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「ップギャァッ!!」
テニール船長に、顎下から頭上まで貫くかのような勢いのアッパーが繰り出された。
突き上げられた体勢のまま宙を舞う船長へ、更にラッシュを叩きこもうとする仗助とクレイジーダイヤモンドを、承太郎とスタープラチナが羽交い絞めにする。
まったくの予期せぬ展開にテニール船長はなすすべもなく船上から海中へ放り出された。
「おいおいおいおいおい、最近の子供はすぐにキレるって言うが、仗助もそのタマ
だったのかぁ?」
「そんなのんきなこと言っている場合じゃあないでしょう!すぐに船長を引き上げ
なければ!!」
船長のもとへハイエロファントグリーンを繰り出そうとする花京院を、承太郎が引きとめる。
「待ちな。あの船長、クレイジーダイヤモンドにぶん殴られたとき、目線がスタンドの
動きを追っていた。それに何か一瞬身体がダブって見えたぜ。恐らく殴られる瞬間、
反射的にスタンドで防御しようとしたが間にあわなかったんだろうよ。」
「・・・ッ!?ではまさか船長が!!」
承太郎の言葉にジョセフたちは再び目線を海上に向けテニール船長の姿を探すが、すでに海中に沈んでしまったのかその姿を確認することは出来なかった。
「ぅぐッ!!」
一方その頃仗助の身に異変が起こっていた。
怒りのまま船長を殴り飛ばした仗助だが、今は何かに引っぱられるように欄干から海上へ身を乗り出している。
仗助よりも更に海上近くに位置するクレイジーダイヤモンドの右手には、ふじつぼがびっしりとまとわりついていた。
ふじつぼはクレイジーダイヤモンドの身体だけでなく船体にもその侵食を広げており、徐々にスタンドと仗助を海の中へと引き摺りこもうとしている。
「どうしたんじゃ仗助くん!早くスタンドを引っ込めるんじゃ!!」
異変に気付いたジョセフが仗助に叫ぶが、脂汗をかきながら仗助が言う。
「それが!できねぇーから!こんなザマになってんじゃあねーかよッ!!」
スタープラチナと承太郎も手を貸し、仗助を引っぱり上げようとするが、ふじつぼが癒着しているためか上手く引き上げることができない。
ふじつぼそのものにラッシュを繰り出して破壊し、無理やり引きはがそうと試みる承太郎。
一発目のパンチでいくらかのふじつぼはパラパラと剥がれおちていくも、そこで妙な手ごたえを感じて追撃の手を止める。
しばらく何者かの力と彼らとで見えない綱引きが演じられていたが、先に限界が訪れたのはどちらでもない、手摺りであった。
ベキリと嫌な音を立てて折れた手摺の裂け目から海中に落ちる仗助。そのすぐ後を追い、承太郎も海に飛び込む。
「仗助ッ!!承太郎ッ!!おい、早く船を止めるんじゃあッ!!」
船上に取り残され、唖然とする船員にジョセフが指示を出した。
海の中の水は存外に澄んでおり、十メートル先の光景もはっきりと見ることができる。
海に落下した仗助は、どこかのんきに「あぁ、この制服改造すんのにウン万円かかったのに・・・。」と現実逃避していた。
仗助に続いて飛び込んできた承太郎は、海底近くで悠然と腕を組んでいる船長らしき人物を見つける。
「らしき」と注釈が入るのは、先ほどまで目にしていた船長とはその顔が全くの別人に変化していたからだ。
承太郎は知る由もないが、実は船長と名乗った男は船長を殺してなり変わっていた別人であった。
先ほど受けたクレイジーダイヤモンドのパンチにより変装した姿が「元に戻」され、しかし暴走した能力で奇妙に変形した状態となった彼の容姿は、生来彼が持っていたものからもかけ離れていた。
海中に居るため偽船長自身の声は聞こえないが、代わりにスタンドを使って念話のように会話することができるようである。
「兄ちゃんら、よくもこの俺をコケにしてくれたなぁーッ!そこのクソガキはもちろん、
承太郎ッ!お前のスタンドもさっきふじつぼに触っちまったようだなぁ!ん~?」
偽船長は自身のスタンド能力を明かす。
彼のスタンド体や作り出したふじつぼに触れたが最後、たちまちのうちにふじつぼが体力を吸い取りながら体中に広がるのだと。
その言葉通り、既にクレイジーダイヤモンドの右半身はふじつぼに侵食されており、スタープラチナの左手にもふじつぼが生え出している。
「解説どうもありがとうよぉーッ!そんじゃあさっさとてめぇをぶちのめして、船に上がらせてもらうぜッ!」
威勢よく啖呵を切る仗助だったが、ふじつぼが付着している影響か、どこかその声に力がない。
承太郎は話をしている時間ももったいないと言わんばかりに、まっすぐ偽船長のもとへ向かった。
しかし急に横殴りに押し寄せて来た海流に、二人の身体はスタンドごと翻弄される。
「ふくくッ。俺のスタンドは海ん中じゃあ最強よ。そうら!こうして、これでどうだぁッ!」
偽船長のかたわらでスクリュー以上の速度で回転し、あたりに渦巻き状の海流を作っていたスタンド、ダークブルームーンの身体から無数のキラキラと光る花弁のような何かが発射された。花弁のような何かは海流に乗り、そのまま仗助と承太郎を切り裂いていく。
承太郎が掌に刺さった「何か」を手に取る。それはカッターのように外縁部を研ぎ澄まされたウロコだった。
「・・・仗助、お前に比べりゃ俺はまだ多少動ける。しかしそれも時間の問題だ。
一瞬だ。一瞬でかまわねぇから、あの調子に乗った野郎の動きを止められるか。」
回転する渦の中で、その中心に辿りつくには流れに逆らって泳ぎきるか、真上から接近するほかない。
だがそんなことは敵も当然把握しているのだろう。ダークブルームーンは回転しつつも頭上にウロコの集中砲火を放っている。
ぐったりしつつも仗助は頷いた。
そして、自身の制服に引っ掛かっているウロコをまだなんとか動かすことのできたスタンドの左手でつまみとり、そのままポケットに入っていた整髪料の瓶を握りつぶす。
割れた瓶の破片は元の瓶の形ではなく、内部にウロコを取り込みつつハート型のガラス片となった。
ふわりとポケットから出たガラス片は、周囲に舞う障害物からウロコを守りながらウロコの本体であるダークブルームーンのもとにまっすぐ猛スピードで進んでいく。
(くらいやがれッ!俺の自動追尾弾だぜッ!!)
いくら澄んでいるとはいえ空気中よりも見通しの悪い海中、加えて渦によって巻きあげられた海底の砂と周囲に反射する数多のウロコのために更に視界が悪くなっている状況で、偽船長は自分に迫りくる透明なガラス片に気付くことができなかった。
勝利を確信し、高笑いをする偽船長が、突然血を吐き動きを止める。
一体何が起こったのかとスタンドをみやると、ダークブルームーンの胸部に何かが食い込んでいた。
その何かはまるで背中側のウロコに合流せんとするかのようにぐいぐいとめり込み続け、今まさにスタンド体を突き破ろうとしている。
その何か、仗助の放ったガラス片をなんとかして取り除こうともがく偽船長の頭上に黒い影が差した。
「スターフィンガーッ!!」
影に気付き顔を上げた直後、その顔面にスタープラチナから伸びた指が突き刺さった。
パクパクと酸欠の魚のように口を開け閉めしながら白目をむく偽船長。
もはやスタンドを維持する力も意識もないのか、彼はそのまま海流に飲まれ、暗い海の底へ消えていった。
ふじつぼから解放された承太郎は流れに身を任せている仗助を回収し、海上に顔を出し思い切り息を吸い込んだ。
数メートル先に停止している船の上から、仲間がこちらを見つけ、浮き輪を放ろうとしているのが見える。
「おい仗助しっかりしろ、終わったぜ。」
承太郎の呼び掛けに薄眼を開けた仗助が、小声で何事かを呟いた。
「あん?なんだって?」
承太郎が仗助の口に耳を近づけたところで、再度仗助が呟く。
「・・・今、俺の髪型・・・どうなってますか・・・」
「・・・ったく。やれやれだぜ。」
うっかり「スタンド」は「スタンド」でしか傷つけられない、という大原則を忘れてましたが、実際にダークブルームーンにダメージを与えていたのはガラス片に含まれていたウロコだったということでここはひとつ。。。