魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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どうも。nanaseです。
今回よりStS編開始です。
さぁでは、行ってみましょう!


StrikerS編
第13話 春の嵐


1

 

 

 

「大遅刻ですね」

 

 少女が呟いた。

 いや、少女と呼ぶには大人びている。かといって、女性と呼ぶにはまだ幼い。

 ともあれ、明るい茶色の髪をした少女が半目で呟いた。

 

「しょうがあるまい。任務上どうしても時間的余裕は無かったのだ」

 

 別の少女が答える。

 茶色の制服。そのスカートから覗く健康的な足を組み直し、少女はさも当然と言わんばかり。

 揺れるそこは何かの機内。椅子は簡易的なもので、何度も座りなおしているあたり、座り心地は良くないらしい。

 

「ですが、ここまで遅れる予定ではありませんでした」

「否定はせんよ。だが流石に今回の任務はハードだったからな。皆疲れも溜まっておったし、まぁ遅刻だと言っても先方に連絡は入れておいたのだ。問題あるまい」

 

 隣で横になっている金髪少女のゆるいウェーブをなでる。猫の様な柔らかなその手触りに少女はふふっと笑みを浮かべた。

 だが半目の少女はまだ納得がいかないらしい。その目は隣で丸くなっている水色の髪の少女と、遠くで大口開けて寝ている青年を見ていた。そして大きな溜息。

 

「よくこの状態で寝られますね」

「それだけ疲れているという事だろう。ほれ、お前も少し眠ると良い。到着まで時間はまだあるのだからな。着いたら色々とやる事も多い。休める時に休むのもまた、一流の証ぞ?」

「……そうですね。確かにその通り。では、失礼して」

 

 そして少女はバッグから大きなバナナの抱き枕を引っ張りだしてきた。

 それを見る少女は、それは物理的におかしいだろうという突っ込みを敢えて飲み込む。

 彼女のバッグから明らかに許容量以上の物が出てくるのは、今に始まった事では無い。以前に一度尋ねてみたが「乙女の秘密です」とすこぶる良い笑顔で返された。

 乙女の秘密なら仕方ない。

 それ以降、尋ねる事も考える事も止めた。

 どうやらここ最近のハードワークに彼女が耐えられたのも、その抱き枕のおかげらしい。

 見れば、ものの数秒しか経っていないにも関わらず少女は寝息を立てていた。

 

(この状態ですぐ寝れるお主の方が凄いと思うがの……)

 

 口ではなんと言おうとも、彼女も疲れが溜まっていたのだろう。

 残された少女も眠る仲間達を見ているうちに、大きな欠伸を漏らした。周りが寝ていると、やはり自分も眠くなってしまう。仕方のないことだ。

 

「聞こえておるだろう? 現場に到着したら起こしてくれ」

<はいはーい。了解よーん♪>

 

 どこからか聞こえる返事。それを確認すると、少女もまた夢の国に旅立っていった。

 

 

 新暦75年4月。春。

 ミッドチルダ南駐屯地内A73区画。

 湾岸地域のこの場所に、1年間試験運用を行う新設部隊の隊舎がある。

 その部隊の名は、GAS-LPRF6。古代遺物管理部機動六課。

 今日はその機動六課の部隊運用初日である。

 

 温かな日差しが差し込む部隊長オフィス。

 そこで3人の女性が、漸く一息つけたとばかりにお茶を飲んでいた。

 

「このお部屋も、や~っと隊長室らしくなりましたねぇ」

「本当に。あの書類の山を見た時はどうなることかと思ったわよ」

「ほんまや。あんの腐れ親父。ここぞとばかりに書類の山を押し付けてきおったわ」

「まぁまぁ。でもその腐れ親父のおかげでリインの机も見つかったんだし、プラマイゼロで良いんじゃない?」

「プラマイゼロどころか、圧倒的にマイナスやっちゅーねん。ほんま、腐れ親父やわぁ」

「2人共、腐れ親父言い過ぎですぅ~。結構良い人ですよ?」

「「それはリインが可愛がられてるから!」」

 

 女性2人の剣幕に、人形程の大きさの少女が「あう~」と項垂れた。

 少女の名はリインフォースⅡ。目の前で煎餅をバリッといい音を鳴らして食べる機動六課部隊長、八神はやてのユニゾンデバイス。そして、お茶を啜るマリア・オーエンスの同僚である。

 ともあれ、つい数日前までこの部屋は書類の山と段ボールだらけ。それを3人で漸く片付けたのだ。

 その書類を送りつけた張本人に対し、愚痴の1つも出ようというものである。

 そこに来訪者を告げるブザー音。はやてが返事をすると、扉が開き彼女と同じ地上部隊の制服を纏う男女が姿を見せた。

 高町なのは、フェイト・T・ハラオウン。そしてマーク・ギルダーである。

 

「お。お着替え終了やな」

「お似合いですぅ~」

「にゃはははっ」

「ありがとう、リイン」

「マークは馬子にも衣装ね」

「ホンット可愛くねぇなぁ! お前はよ!」

 

 マリアの言葉にマークが突っ込む。この光景も見慣れた物だ。

 隊長室を笑いが包む。しかし何時までもこうしてはいられない。

 はやては立ちあがると、改めてメンバーを見渡した。一同も真剣な面持ちで彼女を見る。

 

「私となのはちゃん、フェイトちゃん。3人そろって同じ制服は中学の時以来やね。なんや懐かしいわ。まぁなのはちゃんの場合は飛んだり跳ねたりする教導隊制服の方が多いかもしれんけどな」

「まぁ、事務仕事や公式の場ではこっちってことで。と、言う訳で……」

 

 なのはが立ちあがる。それに習い、フェイトとマークも立ちあがる。

 

「本日ただいまより、高町なのは一等空尉」

「フェイト・T・ハラオウン執務管」

「マーク・ギルダー三等空尉。3名共機動六課へ出向となります」

「はい。宜しくお願いします」

 

 敬礼には敬礼を。はやては終始笑顔のままそれを行う。

 遂に始まる夢の舞台。六課の誰もが主役になり得る中、彼女達は常にスポットライトを浴び続けるだろう。一流の役者を生かすも殺すも、はやて次第。脚本家たる彼女の手腕にかかっている。

 

「さぁ行こうか。皆が待ってる」

 

 まずは舞台挨拶。

 この機動六課という舞台を盛り上げる大切な仲間が待っている。

 はやては表情を引き締めると、力強い足取りでその第一歩を踏み出した。

 

 

 

「あ~……、なんか緊張してきたよ……。緊張し過ぎてお腹痛い……」

「今からそんなんでどうするのよ」

 

 六課制服に身を包んだスバル・ナカジマが、ロビー脇のソファーに座り落ち着き無く辺りを見回していた。その様子にティアナ・ランスターが呆れ顔で応える。六課隊舎はちょっと古いものを使用している。しかし改築によってそんな印象は全く無く、むしろ新築と見間違うばかりの印象を受けた。

 そんな中、ざわつく局員の中で知り合いらしい知り合いのいない2人はソファーに座り、部隊長挨拶の時を待っていた。しかし、手持無沙汰とはこの事。何しろ、メンバーたるや錚々たるもの。

 

 不屈のエースオブエース。高町なのは一等空尉。

 心優しき金の閃光。フェイト・T・ハラオウン執務管。

 歩くロストロギア。八神はやて特別捜査官。

 

 管理局の中でも知らない者はいないという3人が揃ったスペシャルチームだ。

 それ以外にも機動部隊「タスク・フォース」の名に恥じないメンバーが名を連ねている。

 ティアナとスバルはその中でも、最も前線で活躍するフォワード部隊にスカウトされた。今も夢を追い続けるティアナにとってそれは願ってもないチャンスであり、同時に本当にやっていけるのかという不安でいっぱいだ。

 まだ緊張を隠そうとしないスバルの様に彼女も不安をありありと出せたら、どんなにか楽だっただろう。

 それを出来ないし、しないのはティアナの意地。周りになめられない為の自己防衛。

 ……実の所、紅茶を飲む手は震えているし、お腹だってキリキリと痛む。

 

 不意に場内がざわついた。

 見れば部隊長八神はやてが到着していた。その後ろにはなのは、フェイト、リインフォースⅡの姿も見える。と、隣でスバルが「あっ」と小さく声を上げたのが聞こえた。ティアナも声を上げそうになるのを堪える。4人に連れ添う男女に見覚えがあったからだ。

 マーク・ギルダー三等空尉。マリア・オーエンス准空尉。

 かつて訓練校時代に一度だけ会ったことのある「あいつら」の兄貴姉貴的存在。

 

「機動六課課長。そして、この本部隊舎の総部隊長八神はやてです。平和と法の守護者。時空管理局の部隊として事件に立ち向かい、人々を護って行く事が、私達の使命であり、成すべき事です。実績と実力に溢れた指揮官陣。若く可能性に溢れたフォワード陣。それぞれ、優れた専門技術の持ち主のメカニックやバックヤードスタッフ。全員が一丸となって事件に立ち向かっていけると信じています。……まっ、長い挨拶は、嫌われるんで以上ここまで。機動六課課長及び部隊長八神はやてでした」

 

(そう言えば、あいつら今何処で何してんだろ。っていうか連絡ぐらい寄越しなさいよ! あんな事しといて絶対に許さないんだから!)

 

 割れんばかりの拍手喝采の中、ティアナはそんな事を考えていた。

 

 

 はやての挨拶が終わり、通常業務が始まる。

 局員がせわしなく動く中、少女の真っ赤な髪が風に揺れている。

 ヴォルケンリッターの1人。鉄槌の騎士ヴィータが厳しい目で眼下を見降ろしていた。

 その視線の先には、ティアナ達の姿がある。訓練着に着替え、これから早速なのはの教導が始まる所だ。

 海上に拡張された訓練スペース。そこに高町印の陸戦用空間シミュレーターが展開されていた。

 

「ヴィータ。ここにいたのか」

「おう、シグナム」

 

 やってきたのはヴィータと同じヴォルケンリッター。剣の騎士シグナム。自分達の将を軽く一瞥し、ヴィータは再び視線をティアナ達に向ける。

 

「新人達は早速やっているようだな。……お前は参加しないのか?」

「あー? こいつらまだヨチヨチ歩きのペーペーだからな。まだあたしの出る幕じゃねーよ」

「そうか。ああ、そう言えば先ほど連絡が入った。もう少しであの者達が到着するようだ」

「へー。大遅刻じゃねーか。お気楽なもんだな」

 

 口ではそう言うものの、ヴィータの口元がニヤけているのを見逃すシグナムでは無い。

 本心では彼女も嬉しいのだ。そしてそれはシグナムも同様。これから1年間、存分に剣を振るえる相手がやってくる。それだけでシグナムは胸が高鳴るというものだ。

 

「……このバトルジャンキー」

「何か言ったか?」

「いーえー。何も言っておりませーん」

 

 真っ赤な嘘だ。

 

 

 フォワード4人が緊張の面持ちでその瞬間を待っている。

 スバルとティアナ。そして槍型のデバイス、ストラーダを構える赤髪の少年エリオ・モンディアルと、小翼竜フリードリヒ及びグローブ型のブーストデバイス、ケリュケイオンを携えた桃色の髪の少女キャロ・ル・ルシエ。

 10歳という若さでフォワードに抜擢されたこの2人。顔合わせの際にはティアナとスバルも信じられなかった。しかし2人が選ばれたというのは何もフェイト・T・ハラオウン執務管の秘蔵っ子というだけでは無い筈だ。相当な潜在能力の高さを期待されたのだろうと、ティアナは勝手に推測する。

 

『よしっと。みんな~、聞こえる~?』

 

 そんな緊張感を一気に崩す温和な声が聞こえる。4人から離れた場所から送られてきたなのはの念話だ。

 その声に騙されてはいけない。それを無意識に感じるからこそ、返事をした4人はこれから先の訓練が生半可な物で終わる訳がないという確信がある。

 

『じゃあ、早速ターゲットを出して訓練を始めようか! ……と言いたい所だけど。まずは皆が相手にするターゲットをちょっと顔見せね』

 

 地面に輝く魔法陣。そこから浮かび上がって来るのはカプセル形の機械。

 

『自立型の魔導機械。通称ガジェットドローン……なんだけど! つい最近形状が変わりました』

 

 ガジェットドローンの隣にもう一つ魔法陣が輝く。続けて出てきたのは、ガジェットドローンに比べれば球形になっていた。その横から飛び出すアームと、チョンマゲの様について砲台さえ無ければ。

 

『詳細はまだ調査中なんだけど、新型です。呼称はガジェットボール。捻りも何にもないけど、今はこっちがガジェットの主流になっています。なので、訓練もそれに沿った形で行っていくよ!』

 

 確かに捻りが無い。4人の率直な感想。しかしそれでも新型だ。油断はできない。

 なのはからの指示は逃走するガジェットボール8体の破壊もしくは捕獲。時間は15分以内。

 ブザーが訓練開始を告げる。

 同時に8体のガジェットボールが一目散に4人の前から逃走を図った。

 

 

 スバルのローラーブーツが唸りを上げて疾走する。

 逃げるガジェットボールが4機、廃墟の坂道を軽快に走り抜ける。

 スピードに自信のあったスバルを嘲笑うかのように逃げるそれに、彼女は一気に跳躍して距離を詰めた。

 拳から放たれた空色の魔法弾。必中のつもりで放たれたそれだが、ガジェットボールはひらりとそれを避けてみせる。

 そして一度立ち止まると、クルリとスバルを振り返る。

 何か仕掛けてくるか? 警戒し構えるスバルだったが、ガジェットボールは2、3度その場で小さく跳ねると、すぐにまた踵を返して一目散にダッシュしていった。

 呆然と取り残されるスバル。漸くおちょくられた事に気付く。

 

「……なんかムカツク」

 

 口元がヒクついていた。

 

 

 逃げるガジェットボール。待ちうけるは赤髪の少年エリオ。相棒のストラーダを正眼に構えている。

 どうやらガジェットボールは正面突破を選んだようだ。砲台から光線を放ち、牽制する。

 しかしエリオも一度壁に跳躍し、三日月状の魔力斬撃を放った。だがこれも当たらない。

 逆にガジェットボールは高速でエリオに接近してくる。

 ストラーダを構え直し、気合いと共に突き出す。しかしこれも悠々と避けられ、ご丁寧に1機ずつエリオの頭の上をバウンドしていった。

 

「駄目だ。ふわふわして当たらない。っていうか、馬鹿にされてる!?」

 

 その通りである。

 

 

 

 馬鹿にされているというか、遊ばれている。

 廃ビルの屋上でティアナがこめかみを押さえていた。その後ろではキャロが苦笑している。

 

「あいつら~……。それ以上にプログラム製作者の悪意を感じるわ」

「多分なのはさん達ですよね~」

「確かにそうなんだけど、なんていうか、あのおちょくり方には覚えがあるのよね」

「え?」

 

 何故だろう。どうしてもあのおちょくり方にはダブるものがある。

 キャロには分からないだろうが、ティアナにはどうしてもあのガジェットボールの後ろでニヤニヤと笑っている奴の姿が見えてしまう。

 とりあえずそれは置いておこう。今は目の前の事に集中しなければならない。眼下ではガジェットボールが集結している。スバルとエリオもそれを躍起になって追いかけていた。

 ティアナもアンカーガンで狙いをつける。まずは1機確実に落としておきたい所だ。キャロのブースト魔法の援護を受け、ティアナはその引き金を引く。

 オレンジ色の魔力弾が一直線に伸びた。どんなに動きが素早くても当てるのがシューターとしての責務だ。

 動きを先読みし、その魔力弾はガジェットボールを直撃するコースを描く。

 だが予想外の事が起こった。

 突然ガジェットボール周辺の空間が揺らぎ、ティアナの魔力弾を掻き消してしまった。

 その揺らぎの影響なのか、先回りしようとスバルが展開していた魔力の道。先天系魔法ウィングロードもその途中から掻き消され、彼女が廃ビルに突っ込んでいた。

 

『ガジェットには、ちょっと厄介な性質があるの。攻撃魔力をかき消すアンチ・マギリング・フィールド。通称AMFっていうんだ。あんな風に全開にされると、飛翔魔法や足場作り。移動魔法も発生が困難になる。……スバル、大丈夫~?』

「な、なんとか~」

『なら早めに復帰しないと時間ないよ~。さて、こんな感じで魔法を掻き消すAMFだけど、万能じゃない。対抗する方法は幾つかあるよ。どうすればいいか、素早く考えて、素早く動いてね』

 

 なのはの指示にフォワード4人、それぞれ思い当たる節はあったようだ。まだまだ荒削りだが、順応を始めている。なのはとメカニックデザイナーのシャリオ・フィニーノは各々のデバイスから送られてくる交戦データに満足げな表情をしていた。

 

「ところでシャーリー」

「はい?」

「ガジェットボールにあんなおちゃめな機能付けたのって、シャーリー?」

「……滅相もございません」

 

 なのはは笑顔だが、その言葉には文句を言わせない凄みがあった。一瞬でそれを察知したシャーリーは慌てて否定する。恐ろしくてそんな事できるはずがない。そもそもガジェットボールの、4人を小馬鹿にする動きはプログラムを組んだシャーリーですら知らないものだ。

 なのははそれを聞き、大きな溜息を洩らす。

 

「という事は、自ずと犯人は絞られるって事になるね」

「……恐らく。あの人も今回のプログラム構築には関わっていますからね。一応さっきプログラムに目を通したんですけど、若干変更が加えられています。というか、巧妙に隠されたブービートラップですよ。スバルとティアナに反応して、プログラムが発動。あんな動きをするように自動で更新するようになっていますね」

 

 その報告になのははもう一度溜息。全く。ガジェットボールの攻撃パターン等には手が加えられていないだけまだ救いか。そこまで行ったら確実にお説教コースだ。勿論今回の事も言うつもりだが、きっと彼女はしれっとして「一種の軽いジョークですよ。フォワード達の緊張をほぐす為のね」とかなんとか言ってくるに違いない。

 

「はぁ……。初日から頭痛いなぁ」

「その頭の痛い連中がもうすぐ到着するぞ」

「マークさん……。それって本当ですか?」

「ああ。本当だとも。なのはにとっちゃ春の嵐ってトコか?」

「洒落になりませんよ……」

 

 振り返るとマークがいた。笑いながらなのはとシャーリーのそばにやって来る。

 視線は奮闘する新人フォワード4人へ。丁度、キャロが魔法陣を展開していた。薄桃色の魔法陣から伸びる鎖がガジェットボールを絡め取り、そこに翼竜フリードが火球をぶつける。

 高熱の炎はAMFでは防ぐ事ができない。そして機械であるガジェットボールが高熱に耐えられずに爆散していた。

 

「中々器用じゃないか」

「ええ。無機物操作と組み合わせた召喚魔法。そこにフリードの炎。うん。ちゃんとAMFの対処を考えてますね」

「スバルとエリオも追いついてきてるし、そうなるとキツイのはティアナか?」

「普通に考えれば。射撃型は一番AMFとの相性が悪いんですけど、どうやらあの子も思う所があるみたいですよ?」

 

 そう言ってなのはの指さす先。キャロから離れ、別の廃ビルに移動したティアナがアンカーガンを構えていた。その銃口に魔力が集中している。

 

「成程ね。そう来たか」

「はい。攻撃用の弾殻を無効化フィールドで消される膜状バリアで包む。フィールドを突き抜ける間だけ保てば本命の弾はターゲットに届く。フィールド系防御を突き抜ける多重弾殻射撃。本来はAA級の技なんですけどね。さぁ、この判断が吉と出るか、凶と出るか。踏ん張り所だよティアナ」

 

 ティアナの限界に迫る魔力増幅率と並列魔法処理は、彼女に極限の集中力を要求する。少しでも制御に失敗すれば、良くて魔力四散、悪ければその場で暴発する可能性もあるのだ。必死に制御を試みるティアナの額に玉の様な汗が浮かぶ。

 支えているのはティアナの意地。AMFがあるからなんだ。それで手も足も出ませんでしたなど、射撃型としてのプライドが許さない。

 必ず成功させる。その一念でティアナは魔力弾を形成していく。

 そして遂にそれが放たれた。ガジェットボールは再度AMFを展開し、オレンジの弾丸が着弾する。

 だが、ティアナの作った弾丸は二重構造。一層目がAMFを中和。本命の弾丸が見事最後のガジェットボールを撃ち抜いた。

 

「どんなもんよ! いつまでもやられっぱなしじゃないのよ!!」

<ふむ。成長しましたねティアナ>

 

 ガッツポーズを決めるティアナ。

 そこに彼女にとって懐かしい声が突然響いた。

 

 

 

2

 

 

 

 時間は遡ること数分前。

 

「はいはーい! 皆起きて~! 現場に到着するよ~」

 

 揺れる機内に声が響く。ピンク色の髪の少女が眠っている5人を起こしにかかっていた。

 各々がもそもそと動きだす。大きな欠伸をする者。眠たい目をこする者。固まってしまった体をほぐす者。それぞれが彼女の声で活動を始める。

 

「んん~、やれやれやっと到着か。それで? 現場はどうなっている?」

「今、新人ちゃん達が訓練してるよ」

「あのプログラムは正常に起動していますか?」

「問題ナッシング! ティアナは相当おかんむりみたいだけど」

「それで良いのです。ちょっとしたジョークですから。緊張をほぐすには丁度良いでしょう」

「またそんな事を言って……。後でなのはさんに何言われても知らないですよ~?」

「切り抜けて見せましょう」

 

 金髪の少女の苦笑にも、茶髪の少女はキリッとした顔で答えた。

 自分は悪くない。これはあくまであの新人フォワードに対する自分からのプレゼントだと言わんばかりである。

 

「うう~。お腹すいた……」

「ほら! 起きてってば。もう到着するよ!」

「後5分……」

 

 そんな会話の横で水色のツインテール少女が目をこすり、ピンク髪の少女は黒髪の青年を揺すっている。

 その様子に茶髪の少女がニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「お腹がすいたなら、ここに良いお餅がありますよ?」

「ん~、どれぇ?」

「これです」

 

 少女は青年の頬を突く。するとツインテール少女は半目のまま、それをじっと見るとやがて一回頷き、口を大きく開けた。

 

 

 ガブリッ!

 

 

 機内に形容しがたい音が響いた。

 

 

 

「あっだ―――ッ!! ちょっと何で噛みつかれてんの―――ッ!?」

「お餅……。あむあむ……」

「寝ぼけてんの!? ちょっと! 歯を立てないで! ア―――ッ!!」

「あ、パイロットさん。ここで結構です。ここから飛び降りますので。荷物は機動六課、八神はやて宛でお願いします」

「了解です。御苦労さまでした!」

「よくもまぁ、平然と降りる準備を進められるな……」

「パイロットさんのスルースキルにも脱帽ですねぇ」

 

 灰色の髪の少女と、金髪の少女が互いに苦笑しあう。漸く少女を剥がし、青年が見事に歯形のついた頬をなでつつ文句を言っているが、茶髪の少女は指を耳栓にして、目を逸らしている。

 そんな事をしている内に扉が開いた。

 外の空気が一気に中に入り込む。そこから下を覗けば、青い海と機動六課隊舎が見えていた。

 

「それでは行くとしましょう。皆、準備は良いですね?」

「頬が痛いです!」

「知りません」

「お腹が空きました!」

「六課の食堂で何か食べる事にしましょう。さぁ行きますよ!」

 

 その声と共に一同が扉から外に飛び出す。

 そこは機動六課上空。輸送ヘリから飛び出した6人が瞬く間に小さくなっていった。

 

 

 一方でなのは達は慌てふためいていた。

 突然機器が制御不能に陥ったのである。シャーリーの空間パネルには何かのプログラムが強制実行されていた。なんとかシャーリーもそれの解除を試みたが、全てエラー表示で返される。

 またもプログラムの中に仕組まれたトラップ。何かに反応し、自動的に立ちあがるように仕組まれていた。勿論それを仕掛けた人物は分かっている。かと言って、このままにもしておけないのだが……。

 

「駄目です! 強制プログラム、インストール完了。プログラム、実行されます!」

 

 シャーリーの悲鳴にも似た声になのはは今日何度目かの溜息。キッとマークを睨むと彼は、「俺は知らん」と視線を合わせない。

 そうこうしている内にプログラムが走る。

 新人達のいるフィールドに次々と起動する魔法陣。そこから姿を見せたのは先ほど撃墜した筈のガジェットボールの群れ。なのははフィールドの強制終了を打ち込むがそれすらも受け付けない。仕方なく、避難命令を出すが、唐突にそれに割り込む声と開く空間パネル。

 

『それには及びませんよナノハ』

「やっぱり。こんなプログラムを組んだのは貴方ね? どういうつもりかな?」

『簡単な事です。一種のデモンストレーションですよ。久しぶりの級友との再会。派手な花火を打ち上げたいのです』

「派手っていうレベルを越えてるよ。後でお説教だからね?」

『全力で拒否致します』

 

 強制的に閉じられた空間パネル。

 こめかみを押さえるなのはの肩をマークが叩いた。

 

 

 スバル達も状況が掴めないでいた。

 訓練が終了したかと思えば、ガジェットボール達が姿を見せる。一体何が起こっているのか全く分からない。なのはからは避難命令が出ている事から、緊急事態だとは分かるが……。

 

「ティア! これってどういう事だと思う?」

「分かる訳ないでしょ! ……でも、この主犯格が誰かぐらいは分かるわ。さっき念話で話しかけられたもの。それで確信したわ。こんな事するのはアイツらくらいしかいない」

「それってもしや……」

 

 避難の為に廃ビル屋上集まったフォワード達。ティアナとスバルの様子にエリオとキャロは顔を見合わせる。下にはガジェットボール達がわらわらと動いている。その数はざっと自分達が相手をした数の倍以上はいるだろう。

 そしてそれは上空からやってきた。

 スバルは歓喜の声を上げ、ティアナは溜息を漏らし、エリオとキャロは驚きで声が出ない。

 彼女達の廃ビルの前に、嵐が降り立つ。

 

 

 

「おーおー、驚いてる驚いてる。インパクトは上々だな」

<これであの子達の掴みはバッチリね!>

 

 肩に浮かぶ濃紺の四枚翼。身に纏うプロテクトスーツは漆黒。

 ティアナ達の反応を楽しむかのように笑う黒髪の青年レン・アマミヤ。漆黒の片手剣ヴァリアントザッパー、フェンサーモードからも楽しそうなキリエ・フローリアンの声も聞こえる。

 

「何にせよ、これで最早後戻りできなくなった訳ですが……」

 

 殲滅服の背には紺色の翼。両手には逆手持ちの銃槍。口ではクールを装いつつも、風に揺れる髪の下ではレンと同じくこの状況が愉快で仕方ないと言わんばかりのシュテル・ザ・デストラクター。

 

「眠気覚ましには丁度良いね。椅子は固くてあんまり寝た気がしないけどさー」

 

 それはかつてのスプライトフォームを基準にした新しい襲撃服。水色と白に輝くチェストアーマーを代表に、動きやすさと防御を兼ね備えた各種防具。そして水色のスカートをひらめかせレヴィ・ザ・スラッシャーがニヒヒと無邪気に笑う。彼女の心境を示すかの様に、その手で青白い電撃がバチバチと音を立てている。放っておいたらそのまま飛び出していきそうだ。

 

「落ち着けレヴィ。そもそも、貴様が一番熟睡していたではないか。まぁ、それはさておきこの程度。肩慣らしにもならん」

<戦い慣れてる相手ですからね。皆に良い所見せちゃいましょう!>

 

 シュテルに呆れつつ、器用に杖をグルグル回しているのは暗黒甲冑を纏うロード・ディアーチェ。

 背にはいつもの六枚羽では無く、炎の様に揺らめく一対の大翼。それはユニゾンしているユーリ・エーベルヴァインの魄翼。ユーリも意識下で気合いを入れている。

 各々がデバイスを掲げた。その先に魔力が集中していく

 

「さぁ、派手な祝砲を打ちあげるとしましょう」

「「「おう!」」」

「それでは、ミッションスタート!!」

 

 シュテルの掛け声と共に4人は空高く魔力を打ちあげる。

 蒼炎、緋炎、青雷、暗黒。

 4種の魔力が螺旋を描き、上空高く、ぐんぐんと伸びる。

 そしてそれが頂点に達した時魔力は爆発を起こし、青空に盛大な花火が咲き誇る。

 降り注ぐ魔力の残滓は、まるで春に降る雪の様にキラキラと輝く。

 幻想的な光景に誰もが目を奪われていた。

 だが、4人はその間にガジェットボールに向けて進撃を開始。

 

 春の嵐が、牙を剥く。




レヴィの襲撃服に一部思う所があったので修正しました。
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