翌日
エミルはいつものように学校に向かった。
「あれ?美樹さんは?」
「今日はお休みしたんだって」
席にはさやかはいなかった。
「ごめんなさい。昨日の昼休みに全て話しておけば…」
「ほむらちゃんは悪くないよ。私がさやかちゃんのソウルジェムを投げようとしたとき止めてくれたから」
「ありがとうまどか…」
さやかside
転校生が言った魔女の正体。
キュゥべぇが言った魔法少女の真実。
ソウルジェムは私達の魂で限界まで穢れを溜めれば魔女になる。
「これが私の…」
布団にくるまったままソウルジェムを見つめる。
これが私の魂
「こんな身体で私…どんな顔をしてまどか達…恭介に会えばいいの…?」
キュゥべぇはなんでこんな大事なことを今まで…
「(いつまでもショボくれてんじゃねぇよボンクラ)」
頭からテレパシーが聞こえてベットから起き上がってカーテンを開くと
「(ちょっと面貸しな)」
杏子がリンゴをかじって私を見ていた。
私は制服に着替えて杏子について行く。
見た目からして私と同い年だけど学校は行っているの?
もしかしてサボり?
「ねぇ、どこに行こうとしてるの?」
「いいから黙ってついて来な」
そう言ってリンゴをかじる。
しばらくついて行くと廃墟のような建物についた。
杏子は扉を蹴り壊して建物にはいる。
「こんなところに来てなにするの?」
「ちょっとした長い話になる」
杏子は私にリンゴを渡した。
「食うかい?」
珍しい
自分のことしか考えられないあいつがリンゴを渡すなんて
けど、食欲がないし何よりあいつから受け取ったリンゴなんか食べたくない。
私はリンゴを捨てた。
「…!」
突然杏子が私に飛びかかり私の服を締め上げた。
「く、苦し…」
「食いものを粗末にすんじゃねぇ…殺すぞ」
杏子…なんでリンゴ一つでこんなに怒るの?
「あ…」
力が緩んだとたん私は尻餅をついた。
杏子はリンゴを拾って自分の服で拭いた。
「ここわね…私の親父の教会だったんだ」
教会?
「正直すぎて優しい人だった。毎日新聞を読むたびに涙を浮かべて真剣に悩んでいた人で新しい世界を救うには新しい信仰が必要なんだ。それが親父の言い分だった」
杏子のお父さん…私と同じように他の人を…
「ある時、教義にないことまで信者に説教するようになった。もちろん信者の足はぱったり途絶えて本部から破門された。誰も親父の話を聞かなかった。当然だよね、はたからみればうさんくさい信仰宗教そのものさ。たとえ正しくても、当たり前のことを話しても世間からはただの鼻つまみものさ」
杏子は皮肉っぽく笑った。
けどその笑いはとても哀しいものだった。
「私の家族はそろって食いものにも事欠く有り様だった。納得出来なかった。親父は間違ったことを言ってない。ただ人と違うことを話してだけ。ほんの少しだけでいい。親父の話をちゃんと聞けば正しいことだって誰でもわかる。なのに…誰も相手にしなかった」
杏子…
「悔しかった。許せなかった。誰もあの人のことをわかってくれないことが我慢出来なかった。だからキュゥべぇに頼んだ。みんな親父の話を真面目に聞きますようにって」
「そしたら翌日には親父の教会にはおしかける人でごった返したんだ。毎日おっかなくなるほどの勢いで信者は増えてった」
まるで願いが叶った子供のような笑顔をみせた。
「私は晴れて魔法少女の仲間入りさ。いくら親父の説法が正しくても魔女は退治出来ない。そこは私の出番だって意気込んでいた。私と親父で裏と表で世界を救うんだって」
希望に満ちた顔をしたあとすぐ落ち込んだ顔になった。
「ある時からくりが親父にバレたんだ。信者はただ信仰のためじゃなくて魔法で集まったと知ったときブチキレたさ。娘の私を人の心惑わす魔女だと罵った。笑っちゃうよね?私は本物の魔女と戦っているのに…」
苦い顔をしてリンゴをかじった。
「それで親父は壊れた。酒に溺れて頭がイカれて最後は私を置いて家族無理心中さ」
食べ終わったリンゴを投げて天井を見上げた。
まるで自分のせいでこうなったと後悔するように
「私の祈りのせいで家族を壊した。他人の都合を考えず勝手な願いでみんなを不幸にした。そのとき心に誓った。二度と他人のために魔法は使わない。この力は自分のために使うと」
杏子…お父さんのために願ったのにその願いのせいで…
「奇跡はタダじゃないんだ。希望を祈ればその分絶望が撒き散らされる。そうやって差引をゼロにして世の中はバランスは成り立っているんだ」
杏子がなぜ魔法少女になったのかわかったけど…
「なんでそんな話を私に?」
私にそのことを話した理由がわからなかった。
「あんたも開き直って好き勝手やればいい。自業自得の人生をさ」
「それって変じゃない?」
「あんたは私と同じ間違いから始まった。これ以上後悔しない生き方をするべきだ。あんたも対価として高すぎるものを支払った。だからさ、これからは釣銭を取り戻すことを考えなよ」
「あんたみたいに?」
「そうさ。私はそのことを弁えている。あんたは今も間違い続けている。見てられないんだよ…」
慰めているの?
私も他人のために願った同じ魔法少女だから
杏子は自分の願いのせいで家族を壊した。
私が同じ間違いにならないように言っている。
「私…あんたのこと誤解してた。そのことはごめん。」
杏子は自分勝手な奴だと思ってたけど違った。
私を心配してたんだ。
「なんだよいきなり」
「けどね。私は自分が願ったことを後悔しない。私は他人のために魔法を使う。この魔法は使い方しだいで素晴らしいものに変えられるって思う」
恭介の腕を治してほしいという願いは嘘じゃない。
病院の屋上でエミルと恭介が話していた姿を見て思った。
これで恭介は救われた。
私はそれだけで十分報われた。
「それとさ、あんたが持ってるそのリンゴ。どうやって手に入れたの?お店で払ったお金はどうしたの?」
「…!」
図星のようね。
やっぱりそのリンゴは…
「言えないのならそのリンゴは受け取れない。貰っても嬉しくない」
もうこれ以上ここに居ても仕方ない。
家に帰ろう。
私はそう思い教会だった廃墟を出ようとした。
「馬鹿野郎!私達、魔法少女は仲間なんて居ないんだ!なのに…なんでお前は!」
「仲間はいるよ」
教会の扉前で振り返る。
「私にはまどか、エミルにマミさん、テネブラエ。それに転校生。あんたも昔はマミさんと一緒にコンビ組んだでしょ?私達は一人じゃない」
だから私は言える。
「ただ一緒に戦うのが仲間じゃないと思う。一緒に学校行ったりバカな話して笑ったり。ご飯食べたり…そういう風に過ごせるのが仲間なんじゃないかな?」
そう言って私は教会を出た。
杏子side
なんで…なんでだよ。
なんでさやかはあんな風に
「くっ…」
私はリンゴをかじる。
何も言えなかった自分にイラつきながら
さやかみたいに考えられない自分が情けないと思いながらリンゴをかじる。
エミルがいたからこんな風に考えられたのかな