12
仗助に肩を貸しつつ海面に浮かんでいた承太郎に向け、ジョセフが浮き輪を放ろうとしたまさにその時、背後から爆風が巻き起こった。
続けざまに船の至るところから爆音と火の手があがり、乗船していた一同の肌をチリチリと焼く。
周囲を熱と風に取り囲まれながらジョセフは冷静に一行と船員へ非常用ボートに乗って脱出するよう指示を出した。
そしてそのまま船室へ駆け込み、まだ無事であった無線機を使用して救難信号を打つ。
「ジョースターさん!急いでくださいッ!!炎はなんとかなりますが、一刻も早く船から
離れなければ沈没に巻き込まれてしまうッ!!」
そう叫びながらマジシャンズレッドで炎の中に道をつくりだすアヴドゥル。
辺りを取り囲む炎の中にぽっかりと空いた空間を抜け、二人が船から海に飛び込もうと跳躍した直後、船底の燃料に引火したのか船全体が盛大に爆発した。
「うォおおおーッ!?ハーミットパープルッ!!」
ジョセフは咄嗟に茨を操ってアヴドゥルと自身の身体をロープのように結び付け、更に数メートル先のボートまで茨を伸ばす。
多少煤けてはいるが、二人はなんとか無事ボートに辿り着くことができた。
「あの船長、船に爆弾まで仕掛けておったのか。やはりDIOの刺客じゃったのか?」
「あぁ。偽物の船長にまんまといっぱい食わされたってわけだ。」
先にボートへ乗りこんでいた承太郎がジョセフたちに海中で起こった出来事を手短に説明する横で、仗助がタオルで頭を拭きながらしょげかえっていた。
なお、正史よりも一人人数が増えたことによって、密航者の少女は船員たちと共に別のボートに乗っている。
「あの野郎~~~ッ!!もう一発ぶん殴っときゃあ良かったぜ・・・。」
勤続10年以上というのは伊達ではない。
訓練された船員たちはあの緊急時であっても、短い時間にある程度の物資をボートに運び込むことに成功していた。
それでも流石に整髪剤は入っていなかったらしい。今や仗助の髪型はリーゼントの原形も見いだせないほど乱れてしまっていた。
(・・・こうして見るとやはり、若い頃のわしによく似ておる、な・・・。)
前方に長く伸び、ボサボサとおさまり悪く飛びだし放題のその髪型は、仗助自身の顔立ちも相まって若い頃の自分と瓜二つと言ってよい。
別に仗助の話を信じていなかったわけではないが、思わぬところで血の繋がりを感じたジョセフだった。
「まぁまぁ、そんなに気ぃ落とすなよ。俺のワックス使うかい?」
雨にぬれた仔犬のようになっていた仗助に、ポルナレフから救いの手が差し伸べられた。
どれだけ漂流していたのだろう。既に夜が明け、辺りは薄靄につつまれていた。
一行は夜通し交代で見張りにあたっていたようだ。
今はペアを組んだ仗助とアヴドゥルが周囲を警戒しており、それ以外の面々は、静かに目を閉じまどろんでいる。
金属製の食器を組み合わせて作った海水蒸留装置を、指先に小さく灯した火であぶっていたアヴドゥルが、仗助に手元で精製された水を差しだす。
「ほら仗助、この水を使うといい。飲食には適さないがタオルを浸して身体を拭く
くらいならば出来るだろう。」
「おぉッ、いーんスか?ありがとうございます!」
受け取った少ない水を使って丁寧に頭を拭き出す仗助。
昨夜、ポルナレフから渡されたワックスで髪を整えようとしたのだが、海水にさらされてパリパリになっていたために上手くまとめることができず、少し試してやめていたのだ。
アヴドゥルは真っ先に身体ではなく頭に水を使いだした仗助に苦笑しつつ、ついでにこれまでにも感じていた疑問をぶつけることにした。
「キミは随分と髪型にこだわりをもっているようだが、何か理由でもあるのか?」
なんとか頭髪から塩分を駆逐し、再度櫛とワックスで髪を整えながら仗助が答える。
「理由、ってわけでもないんスけど・・・。」
そうして仗助は語り出した。
彼が4歳のとき、高熱をだし病院へ向かう途中で彼を助けてくれた少年のことを。
彼の中で「ヒーロー」となったその少年に憧れ、少年と同じ髪型をするようになったのだ、と。
「なるほど。そんなことがあったのか。しかしキミが4歳の頃というと・・・」
「えぇ。丁度『今頃』っス。今にして思えば俺にもDIOの呪縛ってやつが影響していた
んでしょーね。クレイジーダイヤモンドが発現したのもそんあたりだったしよ。」
だがそれでは4歳の彼は今、ホリィと同様に高熱に苦しみ生死の境をさまよっているのではないか。
心配そうにアヴドゥルが仗助を見やるが、仗助は「俺には家族もあの人も付いているから心配はいらねぇっスよ」と明るく答えた。
ならば何も言うまいと視線を海上へうつしたアヴドゥルの目が、右前方に大きな闇を捉えた。
薄靄の中から現れたのは、これまで気付かなかったのがおかしいほどボートに接近してきていた巨大な貨物船だった。
「みんな起きろ!助けが来たぞ!」
アヴドゥルの声に顔を上げる一同。そうしている間にも貨物船はみるみる内にボートへ近づいてくる。
貨物船の横へボートを進めると、そこには一同を歓迎するかのように準備よくタラップが降ろされていた。
船から人の気配が感じられないことをいぶかしむ承太郎をよそに、ポルナレフが勢いよくボートからタラップへ乗り移る。
例えそこにスタンド使いが待ち構えていようとも、次にいつ助けがくるかわからず物資の補給も出来ない状況で、目の前の貨物船はあまりに魅力的だ。
結局ジョセフたちも貨物船に足を踏み入れた。その後ろを船員たちと密航少女がぞろぞろとつづく。
下方から見上げたときの印象そのままに貨物船の甲板は広く、コンテナや木箱、それらを上げ下げする際に使用するのだろうクレーンなどが雑然と置かれていた。
なのに依然として周囲に自分たち以外の人影はなく、甲板上にはゴミや足跡一つ見当たらない。
製造されてからある程度の年月が経っているように見える船の設備に対して、まるで生活感を感じさせないその光景はどこかチグハグな印象を来訪者達に与えた。
とにかく人を探そう。この貨物船が走行を続けている以上、少なくとも操舵室には誰かが居るはずだ。
船員たちと共に甲板上に置かれた機器を確認するアヴドゥルを残し、ジョセフたちは操舵室に向かう。
ところが、彼らの期待は裏切られた。
操舵室に人影はないにも関わらず、今まさに誰かが操作しているかのようにひとりでに動き続ける操舵輪や無線機などの機械類だけが不気味に存在していた。
これではまるでB級パニックホラー映画のワンシーンではないか。タイトルは「幽霊船」とでもつけるべきか。
背筋を寒くする一行の耳に、背後から密航者の少女の呼びかける声が入る。
声に誘われるまま操舵室に続く一室に入ると、そこには2m四方はあろうかという程大きな檻があった。
檻の中に入れられている一匹のオランウータンが、そのつぶらな瞳をジョセフたちに向けている。
檻にはガッチリとした錠前がかけられており、掃除がいきわたっているのか排泄物やゴミの悪臭はしない。
別に貨物船にオランウータンが居たとしても珍しくはあるがおかしくはない。
檻に入れられていることから「貨物」の一つとして何処かへ運ばれていく途中なのだろう。
それよりもこいつの世話をしている人間を探すべきだと部屋を後にするジョセフたちから離れ、仗助はじっとオランウータンを見つめていた。
このオランウータンを見るうちに、彼の脳内で何かがひっかかったからだ。
だがその考えが明確な像を結ぶ前に、ふいに甲板が騒がしくなる。
仗助が甲板に辿り着いた時には、既に騒動は終着していた。
突然、誰も触れていなかったクレーンのレバーが動き出し、船員の一人を串刺しにして空中へ釣り上げたのだという。
事態の異常さに警戒心を強めたジョセフが発した命令に従い船室に向かう船員たち。
その脇をすり抜け、仗助がクレーンの鉤爪から回収された船員に対しクレイジーダイヤモンドで蘇生を試みる。
しかしいくら彼のクレイジーダイヤモンドをしても、「終わって」しまったものを戻すことは出来なかった。
「・・・ッ!!・・・くそったれがぁ~~~ッ!!!見付けだしたらただじゃあおかねぇッ!!」
コブシを握りしめ怒声をあげる仗助だったが、その脳裏にまたしても何かがよぎる。
急に動きを止めた仗助に、承太郎が何事かと声をかけた。承太郎の姿を前にし、パズルのピースがカチカチとはまっていくのを感じる。
住民のいない部屋・・・誘いこまれる死地・・・スタンドとは無関係に生きて来ただろう人間の無残な姿・・・崩れ落ちる承太郎・・・そしてスタンド使いの正体・・・。いや、そんな馬鹿な。そのようなことがありうるというのか?
生じた疑念に対する答えを見つけるべく、元来た道を急いでひき返す。一人で行動するのは危険だ、と、ジョセフたちは彼の後を追った。
そのまま操舵室を抜け、一行が辿り着いたのはオランウータンの居る部屋だ。
檻の中からさきほどと同じようにこちらを見るオランウータンのもとに、クレイジーダイヤモンドを発現させた仗助がズカズカと近付く。
「おい仗助ぇ~、一体どうしたってぇんだぁ?」
「あまり近寄ってはいかんぞ。オランウータンの腕力なら、人間の腕くらい簡単に引きちぎる
ことができるじゃろう。」
檻の前で立ち止まった仗助が、オランウータンと目線を合わせる。
「まだこの貨物船の全部を調べたってぇわけじゃあねぇーがよー、どうにも臭ぇーんだよ
なぁ~~~。」
そして、彼は以前に遭遇した一匹のネズミの話をする。
そのネズミはなんとスタンドを使い、時に人間に勝るほどの知能を見せて自身に襲いかかったというのだ。
アヴドゥルさんマジイケメン