ソードアート・オンライン ~銀~   作:六尺様

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どうも、六尺です。
ボス攻略戦の続きです。

ちなみにボス戦開幕と攻略会議の間にひとつストーリーを入れました。
キリト、アスナ、リーシャ、リアの4人がパーティを組むまでの話です。
見ていない方はそちらもどうぞ。

それでは、ボス戦の続きです。


《第一層攻略戦終幕》

正直、驚いた。

表情こそ変えないが、リーシャ内心そう思った。

 

「全員出口方向に10歩下がれ!ボスを囲まなければ、範囲攻撃は来ない!」

 

レイドメンバー全員に指示を飛ばす剣士は、さながらいままでレイドリーダーをやってきたようにも見える。しかし今彼を動かしているのはそんな経験や、利己的な感情でもない。『この戦いを終わらせる』……ただその思いだけが彼を突き動かしていた。

 

「アスナ!リア!リーシャ!戦い方はセンチネルと一緒だ!前の2人が攻撃を受ける、隙を窺って奴に攻撃を叩き込む!いいか、相手の攻撃を完全に受け切った時だけソードスキルを使え!」

 

隊列的にリーシャとキリトが壁役、リアとアスナがアタッカーとなる。そして、《イルファング》の猛攻が始まった。剣を振るうコボルド王に防御という概念はなくなり、完全に攻撃を受け切った、または受け流したときには今までより大きく体勢が崩れる。そこへ叩き込まれるソードスキルのダメージの全ては明確にHPを削る。

 

「………チィッ!」

 

ソードスキルは入る、だが流石第一層のボス。リアとアスナ、どちらもソードスキルの練度はレイドパーティの中では上位に食い込む。その二人の同時攻撃でも《イルファング》のHPバーは数ドットの減りを見せただけだった。それは後数十回以上もボスの攻撃をキリトだけで完全に読み切らなければならないことを示していた。

 

「次、来るぞ!構えろ!」

 

ソードスキルの硬直から解けた《イルファング》が再び攻撃を仕掛ける。ソードスキルのライトエフェクトとその構えから相手の技を割り出し、リーシャに指示を送る。集中しなければならないのは、技の見極めだけではない。自分のソードスキルでボスのソードスキルを相殺するだけのシステム外スキルにも気にかけなければならない。本来ボスの攻撃をはじくためには、ただソードスキルを発動させているだけではできない。発動させたソードスキルに合わせて体を動かし、技の威力と速度自体をブーストさせる。そうしてやっとボスの攻撃をはじくことが可能となるのだ。

 

「うおおおおッッッ!!!」

 

ガィンッ!!という音と共に互いの剣がはじかれ、ノックバックが起きる。そのノックバックの反動とソードスキルの硬直で、暫しの間無防備にも晒されたその胴体に2人分のソードスキルが吸い込まれる。一見、単純な作業にも見えるがキリトにとってはこれまでに無い程の集中力を要求された。そして、物事には必ず限界点が存在する。どれだけ集中しようとも、いつかしら一瞬の間の思考に隙ができてしまうのだ。

 

「上段斬りが来―――!?」

 

そう思ったときには手遅れだった。判断の間違いにいくら毒づいても発動させたソードスキルは止まらない。相殺させようと思った相手の剣戟に対して放ったソードスキルは空を斬った。そして、圧倒的なリーチを誇る野太刀の下段斬りがキリトの脇腹を抉る―――。

 

「せあッ!!」

 

事はなかった。その剣戟は今まで通りにはじき返され、ボスはノックバックを強いられた。驚いたキリト目をやると、そこには黒紫色のフードが見えた。

 

「防ぎ漏れはカバーします。焦らず対処しましょう!」

「……ああ、助かる!」

 

そう、1人で戦っているのではない。このボス攻略が始まった時からそれは変わらないのだ。例え、自分たちがコボルドの湧きつぶしという小さな仕事だったとしても……それが利己的な考えから生まれた結果だったとしてもボスを倒すための小さな歯車であったのには違いない。

 

「お前らぁッ!いつまでダメージディーラーにタンクやらせる気だぁ!?」

 

後ろからは、いかつい声が聞こえてくる。見ると一つのパーティリーダーらしきプレイヤーが自隊のメンバーに叱咤を飛ばしていた。プレイヤーネームは《エギル》。褐色の肌に大柄の体格をしたB隊のリーダーである。

 

「俺たちにも指示を飛ばしてくれ。俺らはアンタの言う通りに動くからよ」

 

そう言うと、メンバー6人が全員でボスにじりじりと詰め寄る。先ほどのキリトたちの攻防を見て、パリィを行ってから攻撃するということを学んだようだ。攻める様子のない相手にイラついたように再度攻撃を仕掛ける《イルファング》。手打ちはどうやら、キリトにも放ったソードスキル《幻月》。同じ予備動作からランダムに技の軌道が変わるフェイント技。B隊による技の見極めはキリト程ではない、だがやはり数は力なりのようで6人中3人が技を受け止めることに成功する。すると残った数人はソードスキルを撃ちこむ。

 

勝てる……このままいけば……!

 

「後ろまで囲まなければ全範囲攻撃は来ない!奴のソードスキルの軌道は俺が指示する、無理にソードスキルで相殺しようとしなくていいぞ!武器や盾でガードしてすれば大きなダメージ喰わない!」

 

「「「おおッ!!」」」

 

野太い男たちの声がボス部屋に響いた。それに合わせるように《イルファング》も雄叫びを上げる。まるで再び飽くなき攻防の始まりを告げるように。一時は最悪の状況にまで陥ったが、少しずつ立て直すことができた。勝利への道も確かに見えてきたのを彼、キリトはひしひしと感じていた。

 

「……今だ!全員フルアタック!!」

 

その瞬間は訪れた。ボスが5人近くによるパリィを食らったことによる思い切り体勢を崩す。人型モンスター、またはプレイヤーにのみ存在するバッドステータス《転倒(タンブル)》だ。ボスの体力は約3割弱、削り切れると確信したキリトはこの戦いを終止符を打つ勢いで攻撃を開始する。

 

「うおおおああッッ!!!」

 

打ち込むのは片手剣二連撃技《バーチカル・アーク》。剣をシステムアシストの阻害にならないギリギリまでにブーストさせる。他のプレイヤーたちも次々と重単発系のソードスキルを撃ちこむ中、二連撃の技を発動させたキリトが一足遅く技を放ち終えた。

 

「……足り……ない!?」

 

現実はこうも非情なのか、そう内心憤慨する。第一層ボス攻略における最高DPS(秒間ダメージ)だったであろうフルアタックは、《イルファング》のHPバーをわずか数ドット残して終了する。そして、運の悪いことに攻撃がやんだ瞬間に《イルファング》が《転倒》から回復した。ソードスキルの硬直時間により誰も動ける者はいない。それを嘲笑したのか、はたまたシステムの偶然か、コボルド王は遠目でもわかるほど口元におぞましい笑みを浮かべた。

 

……!

まずい、囲んだまま(・ ・ ・ ・ ・)―――

 

このままだと、ボス攻略を恐怖のどん底にまで陥れた全範囲ソードスキル《旋風車(つむじぐるま)》が飛んでくる。そうは思うが自分の攻撃をアシストしていたはずのシステムが代償と言わんばかりに体を縛る。動けと念じるも空しく、ほんの徐々にしか体の硬直が解けていかない。

 

「グルゥアアッッ!!!」

 

低く体勢を沈ませる、跳び上がるモーションへと移行する第一段階だ。

 

もう、間に合わ―――

 

黒髪の剣士は目を瞑り想う。ああ、これが死ぬ瞬間なのかと。大丈夫、ボスの体力は数ドット。どれだけ陣形が崩れていようと、誰かしらの一撃でボスは突破可能。やれることは全てやったのだ、悔いはないはず。様々な想いが脳内を駆け巡る最中、その思いは横を通り過ぎる一瞬の風にさらわれた。

 

「……なッ!?」

 

今度は目を見開いた。ボスに向かって一つの影が突進していく。宵闇を思わせるかのような黒紫が明るく照らされたボス部屋に濃く映った。それが自分の知るプレイヤーであることに気づいたのは、彼女(・ ・)がソードスキル特有のライトエフェクトを散らした後だった。

 

「………ッッぁああ!!!」

 

放った技の名は、《ソルアー》。片手剣ソードスキルの一種のようだが、キリトの記憶にはそんなスキルは存在していない。ベータ時代には存在しなかった、または誰も見つけていないソードスキルだったのか。ここが未だ第1層であるということから前者のものなのだろうという予測はつく。だが、凄まじいそのスピードは同じ片手剣ソードスキル《レイジスパイク》とは比べ物にならない程だ。現状最速のソードスキル、細剣単発型突進技《リニア―》に並ぶとも劣らないほどの勢いでボスに突進する。まるで流星のような直線を描くその技は、剣をボスの腹に深々と突き刺すのではなく、脇腹を抉るように突き抜けていった。

 

「グ……ルァ……アアアアアアア!!」

 

断末魔のような雄叫びを上げて膝をつく第一層ボス《イルファング・ザ・コボルドロード》。発動しようとしていたソードスキルはキャンセルされたようで、その太刀に輝きは消えていた。ひとしきり雄叫びを上げ終えると青いポリゴンの光となって空中に霧散する。

 

「……ふぅッ」

 

息を吐き切るようなため息をする、とどめを刺したプレイヤー。そして、キリトの視線に気づくように振り向いた。それと同時にソードスキルを発動させたときに着崩れたフードがその振りむきによって完全に外れてしまった。

 

「……んなッ………!?」

 

後にキリトは語ることになる。「この世にいるとは思えないまでの美少女だった」と。現に、ボスを攻略したことよりも意識がそちらに持っていかれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あ、フードとれてる!?」

 

気づくのが遅いかと、慌ててかぶり直す。周囲を見る限りこちらに注目している人影は少ないようで知人のみということに気づくと多少安堵した。いや、安堵していいものかと一瞬考えるが、結局「まあ、いいか」という妥協点に落ち着く。

 

「ん?これは……あぁ、そっか……」

 

疑問が浮上しすぐに解決される。自分がLAをとったことを告げるシステムウィンドウを確認したが、複雑な顔をするしかなかった。結局のところ自分がしたことは保険をかけた……といえばまだ聞こえはいいのかもしれないが言い方を変えればフルアタック時に出し惜しみしていた。ベータテスターであるキリトが知りえないことが既に起こっていた以上信じられるのは自分の判断のみだったからだ。

 

「私が受け取るべきではないよね……」

 

あのフルアタック時に自分がした行動は正しかったのか否か、それを考えているうちに周りから歓声が起こる。他のレイドメンバーたちもようやくボスを倒せたことに実感がわいたようだった。

 

「お疲れ」

 

自分にも声を掛けられたことに反応して、改めてそちらを向く。そこにはキリトを先頭にリア、アスナの姿があった。

 

「LAおめでとう。それと……助かった。君がいなかったら俺を含め、また犠牲者が出るところだった」

「あはは……偶然ですよ」

「まったくリーシャはいつもおいしいところ持ってくんだからー」

 

ねぎらいの言葉をかけてくるパーティメンバーたち。そして気付くことが一つ、アスナがフードを外していた。

 

「お疲れ様」

 

短くそう言う表情は決して不愛想なんかではなく、口元には微笑を浮かべていた。穏やかな表情をする彼女はその微笑も相まって、美しさが際立っていた。「そちらも……」と言おうとして口を開いたときだった。

 

「―――なんでだよ!!」

 

乾いたこの部屋に叫び声が聞こえてきた。みると、そこには一人の男が立っていた。彼の顔には悲しみと憎悪を合わせたような表情が映っていた。

 

 

 

 

―――その表情を見たとき、改めてリーシャは思い出した。壮絶な戦いの中、散っていった一人の騎士の存在があったことを。

 




お疲れ様です。
少し長めになってしまいましたね。

ちなみに今回リーシャが放った技《ソルアー》は、この小説オリジナル技です。
原作にはないのであしからず。

技の意味は結構安直です。
アラビア語でググれば出てくると思います(笑)

それでは失礼します。
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