切り裂きジャックの孫   作:猫つまみ

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世界樹

 校舎よりも大きく、人間の目線では天辺が見えない程の大樹が、地に根をはりながらたえずその身に生やした葉を揺らしていた。世界樹からゆったりと落ちる葉は青々として、太陽の光と重なりながら踊り続けている。

 

 タクマとマリアは、優しく静かな風に身を委ねるかの様に耳を澄ます。

 サワサワと、心地よい葉の揺れる音。牛や豚の世話しない鳴き声と人々の息遣いが、2人の心を和ませた。

 

 タクマは何気なくマリアに微笑みかけ、マリアもまた微笑み返した。

 

「この木……世界樹が、外から来る魔物から村を守る結界を張ってくれてるんだもん。感謝しなくちゃね」

 

 マリアが白く柔らかそうな細手で木に触れると、「凸凹してるけど柔らかいって感じもして、なんだか不思議」と、目をパチクリさせた。

 

「それなんだけどさ……世界樹って幾つあるんだ?」

「えっと……ね。【世界の境界線】の近くの村や街……この村も合わせて3箇所だった様な」

「何で3箇所?」

「そこまでは、分からないよお~」

 

 頬を膨らませながらタクマをポカポカと叩く仕草は和むらしく、暇そうにしていた宿屋の女将さんらしき女性はそんなマリアを見て、クスクスと笑っていた。

 

「……あはは。ごめんごめん。でも世界樹かあー……」

 

 むくれてしまったマリアを宥める様に頭を撫でた……かと思えば、「あっ!」と、大声を出した。

 

「そういえば、世界樹についてだかの本が家にあった気がする」

「あっ。それって、昔マヤお姉ちゃんが私達に聞かせてくれた絵本の事?」

「マリア! 家行こうぜ。ちょっと調べたいんだ」

「え? ……うん」

 

 マリアの手を引っ張りながら、早足でかけるタクマだった。

 

 そんな二人の遠くなる背中を惜しむかの様に、世界樹と呼ばれた木の葉っぱが数枚落ちて行く。

 

 

 □□□

 

 タクマが自宅に着くと、屋根裏へとかけ上がった。

 

 上がった先の部屋は天井が低く、腰を曲げながらでなければ入れないという程だった。

 そんな狭い空間には小さな2段重ねの本棚の他に、赤ちゃん様のベットやあやす為の道具等が散乱していた。

 埃が被っていて、蜘蛛の巣があちこちに張り巡らされていた。それを手で払い退けると、本棚にある一冊の本を取り出した。

 

「あった。これだ……」

 

 とても薄い本で、鎌を持った人物が表紙を飾っていた。

 

 

 屋根裏部屋から出た先にはマリアが不思議そうな顔をしたまま、タクマと自分の鞄を前に抱えていた。

 

「タクマ君。急にどうしたの?」

「これだよ、これ。覚えてないか? 昔姉さんがよみきかせてくれた本」

 

 今いる場所が廊下だという事を忘れ、その場に座り込む。そして、その本に書かれている言葉の1つ1つを漏らす事なく語る。

 

『ある日の事。1人の青年が鎌を持ちながら、こう告げた。[これは魂を引き裂く物。扉の向こうの世界を守る物。向こうの世界は、夢うつつの世界。この世界へと持ってこれるのは……人の魂と、名前だけ。【リィン】の名を授けよう。私は……こことは違う遠い場所から来た。その世界では、こう呼ばれているーー【切り裂きジャック】と]』

 

 ーーしばし無言の時が流れた。

 

「俺の記憶違いか?」

 

 最初に第一声を発したのはタクマだった。

 

「……この本。姉さんが読んでくれてた本の内容って、こんなのだったかな?」

 

 幼い頃の記憶とは違っているらしく、こんがらがってしまう。

 

「どんなお話だったの?」

「ん? ええと……世界樹の守護者的なお話だったような? そのお話は、【リィン家】ってのが出てきて、世界樹をひたすら守るってやつだったかな?」

 

 余りにも食い違い過ぎているいる内容に、どうすれば良いのか……途方に暮れてしまっていた。

 

「ん? 何か外騒がしくないか?」

 

 先刻までのどかを代表していた村は、知らない間に何かが原因で騒がしい村に変わっていた。

 

「行ってみようぜ?」

 

 荷物を置いて外へと出掛ける2人は、玄関の扉を開けて外へと出ていった。

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