ソードアート・オンライン ~銀~ 作:六尺様
どうも、六尺です。
投稿遅れて申し訳ありません。
どうにもスランプなようで、いざ書き始めても数行で行き詰ったりで
はや数ヶ月……読んでいただいていた方には本当にお待たせいたしました。
そんなこんなで書き上げて、何言っているかわからない部分があったりするかもですが、ご容赦を……。
それでは、本編にお進みください。
「―――なんで、ディアベルさんを見殺しにしたんだ!!」
「……なにを………?」
乾いた部屋に響く声。ボスを倒せた喜びを一瞬で消し飛ばすような、悲痛な声だった。その声はこの場にいる一人の剣士、キリトに向けられたものである。その男、C隊のシミター使いは半分泣き叫びながら続けた。
「だってそうだろ!?アンタはボスの使う技を知っていたじゃないか!!最初からあの情報を伝えていればディアベルさんが死ぬことはなかった!!」
最後の方は泣き叫んでもはや言葉にはなっていなかった。考えてみれば当然のことだ。自分たちの信じるリーダーが目の前で死に、それを未然に防げることができたかもしれない情報をただ一人知っていた。当然、なぜ開示しなかったのかと思うのは至極自然なことだろう。他の場所からも「なぜ知っていたのか」「攻略本には載っていない」などの声が聞こえてくる。
このままだと………
「お、オレ知ってる!こいつ元ベータテスターだ!だから色々知ってるんだ!旨いクエも、敵の情報も、ボスの情報も……!!」
キリトの後ろ側にたっている数人のうちの一人、リーシャはやはりかとため息を吐く。キリトは確かにベータテスターであり、刀を使うスキルも知っていた。だが、リーシャはわかっていた。第一層のボスが使うことは知らなかったのだと。
「あいつがベータテスターで情報を知っていたとして、じゃあ攻略本にはなんで書かれていなかったんだ?鼠のやつもベータテスターなんだろ?」
メンバーの着眼点が変わる。確かに「攻略本」はベータテスターたちによって書かれたものだ。それが事実ならひとつの矛盾が生じる。同じベータテスターなのに情報が違うというのはいささかおかしいということだ。
「簡単なことだ。あの攻略本自体がウソだったんだ。あのアルゴとかいう情報屋が嘘を売りつけたんだよ。所詮は情報屋だろうとなんだろうと人なんだ。自分に有益なことしか考えてねーんだよ」
E隊の一人がそう言った。悪びれる様子もなく、ただこれが事実であるといわんばかりに。この流れは非常にまずい、キリトはそう思った。自分がどう思われるかは別に関係ない。ただ、ここでアルゴの情報が今後信用されなくなることだけは避けたかった。まだ第一層しかクリアしていないというのに情報がここで途切れたら、攻略は一気に滞るだろう。それだけは何としてでも避けたい。
それに対して、後ろにいたエギルとアスナがE隊メンバーの言動に耐え切れなくなり、前に出ようとした。キリトは四の五の考えてる暇はないと悟り、自分の身を犠牲にしてでもアルゴを救おうと決心する。だが、それは一つの言葉によって止められる。
「バッカじゃないの?」
侮辱がストレートで伝わる言葉が部屋に響いた。数秒の沈黙が流れ、すぐにも声の主が見つかる。いや、本人自身から姿を現した。
「な、なんだと………」
「聞こえなかったの?バカじゃないのって言ったのよ」
しれっと罵倒する一人のプレイヤー。そして悪びれる様子もなく続けた。
「あんたたちはここに何しに来たの?リーダーが死んだから悲しむのは結構。けど自分たちの力量不足が招いた事態を他人のせいにしようだなんて最低もいいところよ」
「なッ……なッッ……!?」
「リア……」
言いたい放題言っているようにも見える。確かに彼女はキリトがベータテスターという事実を知っている上で言っている。だが、彼を庇うという名目の上言っているわけではない。ただ、本人曰く「大嫌い」なのだ。自分に非がないように考えきってる人間やそれに非が無いように動くような人間が。
「そもそもよ?私たちはアンタたち除け者にされてたのよ?否定しないわよね?だって配置的にもっともボスから遠い位置にあるE隊のサポート。あのままボス攻略が進んでいたら私たちはボスと対峙することもなく終わってたんだから」
「………ッ……」
「それに、アルゴさんのことについてもそう。情報屋にとって情報源でもある人間を失って彼女にとって何が有益だっていうのよ?適当に何か言うのもいい加減にしなさいよ!」
何も言い返せないB隊メンバー。正論を叩き付けられ押し黙るしかない。喚き散らしていたB隊のシミター使いもただ睨み付けるだけで何も言わない。
「………もういいよ、リア」
後ろからキリトの声が聞こえる。彼は自らB隊の前に立つと今まで閉ざしてきた口を再度開く。
「……確かに俺はアンタたちが言うようにベータテスターだ。しかも、攻略会議のときにキバオウが言っていたように、あのデスゲームが始まった日に真っ先にはじまりの街を飛び出した《汚いベータテスター》の一人だ」
そう告白するキリト。リアが弁解……もとい彼女はそんなつもりではなかったようだが、それを無に還すようなことを何故わざわざ言うのか。
「だが、あのボスのパターンは俺も知らなかった。ベータ時代とは違っていたんだ」
「そ、そんなわけ……だってアンタは知っていたじゃないか!ボスの動き全部ッ!」
「あぁ、知っていた。確かにベータテスター時代で俺が知ったものだ。10層以降のフィールドでな」
「なッ……」
ボスである《イルファング・ザ・コボルドロード》の使用したもの。ベータ時代であれば本来10層まで出てくるはずのない代物。モンスター専用カテゴリに属するスキル《カタナ》。製品版のこのSAOではそれは違った。
「ベータ時代、俺もあのスキルを使うmobに何度も死んだ。それがベータが全然進まなかった大きな要因のひとつでもある。mobだけが扱えるカタナの動きに誰もがついて行けくことができずにボス攻略もほぼ不可能。俺はそれを打破しようとスキル《カタナ》のモーション全てを把握するまでmobを狩りまくった。そして全てのモーションを覚え終えたと同時に、ベータテスト終了の日を迎えてしまった」
ベータ時代を語るキリトの姿はまるで罪を吐露しているかのように重々しく、だれもがそれをただ聞いていた。
「……確かにベータの情報は強みなのかもしれない。だが、同時に弱みでもある。ベータテストの情報を鵜呑みにして戦っていた元ベータテスターが何人も死んだ理由はそこにある………」
一通り言い終えたのか、キリトが言葉を切った。それに対して沈黙が彼の体に刺さる。
彼が伝えたかったこと、それは決して自分自身の身の潔白ではない。
「……顔を上げてくれ」
俯きながら話すキリトに対して声がかかる。言われたとおりに顔を上げるとそこには彼が……先ほどまで泣いていたシミター使いがいた。
「アンタが言いたいことはわかった。だがアンタが本当の事を言っているのか完全に信じることはできない」
「…………」
当然といえば当然。それを証明する人間は彼以外にいない。仮にいたとしてもそれは同じベータテスター。そこまで階層を進むことが出来たのは利己的な考えを持つ者同士だろう。
「けど……あの時アンタは確かに叫んでいた。全員後ろに跳べって」
「……!」
「その言葉に免じて今だけはアンタを信用する。だが、今後の行動次第でその信用も破棄されることを頭に入れておけ」
それだけ言って彼は自分の隊に戻っていった。
仮の信用……そういうことらしい。
「一件落着……?」
「らしい……な」
いつかは本当のことを話さなくちゃならない……かもな
そう思いながら人ごみに消える彼の姿を眺める。完全な信用は得られなかったが今はそれで十分だとキリトは胸を撫でおろしていた。
「まあ、いいんじゃないか?」
ふと、後ろから声がかけられ、見るとアスナと共にエギルがそこに立っていた。
「ボス攻略お疲れ様。あなたも良い指揮だったわよ」
「お、おう……」
そう言われ、本来ならば皆で喜ぶ状況であったことを思い出す。言葉の後に「お疲れ」と添え、頬をかく。複雑な気持ちもあってか、それしか言えない。
「今は、素直に喜びなさいよ。アンタがいなかったらこの攻略はクリアできなかったわ。それが事実なんだから」
「私も賛辞は受け取るべきと思います。彼ら・ ・だって本当はわかってるはずですから」
「……ああ」
リーシャとリアも賛辞を贈る。それに対して、キリトは手を上げて答える。彼なりの感謝の意思表明なのはわかる。
「………」
黙って彼を見つめる。そして、決心した。
確かに、今後キリトを見る大衆の目は変わってくるだろう。だが、今最も疑念の目をかけられているのは彼じゃない。
「キリトさん、少しいいですか?」
「え?あ、おい!」
多少強引ながらも手を引いて他のメンバーとは離れた場所まで移動する。
「おいおい、どうしたんだ?」
「……少し込み入った話です」
それだけ言って部屋の隅までつれてくる。
「……キリトさん、確かに信用されきれなかった事が残念なのは分かります。ですが、今後最も注視されるのは誰なのか……分かってますか?」
「……!」
そこまで言われてようやく気付き、そして自分を責めた。自分のことだけを考えて視野が狭くなっていた。キリトは認識を改め彼女の問いに答える。
「リア……そしてリーシャ……君達ということか」
首を縦に振り肯定する。今までの事を思えば当然のことだ。リーシャは攻略会議時にキバオウと口論になり、リアもついさっきキリトを庇った(本意は違うが)ばかりだ。
「今後、このSAOにおいて小規模なギルドが設立されていくはずです。恐らく、今の段階では私たちの入団を歓迎する場所は少ないでしょう」
「……ああ、だろうな」
まるで自分を戒めるかのような口調でキリトはそう言った。実際、ソロプレイはMMORPGにおいてかなり辛い。キリト自身もそう知っていた。今回のカタナスキル……ベータ時代、独りでスキルの研究を重ねず、複数人で行っていたらどんなに効率が良かっただろうか。そう昔と今の自分を悔いるように拳を握りしめた。
「すまない……元はと言えば俺がベータテスターであることが露呈しなければ、こんなことには……」
「はぁ……違います」
「え……?」
ため息をついてリーシャは再度キリトを見た。
「そーゆーことじゃなくて、もっと私たちを信頼してください」
「……?」
信用ではなく、信頼。その言葉に対して意図が分からず眉をひそめるキリト。それに多少あきれつつも優しさを含んだ微笑みを浮かべながらリーシャは続けた。
「パーティ組んだときから思ってましたけど……色々と背負いすぎですよ。戦闘でも危険な場面は全部引き受けて……あなたは一人じゃないんですからね?」
「そ、そうか……?」
自分から面倒事背負いこんでるつもりなんてなかったのだがと考えながら頬を掻く。だが当人の思っているよりもはるかに彼はお人好しなことは間違いない。彼自身が言っていた「汚いベータテスター」なんてものにはなれるような性格ではないなとリーシャは内心苦笑した。
「そうですよ。少なくとも私とリア、アスナさんやエギルさんもそう思ってるはずです」
そこまで言っておもむろにフードとマスクを外す。それに対してキリトは目を剥いた。一度見たとはいえ、やはりそこにたたずむ美少女の姿に動揺せざるをえない。そもそも最近女子と話したことなんて、妹との会話ぐらいしかなく、当然のごとく気軽に話せるコミュ力など彼は持ち合わせていない。
「ちょっとー、いつまで話してるのよー?」
痺れを切らしたと言わんばかりの声が響いた。見ると、リアが腕を組んでこちらを見ている。
「他のパーティは一旦帰るなり、上に行くなりにしちゃったわよー?私たちもどうするか決めないとー」
「ごめーん。もう終わるからー」
そう返してマスクとフードをかぶり直し、リーシャは再度キリトに対面する。
「そろそろ行きましょう。私たちも次の方針を決めなきゃいけませんから」
「ああ、そうだな」
そうして、仲間の元まで歩き始める。そのさなかでキリトは考えていた。
信用できる仲間か……
ゲームが始まって以来考えたこともなかったな
アスナに出会う以前の出来事を思い出す。デスゲームが始まった直後のクラインとの別れ、とあるクエストでPKされそうになったこと……そして、自分自身がVRMMOに没頭するようになったきっかけ。考えてみれば散々なことばかりだった。だが、今に目を向けるとどうだろう。組むことのないだろうと思っていたパーティにメンバーの一人として存在し、周りは全員女性という異色っぷり。こんな状況になるとは思ってもみなかったのもあり、正直今でも実感が湧いていない。
「わからないもんだな……」
小声でそう呟く。そうとしか言えなかった。
「……ん?何か言いました?」
「いや、なんでもない。ただ……助かった、ありがとう」
君はこの世界で良いプレイヤーになれる
最後の気持ちは言葉には出さず、そのまま穏やかな表情のまま歩き続けた。リーシャはそれに対し、少し考えた後小さく頷いただけで何も言わなかった。
「まったく、何話してたのよ。キリトに至っては驚いたり、申し訳なさそうになったりで忙しい表情してたけど」
「いやぁ……ちょっとリーシャに痛いとこ指摘されてさ」
「……?よく分からないけど、解決したのよね?」
アスナにそう聞かれて、2人で頷いて見せた。
「うん、なら行くわよ。回復には余裕があるから、次の階層でも行けるはず」
「ああ、俺もそう思う」
意見がまとまり、4人は次の回層へと続く螺旋階段へと歩き出した。こうして、キリト、アスナ、リア、リーシャたちの第一層の攻略は終幕を迎える。
そして後に、この4人は数奇な運命をたどる。クリアを目指し、生き抜くことを目標に掲げていた4人のうち一人が―――
―――一種の悪に、堕ちる。
お疲れ様でした。
今後がどうなっていくのかは正直私も分からないですね……
なんとか、この作品をまとめ上げていきたいと思います。
それでは、また次回お会いしましょう。