魔法科高校の桁外れ   作:兵部少佐

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第9話 有志同盟

何事もなく1週間が経った。

あれから雫たちも探偵の真似事はやめたようで、兵部は一安心というところだった。

 

放課後、各々が帰り支度を始める。

 

「雫とほのかは部活か?」

 

この一週間で、頼りになるお兄さん的なポジションを手に入れた兵部は、二人を下の名前で呼ぶようになった。

 

「うん。意外と楽しいんだよ、バイアスロン」

「入ってよかった」

「まさか誘拐されたクラブに入るとはなぁ……」

 

兵部の脳裏には、二人を抱えてスケートボードで爆走していた二人の女子が思い浮かんだ。

勧誘週間は大変だったが、1週間経ち、記憶が風化した今ではなんだか楽しかったような気さえしていた。

 

「兵部さんは図書館?」

「ああ。今日は風紀委員も非番だしな。ゆっくり勉強できそうだ」

 

部活頑張れよ、と言って兵部が別れようとしたとき、

 

『全校生徒の皆さん!』

 

ハウリング寸前の大音量が、スピーカーから飛び出した。

 

「なっ、何!?」

「うるさすぎだろ」

 

兵部たちのみならず、多くの生徒が顔をしかめる。

 

『僕たちは、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です。僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』

 

どうやら放送ジャックというものらしい。

また面倒くさいことになりそうだ、と兵部がげんなりとしていると、袖を2回ほど軽く引っ張られた。

 

「行かなくていいの?」

 

雫がそう尋ねる。

数秒、兵部の心の中でさっさと知らんぷりして帰りたいという心と、風紀委員として行かねばならないという責任感がせめぎあい、

 

「行かなきゃ駄目か~」

 

兵部は額を押さえながら、しぶしぶといった感じでそう言った。

雫やほのかの手前、責任を果たさない不義理な男と思われたくなかった、ということもあり責任感が勝る結果となった。

ちょうどそのとき、携帯端末にメールの着信があった。

風紀委員からの呼び出しだ。

 

「渡辺さんからだ。放送室前に来いだと。じゃあ、行ってくるわ」

「大変だね」

「ん。いってらっしゃい」

 

二人に見送られながら、兵部は教室を出た。

 

---

 

兵部が到着したころには既に摩利、克人と鈴音、さらに深雪に達也、そして風紀委員会と部活連の実行部隊が顔を揃えていた。

 

「遅いぞ」

「勘弁してくださいよ。もともと今日は非番だったんですから」

「まあいい」

 

摩利と兵部で形だけのやり取りがされる。

それから兵部は現状を聞かされた。

どうやら放送室の扉は内側から鍵をかけられた上、マスターキーまでも盗られているので、こちらから干渉できずにいるらしい。

そこで、強行突入か慎重に成り行きを見守るかで意見が割れているとのことだ。

 

「時間がもったいない。俺が行きます」

 

兵部が扉の取っ手に手をかける。

 

「待て。学校施設を破壊してまで性急な解決を要するほどのことではない」

「わかりました。壊さなければいいんですね」

 

兵部が扉を引く。

当然、鍵が閉まっているのでガツンと音がするだけで開くことはない。

しかし、兵部の行動の本質は周りからはわからないだろう。

 

――ベクトル計算

――逆演算開始

――完了

――構造を把握

 

そして兵部がもう一度扉を引くと、ガツンと音がした後、カチャリと鍵が開く音が聞こえた。

 

「よし」

 

兵部は勢いよく扉を開くと、4人の立てこもり犯は一瞬呆けた表情を見せた後、各々が兵部に目掛けて攻撃を始めた。

いや、攻撃を始めようとした。

立てこもり犯たちは凶器の類は持っておらず、CADしか持ち込んでいなかったため、必然的に魔法による攻撃を試みる。

兵部は魔法が苦手な癖に、武器としてCADを持ち込むとか馬鹿なのかな、と思っていたが口には出さない。

案の定というか、当然というか、魔法において三下の三下のような彼らの魔法は、兵部の領域干渉の前では発動すらできずに終わる。

兵部はその間に男も女も関係なく、3倍に増幅したボディブローをぶち込み、腹を抱えて悶絶している彼らを放送室の外に投げ出した。

そのあまりの手際に、外にいた者達は皆、終始唖然とした表情を浮かべていた。

 

「これで一件落着だな」

 

兵部は掃除が終わった後のように、両手をパンパンと鳴らしながらそう言った。

 

「容赦ないな……」

「俺のモットーは男女平等ですから。みんな好きでしょ、平等」

 

摩利の呆れたようなコメントに、兵部は悪びれもせず答えた。

 

「兵部、どうやって鍵を開けた」

 

克人は重く、力強い響きの声でそう尋ねた。

 

「手品みたいなものですよ。もちろんタネは教えられませんが」

「……そうか」

 

一回目、扉を引いたときに、その力のかかり方からベクトル計算をして、鍵の構造を把握。

二回目に扉を引いたときに、その力のベクトルをちょうど鍵が外れるように変えて鍵を開けたのだが、わざわざ教える必要はない。

兵部は飄々とした態度でそう答えると、克人はそれ以上の追及をすることはなかった。

 

「それで、こいつらはどうするんですか?」

 

達也は未だ転がっている立てこもり犯たちに視線を向けながら、そう切り出した。

 

「こいつらの言い分は聞くつもりだ。交渉にも応じる。だが要求を聞き入れることと、執った手段を認めることは、別の問題だ」

「それはそのとおりなんだけど、彼らを放してあげてもらえないかしら」

「七草?」

 

ここで、真由美が少し遅れて到着した。

 

「生活主任の先生と話し合ってきました。今回の事件については生徒会に委ねるそうです」

 

真由美は自身が遅れてきた事情を説明する。

 

「壬生さん、交渉に関する打ち合わせをしたいのだけど、ついてきてもらえるかしら」

「……ええ、構いません」

 

倒れている立てこもり犯のうち、ポニーテールの少女が、搾り出すような声でそう答えた。

兵部は、こいつが壬生紗耶香か、と思ったが、すぐに興味をなくした。

 

「十文字くん、お先に失礼するわね?」

「承知した」

「じゃあ、達也くん、深雪さん、兵部くん、貴方たちは、今日はもう帰っていいわ」

 

深雪は丁寧に一礼し、それに続いて達也、兵部も無言で一礼する。

 

「じゃあ達也、司波さん、また明日」

「ああ、じゃあな」

「ええ、また明日」

 

そうして兵部はそそくさとその場をあとにした。

 

「お兄様……彼はいったいなんなのでしょうか」

「……わからん。なんだかどっと疲れたな。俺たちももう帰ろう」

「はい、お兄様」

 

---

 

翌日、講堂で公開討論会を行うということが兵部の耳に入った。

というか、『学内の差別撤廃を目指す有志同盟』の活動が活性化し、始業前や休み時間、放課後といった時間に、賛同者を募る同盟メンバーの姿が校内のいたるところにいたのだから、嫌でも目についたのだが。

兵部はそれについて、米粒ほどの興味も湧かなかったため、明日の公開討論会を欠席することに決めた。

 

 

 







ベクトル操作ってこういう使い方もできるよね、と思って書いてみました。
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