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ぞろぞろと香港の街中を歩き、彼らが辿り着いたのはタイガーバームガーデンだった。
助勢しようとする面々をアヴドゥルが止める。これほど広い空間であれば自身のスタンドの炎を自由に操れるだろう。
だが近くに仲間が居れば、フレンドリーファイアに気を付けなければならない。
それに、先ほどから敵対している男の言葉の端々にあらわれる騎士道精神に応えるのに、一対多数は無粋だ。
「タイマンはりてぇっつーなら止めないっスけどよぉー。」
「わしらの目的はあくまでもDIOを葬ることじゃ。悪いがアヴドゥル、万が一おぬしが
倒れるようなことがあれば、わしはすぐさま介入させてもらうぞ。」
アヴドゥルは無言でうなづく。
先ほど見せられたあの剣さばき。空を裂くことで炎も切断することができるというポルナレフのスタンド、シルバーチャリオッツと戦い100%余裕で勝利できると考えるほどアヴドゥルは状況を楽観視していない。
それでも自身の希望を尊重してまずは自分に任せてくれるという一同に感謝した。
そこからの二人の戦いは、まさに一進一退の攻防と言えた。
アヴドゥルの繰り出す炎を切り裂き、同時に余裕を見せるためかアヴドゥルの背後にあった石像をマジシャンズレッドそっくりに彫り抜いたポルナレフ。
更にアヴドゥル渾身の力をこめた大技、クロスファイアーハリケーンですらいとも簡単にはじき返す。
返された自身の炎に焼かれ地に膝をつくアヴドゥルだったが、その目はまっすぐポルナレフに向けられたままだ。
悪あがきとばかりに突進してくるマジシャンズレッドを嘲笑すら浮かべ切り裂いたポルナレフは、しかし次の瞬間炎に包まれていた。
切り裂かれたと思われたマジシャンズレッドは先ほどポルナレフが彫った石像にいつの間にかすり替わっていたのだ。
周囲の火を消し立ち上がったアヴドゥルが、畳みかけるように再度クロスファイアーハリケーンを放ち、不意をつかれたシルバーチャリオッツに直撃した。
通常であれば全身大やけどを負うほどの炎に包まれたはずであるが、その炎はシルバーチャリオッツの鎧を焼くにとどまっていた。
炎で熱せられた甲冑を脱ぎ捨て、更に速度と鋭さを増したシルバーチャリオッツの姿は、もはや目で追うどころか残像で複数に増えたと錯覚させられるほど。
アヴドゥルも炎の鞭を作り応戦するが、鞭が捉えるのは残像ばかりで、ついにシルバーチャリオッツの剣先がアヴドゥルに届き、彼の身体を切り裂く。
接近してきたシルバーチャリオッツ目がけ放たれたクロスファイアーハリケーンも、スタンド本体を捉えることができず、着弾したのは地面だった。
傷口から血を流しながらも、アヴドゥルは炎のアンクを複数出現させた。それに対し円陣を組みながら迫りくるシルバーチャリオッツの残像。
出現させた炎も全てかわされ、もはやアヴドゥルに剣を防ぐすべはないと思われたその時、シルバーチャリオッツとポルナレフの足元が爆発した。
そう、先ほど地面に着弾していた炎のアンクは地中であってもその火を消さず、それどころか地中を溶岩のようにドロドロに変えながら敵の足元に移動していたのだ。
今度こそ、ポルナレフは全身を炎に包まれた。倒れたポルナレフに、アヴドゥルが短剣を放ってよこす。
「炎で焼け死ぬのは苦しいだろう。その短剣で自害するといい。」
だがしかし、ポルナレフはその短剣を手に使わなかった。
このまま炎に焼かれて死ぬのがキミとの戦いに対する礼儀である、と、そのまま目を閉じ動かなくなる。
DIOからの命令に従順であるならば、渡された短剣をアヴドゥルへ投てきしているはずだ。
それをせず、もっとも苦しい方法で死のうとするポルナレフに思うところがあったのか、アヴドゥルが炎を消した。
まだ息はあるものの全身火傷を負い、意識を失ったままのポルナレフの髪をかき分ける。
額を確認するとそこには予想通り肉の芽が埋め込まれていた。
二人の決着がつき、ジョセフたちが駆け寄って来た。
「なんと、この男にも肉の芽が取りついておったのか!」
「こないだ話したあれ、やってみますか?」
早速アヴドゥルの負傷を癒し、ポルナレフの負っている火傷の様子に顔をしかめながら、仗助が言う。
あれ、とは空条邸で語られた、クレイジーダイヤモンドを用いた肉の芽除去のことだろう。
ジョセフは仗助の提案を否定した。
「いや、先日話をした時とは状況が違う。すでにDIOがエジプトに居ると分かっている
今、肉の芽を持ち運ぶという危険を侵してまで可能性の低い賭けをすることもあるまい。
それに、キミは能力を発動させるためには対象に触れなければならない。肉の芽が
体内に侵入し、怪我を負ったとしても、キミは自分の怪我は治せないのじゃろう。」
確かに、ここで仗助が怪我を負った場合に治療できる者はいない。
戦闘によって負傷する場合は仕方がないとして、別の方法があるのにわざわざ進んで怪我をするというのは愚策だろう。
「そういうこった。仗助。今回も俺がやるから、お前にはサポートを頼むぜ。」
「・・・・・・ウッス。」
ジョセフの言い分はもっともで、理屈としてはわかる。わかるが、今一つ感情的に納得のできない仗助。
出来るだけ怪我を負わないように、なんて、まるでハイハイを覚えたての赤子に接するようではないか。
能力で自分の傷を治すことができないとはいえ、これでも昔から怪我の治りは早い方だった。
『向こう』で様々なスタンド使いと交戦した時も、例え身体の至るところに小さな無数の穴をあけられようが、腹に強烈な一撃をくらって血反吐を吐こうが、時には病院にすら行くこともなく数日のうちには治っていたのだ。
無事ポルナレフから肉の芽を抜き、全身に広がる火傷も「治した」のち、それでもどこか不満そうな仗助の顔を見て、ジョセフが声をかけた。
「ふぅむ。納得がいっていないようじゃな仗助くん。そうじゃな、短期間でできるか
どうかは分からんが、キミにもしその気があるならば、ある程度の傷を自力で治せる
ようになれるかもしれんぞ。」
ジョセフの言葉に驚く仗助。
「ひとつ、波紋という技術を学んでみんかね?」
ジョセフの提案は、あくまでもその場しのぎであり、実際に仗助が波紋を習得できるとはほとんど考えていなかった。
一握りの例外を除いて、波紋というのは生まれつきの素養と長年の厳しい修行によって身につくものだ。
今後も回復役である仗助をできるだけ負傷させないようにするという方針は決定事項に等しい。
そのような待遇の中で大きくなっていくだろう仗助の不満をそらせるためにも、旅の目的とは別に、何か目標となるものを与えてみるのも一つの手。
そのようなこずるい策を巡らすジョセフの無意識下には、巻きこんでしまった形になる息子を出来るだけ傷つけたくないと言う想いと、波紋の講義をきっかけに、少しは距離を近づけることができるのではないか、という淡い期待もあったのかもしれない。
彼らが未だに「ジョースターさん」「仗助くん」という他人行儀な呼び方をしつづけていることからも、二人の間にはまだ埋められない溝が確かにあるのだから。
未来において、最終的に仗助はジョセフのことを「じじい」と呼ぶまでの関係性にはなっていた。
しかしこちらのジョセフは『向こう』のよぼよぼボケボケなジョセフに比べ別人のように溌剌としており、しかも相手の認識は初対面。
仗助にとっては共に過ごしたわずかな時間がリセットされたようで、すぐに「じじい」と呼ぶにはまだ抵抗があるようだ。
ちなみに、軽々と火傷を治してみせた仗助に対し、切り傷や打撲痕だけでなく、化学反応をともなう火傷のような傷でも治せるのかと一同は驚いた。
が、かつて仗助は、切り刻まれ、混ぜあわされた上で加熱処理された料理を原材料にまで戻すという荒業を成し遂げたことがあるのだ。火傷程度の治療など、朝飯前といえよう。
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