「おはようございますエミルさん」
頭に強い衝撃を受けたあとなぜか膝枕をさせていた。
「僕は中庭で…」
「ごめんなさいエミルさん…」
織莉子は謝罪する。
「明日まで私の屋敷にいてください」
エミルは織莉子の膝から離れる。
「どうしてですか?」
「あの泥棒猫から私達を守るためだよ」
織莉子の隣にいるキリカが説明する。
「理由は分からないけど私達を狙っていることは確実。エミル君には抑止力になってほしい」
「抑止力?」
「私とキリカはあの子に狙われている」
「エミル君に危害を加えると言えばあっちはなにも出来ないと思う」
「ほむらさんはそんなこと」
「エミル君には悪いけどあの泥棒猫は私達を殺すつもりだから」
エミルは言葉が出なかった。
「本当にごめんなさい…私もこんなことはしたくありませんでした」
彼女の手は震えていた。
「軽蔑しても構いません。罵っても構いません。ですから今だけは…」
エミルは彼女の手を触れる。
「わかりました。僕もここに残ります」
「ありがとうございますエミルさん」
エミルの手を優しく握る。
「エミル君、もう一ついいかな?」
「なんですか?」
キリカがエミルに密着するように座る。
「明日は決闘だからさ。英気を養いたいんだ」
「養う?」
「こういうときってしっかり休まないといけないからね」
「はあ…」
「今日がエミルさんと過ごす最後の日になるかもしれません…
ですから『魔法少女』になった織莉子とキリカではなく『ただ』の織莉子とキリカとして過ごさせてください」
本当は魔法少女に関わってほしくなかった。
キュゥべぇの呪われた契約に関わらず過ごしてほしかった。
エミルのなかでその考えが渦巻いていた。
「はい…わかりました」
魔法少女にしてしまったせめてもの償いとしてエミルは二人と過ごすことにした。
マミホーム
「みんな、落ち着いて聞いてほしいの」
ほむらが伝えたいことがあるらしくまどか達をマミの家に集めた。
「どうしたのほむらちゃん、なんかすごく怖い顔だけど…」
ほむらがいつも以上に真剣な表情をしていて、まどかが心配そうにしている。
「エミルが美国織莉子にさらわれた」
一瞬の静寂
最初に口を開いたのは
「暁美さん、なに言ってるの?」
マミだった。
「美国さんがエミル君をさらう?遊びに行ったんじゃなくて?」
「えぇ、残念ながらそうよ」
頭痛を感じたのか手を置いた。
「暁美さん、さすがに冗談が過ぎるわ。なんでエミル君が誘拐されるの?」
「美国織莉子は呉キリカと組んでまどかを殺すためよ」
「ちょっと待ってほむら、なんでまどかが関係してるの?」
さやかがほむらに聞くがワルプルギスの夜の対策まで自分の正体は隠しておきたい。
「ごめんなさい…今はまだ言えない」
エミルがいたら何とかなったが織莉子の豪邸にいるのでほむら1人で説明するしかなかった。
「まどかが危ないんでしょ!」
「そうよ、美国織莉子と呉キリカが」
「なんで二人が関係しているのかって聞いてるのよ暁美さん」
「それは…」
「さやかちゃん、マミさん。そんな風に聞くとほむらちゃんが話しずらいよ」
まどかが間にはいりさやかとマミを落ち着かせる。
「ほむらちゃん、なんでエミル君が誘拐されたか教えてくれる?」
なるべく優しく声をかけてほむらが話すのを待つと
「二人は魔法少女になって私を逃がすために…」
ほむらは静かに答えた。
「美国さんと呉さんが魔法少女?」
「けど呉先輩はあのとき使い魔におびえてたよ?それに魔法少女になってなかったし」
「昨日、魔法少女になったかもしれない」
「なんで魔法少女になるなったかわかる?」
「それはわからない」
ほむらは首を横にふる。
「二人が魔法少女になる理由は知らない…でもまどかを狙っていることは確実よ」
まどかは狙われている。
これだけは本当のことだと言うが
「ほむらには悪いがそのことはあんまり信用出来ないな。いきなりまどかが狙われていると言って、理由がはっきりしないとあたし達も信じられないんだよ」
「あたしも杏子と同意件。嘘は言ってないって感じはするけどやっぱりちゃんと説明してくれないと」
「ほむらが言ってることは信じられないのです」
「ごめんなさい暁美さん…私も暁美さんのことは…」
しかし誰もほむらの言葉を信じてくれなかった。
「私は…」
「もういいわ」
まどかが答える前にほむらが口を開いた。
「誰も信じてくれないのね。エミルは私のためにテネブラエを使って逃がしてくれたのに…」
肩が震えて泣きそうになっていた。
「ほむらちゃん、私は-」
ほむらのスマホから着信音が鳴り響く。
タイミングが良いか悪いかはさておき、スマホを取り出した。
「あ、良かった繋がって」
「エミル…なの?」
ほむらがエミルと口にするとまどか達はほむらの近くにいく。
「今はほむらさんだけですか?」
「いえ、みんないるわ」
「みんなに聞こえるようにしてくれますか?」
「どうして?」
「大事な話をするためです」
エミルの指示通り、スピーカーモードにしてまどか達にも聞こえるようにする。
「エミル君、大丈夫なの?誘拐されたって聞いたのよ?」
エミルの声で反応したマミが話しかける。
「誘拐?」
「えぇ、暁美さんがそうよ言ったのよ」
「誘拐はされていませんよ?今は織莉子の家にいますが」
本当に誘拐だとしたらどうしようと思っていた。
マミはほむらを睨む。
「まあそのことは置いといて、大事な話をします」
気持ちを切り替えるとエミルは内容を伝える。
「明日の休みに僕とさやかさんが修業として使っている廃墟で決闘を行います」
「決闘?」
「勝負は2対2。勝敗は負けを認めるかソウルジェムの穢れが限界近くになるかです」
「待ってなんで決闘をするの?」
「質問はあとで聞きます。戦う前にお互いグリーフシードを使ってソウルジェムの穢れを除去してもらいます」
「それじゃあ敵に塩を送るどころか食料を送っているようなものよ」
ほむらにそう言われるとエミルは予想していた。
「反対するのですか?」
「当たり前よ。そんなことをしなくても二人は始末するわ」
決闘なんてまどろっこしいことをしなくても織莉子とキリカを殺せる。
第一そんなことをして自分達に得があるのか?
ほむらはそう考えていた。
「どうして…殺し合うんですか」
エミルの声は感情を押し殺すように震えていた。
「それは二人がまどかを殺すからよ。私はまどかを守るために二人を-」
「なんで争うことしか考えないんですか!?」
押し殺していた感情を爆発させた。
「なんで人の命をそう簡単に奪おうとするんですか!?なんで一緒に考えようとしないんですか!?」
激怒しているその声は
「僕だってこんなことはしたくなかった…けどなにもしなければほむらさんと織莉子さんは殺し合いをする」
とても悲しそうだった。
「仕方ないじゃない…まどかが狙われてるから」
ほむらも無駄な命を奪いたくないと思っている。
織莉子とキリカが魔法少女に関わらなかったらそのまま二人を殺さず放置していた。
だが織莉子とキリカ魔法少女になった。
まどかを救うには殺すしかない。
「私だって出来るなら穏便に済ませたいわよ」
「だったらどうすれば納得するんですか!答えてくださいよ!」
ほむらは答えられなかった。
戦うことでしか解決しなかったほむらにはそれ以外の答えなんてないからだ。
エミルの隣にいる織莉子も自分に言われてるような感情になる。
それからお互い口を開かなかった。
「美国さん、信じたくないけど本当に鹿目さんの命を狙っているの?」
マミは未だに信じられなく
嘘だと言ってほしいと願うが
「えぇ…まどかの命を狙っているわ」
願いは叶わず織莉子は自分の言葉ではっきりと答えた。
「あなたにもわかるはずよ?その子のせいでエミルさんと過ごす毎日が奪われることがどれほど悲しいものか」
「エミル君の…」
血の気が引いてゆく
マミにとってエミルは最後の希望であり生きる意味。
それを失ってしまったらマミは生きられない。
エミルにはそれほど依存していた。
「マミ…あのときのようにエミルさんと一緒にお茶会をしましょう?あなたもそれを望んでいるでしょう?エミルさんと一緒に過ごす毎日を」
織莉子の優しい言葉がマミの心を揺らす。
エミルのためにまどかを殺すか
それとも織莉子と戦うか
二つの感情が天秤のように揺れていた。
「答えは明日聞くわよマミ。それと暁美ほむら」
マミとは違ってほむらに対しては冷徹な声だった。
「この後すぐ襲撃をしようと考えないことよ。もし何かするのであればエミルさんが怪我をすることになるわ」
「エミルを盾にするなんてずいぶんひどいことをするのね」
「あなたが襲撃しなければエミルさんに危害は加えないわ。けど今日1日は私の家に居てもらうけどね」
「そう、せいぜい最後の日を楽しみなさい」
「そうね。楽しませてもらうわ」
お互いに捨て台詞を吐き捨てて通話をきる。
「ほむらちゃん…やっぱりエミル君は…」
「美国織莉子の家にいたわね」
「なんで美国さんは…エミル君を…」
信じられない光景にマミの心は虚ろになる。
「決闘なんてしなくても美国織莉子と呉キリカは-」
その後の言葉を続けることができなかった。
「ほむら…あんた…」
さやかがほむらの頬を叩いていたから
「エミルはあんたを助けるために自分を犠牲にしたのに…それなのにあんたは!」
「ならまどかが死んでもいいの?」
「ダメに決まってるでしょ!」
前のさやかならここでなにも言えなくなっていたがエミルを通して心も成長していた。
だからほむらに反論出来た。
「まどかはあたしの親友なんだから絶対殺させない。だけど呉先輩達を殺すのはおかしい!」
「どこがおかしいの?」
「なんで殺す必要なんかあるのよ!」
「まどかが狙われてるのよ。それでまどかが死んだらどうするのよ」
「そんなことは絶対にさせない。まどかが殺されることも呉先輩達を殺すことも。エミルもそう思ってるはず」
スピーカー越しだがエミルの声が哀しみに満ちていた。
「あたしが杏子とはじめて会って杏子を心配していたとき最初はヘタレだと思った。けど、エミルの正体を知ったとき分かった。エミルはあたし達より戦いを知ってる。それってあたし達より人を多く殺してるってことよ」
エミルの本当の気持ちをさやかは伝える。
「エミルは戦いが嫌いなんだよ。目の前で人が死ぬことがどれだけ辛いことなのか。エミルはなんでなぎさちゃんを戦いから離れさせたか。それがやっと分かった」
「…」
ほむらは黙ってしまう。
さやかがここまで成長していたとはほむら本人も驚いていた。
「ほむら、この際はっきり言ってあげる。そんなことしてまどかは喜ぶと思ってるの?」
「黙りなさい!」
テーブルに手をつけてさやかを睨みつける。
「まどかだって争いをしないで解決したいって思ってる。殺し合いなんてしてほしくないって思ってる。ほむらだってわかってるでしょ?」
「当たり前じゃない。まどかは他人のことまで心配してくれる優しい子よ。そんなまどかが殺し合いなんて望んでない」
「なら話し合いで解決しようよ。エミルだってそれを望んでる」
「それはダメよ。美国織莉子と呉キリカはまどかを殺すと言った。そんな二人が納得する答えなんてまどかを殺す以外ない」
「なんでエミルの気持ちをわかってくれないの!あいつは!」
「もうやめて!」
まどかが大声で叫んだ。
「こんなことしてもエミル君が悲しむだけだよ…」
すすり泣くとほむらとさやかはうつむいて黙ってしまう。
「ほむらちゃん、私のことを心配してくれるのはすごく嬉しいよ。
けどエミル君の気持ちをわかってほしいの。エミル君は戦うことが嫌なのに私達のために一生懸命戦ってくれた。
戦えない私を命懸けで守ってくれた」
病院でマミを助けてためにラタトスクの騎士になった。
路地裏で使い魔を追いかけるために杏子と戦った。
魔法少女の真実を聞いてマミの心が壊れそうになったとき支えてくれた。
さやかが自暴自棄になり雨のなか一人で追いかけ恭介に告白する後押しをした。
魔女になったさやか、なぎさと契約して元の魔法少女に戻した。
キリカに襲われた際、エミルが守ってテネブラエを使ってほむらを逃がしてくれた。
誰一人犠牲にならなかったのはエミルがいたからである。
だがそのせいで彼が傷付いていた。
そのことで悲しみ、落ち込んでいた。
「私達のせいでエミル君が苦しい思いをしてる。そんなエミル君が決闘をするって言ったのはこれ以上争ってほしくないからだと思う」
このまま言い争っても意味はないと感じていた。
「決闘を受けよう。エミル君がそれを望んでいるなら私は決闘を受ける」
エミルをこれ以上悲しませたくない。
まどかにはそんな思いが募っていた。
「分かったわ…明日の決闘を受けることにするわ」
頭に血がのぼっていた怒りが冷めていき、ほむらも決闘を受けることに賛成した。
「だけど誰が戦うの?」
「私は参加するわ。エミルは私のために自分を犠牲にした。だから今度は私がエミルを助ける」
「今のマミさんは難しいしあたしはまだ修業中でなぎさちゃんは魔法少女に戻ったばかりだから残っているのは杏子しかいないか」
「あたしは別に構わないが」
杏子も特に異論はなかった。
「なら明日の決闘は私と杏子が戦うことでいいわね?」
新着活動報告に大事なことを書きました