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「チィッ!」
邪魔をするなと言うポルナレフの言葉に素直に従ったわけではないものの、「皇帝」の銃口はさきほど殺されかけた相手、老婆に向けられた。
単なるアマチャンか、それとも何か秘せられた裏があるのか。
どういうつもりかは知らないが、ポルナレフたちは今すぐ自分をどうこうするつもりはないようだ。
それなら、と目下の脅威である老婆に標準を合わせてしまうのは、これまでの人生で培われてきたホル・ホースの危機回避能力からすれば必然であった。
もっとも、先に述べたとおりホル・ホースの怪我を仗助が治したのはそれほど深い意味のあってのことではない。
が、そんなことは彼に分かるはずもない。
老婆がおもしろくなさそうに鼻を鳴らす。
自身の生命を脅かしかねない凶器を向けられているにも関らず、その態度には余裕があった。
「ふんっオマエのことは雇う前に調べておる。逃げたり足止めのために威嚇射撃をすることは
あっても、決して女を攻撃せんとなぁ~?さっきもわしを撃とうとしてためらったじゃろう?
おうおう、こんな老婆にまで優しくしてくれるなんて涙が出るわ、笑いでなぁ!」
下卑た笑い声を立て、老婆が続ける。
「しかたない。ホル・ホース。おまえの命だけは助けてやらんこともないから、そのガキ
を撃て。おおっ、窓から逃げようなどと思うなよ。外の霧もわしのスタンドじゃ。窓を
突き破った時に傷一つ負えば、もう一度ジャスティスとダンスをさせてやるッ!」
ホル・ホースは現在、部屋の出口をふさぐ死体の群に対峙するポルナレフとその横でジャスティスの操り糸に抵抗している仗助の背後に居る。
ならば簡単に撃ち殺せるだろう、と老婆は言うが、それが出来れば苦労はしないとホル・ホースが心中で毒づく。
ホル・ホースの目の前ですさまじいスピードで剣をふるい続けるポルナレフはもちろんのこと、さきほど目にした仗助のスタンドも相当なスピードを持っていた。
仮に老婆の言う通りに発砲したとしても、すでに自分の能力を知られてしまっているだろう彼らに、多少弾丸の軌道を変えたところで不意をつくことができるとは思えない。
それに、口では甘言を吐いてはいるが、老婆の目は明らかに「用済みになったら殺す」と雄弁に物語っている。
ならば老婆を攻撃するか。いやそれは信条に反する、いやいやそんなことを言っている場合じゃ、でももし仗助達に加勢したことがDIOに知られたら・・・
と、自身の心の迷いを反映してせわしなく仗助と老婆の間を銃口が右往左往する。
「いいぜ、何発でも撃ってきなよ。」
「ぁあ?」
あまりにも「理解不能」な一言を聞き、思わず片眉を上げるホル・ホース。
少しだけ銃口を下げ、声の主である仗助をまじまじと見やる。
(な、何か策があるのか・・・?俺がこいつを撃つことで、一体どんな・・・)
挑発ではなく、実力を過信しているわけでもない、どこか不敵な眼差しをした仗助が、ホル・ホースに向かって更に言葉を紡いだ。
「どーした?こうやって石に掴まってんのもいい加減ダルくなってきたぜ。俺のどてっ腹
に穴ぁ開けて、早く俺を天国まで連れてってくれよぉ~。」
「・・・ッ!あぁそうかい。それじゃああんさんの望み通り連れてってやるぜッ!地獄に
なッ!!」
荒くなっていた呼吸も、銃身のブレも、かいていた冷や汗さえもぴたりととめて、ホル・ホースは弾丸を発射させた。
その数、6発。
軌道を変えることなく、全ての弾はほぼ同時に仗助の胴体目がけて吸い込まれていく。
「勘違いするなッ!俺はおまえらに手を貸したわけじゃあねぇ!あくまでもエンヤ婆の
言う通り攻撃しただけだッ!」
弾丸と共に発せられた言葉は、その意味する通り仗助たちへの主張なのか、老婆とその先に居るものへの釈明だったのか、あるいはホル・ホース自身に対する弁明だったのかもしれない。
お前はどこぞのツンデレ娘かと言いたくなるような台詞をほざくホル・ホースに構うことなく、クレイジーダイヤモンドが向かってくる弾丸を横から両掌で掴み取る。
ギュルギュルと両掌の中で3発ずつ横ならびに整列し回転し続ける弾丸。
その軌道が変わり、勢いのままクレイジーダイヤモンドを空中へ引っぱり上げる。
弾丸に導かれ、老婆たちの上に身を躍らせるクレイジーダイヤモンドと仗助。
「早ッ・・・!!」
「さっきは死体の穴を治そうとして手加減してたがよぉ~、もうその必要もねぇよなぁッ!!」
スタンドの行動範囲は本体との射程距離に縛られる。
したがって本体が動けない場合、射程距離外にコブシを届かせることはできない。
他方で、『向こう』に居た頃、重ちーを追って仗助と億泰がビルを登る際にやっていたように、スタンドが何かにつかまって移動するのにあわせて本体も引っぱることは可能。
スタープラチナに一歩譲るにしろ、クレイジーダイヤモンドのスピード、精密動作性でも約30cmほどの至近距離から発射された弾丸をつまんで止めることはできた。
それが今回は充分に距離を開け、撃つタイミングも、撃たれる場所もわかっているのだから、対処できない方がおかしい。
能力に絶対の自信を持ち、他人を操り人形としか見ない老婆と異なり、「No.1よりNo.2」を人生哲学とし、誰かとコンビを組むことで真価を発揮してきたホル・ホースは、仗助の言葉に隠された意図に素早く気付いた。
そして指定通りに、胴体目がけて数発の弾丸を撃ち込み、スタンド本体の元まで仗助を連れて行った、というわけだ。
この程度の裏読みができなければ、裏社会で見ず知らずの人間とコンビを組んで上手くやっていけるはずもない。
また、エンペラーは一発の弾丸でもその勢いで成人男性を軽く浮かせる威力がある。
それが6発となれば、握られた状態で多少減衰したとしてもジャスティスの操り糸を振りきるには充分。
ここまで十全な形でホル・ホースが真の意図に気付き、さらにそれを実行してくれるとは、仗助も期待していなかった。
告げた内容通りに自分を撃ち殺そうと一発でも弾丸を発射してくれれば恩の字。
弾丸を受け、少しでも自分が老婆の近くに移動出来れば、ポルナレフは更に老婆の元へ深く踏み込むことができるのだから。
射程距離に入った直後に弾丸を手放し、空中から死体にラッシュを叩き込んで、肉壁を蹴散らす。
再びジャスティスで仗助を操ろうとスタンドへ命令しようとする老婆は、クレイジーダイヤモンドの前では滑稽に見えるほど遅かった。
「ドララララララァーーーーーッ!!」
暴風のようなラッシュの嵐は、老婆の意識をたやすく刈り取る。
仗助が着地するとともに霧が晴れ、操り手を失った死体たちはガラガラと倒れていった。
「うげぇ、死体にゃあ違いないが、旅行者の死体以外みんな骨だけじゃあねぇか。あの霧
には幻覚を見せる能力まであったのか。」
「なるほどなぁ。肉にあいた傷を治そうとしても手ごたえがねぇわけだ。肉そのものが無
かったんだからよー。」
部屋の様子もさきほどまでと違って、所々壁やガラスが崩れ風化し、長年放置されていたことがうかがい知れる。
すでに部屋の中にホル・ホースの姿はない。
彼は仗助が老婆にラッシュを浴びせかけた時、窓を突き破って逃げ出していた。
「仗助ッ!ポルナレフッ!一体何があったんじゃ!」
「あッ!おせーよジョースターさんッ!敵ならもう俺と仗助が倒しちまったぜ。」
「キミたちがあんまり遅いんで探しに行こうと部屋を出たら、廊下にも霧が立ち込めてい
たんだ。霧の中を進もうとしても、何故か同じところをぐるぐる回ってしまっていたみ
たいで、一向にロビーまで辿りつけなかった。」
ようやく合流したジョセフたち一行は、それぞれの遭遇した出来事を簡単に報告し合う。
一方仗助は承太郎が車から持ってきてくれた救急医療セットで左足の手当てをしていた。
承太郎は物を仗助に手渡した後、「車付近で不審な影を見た」と言って、一人車の見張りをしている。
霧により無理やりこじ開けられていた穴は肉を押しのける力が消えたため、ピンポン玉大からビー玉大くらいにまで縮んでいた。
幸い太い血管や骨、神経は断裂しておらず、ジョセフの波紋を受けた上で包帯でも巻いておけば行動に支障はなさそうだ。
ちなみに、仗助はすでに一度香港で、ジョセフから波紋に関する簡単な講義を受けていた。
ストレングス戦でジョセフの作戦の意図を瞬時に読み取ることができたのも、その前情報のお陰と言える。
ただし、その後波紋の講義が行われることはなかった。
気付いた頃には波紋を使えるようになっていたジョセフが波紋の目覚めさせ方を正確に知っているはずもなく。
仗助に良いところを見せようと聞きかじったうろ覚えの知識を元に腹パンをお見舞いしたジョセフ。
案の定そのパンチで波紋は目覚めず、さらに「あ、ごめんミスっちゃった」と軽い感じで謝られたことで仗助がキレ、講義をボイコットしたからだ。
したがって仗助の怪我は依然として現代医療に頼るか、ジョセフの波紋の力を借りるしかない。
救急セットとともにランドクルーザーから持ち出された縄で老婆を縛りあげながら、ジョセフが仗助とポルナレフに確認をする。
「やはりこの老婆が霧のスタンドを持つ刺客じゃったか。何か情報は得られたか?」
「ホル・ホースの野郎はこいつを『エンヤ婆』と呼んでいたな。あとはこいつもヤツを
『雇った』と言っていた。たしかそれくらいだったよな、仗助?」
「あーそーっスね。・・・って、あーーーーーッ!!!」
いきなり頭を抱えてうずくまる仗助に、どうしたとジョセフたちが問いかける。
「い、いやぁ・・・。すんげー今更なんスけど、俺やっぱこのばーさんのこと知ってま
した・・・。」
エンヤ婆「小僧のスタンドがDIO様のに似てる気がする」