失敗は出来ない。赤い少女はそう心に留めていた。何せ、触媒のない召喚である。使えない英霊が出てきてもらっては、今後の行動にも関わってくるからだ。
しかし、恐らく彼女は失敗してしまった。彼女自身、そう感じてしまったのだ。召喚される場所にそれは現れず、別の場所、多分地下の方から異音がしたからである。
彼女はすぐさま音のしたほうへ向かった。召喚できたこと、に微かな安堵を浮かべながら、小走りで。
地下室の扉を大袈裟に、少女は開けた。煙が舞い、先が視認できなくなっていたが、それでも中に進む。
「あー、ったく。こんな無理矢理な呼び出し方はねぇよなぁ。身体中がぼろぼろだぜ。まったく」
煙が収まり始め、少女はやっと、自分が召喚したであろうサーヴァントを確認できた。
髪は白く、所々に斑模様が見える。顔には不気味な刺青。外見から推定される年齢性別は16~7歳の少年。
「あなた、サーヴァントなの?」
「あ?ああそうだよ。サーヴァントマーダー、召喚に応じて参上した次第さ」
殺人鬼、零崎人識は魔術師、遠坂凜の手によって召喚した。いやさ、召喚されてしまったのである。
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召喚には成功していた。そう言い切れるだろう。しかし、それは召喚という行為に対してのものだ。内容に関しては言わずもがなである。
「カハハ、こんな綺麗な嬢ちゃんに召喚されるなんて、俺も運がいいんだろうな、まったく、傑作だぜ」
「あなた、確かマーダーって言ってたわね。エクストラクラスなのかしら?」
内心焦りを感じながらも、それを感じさせない口調で目の前で紅茶を啜っている少年に尋ねた。
「多分そうだろうなぁ。アサシンのクラスに配されるもんかと思ってたけどそんな感じじゃねぇし。殺人鬼=アサシンだろ?なんだかなぁってさ」
「殺人鬼?あなた、どこの英霊なのよ!?」
「あ?英霊?あー、そうだなぁ。英霊とかそういう感じじゃねえんだけど。強いて言うなら反英雄って感じだな」
少女は焦りをかくしきれずになっていた。自分はとんでもなく最悪な手札を引いたのだと。殺人鬼。令呪による縛りがあるにせよ、マスターである自分の身が危険なのには代わりない。
「あなたの真名は」
「俺は零崎人識、汀目、、、あーこっちはいいや。本名隠す必要もねぇだろうし」
聞いたことのない名前。そんな気はしていた。彼の格好からして恐らく現代の人間。首から上は目を丸くさせるようなものをしているが、それ以外はただの一般人と言われてもわからないだろう。
彼は恐らく、未来、もしくは異世界の英雄。
聖杯の座には、この世の異なる時代、次元から呼び出されるという。そもそも、英霊の召喚には触媒が必要であり、使用しなければこのようなイレギュラーが起こりうるのだ。
「マーダー、っていうのもなんか変よね。せいバーとかアーチャーとかならまだしも殺人鬼って」
「俺は別にいいんだけどな。正真正銘の殺人鬼だし」
零崎っていう姓も分からない。殺人鬼で故人ならば、少なからずこの世界の情報にあるだろうが、それもない。過去じゃないってのは当りなのだろう。
「これからなんて呼べばいいのかしら」
呼び名は重要だ。過去の英霊は、まさしく英雄。個人情報が伝説そのものなのである。それはつまり、弱点が開示されているということ。名前からその弱点を探ることが用意なのである。しかし、それは過去の英霊に限った話なのだ。今回のイレギュラーの場合、名前はたいして、弊害にはなってこないだろう。
「そうだねぇ、零崎でも人識でも、呼びたいように呼んでくれよ。カハハ、俺は別にどんな呼び方をされても気にしねぇからよ」
そう少年は不敵に笑って見せた。刺青がなければ、ただの会話なのだがこれではまったく、ただの、を感じさせない。
「じゃあ人識、そう呼ばせてもらうわね」
「ああ、よろしくなマスター」
こうして、殺人鬼と、魔術師による、不完全な聖杯戦争がはじまった。