昇降口で靴を履き替えた後、運動場に出てから校門に差し掛かった時、2人は後ろを振り向いて校舎を眺めた。
学校は村のほぼ中央に建てられていて、2人と同い年位の少年少女が数多く通っている。村が小さい割には、子供が沢山いる……様にも思えるが、これにはとある理由があるのだが……。
「あっ。行商人さんだよ。連れてるお馬さん可愛い~。でも見ない顔だよね? 新しい人かな?」
学校の直ぐ近くで背中に大きな鞄を背負い馬を引いている男性を2人は見た事がないらしく、新しい人なのだと認識する。
そしてその行商人は村の小ささに対し、村に居る子供の数が多すぎる事を不思議がっていた。
「……はは。驚いてる驚いてる。そりゃ当然か。[ミロード村]には俺とマリアを合わせても、子供は数人しかいないのに、学校から出て来る生徒の数は、どう見ても小さな村って感じじゃないもんな」
太陽の光が眩しいままの空に向かって手を伸ばすと、一際大きな葉が落ちてきた。それをキャッチし、その葉を見て微笑む。
「……よし! マリア、行くか」
「あっ。待ってよ~。タクマ君」
マリアはタクマを慌てて追いかける。
「世界樹見てこうぜ」
「うん。タクマ君、世界樹好きだもんね?」
「世界樹が好き……ってか、あの自然が落ち着く!」
鞄を振り回しながら木の葉をくるくると回し、マリアの手を引っ張って、楽しそうに村の中心へと歩いていった。
このミロード村の周囲には、幾つかの街や村が存在していた。
ーーその中でも世界に3ヵ所しかない世界樹が植えてある村は、世界樹の恩恵という結界に守られていた。
ミロード村はその世界樹が植えられており、恩恵に預かって周辺の村や街の子供達が共同で通っている。
恩恵の元に造られた校舎は2階建ての木造で、少し前に建て替えた事もあり、近付くと木々の匂いが微かに漂って来る。
木造建ての昔ながらの校舎は、のどかで自然豊かな村の風景と一体化するかの様に開けた窓の隙間を通って、落ち葉の通り道として受け入れられていた。
運動場にはブランコや鉄棒と言った遊具などは一切なく、代わりに置かれているのは、人の姿を型どった藁で出来た人形だけだった。その人形は、太い木に突き刺さる形で風に揺られていた。
世界樹があるからこそ、平和でいられる。それを教えてくれているかの様に、静かでのどかな村だった。
ーーでは、世界樹のない町や村はどうなっているのだろうか?
大樹の力は、世界全土に広がっている訳ではない。ミロード村の様に、一定の地域だけしか護る力を発揮しないという事も確認されている。
だからこそ……護りの力を得られない町や村は、魔物が入って来れない様に頑丈な壁を造り、その囲いの中で人々は暮らしすしかなかった。
「最近さ、この世界樹の葉っぱよく落ちてくるよな?」
タクマの記憶の中にある世界樹は今とは少し違っているらしく、不安げな表情で話す。
「小さかった頃はさ、こんなにいっぱい落ちてなかっただろ? 秋とかになったら落ちてきたってのはあったけど……」
世界樹と呼ばれる大樹へ続く道のりは、風によって飛ばされた緑の葉が、じゅうたんの様に地面に落ちていていた。
「それにほら。今は春だろ? 春にこんなに葉っぱが落ちるのっておかしくないか?」
森林に囲まれながら春風が運んで来る草木の自然の匂いや、時折聞こえてくる家畜の鳴き声は、タクマに心地よさを感じさせた。
雲と隠れんぼをする太陽の眩しさ。それらは全てフワフワとした空気と共に、村の中を名一杯走り抜ける。
それがタクマにとっての、春に感じるであろう当たり前とも言える感覚だった。
けれど今はその事さえ珍しい事なのではないのだろうかと、そう思えてならなかった。
「去年は、こんなに葉っぱ落ちてなかっただろ? ……何もなけりゃ、良いんだけどな」
毎年見る光景……ではなく、今年初めて見る光景に、言い知れぬ嫌な予感を感じてしまうのだった。
「考え過ぎじゃないのかな? 世界樹さんだって、たまには鬱憤ばらしとかしたいと思うよ?」
「鬱憤って……例えが……あー……まあいいか。もっと近くで世界樹見てこうぜ」
首を傾げるだけのマリアは、タクマの生み出す疑問に置いてきぼりを食らっている。それに気付いたタクマはこれ以上この話をするのを止め、再び歩き出した。
キョロキョロと、代わり映えしない村をあちこち見ながら目的地へと足を運ぶ。
平和その物の村では、牛や馬と言った家畜が何頭か飼われているのをよく見かけた。所々に小さな畑はあるものの収穫の次期は過ぎているらしく、何が植えられていたのかさえ分からない位に、土だけの畑だった。
村で唯一の宿屋は余り繁盛しておらず、外で女将さんらしき中年女性がアクビをしていた。
村を見て回っていたのだが、あっという間に世界樹の前までたどり着いてしまった。
「平和な村だよな」
「うん。私この村大好きだよ」
タクマに向けて微笑むマリアはとても可憐で、タクマはついついドキリとしてしまう。
顔を真っ赤にしてしまうタクマにマリアは「どうしたの?」と、その顔を近付けると、タクマは後ろへ下がる。
そんなしどろもどろなタクマと、無意識にタクマに迫るマリアを見ていた女将さんは、クスクスと笑っていた。