嗚呼、落ちる花弁が蝶のよう……


ひらひらと…ひらひらと……


なんて綺麗、なのでしょうか

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恋桜

……嗚呼、こんなに綺麗に咲くのは何時ぶりでしょうか

 

桜、そう呼ばれておる物ですが、こんなにも綺麗な花を咲かせる…

 

嗚呼、落ちる花弁が蝶のよう…

 

ひらひらと…ひらひらと…

 

なんて綺麗、なのでしょうか

 

 

昔より桜は好きでございました。でも、貴方様と眺める桜はもっと好きでした

 

桜を眺めながら、様々な事を教えになりました。美味しい食べ物、外のこと、色々な桜……幸せや喜びも、全て貴方様からお教えになりました

 

髪飾りを送って頂きました、桜を型どった物でした、とてもとても、可愛らしかったです。宝物でした

 

楽しゅうございました、嬉しゅうございました。初めて幸せというものを知りました

 

 

…だからこそ、悲しくありました。私は不幸の女、私に近寄る人が次々死ぬのはわかっておりました。白髪の従者は隠しておりましたが、私はわかっておりました

 

だから、貴方様が彼らと同じになるのではないか、私は危惧していたのでしょう

 

私は悪い女です。わかっていながら、貴方に離れることを忠告しなかった。心地良かったのです、貴方様と過ごす時間が

 

 

思えば、貴方様と最初にお会いしたのはまだ私の齢が十やそこらの頃。お見合いという形で貴方様とお会いしました。そもそも、このお見合いは形だけのもので、両家共にお付き合いに発展させる気はなかったのです

 

それなのに、貴方様は度々家にまでお越しになり、こんな私に会い、ひたすら話し相手となって下さいました

 

最初は驚きました。まさか形だけのお見合いで一目会っただけだというのに、こんなところにまで会いに来る貴方に

 

そして、そんな出会いから数年経っても貴方様は会いに来て下さいました

 

お父上が亡くなった時も、私の周りで人が死を迎え始めても、私が病気がちになった時も、私が不幸の女とわかった後も、家が私と従者一人になっても、桜が散った後も…

 

 

そんな優しい貴方様、気が付けばお慕いしてしまっておりました。してしまってはならぬとわかっております、知っております。私と居れば、貴方様にも不幸が起きる。怖かったのです、恐かったのです。お優しい貴方様が、私のせいで不幸に合うのが

 

だから私は貴方を遠ざけた、従者に来ても入れさせるなと、私は命令しました。一体その時、私はどんな顔で命令したのでしょうか。声が上手く出なかったのは覚えております

 

でも、それでも、貴方は、貴方様は…

 

従者から帰らせた、と聞いたその夜のことでした。人知れず泣いていた私の元に、貴方様は現れました

 

一体何処から…?と聞く私に、貴方様は塀を越えて、と言いました。駄目でした、無理でした。私にそこまでして会いに来てくれるお方を、無理矢理遠ざけれるほど、私は人が出来ていませんでした。私は駄目な女です

 

もう無理でした、この胸に溢れる思いを押し殺すのは

 

 

……ふふっ、笑ってしまいますね。そんな私が今此処で死にかけているなんて、貴方様への思いを閉じ込めたまま死んでいくなんて

 

もう、伝えることも出来ませぬ。貴方様と、歩むことは無理でございます

 

謎の病気が日に日に悪化し、従者と親友の悲しい顔を見れば、もう永くないこともわかっておりました

 

これも、報いなのかもしれません。周りに不幸を与え続けた私への、報い

 

そして、今日、この日。私はもうすぐ死ぬのでしょう。もう、自分から命というものを感じなかった

 

 

だけど、病気で淋しく死ぬのは嫌でした。だから、私は自分で死ぬことを選びました

 

我が儘な女です。散々報いやなんやと言っておきながら、最後は自分で死ぬのを選ぶ

 

……そういえば、今は春。それなら、桜の下で亡くなりたい。自分も好きで、貴方様と眺めた、桜の下で

 

そう決めた、この庭で一番大きな桜。最早大木と言って差し支えない大きな桜。こんな桜の下で死ねるなら本望…

 

桜の下で、腹部に一刺し。首を刺さなかったのは、せめて最後、ゆっくり桜を眺めたかったからです

 

 

……そろそろ、考えることも出来なくなってまいりました

 

思い出すのは、貴方様との思い出

 

…幸せでした、幸福でした、不幸でした。貴方と過ごす刹那刹那が、私には幸せに違いありませんでした

 

貴方と見た、桜。

普通に見る桜。

宵闇に見る桜。

闇夜に見る桜。

朝日で見る桜。

どれもこれも綺麗で、華麗で、私とは比べ物にならないほど純粋でした

 

 

嗚呼、落ちる花弁が蝶のよう

 

ひらひらと、ひらひらと

 

なんて綺麗、なのでしょうか

 

 

最後にこんな桜を貴方様と見れて、私は、私は…幸せでございます…

 

 

悲しくもあります、嬉しくもあります。貴方様と一緒に死んでしまうことが、貴方を死なせてしまうことが

 

 

けど、貴方様が一緒に死んでくれるなら私はまだ幸せで有り続けることが出来るのかもしれません

 

 

ありがとうございます

 

申し訳ありません

 

嬉しいです

 

悲しいです

 

でも

 

でも、

 

 

私は、貴方様のことが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

「ご機嫌ね、幽々子」

 

「やっぱりそう見える?実はね、とっても可愛い髪飾り見つけたのよ。桜を型どった、綺麗なの」

 

「……そう、それはよかったわね」

 

「えぇ♪」

 

「…そういえば、そろそろ桜も満開かしら」

 

「そうねぇ。あなたが早めに起きてるってことは、少し早く咲くかもしれないわね」

 

「…じゃあ、桜が咲いたら、一緒に夜桜でも楽しみましょうか」

 

「いいわね!妖夢にも言っておくわー」

 

「……『ねがはくは、花のもとにて、春死なぬ、そのきさらぎの、望月のころ』」

 

「それはなに?」

 

「昔の偉人の俳句よ。簡単に言うなら、桜の木のもとに春に死にたい、って言ってるらしいわ」

 

「桜の俳句?それなら私も一つ知ってるわよ。えーと…確か……『桜花、今ぞ盛りと、人は言へど、我れは寂しも、君としあらねば』……だったかしら?」

 

「よく知ってるわね、意味は?」

 

「ごめんなさい、それは知らないの。古い本を漁ってたら出てきて、凄く語呂がよかったから口ずさんでたら覚えてね。紫は知ってるの?これの意味」

 

「……そうね、寂しいって意味よ」

 

「なにそれ?随分短いのね」

 

「そうね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜と共に、思い出すことが一つございます

 

貴方様と共に並んで眺めた、あの桜

 

貴方様が居ないと、どうしてこうも寂しいのでしょうか


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