「おい。聞いたか? すぐ側の森で、トロールが出たってよ」
「トロール? それって、大きな身体の力自慢だかの魔物だろ? 冒険者とかがやっつけてくれないのか?」
「それがさ。どうも普通のトロールじゃないらしくて、武器とか効かないらしいんだよ」
そんな噂が飛び交う中、学校帰りのタクマは大きくアクビをしていた。
トロールは本来人前に姿を現す事のない魔物。人里に降りてくる等あまりない事なので、村人は体験した事のない事態に混乱していた。
(トロールねえ……何でそんなもんが、こんな辺境の村の森に来るんだか……)
今日の授業を終え家に帰宅する途中だったタクマは。、珍しくマリアと別行動となっていた。
「……うーん。どうすっかなあ?」
頬をポリポリかきながら、世界樹を見つめた。
村全体を包み込む夕焼けの光は傘の様になっていて、葉と葉の隙間を通って綺麗な模様を描く。
それを目で追ったのち、タクマは何を思ったのか、トロールが出るという森へと足を向けた。
「……別に暇だからって訳じゃないけどさ。でも……"お仕置き"は、必要だよな?」
マリアと話していた時の好青年の様な優しい表情は消え、その瞳には黒い闇が宿っているかの様な……そんな風に見えてしまう程に、禍々しいオーラの様な何かをまとっていた。
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鬱蒼と草木が生い茂る森に足を踏み入れると、そこは自然だけの世界だった。家もなければ人もいない。あるのは豊かな自然と、その象徴とも言える木々の匂い。そして、リスの姿や野良猫などといった自然の中で生きる生物が顔を出していた。
そんな森はタクマにとって安らげる場所であると同時に、かっこうの練習場でもあった。
「……俺も【リィン家】の事は詳しくは知らないけどさ。でも……この変な力があるなら、活用しないとな」
手に力を込めると、小さく赤い輝きが手をおおった。
野生の本能なのか……何かを察知した動物達は逃げてしまう。
「まあ、仕方ないよな」
首を小さく振り、気を取り直して再び強く握る。
「……トロールには、犠牲になってもらわないとな。だってそうだろう?」
タクマの後方から草木をへし折る音をたてながら、何かを引きずったまま姿を現した者がいた。
「……はは。予想通りの展開だ。ってかさあ~……マリアや村人の前で大人しくて聞き分けの良い子供の振りしてるのって、スッゲー疲れんだよなあ」
「アアアア……」
後ろを振り向くとそこには……頭のない鹿の足を握りながら、死体となった胴体をズルズルと引きずりながら歩いて来た魔物だった。
口から吐く息は生ゴミの様な不快な匂いのせいか、鼻を押さえないと近付く事さえ困難だった。
人間の様に2本足で歩いてはいるものの、肌は鉄錆の様な薄汚い色だった。
「トロールって、知性持ってないんだっけか? じゃあ簡単だ。痛みすらないだろうし……良い子ちゃんやってんの疲れんだ。お前……ストレス発散させてくれるか?」
別人……そう思えてしまう程に今のタクマは、血に植えた狩人ーー悪く言えば殺人鬼の様なーー優しさとは無縁の残忍な性格へと変わっていた。
「……さて。お前と話しててもつまらないから、サヨウナラだな」
ビターチョコの瞳のは闘志を宿し、トロールを見据えた。
握っていた手のひらを広げるとそこには……赤々と燃え盛る炎が浮いていた。人魂(ひとだま)の様にユラユラと全てを動かし、瞬く間に紺碧の炎へと色を変化させた。
「この力が何なのか、俺には分からないけどさ。使える物は使わないと……ねえ?」
目を細め、優しさなど微塵もない程に冷酷なまでに表情を変えた。
小さく「バイバイ」と呟いた数秒後にトロールの全身は、骨も残らない程に焼け尽きた。
後に残ったのは、焼け焦げたトロールの痕が形として地面に残っているだけだった。
「……んー。さて、帰りますか」
背伸びをするタクマは、何事もなかったかの様に笑っていた。