魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第16話 1人じゃない

1

 

 

 

「良いのか? こんな時にここに居てさ」

「良いんスよ。こんな時だからここに居るんス」

 

 六課の空中での足になるJF704式ヘリコプター。

 はやてから出動命令が下ったフォワード達は、このヘリに乗り込み現場へと向かっていた。勿論そこには隊長であるなのは。初陣であるフォワードのサポート役としてリインフォースⅡ。シュテル達Spiritsの姿もある。

 本来なら後部キャビンにメンバーが待機している筈なのだが、この男。レン・アマミヤは操縦席に居た。

 それに苦言を呈したのはヴァイス・グランセニック。このヘリのパイロットである。

 しかしレンは全く悪びれた様子も無く、ヴァイスの隣。副操縦席に悠々と座っていた。

 

「とは言ってもよ。お前ぇ今回の新人達のサポートなんだろ? 後でなのはさん達に怒られても知らねーぞ」

「心配無用ッス。俺は『ロングアーチ』としてその辺りに抜かりは無いッスから」

 

 そう言いながら、レンはこの気さくな先輩に心の中で謝罪する。

 地上警備特別遊撃隊Spiritsは特殊任務部隊である。そしてレン達はライセンサーだ。その秘密を守る為、六課での名目上、彼らの所属は『ロングアーチ』。六課の司令部である後方支援部隊所属という事になっている。更に特殊な事にフォワードの様に分隊されている。

そんなSpiritsの面々のコールサインは『トランプ』。事情を知らない隊員は、カードゲームのトランプを連想するだろう。実際、はやてもそう説明している。しかしそれは表向きの、本当の意味を隠す為のものだ。その真に意図する所は別にある。

 レンの横にいるヴァイスはそれを知らない。

 あくまでレン達はロングアーチ。フォワードを後方から補佐する支援部隊。

 だからこそ、レンがこうも余裕を持っている事に疑問がある。

 お前、俺達に何を隠している? “元”武装隊としての勘? いや、当然の疑問だろう。

 今、自分の隣に居る男は口ではおどけているが、その身に纏う雰囲気はかつてヴァイスも肌で感じていた現場のピリピリとした空気そのもの。なんだかんだと言いつつも、レンはレンなりに覚悟を持って今回の任務に当たっている。

 それが分かるから特に詮索はしない。目的や素性も大事だが、その覚悟があるのならば仲間として信用も信頼もできると彼は判断していた。つまる所、やはりヴァイスの根本は武装隊員。そしてライトニング副隊長シグナムの部下、という事だろう。

 

(絶対疑われてるよな~)

 

 その疑念。レンには筒抜けではあったが。

 

 

 そんなレンの後方。JF704式のキャビンは静まり返っている。

 勢いよく飛び出しては来たものの、初めての実戦とあってかティアナ達の表情は硬い。現場にはガジェットボールの他に未確認の新型ガジェットが出現してくるかもしれない。未知に対する恐怖が彼女達の不安に拍車をかけていた。

 そんな彼女達の胸中をなのはは理解はしていた。しかしそれは彼女達に限った話では無い。そもそも初陣は誰にでもあるものだ。魔導士として生きて行くならば、これだけは人に言われて解決する問題では無く、自分自身で乗り越えなければならない問題。

 まさにはやての言う、新人達が乗り越えなければならない最初の試練。これはその序章に過ぎない。

 ふと、なのはの視線はシュテルに向く。シュテルの視線もちらちらとフォワード達に向けられていた。

 そんな彼女に薄く微笑む。

 シュテルも心配なのだろう。ヘリに乗り込んでから思い詰めたように黙ってしまった新人達。その内2人は訓練校の同期。特にもう2人はまだ幼い少年少女だ。流石のシュテルもなんと声をかけていいか、分からないのだろう。正直なのはもそうだ。エリオとキャロの年の頃にはなのは自身、既に空に居たがその時は無我夢中だったからあまりそういう事は考えていなかったと思う。故に教導官としての言葉はかけられるが、高町なのは一個人としてどう声をかければいいか分からない。

 

『やっほー。エリオとキャロ~、ちゃんと出撃してるかい?』

「「お、お姉ちゃん……」」

 

 それでもやらないよりはましだと、声をかけようとした刹那、突然空間モニターが開き能天気な声が聞こえてきた。

 思わずエリオとキャロが苦笑している。モニターには現場に向かいながらも通信を繋げてきた笑顔のレヴィ。

 しかし無邪気な笑みも、緊張に強張る2人を見てむむっと険しくなった。

 

『なんだいなんだい、その顔は。そんな顔してると幸せが逃げちゃうよ? ほらほら笑って笑って』

『レヴィ、あまり無茶を言っちゃ駄目。2人は初めての出撃で緊張しているんだよ』

 

 更にもう1枚開いた。映っていたのはフェイト。2人とも高速飛行中の筈なのに無茶をする、となのはは呆れるばかり。そしてレヴィはフェイトの言葉に口を尖らせている。

 

『そんなの関係ないよ。緊張したってもうスタートしちゃってるんだしさ。あれこれ考えたってどうなるもんでもないでしょ?』

『それはそうなんだけど、もう少し……ね?』

『甘い! ハチミツたっぷりのカレーみたいに甘い! フェイトはエリオとキャロの事になると、ホント甘いよね~。2人が心配なのは分かるけどさ~、もうちょい信用してあげなよ』

『し、信用してるよっ!?』

『なら、もっとどーんと構えてなって。成功したら褒めてあげればいい。失敗したら抱き締めてあげればいい。そういうもんじゃないの?』

 

 いかにもレヴィらしい考え方だ。成功したら成功した。失敗したら失敗した。やってみる前からごちゃごちゃ考えるのは彼女にとってナンセンスなのだ。どういう結果に転がろうともレヴィはエリオとキャロを責めたりはしないだろう。勿論フェイトもそのつもりだったが、いざ言葉に出すと出さないとでは大きな違いだ。

 その証拠に幼い2人の顔からみるみる緊張が解けていく。それに呼応してティアナとスバルの顔からも笑顔が零れていた。

 

『それに2人とも周りを見てごらん。君達は1人かい? 違うでしょ? ティアナがいる。スバルがいる。ナノハがいる。シュテるんや王様達だっている。そして何よりボクとフェイトがいる。君達は思いっきりやればいいんだよ。だから難しい事なんか考えないで当たって砕けろだ!』

『砕けたら駄目だけどね。でもね2人共。レヴィの言う通りだよ。大丈夫。皆が助けてくれる。それが家族で、チームなんだ。だから後ろは任せて。もう2人は1人じゃないんだから』

「「……はいっ!」」

 

 君達は1人じゃない。それが今のエリオとキャロにとってどんな力強い言葉か。

 それは2人の返事の強さからも良く分かる。エリオとキャロの顔を見ると、レヴィは手をひらひらと振って通信を切った。そしてフェイトは続けてなのはに通信を繋げる。

 

『ごめんなのは。教導官のお仕事取っちゃったかな?』

「ううん。正直助かった……かな。私だけじゃ、皆の不安を取り除けなかったかもね。やっぱり、こういう時は一番身近な人の声が一番力になるって実感させられちゃった」

『そっか。でも私が心配なのはエリオとキャロだけじゃないよ。なのはの事だって心配なんだ。……絶対に無茶しちゃ駄目だからね』

「分かってる。フェイトちゃんとレヴィの言う通り、私達は1人じゃないもの。皆で協力して、このミッションを成功させよう!」

『うん』

 

 通信越しに2人が拳を合わせ、微笑み合う。

 

「へぇ、良いチームになってるじゃないの」

「でしょ? だからここで俺達が出て行く必要なんて無いんスよ」

「だな」

 

 後方の会話は勿論操縦席のレンとヴァイスにも聞こえている。最初はガチガチに緊張したフォワード達と、どう声をかけて良いか思案していたなのは達に対し、ヴァイスが何か一言言おうかともしていたのだ。

 しかしレンがそれを止めていた。まだ出て行く時ではない。これくらいお互い乗り越えてくれなければ困ると言って。

 レヴィとフェイトの通信はそれを払拭してくれた。ピリピリとした緊張も今は程良くほぐれ、逆にミッションに対する意気込みがひしひしと伝わって来る。

 士気は上々。後は現場に乗り込むだけかと思われた。

 突如、レンとヴァイスが眉をしかめる。前方に無数の機影を捕えたからだ。それは群れをなしてこちらに向かってくる。

 ガジェットの新型。しかも航空特化型だった。

 

 

 ガジェットボールよりも飛行に特化したその機体の姿は、ロングアーチを通してマリアの車で移動中のはやてにも届けられていた。ここはやはりと言うべきだろうか。聖王教会で新型の報告を受けた時から、今回新型が出てくるであろう事は2人の予想の範疇。それに対し、なのはが現場判断で単騎出撃を行ったという。目的は制空権を得る事。程なくしてフェイトとレヴィ。そしてマークも合流するだろう。だが、レヴィとマークにはマリアから待機が命じられている。マークが現場判断で介入を命じない限り、新型ガジェットはなのはとフェイトの2人で対処しなければならない。

 

「歯がゆいなぁ。頭では分かってるんだけど、仲間が戦っているのに簡単に介入できないってつらい」

「それでも、ここを乗り切ってくれんと。今後の事を考えたらこの程度は序の口や」

「気持ちは分からなくもないんだけどね……」

 

 それでもなんや。

 はやての呟きがマリアに聞こえたかどうかは分からない。それ以上マリアは何も言わずに運転に集中している。現場ではなのはと合流したフェイトが航空型とエンカウントした模様だ。流石は親友達。歴戦の猛者と言った所だろう。久しく揃って空を飛ぶ事はなかったが、阿吽の呼吸でガジェットを撃破していく姿は微塵もコンビのブランクを感じさせない。

 後はフォワード達の働き次第だ。

 成功の鍵は彼女達にかかっていると言っても良い。

 

(さぁ新人達。あんたらに私達が感じた可能性。それが間違いでなかった事を証明してや!)

 

 今まさに出撃せんとしているフォワード達にはやては無言のエールを送る。

 

 

 なのはとフェイトが制空権を得た事で、フォワード達の乗せたヘリは暴走するリニアレールの上空。降下ポイントまで到着している。そしてそのキャビン後方。大きく開いたランプドアには空の強風にも関わらず、スバルとティアナが待機している。

 

「じゃあ、レン兄。シュテル姉。みんな。行ってくるね」

「あたし達の活躍をしかと刻み込ませてあげるわ!」

「おう。期待してんぜ」

「但しくれぐれも無茶はしないように」

 

 振り返った先にはレン達がいる。2人は不敵に笑うと、再び今から向かうべき場所を見据えた。

 

「スターズ03、スバル・ナカジマ!」

「スターズ04、ティアナ・ランスター!」

「「行きます!」」

 

 少女達の体が空に躍り出る。各々の手には新しいデバイス。空色のクリスタル、マッハキャリバーと十字が描かれたカード、クロスミラージュ。セットアップの掛け声と共にデバイスが輝きを生み、2人を包み込みながら下降していく。

 

「さぁ次はお主らだ。しっかり決めて来い」

「シュテルちゃんじゃないけど、本当に無茶しちゃ駄目よ? 無茶したらお姉さん泣いちゃうから」

 

 ディアーチェとキリエの励ましに、ランプドアに控えたエリオをキャロは頷いて見せた。だがそれでもスバルとティアナに比べたらまだ固い。一度ほぐれた緊張と初陣に対する恐怖が、この土壇場にまた湧き上がっている。無理も無い。いかに強い力を持っていても、まだ10歳の少年少女だ。ティアナ達のように割り切る事ができる程、心はまだ成長し切っていないという事だろう。

 そんな2人を後ろから抱き締める人がいる。

 ユーリだ。

 

「レヴィも言っていました。貴方達は決して1人じゃない。挫けそうになったら思い出して下さい。貴方達の後ろには私達がいます」

 

 その温もりがエリオとキャロの強張った緊張を解きほぐす。再び前を向いた2人にユーリは微笑む。

 

「行ってらっしゃい」

「「はい!!」」

 

 どちらからという訳でもなく繋がれた少年と少女の手。ユーリから感じた温もり。それと同じ物を互いの掌に感じ、2人は精一杯力を込めて、先に飛び出した仲間と同じく声を上げる。

 

「ライトニング03、エリオ・モンディアル!」

「ライトニング04キャロ・ル・ルシエとフリードリヒ!」

「「行きます!」」

 

 手を繋いだまま2人と1匹が飛び出した。そして繋がれていない手には腕時計型のストラーダと、腕輪型のケリュケイオン。彼らもまた主の勇気に応えるように、主を守る形へと変わるべく眩い輝きで2人を包み込んだ。

 

 

 エリオとキャロがリニアレールに無事着陸した頃、先に降りていたティアナとスバルはガジェットボールを相手に奮闘していた。スバルが先行し、レリックがあると思われる重要貨物室へ。ティアナは追って降りてきたリインの指示の下、まずはリニアレールを止めるべくケーブルの切断を行う。

 しかしケーブルの切断を行ってもリニアレールが止まる様子は無い。軽い舌打ちの後、ティアナはリインへ念話通信を試みる。

 

「リイン曹長! ケーブルの破壊効果ありません!」

<了解しました。車両の停止は私が引き受けるです。ティアナはスバルと一度合流してレリックの確保に向かうです!>

「了解です!」

 

 念話通信を切るとツーハンドモードにしていた新たな愛機、クロスミラージュをワンハンドモードに変更。車両の移動を開始する。その途中でガジェットボールに遭遇したが、クロスミラージュから放たれた魔力弾はAMFをもろともせずに撃ち抜いてしまう。アンカーガンを使っていた時とは段違いの処理速度と威力にティアナは思わず舌を巻いてしまった。

 

「さっすが最新型。色々便利だし弾郭成形も補助してくれるのね」

『Yes.』

「あんたみたいな優秀な子に頼り過ぎると、あたし的には良くないんだけど……ねっ!」

 

 曲がり角。壁に身を寄せつつ半身出した所から残りのガジェットボールを狙い撃つ。

 再び魔力弾がガジェットボールを貫いた。バチバチと火花を散らす残骸と、周りに残存兵力が無い事を確認し、ティアナは歩みを再開する。

 

「本番じゃ助かるわ」

『Thank you.』

 

 主に褒められて、クロスミラージュも嬉しそうに明滅している。それにウィンクで応えると早速ティアナはスバルに通信を繋いだ。どうやらスバルは7両目に突入した様だ。しかしそこはガジェットボールの巣窟となっていたらしい。うんざりしたスバルの声にティアナはその歩みを速める。

 

「オッケー。今からそっちに向かうからそれまで我慢しなさい! エリオ、キャロ。そっちはどう?」

<こっちはすぐに動けそうにありません。新型と遭遇しちゃいまして……>

<大丈夫ですティアさん! ここは僕らで乗り切ってみせます! キャロも絶対守ります!>

「良く言った男の子! その言葉信じるわよ!」

<はいっ!!>

 

 聞こえてきたのはキャロの悲痛な声と、覇気に満ちたエリオの声。

 守ってみせると断言したエリオに、やっぱり男の子だとティアナは笑みをこぼす。そして一刻も早くスバルと合流すべく、ティアナは更にその足を速めるのだった。

 

 

 

2

 

 

 

 ここが今回の正念場かな

 目の前の機械を見てエリオは乾いた唇を舐め上げる。

 キャロが念話通信で伝えた通り、彼らはガジェットの新型と遭遇していた。

 リニアレール内部で2人を待ち構えていたかの様なそれ。ガジェットボールの様でありながらも大きさはその比では無い。ガジェットボールは大きくても人1人程度なものだ。しかし目の前のそれはゆうにその倍はあるだろう。

 そして対峙するエリオはまだ小柄な少年だ。他の人が感じるよりもずっと大きく新型を感じている。

 だがこの若き槍騎士は一歩も退かない。彼の後方には守ると誓った少女がいる。故に退かない。退くという選択肢が存在しない。

 

「さぁ行こうかストラーダ」

『Jawohl.』

 

 槍型のデバイス、ストラーダはあまり多くを語らない。しかしエリオはそれで十分。愛機を構え、少年は眼光鋭く眼前の機械を見据える。

 先に動いたのはガジェットだった。球体の中心にあるレンズから次々と光線を放ってくる。

 対するエリオは果敢にもその光線の雨に突っ込んだ。避けていては埒があかない。ここは出来るだけ短期決戦に持ち込もうという腹だ。迫る光の中、エリオはストラーダを床に突くと、棒高跳びの要領で大きく飛びあがる。そしてそのまま穂先に自らの魔力変換資質『電撃』を纏わせたストラーダを叩きつけた。

 全身のバネと落下の重力加速。そこに魔力変換の電撃。

 普段のガジェットボールならそれで叩き伏せる事ができただろう。

 しかし、新型の強度はエリオの予想をはるかに上回る物だった。堅牢な装甲はエリオの一撃を易々と弾き返してしまう。

 

「フリード! ブラストフレア!」

「キュクゥゥゥッ!」

 

 すかさずキャロが援護に動く。小翼竜フリードが生み出す火球がエリオに追撃をかけようとするガジェットに向けて放たれる。だが今度はガジェットの前に白く輝く光の壁が出現し、火球から自身を守る。

 

「バリア? それも凄く固い……」

「やっぱり新型は一筋縄じゃいかないって事だね」

 

 キャロの隣に降りたエリオが再びストラーダを構える。確かに訓練で相手をしてきたガジェットに比べれば手を焼く固さだ。しかし1人が駄目なら2人だ。互いに頷きあうと、エリオはカートリッジを1発リロード。キャロは両手のケリュケイオンに魔力を集中させる。

 

「我が乞うは、疾風の翼。若き槍騎士に駆け抜ける力を!」

『Boost Up Acceleration.』

「ストラーダ!」

『Speerangriff!』

 

 かけられたのは機動力を強化する補助魔法。そして放つはなのはのバリアジャケットにも届いた、高速の一撃。ストラーダの穂から魔力が噴き出し、エリオがロケットの様に飛び出した。攻撃させる時間等与えない。加速の上に更に加速を重ね、エリオが自身を1本の槍へと変えガジェットに迫る。

 だがまたしてもガジェットを光のバリアが守った。穂先が届こうかという刹那、展開されたバリアがストラーダを食いとめている。

 そして次の瞬間、2人の目の前で信じられない事が起こった。

 今まで球形をしていたガジェットの装甲が次々と展開し、形を変えていく。

 それはまさしく、変形。

 バリアを展開しながらも2人の目の前に姿を現すのは、下半身は6脚の昆虫。上半身は人の形をした半人半虫という奇妙な機体。

 そして機体のバイザーが輝くと同時に、エリオの体から魔力が抜け、一気に失速する。キャロも足元に展開していた魔法陣が掻き消されていく。

 

「AMF!」

「こんな遠くまで……」

 

 それは2人がまだ体験した事のない規模のAMF。正直驚きを隠せない所にそのガジェットは両手に構えた銃を発射する。

 

「うわあぁっ!」

「エリオ君!!」

 

 なんとか回避に成功したキャロだが、攻撃中だったエリオはそうもいかない。直撃だけは避けたものの、爆発の余波で大きく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

 キャロの悲鳴が響く。一瞬意識が飛びかけたエリオだが、皮肉にもその悲鳴が彼の意識を繋ぎとめる。

 ストラーダを杖にして立ちあがるエリオ。

 変形したガジェットは、そのバイザーから無機質な視線をエリオに向けている。

 

 

 ガジェットが変形した。

 それに驚いたのはエリオ達だけでは無い。上空で待機し、自らに向かってくるガジェットを撃墜していたマークとレヴィ。ヴァイスの乗るヘリを守っていたレン達。そして機動六課に到着し、様子を確認していたはやて達にも大きな衝撃を与えていた。

 特にSpiritsの面々に走る動揺は人一倍だ。

 彼らは知っている。ガジェットが変形したその姿が、何であるかを。

 サイズこそ小型化しているが、特徴的なそのフォルムを彼らが間違えようはずも無い。

 

「YMAG-X7F、ゲルズゲー……」

「マリアさん知ってるんか? あのガジェットの形を」

 

 マリアの呟きにはやてが首を傾げる。指令室の全員がマリアに注目した。

 知っているなんてもんじゃない。

 彼女には『戦った経験がある』のだ。勿論生身ではなく、『モビルスーツで』だが。

 

「かつて私も戦った事があるモビルアーマーよ。サイズダウンしてるけどね。元々拠点防衛を目的に設計された物と聞いているわ。恐らくさっき展開したのは陽電子リフレクター。見た目があんなだから機動性は高くないんだけど、陽電子リフレクターの防御力でそれを補っているの」

「成程。機動力の無さを防御力でカバーしてるって訳か。……これはエリオ達には荷が重いかもしれんな。仕方ない。マークさん!」

『分かってる! ロングアーチ、トランプ隊。“エース”と“ジャック”が援護に向かう!“キング”達は現状維持。ヘリを守れ! 但し、介入は現場判断に任せるぞ!』

 

 はやての声にマークが声を上げた。そしてその号令が出るや否や、真っ先にエリオ達の所に飛んでいくのはレヴィ。ずっとはらはらしながらエリオとキャロを見守っていたのだ。これ以上待機を命じようものなら、彼女は命令無視をしてでも飛び出していったかもしれない。

 背中にある妖精の羽にまで電撃を宿し、電光の妖精は一直線に向かっていく。

 エリオ達はレヴィに任せておけば問題ないだろう。

 そう判断したマークはなのはとフェイトへの合流を優先した。これで終わるとは思えない。まだ何かあるかもしれないと思うと、制空権の維持は必須と言えよう。

 そしてその判断は間違いでは無く、懸念は現実となる。

 新しく姿を見せた航空型ガジェット。そのシルエットにマークは思わず息を飲んだ。

 

「よりにもよってこいつらかよ!」

 

 悪態の1つも出てくるだろう。航空型ガジェットにも似たその姿はまるで空を泳ぐエイの様だ。

 RX-139 ハンブラビ。勿論サイズダウンしているが、間違いようがない。

 

「なのは、フェイト! 油断するな。こいつらは連携で来るぞ!」

「はいっ!」

「了解!」

 

 3人背中合わせでまとまる周りをガジェット・ハンブラビは獲物を追い詰めるように飛びまわる。

 航空型ガジェットも編隊を組んでいたが、精度はそれ以上。マークが見た事があるのは3機での編隊だったが、今目の前にはそれ以上の数で彼らに迫っていた。

 

 一方、リニアレールの屋根でガジェット・ゲルズゲーと対峙するエリオ。キャロはどうして良いか分からず、彼が戦う様を見ている事しかできずにいる。

 補助魔法で援護をしようにも広範囲で展開されたAMFがそれを掻き消してしまう。フリードのブラストフレアも簡単に弾かれてしまう。他に攻撃魔法を持っていない彼女に出来る事は無い。

 そう、頭から決めつけてしまっていた。

 結論から言ってしまえば、そんな事は無い。

 彼女には切り札がある。それを切る事が怖いのだ。

 その力の所為で彼女は村を追われた。強すぎる力は災いを呼ぶと言われて。

 その力の所為で彼女は孤独だった。どこでもその力を持て余して。

 もしも、ここでも暴走を引き起こしてしまったら? 自分を優しく迎え入れてくれた人達を傷つけてしまったら? またあの孤独な日々に逆戻りしてしまったら?

 

 

「スーパァァァー……」

 

 

 そんな事は絶対に嫌だ。

 キャロは温もりを知ってしまった。また孤独にさらされ、冷たい日々を送るのは嫌だ。

 それがキャロに切り札を切らせる事を躊躇わせる恐怖になる。

 

 

「稲妻ァァァ……」

 

 

 

「うわああっ!!」

「エリオ君っ!!」

 

 爆音と叫びがキャロを現実に引き戻した。

 ガジェット・ゲルズゲーの銃が光線を放ち、リニアレールを貫いたのだ。そしてその爆発の余波でエリオが外に弾き出されてしまう。その体に力は無い。どうやら気を失っているようだ。このままではエリオの体は崖の下に落ちてしまうだろう。

 助けにいかなければ。だが、その小さな体に影がかかる。ガジェット・ゲルズゲーが次に標的に定めたのはキャロ。緑色のバイザーにキャロを捉え、銃を構える。

 足が竦んで動かない。四肢が強張る。頭の中がパニックになる。

 もう駄目。自分には何も守れない。諦めの涙が一筋流れた。

 

「キィィィィックッ!!!」

「……え?」

 

 何が起こったか理解できなかった。銃が向けられ、何もかも諦めかけた瞬間、目の前に落ちてきた水色の雷撃。その雷撃の中にいたのは、水色の髪の少女。いつも屈託ない無邪気な笑顔を浮かべる電光の妖精。

 

「キャロ! エリオを助けるんだ! こいつはボクが抑えるから今の内に!!」

「で、でも……」

「でもじゃない!!」

 

 一喝に体が震えた。ガジェット・ゲルズゲーの生み出す陽電子リフレクターに遮られながらも、電光の妖精。レヴィ・ザ・スラッシャーの飛び蹴りは威力が落ちない。それが逆にガジェット・ゲルズゲーの動きを止めている。

 そして青白い電撃がスパークする中、レヴィは声を張り上げた。

 

「キャロがやるんだ! 忘れたの!? キャロの後ろにはボク達がいる。君がフリードを制御できなくたってボクらが止めてみせる! 君は1人なんかじゃない!! 絶対に1人になんかさせない!!」

「……はいっ!」

 

 今、一番聞きたかった言葉。涙を拭う。体の震えも止まっている。

 すかさずキャロは走りだした。とにかく体を動かした。少しの助走の後。リニアレールの屋根から一気に空へと飛び出す。

 体が自由落下を始め、みるみるリニアレールが後方に遠ざかる。

 エリオの姿が遠くに見えた。飛び出すのが遅れた為、その距離はかなり開いている。このまま落ちても、間に合う確率は万に一つもなく、エリオは地面に叩きつけられるだろう。

 方法は1つしか残っていなかった。

 

 

『キャロはどこに行って、何をしたい?』

『行ってらっしゃい』

『ここは僕らで乗り切ってみせます! キャロも絶対守ります!』

『君は1人なんかじゃない!! 絶対に1人になんかさせない!!』

 

 

(そうだ……。私は1人じゃない。フェイトさん。今ならあの時の答えがはっきり言えます。私は、みんなと。機動六課のみんなと一緒にいたい。ユーリさんや、エリオ君。お姉ちゃんやみんなと一緒に……)

「未来に行きたいです!」

『Drive Ignition!』

 

 ケリュケイオンがキャロの想いに応えるように、強い光を放つ。

 淡い桃色の輝きがキャロを包む。光の中、彼女はずっと一緒に居てくれた。今なお、共に飛んでくれている大事な友達に語りかける。

 

「今まで窮屈な思いをさせてごめんね。でも、私もう迷わないよ。貴方もしっかり制御してみせるから。私に力を貸してフリード!」

 

 一鳴き。力強い声が聞こえてきた。キャロは頷くと、両手を大きく広げ高らかに詠唱を始める。

 巨大なミッド式魔法陣がキャロの後方に展開した。

 

「蒼穹を走る白き閃光。我が翼となり、天を駆けよ! 来よ、我が竜フリードリヒ。竜魂召喚!!」

 

 それは白銀の飛竜。

 魔法陣から這い出す様に白銀の飛竜が姿を見せた。そしてキャロをその背に乗せると巨大な飛竜は、歓喜の声と共に翼を広げ、一気に滑空を始めた。

 風を裂き、みるみるエリオの姿が近づく。フリードの背からキャロが小さな体を使ってエリオに精一杯手を伸ばす。だがフリードの制御をしながらでは上手く掴めない。近づけば離れ、近づけば離れる。

 それでもキャロが懸命に手を伸ばすが、空しく空を掴むのみ。

 そしてキャロは最後の手段に出た。今度はフリードの背からエリオに飛び付いたのだ。

 再び感じる浮遊感。だが、彼女はしっかりとエリオを抱きとめる。

 地面が見えてきた。針葉樹林が目の前まで迫っている。

 キャロに不安は無かった。何故なら木々に突っ込もうとした瞬間、彼女の体はもっと柔らかい物によって受け止められる。そうなる事が分かっていたからだ。

 

「ありがとうフリード」

「クォォォォンッ!」

 

 2人を受け止めたのはフリードの背だ。本来の姿となったフリードが主の言葉に再び歓喜の声を上げる。

 そして飛竜は空を舞い、再びリニアレールへと飛翔する。

 

「そう。それで良いんだよキャロ。君に足りなかったのは勇気。後一歩を踏み出す勇気なんだ。危険だと言われても君はフリードを投げ出したりはしなかった。絶対に見放したりしなかった。君達は何よりも強い絆で結ばれている。とっくに召喚制御の条件は満たしていたのさ!」

 

 両手の魔力刃を展開させ、ガジェット・ゲルズゲーと対峙するレヴィ。その後ろから颯爽と現れるフリード。背にはキャロと意識を取り戻したエリオがいる。

 肩越しに振り返り、レヴィは2人にニカッと笑いかけ親指を立てた。

 エリオとキャロも同じ様に親指を立てて返す。

 

「さぁ2人共、こいつは君達が破壊するんだ! 大丈夫! 今の君達ならやれる!」

「「はい!!」」

 

 飛竜の背で少年は槍を取る。ガジェット・ゲルズゲーのバリアを貫くには一点集中。しかも生半可な一撃ではない。先ほどよりももっと強く。もっと鋭く。もっと強靭な一撃だ。

 そしてその為には……。

 

「キャロ。力を貸してくれないかな。あいつのバリアを貫くには僕の力だけじゃ足りない。キャロの力が必要なんだ」

「うん!」

 

 少年から差し出された手を取り、少女が立ちあがる。

 

「我が乞うは、清銀の剣。若き槍騎士の刃に、祝福の光を……」

『Enchant Field Invade.』

「猛きその身に、力を与える祈りの光を!」

『Boost Up Strike Power!』

「ツインブースト! スラッシュアンドストライク!」

 

 ツインブースト。フィールド貫通能力と攻撃力の増加。エリオの体に力がみなぎる。

 そしてストラーダもダブルリロード。更なる力が湧きあがる。

 先のスピーアアングリフよりも更に強烈に、更に速く、更に強い爆発がエリオの体を宙に飛ばした。

 電撃と魔力が穂先に集中する。一直線に電撃の槍はガジェット・ゲルズゲーを狙う。

 だが、展開される陽電子リフレクターがエリオの一撃を再び押しとどめた。

 強烈なスパークが弾け、まともに目も開けられない。

 そしてエリオは諦めない。その身に力が続く限り、ストラーダを少しずつ前へ、前へと押し出す。

 キャロの補助魔法と、ストラーダの推進力。

さしもの陽電子リフレクターも完璧ではない。次第に穂先が光の盾に食い込み始めた。

 ガジェット・ゲルズゲーもたまらず反撃に移る。6脚の内前脚2本を触手の様に伸ばし、左右からエリオを挟撃せんとしたのだ。

 エリオは身動きが取れない。そのままでは串刺しになる。だが……。

 

「やらせない!」

 

 電光の妖精が黙ってはいなかった。

 両手に宿る6本の魔力刃が前脚を切り飛ばす。エリオの左右で爆発が起こす中、遂にストラーダが陽電子リフレクターを貫く。

 

「一閃……必中!! うおおおおっ!」

 

 深く、ガジェット・ゲルズゲーに突き刺さるストラーダ。魔力刃によって肥大化した穂先がその胴を貫通。それだけでは終わらず、エリオは力任せにストラーダを切り上げた。

 渾身の刺突と斬撃。ガジェット・ゲルズゲーの胴を左右に分ける。

 そして、それは遂にエリオの後方で爆発を起こした。

 

 

 エリオとキャロがガジェット・ゲルズゲーを破壊。

 ガジェット・ハンブラビも空のなのは達が撃破。

 レリックもティアナ達が確保。

 一時はヒヤヒヤとしたものだが、なんとか無事に任務を完了できたようでレン達はほっと胸を撫で下ろす。

 流石に初出動でSpiritsも動く事になるとは想定外だった。

 だが、出ざるを得ない状況であったのも確か。

 そして誰も大きな怪我をする事も無く、ここを切り抜けられた。経験の浅いフォワード達にとっては上々のスタートと言えるのではないだろうか。

 

「ともあれ、無事任務完了だ。色々と頭の痛い事はあるけどな」

「本当に。これからの事を考えると正直うんざりですね」

 

 言っている事はともかく、レンとシュテルは互いに微笑みあい、拳を突き合わせる。

 リニアレールも停止し、今頃六課にいるはやてから次の指示が出ているだろう。

 

 だから。と言うと言い訳がましく聞こえるだろうか。

 誰しもが無事に任務を完了したと思い、一瞬の油断を生じさせていた。

 突然の事に思考が追いつかなかった。

 突如として、空が真っ赤に染まる。

 赤、というよりもそれは血色。

 そしてリニアレールで起こる爆発。それはティアナ達がレリックを確保していた場所。

 あまりに突然の事で、レン達は言葉を失う。空中のなのは達でさえ、身動きが取れなかった。

 爆発がそれほど大きな規模の物ではない。

 だが、爆炎を裂きレン達の目に飛び込んできたのは。

 

 淡い緑色に輝く粒子が天に向かって渦を巻いている光景だった。

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