20
倒れていた人間の仲間が現れたことで、出し物は終わったと見てとった人々が興味を失い三々五々に散っていく。
意識の戻らないアヴドゥルの手を肩にまわして立ち上がる。少々引きずる形になるのは仕方がない。
そうやって仗助が顔を上げた頃には、周囲には途方に暮れた様子で地面に手をつき何処か遠くを見ている呆けた男一人しかいなかった。
事情は分からないものの、男は「俺の車・・・俺の相棒・・・」などとブツブツ独り言をつぶやき続けている。
その姿に、今話しかけたら面倒なことになりそうだと感じた仗助は、男を無視して近くの土産物屋に足を向けた。
店内に置かれた時計の針は、すでに12の数字を越えている。
仗助は、血まみれの男を連れた珍客を胡散臭そうにジロジロと値踏みする店員に、電話を貸してほしいと願い出た。
捜索に当たっていた3人は、ジョセフから「何かあった時のために」といくつかの電話番号を記したメモを持たされていたのだ。
メモをみつつ、2つの場所に電話をかける。
なお、電話を借りる際に要求された代金はアヴドゥルの懐から拝借させてもらった。
「救急車をお呼びしましょうか?」
提示したぼったくり価格をためらいなく払った仗助に金の匂いをかぎ取り、途端に態度を軟化させた店員が近づいてきた。
しかしそれをやんわりと断る仗助。
大量の血を失い意識の戻らないアヴドゥルが心配ではあるが、下手に救急医療体制の整った病院に連れて行かれては困ったことになってしまう。
傷一つないにもかかわらず出血多量というような患者など、どうやって説明すればよいのか。
幸いなことにマザーテレサの活躍した場所として有名なカルカッタには、医療ボランティアに力を入れるSPW財団の支店があった。
さきほど連絡した番号のうち一つはこれで、もう一つはホテルだ。
既に集合時間を過ぎているため、誰かは帰ってきているだろう。
仗助の予測をあやまたず、ホテルへ帰還していたジョセフ、承太郎と上手く連絡を取ることができた。
さりげなく店内の品々を薦めてくる店員の攻勢をかわし続けることしばし。
店内にジョセフと承太郎が駆け付け、ほどなくしてSPW財団のスタッフを乗せた車も到着した。
搬送されていくアヴドゥルを見送ったあとで、仗助がジョセフたちに話しかける。
「花京院さんはホテルに戻ってきてなかったんスか?」
「仗助の担当していた地域にかなり近いが、このあたりは花京院も捜索していたはず。
ふむ。ちょいと待っとれよ。」
そういってジョセフは未だ道の真ん中で現実を嘆く男に近づいて行った。
やけにフレンドリーな態度でどうかしたのかと話かける。
「うるせぇやい!俺のこの悲しみが分かるか!放っておいて・・・」
そっと差し出されたピカピカの金貨に目が釘付けになり、拒絶の言葉がしりすぼみになる男。
さらに追加で広げられる札束に、ペラペラと自分が見聞きしたことを話しだす。
男によると、彼が昼食をとろうと道の端に車を止め屋台で買い物をしていた際に、折悪く騒動が起き、その最中に何者かによって車を盗まれてしまったそうだ。
ちなみに、ジョセフが男に見せた金貨は英国王ジョージ三世が描かれたものだった。
同じものをいざというとき換金できるようにと仲間にも渡してある。
ジョージ・ジョースター二世の息子であるジョセフがジョージ三世の金貨を選ぶとは、なんともシャレがきいているではないか。
もっとも、花京院に渡したコインは今頃本来の用途からかけ離れた使い方をされているのだが・・・。
閑話休題。
男がその場に居合わせた目撃者に詰めより聞きだしたという犯人像は、ジョセフたちに心当たりのありすぎるものだった。
「そいつらはこの道をまっすぐつっきって町の外まで逃げてったってぇ話だ。見つけたら
ドタマかち割って豚のえさにしてやる!」
「・・・それは災難じゃったなぁ。だが過ぎた事をそう悔やんでもしかたなかろう。
ここで知り合ったのも何かの縁。これで新しい車でも買いなさい。」
やや強引に男に金貨と札束を渡し、そそくさとジョセフたちはその場を離れた。
「ま、まぁこれで二人の向かった先がわかった。とにかく二人を追わねばな。」
しばらく道なりに進みながらジョセフが2人に注意を促す。
「承太郎、仗助。これからもし敵や花京院たちを見つけたとしても、アヴドゥルが生きて
いることは隠すんじゃ。まだアヴドゥルが意識を取り戻していなければ今度こそとどめ
を刺されかねん。」
SPW財団のスタッフはあくまでスタンド使いではない非戦闘員であり、スタンド攻撃に対抗する手段を持っていない。
この状況で敵にアヴドゥルが生きていることを知られてしまったらどうなるか。
すでにアブドゥルが目覚めていれば敵の襲撃を受けたとしても反撃できるだろうが、気絶したままである場合簡単に寝首をかかれてしまう。
走りながら無言でうなづくことで了承の意を返す承太郎と仗助。
そこに前方から立て続けに2回、例の「爆発音」が轟いた。
「今のはッ!」
「この音っスよ!この音がした場所に行ったらアヴドゥルさんが倒れてたんだ!」
すかさず承太郎がスタープラチナの目を借り音の発生源を確認する。
「・・・見つけたぜ。前方232メートル。花京院とポルナレフは無事のようだな。
敵らしき男も一緒に居るぜ。」
あっという間に距離を詰め、彼らのもとに辿り着く。
走って逃げようとしていた敵とおぼしき男の顔面を承太郎のコブシがとらえ殴り飛ばした。
無様に悲鳴をあげ地面に転がる男ににじり寄りながら、三人は即席の芝居を打つ。
「俺がアヴドゥルさんを見つけたときにはもう・・・。」
「アヴドゥルの遺体は簡素だが埋葬してきたよ。」
「アヴドゥルを殺ったのはコイツか?」
承太郎の問いに、幾ばくかの憤りを交えつつ花京院が答えた。
「卑怯にもアヴドゥルさんは両右手の男に背中から刺されたが、直接の死因はこの男の
弾丸です。」
「J・ガイルの野郎は針串刺しの刑にしてやった。こいつの判決も『死刑』だぜッ!!」
俺が裁く、と言わんばかりの勢いでシルバーチャリオッツの剣を構え、一気に男を刺し貫こうとするポルナレフ。
しかし突然現れた見知らぬ女性がそれに待ったをかけた。
彼女はポルナレフに体当たりをして体勢を崩し、殴られようが蹴られようが離れまいとぎゅうぎゅうと彼の足にすがりつく。
女はポルナレフにしがみつきながら、座り込んだままの男、ホル・ホースへ逃げるよう懇願した。
不意を突かれた形になるポルナレフの勢いが鈍り、またジョセフたちが女の長口上に気を取られている隙をホル・ホースは見逃さなかった。
女の言葉が終わる頃にはすでに彼は馬上の人となり、マカロニ・ウェスタンの主人公よろしくヒロインに愛の台詞を吐きながら颯爽と離れ去る。
「この女ァ~!」
「待てポルナレフ。その女性も利用されていたにすぎん。可哀想に。怪我をしているじゃあ
ないか。」
ホル・ホースを追おうとしたポルナレフに引きずられ、落ちていたガラスでざっくりと切ってしまったのか、女性の腕からはとめどなく血があふれだしている。
「悪かったなぁ。すぐにその傷キレーに治してやっからよぉ~。」
「え、えぇありがとうございます・・・。」
(・・・・・・。)
自らの傷ついた腕を仗助に差し出す女性。
クレイジーダイヤモンドのコブシが傷口に触れる前に、女性の期待に反しその動きがぴたりと止まる。
仗助が承太郎に尋ねた。
「承太郎さん、花京院さんの偽モンから聞いたDIOの刺客ってなんでしたっけ?」
「『皇帝』『吊られた男』『女帝』『死神』だな。」
「『吊られた男』はJ・ガイル。ホル・ホースは『皇帝』だと名乗ってたぞ。」
承太郎の述べた回答にすかさず補足をする花京院。
「じゃあ追加されていなけりゃあ、残ってんのは『女帝』と『死神』ってことっスか。」
「『死神』は全く想像出来んが、『女帝』というからにはそいつは女なのかもしれんのぅ。」
「あの・・・何の話をされているのですか?あつかましいかもしれませんが早く傷を・・・。」
なぁ、と女の話を遮って仗助が女に呼び掛けた。
「なんであんたは俺が傷を治すっつったのを平然と受け止めてんだ?手当くらいなら誰で
も出来るかもしんねぇが、俺は『キレーに治す』と言ったんだぜ。あんたには俺が通り
すがりの天才外科医にでも見えんのかよぉ~?」
感想欄で質問があったので、ここでも弁解しときます。
>仗助の能力は敵側にバレているのか?
まだ仗助の能力は敵にバレてません。
偽ネーナは「スタンド使いが言うんだからなんかしらんが能力で治せるんだろう」
とでも思っていたんだと。。。かなり無理やりですが。。。