22
夜、SPW財団支店の一角を占める病室で目を覚ますアヴドゥル。
ベッドの傍らにはジョセフと仗助が静かに立っていた。
「・・・そうか。私は助かったのだな。」
アヴドゥルの呟きに、仗助が自身の額を指さしながら話しかける。
「最初アヴドゥルさんの姿を見た時は脳みそブチ抜かれたのかと思ったんスが、見た目
より頭の傷が浅かったおかげで間にあいました。」
合わせてアヴドゥルが意識を失ったあと起こった出来事について説明がなされていく。
『吊られた男』『皇帝』『女帝』と立て続けに連戦になり、『吊られた男』と『女帝』は倒したものの『皇帝』には逃げられてしまったと語るジョセフの話を受け、アヴドゥルが苦々しい顔をした。
「すみませんでした。私が勝手な行動をしたばかりに、ジョースターさんたちには随分と
迷惑をかけてしまったようですね。」
「花京院とポルナレフから聞いたが、あそこでアヴドゥルがかばわなければ、ポルナレフ
は生きておらんじゃろう。結果オーライというヤツじゃ、まぁバスには乗り遅れたがの。」
申し訳なさそうに頭を下げるアヴドゥルにあっけらかんとジョセフが返す。
さてここからが本題だ、とジョセフが姿勢を正した。
「で、輸血は既に済んでおる。一時はショック状態でこん睡にまで陥っていたそうだが、
身体の具合はどうじゃ?」
ベッドから身をおこして、指先に思い描いた通りに炎を出現させられることを確認し、アヴドゥルが答えた。
「えぇ。全く異常はありません。問題なく旅を続けられますよ。」
「うむ、それなんじゃがアヴドゥル。一つ頼まれごとをきいてくれんか。」
敵の本拠地であるエジプトに入国する際、これまでで最大の妨害が待ち受けている可能性が高い。
陸路では時間がかかりすぎるし、空路も飛行機が安全に着陸できる場所が限られるためあらかじめ罠を張られている危険がある。
船であればある程度到着地点をずらせようが、障害物の無い海上では遠くからでも見つかってしまう。
「そこで、わしはエジプト上陸にあたって、潜水艦を使おうと思っておる。」
海上を進んでいく中でDIOに進路を察知されたとしても、対岸で購入した船からどこかで潜水艦に乗り換えてしまえば、船の姿を探す敵の目も欺くことができる。
そうして地上からは見えない海底を通り、陸地近くまで接近して潜水艦を乗り捨て、こっそりとエジプトに入るのだ。
「なるほど。丁度良い事に、あの辺りには地図にも載っていない天然の海底トンネルが
いくつかあったはずです。私も地元民の友人がいなければ知らなかったでしょう。
ましてや昨日今日そこらに現れたような余所者であるならば。」
ジョセフがアヴドゥルに依頼するのは、その潜水艦の手配。
偽テニール船長のこともあり、この点に関してはSPW財団に依頼することはできない。
かなり目立つ買物になるが、敵はアヴドゥルが死んだと思っているため、変装してアラブの富豪でも名乗ればごまかせるだろう。
「引き受けてくれるかアヴドゥル。これはかなり危険な仕事になるぞ。」
ついうっかり仲間の誰かが口を滑らしてしまえば、単身行動に加え目立つ買物までしなければならないアヴドゥルが窮地に立たされることは想像に難くない。
ジョセフ、仗助以外でアヴドゥルの生存を知っているのは、ジョセフたちと共にいた承太郎と、さりげなく倒れたアヴドゥルの脈を確認していた花京院。
あいつは口が軽いから黙っていようという花京院の提案にのって、ポルナレフには話していなかった。
そんな二人にすら、潜水艦のことは明かされていない。
彼らから情報が漏れる可能性を考えていたわけではなく、潜水艦の話を出すのはアヴドゥルに依頼するこの場の一度だけだとジョセフは決めていた。
重要機密を何度も口外することは、それだけでリスクを増す結果になるからだ。
仗助は、万が一アヴドゥルの体調に異変があった場合に対処する役目と、ジョセフの付き添いを兼ねて、この場に参加している。
また、この支店で実際にアヴドゥルの顔を見たのは直接診察を行った医者1人と搬送を手伝ったごく少数のスタッフのみ。
彼らには組織最上層部から適当な理由を説明され、しばらくの監視付きバカンスと多額の報酬が贈られることになる。
「・・・わかりました。潜水艦を調達したら小島の岩礁にでも隠して、西側からアラビア
半島経由でジョースターさん達に合流しましょう。」
「むぅ・・・。できれば潜水艦の近くで大人しく見張っていてほしいんじゃがなぁ・・・。」
折角秘密裏に手配しても、潜水艦から離れた隙に万が一敵に見つかりでもすれば元の木阿弥である。
またエジプト上陸時に待ち構えるているだろうスタンド使いの裏をかくためにも、エジプト直前まで強力なスタンドを持つアヴドゥルの生存は隠しておきたい。
渋るジョセフだが、長年パートナーを組んできたアヴドゥルの性格はよく知っている。
これだけは譲れないと一度決めたらどこまでも貫き通す男だ。
スタンド能力は千差万別。
一瞬でも目を離せば何が起こるか分からないのだから、アヴドゥル一人がずっと潜水艦から離れず四六時中見張るには限界がある。
アヴドゥルが途中で合流する場合に考えられるメリットとデメリットを考察し、重々しくジョセフが頷いた。
「次に会うのは砂漠あたりかの。合流できることを願っておるぞ。」
「えぇ。ジョースターさん達もそれまでご無事で。」
シリアスにキメる2人をよそに、仗助があることに気付いた。
「なぁジョースターさん、あんたこの作戦『イ〇ロー・サブマリン』聴いてて思いついた
とか言わないっスよね?」
「えっ・・・そ、そんなことはないぞ!」
(・・・このジジイ・・・。)
翌日の昼にバスに乗って聖地ベナレスへ。
聖地ベナレスで何事もなく一泊し、ジョセフたち5人は入手したランドクルーザーに乗ってパキスタンへ向かった。
ポルナレフの運転する車内で、後部座席左側に座っていた仗助は頬杖をついて窓の外を眺める。
脳内を占めるのは、先日ジョセフから告げられた言葉。
『虹村家の場所が分かった。だが事前に察知されたのか、仗助の言っていた父親はいな
かったようじゃ。』
虹村家には途方に暮れた様子の形兆と、何もわかっていないように無邪気におもちゃで遊ぶ億泰しかいなかった。
SPW財団は幼い二人を保護し、父親の捜索を続けるとともに家のまわりに監視員を配備して警戒に当たっているとのこと。
『もしかしたらこの旅の中で、虹村が刺客として現れるかもしれんな。』
(・・・向こうから来てくれるってんなら、探す手間が省けるぜ。『未来』で待ってろよ、億泰ッ・・・!)
車内の会話に全く参加せず、一人物思いにふけっていた仗助の思考は、発せられた大声と目の前に迫る巨大なトラックの姿に中断された。
「スタープラチナッ!!」
「ッ!クレイジーダイヤモンドッ!!」
ランドクルーザーとトラックが接触した刹那、スタープラチナがトラックを殴って勢いを殺し、それ以上の衝突をくい止める。
なんとか大破は免れたものの、スタープラチナがトラックを殴った反動により空を舞う車。
スタープラチナより一瞬出遅れたクレイジーダイヤモンドが、着地する寸前で地面を攻撃し、衝撃を和らげる。
「な、なにやってんだよ!?危うく死ぬとこだったぜッ!」
「俺のせいじゃあねぇって!全然話きいてなかったのかよ!あ、お前さては寝て
やがったな!?」
これだから運転免許を持ってないやつってのはドライバーに対する心遣いが云々と長くなりそうなポルナレフの愚痴を無視してちゃっちゃと車体とついでにトラックを治す仗助。
気を失ってはいるものの、トラックのドライバーは無事だったようだ。
仗助を乗せふたたび車が走り出す。
車内での話題は先だって遭遇していた怪しい車のことだ。
運転手の顔は見えず、唯一確認できた腕は鍛えられていて茶色のアームカバーを付けていたらしい。
現時点で新手のスタンド使いか性格異常者かは不明。
どちらにせよこの場で来るかもわからない攻撃を延々待ち構えるわけにはいかない以上、パキスタン国境までは注意して進むしかない。
アンちゃんは仗助の介入で関わりが薄くなっていたので、
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