魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第12話 羽ばたく時

1

 

 

 

 2羽の鳥が飛びまわる。

 1羽は漆黒の不死鳥。

 1羽は純白の孔雀。

 その爪は光の剣。頭を、首を、翼を、腕を、胴を、腰を、足を、その全てを切り裂く光の剣。

 交わっては離れ、交わっては離れ。螺旋を描き、不死鳥と孔雀は互いを食いちぎらんと翼を広げる。

 黒き光。

 白き闇。

 目の前で戦い続けるそれは互いの全てを否定し、互いの全てを飲みこもうとしている。

 

 もう何度目かも分からないぶつかり合い。モニターから見えるビームサーベルの接点がスパークを引き起こしている。レンはそれでも強引に振り抜く。バルバトス、いやナハトヴァールも同様にビームサーベルを振り抜いていた。

 すかさずクロスメガビームキャノンの砲門をナハトヴァールに向けて発射。勿論当たるとは思っていない。避けられるのはもう慣れた。 

 

(まだだ。まだ足りない。もっと、もっと奴を感じろ。もっと先を読むんだ)

 

 クロスメガビームキャノンの一門を撃つ。当たれば御の字。当たらずともそれはそれでレンの狙い通り。

 すかさずナハトヴァールの動きを予測し、避けるであろう場所へ残り三門を撃った。

 予測と言えば聞こえはいいが、そこに確かな根拠は無い。

 今までレンが戦ってきた経験と勘。それがナハトヴァールがそこに動くと告げた……ような気がするというあまりに漠然としたものだ。

 だが、ビームは確かにバルバドロを直撃した。

 続けてビームを放つ。案の定避けられる。今度は右。己が勘に従い、機体を回りこませる。

 バルバトスがそこにやってきた。剣を振り上げている。ビームサーベルを交差させて、受けるハルファス。咄嗟に翼を動かし、ほぼ零距離からの砲撃を撃ち込む。エネルギーの奔流に弾かれるバルバトス。

 

「へへっ。……へへへへっ」

 

 笑いが込みあげてきた。場違いだとは分かっていても、笑わずにはいられない。

 自分の勘は間違っていない。ナイトロの補助が無くても、今まで鍛え上げてきた物が通用している。それ故の笑い。それはレンが自分自身に感じる力の確信。

 

「あんまり人間を舐めるなよ。ナハトヴァール」

 

 スラスターを噴かし、翼からビームを撃ちながら距離を詰める。間髪無く降り注ぐ閃光がナハトヴァールの動きを止めている。攻撃に特化しているのか、装甲に自信があるのか。特殊防御の類は見られない。

 それが救いだ。貝の様に身を守る事しかできないナハトヴァール。迫るレンのハルファスガンダム。

 すれ違いざまの斬撃。バルバトスの片目に走る斬撃痕。

 

「入った!」

「駄目! まだ気を抜かないで!」

 

 キリエの言う通り、気を抜くべきでは無かった。

 力の確信が生んだ一撃はレンから緊張を取り除いてしまった。一瞬でも、レンの心に慢心を生んでしまった。

 そして気付くべきだったのだ。

 ナハトヴァールにとってバルバトスは代替えの利くモビルスーツだという事に。

 故にダメージを受けた程度では止まらない。止まる必要が無い。

 ハルファスの後頭部を鷲掴みするバルバトスにレン達が声を上げる。振り切ろうともがく隙を与えずにバルバトスは勢いよく壁にハルファスを叩きつけた。

 コックピットに衝撃と揺れが走る。悲鳴と警報アラームがけたたましく鳴り響く。そしてレンの脳裏に走るノイズ。駄目だ。次の一撃が来てしまう。

 無我夢中で機体のスラスターを噴かす。バルバトスのビームサーベルが斬り抜かれる。離脱するハルファスだが、一瞬バルバトスの動きが早かった。

 左後翼が斬り落とされ、爆散した。モニターに映し出されるダメージ報告にレンが舌打ちする。

 まだ終わっていない。諦めてはいけない。

 ナハトヴァールはダメージを気にしないだけだ。確実にダメージは通っている。

 ならば今度はもっと深いダメージを与えるだけだ。

 

「ファンネルッ!!」

 

 不死鳥から飛び出す小型の翼。レンの意思に答え、それは瞬時にバルバトスを光の檻に閉じ込める。

 光の檻は容赦なくバルバトスの体を突き抜ける。そこにクロスメガビームキャノンのビームも混ぜる。

 容赦無いレンの攻撃を受け、爆発を起こすバルバトス。しかし全速力の推進でその檻から脱出すると、その手のビームサーベルを投げつけた。

 とっさの事に流石のレンも反応が遅れてしまった。刃は無いが、胴に直撃したそれが閃光を放つ。

 今度はレンが光の檻に囚われる番だった。サーベルの柄から発せられる光は鎖の様にハルファスの体を締め上げる。

 マズイマズイマズイ!!

 脳裏にノイズが走るとか、そんなチャチなもんじゃない。

 これまでの経験とかそんな物が無くても、この状況が非常に危ないと言う事は誰もが本能で感じるだろう。現にバルバトスが孔雀の翼を後方に広げているではないか。

 バルバトスの片目が妖艶な輝きを見せる。

 今度はレンがバルバトスの翼から放たれたビームの雨に飲まれる番だった。

 

 

 

「レンッ!」

 

 ゼロカスタムから見ていたシュテルが悲鳴を上げた。目の前でハルファスガンダムが直撃を受けている。

 煙を上げて墜落していくそれを、彼女はコックピットの中で震えながら見ていた。

 このフロアに出て、バルバトスと戦うハルファスを見て、あれを動かしているのがレンだと確信していた。最初は半信半疑でも、今は何故か確信できる。もう理屈なんかどうでも良い。あれは絶対にレンだ。

 今すぐにでも駆け寄りたい。駆け寄って共に居たい。

 そう思った瞬間、シュテルはゼロカスタムを動かしていた。

 

『行かせんぞ!』

『押し通ります!!』

 

 行かせまいとクイーンアメリアスから飛び出す幾つものファンネル。ゼロカスタムの目の前に光が格子状に広がり、行く手を遮る。しかしその程度で止まる程、シュテルは聞き分けが良くない。

 宣言の通り、ゼロカスタムを縦横無尽に動かし光の格子を潜り抜けようとする。

 ゼロシステムがアラームを鳴らすが関係ない。

 今はとにかくレンの傍に行きたい。それのみが彼女を動かしていた。

 

『行かせんと言っているだろう!!』

 

 しかし目の前にはビームウィップを掲げる赤黄の女王。光の鞭が天使の翼を切り刻むべく、振るわれる。

 咄嗟にビームサーベルを抜き、一撃を防いでも、蛇の様にしなる鞭は直ぐに軌道を修正し天使に牙を剥いた。防ぎきれずにゼロカスタムの胸に走る斬撃。

 

『この……貴方なんかに構っていられないのです! 私はレンの所に行く!!』

 

 それでもシュテルは前に出た。そしてその執念が実を結び、ゼロカスタムがクイーンアメリアスを刃の射程距離に収める。振り降ろされる剣。防ぐ鞭。お互いの執念が光となって眩い輝きとなる。

 そのままシュテルは襟元のマシンキャノンを至近距離で発射。クイーンアメリアスの装甲に直撃したそれは甲高い音と火花を立てて動きを牽制する。

 

『調子に乗るなぁ!!』

 

 それを払うかの様にガーディダンサーが分離した。一度ゼロカスタムを体当たりで弾き、すかさず旋回。

 左右から挟撃するかのように、女王の忠実なる番犬が爪を振り上げる。

 やられる! ゼロシステムも回避不可能を示している。何よりも自分自身の経験と本能が言っている。

 シュテルの顔が忌々し気に歪む。被弾は避けられない。これまでか?

 

『行って来い! シュテル!』

『ここは俺達が引き受ける!』

 

 2羽の不死鳥が舞い降りる。フェニックスガンダムとマスターフェニックスが互いに剣を取り、番犬の爪からゼロカスタムを守っている。

 そして呆けるのも束の間、ゼロカスタムが何かに引っ張り上げられ、突然の浮遊感がシュテルを包む

 

『行くぞシュテル! あそこに居るのはあの馬鹿なのだろう?』

『レンにばっかりおもしろい事させてられないもんねー!』

『ディアーチェ、レヴィ……。はいっ!』

 

 ストライクフリーダムとビギニング30だ。ストライクフリーダムに手を引かれながら、シュテルはその躁主2人に力強く頷く。瞳に力が戻っていた。そうだ。彼女達が居れば恐れる事などない。どんな道だって、切り開いて見せる。

 ストライクフリーダムの手をほどき、ゼロカスタムは再び純白の翼を大きく拡げる。

 

『行きましょう! この戦いを終わらせる為に!』

 

 そして3機のガンダムは漆黒の不死鳥の下へ飛翔していった。

 

 

『全砲門開け! 目標、クイーンアメリアス!』

 

 ニキの指示が飛び、ミネルバの全砲門が開く。全てのミサイルが尾を引いてクイーンアメリアスを狙う。

 モビルスーツとはケタ違いの量の攻撃の一斉発射だ。鉄壁の防御力を誇るクイーンアメリアスとはいえ、その攻撃を何度も受ければ撃墜は必須。アメリアスは誤爆を恐れたフェニックス2機が離れたのを良い機会に、一度距離を取るとすかさずミネルバに攻撃目標を変えた。ガンダムが3機、ナハトヴァールの所に行ってしまった。自分が止められなかった故の失策だ。

 だからこそ、ここで敵の母艦を落とす事で後方の憂いを絶たなければならない。

 

『行けぃ! ファンネル!!』

 

 再び彼女から放たれたファンネルの群れ。母艦は大きい。故に的を絞る必要はない。ここで完膚無きまでに叩き落とす。

 

『させるかよ!』

『ミネルバはやらせない!』

『うっとおしい奴らめ。邪魔だ!!』

 

 左右から迫る不死鳥にクイーンアメリアスが声を張り上げた。回転するように振るわれるビームウィップに弾かれる2機。その間もファンネルでミネルバに光の雨を降らせる。

 幸い、他のガンダム4機はハルファスベーゼとレギナに足止めされている。いかに一騎当千と言えど、ハルファスベーゼを簡単に突破できはしまい。

 母艦を落とす際、狙うべきは艦橋。つまりはブリッジだ。エンジンが心臓なら艦橋は脳。そこを潰せば艦は死んだも同じ。しかしミネルバはそれを克服する為に、艦橋を艦内に収納する仕組みが取られている。そして母艦は避けるというよりは耐えるもの。モビルスーツよりも厚い装甲により防御力は高いのだが、無論それは一般的な話。クイーンアメリアスの様に一発一発が高火力の兵器を有するものに対して、そのアドバンテージというものは殆ど無いに等しい。

 つまり現状ミネルバはファンネルの総攻撃を受け、艦の至る所から爆発と炎上を起こしていた。弾幕を張り近づけまいとしているが、複雑な動きをするファンネルは文字通り意思を持ってこれを避けてミネルバにビームを放つ為、それもあまり意味を成していない。

 

『落ちろ!』

 

 2機の不死鳥を弾き、射線が通った。クイーンアメリアスから再び分離したガーディダンサーが漆黒の砲撃を撃つ。艦の両翼に直撃した光線。より一層大きな爆発がミネルバから巻き起こる。

 バランスを崩し大きく傾くミネルバ。推力を失いゆっくりと下降していく。

チェックメイトだ。トドメの砲撃がガーディダンサーから放たれた。

 

『貴方の好きにばかりさせません!』

 

 間に割り込む影があった。それは光の翼を広げ、シールドビットでアメリアスの砲撃を防ぐ。

 驚愕の表情を浮かべるアメリアス。それは彼女がまだ見た事無い機体だったから。

 それはセカンドVガンダム。マリアの機体である。この総力戦にマリアも自分の機体に乗り、ミネルバの防衛に当たる為に緊急発進したのだ。そして彼女が時間を稼ぐ間に弾かれた2機が間に合う。

 迫る6本のビームにアメリアスは機体を翻す。そしてそこには待っていたかのように展開されたフェザーファンネル。その一斉照射を受け、クイーンアメリアスは大きく機体を揺らした。

 

『チッ!!』

 

 舌打ちとともに迫る2機を睨みつける。流石にリカバリーが早い。弾いた程度では時間稼ぎにしかならなかったようだ。

 

(まぁ良い。あの艦は最早まともには動けまい。ならば先にこやつらから血祭りにあげるか)

 

 一瞬で状況を整理。アメリアスは再び不死鳥2機と光の翼を持つガンダムに狙いを定めた。

 

 

 光の戦輪がいくつも宙を舞う。ビギニング30の手の動きに合わせて、まるで操り人形のようにそれはバルバトスを囲んでいた。ビームを照射するファンネルとは違い、個々がビームサーベルであるそれが一斉に牙を剥く。

 嫌がるバルバトスは孔雀の羽根を広げ、全方位にビームで薙ぎ払う。しかしレヴィが簡単に逃がしはしない。背中に妖精の翼を広げ、片手に持つ3本のビームサーベルはそれこそ爪の形容に相応しい。一撃の出力で劣るビギニング30だが、単純に3倍だ。いくらバルバトスの高出力サーベルと言えど、簡単に当たり負けはしない。

 

『レヴィ!』

『りょーかい!』

 

 不意の声にビギニング30が身を引いた。今度は緑色の光がバルバトスを包囲する。

 ストライクフリーダムから放たれたスーパードラグーン。ファンネルと似た機構のそれから放たれた光線がバルバトスを光の檻に閉じ込めた。

 動きを止めた所に2機はビームライフルを構える。ifsユニットでビームを収束させたビギニング30のライフルと、2挺のライフルを連結させ出力を上げたストライクフリーダムのロングライフル。 2本の閃光にバルバトスが苦悶の鳴き声を上げた。

 その間に地面に落ちたハルファスにゼロカスタムが駆け寄る。4枚あった翼は既に半分の2枚。左腕も肘から下が無く、ツインアイも左目が砕けている。半壊状態のハルファスにシュテルは嫌な予感が消えない。先ほどから通信を試みるも反応が無いのもそれに拍車をかけている。

 

『レン! キリエ! お願いです。反応して下さい!!』

 

 必死の呼びかけを続ける。するとやっと反応があった。くごもった声がノイズ混じりで聞こえてくる。

 

『つつつ……。この声、シュテルか?』

『はい! レン、無事だったのですね!』

『無事かどうかと聞かれたら、まぁなんとかって所かな……』

 

 そして繋がる通信。その光景にシュテルは思わず息を飲んだ。

 バチバチと火花を散らすコックピット内部。レンもヘルメットのバイザーが砕け、頭から血を流していた。その所為で右目が塞がっている。

 レンはヘルメットを脱ぎ棄て、その血を拭いつつ苦笑している。

 

『やれやれ……。通用するって思った瞬間これだ……。参ったね』

『よくもまぁこの状況下でそんな軽口が言えたものです……。それでレン、キリエは?』

『今アプロディアと一緒にハルファスのチェックをしてもらってる。いくらナノスキン構造である程度は自己修復できるって言っても、ちょいとやられ過ぎたからね』

『アプロディア?』

 

 首を傾げるシュテル。するとレンの隣にアプロディアが姿を見せた。

 簡単にこれまでの経緯を説明し、漸くシュテルも納得がいった。

 コードフェニックスの自信はそう言う事だったのだ。彼はレンとキリエがアプロディアに呼ばれた事を分かっていたのだ。ならばそう言ってくれれば良い物を。

 

『レン、チェック終わったよ』

 

 そこに姿を見せるキリエ。そしてシュテルに気付くとパァっと笑顔を浮かべた。

 

『シュテルちゃん! 無事だったのね!』

『おかげさまで。それでキリエ。その機体はまだ戦えるのですか?』

『あら意外。シュテルちゃんならレンを止めると思ってたのに』

『本当なら止めたいですよ。ですが、レンはともかく貴方もまたヤル気なのでしょう? それで? 結果はどうなのです?』

 

 嘘偽り無い本音だ。このような状況では戦うより後退して欲しい。しかしレンもキリエもまだ目が死んでいないのだ。つまりまだ2人は諦めていない。まだ戦うつもりでいるのだ。

 ならばシュテルにそれを止める事ができるだろうか。無論できはしない。現にこうして2人が戦う事を容認しているのだから。

 

『ハルファスの40%が破損。システムと変形機構の問題は無し。でもファンネルは全て破損だし、クロスメガビームキャノンも2門しか残ってないよ。手持ちは右手のビームサーベルのみって所だね』

 

 冷静に状況を告げるキリエ。しかしレンは十分だと言わんばかりに、不敵な笑いと共にハルファスの操縦桿に手を付ける。

 

『変形機構が生きてるって事は、アレも生きてるって事だよな』

『そうだね。ただ使えたとしても1回が限度。ハルファスのフレームも相当痛んでるから、それ以上はハルファスが形を維持できないかも』

 

 つまりは最悪空中瓦解の恐れがあるという事だ。しかしそれでもレンは口元がニヤケたまま。

 

『1回で十分。なんせ、今の俺は1人じゃないからな。そうだろ? シュテル』

『……今更ですね。さぁとっとと立ちやがれです。限界が近いのなら、私達が全力でサポートします。一番の美味しい所。貴方に任せるんです。ヘマをしたら私が貴方を撃ちますよ』

『相変わらず厳しい事で』

 

 だがそれが心地いい。決してそういう趣味がある訳ではないが、シュテルのその言葉はレンを奮い立たせるのには十分だ。

 

『んじゃとっとと決めるぞ。3人ともサポート頼む!』

『『『了解!!』』』

 

 再び飛びあがるハルファスと、その隣に立つゼロカスタム。

 その姿を確認したのか、ディアーチェとレヴィに足止めを食らっていたバルバトスがギロリと睨みつけてきた。そして変形。高機動形態になったかと思うとハルファス目掛けて飛び出してくる。

 

『ナハトヴァール。お前も俺と決着つけたいみたいだな。……良いな。機械的なお前よりよっぽど好感が持てる』

 

 レンもまたハルファスに鞭打ち、変形をする。幸い主翼は生きている。まだハルファスは飛べる。

 逃げるハルファス。追うバルバトス。

 バルバトスの羽から放たれる光が弧を描き、ハルファスを追いすがった。しかしレンは自分の心が思うままにハルファスを操り。光を掻い潜る。時には壁に激突する直前まで近づき、急に垂直に切り替える。

 相手はミサイルではないから、空中で爆発する事など無い。いつまでも逃げていてはいずれ直撃してしまうだろう。ならば周りの障害物にビームを当ててしまった方が容易い。

 しかし急な方向転換とスピードは、確実にレンの体にダメージを蓄積させていく。過負荷のGが生身の体にかける負担は想像以上だ。キリエが何か言っているが聞く耳は無い。

 これはレンの意地でもあった。それにこんな状況下であるにも関わらず、やけに冷静だ。

 頭はすっきりと霧が晴れたよう。集中力が研ぎ澄まされ、体が自分の物ではないような気さえする。

 まるで自分を外側から見ているような。そんな不思議な感覚がレンを包んでいた。

 

 壁すれすれの曲芸飛行を続けるハルファスの後方で、ビームが壁に直撃して爆発を起こしている。

 そこでレンはハルファスを変形させて振り向いた。壁に足をつけ垂直に立つと、後方に滑りながらハルファスの2門になったクロスメガビームキャノンを撃つ。

 攻撃の間を狙ったレンの予感は的中。流石のナハトヴァールも高速飛行ではそれを避ける術が無い、

 見事直撃するも、ナハトヴァールもまた爆炎の中でバルバトスを変形。同じ様に壁に垂直に立ちビームサーベルを抜き放つ。まるで独楽が回転するかのように切り結ぶ2機。そして再び両者がぶつかった時、レンがハルファスの翼を左右に大きく開いた。

 翼そのものをバルバトスに叩きつけたのである。遠心力も加わり、即席のトンファーとなった翼にバルバトスが弾かれ、壁から落下。そこに待っていたのはビギニング30とストライクフリーダム。

 

『ディアーチェ! 外さないで下さいよ!』

『分かっておる! レヴィも良いな!』

『任せてよ王様!!』

 

 前後から挟みこむ2機。互いに構えたライフルが光を放つ。見事にバルバトスを挟撃する形になった。

 すかさず旋回した2機がビームサーベルを抜き放つ。未だ空中に居るバルバトスにまたもや挟撃の形で斬りこむ。ビギニング30が背中の右羽を、ストライクフリーダムが左腕を斬り飛ばした。

 倒れこむように床に落ちるバルバトス。だが行動は早かった。すぐに自分がロックオンされた事に気付いたのだ。残った翼にエネルギーが蓄積される。その視線が向かっているのはツインバスターライフルを構え、空中にホバリングで浮いたゼロカスタム。

 しかしシュテルは自分もまたロックオンされたにも関わらず、ツインバスターライフル発射シークエンスを続行させる。

 

『貴方は私達の別の可能性なのでしょう。ですが、それを許すつもりはありません。ここで終わらせます!』

 

 ゼロカスタムから発射される砲撃と、バルバトスの羽から走る幾筋のビームが正面から直撃。それでも相殺し切れずに、互いをビームが飲み込む。

 互いの機体が爆発する。ゼロカスタムは右半身を失い、床に落下。そしてバルバトスは巻き起こる爆炎の中、手を伸ばしていた。既に機体は瓦解を始めている。背中の羽を失い、四肢も残るは右腕のみ。

 だが尚、バルバトス。いやナハトヴァールは戦いを止めようとしない。

 何故そこまで戦おうとするのか。まだ諦めていないからだ。いや、諦めるという選択肢がナハトヴァールには無いのだろう。戦う意思のまま、瓦解するバルバトスを動かしナハトヴァールは無限に戦いを続けようとする。

 しかし、漆黒の不死鳥はそれを許さなかった。

 赤熱の爆炎を切り裂き、蒼炎の不死鳥が飛来する。

 高機動形態から放たれるハルファスガンダム最大の攻撃、バーニングフレア。

 ハルファスもレンもキリエも、この1回に全てを込めた正真正銘最後の一撃。

 ナハトヴァールも残った右腕を伸ばし掴みかかる。

 しかし不死鳥は止まらない。嘴は右腕を砕き、腕を砕き、遂に胴に突き刺さる。

 

『終わりだ! ナハトヴァール!!』

 

 勢いのままに押し出す。爆炎から飛び出したハルファスの蒼炎に巻き込まれたナハトヴァールがバルバトスで呻いている。しかし脱出は既に不可能。レンはスラスターを限界まで踏み込み、ナハトヴァールとバルバトスをエリアの中心に立つ大樹に叩きつけた。

 ハルファスの蒼炎が消え、代わりにバルバトスから大樹に炎が燃え移る。

 それはみるみる広がり、辺りは蒼の炎に包まれた。

 

 

 

 目の前で信じられない光景が広がっている。

 大樹に貼り付けられ、蒼炎に焼かれるその姿にアメリアスはただ呆然とするのみ。

 そしてそれが決定的な隙になった。

 背中から襲いかかる衝撃。振り返るとフェニックスガンダムが両手のビームライフルを向けていた。4枚あった翼はもう左右の2枚しか残っていない。それでもマークは愛機と共にアメリアスを追い詰める。

 そしてまた別の方向より聞こえる爆発。それはハルファスベーゼの断末魔。キール達によってもう1羽の不死鳥が墜ちた瞬間だった。

 レギナも居ない。アメリアス自身にもファイアーウォールを起動させるだけの力は残っていない。

 一体どこで計算が狂ってしまったのか。一体何がいけなかったのか。

 いくら自問自答しても答えは出てこない。

 しかし、それでも、それでも。

 

『認めぬ……認めてなるものか!!』

 

 声を上げ、ガーディダンサーを起動。再び2匹の番犬が爪を振り上げた。

 最後に残った意地と意思に従う。

 例えそれが、酷く空しいものであってもだ。

 

『いつまでも同じ手が通じるかよ!』

『いくら守りが鉄壁でも完璧ではないでしょ!』

 

 フェニックスガンダムがビームライフルをグリップで連結させる。限界まで出力を上げたビームが遂にガーディダンサーの1体を撃ち抜いた。これまでの戦いで鉄壁のガーディダンサーもまた限界が来ていたのだ。そしてすかさずそのままビームサーベルを展開。高出力のサーベルがガーディダンサーを一刀両断する。

 そしてマリアのセカンドVもまたガーディダンサーと対峙する。ガーディダンサーの爪をビームサーベルで受け、返す剣で腕を斬り飛ばしたのだ。しかし残ったもう片方の爪がセカンドVの胴を切り裂く。構わずにマリアは機体を回転。回し蹴りで弾き飛ばす。そして光の翼を展開させると同時に奇襲をかけた。

 光の翼はそれ自体が巨大なビームサーベル。すれ違いざまに剣の翼がガーディダンサーの胴を真っ二つに分けた。

 2つの爆発が後方で起こる中、マスターフェニックスがクイーンアメリアスに迫る。1本となってしまったクロスバインダーソードを掲げる。一直線に炎が閃光にまで高まり、巨大な剣へと変貌する。

 

『バーニングソ―――――ドッ!!』

 

 力任せに炎の剣が薙ぎ払われた。強大な熱量を誇るその剣は劫火となって、クイーンアメリアスの右半身を飲み込む。瞬間的に装甲が融解を起こし、クイーンアメリアスの半身が爆発を起こした。しかしそれと同時にクロスバインダーソードもマスターフェニックスの手の中で爆発を起こしてしまう。

 元々二本一対で放つ為、出力に剣が耐えられなかったのだ。それでも成果は上々。クイーンアメリアスを大破させる事に成功する。

 

『終わりだ! アメリアス!!』

『まだ終わらんよ!』

 

 彼に残ったのは拳のみ。殴りかかるマスターフェニックスにクイーンアメリアスも残ったファンネルを射出する。

 

『コード!!』

 

 不意にマークから通信が入った。そして目の前に投げられた2挺のビームライフル。フェニックスガンダムが使用していたものだ。光の中で咄嗟にそれを掴み、コードフェニックスは口元に笑みを浮かべる。

 それは鮮やかな乱射だった。ビームライフルから放たれる閃光はファンネルを正確に貫き、瞬く間に全てを撃ち落としてしまう。

 

『何だと!?』

『悪いね。俺が本当に得意なのは銃なのさ』

 

 そしてその銃口はクイーンアメリアスへ。だがすぐに光の鞭が飛んで来た。右腕が捕まり、爆発と共に弾け飛ぶ。しかし爆発からすり抜けるように姿を現すマスターフェニックスの銃口は、クイーンアメリアスを捕えている。

 

『コードフェニックスッッ!! 貴様さえ、貴様さえいなければっ!!』

『覚えておけアメリアス。俺の本当の名はティーダ・ランスター。そしてランスターの弾丸は全てを撃ち抜くんだ!』

 

 放たれる閃光。真っ直ぐに伸びたそれは、正確にクイーンアメリアスの胸を撃ち抜く。

 それを確認し、マスターフェニックスはゆっくりと銃を下す。

 

『あ……が……』

 

 細かい電流を発し、小刻みにクイーンアメリアスの体が震えている。声も既に声では無くなっている。

 まだ戦意は失っていない。

 それでも、これで詰みだった。

 突然訪れたエネルギーの奔流。その中でアメリアスは見た。

 それは不時着したミネルバからの砲撃。残った推力で艦首を上げ、いつの間にか起動していたタンホイザー。ニキはずっと待っていたのだ。虎視眈々と。クイーンアメリアスに最大の一撃をぶつける その瞬間を。じっと息を潜めて。

 そしてアメリアスは、完全にミネルバを沈黙させなかった事を後悔した。

 エネルギーの奔流がクイーンアメリアスを押し出した。彼女もまた燃え盛るバルバトスとジェネレーションシステムの大樹に直撃し、既に崩壊を始めていたそれらもろとも飲み込む、反動でジェネレーションシステムが連鎖的に爆発を起こす。巻き込まれたバルバトスとクイーンアメリアスもまた、その中で爆発を起こしていた。

 爆発はまるで鎮魂の花。その身を焼きつくす煉獄の炎の中に2機のモビルスーツが消えて行く。

 同時にジェネレーションシステムもまた崩壊のスピードを速めていた。

 皮肉にも2機の爆発がそれを後押ししたかの様に、崩壊の速度は加速していく。

 

『こりゃ逃げられないな。どうする? 艦長』

『どうもこうも無いでしょう。ミネルバも先のタンホイザーでとっくにエネルギー切れです』

 

 崩壊の中、着艦したマスターフェニックスからコードフェニックスが茶化すようにニキに問いかけた。

 そしてニキもまた、口調は厳しいが口元には笑みが浮かんでいる。

 そう。既に殆どの機体のエネルギーが尽き、動く事すらままならない。

 このままでは全員が崩壊に巻き込まれるだろう。

 だがそれに不服を言う者はクルーも含めて誰もいなかった。

 全員が決死の覚悟でここに突入したのだ。結果、見事ナハトヴァールとコードアメリアスを撃破。 ジェネレーションシステムも崩壊を始めている。歴史に残らずとも、それは立派な偉業だ。

 

『外ではアメリアスの呪縛から連邦が解放されたようです。コードフェニックス。それにSpiritsの皆さん。ありがとうございました』

 

 ハルファスガンダムからストライクフリーダムに移ったアプロディアから全員に通信が入った。流石はネットワークの元締め。この世界の管理を司る彼女と言った所だろうか。よくもまぁ外の状況を掴めたものである。

 というか、事情を知らない者は本物のアプロディアがこの場にいた事に驚きだ。誰かは声にならない叫びを上げ、誰かは大笑いしている。そんなSpiritsのメンバーに微笑むとアプロディアはストライクフリーダムから外に出ると、燃え盛るジェネレーションシステムに目を向けた。

 

(これで良かったのです。これでやっと世界は悪夢から解放される。願わくば、安らかな眠りが貴方達に訪れんことを……)

 

 そしてゆっくりと瞳を閉じる。せめてナハトヴァールとアメリアスが安らかに眠れるよう、彼女はただ祈るばかりだ。

 惜しむべくは、この崩壊に戦士達を巻き込んでしまうということだろうか……。

 

 

 

「終わったんですよね」

「ああ。これでやっと終わったんだ」

 

 壁に背を預け座りこむハルファスガンダム。その隣には半身を失ったウィングガンダムゼロカスタム。

 ハルファスのコックピット内ではだらんと四肢の力を抜き、座るレンの膝の上にはシュテル。彼の胸に頬をくっつけ、傷だらけのレンを抱きしめている。

 もうすぐ自分達はジェネレーションシステムの崩壊に巻き込まれるだろう。

 ならばせめて、大事な人と共に居たい。

 それが彼女の望み。そして同時に彼の望み。

 

「お疲れ様レン。それにシュテルちゃんも」

「ええ。キリエもお疲れさまでした」

 

 操縦席の傍らにキリエが姿を現す。そして2人に優しく微笑みかけた。

 レンとシュテルも同じく笑みを返す。

 とはいえ、後悔が無いと言えば嘘になる。

 もっと生きたいし、平和になった世界をもっと堪能したい。

 だが、どうやらそれは叶わない夢の様だ。

 もうあまり時間は無い。それでもこの間際に大事な人と共に居られるだけでも贅沢なのだろうか。

 もう一度レンはシュテルとキリエを見る。2人は互いに笑みを返してくれる。

 

(ああ、俺は幸せモンだな)

 

 シュテルは再びレンの胸に頬をすり寄せ、キリエはレンの肩に頭を乗せている。

 崩壊の足音はすぐそこまで迫っている。

 

 そして、3人は眠るように瞳を閉じた

 

 

 

2

 

 

 

 ゆっくりとレンは目を覚ます。

 どうやらうたた寝をしてしまっていたらしい。

 そこは廃棄された空港。かつて大規模火災が起こったあの空港。

 そしてレン達がミッドチルダに転移してきた場所である。

 

(だからあん時の夢を見たのかな)

 

 遠く、宝石のように輝くミッドチルダの夜景を誰もいないビルの屋上から眺めつつ、レンは思う。

 何故、あの時ジェネレーションシステムの崩壊に巻き込まれた筈の自分達がこの世界に来る事になったのか。それは4年が経過した今でも不明だ。

 キール達は、本当にこの世界に居るのだろうか。

 コードフェニックスは、ミネルバのクルー達はどうなったのか。

 そしてあの世界はどうなったのか。

 考えれば考える程、疑問は尽きない。

 

<レン。大丈夫?>

「ああ。問題ないよキリエ。ちょっと懐かしい夢を見てナーバスになってたみたいだな」

 

 思えば遠くへ来たもんだ。

 その身に纏う濃紺色のプロテクトスーツ。

 元々、モビルスーツのパイロットをやっていた自分が違う世界に来て魔法を使っている。

 夢物語のような人生だ。たかだか20年しか生きちゃいないが、随分と濃い人生を送っている。

 思わず苦笑し、立ちあがる。

 4年が経っているというのに、ここはそのままだ。

 近いうちに別の施設が建つ予定らしいが、まだまだ生々しい事故の傷跡がそのまま残っている。

 

「レン、目を覚ましましたか?」

「ああ、すまない。ついうとうとしちゃったよシュテル」

 

 そこにふわりと舞い降りる少女。それは美しく成長したシュテルだった。少しだけ伸びた髪を掻き上げている。その姿は昔と変わらない殲滅服。しかしその背には翼があった。かつての彼女の愛機、ゼロカスタムの翼が紺色となってその背に広がっている。そして両手には持つはカートリッジを3つ装着した逆手持ちの銃槍。

 どこかバスターライフルにも似たそれは、ルシフェリオンが進化した姿。

 

「確かに最近ハードワークでしたからね。西地区はレヴィが。東地区はディアーチェとユーリが既に鎮圧しています。北地区は私がやっておきました。後はこの南地区だけですよレン」

 

 少々呆れたように。だがレンを気遣った言葉に彼は頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。

 

「問題ないさ。ここはもう終わってる。だからのんびり寝てられたんだからね」

「ならば良いのです。さ、すぐに合流しましょう。あ、今度また寝るような事があれば容赦なく撃ち込みますので、覚悟しておいて下さい」

「やっぱ怒ってるでしょ」

「いいえ? これっぽっちも怒ってませんよ?」

「絶対怒ってるって!」

「五月蠅いですねぇ。なんならここで魔法を撃ち込まれたいですか?」

「マジ勘弁です」

 

 ジャキッと音を立ててルシフェリオンが向けられた。すかさず謝る。目が本気だ。やはりシュテルには頭が上がらない。

 と、そんな2人の前に空間ディスプレイが開いた。

 水色のツインテールがぴょこぴょこ揺れていた。

 

『シュテる~ん、レ~ン。た~すけて~』

「レヴィ。どうしたのですか? というか少し落ち着いて下さい」

『落ち着いてられないよ~。なんかねー、まーだアイツら残ってたみたいなんだよねー』

「……はぁ……。ディアーチェとユーリは?」

『今向かってるぞ』

『後、もう少しで到着します~』

『ったく! だから残さず殲滅しておけと言うのだ! お前は奴らを侮り過ぎだぞ!』

『そんな事言ったってさ~。ほら、アイツらって1匹見たら30匹はいるじゃん?』

『奴らをそれに例えるな! ええい! 鳥肌が立って仕方ないわ!』

 

 別の空間ディスプレイが開く、映るのは闇統べる王ロード・ディアーチェとユーリ・エーベルヴァイン。

 3人ともシュテルと同じく、美しく成長しているものの、中身はほぼ4年前のまま。

 レヴィとディアーチェのやり取りに、レンとシュテルは深く溜息をつく。

 

「キリエ。どうだい? とりあえずレヴィの所に集中してるかんじ?」

<そうね~。確かにいきなりレヴィの所に集まってるわ。そりゃもうわんさかと>

「うわ、めんどくさ……」

「本当。しぶとさは単細胞生物並ですね。汚物は焼却しておきましょう」

「キリエさーん! シュテルさんがどんどん物騒になっていってまーす!!」

 

 シュテルの物言いになんだか身の危険を感じている今日この頃。キリエに助けを求めるも彼女は<がんばってね~♪>とあっさりレンを見放した。

 

「安心して下さいレン。もしもの事があったら私がレンの面倒を見てあげましょう。そうですね。それこそずっと付きっきりで永遠に看病してあげますよ? 逃げられないように、適度に傷めつけながらね」

「怖いッス! マジ怖いッス!! なんでヤンデレ入ってるんですか!! 貴方そんなキャラじゃないでしょ! あ~もう、んな恍惚とした顔しないで! お願いだから!」

「駄目ですか? 最近読んだ本にそう言う事が書いてありましたので」

「そんな本読んじゃいけません!!」

 

 むーと唇と尖らすシュテル。確かに見た目は可愛いのだが、言っている事が物騒過ぎてレンは気が気ではない。シュテルにそんな本を読ませたのは誰だ。帰ったら犯人を突き止めなければならないだろう。

 主に自分の身の安全の為に。

 その為には目下の所、レヴィの所の障害を取り除かなければなるまい。

 

「そんじゃま、いっちょ行きますか」

「ええ。正直私も疲れているので、早く帰ってお風呂に入って眠りたいです」

「具体的だなー」

「抱き枕最高です」

 

 いや、抱き枕の魅力を語らなくても結構です。

 力説するシュテルに苦笑。そのまま、倒れるようにビルから空中へ身を躍らせる。

 落ちる。ひたすら落ちる。

 重力に逆らわずに、レンの体はどんどん地上に向けて加速する。

 

「キリエ」

<はいは~い、キリエちゃんにお任せ♪>

 

 バサリとレンの肩にある機械的な4枚の翼が開いた。

 同時にレンの加速も止まる。そして降り立ったのは、大きな掌の上。彼を追うようにシュテルもその掌の上に降り立つ。

 2人が到着した事を確認したのか、それの胸部が開いた。乗り込み、シートに座るとその膝の上にシュテルも座る。

 

「シュテルさん、何時までも子供じゃないんだからさ」

「何ですか? 嫌なのですか? キリエはしょっちゅう座っているじゃないですか。今更何を言っているのですか? それにここは座り心地が良いのです」

「……いや、だから、子供じゃないから問題なのでして……。その……感触が……」

「ちなみに、変なコトしたら後で覚えておいて下さいね」

「生殺しですかっ!?」

「あんた達~、そろそろ出発した方が良いんじゃない?」

 

 騒ぐ2人に、キリエの呆れた声が響く。変わらないキリエの姿がレンの右手。操縦桿の隣に姿を見せた。

 どうにも収拾がつかなくなってきた事に諦め、レンは再度操縦桿を握る。

 大きく息を吐き、一度瞳を閉じて意識を集中。

 次に瞳が開かれた時、そこにはもう先ほどまでのレンは居ない。

 鋭い目付き。雰囲気までもが張り詰めた物へと変貌する。

 

「行くぞ。Spirits。出撃だ」

「「了解!」」

 

 フットペダルを踏み込む。漆黒の不死鳥が翼をはばたかせ、夜の闇に消えていく。

 

 

 

 彼らはミッドチルダ地上警備特別遊撃隊『Spirits』。

 どの部隊にも所属しない特別チーム。任務は各地上部隊では対処が難しい現場に赴き、速やかな現場の鎮圧。しかしその存在は公にはされていない影の部隊だった。




これにてGジェネ編は終了に御座います。
次回より、StS編開始と相成ります。
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