魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第9話 対話

1

 

 

 

 ニューロの再侵攻から、早い物で半年近い時間が過ぎていた。

 しかし事態に大きな変化は見られない。それでもニューロは襲ってくる。地球目掛けてだ。

 そう。ニューロは地球を目指している。System-∀破壊前は人類に対し無差別に攻撃を仕掛けてきたニューロだが、今は戦いよりも地球を目指して侵攻している節がある。

 時折小競り合いはあるものの、大規模侵攻がある場合その目標は必ず地球に向いていた。

 目的は未だ不明だが、地球が狙われている以上地球連邦はそれを阻止しなければならない。

 そして変化の無い戦況に業を煮やした地球連邦は事態を打破すべく、地球を目前に艦隊を集結させる。

 新西暦201年12月の事であった。

 

 

 着々と連邦の艦隊が集結する中に、一際目立つ艦が一隻。

 まるで矢の様な形をしたこの艦の名は『ミネルバ』。Spiritsの新しい母艦である。

 彼らはこのミネルバと共に数々の戦果を上げ、その名は連邦の象徴ともなりつつあった。つい先月も大規模なニューロの侵攻を食いとめたばかりである。

 しかし、その裏で地球連邦上層部はカードを切っていた。Spiritsと連邦艦隊がバルバドロを抑えている間にアプロディアにコンタクトを取り、交渉を行ったのだ。結果この時もバルバドロを逃がしはしたものの、地球連邦はアプロディアに全面協力する方向に決定する。

 そしてアプロディアの情報と全面指揮の下、こうして大規模な防衛作戦を実行したのだ。

 しかし集結していく艦隊と前線にいる漆黒の不死鳥をモニターで眺め、ニキは不機嫌ありありといった顔をしていた。彼女だけではない。その横に居たマリアも、ブリッジに来ていたそしてレン達も。つまりはSpirits主要メンバー全員が不満な顔つきでこの様子を眺めていた。

 

 

「やっぱり納得できないですね。今回の作戦は」

 

 口火を切ったのはゾディアック。

 

「話が上手過ぎる。何故上層部は簡単にアプロディアの言葉を信用してしまったのでしょう?」

『……ゾディアック、君の言う事も分かる。確かに上層部は事を焦っている。私の目から見てもそれは明らかだ』

 

 そんな彼らの前。大型モニターに映っているのは神妙な顔をしたゼノン・ディーゲル。

 

『だが、彼らとて藁にもすがる思いなのは理解できなくもない。ニューロの存在が確認され、既に半世紀以上が過ぎた。その間に地球は疲弊した。同じ様に我々の心もだ。長い戦いに終止符を打つ為に結成したこのSpiritsは確かにSystem-∀の破壊に成功し、我々は束の間の平和を得る事ができた。だが終わっていなかった。やっと平和がやってきたと思った所にこの追い打ち。一度噛み締めてしまった平和を早く取り戻したいと思うのは当然だろう』

「その為に多少の不信感は置いておき、今は最も近道と考えられるアプロディアに協力した。そういう事ですか」

 

 ゼノンの言う事はニキにも理解できる。だがそれでもこれは焦り過ぎではないか。あまりにもアプロディアの言葉を鵜呑みにしている。それにこれまで神出鬼没だったバルバドロの出現予測位置を、こうも簡単に特定したのも不自然すぎる。故に今回の作戦は納得がいかない。それは彼女だけでは無い。誰しもが思っている事だろう。

 考えれば考える程、疑念は生まれてくるばかりだ。

 

『そこでだ。私は君達に極秘にある作戦を提唱したい』

「極秘に……ですか?」

『そうだ。かつて君達が体験した別次元の戦い。確かそこでもこのような未知との遭遇があったろう?』

「……ELSですね」

 

 マリアがぽつりと呟いた。

 ELS。別次元において地球に外宇宙から飛来した鉱物生命体の名称である。言葉を持たないその生命体にその地球では全面戦争にまで至った。人は脅威を払おうとしたのだ。しかしELSの真の目的は決して争う事ではない。自分達の母星が死に瀕し、新たに生きる場所を求めてやってきただけだ。だがそもそもコミュニケーションの方法が違う人とELSでは、そこに考えの違いが生まれてしまった。ELSは融合する事で人を理解しようとし、人はそれを侵略と受け取った。その結果の全面戦争。

 そしてそれを止めたのは1機のガンダムとそのパイロット。人類の革新。イノベイターと呼ばれる存在に上り詰めた1人の青年だった。

 

「まさかあれと同じ事を我々に行えと?」

『艦長、何から何まで同じ事を行えとは言わんよ。だが、状況は酷似している。やってみる価値はあると思うのだがね? キール。何の因果かお前は今、それを可能にする機体に乗っているのだろう?』

 

 その機体の名はダブルオークアンタ。

 かつてキールが搭乗していたガンダムエクシアとその後継機であるダブルオーライザー。そこから更に発展した機体である。それはゼノンの言う通り別次元でELSと対話を行った機体だ。

 

「だけど、俺はイノベイターじゃない。同じ事ができるとは思えない。それに俺の感応力はマークさんやレンに比べたらあまり強いとは言えないレベルだ」

 

 しかし当のキールはやや曇った顔だった。原因は本人が語った通りである。確かにキールの感応力は以前に比べて飛躍的に向上していた。だがマークとレンほど強くは無い。ましてあの時とは状況は酷似していても、肝心のパイロットはイノベイターではない。

 同じ事をしてもそれでは同じ結果にならないだろう。

 

「なら、1人でそれをやらなきゃ良いだろうが」

「レン?」

「お前、こういう時くらい頼ってくれても良いんじゃね? 艦長、俺とキリエがサポートします。デルタカイのナイトロを最大稼働。増幅器として使用すれば不可能じゃないはずです」

「ちょっとレン! それ本気で言ってるの!?」

 

 ヴンと音を立ててキリエが怒鳴り声と共に具現する。レンへの脳干渉を調節しているのは彼女だ。だが最大稼働となれば話は別。レンへの脳干渉は最大まで高まり、最悪脳を強化人間へと作り変えてしまうだろう。そしてそれはレンが別の人間になってしまう事を示していた。

 レンもそれは十分に承知している。しかし現状それしか方法が思いつかないというのも事実だ。

 

「危険は承知さ。キリエ、どれくらいなら俺は俺でいられる?」

「……せいぜい5分が限界だと思う」

「いいえ。8分まで可能ですよ。ゼロシステムとルシフェリオンをキリエのサポートに回します。これなら多少なりとも時間を稼ぐこと可能です。まぁそれでも追加3分が限界ですが……」

 

 それはシュテルだった。恐らくレンと同じ事を考えていたのだろう。すでに計算を行っていたらしい。

 そしてその目はキールを見据える。

 さぁ、状況は整った。後は貴方次第だと。

 これで追い詰められたのはキールだ。不可能ではないというこの状況。そして作戦の重要性は勿論彼とて分かっている。そして遂に彼は折れた。

 

「……はぁ。お前らそんなに俺に期待すんなよ。ったく、こんなにチップ上乗せされたんじゃおちおちフォールドもできねぇ。アミタ。サポート頼めるな?」

「はいは~い。お任せあれ~。クアンタの高濃度GN粒子。クアンタムバーストで得られた情報を私で処理してキールに届ければ、負担は大分軽減できるはずです!」

 

 キールの呼びかけに待ってましたとばかりにアミタが演算結果を述べた。妙に自信たっぷりに語る彼女にキールはやれやれと肩を竦める。どうやらキールがこの作戦を受ける事を信じていたらしい。

 

「但し、その間クアンタとデルタカイ。それにゼロカスタムは身動きが全く取れない状況になります。全てのシステムをこの為に使うから当然ですよね。それにシステムの連結作業には最低5分は必要です」

「つまりその13分がこの作戦に与えられた猶予。そしてその間この3機を無傷で守り通す必要があるという事ですか」

 

 13分。アミタの報告にニキは考え込んでしまった。

 この作戦は極秘であるが故に恐らく他部隊の援護は無いと考えた方が良いだろう。その間、なんとしても3機を死守しなければならない。勿論バルバドロはおろか、マスターフェニックスの妨害も有り得る。

 その分得られるかもしれない情報は、自分達にとって切り札になり得る可能性がある。

 勿論リスクは大きい。戦場で無抵抗のパイロットと機体を3機も作りだすのだ。

 ハイリスク、ハイリターン。

 5人の仲間の命と、情報の可能性。

 これを賭けのチップとして高いと見るか、低いと見るか。

 

「本人達がヤル気なんだしさ、止める理由はないんじゃないか?」

「そうそう。僕らがきっちり守れば良いことですよね」

「マスターフェニックスが出てきたら俺が相手をする。今度は負けねぇ」

 

 悩むニキを後押ししたのはマーク達だった。ラナロウとゾディアックは笑みを浮かべ、マークは決意を込めた瞳でニキを見ている。

 

「ハッ! 俺は別にこいつらがどうなろうと知ったこっちゃねーけどよ。どうせこいつらの周りにはニューロが大量に集まってくんだろ? 撃墜数稼ぐチャンスじゃねぇか。おもしれぇ。この作戦に俺もチップ上乗せしてやんぜ」

「もー、ブラッドは素直じゃないなー。あ、ボクは勿論シュテるん達を守るよ」

「だな。ニューロなんぞ我とユーリで片っ端から撃墜してやるわ」

「ですです~♪」

 

 いつになく自信たっぷりのディアーチェと隣で微笑むユーリ。レヴィにからかわれつつ、ブラッドも鼻を鳴らしているがこの作戦に賛同したようだ。

 

「ふふっ。艦長、みんなヤル気みたいですよ?」

「はぁ。どうやらその様ですね。中将、こちらの決意は固まりました。この作戦Spiritsメンバー総動員で必ず完遂してみせます」

 

 マリアの笑い声にニキも観念したようだ。そしてその宣言にゼノンも頷く。これにより作戦の決行が決定される。

 今、全てを知る為にSpiritsは敢えて別の道を行こうとしていた。

 

 

 閃光と爆発。飛び交うビームとミサイル。

 その戦場の中を漆黒の不死鳥は真っ直ぐにバルバドロに向かって飛翔する。だが、いつもの不死鳥よりもその羽は大きく拡げられ、無数に放たれる光線はニューロモビルスーツを全く寄せ付けない。

 まるで不死鳥から1本の槍となったかのように、それは真っ直ぐにバルバドロを目掛けて飛んでいた。

 ハルファスベーゼハルバード。

 ハルファスベーゼにハルバードユニットと呼ばれる追加装備を行った姿である。一点突破に長けたその機体が、味方であるはずの地球連邦の機体には目もくれず先行する。

 バルバドロ以外は眼中になく、ただひたすらにあの巨鳥を追い求める。

 勿論、地球連邦のモビルスーツも例外ではない。

 全てはバルバドロ破壊の為の手段。そして総力戦となった今回で戦いに終止符が打たれるだろう。

 その為に虎の子のハルバードユニットまで使った。それは槍の如く相手の陣を突き抜け、斧の如く相手を屠る強力な力。ただひたすらに前を向き、突き進んでいく彼女の決意と執念そのものである。

 

「見つけたぞ!バルバドロ!」

 

 遂にその瞳が巨鳥の背中を捕えた。立ち塞がるニューロモビルスーツにミサイルの雨を降らして蹴散らすと、アプロディアは照準をバルバドロの背中に向ける。

 放たれた4本の光線。クロスメガビームキャノンよりも更に出力の上がったクロスメガビームランチャーだ。その光線は艦の主砲クラス。それが4発。ニューロモビルーツを巻き込み。バルバドロの背中を直撃する。

 しかしそれでもバルバドロは振り返らない。アプロディアを一瞥したものの、すぐにその視線は遥か前方。地球に向けられ前進していく。

 違和感が彼女を襲う。

 普段なら真っ先に反撃してくる筈だ。しかし今日はいつもと様子が違う。真っ直ぐに、愚直なまでにバルバドロが向かう先。それは地球。

 

「まさか……、その身ごと地球に、アレに突貫するつもりか! やらせんぞ。やらせてなるものか!」

 

 彼女は知っている。何故バルバドロが地球を狙うのか。

 だからこそ、彼女は先陣を切り、ここまで一度も振り返らずに来たのだ。だからこそ、アプロディアの顔に焦りが浮かぶ。

 必死に追いかけ、ミサイルとビーム放ち、何度も止めようとするが巨鳥は止まらない。脇目も振らずにひたすらに前へ。そして背中に受けた攻撃すら推進剤にして、次第に距離が離れていく。

 だが、バルバドロを追っていたのはアプロディアだけではなかった。

 そこに追いすがるもう一つの影に彼女は気付いていない。いや、バルバドロに固執するあまり、気付かなかったというのが正しいだろう。

 アプロディアが起こした爆発と閃光の中から、それはいきなり飛び出してきた。

 第00遊撃隊Spirits母艦ミネルバである。

彼らはニューロモビルスーツを迎撃しつつ、バルバドロを探していたのだ。そして逃げるバルバドロと、追うハルファスベーゼハルバードを見つけるとニキはすぐに各モビルスーツを収容。予め設置していたハイパーブースターを使い2機を追いかけたのだ。幸いバルバドロとアプロディアは自分達に気付かず、アプロディアに至ってはニューロを撃墜してくれた。その閃光と爆発を隠れ蓑にして、Spiritsは漸く追いつくことに成功する。

 

『各機緊急発進! ミッションを開始します!』

 

 遂にニキから号令が下った。甲板に張り付いていた各モビルスーツ達が、一斉にミネルバから発進する。

 その距離はアプロディアよりもバルバドロに近い。後は道を作るのが彼らの使命。

 

『先陣は我とユーリが頂くぞ!』

 

 誰よりも先に飛び出したのはディアーチェとユーリだった。外見はフリーダムに似ているが、関節が金色に輝く。それはストライクフリーダムと呼ばれる機体だった。

 フリーダムの上位機種。より高い反射速度を求められる操縦はフリーダムよりピーキーだ。しかし2人はそれを苦も無く操ってみせた。そして彼女達の真骨頂である単機殲滅のフルバースト。みるみるニューロモビルスーツを撃ち貫く。

 そしてストライクフリーダムの左右に立つのは、レヴィのビギニング30ガンダムとブラッドのヤークトアルケーガンダム。

 

『レヴィ! こっちに合わせろ!』

『合点承知の助ぇ!!』

 

 アルケーガンダムの強化型であるヤークトアルケーガンダムには、GNランチャーが搭載されている。

 その砲撃に合わせるようにレヴィもifsユニットを展開し、巨大ビームサーベルを生み出す。

 放たれる砲撃と光の大剣。2機はそれを薙ぎ払う。ストライクフリーダムも前方に火力を集中。たった3機でみるみるバルバドロへの道が開ける。

 その脇を漆黒のガンダムがすり抜けた。まるで海賊のマントを羽織ったその姿。ラナロウのクロスボーンガンダムX1フルクロスである。鉄壁の防御を誇りながらも、元より高い攻撃力は少しも損なわれていない究極のクロスボーンガンダムだ。そして総数14基ものビームサーベルを発生させるムラマサブラスター。それをチェーンアンカーで振りまわせば、たちまち出来上がるのはニューロモビルスーツの残骸だ。

 巻き起こる嵐の惨状。近づけるニューロは居ない。ならばとニューロ達はビームライフルで反撃するも、フルクロスの名は伊達ではないのだ。X1フルクロスを包むi-フィールド。そして何層にも重ねあわされたABCマントを貫けるビームは1つとして無い。

 

『へっ! そんなんでフルクロスを落とせるかよ。ソディ、後は任せたぜ』

『ええ。了解ですとも』

 

 フルクロスの背後から姿を見せる異形のガンダム。鉄球と爪が付いた盾を構える灰色のそれが、凶悪な姿を以ってフルクロスの前方に躍り出た。

 機体名アマクサ。ジュピターガンダムと呼ばれるガンダムの亜種である。

 そしてそれに搭乗するのはゾディアック。ハイゼンスレイⅡ・ラーの代わりに彼が選択したのが、このアマクサだ。亜種、と言ってもやはりガンダム。その力は折り紙付きだ。

 バーニアから青白い炎を噴き出し、突貫をかけるアマクサ。盾に付随する大型クローが大きく開き、1機の胴を挟みこむ。そしてその勢いのまま、もう1機にそれを叩きつけた。轟音と共に弾かれるそれにゾディアックはビームライフルの照準を合わせると、正確に撃ち抜く。その間にも爪に挟まれたニューロモビルスーツの体がギシギシと嫌な音を立てて軋む。

 遂に爪がニューロの胴を砕いた。同時に離脱するアマクサ。先に撃ち抜かれたニューロと一緒にそれは爆発を起こす。

 その爆発を突き抜けるようにアマクサをビームが狙った。しかし、それを阻む光の壁。オプションパーツとして搭載されたi-フィールドだ。光の壁に守られながらゾディアックはパネルを操作し、盾を変形させる。

 現れたのは鎖に繋がれたフレイル型のハイパーハンマーだ。それを大きく振りまわし、圧倒的な鉄球の質量を以ってアマクサはニューロを粉砕する。

 ビーム兵器が主流の昨今だが、こんな質量兵器もまだまだ現役だ。ビームの様な派手さは無いが、確実にダメージを与える事ができる。堅実なゾディアックらしいチョイスだ。

 そこに追いつくフルクロス。ディアーチェ達が作り出した道をこの2機が更に切り開く。

 だが、突然警報が鳴り響いた。伸びてくる真紅の光線が襲いかかる

 ビームの先を見れば、やはりと誰しもが思うだろう。

 その両手には大型の大剣。悠然とその機体はラナロウとゾディアックを見降ろしていた。

 マスターフェニックス。燃える真紅の機体がバルバドロを守るように立ち塞がる。

 

『まさか母艦のフルブーストで距離を詰めてくるとは恐れ入ったよ。だが甘い。俺が居る限りバルバドロには傷つけさせやしない』

『破壊だけが全てじゃないってな!』

『マークか!』

 

 ビームの雨がマスターフェニックスを狙う。それはマークのフェニックスガンダムが両手でビームライフルを持ち、連射したもの。それから逃れようとしたマスターフェニックスに、今度はメガビームキャノンを放つ。

 自分を狙う4本の光線を掻い潜り、マスターフェニックスもソードメガビームキャノンを放った。フェニックスガンダムは機体を翻して避ける。そして距離の詰まった2機。互いに近接武器に変えて正面からぶつかり合った。

 

『どういう事だ! バルバドロの破壊が目的じゃなかったのか? だから君達はあいつと手を組んだんじゃないのか!!』

『連邦の全てがアプロディアに従ってると思うなよ? 俺達は俺達の道を行く! その為にはお前達ニューロを知らなくちゃならないんだ!』

『ニューロを知るだって?』

『まずは対話からってな!』

 

 フェニックスガンダムがマスターフェニックスを押し出しラナロウ達から遠ざける。すかさずフェザーファンネルを射出。全方位攻撃でマスターフェニックスを狙うが、彼も巧みに大剣を操りこれを防いでいる。そして一瞬の隙に再び斬りかかり、マークもそれに応戦。2羽の不死鳥は互いに付かず離れず。何度もその刃を交える。

 鍔迫り合いの中コードフェニックスは、驚きに目を見開いていた。

 遥か遠く。バルバドロの近くで仲間達に守られた3機の機影。

 デルタカイ、ゼロカスタム。そしてダブルオークアンタ。互いにコードで連結し、何かの準備をしている。その光景にニヤリとほくそ笑む。

 そうか。彼らはその道を選んだか。ならば今こそ真実を語る時かもしれない。

 

 

 世界の真実が暴かれようとしていた。

 

 

 

『ゼロシステム、ナイトロに同調完了。システム処理誤差0.05sec。こっちの準備は完了です』

『こっちの準備も完了。予定通りクアンタムシステム開始と共にナイトロをフル稼働。俺の感応力を最大限まで高める。後はキール、思いっきり呼びかけろ!』

「了解だレン。さぁ行くぞアミタ! 俺達の声をバルバドロに届けるんだ!」

「はい! もー思いっきり叫んじゃいますよ!」

 

 傍らのパートナーがいつもの元気な笑みを浮かべ、キールの手に自分の手を重ねる。

 実体は無いが、確かにキールはそのぬくもりを感じていた。機体越しであるにも関わらず、隣に居るレンとキリエ。シュテルの気配もはっきりと感じられる。

 イケる。今、キールは自分の感応力が最大限まで高まっているのを感じていた。

 そんな今だからこそ、はっきり言える。

 絶対にこの対話は上手くいくと。

 だから高々に叫ぼう。その鍵となる言葉を。

 始めよう。人類がニューロを知る第一歩を。

 

 

「「クアンタムシステム作動! クアンタムバースト!!」」

 

 

 ダブルオークアンタから緑色の光柱が立ち上った。

 その光は縦横無尽に宇宙を駆け廻り、バルバドロも、ニューロも、仲間も、コードフェニックスも、アプロディアも飲み込んでいく。

 

「シュテル! キリエ! 行くぞ!」

「『はいっ!』」

「ナイトロ、最大稼働!」

 

 光の中、レンもナイトロの最大稼働を開始した。今度はデルタカイの全身が蒼炎に包まれる。その炎はみるみる大きくなり、遂にはクアンタの光柱と同じ現象を生み出す。

 淡緑と蒼炎。

 2つの色が互いに混じり合い、渦を描き、宇宙を光に包んでいく。

 まさにその姿は幻想的。青く美しい星を背に1つの銀河が生まれ、星が生まれ、輝きを始める。

 誰しもが戦いを忘れこの光景に見入っていた。それは人間だけではない。ニューロもまたこの光景に見入っているのか、どの機体も動きが止まっている。バルバドロですら、動きを止めてクアンタとデルタカイを見つめていた。

 

 

 始まりは十字架が描かれた一冊の書物が引き起こした暴走。

 崩壊する世界を見つめる銀髪の女性が1人、その悲しげな紅瞳からは涙が流れていた。

 全てが終わり、残ったのは地下に隠された演算システムと衛星のバックアップシステム。

 この世界の英知の粋を結集した装置の名は『ジェネレーションシステム』。

 自己で思考し、行動に移す事ができる、魔導炉搭載型システムである。

 『彼女』は人間が好きだった。誰も居なくなった世界の孤独に耐えられなかった。

 みんなに会いたい。笑い声が聞きたい。笑顔が見たい。共に居たい。

 それは恋慕する少女のよう。

 彼女はあらゆる手を尽くし、自己を進化させ、数々の次元世界を見て、考えた。

 そして遂に、彼女は自分の中に世界を生み出す事に成功する。

 彼女の子とでも言うべき世界は、成長し、どんどん大きくなっていった。

 彼女が基盤にした惑星。その名を『地球』と言った。

 

 時は流れる。

 『彼女』は大きくなりすぎた自分の意識をあるプログラムに集約させ、世界を見守っていた。

 それが『アプロディア』。この世界の女神である。

 ある日、アプロディアは世界に異物が紛れこんだ事を感じ、調査に赴く。

 それが、崩壊の始まりだということに気付かずに。

 

 それは異常な速度でシステムを侵食していった。一体それが何であるか分からず、アプロディアはバックアップシステムに逃げるのが精一杯。だが所詮はバックアップ。世界を維持するのがやっと。その間にもシステムの大半を掌握したそれは、彼女が基盤にした世界の兵器を以って人類に対し宣戦布告を行う。

 その兵器の名はモビルスーツ。

 そして、先頭に立つ白き悪魔を人は『System-∀』と呼んだ。

 アプロディアは世界の維持で手が出せない。故に彼女は人に賭けた。

 モビルスーツに対抗するにはモビルスーツ。だから人にもこの知識を授けよう。

 いつか、きっと、この災厄を振り払ってくれる事を信じて。

 

 

 彼女の願いが叶うのは、実にこれより50余年の月日が流れた頃だった。

 

 

「だが、奴は生きていた。確かにSystem-∀にいた奴は消えたけど、それが全てじゃなかったんだ。システムの中に残された断片はゆっくりと再生を進める。だからアプロディアは決意し、バルバドロを生み出す。バルバドロはカウンタープログラム。最悪、ジェネレーションシステムを破壊する為のね」

「おい待てよ! そうしたらこの世界はどうなる? 俺達はどうなるんだ?」

「安心しなよ。既にバックアップの補強は完了している。ホストサーバーが死んでもバックアップがある限りこの世界は消えない。その間にジェネレーションシステムは修復するさ」

 

 マークはコードフェニックスの声に耳を傾けながらも、未だそれを全て理解した訳では無い。

 ジェネレーションシステム? この世界がそのシステムによって作られた世界? カウンタープログラム? バックアップ?

 目の前の男は一体何を言っている? 信じられない。信じられるものか。

 淡緑と蒼炎の銀河が生み出す意識共有世界。気を抜いたら今にも発狂しそうな自分を必死に抑えつける。

 だがその身はガクガクと震え、脂汗が噴き出している。理性と本能。その境界は脆く、今にも崩壊を起こす寸前。

 待てよ? マークは不意に気がついた。いや、気付いてしまったと言うべきか。

 理性が告げる。それを聞いてはいけない。聞いたら戻れなくなると

 本能が囁く。今更何を躊躇う? そもそももう戻れない領域に踏み込んだではないかと。

 

 ……ああ。確かにもう戻れない。ならもう良いだろう? いっその事楽になってしまいたい。

 

 普段なら踏み留まったかもしれない。しかし既にマークの理性は限界だった。

 そしてその手は、禁断の領域へと続く扉に手をかける。

 

「つまり、ニューロっていうのは……」

「本質的には君達と同じ。違うのは一方が自我を確立した人間。もう一方がシステムの情報端末であるという点くらいかな」

 

 扉は簡単に開き、答えは呆気なく返ってきた。

 勿体ぶる事も無く、本当に呆気なく。ごくごく当たり前の変哲も無い日常会話の様に。

 真実は本当にいつも残酷だ。そして。真実に耐えられなかった不死鳥が叫び声を上げた。

 

 

 シミュレーテッドリアリティ。いや、この場合シミュレーション仮説か。

 バルバドロとの意識共有の中、キールはぼんやりと考える。

 どうやら自分達はパンドラの箱を開けてしまったらしい。待っていたのは、自分達の存在を根本から覆す絶望だった。

 

 いやいや、どうしてどうして。こりゃ確かに絶望だわ。

 

 笑いさえ浮かんでくる。だが思ったより心は穏やかな自分に驚く。

 実際受け入れ難い事実なのは間違いない。ふざけるなと叫び喚き散らせれば、どんなに楽だろうか。

 なら何故そうしないのか。それはキールが知っているからだ。かつて自分達が疑似体験した世界の人々を。擬似体験という事はその世界もまた、1つのシミュレーテッドリアリティだ。

 その世界の人々は確かに、そこに、存在して、生きていた。懸命に激動の時代を生きようとしていた。

 生き抜いた者もいる。志半ばで散った者もいる。心を通わせた者だっている。

 そこには紛れも無く、確かな命があった。

 今の自分達を否定するという事は、あの人々の熱い命を否定するという事だ。

 

 そんな事できない。できる筈がないだろう?

 

 傍らにいるパートナーを見る。彼女はキールの手を握り、にこりと笑う。

 これだって。湧きあがるこの感情は本物だ。何者にも変えられないこの感情を、プログラムなんて言わせない。言わせてなるものか。

 今、自分達は生きている。それだけで十分だ。世界の成り立ちだとか、自分達がどんな存在だとか、そんなの関係無い。どうだっていい。俺達は今を生きている。明日を求めている。それこそが、その意思こそがパンドラの箱の底に眠っている最後の希望。

 

 だから。

 

 

「教えてくれバルバドロ! 俺達が本当に戦うべき存在を! システムを狂わせたそいつの名前を!」

 

 

 ナハトヴァール。

 それが真の敵の名。バルバドロがその命を賭けて、破壊するべきモノの名だ。

 バルバドロが静かに応えた。

 

 

「彼は強いね。本当に強い精神の持ち主だ」

「ああ。悔しいがあいつの言う通りだ。確かに俺達を否定する事は、あの世界のみんなを否定する。それだけはあっちゃいけない。そうさ。あっちゃいけないんだ」

 

 キールの叫びはマークにも伝わっていた。それは一度切れた彼の精神を再び繋ぐ。

 その様子にコードフェニックスは安堵する。正直、分の悪すぎる賭けだったと言って良いだろう。いかに精神力が強くても、それには限界がある。それほどの事実と絶望だ。

 しかしあのキールという少年はそれを乗り切った。彼だけではない。彼の叫びに呼応したSpirits全員が乗り切ったのを感じる。

 やはりこれを乗り切れるとすれば、彼らで間違い無かった。

 世界には知らなくては良い真実が存在する。これはまさに知らなくても良い真実だ。

 きっと全てが終わった後、アプロディアによって干渉が行われるだろう。本来なら好ましくないし、あってはならない事だがこの際仕方ない。この真実は『人』には残酷過ぎる。

 後は、滞りなく全てが終われば良い。バルバドロがジェネレーションシステムを、ナハトヴァールを破壊すればそれで……。

 

『しまった!!』

 

 どうして忘れてしまっていたのだろう。何故こんなにも大事な事を忘れてしまっていたのだろう。

 意識共有世界から強制的に抜け出し、コードフェニックスは機体を走らせる。それをフェニックスガンダムが追いかける。マークも気付いたのだ。バルバドロは倒すべき敵では無かった。

 だが、バルバドロを破壊せんと執念を燃やす者がいるのだ。

 

 間に合え!

 

 祈りにも似たそれと共に、2羽の不死鳥が銀河を飛んだ。

 しかし、やはり真実は残酷だ。2人の目の前で銀河が大きく引き裂かれた。

 

 

 大きく息を吐きだす。頭が割れる様に痛み、吐き気もする。

 それでもキールはすぐにモニターを見た。ギリっと奥歯を固く噛み締める。

 巨鳥がその身を大きく切り裂かれていた。

 それは巨鳥の体を、左右に引き剥がしていく。ブチブチと引きちぎれる音が今にも聞こえてきそうだ。

 オイルか何かだろうか。ドス黒い液体が勢いよく噴き出し、その機体の全身を濡らす。

 まるで返り血を全身で浴びて歓喜に震えるかの如く、黒き不死鳥の双眸が光を放っていた。

 

「バルバドロ!」

 

 キールが手を伸ばす。当然届く訳がない。それでもキールは手を伸ばした。

 ゆっくりと地球に降下していく巨鳥。青く輝く星を背に、体が真っ赤に燃えあがる。

 その一つ目はクアンタを。キールとアミタを見ていた。何か言いたそうだが、今となってはそれも叶わない。

 そして遂にバルバドロは爆発を起こし、その身が砕け散る。

 炎の塊が散り散りになって地球に消えていく。空を掴むキールの手。その手を固く握りしめ、キールはハルファスベーゼを睨みつけた。

 黒き不死鳥は、ただ冷やかな瞳でキールを見ていた。

 

『ふん。カウンタープログラムの癖に手こずらせおって。……おお、力が湧きあがるのを感じるぞ。これこそ待ち望んだ我が力! コードの力!!』

『……一体何なんだよアンタ……』

『レン! 無理しちゃ駄目!』

 

 デルタカイが銃口をハルファスベーゼに向けていた。だがレンの体中から冷えた汗が噴き出し、その顔には血の気が見られない。ナイトロの酷使で意識も朦朧としている。キリエの制止も果たして耳に入っているか疑わしい。

 キールの頭痛も酷くなっていた。イノベイターでない彼がGN粒子を使って強制的に精神を繋いだのだ。

 それは短時間でも相当な負担になっているのは明白。

 

「ああもう! さっきから訳わかんねぇことベラベラ言ってんじゃねぇよ! アンタ一体何なんだ!!」

 

 しかしそれでも。彼は眼前の不死鳥に剣を向ける。

 やっと本当の敵が見えた。やっとこの馬鹿げた戦いの果てが見えた。

 だが目の前の不死鳥はいとも容易く破壊してしまった。それ故に彼の怒りは収まる所を知らない。

 

『そうだな。もう隠す必要もあるまい。我が名はアメリアス。コードアメリアス! アプロディアに代わり、ジェネレーションシステムを統括する者! 全ての人間、地球の生物は我に従うのだ!』

 

 ハルファスベーゼの姿が揺らぐ。その姿を変容させていく。

 代わりに姿を見せたのはまた赤黄の機体だった。フルクロスの様に真紅のマントを羽織ったかの様な姿。

 仮面を被ったかに見えるその姿は、これから仮面舞踏会に行くか淑女のように華やかだ。

 しかし、バラに棘があるように。甘い香りには毒があるように。

 それは全てに対し、明確な敵意を以ってその場に佇んでいた。

 

『さぁ宴の時間だ! 我と愛機クイーンアメリアスと共に人間よ、踊れ! 死の舞踏会の開幕だ!!』

 

 クイーンアメリアスから虹色の光が放たれた。その光は瞬く間に宇宙を埋め尽くし、漆黒の宇宙が七色の極光に包まれる。

 七色の極光が明滅する。その明滅の中、彼らの目の前で信じられない光景を目の当たりにする。

 急に戦闘が始まったのである。戦っているのはニューロではない。地球連邦の機体同士が争いを始めたのだ。味方同士が銃を取り、剣を振り抜く。そんな地獄絵図。阿鼻叫喚の世界が広がる。

 

「キール!? どうしたんです! しっかりして下さい!」

「がああああああああっ!!」

 

 まだ地獄は終わらない。

 レンの耳に入ってきたのは、アミタの叫びとキールの咆哮。

 何だ。何が起こった? レンがデルタカイの手をクアンタに伸ばしたその時だった。

 機体を繋ぐケーブルを引きちぎり、クアンタが手に握った剣でデルタカイの胸部を切り裂く。

 胸部とコックピットブロックが爆発を起こし、力無く離れるデルタカイをゼロカスタムが受け止める。

 

『キール、何やってんのよ! アミタ! キールを止めて!!』

「さっきから呼びかけてます! でもキールが……キールが!」

『無駄だ。デルタカイの娘よ』

 

 クアンタの隣に降り立つクイーンアメリアス。

 彼女だけでは無い。共に降り立つモビルスーツにキリエは息を飲んだ。

 クロスボーンX1・フルクロス、ヤークトアルケー、アマクサ。

 仲間達の機体。それがクイーンアメリアスを守る騎士の如く、そこに並んでいる。

 

『アプロディア……ううん、アメリアス! 仲間に何をしたの! 答えなさい!』

『裏切りのコードの力だ』

『コードフェニックス!?』

 

 答えたのはコードフェニックスだった。彼はフェニックスガンダムと共にゼロカスタムの隣に立つ。レヴィとディアーチェもやってきた。傷ついたデルタカイを守るように立ち塞がる。

 

『コードとは世界に干渉する力。即ち、ジェネレーションシステムへの強制干渉。……それにしても裏切りのコードとはまた、悪趣味な。いや、あんたにピッタリかもな。アメリアス!』

『何とでも言うが良い。こやつらは既に我が下僕。貴様らは今、こやつらにとっての敵ぞ? さぁどうする? 仲間を討つ覚悟が貴様らにあるか?』

「……ふざけんな……」

 

 得意げに語るアメリアスの声を遮る声。それはクアンタから聞こえてきた。瞬間、全員の通信モニターが開く。キールだけでは無い。ラナロウ、ゾディアック、ブラッドの3人の顔も映っている。その表情は苦痛に歪んでいた。必死でアメリアスの呪縛に抗っている。その様子にアメリアスは真っ赤な舌で艶やかな唇を舐め上げ、妖艶な笑みを浮かべた。

 

『ほぅ。まだ抗うか。素直に従えば楽になれるものを……なぁ?』

 

 閃光と共に電撃が走る。クイーンアメリアスの手から伸びた光の鞭が4機を絡め取り、電撃を流し込んだのだ。通信越しにキール達の叫びが聞こえる。無論、アメリアスは電撃を弱める事はしない。それは彼女の歓喜。愉悦。そして快楽。心を折り、屈辱という名の靴を舐めさせ、主従関係を叩き込む調教の電撃。

 甘美な絶叫がアメリアスの体を火照らせ、とろけさせる。

 誰一人として動けない。動く事ができない。快楽の笑い声と苦悶の絶叫に足が竦み、手が震え、数々の戦場を潜り抜けた戦士達を恐怖が包み込んでいた。

 

「レンっ!! アミタを……頼む」

「えっ!? キール!?」

 

 クアンタのコックピットが開き、何かが投げ出された。それは銃。アミタの命が込められたヴァリアントザッパー。それは真っ直ぐに、ふわふわとデルタカイのコックピット。キリエの手の中に収まる。

 それを確認して安心したのか、電撃の出力に耐えられなかったのか。

 キールが意識を失った。ブラッドが、ラナロウが、ゾディアックが次々と意識を失う。

 それと同時に機体達も力を失い、鞭に絡め取られたまま、だらりと四肢をぶら下げた。

 

『クククッ。これで良い。次に目が覚めた時は我の忠実な下僕となっていよう』

『アメリアス!! 貴様ぁ!!』

 

 怒号を上げるは、両手に大剣を構えた不死鳥。

 しかし、彼女はさして興味もなさそうにそれを一瞥する。

 

『カウンタープログラムを失ったお前に何ができる? だが足掻くというなら止めはせんよ。精々、その羽で喚いてみるがいい』

『待て!』

 

 コードフェニックスが呼び止めるが、勿論彼女がそれを待つ事など無かった。

 クイーンアメリアスは再びその姿を揺らがせると、キール達と共にその姿を霧のように消してしまう。

 

『ちくしょ――――――ッ!!』

 

 七色に輝き、連邦軍が争いを続ける地獄絵図。

 そこにただコードフェニックスの叫びだけが木霊していた。

 

 

 

 

2

 

 

 

「あたし、思うんだ……」

「なにが~?」

「あんたのその異様なワガママと強引さは見習うべき所があるって!」

「わーい、褒められた~♪」

 

 ミッドチルダ東部12区「パークロード」。

 そこはミッドチルダにおける若者の街。数々の流行が生まれ、世に発信される若者の街だ。

 周りを見渡せば人、人、人。休日という事もあり、パークロードは若者で大いに賑わっていた。

 とにかく周りは人だらけ。そんな中を私服姿で満面の笑みを浮かべたスバルと、仏頂面のティアナが歩いている。

 いつもなら週末も自主訓練を行っている2人であるが、今週はグランド整備の為に訓練禁止が言い渡されていた。スバルはその休みを利用し、姉であるギンガに会うと言う。それに誘われたティアナだったが、最初はそれを丁重にお断りしていた。

 が、スバルの我儘と強引さを甘く見てはいけない。事あるごとにこの話題を出され、ティアナは結局連れ出されてしまっていた。

 彼女としては間違っても褒めたつもりはない。しかし、スバルはどうもそれを都合よく解釈したようだ。

 それでもティアナは諦めない。本当に挨拶をしたら帰るつもりでいたのだから。

 だが、それは少々見通しが甘いと言わざるを得ないだろう。

 スバルが何故この性格になったのか。そして誰がスバルの教育を行っていたのか。

 少し考えれば分かったはずなのだ。

 後にティアナはこの時の事をこう語る。

 やはり姉妹は似るものだ、と……。

 

 

「ギン姉~~」

「スーバルー」

「……何あの姉妹……」

 

 確かにティアナの呟きは正しい。目の前で手を組み笑いながらぐるぐる回転している姉妹を見れば、誰でもそう言うに違いない。いや、仲が良いのは分かる。しかしその後にスバルの拳による連撃をギンガがまるでミット打ちの様に掌で捌くというのはどうであろうか。挨拶代わり。いや、日頃の鍛錬の成果を確かめるようにそれを行う姿は、どう考えてもおかしい。

 

「そうだギン姉! こちらがランスターさん」

「ど、どうも……」

「初めまして。スバルがいつもお世話になっています。姉のギンガ・ナカジマです」

 

 腰まである紫色の髪を揺らしてお辞儀をする姿は、大人びて見える。確か、年齢はスバルよりも2つ上。

 ティアナにしてみれば1つ年上だが、ギンガはそれよりも大人の女性に見えた。

 そう。最初のスバルとのミット打ちさえ無ければ、である。

 あ、なんか失敗したかも。

 素直にティアナはそう感じていた。

 

 現在、スバルは露店のアイス屋にアイスを買いに行っている。

 その間ティアナとギンガはベンチに座り、お互いの事を語っていた。

 産んでくれた両親との別離。そして唯一の肉親であった兄も3年前に殉職した。

 ティアナからその事を聞いたギンガは、次に自分の母の事を語る。

 管理局局員であり、捜査官でもあった母。そしてスバルのシューティングアーツとは元々その母が得意とした格闘技であると言う事。スバルも基礎は行っていたが、他人を傷つける事や痛い事、怖い事が嫌だとあまり真面目に行っていなかったという事。

 しかしある事件がスバルの意識を大きく変える。

 それは昨年に起こった空港火災。彼女はそこで憧れを見つけた。

 高町なのは教導官。

 憧れを見つけて、弱くて泣いてばかりの自分を見つめて、強くなる事を決めた。

 それがスバルを支えている。それがスバルの見つけた道。話には聞いていたものの、こうして改めて聞いても驚きを隠せない。

 

 

「でも凄いですね。その転身ぶり」

「そうね。でもそれだけじゃないの。なんていうかな、刺激を与えてくれる人がスバルの友達になってくれたから。身近で頑張ってる人を見て、スバルも負けたくないって思ったみたいなのよね」

「ああ……。レンさんとシュテル。それにレヴィとディアーチェですね」

 

 ギンガが誰の事を言っているのかはすぐに分かった。というか、それしか思い浮かばない。

 見ればギンガが苦笑していた。気持ちは分かる。ティアナもつられて苦笑してしまった。

 

「そうそう。特にレンさんとシュテルにあの子懐いててね。そう言えば、スバルのメールでレンさん達も誘うって書いてあったけど、一緒じゃなかったの?」

「なんか、今日は予定があるみたいですよ。なんかレヴィとディアーチェは一度家に帰るって言ってましたし、レンさんとシュテル。後、キリエも知り合いと会うって言ってましたよ」

 

 事実である。

 長く家を開けた為、ディアーチェとレヴィ。そしてユーリの3人で一度家に帰った。そこで誰と会うかまではティアナも知らない。そしてレン達もまた知り合いに会うと言って今朝早く出て行った。

 その事を聞いたスバルが涙目になり、何故かレンがシュテルの一撃を貰っていたのは記憶に新しい。

 レンが「理不尽だ~!」と叫んでいた声が耳に残っている。

 

「そっか~。残念。久しぶりにみんなに会えると思ったのにな~」

「……こればっかりは仕方ありませんね」

「そうよね~。あ、そういえばランスターさんはどんな魔法が使えるの? あの子のメール、ランスターさんの事、いっぱい書いてるのよ」

「え~? 別に普通ですよ。魔法もミッド式で射撃しかできない凡人ですし。サポート用に幻術系をちょっと練習して……ます、けど?」

 

 恐らく今日何度目かの後悔だろう。スバルが帰って来るまで目をキラキラさせて、根掘り葉掘り質問責めにされてしまい、ティアナはぐったりと肩を落とすのだった。

 

 

 所変わって同パークロード別地区。

 カフェテラスに座った男女。男はブラックコーヒー。少女達は紅茶を飲んでいた。

 右にはピンクのスカートにボーダーシャツ。その上に白のジャケットを羽織るキリエ。

 左にはフリルをふんだんに使った白のブラウスと紺のフレアースカートとカチューシャ姿のシュテル

 その間に居るのは、フェイクタイのシャツにジャケットとジーンズを履いたレン。

 彼らの前には特大のパフェが1つ、ドンと置かれている。

無言でレンは2人を見る。シュテルとキリエはその瞳をキラキラと輝かせている。

改めて交互に顔を見る。2人の無言の催促。諦めたレンはスプーンですくうと、一口目をシュテルに。二口目をキリエに食べさせた。

 

「ん~♪ おーいしーい!」

「ふむ。この滑らかな舌触り。口いっぱいに甘さが広がるのに、それが嫌味でも何でもなく、むしろ次を早く口に入れたくなる欲求を掻きたてる。まさに究極。至高のパフェですね!」

「……お前は何者だ。何処の評論家だ」

「愚問ですねレン。味の分析は基本中の基本。ましてミッドでもトップと名高い有名店のパフェを口にして、語らない事などできましょうか! いや、語らなければいけないのです!!」

「そうよ~。レンも食べてみれば分かるわよ。すっごく美味しいんだから。正にスイーツは人類を幸せにする最終兵器ね!!」

「いや、俺甘いの苦手なんで……。っていうか、自分で食えよお前ら」

「「だが断る!!」」

「うぜぇ!!」

 

 2人の欲求は抑えられない。仕方なくまた交互に食べさせるレン。その姿は飼い主がペットに餌をあげているようにしか見えない。2人の顔が妙に笑顔なのもそれに拍車をかけていた。

 

「ごめんごめん! 遅れちゃった!」

「おー。やっと来たか」

「会議が長引いちゃって……って、何してるの?」

「ん? ……餌付け?」

「何で疑問形なのかな?」

 

 そこに賭け足でやってきたのは黒スーツ姿のフェイトだった。首を傾げる彼女にレンはぐったりとした笑みを浮かべる。そんな彼女に気付き。ナプキンで口を拭きつつも澄まし顔のシュテルと、にこやかに軽口を言うキリエにフェイトも破顔する。

 席に付き、フェイトもコーヒーを頼んだ。レン達も追加の飲み物を注文する。

 始まるはお互いの近況報告。フェイトもレン達が訓練校で頑張っている様子を聞いて満足そうだ。彼女も彼女で自分が保護した少年と少女の話で盛り上がっていった。

 

 そしてその様子を遠くから眺める影が3つある。

 休憩にカフェエリアへ来ていたティアナ達だ。

 始めに気付いたのはやはりスバルだった。持ち前の視力の良さと嗅覚でレン達を発見。すぐさま駆けだそうとした瞬間、ギンガとティアナに取り押さえられたのだ。

 どうやら人と会っているようなのでその場を離れようと提案したティアナだったが、不服を唱えるスバルと、口では賛同しながらもちらちらと見ているギンガに折れる形でこのまま居座ってしまっている。

 

「……まさかハラオウン執務管まで来るとは思わなかったわ……」

「良いなぁパフェ……」

「私も食べたい……。でもあんなの1人で食べたら体重が……」

「うん。ちょっとそこの2人は1回黙りましょうか。そして何で1人で食べるの前提ですかギンガさん」

 

 素直に管理局の有名人の登場に驚く。フェイト・T・ハラオウン執務管が来るとは思っていなかったティアナと、明らかに論点が狂っているスバルとギンガだ。思わず素で口を入れてしまった。

 2人が涙目でティアナを見ている。それを無視して、ティアナは再びレン達に目を細める。

 驚くべきはレン達の人脈だ。何故あんなに局の有名人と知り合いなのか。本当に謎は深まっていくばかりである。

 思い切ってギンガに尋ねてみた。しかしギンガは首を横に振る。

 

「そうですか……」

「あ、レン兄達席を立つみたいだよ!」

 

 スバルの言葉に2人も視線を向ける。すると既にレン達は席を立ち、握手を交わしていた。

 遠ざかるフェイト。逆にレン達はこちらに向かって歩いてくる。

 

「やばっ! 2人共、今すぐここを離れましょ!」

「え~? どうして?」

「考えてもみなさい! ここでこそこそと様子を窺ってるのがバレたら、気不味いでしょうが!」

 

 またもや不服のスバルに手早くティアナが説明したが、その袖をギンガが引っ張る。

 見れば彼女はにこやかな笑顔を浮かべて、こう一言。

 

「もう無理みたいよ?」

「え?」

 

 恐る恐る彼女の指さす方向を見る。そこにいたのは大きく手を振っているキリエと、呆れ顔のシュテル。

 そして極めつけは、今にも噴き出しそうなのを我慢しているレンだった。

 

「うわ~い、レン兄~♪ シュテル姉~♪ キリエさ~ん♪」

 

 たったかと駆けだして行くスバルの姿にティアナは口をひきつらせ、途方も無い頭痛と眩暈を覚える。

 だから会いたくなかったのだ。絶対話のネタにされる。自分が笑い話のネタにされるのだけは、どうにも我慢できない。

 がっくりと項垂れる彼女の肩を叩く人が1人。見ればギンガが素晴らしく良い笑顔でサムズアップしている。

 諦めましょう。

 そう言っているようだった。

 

「えぇーい! こうなったらヤケよ! とことんまで今日は遊んでやる!」

 

 言葉に出さなくても十分やけっぱちである。握り拳を作り、肩を怒らせて歩く姿は鬼気迫るものがあるくらいだ。

 そしてこの後、6人でしこたま遊んだ後にギンガとスバルからリボルバーナックルが母の形見だと聞いたティアナ。翌日からスバルを「スバル」と呼び、スバルもまた彼女を「ティア」と呼び、コンビの絆はより一層深くなっていく。

 それぞれに抱えた取り戻せない過去。悲しい思い。悔しい思い。届かない憧れ。

 それを持っているのは何も自分だけじゃないと思い知ったティアナ。

 

 しかし彼女はおろか、この時は誰も気付いていなかった。

 この時のメンバーがこの後も長きに渡り、関係を続けていくということに。




Gジェネ世界の成り立ちについては、色々思う所があるかと思います。
ですが、自分はこのような形で落ち着かせました。

さて、Gジェネ編も山場です。さぁ、キリキリ書いていくぞー!
僕の胃もプライベートでキリキリ言ってますけどね!!
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