切り裂きジャックの孫   作:猫つまみ

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境界線の世界

 自宅へ戻り夕御飯を済ませた後、タクマは自室の勉強机の上に教科書を置いて、眠そうにしながらパラパラと捲っていた。

 

【世界樹は、人々の生活を魔物から守る為の結界としてそびえ立つ。しかし、その木が何時から存在しているのか……それは未だに解明されていない。その世界樹の木が存在している村や町は、[世界の境界線]と呼ばれる場所の目印となっている。】

 

 机の上の小さな明かりが余計に眠気を誘うらしく、大きなアクビを繰り返していた。

 それでも教科書を見続け様とするタクマは一度椅子から立ち上がって大きく背伸びをし、再び座る。

 

【[世界の境界線]。その昔、魔物と人間の争いにより世界は傷付いた。その結果、[世界の境界線]の壁の向こうは人の住めない土地へと変わる。】

 

 一度教科書を閉じ、雲に隠れ月明かりすらまともに見えない宵闇となった空を眺める。

 

「あの上が見えない壁の向こうは、本当に人の住めない土地になったのか?」

 

 人々は、壁の向こう側へ行こうと何度も挑戦したらしいのだが、空を飛ぶ魔法が存在しない上に、空中型の魔物が飛び交っている事もあり、誰もあの壁を越える事は出来なかった。

 

「ふわあー。もう寝るか……」

 

 机の上の明かりを消して、疲れた身体を癒す様に深い眠りにつくのだった。

 

 □□□■■■

 

 次の日の朝、眠たい目を擦りながら学校へと到着したタクマは机の上に伏せってしまう。

 

「ね……眠い」

 

 雲1つない青空が綺麗に見え、春の日射が眠気を誘っていた。

 

「夜更かし、しなきゃよかった……ふわあ~。16歳で義務教育開始って、どんだけノンビリなんだよ……」

 

 タクマが産まれるより一昔前に建てられたこの校舎は老朽化が進み、一度全てを建て直すという案になった。校舎の建て替えは、経済的な面もあり村の大人達だけで行っていた。その結果工事は数年掛かり、既に学校を卒業してもおかしくはない年齢になってようやく入学する事ができたのだ。

 

 木材で出来た机と椅子は、40程教室に置かれていた。学校自体はそんなに大きくなく、1学年2クラス程度となっていた。3学年で構成されており、タクマ達は新入生となっている。

 退屈しのぎに椅子を後ろに動かし廊下を見ると、【1年1組】と書かれた木の名札が高い位置に設置されていた。

 

 校庭の方を見ると、次々と生徒が学校へと入っていくのが見える。

 

「タクマ君、おはよう。眠そうだね?」

 

 明るい声でタクマの前の席に座ったマリアは、鞄から勉強道具を取り出した。

 

「皆さん、おはようございます。今日も頑張りましょう」

 

 チャイムと共に入って来た教師の姿を見ると、誰もが席につく。

 

「ホームルームなんかすっ飛ばして、授業に移りましょうか?」

 

 何とも適当な人だろうかと、タクマもクラスメイトですら呆れてしまっていた。

 

「こほんっ。早速始めましょうか。先ずは、この世界についてです」

 

 説明を加えながら、黒板に書き出していく。

 

「私達の住んでいる壁のこちら側は、【明けの世界】と呼ばれています。まあ魔物はいますが、それでも太陽があるだけましです」

 

 1人で納得しては、再びチョークを走らせる。

 

「そして、私達が住んでいるこの壁の向こう側は、【漆黒の世界】と呼ばれています。では問題です。どうして、そう呼ばれているのでしょうね?」

 

 退屈そうにアクビばかりしているタクマに目を付けた教師は「答えて下さい」と、タクマを指名する。

 

「え!? あ……えっと。夜しかないから……じゃ、なかったですかね?」

 

 昨日寝る前に読んだ教科書に載っていたであろう事を述べた。

 

「おや? 意外に勉強してるんですね? はい。その通りです。【明けの世界】とは違い常に暗く、全く日の当たらない世界ですね。魔物は闇を好みます。だからこそあちらの世界は、魔の巣窟になっている訳ですよ。因みにどうしてそうなったのかは、これから説明していきます」

 

 大半の生徒はこの教師の言葉をノートに書き留め、少数の生徒は眠たそうに聞いていた。

 

「遥か昔。人と魔物が共存していた時代。互いに助け合い生きていた。けれど何時しか人も魔物も陣地を取り合う様になり、最終的には、大きな戦争へと発展した。魔物の力は凄まじく、人間は為す術もなく滅び去るしかない。そう思われていた時――2人の青年が、自ら名乗りをあげた。1人は鎌へと姿を変え、もう1人はその鎌を振るった。すると魔物は一掃された」

 

 教科書通りの言葉をつらつらと述べる教師は一旦息を吐いて、再び教科書に目を通す。

 

「世界に平和が訪れた……かに見えたのだが、魔物が人間の肉体を乗っ取ってしまう事件が起きた。そんな時に颯爽と現れたのは、またしてもあの2人だった……」

 

 と、ここで教師は何故か教科書を閉じてしまう。皆が不思議に思っていると、教師はある一言を口にする。

 

「皆さんは、【リィン】家というのをご存知ですか?」

 

 この言葉をきっかけに、教室がざわつく。

 

「うん……その反応だと、微妙な感じに知ってそうで知ってないという所ですね?」

 

 教壇に両手を置いて、再び話し始める。

 

「あの壁……世界の境界線を作った一族とされています。詳しくは誰も知らないのですが、魔物を封じ込める為に作り出したとか何とか……そしてその【リィン家】とは、先程話しに出て来た2人組ですね。何処から現れたのかも不明。本当にこの世界の住人なのかも不明。ただねえ……これがねえ~」

 

 興味を誘うかの様な言い回しに、生徒達はまんまとはまってしまう。その証拠に眠そうにしていたタクマですら、目がパッチリと覚めてしまっていたのだ。

 

 そんな生徒達の反応を楽しむかの様に、ニヤついた教師は……

 

「ふふふ~。興味持ってくれた様で何よりもです。さてさて。どうしましょうか? 知りたいですか?」

 

 かなり変わった性格らしく、生徒からのブーイングですら楽しそうに受け止めている。

 

「まあ冗談はさておき、続きですね。【リィン家】は、人殺しの一族とも言われています。これはあくまでも噂でしかないので確証はありませんが……【漆黒の世界】の住人とも、本当は魔物なのでは? とも、言われています。人殺し云々に関しては、何処かの国で女性数人を惨殺した……そんな噂すら囁かれています」

 

 そこで丁度チャイムがなり、今日の始めの授業は終わった。

 

「話していると、何故か時間の流れが速く感じますね。まあ良いでしょう……次の授業に備えて下さい」

 

 教師は教科書を脇に抱え教室を出て行く。

 

 それに合わせて教室は一気に騒がしくなった。

「話長いよねえー?」「でもちょっと気にならねえ?」やはり教師の話の続きが気になるらしく、教室はその話で持ちきりだった。

 

「タクマ君。壁を作ったのが【リィン家】って言ってたけど……タクマ君の家って……」

「ごめん……俺にもよく分からないんだ。それに、俺の本当の名前は、村の連中以外には知られちゃいけないって言われてるし」

 

 身を乗り出し、前の席のマリアとボソボソと話す。

「あっ! ごめんなさい。タクマ君の本名が【タクマ・リィン・ソウル】ってのは、秘密だもんね」

 

 マリアもつられてボソボソと話す。

 

「正直言うとさ……俺も姉さんも【リィン家】について、殆ど知らないんだよ。先生の話しに出てた鎌なんて見た事ないし」

 

 椅子をギイギイ鳴らしながら、天井を仰ぐ。

 

 雲はゆっくりと形を変え移動しているものの、タクマの疑問を一緒に連れて行ってくれる事はなかった。

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