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その言葉に、仗助の硬直が解かれる。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!!たった3、4発殴ったくらいで何もそんな・・・!
あんた医者ってわけでもねぇだろうが!なんでんなことわかるんスか!!」
「いや、お前のせいではない。見よ!何故この男がDIOに忠誠を誓ったのか!!」
ジョセフはおもむろに花京院の頭に乗せていた手を退けた。
彼の手の下、花京院の額には、小さくも禍々しい肉色の物体が蠢いている。
「この一見小さな『肉の芽』は、寄生した人物の精神に影響を与えるよう瞬時に脳内に
到達し、そしてその思想をもコントロールしていく。乗っ取られた人間は、肉の芽の
本体をまるで自身の信仰する神のように、すべての事柄に信託を仰ぎ、身をゆだねる
ことじゃろう。」
「手術で摘出はできねぇのか」
承太郎がぼそりとつぶやいた。しかし、その言葉にジョセフは首を振る。
「無駄じゃ。これまで幾人もの天才と謳われた外科医が摘出に乗り出したが、何れも失敗
しておる。」
「・・・?」
疑問に思うのも無理はない。常識的に考えれば、たかが外部から付着した肉片など、多少癒着はしていたとしても、周囲から根こそぎ切除してしまえば取り除けるはずなのだから。
「・・・承太郎。」
それまで無言であった褐色の男、アヴドゥルがおもむろに口を開いた。
彼は自身の身に起きたおぞましい経験を語り出す。なんと彼は4カ月前にDIOという男に遭遇し、間近で肉の芽が寄生せんとする瞬間を目撃したらしい。
「私は幸運だった。様々な偶然が重ならなれば、私もこの肉の芽に取りつかれ、今頃は
DIOに忠誠を誓っていたことだろう。」
「そして数年で脳内をこの肉の芽によって食いつくされ、死んでいたことじゃろう。」
ジョセフの言葉にピクリと反応する承太郎と仗助。
仗助は思い出す。
自分の親友といえるあの男の父親の、かつて撮影された写真の姿から変わり果てた姿を。
死んでいたのであればまだ「終わり」という救いは存在する。しかし、もしも死ねなかったとしたら・・・?
異形の姿になり果て、ほとんど自我も持たずに暗い屋根裏部屋に這いずり回りながら生き続ける存在。
あの兄弟に絶望をふりまき、狂わせる元凶となった「肉の芽」がいま、目の前にいる青年に取りついているというのか。
もっとも当の本人は今頃猫のような草とよろしくやっているらしいが、「こちら」に来てしまった仗助にそのことを知る術はない。
複雑な顔をする仗助をしり目に、承太郎が歩み出た。
「まだこの花京院は、死んじゃあいねぇだろうが!」
彼のスタンドを発現させ、そのまま花京院のかたわらに座り込む承太郎。
「俺のスタンドで引っこ抜いてやる!仗助!こいつの頭を押さえていろ!オマエの
スタンドのパワーなら、花京院が意識を取り戻しても身じろぎもさせねぇように
できるだろうぜ!」
承太郎の言葉に突き動かされ、仗助はクレイジーダイヤモンドで花京院の頭を押さえた。
承太郎のスタンドの手が、ゆっくりと花京院の額に伸びていく。
「ま、待て!脳はとてもデリケートなんじゃ!しかもこいつは取り除こうとする相手に
侵食していくッ!!いくらオマエのスタンドが精密な動作に優れているからといって、
引っこ抜こうとすればどうなるか・・・!!」
突然、花京院の額から外部に露出していた肉の芽の一部が、承太郎の腕に突き刺さった。
まるで意思を持っているかのように、敵対者をも取り込もうと触手は承太郎の腕から身体、頭にまで勢力を拡大していく。
ここで花京院が意識を取り戻し、目を開けた。
しかし、花京院の頭を押さえる仗助も、身体を肉の芽に侵食され続けている承太郎も動揺をみせない。
「おとなしくしていな。いくら保険があるとはいえ、しくじっちまえばてめぇの脳みそは
お陀仏だ。」
承太郎はそのままスタンドの手で肉の芽を掴み、発射された弾丸を掴みとるかのような素早さと正確さで、花京院の頭部から肉の芽を抜き去った。
さらに続けて、承太郎は自身の体内に伸びていた触手をもずるりと引っこ抜く。
「うぉおおっ!!波紋疾走!!」
人体から切り離された肉片は、間髪いれず放たれたジョセフの波紋により塵になった。
つづけざまに、先ほどまで頭を押さえていたクレイジーダイヤモンドが再度花京院の頭部に触れる。
これで肉の芽によって開けられた脳にまで達する穴も奇麗にふさがった。
肉の芽というマインドコントロールから解放され、まだ情報の整理がおぼつかないのだろう。
自身の身に起こったことが信じられないように、花京院は額に触れ、そして問うた。
「何故貴様らは・・・私を助けた・・・」
「さぁな。そこんとこだが、俺にもようわからん。」
「他人事じゃあねぇーっつーか。思わず身体が動いちまったんだよなぁー。」
問いかけられた二人は、なんでもないことのように、平然と答えた。
「さて、この少年をむしばんでいた危機は脱したようじゃが。」
ジョセフが仗助を見やる。
「わしの名はジョセフ・ジョースター。そしてそこにいるのは友人のモハメド・アヴドゥルじゃ。
あんたの名前は先ほど承太郎からきいているが、そろそろ事情をきかせてもらえんか。
さすがに学校の保健室に突然現れたスタンド使いというだけではな。」
仗助は考えた。正直に話すべきか否かを。
この目の前の男、ジョセフとの関係は少し、というよりもかなり言いだしにくい。
何しろ自身の存在が明るみに出た際、ジョースター家では大騒ぎが起こったという。
それに未来を知る自分が色々と過去を変えてしまえば未来にどのような影響があるのかも分からない。
しかし、話さない選択肢を選ぶことはできなかった。
今の自分は身一つの無一文であり、身分を証明するものはない。未来に帰る方法を探すにも、なんの手がかりもない状態で誰からの協力も受けないというのはあまりに困難だろう。
それに蝶の羽ばたき一つで遙かかなたに竜巻が起こるように、現に自分がここに存在してしまっている以上、未来になんらかの影響が出るのは不可避。
そうであれば自分は自分のやりたいことをやるまでだ。
なによりも、仗助には事情を話してまでも手を貸してほしい事柄が一つあった。
しばらく考え込んでいた仗助が、意を決したように話を切り出す。
「これから話すことは、もしかしたら信じちゃあもらえねぇーかもしんねぇ。でも俺は
自分の知ってることを正直に話すからよぉ。とにかく最後まで聞いてほしいっス。」
真剣な面持ちの仗助に、無言でうなずく一同。そして爆弾が落とされた。
「まずは、ジョースターさん。東方 朋子っつー名前に聞き覚えはねぇか。」
「ヒガシカタ トモコ・・・?・・・・・・・・ッ!!?」
途端にピシリと全身を硬直させるジョセフ。一同が怪訝な目をジョセフに向けるなか、仗助が言葉をつづけた。
「その様子じゃあ覚えているみてぇだな。俺は東方 朋子の息子だ。そして・・・
ジョースターさん、あんたの息子でもある。」
「な、なんじゃとぉーー!!」
「ジジイ、てめぇ・・・」
『アメリカの不動産王に隠し子発覚!?』いかにもゴシップ誌の見出しを飾りそうな話ではあるが、ゴシップ誌を楽しむ大衆とは異なり、関係者にとっては大問題だ。
孫の冷たい視線と、周囲の白い目が痛い。
「い、いやちょっと待ってくれ!最後まで聞くことに同意はしたが、これは流石に
予想外じゃ!そもそも朋子は4年前20歳そこそこだったはず!お前さんは高校生
くらいじゃろう!?どう考えても計算が合わないじゃろうが!」
さりげなく浮気をした事実を肯定し、かつ浮気をした時期までバラしてしまっているが、ジョセフはそれどころではなかった。
「そうっスね。恐らく『この時代』に居る俺はまだ4歳です。」
「はぁ~?流石にお前さんが4歳というのは無理がないか?」
あきれ顔のジョセフに、仗助は続ける。
「俺は、俺が16歳になる1999年、未来からここに来ました。」