの条件下で人々は懸命に生きていた―――。
「―――や、止めてくれ……お願いだ、頼む……見逃してくれ……」
懇願する姿はまるで、人ではない者を見るかの様。人ではない……ある意味そうなのかもしれない。自分はレベル75……それに対して相手は62……この差は埋めようがない。相手からしたら自分は高レベルのmobと何ら変わらない存在だ。だが、どうだろう。一応自分も人間だ、人としての慈悲という心も存在している。だからいつも
「……そうだな、なら最期は自分で選ぶがいい」
そして、差し出す両手。一方には結晶、もう一方には短刀が握られている。
「SAOプレイヤーとしての最期を迎えるか……それとも、1人の人間として最期を迎えるのか……さあ、どちらを選ぶ?」
「そ、それは……」
何を迷うことがある。1つしか生きる術がないんだ。死を恐れ、生にしがみつくことに躊躇する理由があるだろうか。
「……わ、わかった、じゃあ……」
そう言って、結晶の方に手を伸ばす。そう、それでいい。人は死の恐怖だけには抗えない。それを超える何かをあえて挙げるとするなら―――
「……!」
「お前が、死ねぇぇぇぇッッーーーーーーーー!!!」
―――閃光。剣技が散らす光。隠し持った短刀が自分の命を刈り取ろうと狙う。どうして、と尋ねることはもう飽いてしまうほどしてきた。だが、その答えが自分を納得させるものだったことなど一度もない……。
―――碧い輝きをみせるポリゴンが宙に舞う。散った命の欠片たちが霧散していくのを背中で感じながら、抜身の刃を腰に戻す。
「どうして……」
空を眺めた。雲一つなく、空にはただただ星が輝くばかり。こんなにも美しく見えるのにそれはただ、システムが映し出す視覚の錯覚に過ぎない。人と同じ、そこに本質的な美しさはなく存在しているのは虚で塗り固められた雑念や欲のみ。そんな世界で自分が……私自身が出来ること―――。
「はは……今更、戻れるはずないよね」
信じる。自分が成すべきと思ったことを。この世界で悲しい犠牲が無くなるのなら、それが決して自身が報われることの無いことだとしても構わない。
私は生きる……
もう一人の私……《
物語は、動き出す―――。