オーバーロード~至高の人形使いと自動人形~   作:丸大豆

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※ジョブ、ドールマスターの独自設定あり


五話

第九階層 モモンガの自室―――――

 

 

一見しただけで高価なのだと分かる調度品や様々な武器が飾られた絶対支配者の自室。

彼はアンティークとしての装飾美と家具としての機能美を両立させたテーブルに備え付けられた椅子に座り、スキルである〈絶望のオーラ〉を纏う、正にこの空間に相応しい存在だった。

 

そんな彼の向かい側に座っているのはこのテーブルの製作者であり、彼の部下でもある人形作家。

漆黒の髪と黄金の瞳を持ち、その本体を人形に収めている彼はテーブルの上で五指から一本ずつ出した繰り糸、自身の髪の毛を五歳程の子供の人形の背に接続し、それと会話していた。

 

「さて〈ジョイント〉、僕はどうすれば良いんだろうね?」

 

『ソウソウ先生、ひょっとして悩んでいるの?』

 

彼が喋るとその髪はザワザワと動き、彼が人形の口を動かして腹話術をしている時は髪の動きはピタリと治まる。 

まるで本当に二人が喋っているかのようだ。

 

「設定というのは製作者の『エゴ』だからね。 それを変えるなんてタブラさんへの冒涜とも思えるけど……」

 

『でもソウソウ先生はモモンガさんの気持ちも分かるからどういう風に言葉を掛けて良いか分からないんだね』

 

「全くもってその通りなんだよ、ジョイント。 でも僕から一つだけ言えるのは……」

 

『先生、さっきは「仲間だから引かない」って言ってたね……』

 

 

「あ  れ  は  嘘  だ」

 

 

「ウワアァアアアアアアアアアアアア!!!」

 

僕の言葉にモモンガさんは机に突っ伏した。

絶望のオーラがその名の通り彼の体を包んでいるようだった。

 

「あぁー! あぁー!! あぁー!!! すいません! 本当にすいませんでした!!」

 

「もう顔上げてくださいよ、モモンガさん。 やっちゃったモンは仕方ないですって」

 

僕はジョイントの背中から繰り糸を外してモモンガさんに話し掛ける。

彼はようやくオーラを仕舞ったがいまだにワナワナと震えていた。

 

「でも俺は……俺が、タブラさんの設定を歪めてしまった……」

 

あーもう、一人称が素に戻る位凹んじゃってるよ…。

モモンガさんがサービス終了間際に変更してしまった設定とはアルベドの設定文の最後にある「ちなみにビッチである。」を「モモンガを愛している。」に書き換えた、というものだ。

 

いや、ね……僕だって本来、モモンガさんを責められる立場じゃ無いんだよ。

自分の作ったNPCに好きだった女性の顔と「彼女は僕の娘」とかいう設定付けちゃったんだし。

あの子が僕の事をお父様と呼んでいるのもその所為なんだろうな…。

 

「タブラさんには僕も一緒に謝りますから、ね」

 

「………会えるんでしょうか、皆に」

 

その言葉に僕は息が詰まる感覚になった。

今、ここにユグドラシルプレイヤーは僕達しか居ない。

他にも来ている人はきっといる筈、ひょっとしたらギルドのメンバーだって、そうじゃなかったら………

 

「ソウソウさん、すいません……」

 

「……だからアルベドの事はもう良いですって」

 

「いえ、そうではなくて…。 この状況にアナタを巻き込んでしまった事にです…」

 

………モモンガさんは僕の家族構成を知っている。

彼は僕が家族と会えなくなってしまったであろう状況に詫びているのだ。

別に彼の所為でこうなったワケでは無いのだからそんな言葉は要らない。

僕は皆に会いに此処に帰って来たのだから。

 

「……モモンガさん、自分の所為でもない事を謝ったら、たっちさんに怒られちゃいますよ?」

 

「……っ! そう…ですね。 ありがとうございます、ソウソウさん」

 

「それじゃあ、自分の戦力分析といきますか! モモンガさん、そこのダガ―手に取っても良いですか?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

モモンガさんの許可を得た僕は髪を伸ばしてダガ―を掴む、すると違和感があった。

 

「掴める……けど多分振れないな、感覚で解る。 だったら……」

 

僕は側に置いていたジョイントに再接続してダガ―を持たせ、振ってみた。 すると…

 

「あ、振れた! 人形の仕様はユグドラシルと変わらないみたいですね」

 

モモンガさんの安堵の声に僕は頷く。

人形使いにとっての人形とは言うなればマジックハンドの様な物だ。

専門職と同じ位は無理でも必要最低限の動きが出来るという仕様が変わらないのは有難い。

 

ここで僕の職業【人形使い(ドールマスター)】について説明しよう。

 

ゲームだったユグドラシルにおいて僕等人形使いが人形を操るというのは一番分かりやすく言うと「格闘ゲーム」を操作する、という感覚に近い。

普通は武器や魔法を使うという一動作に僕等は人形を使って行動するという二動作を必要とし、そのデメリットを補うように人形に強化効果が付与されるという形でバランスを取っている。

人形の能力や特殊効果が強化、複雑化すればする程に操作の手順も難解な物となり、結果としてユグドラシル内ではあまり流行らないジョブの一つになってしまっていた。

そこで僕は自分の操作技術を上げると共に「操作性の簡易化」を図る為にある人形を考案した。

 

それが今の外装、神器級(ゴッズ)アイテム、〈ミルキーウェイ〉

この人形は言うならば「人形を操る為の人形」であり、先程の能力向上による操作性の縛りをほぼ無くすようにプログラムを組んだアインズ・ウール・ゴウンの技術班の努力の結晶なのだ。

さらには通常、アイテムボックスから出すべき人形を召喚ゲートを経由しているので人形の特性である能力上昇効果や物理、魔法に対しての耐性効果も付与する事が出来る。

このタイプの人形数体とそれに見合った戦法を開発したお蔭で僕は人形使いの中でギルド在籍時には上位ランカーに入る事ができた。

ちなみに僕より上位だった連中が使っていた人形……いや、アレは「兵器」と言った方が正しい。

機能美“しか無い”、遊び心の無い物を僕は人形とは呼ばない。

 

「人形の操作に関してはソウソウさん、本当に練習してましたからね……」

 

「当時は皆に追い付きたくて必死でしたしね。 御蔭でこの世界に来ても自分の手足の様にこの外装と作品を使えるんですから無駄じゃ無かったって事ですよ。」

 

それは皆でアイディアを出し合って完成した、このミルキーウェイの効果も有るのだろう。

ギルドメンバーの加護を受けているようで僕は心が温かくなるのを感じる。

 

「しかし、口が開くタイプの人形を操ると髪が動かなくなるっていうのは新発見だったな…」

 

「さっきみたいなのはもう勘弁してくださいよ……。 心臓に悪いです……」

 

「いや、アンタもう心臓無いでしょうが………うぉ!!」

 

僕がモモンガさんの方に向き直ると彼はいつもの骸骨ローブ姿ではなく、金と紫の紋様が入った漆黒の全身鎧を纏っていた。 どこのベル○セルクだアンタは。

 

「〈上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)〉、魔法で作った鎧は着られる様ですね。 この状態なら剣も振れましたし、変装にもなるんじゃないですか?」

 

「何に対する変装ですか……いや、待てよ? モモンガさん、息抜きしません?」

 

僕の言葉に首を傾げるモモンガさん。

萌える人には萌えるのかな……? あの動作…。

 

「さっき、セバスの報告であったでしょう? 空には天空城は無いけど星が輝いてるって」

 

「成程…そういう事ですか。 良いですね、見に行ってみましょうか!」

 

僕等の元居た世界には空に星なんて無かった。

いや、正確に言えば星が見られるような綺麗な空が無かった。

メンバーの一人であり、自然を愛する男、ブルー・プラネットさんはそんな世界から失われてしまった綺麗な夜空を第六階層に作る程の熱いロマンチストだった。

彼の低音の声が高くなるほど熱の入った自然講義に心癒されたのも良い思い出だ。

 

「ブルー・プラネットさん。 今だけはこの外装、外させて貰いますね」

 

僕は彼がデザインしてくれた首元に流れる天の川に触れた後、人形から分離する。

 

「出で座せい、〈ウェスト〉」

 

そしてジョイントとミルキーウェイを仕舞った後に呼び出したのは身長は175cm、肌は人間と同じ質感、格好はいわゆる旅人の服という一人の成人男性型の人形〈ウェスト〉だ。

この人形にもミルキーウェイ程では無いが人形操作簡易化のAIが組み込まれている。

 

「その人形……初めて見ましたね。 一体、何時作ってたんですか?」

 

「これはマキナの試作品ですよ。 顔は現実(リアル)の僕を模してデザインしてます」

 

何故、自分の顔を模したかと言うと単純に毎日朝起きて鏡を見る顔だから、というだけだ。

それに、この顔なら制作時にいくら失敗しても気に病む事はないしね。

ちなみに名前の由来は僕の本名が「東(あずま)」だから逆方向の「西(ウェスト)」から来ている。

 

「では、ドッキング…っと」

 

そう言って僕はミルキーウェイの時と同様に人形の四肢に感覚を繋げながら頭部に収まる。

備え付けられた鏡を見てみると瞳が金色である事以外は現実に居る時と変わらない僕だ。

うん、集中すれば髪は動かず口しか動かない。 動作に問題は無し。

 

「……想像してたより細面で穏やかな顔をしてたんですね、ソウソウさん」

 

「ははは、普通の顔でしょ? むしろどんな顔だと思ってたんですか」

 

冗談混じりに訊くとモモンガさんは少し慌てたように頭を振った。

仕事の都合でオフ会には参加できなかったから事実上、これが初顔合わせになるのかな?

モモンガさんの本当の顔は分からないけど……まぁ、それは置いておこう。

そして僕はアイテムボックスからフード付きのマントを取り出し、それを深く被る。

 

「これで僕も変装完了。 さーて、いっちょ抜けだしますか」

 

「了解です。 しかし、こうやってお互いに普段と違う格好をしてると何か変な感じがしますね」

 

「そうですか? 僕は結構楽しいですよ、コスプレみたいで。 やった事は無いですけどね」

 

「そう言われると……私も少し楽しくなって来ましたね」

 

まるでお互いに子供に戻ったみたいに僕等は笑い合う。

こんな異変に巻き込まれ、元NPC達から傅(かしず)かれるなんて一般人である僕等には結構なストレスだ。

ちょっと位、そのストレスを解消する為に羽目を外しても構わないだろう。

 

「……と、その前にモモンガさん。 言い忘れていた事が」

 

「…? 何ですか? ソウソウさん」

 

「この世界に来てしまった事に対しての僕の考えですよ」

 

その言葉にモモンガさんは押し黙る。

けれど、僕が見たいのはそんな責任感に押しつぶされそうな、辛そうな態度じゃない。

 

「僕は……家族の事を大切に思っています」

 

「……はい、それは理解してます」

 

「分かって無いですよ。 だって、僕はモモンガさん達ギルドのメンバーも、彼等の子供みたいな存在であるナザリックの皆も同じ位、大切な家族だって思っているんですから」

 

「………え?」

 

「正直…元の世界に帰る事よりもモモンガさんや、あの子達を放っておく事の方が僕には一番辛い。 一度裏切ってしまったんだ…僕はもう、二度とあなた達を裏切りたくは無い」

 

「……………」

 

「だから、勝手なこと言ってるのは分かってます……ギルドマスター、僕を…許してください」

 

元の体だったら、きっと僕は涙を流していただろう。

情けない事を言っているのは分かる、今更言っても許されない事をしてしまったと言う事も分かる、それでも…自己満足であろうとも僕は言葉にしたかった。

僕の心の穴を埋める切っ掛けをくれたモモンガさん、あなたに対する謝罪の気持ちを。

 

「………私は正直、ギルドのメンバーが抜けていった時、『裏切られた』という気持ちでした」

 

「……………」

 

「分かってるんです…皆、自分の生活がある。 叶えるべき、叶えた夢があったからなんだって」

 

「……………」

 

「そして最後の時を迎えようとした時に、ソウソウさん……アナタが帰って来て、そして残ってくれた。 それは私にとって本当に救いだったんです……」

 

モモンガさんの声は震えていた…。

感情が抑制されるような激しい物では無い、けれど心にずっと留まっている様な、そんな想いが彼の中に渦巻いているのだろう。

 

「許して欲しいのは私の…いえ! 俺の方です!! この世界に来る事にアナタを巻き込んでしまったというのに、俺は『良かった』と思ってしまったんだから!!」

 

「モモンガさん……」

 

「一人じゃない、それがとても嬉しくて…同時に申し訳無かった! 俺がアナタに招待メールを送らなければ………」

 

「モモンガさん!!!」

 

「………っ!」

 

「さっきも言いましたよね……『自分の所為でもない事を謝ったら』…」

 

「『たっちさんに怒られちゃいますよ』……ですよね」

 

「そうですよ、お互い様なんでしょうね……僕達は。 だったらいっその事…」

 

僕はそう言ってモモンガさんに手を伸ばす、彼はその手を取って僕からの次の言葉を待つ。

 

「この世界の何処かに居るかもしれない、たっちさんや他の皆に会って怒られちゃいます?」

 

「……ははは、ははははは! それ、凄く良い考えだと思いますよ、ソウソウさん」

 

もう、お互いに後ろ暗い気持ちは無くなっていた。

後に残っていたのは明確な目標が決まった事に対する晴れやかな気持ちだけだ。

 

「ではソウソウさん。 そのプランは星空でも見ながらじっくり考えましょうか」

 

「そうですね。 でも僕にとってはモモンガさんこそが〈アインズ・ウール・ゴウン〉なんですから、あなたの決定に従うつもりですよ」

 

「私が〈アインズ・ウール・ゴウン〉……ありがとうございます。 しかしギルドのスタンスは…」

 

「多数決でってのは理解してますよ。 それでも僕は普段から引っ込み思案なモモンガさんに決めて欲しいんです」

 

「引っ込み思案って……酷いですよ、ソウソウさん……」

 

僕等は側にいるであろうセバス達に気付かれない様、指輪を使って転移する。

本物の星空を見てきっとこれから良い考えが浮かぶのだと信じて―――――

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓地表部中央霊廟―――――

 

 

 

 

 

「これはモモンガ様、ソウソウ様。 一体この様な場所でどうされたのですか?」

 

「しかも近衛もお連れにならずに…。 それにモモンガ様、お父様、その御姿は一体…?」

 

ハイ、ばれたー! 早速、ばれたよー!! 変装まるで意味無いよー!!!

まるで「宿題放って遊びに行こうぜー」って家のドアを開けたら、帰って来た母親と鉢合わせしたかの如き絶望感だよコレ!!!

 

てか、何でマキナはデミウルゴスの軍勢と一緒に働いてんだよお父さん、そういうのまだ早いと思います!! けしからん!!!

 

まぁ、実際は守護階層が近いからアルベドが指示を出したってのは予想が付くんだけどね…。

 

「何…色々な事情があってな。 そうですよね、ソウソウさん?」

 

「ええ…その通りですよモモンガさん。 デミウルゴス、マキナ、君達二人の頭脳なら何故、僕等がこんな格好をしているのか分かると思ったんだけど?」

 

僕の言葉に二人は考え込んでいる。

やめるんだ、そんなに深い考えじゃないんだ、僕等はただ息抜きがしたいだけなんだ。

 

「成程…そういう事でしたか」

 

「……………あ、分かりました」

 

最初にデミウルゴスが、次に少し遅れてマキナが理解したようだ。

え? 何が分かったの? 僕と隣に居るモモンガさんは全然分かってないよ。

マキナはデミウルゴスを見て無表情で「流石ですね」って言ってるし、デミウルゴスもマキナに微笑みながら「君も中々やるね」とか言って、頭いい人特有の分かってる感出してるし。

 

 

「御二人の深遠なるご意向の一端は把握致しましたが、護衛も無しとあらば、我々も見過ごす訳には行きません」

 

「ご迷惑である事は重々承知しておりますがどうか、私達に御供をする許可を、何卒」

 

だから何が分かったのさ、君等……。

モモンガさんに「どうします?」って目線を送ってみると彼は「仕方が無いでしょう」という諦めの目線を返して目の前で跪く二人の懇願に応える。

 

「…お前達の気持は理解した。 私とソウソウさんに一人ずつ供をする事を許そう」

 

「「はっ! 有難う御座います!!」」

 

許可を得たデミウルゴスとマキナが僕等の後を付いてくる。 どうしてこうなった……。

まぁ、折角だし、マキナにこの人形の評価でも訊いてみるか。 

どうせ褒められて終わりだろうけど。

 

「……マキナ、この外装をどう思う?」

 

「はい、とても温かみに溢れて……お父様のお優しい人柄がはっきりと分かる素敵な人形です」

 

「人間に擬態する分には申し分ない出来かと、流石は至高の御方の創造物である言わざるお得ません」

 

「ソウソウさんのこだわりを感じる、とても良い人形だと私は思いますよ」

 

二人ぃ! 二人余計ぃぃ!! しかも皆、ストレートに褒めてくれて凄い恥ずかしい!!!

今の所、この体になって良かったと思えるのは顔が赤くならないって事位かな。

後は……今後分かるだろうから今は星でも見てこの気持ちを落ちつけよう…。

 

 

 

この後、僕等は本物の星空を見て感動し、モモンガさんと「世界征服って良いかも」って冗談交じりで会話してみたり、マーレの陣中見舞いに指輪渡そうとしたら慌てふためいたのでモモンガさんと二人で説得してみたり、その後に来たアルベドが指輪欲しさの嫉妬の炎メラメラでメンドクサくなったのでモモンガさんに丸投げして、マキナ連れて人形工房へ戻って人形達のメンテをする事にしましたまる

 




最期、作文んんん!?

とりあえずですね、謝らせたかった! ソウソウを謝らせたかった!!
そしたらモモンガさんまで謝り始めた! 書いてるこっちがビックリしました。

マキナの頭の回転力はナザリックの頭脳派と脳筋派の中間位ですが、他者に気を遣う事柄に関して言えば頭脳派に限りなく近くなるという設定。

後、冒頭のソウソウとジョイントのやりとりの元ネタはからくりサーカスのパウルマン先生とアンゼルムスです。
ようやく書けた…。
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