――タクマは夢を見ていた――
世界樹の側で子供が泣いていた。
金の髪が陽の光を受けて紅へオレンジへと、塗り潰すかの様に……同系統の色彩を使い分けるかの様に、コロコロと変わって行く。
「……さい……ったのに……て……ごめ……い」
まるで世界樹がその言葉を塞ぐ様に、葉音が大きくなっていく。
「しょうがないよ。□□□は、□□□□なんだから」
茶色い髪の子供は金の髪の子供の涙を、自らの裾で拭いてあげる。
「……また、会えるよ」
茶色い髪が揺れると、景色の全てまでが揺れた――。
□□□■■■
「……くん?」
誰かがタクマを読んでいる。
「……タクマ君!」
激しく揺さぶられてハッとするタクマは、一瞬だ
け眠っていた事に気づく。
「え!? あれ? もしかして……俺、寝てた?」
来訪者である客人二人組の事が気になり、長老家にお邪魔した後、そのまま寝入ってしまったらしい。
長老の家は畳という特殊な床で、最近新しく変えたせいなのか、自然の匂いが心を落ち着かせてくれた。タクマはこの匂いがいたく気に入っており、ついつい眠ってしまう癖を持っていた。
そんな何時もの癖を出してしまったタクマは客人の前という事もあって、流石に恥ずかしさを隠しきれない様子で謝る。
それに痺れを切らした長老はこめかみに青筋を立て、強く咳払いをした。
「旅の方々。本当にすまんのお。若い者は、自由過ぎて……」
睨み付けられてしまったタクマは、縮こまってしまう。
「いえ……僕もその気持ちは、何となく分かりますから。この場所だと、眠くなっちゃいますからね」
開いた戸から進入する風に煽られた人物の髪の1本1本が、太陽の光に溶け込んでいた。
クールな微笑みを絶やさないのは、なまりの酷い青年の隣りに座っていた人物だった。微かに揺れている金の髪を耳に掛ける仕草は美しくも妖艶に見えて、本当に性別を分からなくさせていた。
「お前は、もう少し笑った方がええで」
小柄な人物の髪がぐしゃぐしゃになる位遊び付くしている手を、金髪の人物は睨みながら払い除ける。
「……失礼。お話を戻しましょう。僕の名前は、サクヤ。この赤い髪の男は……」
「ヨシュアや。宜しゅうな」
気さくにウィンクをしたヨシュアと呼ばれた青年を睨んだ後サクヤと名乗った人物は、無表情のまま会話を続ける。
「僕達の目的は、先程お話した通りです。世界樹の種を譲って頂きたいんです」
このサクヤと名乗った人物は中性的とも言える顔立ちのまま笑いもしないせいか、少々キツく感じてしまう。
「……何故そこまでして、種をご所望か?」
長老はサクヤの気迫に臆(おく)する事なく、前を見据えたまま対話を続ける。
「僕らはあの種を必要としている……では、納得行かないのでしょう?」
サクヤの声は高くも低くもなかった。その声に誘われたのか、綺麗な鳴き声を出す鳥達までもが木々の上で此方を眺めていた。
長老が何かを言おうと口を開けた時、サクヤとヨシュアの二人は立ち上がった。
「……何で立つんだろう?」
マリアが首を傾げた時、二人は笑った様にも見えた。
「理由は、これです……【Iuxanima(光よ魂にあれ)】」
サクヤの言葉――唄に合わせて二人は強く光り輝く。
雲の様に白くゆったりと動く何かは、ヨシュアの身体の周りを覆い隠す。
眩しさは増し、やがて目を開けていられない程になった。
外で見学している村人も、客間に居るタクマ達の誰もが目を瞑る。
「これが……俺達が種を必要としている理由です」
サクヤの声だけが、静まり返ったこの場所に聞こえて来る。
タクマは、恐る恐る目を開けた。
すると――サクヤの手にはある物が握られていた。
取っ手の部分は光沢を帯びた銀色。その取っ手よりも上に目線を落とすと、そこには……天井に突き刺さりそうな程に大きな鎌が、その姿を見せていた。
サクヤはその鎌を両手で持ち、部屋を壊すことなく器用に小さく振るう。
「ふふ……これで、お分かりでしょう? 種は、【リィン家】が貰い受けます」
サクヤの姿はまるで死神の様だった。誰もが一瞬たじろいだが、サクヤはそれを気にも止めず鎌で脅すかの様に微少した。