魔道の世界に巻き込まれた一般人(笑)の物語   作:安全第一

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ムシャクシャして書き上げた駄作。
後、勘違い要素の作品を真面目に書きたかった。

この作品の更新は完全に未定。

追記:ウルキオラのブラックブレット編を削除してリメイクする予定。


1.何故か巻き込まれた。しかし私は一般人を自称する。

 どうも、おはこんばんにちは。私はごく普通な学生生活を送る単なる一般人である。

 

 む、単なる一般人と自称するのは可笑しいか。しかし一般人と名乗るにははっきりとした理由はある。

 

 何故ならこの世に生を受け、今まで厄介と言える様な出来事にも遭遇せず、大怪我や重度の病に罹る事もなく何不自由なく過ごして来たのだ。故に平凡な人間だと自負出来る。ただこの一人称だけは生来のものである故、どうか許して欲しい。

 

 勉学の面においても同じ。高校の成績は中の上。平均点より多少上回る程度の点数を取るだけの学力が有るのみ。これも普通の学生ならではのものだろう。

 

 だからこそ私はこれから先もただ普通に何事もなく生きていくのだと思っていた。

 

 

 

 

 

 ある日の朝。世界が崩壊していた。

 

 

 

 

 

 ……比喩に非ず。文字通り世界が崩壊していたのである。私自身、何が起きているのかさっぱり理解が追い付かなかった。

 

 その日も普通に起床し身だしなみを整え、マーガリンと苺ジャムを塗ったトースト二枚を食した後、革靴を履いて玄関と扉を開けた。そこまでは普通だった。

 

 しかしその後が問題だ。いつもの光景が広がっている筈が、それとは掛け離れたものが私の目の前にあった。

 

 地形が無に帰り、人々が光の粒子となって消え去っていく光景。そして何よりあり得ないものが目に入った。

 

 黒い太陽。

 

 日食などでは無い。黒い靄が掛かったそれは異常であり、世界が崩壊しているのだという現実を私が認識出来たのもあの黒い太陽であった。

 

 しかしそう気付いた時には時すでに遅く、崩壊が目の前まで迫っていた。

 

 ……成程。私はここで消えるのか。

 

 私は単なる一般人。主人公でも無い限り、世界の崩壊に抗える訳もない。抗おうとしても手段を持たない非力な私ではどうしようもあるまい。

 

 ならば良し。一般人なら一般人らしく、大人しく消え去ろう。他の人間と同じ結末を迎えるのもまた一興。またの来世に期待しようか。

 

 そして私は崩壊の干渉を受け───

 

 

 

 

 

 ───る事はなく、私を避けて背後にあった自宅が消え去った。

 

 ……どういう事だ。何故消え去らない。まさか私が何かを持っているのか……?

 

 いや、まさかな。これは偶然だ。今まで普通であった私が主人公補正などというご都合主義を得た訳でもあるまいて。もしそうだとすれば何と陳腐な展開なのやら。

 

 しかしそう思考している内に世界は何もない無となった。まるで宇宙空間の様だが、煌めく星々の輝きがない為に興味は抱かずに終わる。

 

 さて、どうしようか。足場も無いこの世界だが、どうやら歩ける様だ。このまま空中散歩?に洒落込んでも良いのだが、如何せん私には余裕がない。この何も無い世界から脱出する手段を見出さなければ一生このままだろう。この現状故、救助も望めないであろうから、これは私がどうにかしなくてはならない。

 

 ふむ、どうすべきか。私の考察からするに、非現実的な現象が発生してこの有様になったのだから、非現実的な方法で脱出するのが最も有効だろう。

 

 だが私は一般人。何の力も持たない人間。非現実的な手段を取ろうとしても取れないのだ。

 

 しかしそうしなければここから脱出する事は不可能だろう。非現実的な現象に現実的な方法で対処出来る筈もあるまい。

 

 駄目元で考えてみるとしようか。

 

 ───空間破壊。

 

 ───空間跳躍。

 

 ───世界創造。

 

 ───因果律崩壊。

 

 ───永劫回帰。

 

 ───宇宙滅却。

 

 ───滅尽滅相。

 

 ……こんなものだろう。何となく後半からは非現実すらも塵芥にしか感じられないようなものだったが。

 

 しかしこれくらいでなければ脱出出来ないだろう。

 

 ……よし、これは私によるほんの細やかな抵抗故に只の悪足掻きに過ぎないが、出来る限りの事をやってみるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 脱出出来た。

 

 なんだかよく分からないが、兎に角脱出出来た。恐らく世界が崩壊した時より驚愕の度合が大きいと思う。

 

 取り敢えず、世界に穴が生じる程度の衝撃を入れなければならないと考え、それなりの非現実的現象を頭の中で想像してみた。すると不思議な事に奇妙な言語が口から勝手に溢れ、直後に想像した非現実的現象が発生した。あの時発した言語は一体何の言語だったのかは一切不明だ。

 

 そして非現実的現象が発生した結果空間に穴があき、そこから脱出した。一応、最悪の事態からは逃れられただろう。

 

 しかし、私が想像した現象が現実となって発生してしまうとは。思わずポルナレフ状態になってしまった。いや、せざるを得なかった。

 

 やはり、私には何かがある様だ。だが、あの様な非現実的現象をここで起こすととんでもない事になるに違いない。

 

 とはいえ、どうやら私が本気で強く想像しなければ発生しないようだ。何となくで想像しても何も起きなかった。もしかすると、単なる神の奇跡だったのかも知れない。

 

 

 さて、ここは何処なのやら。

 

 

 私が今居る場所は豪華だが少し古風な建物、いや校舎だろうか。元の世界……だと予想するが、この建物が世界の何処かにあるとは思わなかった。

 

 そう感心し辺りを見渡していると、怪訝な表情の少女が一人、建物の中から現れた。女性としては少々背が高く、胸は大きい。

 

 何という事だ。この少女、とんでもない胸をお持ちになっているとは羨ましけしからん。あ、これはいけない。このまま嫉妬して憤死してしまう所だった。

 

 しかし少女が警戒するのも無理はない。無の世界から脱出したらこんな場所に降り立っていたのだ。紛れもない不法進入である。そう思うと拙い状況下に置かれている事を自覚し、内心冷や汗が吹き出る。

 

 こんな一人称だが、実を言うと私はかなり動揺し易い。一度パニックに陥ると、私自身何をしているのか分からなくなるケースがしばしば。つまりただいま絶賛動揺中である。ヤヴァイ。助けてリヴァイ。

 

 すると、少女が私に何者かと問いかけて来た。

 

 私が何者なのか、か。先程の出来事を経験した直後である故に、私が人間なのかどうか私自身も分からなくなっている。だが、それでもごく普通の一般人と言い切るしか無い。今までそうして生きて来たのだから、そう自称するしかないのだ。

 

 しかし、本当にそう言い訳出来ているか不安だ。現在絶賛動揺中である為、的確に説明出来ていない可能性がある。

 

 しかしこうしている間にも、動揺の所為か緊張のボルテージが上がって来た。私の外側やこの一人称は平然としているが、内心はしっちゃかめっちゃかである。

 

 魔王候補? 初めて聞く単語だ。しかし今の私に冷静に物事を考えていられる余裕は皆無。はっきり言って緊張のあまりショック死しそうである。私の外側はもう何を言っているのか分からない。

 

 すると突然、少女が私に向けて攻撃を仕掛けて来た。しかもやたら大きいライフルの射撃で。というか何処からライフルなんて物騒なもの持って来た。

 

 これには私も驚愕し、無意識的に防御を想像した。刹那、目の前に障壁が現れ、攻撃を防ぐ。やはり私が強く想像する事で一定の現象が発生し、奇妙な詠唱のようなものを同時に唱える事でより強力なものが発生するらしい。

 

 だがそんな場合ではない。今ので緊張のボルテージが天元突破してしまった。もう瀕死の状態である。誰か胃薬を持って来て貰えないだろうか。胃潰瘍になって吐血しそう。

 

 それに私の説得も虚しく、少女は私を危険視してしまった。最悪の展開だが私はそれどころではない。何故なら緊張の余り死にそうだから。

 

 こうなればヤケクソだ。このどうしようもない天元突破した緊張から解放される為(というかストレス解消)に付き合って貰おう。

 

 あの少女。一見してただの美少女だと見えるが、ライフルをぶっ放して来た事もあり、只者ではない。あの射撃も実力の内には入っていないのだろう。途轍もない強者の感覚が感じ取れる。

 

 ならば、この程度の現象も簡単に対処される筈。

 

 

 ───流星墜落

 

 

 私はそれを想像し、自動的に口から発せられる奇妙な詠唱と共に想像という空想を現実へと変換させる。いつの間にか宙に浮いていたが気にしない。

 

 それにしてもこの奇妙な詠唱、やたら厨二病の患者が好みそうなものだ。

 

 ……そう考えると、私は現在進行形で黒歴史を作り上げているのではないだろうか。駄目だ。羞恥の余り転げ回りそうである。

 

 私がそう内心悶々としている間に巨大な流星が衝突した。

 

 だが、やはり予想した通りなのか、あの少女には簡単に防がれてしまった様だ。しかもあれほど巨大な流星だったのにも関わらず、被害が圧倒的に狭い。

 

 それに彼女の表情。あれは私に失望した表情だ。私のお粗末な想像に対し残念だと言わんばかりの感情が出ている。この力自体、付け焼き刃のようなものだからそれにすら気付いているのだろう。

 

 世界は広いと改めて痛感させられた。極度の緊張から落ち着いてきた今、思い返すと心の何処かでこの摩訶不思議な力に酔い痴れていたのではないだろうか。もしもあの少女が防げず流星が地面に衝突したら、ここら一帯の人や地形が蒸発してしまうなど分かりきった事実だろうに、私はそれすらも見失っていたのだ。

 

 当然緊張という原因もある。だがそうであっても周りまで巻き込むなど御法度であろう。

 

 私はなんと滑稽なのだろうか。こんな脆弱な力に溺れていたとは。何様のつもりだ。

 

 私は一般人。こんな力を持っていても私は私、一人の人間なのだ。神様でも何でもなく、この世界を生きる一人の人間に過ぎない。冷静になった今だからこそ理解出来る。

 

 これは私への生涯の戒めとなるだろう。それを教えてくれたあの少女に感謝の念が絶えない。同時に実感した。

 

 

 

 あの少女は私よりも遥かに強い。

 

 

 

 む、もう一人建物から現れた。どうやら眼鏡を掛けた男性の様だ。

 

 だが驚くべき事にあの男性、背後にやたら大きく禍々しい姿の門がスタンドの様に聳え立っており、隣にいる少女よりも圧倒的な力の波動を感じる。直感だが、間違いないだろう。

 

 何と言う事だ。あの少女だけでも恐ろしいまでの実力を兼ね備えているのに、さらに格上の人物が現れるとは。

 

 ……これは完全に詰みだ。それに加え二対一。圧倒的不利である。

 

 ここは大人しく降参しておこう。それに脆弱な現象であるが、流星を墜としたこちらにも非がある。

 

 せめて処遇はお手柔らかにお願いしてくれないだろうか。割と切実に。

 

 しかし……

 

 

 

 どうしてこうなった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───■■■■■(Ira furor)■■■■■(brevis est.)

 

 ───■■■■■(Sequere naturam.)

 

 

 

 その時、誰もが聞いた。

 それはまるで己の耳に直接聞こえてくる様な謳であり、ノイズ塗れのその謳に誰もが嫌悪感を抱いた。

 

「!?」

 

 少女、浅見リリスは戦慄した。そして冷静に状況を分析する。

 先程、とある街で崩壊現象が発生。当然ながら街は地球上の地図から消え去り、浅見はその原因の調査に向かうべく準備をしていた。そして直後の謳である。

 すると突如として強烈な揺れが引き起こる。

 

「い、一体何なのですか!? それにこの震動……! ただの地震じゃない!」

 

 普通なら地震だと感じ、悲鳴の一つでもあげるのだろう。しかし彼女は違った。

 彼女、浅見リリスは各分野の魔道を極めし七人の一人、トリニティセブンである。故にこの揺れの正体が何たるかを理解していた。

 

 これは地震じゃない。ただの衝撃波だ。

 

 証拠として、窓硝子が割れていない。本当に一瞬の揺れだった為に、硝子が割れるほどでは無かったのだ。

 

「ッ」

 

 浅見は急ぎ足で学園長室へと向かう。この異常事態を彼がどう捉えているのか確かめる為である。

 

「学園長!」

 

 勢い良く学園長室の扉を開ける。彼女の目の前には彼が椅子に座していた。

 

「やっぱり来たかリリスちゃん」

 

 彼こそ『大魔公(パラディン)』と呼ばれる世界最高峰の階位を持つ魔道士であり、このビブリア学園の長を務める男である。

 彼は余裕を保った表情でこの状況を自身の視点で告げる。

 

「ふむ、さっきの理解不能な言語に世界規模の衝撃波。これは魔王候補か、あるいは魔王よりもおっかないヤツが来ちゃったかもねぇ」

「魔王よりも……おっかないヤツ……?」

 

 魔王よりもおっかないヤツ。その言葉に浅見は反芻して訊き返す。

 

「僕の分析から言わせて貰うけれどね、これを引き起こした相手の実力は未知数としか言いようがない。

 あのノイズが混ざった言語。もしかすると『旧世界の言語』かも知れない」

「旧世界の言語……?」

「そう、僕にも詳細は全く分からないんだけど、魔道を極めている過程でそんな事を聞いた覚えがあるんだよ」

「そんな言語があるなんて……」

「何でも■■■■が使っていたとかなんとか───」

 

 

 

 刹那、凄まじい神威が辺りに走る。

 

 

 

「!?」

「おや、おいでなすったようだね」

 

 まさか、こんなに早く此処を特定して来るとは思いも寄らなかった。このビブリア学園はそう簡単に見つからない場所に位置している。更には認識阻害の術式が掛けられてあるのだ。それを容易く看破し即座に位置特定してしまうほどの離れ業を披露して来るとは。この離れ業は大魔公並みの高位魔道士ならではの高等技術である。

 現在、浅見を除いた他のトリニティセブンは私用で不在の身。唯一学園内にいる強欲(アワリティア)は地下の部屋にて自分の夢の中。怠惰(アケディア)は現在行方不明。この場で戦えるのは浅見と学園長のみ。世界最高峰の魔道士である大魔公がいるものの、その大魔公すら未知数と言わしめた実力の相手には些か戦力不足と言えた。

 しかしこのままでは状況が悪化していく一方。何とか活路を見出さなければならない。そして浅見は覚悟を決める。

 

「……私が行きます」

「……分かった。僕も相手の魔力を出来るだけ解析(アナライズ)してみるよ」

 

 そう言うや否や学園長室を飛び出し、発せられている神威の下へと向かう。

 彼女がそこへ辿り着き、正体不明である相手の姿を確認する。一体、この凄まじい神威を発している者は誰なのか。

 

「えっ……?」

 

 だが、浅見はその姿を見て驚愕した。

 

 

 

 “妖精”

 

 

 

 正にそう形容出来る程の美しさと儚さを併せ持った『幼い少女』だった。

 腰まで届く青みが掛かった長髪に翠の瞳。肌は雪の様に白く、身には何処かの高校の制服を着ている。

 だが、彼女の外見の年齢は見るからに九から十そこらと幼い。無表情でありながらその可憐な容姿もあり、とてもではないが彼女が神威を発しているとは思えない。

 

(こんなに幼い子が……? 確かに、この子があの現象を引き起こしたなんて到底思えない……)

 

 しかし、浅見には分かるのだ。彼女が神威を発しているのだと。すると少女がこちらに視線を向ける。どうやらこちらの存在に気付いた様だ。

 そして浅見は問う。

 

「貴女は、何者ですか……?」

 

 その問い掛けに少女は無表情のまま少し間を置き、返答する。

 

「……人間。

 気付いたら、此処に居た。……ただ、それだけ。

 だから私は、人間」

 

 それは妖精に相応しい綺麗な声音で、一種の魅力が備えられていた。

 やはり、彼女は何処か人間離れしている。例え普通の人間だとしても、彼女ほどの人間がこの世に存在するだろうか。

 

 否、存在しない。

 

「……貴女には魔王候補の疑いがあります」

 

 これ程までの圧倒的な存在がいようとは。触れればすぐに砕けてしまいそうな儚さと幼さを持ちながら、空間が歪むほどの悍ましい神威を発している矛盾した人間。いや、化物なのかも知れない。

 先の彼女の話も曖昧なものである。人間だと自称しているが、果たしてどれほどの人間が彼女を同類として認めるだろうか。

 もしも彼女が魔王候補であれば、それこそ世界の危機。本来トリニティセブンから選任され、崩壊現象を除去し抑止力となる集団、“王立図書館検閲官”の山奈と不動がこういった問題に対処するのだが、今日に限って不在である。それ故、トリニティセブンである浅見が喰い止めなければならない。

 幼い少女に攻撃するのは抵抗がありとても気が引けるが、世界の為でもある。せめて気を失わせている間に魔王因子のみを抜き取り、記憶操作をした後に自由にしてあげよう。

 

「だから貴女には少し眠って貰います。殺しはしません」

 

 浅見はライフルを魔道で創り上げ、少女に向かって狙いを定め、射撃する。対する彼女は一歩も動かず、このまま麻酔の術式を施した弾丸が直撃する。

 

 筈だった。

 

「!?」

 

 それはあっさりと防がれる。しかし驚愕すべき点はそこでは無い。

 彼女が展開した障壁。

 その数は一〇八。

 その障壁一つ一つが次元断層に加え、衝撃を相転移させるもの。つまり一つの障壁が究極の防壁であり、それが一〇八も重なっている絶対障壁である。

 その超高度な術式を『書庫(アーカイブ)』の接続無しで、それも一瞬で構築してしまうとは。

 

(この超高等技術……! なんて子なのですか!?)

 

 浅見は思う。学園長の言った通り、魔王よりも悍ましい存在が来てしまったのかも知れない、と。

 その浅見の様子を見た少女は、今まで無表情だったそれを悲哀の表情に変えてポツリと呟く。

 

「……私、貴女に敵意、無い。でも、貴女、攻撃して来た。

 だから───」

 

 

 

 

 

 ───目には目を。 歯には歯を。

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 ゾクリ、と浅見の背筋が凍る。本能が危険だと警鐘を鳴らす。理由は単純、彼女の神威が先程よりも桁違いに溢れ出た事によるもの。

 何と言う神威。何と言う圧力。下手をすれば指先一つで存在そのものが消し飛ばされるまでのそれは世界法則を超越していた。

 

 次元が違う。格が違う。浅見リリス達トリニティセブンが極めた各分野の魔道などでは比較にならない極大の歪みがそこにある。

 

 彼女は無限の宇宙。己の渇望が形となった理を以って、他の総てを塗り潰すもの。

 

 曰く、万象を型に嵌める神格(ほうそく)そのもの。

 

 

 

『ここに天地位を定む』

 

 

 

 いつの間にか天に浮いていた少女。その少女にしか出来ない少女だけの咒を紡ぎ出し、それに合わせて■■が揺らめく。

 すると組み替えられる森羅の理が軋みながら、■■の万象が位相を変えてこの世界へ顕れる。

 そして中天から嵐の乱雲が穴を穿たれ、徐々に広がって行く。

 

 

 

『八卦相錯って往を推し、来を知るものは神となる』

 

 

 

 次に少女の虚空に踊る十指の動きが尾を引く蛍光の軌跡となって、何層にも及ぶ立体の大曼荼羅を織り上げた。

 

 

 

『天地陰陽、神に非ずんば知ること無し』

 

 

 

 まるで何かを通すための道を開いたかのように、そこに集中する極大の神気は天を震わせ、穴を穿つ。

 最後に、咒力の密度は幾何学的に膨れ上がり、咒法が励起される。

 

 

 

『凶に敗れし者、凶の星屑へと還るがいい』

 

 

 

 そして中天──少女の呼びかけに答えるかのごとく、計都彗星の威容が宙の果てから燃える大火球と化して迫り来るのであった。

 

 

 

 

 

『───計都・天墜』

 

 

 

 

 

「───あ、れは……っ!?」

 

 その荒唐無稽な光景を目の当たりにした浅見は絶句する。

 空から迫り来る計都彗星。あれに巻き込まれるは愚か、直撃してしまえば魂ごと滅相される。あの術式とは言えないそれは最早魔道なのかどうかすら疑うが、そうなってしまうと確信する根拠があった。

 あれは見せかけではなく、確実にそうなるであろうものなのだから。

 

「ッ! 光滅せよ!

 “ヘルミック・バスター”!!!」

 

 浅見は即座に迎撃する。

 “ヘルミック・バスター”

 バスターモードで錬成したライフルから放たれる強力な魔力光弾。錬金術(アウター・アルケミック)を応用することによって、かなりの魔力を生み出しており、着弾と同時に大爆発を起こす。破壊力が高い上に派手な魔術でもある。

 ライフルから撃ち出された魔力光弾は一直線に計都彗星へと向かい相殺しようとした。

 

 

 しかしそれは徒労に終わる。

 

「そ、そんな……!?」

 

 

 呆気ない。それが浅見が抱いた感想だった。

 計都彗星に衝突した魔力光弾はまるで紙のように容易く引き裂かれ、脆くも塵となった。

 

「くッ……!」

 

 眼前の現実に浅見は歯噛みする。今から『魔道極法(ラスト・クレスト)』を発動しても間に合わない。加え、『魔道極法』は使用に生命に関係した代償を支払わなければならない。

 しかしこの現状では悠長にしていられない。だが行動を起こした所で何もかもが遅い。

 

「ここまで……ですか」

 

 最早これまで。計都彗星が迫り来る中、浅見は自らの死を覚悟した。

 

 

 

 瞬間、浅見の前に幾層もの障壁が構築される。

 

 

 

「ッ!!」

 

 浅見を守るように現れた障壁は計都彗星と衝突。凄まじい爆風と熱戦が浅見に襲い来る。だがそれすらも障壁が防ぎ、辛うじて防御する事に成功する。

 

「この障壁、学園長が……」

 

 あれ程の荒唐無稽な術に対抗出来る存在と言えば浅見が思いつく辺り、大魔公である学園長しかいない。

 あの時、展開された障壁は百五十七。あの一瞬で構築するという最強の魔道士たる大魔公の実力の一端が垣間見られた瞬間である。

 更に百五十七もの障壁には一層ずつ全く違う効果を付与していた。ある障壁には衝撃緩和、また別の障壁には爆風無効化など、凡ゆる魔術を駆使した絶大な堅牢さを誇る防御壁だ。しかしその防御壁をして計都彗星の前には辛うじて防ぎ切る程度。改めてあの幼い少女の力が強大であるかを思い知らされた。

 

「ふぅ〜、何とか間に合った様だね〜」

「学園長!」

 

 浅見の隣に現れ、一息吐く学園長。雰囲気は依然と変わらず飄々とした態度。だがよく見れば、頬に汗が伝っている。

 

(いやぁまさか解析(アナライズ)が全く意味を成さないなんてねぇ。対抗手段が無いし、あの隕石が僕が思い付く全ての魔術障壁を構築してやっと防げるレベルだなんて、どんだけヤバいのあの子!? 下手したら大魔公クラス以上だよ!?)

 

 学園長の内心は巫山戯つつも、少女の実力に驚愕していた。

 しかもあの魔術障壁を構築した際に魔力の三分の一を消費した。それに対し、少女の神威は衰えるどころか今でも増幅するばかりで消耗の兆しすら無い。はっきり言って長期戦に持ち込めば敗北必至である。

 

「どうする? ぶっちゃけ勝ち目ないよ」

「……その様ですね。せめて、話し合いで解決したい所ですが……」

「……まぁ、君が最初に攻撃しちゃったもんねぇ〜」

「うっ……! そ、それを言わないで下さい! 私も後悔しているんですから……」

 

 二人がこうして話し合いをしている所に攻撃を仕掛けられては拙い。浅見も学園長もそれには厳重に意識を集中しているが、一向にして少女が追撃を掛ける様子は無い。

 

「しかしどうしちゃったのかな? あの子全く攻撃の意思がなくなったみたいだけど……」

「一体何を考えているのでしょうか……」

 

 すると、少女から溢れ出ていた神威は鳴りを潜め、何も感じ取れなくなり、天に浮いていた少女が地に向けてゆるりと降下して行く。

 少女が地に足を着け、その無表情のまま二人を見据えた。感情が全く顔に出ない為、その思考を読む事すら出来ない。

 

 そして彼女は手を上げ、浅見が身構えると───

 

 

 

「降参」

 突如として降参の意を示した。

 

 

 

「「……え?」」

 

 この予想外の行動に思わず台詞が被る二人。

 一体どのような心境があったのかは分からない。だが、少女が降参の意を示したのは間違いない。罠とも考えられなくもないが、神威が全く感じられない事からするに、その意思は無いだろう。

 

「それは……どういう事ですか?」

 

 浅見が訊ねる。本人の意思確認を聞いておきたいからだ。

 

「私、争いに来た訳じゃない。朝、世界が壊れてて、それに呑み込まれて、脱出しようと頑張っていたら、ここにいただけ。嘘じゃない。信じて」

「!」

 

 世界が壊れていたという少女の言葉。それは恐らく崩壊現象を指すのだろう。彼女はそれに巻き込まれたが、消滅せずに何らかの方法で脱出したようだ。それを本人なりに懸命に説明しようとしているその純真さに心が揺れる。

 

「それに、私、大切なこと、忘れてた。でも、貴女がそれを思い出させてくれた。ありがとう」

「えっ……」

 

 在ろう事か、少女は浅見に礼まで述べて頭を下げる始末。

 一体何が少女の心を揺さぶったのだろうか。浅見にはそれに思い当たる節が見当たらない。

 だが、浅見には理解出来た事が一つある。

 

 

 

 この少女は、己では一生越えられない存在だと。

 

 

 

 実力の差もある。あの計都彗星を見舞われたのだから、彼女との差は歴然。絶望的なまでの力量を感じる。だが浅見が理解したのはそこではない。

 あの少女は、此方が先に手を出してきたのにも関わらず、それを全く咎めようとはしない。寧ろ、自分自身に非があるのだと言わんばかりの言動と態度。

 勝てない。素直にそう思わされた。あれ程の幼さで、既に浅見よりも成熟している倫理。どれほど濃い人生を体験して来たのだろうか。それは推し量れない。

 

「抵抗、しない。煮るなり、焼くなり、好きにして」

「ま、待って! 頭を上げて!」

 

 戦意すら残っていない様子の少女。その少女を文字通り煮るなり焼くなりするほど浅見は外道ではないし、そこまで堕ちたつもりもない。慌てて頭を上げさせる。

 

「……?」

「ッ……! そ、そこまでされると逆に私が困ります……!」

 

 その浅見に対し無表情のまま、こてんと頭を傾げる少女。その仕草に心を奪われかけた浅見だが、何とか自制し、一つ質問を問う。

 

「あの、貴女の名前を聞いていなかったのですが、お聞かせ願えますか?」

「……あっ」

 

 その問いに、今まで気付かなかったようにハッとした表情を浮かべる少女。その無表情故にあまり表情筋は動いていないのだが、それでも愛嬌さがあった。

 

「すっかり、忘れてた。私の名前、言ってない。

 私の名前は───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───カール・エルンスト・クラフト=メルクリウス。

 

 少女は、そう名乗った。

 

 




※主人公
本名:カール・エルンスト・クラフト=メルクリウス。

ニ、ニートじゃないし。ただ幼女化したウザくない可愛い水銀が書きたかったとか思ってないし(白目)
美少女ロリ。自らの視点ではよく喋るが、外側はその逆。コミュ障とか言わない。
髪と瞳の色はどこぞのニートを意識してたりして(すっとぼけ)
あくまで一般人を自称する一般人(笑)
崩壊現象に巻き込まれて以降、摩訶不思議な力に目覚める。自覚は無い(笑
その原因は不明。
ただ一般人(笑)は■■等級。


※世界に穴が生じる程度の衝撃
少なくとも単一宇宙が消滅する規模(白目)


※動揺し易い主人公
勘違い系では欠かせない要素……の筈(汗)


※謎の詠唱
一体どこのコズミックニートの技なんだー(白目)


※計都・天墜
神座シリーズ三作目、『神咒神威神楽』の登場人物である変態の一人、摩多羅夜行の技。
陽の術らしいが夜行さん自身が太極等級で術や異能の分類がされない領域にある為、よく分からない。
分かり易く言えば隕石を墜とす術。最早術の範疇超えてませんか(震え声)
夜行さんはこれを開幕ブッパしたりしてた(白目)
一般人(笑)も使用したが、詠唱の一部が少し入れ替わっている。


※一〇八の次元断層、衝撃を相転移させる障壁
これも同じく変態である夜行さんの術の一つ。
主人公はこれを一〇八も構築したが、本来詠唱が存在する為、夜行さんが構築する障壁とは比較にならないほど脆い。
神咒神威神楽で夜行さんは二十四もの障壁を構築して防御に使用したが、マッキーにワンパンで砕かれた。
すごく……一撃必殺です。


※百五十七もの障壁展開
学園長は原作でも実力が未知数で最強格の御仁だから正直こんな事も軽く出来ると思う。
というか大魔公同士が争うと世界の崩壊の危機に陥るらしいからぶっちゃけ魔王より強いんじゃね?





勘違い系はやはり難しい。
正直勘違いモノを書いている人は凄いと思う。
尊敬するレベルである。

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