一体何が起こったのか、私は何も理解できずにいました。
ほんの数時間前までそこは緑に溢れた森だったはず。
例え死にゆく星であっても、可能な限りの知恵と技術を使って少しずつ少しずつ復興をしていった私達の楽園。
でも。
それは一瞬で破壊されてしまいました。
「なんなんだよ……。あれは一体なんなのさ!」
水色の髪を揺らし、大きな瞳一杯に涙を蓄えた少女が声を上げる。その手には桃色の髪と青色の服を着た少女が抱かれていた。そして私の腕にも同じ桃色の髪と同色の服を着た少女の姿がある。
「……何であろうと関係あるまい……」
絞り出す様な声が聞こえる。
それは我らが王の発した言葉。彼女の腕にもウェーブのかかった金髪の少女が抱かれている。
一つ言えるのは、私達の腕に抱かれた少女達は『誰一人として息をしていない』という事実。
「我らの楽園をこうも無残にしてくれた。大切な仲間をこんな姿にした。それだけで万死に値するわ!!」
立ち上がる我らが王。その小さな体によりも大きな紫の六枚羽が広がる。
「……そうだね。こんなにされて黙ってられないよね」
水色の髪の少女も立ちあがる。その体から電撃が迸り、その手には金色の大鎌が握られている。
「全く以ってその通りです。アレが何であるかはこの際置いておきましょう」
そして私も立ちあがる。右手には炎。私の怒りが込められた灼熱の炎。左手には愛杖。私の力を具現化させる力の象徴。
私達三人が見つめる先。
そこにあるのは一体の機械人形。
白を基調とし、その口元には髭の様な飾りがある。
異質だったのはその背にある極光の羽。無機質である筈のその体から伸びているのは、有機物と見間違うばかりの蝶の羽。
機械人形は突然私達の世界に姿を見せた。そして驚く私達を尻目にその蝶の羽を広げたのだ。
その後は一瞬だったと言っても良いでしょう。
羽の輝きは森を、湖を、大地を一瞬の内に何も無い荒野へと変貌させていったのだから。
「許す訳にはいきません。アレはここで破壊します!」
そして私達はそれぞれの力を開放し、あの機械人形に向かっていった。
例え、それが無謀であると分かっていても。
力の差は歴然でした。
まずは大きさが違う。それだけで私達の魔法も威力が分散してしまうのです。
次点で厄介だったのは、あの極光でした。
如何なる原理かは分かりませんが、その光に包まれた機械人形は私達の魔法をいとも容易く防ぐのです。
そしてあろうことか、その光を収束。光の剣として薙ぎ払えば大地はそれだけで荒野となり、光の砲撃として放てば、大地に穴を穿つという規格外の物でした。
それに立ち向かった私達三人がそれに太刀打ちできる要素は全く無かったと言っても良いでしょう。
まずは防御の薄い水色の少女が堕とされました。次に我らの王が堕とされました。
そして私もまた、地面に叩きつけられてしまった所です。
「全くなんて固さだよ!ぜんっぜん攻撃が通んなーい!!」
駄々をこねても仕方ないですよ……。
貴方の襲撃服は元々装甲が薄いですからね。気をつけないと撃墜どころでは済まないですよ?
電撃を纏う私の仲間は傷つきながらもまだ地団駄を踏む元気があるようですね。とはいえ、三人の中でも最も防御力の高い王の暗黒甲冑を以ってしても防ぐ事ができない。そして私の収束魔法でも攻撃が通らないとなると……お手上げでしょうか。
「考えても仕方あるまい。あ奴だけは……許してはならんのだ!」
体中傷だらけの王の言葉に私も頷き、立ち上がる。
そうですね。この身砕けようとも、あの機械人形だけは許してはなりません。
ですが、一体どうすれば良いのでしょう。
もしもあの子なら。あの不屈の心を持つあの白き魔導士ならどうするのでしょう。
そう考えて私は口元に笑みを浮かべました。
どうやら弱気になってしまっていたようです。
だって決まっているじゃないですか。
彼女なら決まってこう言うでしょう。
『全力全開』だって。
「行きましょう。私達の魔力ももう後僅か。だからと言って退く事もできない。アレを野放しにすれば間違いなくこの星は滅ぼされてしまいます」
「だよね。だったら僕らのする事はたった一つだ!」
「我らの命に変えてもあの機械人形は破壊する!」
そして示し合わせた訳でもなく、三人は各々のデバイスを前に出し重ね合わせました。
本能的にこれが最後であると。互いに顔を見合わせて笑い合う。
私達ならやれる。やってみせる。
そう、覚悟を決めた。その時でした。
突然、閃光が空を切り裂く。
驚く私達を尻目に上空に現れる一隻の艦。そこから飛び出してくる幾つもの機械人形達。
それらはどれも別々の形状をしていましたが、どこか似た様な顔をした機械人形が次々とあの白い機械人形へ攻撃を加えて行きます。
私達では傷一つ付ける事のできなかったあの機械人形が、その攻撃で初めて後退しました。
それを好機と見たのか、機械人形達は更に攻撃を加えて行きます。
私の収束魔法よりも更に収束された光線を放つ者や、直接光の剣や実剣で攻撃を加える者。何かビットの様な物を飛ばして攻撃する者。その様々な攻撃を受けて白い機械人形は後退を余儀なくされていきます。
当然、白い機械人形も反撃に転じます。光を収束させたあの剣を振り撃墜を試みますが、黒いマントの様な物を羽織り、額に髑髏のマークがある機械人形がそれを受け止めました。その手には白い機械人形に負けない程光を収束させた一振りの大きな剣。その剣で押し返すと、逆に機械人形を切り裂きます。
追い打ちをかけるのは白と紫の飛行機。
その飛行機が変形し、機械人形へ。体からは蒼い炎が噴き出しています。その機械人形は高速で近づくとその手の光の剣で一薙ぎ。続けて組みついての零距離射撃。これでは白い機械人形も光の防御壁を張る事ができません。機械人形はよろめき、再度光を収束し始めました。私は直感的にまたあの砲撃が来ると考え、二人に飛びつきました。ここではその余波が来てもおかしくない。私は必死にプロテクションを張り、その衝撃に耐えようとしたのです。
そして放たれる砲撃。私は二人を背に来るであろう衝撃に身を固くしました。
しかし……。
『大丈夫だよ。貴方達にはこれ以上絶対に危害を加えさせないから!』
それは光の翼を持つ機械人形。左肩に大きな砲台のある機械人形が大きな盾を翳して私達を守っていました。そしてそこから聞こえてきたのは意思のこもった女性の声。
「あ、貴方達は一体……」
『その話は後!もうすぐでアレを落とすから!それまで我慢してて!』
見れば、白い機械人形は体中から細かい火花を散らしていました。
動きもどこかぎこちなくなっています。
それは終わりが近い事を示すサイン。
その姿を好機と見たのか、機械人形達は攻撃を加速させていきました。
青と赤の機械人形の体が真紅に代わり、緑色の粒子をまき散らして残像を残しながら空を駆ける。似た形をした二つの機械人形の右腕には盾と一体化したような大剣。それを交差するように斬りつける。そこに追いついた機械人形がもう一体。その肩から外れたモノが変形し手のような形になり機械人形の頭を掴む。そこから目もくらむような光線が放たれ、機械人形の頭が爆発に包まれました。その一撃で白い機械人形の頭が吹き飛んだ様です。しかしまだ動く事ができるのか、その手はまだ光を収束し始めていました。
が、それより早く空より飛来する一匹の鳥。その体は赤熱し、まるで灼熱の火の鳥を連想させます。
そしてその火の鳥が白い機械人形に体当たりを慣行。何度も白い機械人形から巻き起こる爆発。それでも火の鳥は進むのを止めません。
遂に火の鳥が白い機械人形を貫いた。胴体を寸断され、下半身が爆発します。
残された上半身。その手は何かを掴むかのように空へと真っ直ぐ伸び、光の砲撃を放ちました。
もしかしたらそれは、機械人形が放つ最後の断末魔だったのかもしれません。
しかし、その光は次第に力を弱め、消え去るか否かの所で上半身も爆散していきました。
そう、悪夢の様なあの機械人形は別の機械人形達によって倒された瞬間でした。
私はそれをただ呆然と眺める事しかできませんでした。後ろでは二人も身を寄せ合い、私と同じ様に呆然としているでしょう。
そして私達を守ってくれた白と青の機械人形が私達に向けて片膝を付き、胴の一部分が開きます。
一体どんな人が出てくるのでしょう。助けられた事も忘れ、私は二人を守るべく思わず構えを取ってしまいました。
「貴方達、大丈夫!?」
しかしそこから出てきたのは茶色で長い髪の女性。人間です。どこかの軍服でしょうか。その姿は私も見た事がありませんでした。
彼女は急いで機械人形から降りてくると、一目散に私達に駆け寄ってきます。
その顔は今にも泣きそう。初対面である私達を本気で心配してくれているのが分かりました。
「ごめんね。来るのが遅くなって本当にごめんなさい!」
彼女はそう言って私達を力の限り抱き締めます。分かりません。理解できません。何故、この人は泣いているのでしょう。何故初対面の私達にこんなに涙が流せるのでしょうか。
私達三人は顔を見合わせて首を傾げるばかりです。
「でもよく頑張ったわね。貴方達が頑張ってくれたから、私達はアレに追いつく事ができたの」
「あ、あの。助けて頂いた事には感謝致します。でも……私達も唐突すぎて何も分からないのです。即座に説明を要求します」
すると彼女は「あっ!」と声を上げて、すぐに涙を拭きました。
そしてすぐに真面目な顔で私達三人を見つめてきました。
「そうだよね。いきなりだもん。訳が分からないよね。じゃあまずは自己紹介。私はマリア・オーエンス。地球圏地球連邦第00遊撃隊Spirits。セカンドVのパイロットよ」
な、何やら聞き慣れない単語ですね。って地球?まさか私達の時代の地球なのでしょうか?しかし折角自己紹介してくれたのです。礼儀には礼儀を持って返さなければいけませんね。
「私はシュテル。シュテル・ザ・デストラクターと言います」
「レヴィだよ!レヴィ・ザ・スラッシャー!」
「ディアーチェ。ロード・ディアーチェだ」
スカートの裾をつまんで会釈した私の後にレヴィとディアーチェも続きます。
マリアと言う女性もそのそんな私達に笑顔で何度も頷いてくれています。そしてハンカチを取りだすと私達の顔に付いた汚れや血を拭ってくれました。レヴィはそれが心地よいのか、猫の様にごろごろ言っています。 本当にこの子は疑うという事を知りませんね。
「でだ!あれは一体何なのだ?突然現れて折角復興していたこの星を滅茶苦茶にしていきおってからに!」
その雰囲気に我慢できなくなったのでしょう。王がまくしたてるのも理解できます。私だって本来ならばマリアを問い詰めたい。
アレは一体何なのか。そしてそれに良く似た機械人形に乗る貴方達も一体何者なのかを。
「そうだよね。アレは……世界を滅ぼすシステム。私達はSystem-∀と呼んでいるわ」
「システム……たーんえー、ですか?」
「そう。あれは突然この宇宙に現れた。そして文明のある星を襲っては根こそぎ文明を破壊し、星にリセットをかける。ある意味では星を浄化させるシステム。でもまたある意味では究極の破壊者……だと聞いてるわ」
「星の……リセット?」
レヴィの問いにマリアが頷きます。待って下さい。という事は……。
「アレの背に見えていた蝶の羽。あれは星の浄化を促すナノマシンの集合体。草も木も全てを一度分解し、星の養分にしてしまうの。そして星の自然治癒を促進し、復活させる。確かに究極の再生システムだわ。でもアレはそれを無差別に行っていた。そうなっては唯の破壊者でしかないわ。って言っても私達もあれが他の星を狙った所なんて初めて見たの。それまではずっと私達の星を攻撃してたからね。だから私達はアレを破壊する事にしたわ。そして今日。漸くあれを追い詰め、破壊する事ができたのだけれど……」
マリアが目を伏せる理由は分かります。彼女達は一歩遅かった。ここエルトリアはそのナノマシンによってリセットをかけられてしまった。しかし、私達にとっては逆。
星を再生するという願いが皮肉にも叶えられてしまったのだから。
「そう……大切な仲間だったのね。ごめんなさい。後もう少し私達が早く到着できていれば……」
「気にするでない。確かに犠牲は大きかった。だが、あ奴らも星が蘇ると知ればきっと喜んだだろう。今はそれを喜ぶべき……なの、だ。……くっ!」
王よ。涙が堪え切れていません。見て下さい。釣られてレヴィまで泣きそうではないですか。
かく言う私も、本当ならば大声で泣きたいくらいなのです。エルトリアに来てから四年。共に苦楽を共にした仲間が……逝ってしまったのですから。
『悲観するのはまだ早いぞ!』
突然上空からの突風。見上げればあの体から蒼い炎を噴き出す機械人形がゆっくりと降りてきました。
本当、どんな原理なんでしょうね?あれ。あんなに火を噴き出して爆発しないんでしょうか?
そしてその後ろには緑の粒子を背から散らす青い機械人形と、火の鳥の形から人型に変形した赤の機械人形が随伴しています。
「レン!どういう事!?」
髪を押さえてマリアが声を張り上げます。するとスッと青白い機械人形が手を差し出しました。
その手には眠る様に横たわるギアーズの二人とユーリの姿。
『ピンクの髪の二人はどうやらアンドロイドだ!体は破損してるが、AIはまだ生きている。体の修復は厳しいけど、そのAIを別の物に移植すれば復活できるかもしれない!それに金髪のお譲ちゃんは意識こそないが、体がなんでか再生を始めてる。きっと助かるぞ!』
聞こえてきたのは男性の声。私達は耳を疑いましたが、すぐにマリアが私達に抱きついた事で次第にそれが現実であったと認識させられたのです。
「ちょっと狭いけれど我慢してくれな?」
「遠慮なさらずに」
そして私は蒼の炎を吹き上げる機械人形。ええと、モビルスーツの中に居ます。
ギアーズの二人とユーリを助ける為に彼らの母艦に向かう為です。
三人の体はマリアが運んでくれる事になりました。そして私達もそれぞれモビルスーツに乗り込み今から彼らの母艦『ディーヴァ』に向かう事になったのです。
「え~っと、シュテル、で良いんだっけ?」
「あ、はい。貴方は?」
「俺はレン。レン・アマミヤだ。そんでシュテルが今乗ってるのが可変式モビルスーツ『デルタカイ』。よろしくな」
ヘルメットを外して見せたレンの顔。少し長めの黒髪に人の良さそうな少年が私に微笑みかけている。
「では改めて。シュテル・ザ・デストラクターです。お見知りおきを」
「ああ。よろしくなシュテル。あ、後俺はレンで良いからな」
「はい。では遠慮なくそう呼ばせて頂きますよレン」
彼の手を取り少し笑顔を浮かべる。エルトリアの日々は私に自然な笑顔をくれた。まだ少しぎこちないけれど、昔よりは笑えるようになったと思います。まぁレヴィみたいな能天気な笑顔は無理ですが。
「……!あ、ああ。よろしく」
何故でしょうか。レンの顔が少し赤くなった様な気がします。
尋ねてみましたが、レンは「そんな事ないぞー」としか言ってくれません。
変わった人ですね。
「そいじゃ、ディーヴァに向けて出発だ。舌噛むなよシュテル!」
「ご心配なく。高機動には多少慣れているつもりです」
「そいつは重畳!んじゃ!出発だ!」
ヘルメットを被ったレンの言葉の後、モニターに次々と光が灯りディスプレイに浮かび上がる『GUNDAM』の文字。
「ガン……ダム?」
「そう。この機体。いや俺達の部隊は大体がガンダムタイプと呼ばれるモビルスーツなんだ。ディーヴァにはまだ色々あるからさ。落ち着いたら見せてあげるよ!」
「はい。是非ともお願いします」
私の言葉にレンが「よっしゃ!」と小さく言った後、彼がペダルを踏み機体が浮き上がるのが分かりました。そして衝撃と共に変形した事が分かります。それから急な衝撃と共に機体が発進。私とレンはディーヴァに向けて飛び立ったのです。
その後、私のリクエストに応えて曲芸飛行をしたレンがマリアに通信で散々怒られてしまう羽目になってしまったのは蛇足ですね。
これが私とレンの出会い。
そしてこの時、私はまさか自分が『ガンダム』に乗り込み数多の戦場を駆け、また魔法の世界に足を踏み入れる事になるとは。
本当に微塵も考えていなかったのです。