真紅の輝きを放つ剣は、1振りするだけで炎を具象化さてた。
「姉さん怒ってただろうなぁー……」
マリアの何とも言えない表情を見て、後で雷が落ちる覚悟を決めたタクマは、数々の爆音が飛び交う中へと突入する。
その手の剣から発せられる赤き閃光は、流星の輝きの如く剣の後を追って行く。
最初はゆっくりと……徐々にスピードを付け、ゴーレムの目に自分の姿が映る位置までジャンプし、一閃を食らわす。
「□□□□」
効いているらしく、人や動物とも違う何かを発した。
「ヨシュアさん! 遅くなりました。大丈夫ですか!?」
「……ああ。それよりその剣が、【生魂(ルーンソー
ド)】か?」
ゴーレムの動きが鈍っている今、呼吸を整えながらタクマの持つ剣を凝視していた。
「はい。俺の家に伝わる剣です」
1振りするだけでも、その輝きは紅蓮の炎の様に剣に絡みつく。
ヨシュアがその剣を触ろうとした時、残っていた壊れ欠けの屋根がきしむ。その音と同時に、屋根のレンガの欠片がバラバラと散乱した。
「ちっ! もう起き上がったんか!?」
その言葉通り、ゴーレムは馬小屋の屋根を全て破壊し……そして、巨大を見せびらかすかの様に起立した。
「やっぱり……デカイ」
屋根が壊れて行く音は、タクマの声をかき消す程の騒音だった。
垂直に立ち、全てを食らい尽くすかの様な……そんな禍々しさを放つ目を点滅させていた。
その身体に日の光を浴びるゴーレムを見ているだけでも、恐怖すら感じてしまう。
村を覆う程の数多の葉を付けている世界樹よりも少し低い。それでも人間にとっては、巨大である事に代わりはなかった。
タクマはもう1度何閃か繰り出そうと、地面を蹴ろうとしたのだが……
「……ダメだ! さっきみたいな攻撃しようにも、勢いが足らない」
赤い剣を握りしめるタクマは、無事だった仔馬を守る様にして抱き締めているマリアと……やはり何も表情を変える事をしないサクヤを見た。正確にはその場所を、だった。
ゴーレムに一撃を与えた時は、マリア達のいる場所から速度を付けたのだが、今はゴーレムの足下にいる。どう考えても時速と距離が足らず、先程の攻撃は出来なかった。
しかしゴーレムにとってはタクマの焦りなど関係なく、その巨大と対となっている大剣を上から下へと振り落とす。
その力は凄まじく、地面が引き裂かれ、ほぼまっ平だった筈の足場は、岩山の様に凸凹へと変化してしまう。
「げっ! 馬鹿力め! おい。さっきも言うたが俺のこの槍は、本来の力を発揮できへん」
「……それは、どうしてですか!?」
「色々あるんや……っと。図体がデカイやっちゃ、力も段違いっちゅう訳か!?」
槍で飛び散る石ころを次々と弾きながらも、その表情には焦りが表れ始めていた。
「本当ッス……ね!」
ゴーレムの足下に大きな空間が空いていていたので、そこに滑り込みながら反対側へと回り急いで体制を立て直し、1閃2閃3閃と、赤き灯火で線を描く様に切りつけていく。
「□□□□」
ヨシュアとの戦闘では余り効果のなかった物理攻撃だったが、タクマの剣は、ゴーレムの頑丈な身体に傷を付けていった。
「……やっぱりその剣は、魔物には【死魂(デスソウル)】に変わるんやな」
ゴーレムの攻撃を避けながら、タクマは聞き慣れない言葉……【死魂(デスソウル)】という言葉を耳にするが、それを考えている余裕さえない程にゴーレムは容赦なく剣を振り下ろしてきた。
「……っ! しつこいな」
そのゴーレムに負けじとタクマは身体をUターンさせ、勢いを付けて再び閃光の如く切り刻んで行く。
「はあーー!」
先程は3閃だったのに対し、今度は4閃5閃と数を増やして行った。
威力が増している訳ではなく、切りつける数が増えているだけなのだが、それでもタクマの持つ剣の力はゴーレムにとっては天敵になっていた。
その証拠として、優勢だった筈のゴーレムは体勢を崩し震動と共に方膝を地面へと付ける。
半分倒れ気味のゴーレムは、1つしかない目を弱々しく点滅させた。
「はは……おい坊主! ゴーレムが弱り切っとる。今がチャンスや。ゴーレムの目を砕け!」
何故ヨシュアは、自分で止めを刺さないのだろうかという疑問が一瞬だけタクマの脳を過ったが、このチャンスを逃すまいと思い、ゴーレム退治を優先させた。
「……っこの!」
両手に持ち変え、ゴーレムの目に剣を突き立てる。
そしてゴーレムは悲鳴をあげる事なく、全身を小刻みに揺らし……その命を永眠させた。
数秒間だけ、その身体を停止させたゴーレムが再び動くかもしれないという、恐怖にも似た思いを走らせたタクマだったが……
「安心せい。その剣で急所を突かれた魔物は"絶対に"、生きていられへんのやからな」
タクマの肩に手を置いたヨシュアの言葉を信じ全身の力を抜いたタクマは、その場にへたり込んだ。
「終わった……んですか?」
恐る恐るヨシュアを見ると……ヨシュアは笑顔でグーサインをしていた。
それを見て安堵したのか、剣を握ったまま地面に大の字になり、大声で歓声をあげた。
「やったー!」
「何や、お前やれば出来るやないか。その剣……お前にとっては大事な剣なんやろ? 手放したらあかんよ?」
ヨシュアも流石に疲れを見せたのか、がに股状態で座る。
マリアの声が近付いて来るのを耳で感じたタクマは地面に身体を預けたまま、手をヒラヒラとさせた。
「大丈夫?」
長いスカートが汚れてしまわない様に膝の間に挟みながら、 手をうちわ変わりにパタパタとタクマを扇ぐ。
「ヨシュアがどう説明したかは分からないけど……君のその剣は、魔物にとっては命を絶つ剣に変わる。でも……人にとっては、その逆になる」
マリアよりも遅くタクマ達の元へと来たサクヤは表情を変える事なく、淡々とタクマが疑問に思っていたであろう事を告げて行く。
そして立ち上がったヨシュアは停止したゴーレムを蹴り付けた後、タクマに手を差しのべた。
「話せる範囲でなら、答えてやるで? あんたらの疑問にな」
逆光のせいなのか……ヨシュアとサクヤの二人は、とても神々しい光を纏っている様にも見えた。