バカ騒ぎの1週間が過ぎた。
この期間は兵部にとってまさに怒涛の日々であった。
拳法部の乱闘を制圧したり、マーシャル・マジック・アーツ部員と殴りあったり(兵部
が一方的に殴るだけ)、ロボ研の暴走ロボットを第一宇宙速度で投げ飛ばしたり、とにかく大忙しだった。
また、あまりにも殴り合いの能力的相性が良すぎて、マーシャル・マジック・アーツ部からの勧誘がしつこくなったというのも兵部を疲れさせる一因になっていた。
「一週間、お疲れでしたね、兵部さん。今日はさすがにお休みですよね?」
帰り支度をしながらほのかが兵部に話しかける。
「ああ、最悪な一週間だった……今日は非番だから、さっさと帰って休むとするよ」
「嘘。結構ノリノリだった」
同じく帰り支度中の雫が話に加わる。
「ま、まあ確かに、暴走ロボを(衛星軌道まで)投げ飛ばしたのは調子に乗りすぎだったかもしれないけど……」
「でも、そのおかげというか、この一週間で兵部さんもすっかり有名になりましたよね」
「あらゆる攻撃も意に介さず、その歩みを止めることさえ許されない。ついた二つ名が『
「……やめてくれ。二つ名とか……俺はとっくに中二病は卒業したんだ」
「
「ぐはっ!」
兵部のHPに131のダメージ。
効果は抜群だ。
「北山さん、なぜそのダメージの与え方を知っている……」
「みくびらないでほしい。私は何でも知っている」
「半世紀以上前の小説の某怪異の専門家みたいなことを言わないでくれ」
「驚いた。このネタについてこれるとは。意外と博識」
「私は話についていけてないよ!」
兵部と雫の一連の流れに唖然としていたほのかが、ここでようやく割って入れた。
ほのかは物静かな雫がこれほどまでに楽しそうに話しているのは珍しい、と思っていたが、ここでは口に出さずにグッと飲み込む。
「しかし、有名といえば達也も有名になったよな」
「そうですね。達也さんも兵部さんに負けないぐらい大活躍でした!魔法を使わずに、並み居る魔法競技者を連破した謎の一年生、って話題になっているんですよ!!」
「お、おう……」
「ほのか、必死すぎ」
「うっ……ごめん」
達也の話題で思わずエキサイトしてしまったほのかは、顔を赤くして俯いた。
「でも、達也さんの場合、兵部さんと違って意図的に騒動に巻き込もうとしている人がいた。しかも、その騒ぎに乗じて、不意打ち狙いで魔法を放つ人もいる」
「それは……大変そうだな。やっぱり、二科生だから、という理由なのかな」
「そうですよ!二科生が実力者を取り締まったというだけで、達也さんはあんな危ない目に…!!」
「逆恨みにすら、なってない」
ほのかは顔を真っ赤にして憤慨し、雫も表情にこそ表れないが腹立たしく思っているのが見て取れた。
「まあ、今日からはデバイスの携帯制限も復活するし、さすがにもう大丈夫じゃないか?」
「そうだといいんですけど……」
「何か気にかかるのか?」
「一人同じ二科生なのに達也さんを襲撃した人がいるんです……。その人だけは、なんだか他の人のように嫉妬ややっかみとは違うような気がして……」
「3年F組、司甲。男子剣道部のキャプテン」
「ふーん……それで、なんでそんなことをお前らが知っているんだ?」
うっ、と雫とほのかは言葉をつまらせる。
達也を襲撃した犯人の証拠を押さえるためとはいえ、エイミィこと英美=アメリア=ゴールディ=明智を含め三人で、ストーキングまがいのことをしているのだとは言い出すことはできなかった。
兵部はその様子を見て、ため息をひとつ。
「あまり危ないことはするなよ。お前らが巻き込まれたら元も子もないんだからな」
「そ、そうですよね。気をつけます……」
「わかってる。危ないと思ったらすぐ逃げるから」
その反応を見て、兵部は二人がやめそうにないとわかると、ため息をついてバッグの中身をゴソゴソとし出した。
「あの……何をしているんです?」
「……あった。一応、これを持っておけ」
「トレーサーシグナル?」
「ああ。危険だと思ったらそのスイッチを入れるんだ。俺が文字通りマッハで駆けつける」
「そう。ありがと」
「ありがとうございます!」
トレーサーシグナルは雫が持つことになった。
いざというときに雫のほうが冷静に対処できるだろう、という判断だ。
その後、兵部は二人と別れて帰路についた。
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兵部の両親は共同である物を研究していた。
それは半世紀前には、今世紀中に実用化するだろうと言われた夢のコンピュータ。
そのコンピュータは理論的には、スーパーコンピュータが数千年かかる計算でも、たった数秒で計算できてしまうという。
その夢のコンピュータの名前は量子コンピュータ。
量子もつれを利用したコンピュータの開発は、途中まで順調だったかに思われた。
しかし、量子状態をコントロールすることの難易さや、開発コストの増大などのさまざまな問題に対し、まったく解決の糸口が掴めず、2040年には量子コンピュータに関するあらゆる研究・開発がストップされてしまった。
そんな背景で、兵部の両親は魔法による量子制御を利用した、量子コンピュータの研究を密かに行っていた。
密かに、と言っても知られてはならないことではなかった。
ただ、量子コンピュータの研究には予算が下りないから、結果的に二人だけの秘密の研究になってしまっただけだ。
そして、夢半ばで倒れた二人の研究成果は外部には一切漏れず、兵部の手にのみ存在する。
兵部はその研究成果からいくつかの副産物ともいえる、魔法や装置の開発の目処を立てていた。
「……とりあえず完成かな…まだまだ改良の余地はあるけど……」
兵部が黒い小銃型CADの引き金を引くと、銃口から白色の光線が放出される。
鉄をも一瞬で溶かすほどの熱量を持つ、その光線の正体は電子。
「しかし、威力が高すぎて使い所があまり無さそうだな。人に当たれば間違いなく即死だし、連射には向かないから集団相手だと厳しそうだしなぁ。なんとか拡散できればいいんだが……」
本来、粒子または波のどちらかの性質を持つ電子を、魔法によって、それらの中間である
両親の研究の副産物として生まれたこの魔法を、兵部は『
個人的に
加速・移動・収束・放出系の複合魔法です。
かなり複雑な工程を踏むので、桁外れの魔法力を持つ兵部しか実用レベルで発動することはできません。
また、兵部の小銃型CADは「PSYCHO-PASS サイコパス」のドミネーターを想像してください。