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「いやいやいや、え?そっちこそ何言ってんスか。俺のクレイジーダイヤモンドに『治す』
能力があるみてぇに、承太郎さんのスタープラチナは『時を止める』能力を持ってんでしょ?」
承太郎の思ってもみなかった発言に少しの間あっけにとられていた仗助が、そのまま自分の中での「常識」を答える。
それを受け承太郎が無情に告げる。スタープラチナにそんな能力はないと。
「はっきりと『向こう』の俺はオマエに『時を止められる』と話していたのか?」
「詳しいこたぁ聞いてませんよ。でもたしかに承太郎さんは『時を止める』能力を持ってる
っつってたし、実際に俺も間近で時を止めたのを見たこともあります。」
時の世界に入門をしていない仗助が「時を止めたのを見た」というのもおかしな表現ではあるが、そう言いたくなるような光景を目撃はしているのだ。
スタープラチナに僅かに劣るとはいえクレイジーダイヤモンドのスピードもさるものであり、それを操る仗助の動体視力も当然優れている。
にもかかわらず、「時止め」が使われた際には自身がまったく知覚できないうちに全ての行動が終わっているというのだから、催眠術や超スピードとは次元の異なるものであるとしか考えられない。
仗助の「時止め」体験談を無言で聞く承太郎。
仗助が話し終えた後もしばらく無言で考え込んでいたが、このことは誰にも話すなと仗助に釘を刺し、これで話は終わりだと言わんばかりにベッドに横になり、目を閉じる。
しぶしぶ従う仗助に、承太郎の小さな独白が届いた。
「俺だって何も感じてねぇわけじゃあねぇさ。」
翌朝、彼らは目覚めの余韻に浸る間もなくジョセフに叩き起こされた。
アヴドゥルが朝早くにホテルを抜け出し、ポルナレフを探しにいってしまったらしい。
「ハーミットパープルで彼らを念写できませんか?」
花京院の問いかけに、首を横に振るジョセフ。
「ホテルのテレビで試してみたが、手がかりになりそうなものは映らなかったよ。」
元々ハーミットパープルの念写はあまり人探しに向いていないらしい。
かろうじて自分に血のつながりのある人物を写そうとする場合には成功することもあるが、無関係な人間を探そうとするととたんに精度は下がる。
「じじい、テメェまさかわざと行かせたんじゃあねぇだろうな。」
「はて、なんのことかな?」
目的地であるエジプトに土地勘のあるアヴドゥルが居なければ、DIOの潜む場所を見つける難易度が増す。
したがってアヴドゥルは探しださなければならない。
聞く耳を持たない様子のポルナレフを止めることはできなかったが、ジョセフがアヴドゥルを行かせたことによって、「アヴドゥルを探す」という口実が出来た。
その過程でポルナレフを「偶然」見つけたとしても、ましてやそれで敵スタンド使いと交戦となったとしても、ポルナレフの復讐とは無関係だと言い張ることができなくもない。
ごほん、と咳払いを一つしてジョセフが言った。
「幸い、バスの出発時間は午後じゃ。それまでに手分けしてアヴドゥルを探すぞッ!
もっとも、アヴドゥルはポルナレフを追っているじゃろうから、ポルナレフを見つける
ことでアヴドゥルも見つかるかもしれんがのぉ。」
二人を見つけられなくても正午には一度このホテルまで戻ってくるよう一応の制限時間を設ける。
ついでホテルのフロントで借りた町の地図を囲んでそれぞれが東西南北どの方向を捜索するか手早く割り振っていくジョセフ。
単独行動中に敵に襲われることも考えられるが、人手が足りない以上ペアを組むのはあまりに非効率だ。
ヤバイと思ったらすぐに逃げ、逃げながら対抗策を考えるんじゃというありがたいのかありがたくないのかよく分からないジョセフの訓示を背に、三人は街中へと駆けていった。
既に捜索を始めて数時間は経ったか。二人の行方はようとして知れない。
居なくなった二人はかなり奇抜な風貌をしているため、その外見的特徴を通行人に伝えればあっさり見つかるのではないかと当初仗助は考えていた。
しかし尋ねられた人々は煩わしげに「知らない」「見たことない」「バクシーシ」としか答えてはくれなかった。
ここで相手にチップをちらつかせれば返ってくる答えは違ったものになったのかもしれないものの、海外経験の乏しい仗助は気づけない。
そもそもホテルに財布を忘れてきているので気付いたとしてもどうしようもないのだが。
(こんなとき重ちーがいてくれりゃあ・・・)
こっちはハズレだったか、それとも今度は宿泊施設を当たってみるべきか、と仗助が立ち止まったその時、遠くで『ドゴォン』という何かが爆発したかのような音がした。
咄嗟に音の聞こえた方向に顔を向ける仗助だったが、そこには音に全く無関心な様子の人々の姿しかない。
というよりも、誰もが不審な音など聞こえていないかのように振舞っている。
インドではこれが日常なのか、これがカルチャーショックってやつか、と自己完結しそうになりつつ、念のためにと仗助は目の前に居た子供に聞いてみた。
「なぁ、今なんか聞こえなかったか?なんつーかこうレーシングゲームでド派手に
クラッシュしちまったみてぇなよ~。」
「えっ?そこのおっちゃんのでっかいくしゃみくらいしか聞こえなかったけど。質問に
答えたんだからチップおくれ。」
子供が嘘をついている素振りはない。
ならばあの音はなんだったのかと首をかしげるも、次の瞬間ある考えに至った仗助は音のした方角へ走り出した。
スタンドの姿が一般人に見えないように、スタンドそのものが出す音も一般人には聞こえない。
他方でスタンドの攻撃がそこらにある物に当たった場合の破壊音は通常の人にも知覚出来る。
先ほどの音が誰にも聞こえなかったということは、それがスタンド自体から発せられたものであると示している。
ジョセフたち一行に、そのような音を出す攻撃手段を持つ人間は居ない。
(なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだよ俺ぁッ!!)
これまでDIOの刺客は能力の詳細が漏れるのを嫌ったのか、一人ずつ彼らの前に現れて来た。
だからと言ってこれからもそうであるとは限らないのだ。
もし敵が鏡を使う能力者一人ではなく、先ほどの音を放つような人物と複数で襲ってきたとしたら。
もはや復讐どうこうという話ではない、一刻も早く現場に駆けつけなければ手遅れになることだって充分にありうる。
(こっち、か?もっとあっちだったか?)
走り出したは良いものの、たった一度遠くに聞こえただけの音は道しるべにしてはあまりに頼りなかった。
まさかもう通り過ぎたのでは、と思いかけたがすぐに否定する。
人々の目があるこのような街中で戦闘になっていれば、必ず騒ぎになるはずだ。
いくらスタンドが一般人に見えずとも、前触れもなく人が怪我を負ったり物が壊れれば周囲の人間は異変に気づく。
案の定、曲がり角を抜けた先にある大通りは足を止めた通行人で溢れていた。
聞く気はなくとも周囲のざわめきが耳に入ってくる。
『新手の苦行僧か?』
『いきなり頭から血ぃ噴き出してぶっ倒れたらしいぞ』
『とりあえず道の端によけとくか・・・』
『俺の車がぁーーーッ!?』
なにやら一つ切実な叫びが混じっていたような気もするが、そんなことを気にしている場合ではない。
人混みをかきわけ騒ぎの中心に向かう。
「ッ!!アヴドゥルさんッ!!」
人垣の真ん中にぽっかりとあいた空間に、敵にやられたのだろう、血まみれのアヴドゥルが倒れていた。
まるで「あの時」の祖父のように仰向けに横たわったまま、ぴくりとも動かない。
アヴドゥルの姿にいまわしい記憶を刺激されながら、即座に仗助はアヴドゥルの怪我を治し、胸に耳をあてる。
血が流れすぎたために弱くなっているもののたしかに存在する脈動と呼吸音を確認し、そこでようやくはぁ~っ、と大きく息を吐き出した。
どっかりと地面に腰をおろし、額に浮いた汗を手で払いながら亡き祖父に想いを馳せる。
(・・・今度こそ、間にあったぜ。じいちゃん・・・)
実は仗助がいたことでジョセフと承太郎の捜索範囲が変わって
史実よりも現場到着が遅くなったせいで、さり気にアヴドゥル失血死寸前・・・だったら嫌だなぁ。