8
ジョセフの操縦する旅客機は、なんとか無事香港の沖合に不時着することができた。
レスキューヘリにより乗客と共に救出された一行は、SPW財団の力を借りつつも警察の尋問を乗り越え、香港の街に降り立った。
警察から解放されたジョセフは早速近くにあった公衆電話から何処かへ連絡を取り、次の移動手段の算段を付けているようだ。
しばらくして調整が終わったのか電話を切ったジョセフに連れられ、一行はジョセフが馴染みにしているという中華料理店に入る。
途中、ジョセフと仗助がホットコーラを売る屋台に対し、「コーラはキンキンに冷えたものに限る!」と難癖をつけ、妙なところで父子の似通った側面を感じさせる場面はあったが・・・。
「あの飛行機さえ無事に飛んでいれば、今頃はカイロに到着していたのに・・・!」
中華料理店の座席に座りながら、その声色に悔しさをにじませ花京院がつぶやいた。
「まぁ待て、慌てても仕方がなかろう。それにまだあと50日近くは猶予があるんじゃ。
敵が皆殺しも辞さないような奴らだとわかった今、さっきのように飛行機を使うわけ
にはいかん。そこで、わしはここから船に乗って海路を進もうと思う。」
「そうですね。陸路では国境や大山脈が障害になるでしょう。しかし、海路と言っても
船に新手のスタンド使いが乗りこんでいれば、先ほどの旅客機の二の舞になるのでは?」
アヴドゥルがジョセフの提案に賛成しつつ、懸念を述べる。それに余裕を持って答えるジョセフ。
「もちろん、その点は考慮してある。今さっきチャーターした船には、SPW財団の息が
かかった、勤続10年を超えるベテラン水夫たちしか乗っておらん。初めて見るような
顔の者が乗りこんでいれば、すぐに気付けるじゃろう。」
その言葉に、海外経験の乏しい学生組は素直に従う。
もっともこの時仗助の脳裏に、以前現れた他人の姿そっくりに変化することのできるデッサン人形のような形のスタンドを操る能力者の存在がよぎっていた。
が、仮に似たような能力を持つスタンドであっても、自身の姿を消すことができない以上、スタンドを操るために船に同乗しなければならないのだから同じことだ、と深く考えることはなかった。
では出発前に英気を養うか!と、メニュー片手に注文をしようとしたジョセフに、見知らぬ男が声をかける。
声をかけて来たのは承太郎やジョセフに比べれば幾分か細身ではあるが、全身にしなやかな筋肉をまとった銀髪の20代と思われる若者だ。
「すいませぇ~ん、ちょおっといいですかぁ?私はフランスからの旅行者なんですが、
メニューの漢字が難しくて、どうもよくわかりません。助けてくれませんかぁ。」
話しかけてくる口調は気安いが、その身のこなしには隙がない。
仗助は男を観察しつつも彼の、頭髪全てを頭上に逆立て、奇麗に真横に切断したかのような髪型に康一を思い出し、どこか懐かしさを覚えた。
近寄って来た男に対し、警戒心をあらわにした承太郎が邪険に追い払おうとする。
一方ジョセフはまぁまぁと承太郎をなだめ、にこやかに男に相席を勧めた。
あるいはジョセフの頭には、仮にこの男が新手のスタンド使いであったとしても、いきなり背後から攻撃されるよりは自分たちの目の届くところに居られた方がよい、という計算もあったかもしれない。
男から注文したいものを聞き、ウェイターを呼び寄せてこれもこれもと景気よく料理を注文するジョセフ。
以前『向こう』にいた頃にはある漫画家に対し漢字が良くわからないと話していたようだが、ここは彼の行きつけの店だと言うし、注文しなれているのだろうか。
しかし、やはりと言うべきか、ある意味予想から外れることはなく、運ばれてきたのは男のリクエストとは程遠い料理の数々であった。
魚介料理やお粥はともかくとして、蛙の丸焼きは食文化の異なる人間にとっては多少抵抗があるだろう。
まだ焼かれている分、鉄分不足の某少年が食べるはめになるものよりはマシだが。
一同の白けた視線を受けたジョセフが笑ってごまかそうとする。
「まぁいいじゃあないか!何を頼んでもそれなりにイケるもんじゃ!」
何はともあれ折角注文したのであるから、食べられるうちに食べておいた方が良いのは事実だ。
またいつ何どきDIOの刺客が襲ってくるとも限らないのだから。
だが早くも敵は既にその手を一行に伸ばしていた。
食事を進める中で、同席している男が料理の添え物として盛られた野菜細工を器用に箸で持ち上げる。
奇麗な星型に加工された人参をみつめながら、どこかわざとらしく男が言った。
「この野菜の形、・・・星のカタチ。そういえば私の知り合いにもこれと同じ形の
痣を持った男がいたなぁ。」
男の言葉に一行が警戒態勢を取るよりも早く、卓上に置かれたお粥の椀からレイピアのような切っ先が現れ、ジョセフに向かって振り下ろされた。
咄嗟に左手の義手で剣先を受け止めるジョセフ。
「こ、これはッ!剣じゃと!?」
「ジョースターさん、離れてくださいッ!!」
直後、アヴドゥルがテーブルごとお粥の椀をひっくり返し、炎を纏う鳥人型のスタンド、マジシャンズレッドを発現させる。
倒れたテーブルの影からようやく全身を現したのは、西洋甲冑のような鎧をまとった銀色のスタンドだった。
一行の前に進み出る銀色のスタンドに対してマジシャンズレッドが炎を発する。
敵スタンドは素早く剣を振るってマジシャンズレッドから放たれた炎を絡め取り、店の隅にあるテーブルへ軌道を変えさせた。
いや、炎の軌道を変えるに留まらず、テーブルを燃やしつくすと思われた炎は今や細かな火に寸断され、まるで時計の文字盤のように配置されてテーブルに刻まれている。
「炎を切り裂くなんて・・・!」
「マジシャンズレッドの炎は鉄を一瞬で溶かす。あいつは炎を切ったんじゃあねぇ、
空中を切って空気の溝を作りやがったんだ。」
「マジかよ・・・。」
単なる素早さだけではない、男が費やしてきたこれまでの修練をうかがわせるかのような剣の妙技に、思わず息をのむジョースター一行。
そこへ、先ほどまでの軽妙な雰囲気を消し去った男が殺意を隠そうともせずに告げた。
「貴様らを殺す前に名乗らせていただこう。私の名はジャン・P・ポルナレフ。」
それが戦いの前の騎士の礼儀であるとでも言いたいのか、高々と名乗りを上げるDIOの刺客であった男、ポルナレフ。
彼は一同の中で真っ先にスタンドで反撃をしてきたアヴドゥルに向かって、宣戦布告を叩きつける。
そのテーブルに刻まれた火の針が12時を指す前にことを済ますというポルナレフの言葉に、アヴドゥルが片眉をあげた。
ついとテーブルに指を向けると、火の針は物理法則を無視したかのように下に進み、テーブル全体を包み込む。
グズグズと消し炭となり形を失っていくテーブルから敵へと視線をうつし、ニヤリとアヴドゥルが笑う。
「残念ながら、折角拵えた時計はなくなってしまったようだな?・・・私の炎を
自然界のものと同じとは思わないでもらおうか。」
このアヴドゥルの挑発に対し、大いにプライドを刺激されたポルナレフは外での戦いを提案した。
いわく、相手の力を存分に奮える場所で戦った上で完膚なきまでに叩きのめすことが、自身のスタンド、シルバーチャリオッツが暗示する「勝利」にふさわしいと。
幸い、まだ他の客や店員に被害は出ていないが、これ以上店内でスタンドバトルを続ければ周囲にどのような被害が及ぶか分からない。
願ったりな相手の要望に応え、一行はポルナレフの後に続き、店を出た。
ドッピオ「呼んだ?」