魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第17話 再会

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 リニアレールで爆発が起こる数分前……。

 

「これでレリックの封印処理は終了ですね」

「ですねー。後ははやてちゃんの指示待ちと言う事になります」

 

 レリックの封印処理を済ませたティアナの肩にリインが降りる。

 周囲にガジェットの反応も無い。リニアレールも止まったし、何よりも無事に初出動を終えた。

 恐らく後はこのレリックを研究機関まで届ける事になるだろう。

 それでも大きな山は越えた。ティアナはレリックのケースを抱え、安堵の息を漏らした。

 

「スバル~。部隊長に連絡取る……って、何よ。怖い顔して……」

「いや、なんていうか……。なんかこう耳鳴りが凄いし、目もチカチカするんだよね……。それに上手く言えないんだけど、頭の中がざらざらするって言うか、ノイズが走るっていうか」

「ノイズ? ……まさか!」

 

 スバルの様子にティアナは待機させていたクロスミラージュを再起動させた。ワンハンドモードで周囲をくまなく警戒する。肩のリインとスバルはそんなティアナの豹変に目を白黒させた。

 これが思い過ごしならまだ良いだろう。しかしティアナにはある程度の予測があった。

 スバルに起こった異変。ティアナとリインには感じられない違和感。

 スバルをよく知るティアナだからこそ、思い当たる予感。

 

「そこだっ!」

 

 振りむき様に魔力弾を撃つ。それは一直線に別車両のドアに向かう。

 だが次の瞬間、別の光弾がドアを破壊しながら飛び出し、ティアナの魔力弾と正面から衝突する。

 そして爆発は起こった。

 

 

 そして現在。

 

 空を埋め尽くす赤に、エリオをキャロが不安げに辺りを見渡している。

 そしてレヴィは空を見上げていた。

 車両で起こった爆発。天を突き刺す淡緑色をした粒子の柱はレヴィ達も確認している。

 彼女は知っている。それが何であるかを。

 彼女は知っている。その赤の使い手を。

 そして彼女は満面の笑みを浮かべた。

 

「4年振りだね。何で今まで連絡くれなかったの? ずっと心配してたんだぞ?」

「あぁん? ったく、うっせーな。こっちも色々あったんだよ」

「久しぶりに会ったのにそれは無いんじゃないかなぁ。でもま、いっか! 元気そうだし!」

「相変わらず嫌になるくれぇ前向きだな。ちったぁこの状況見ておかしいと思わねぇのかよ」

「思ってるよ? それよりも無事だって分かったのが嬉しいんだ!」

 

 一体誰と話しているのか、エリオとキャロは首を傾げるばかり。

 刹那、上空から降り注ぐ真っ赤な光の雨。主の危険を察知したフリードが旋回しこれを避ける。

 レヴィは微動だにせず、ifsユニットを展開。幾つものプロテクションを展開させて光の雨を弾く。

 

「お姉ちゃん!」

「安心しなよキャロ。これはほんの小手調べなんだから」

「分かってるじゃねぇか」

 

 上空の赤が裂け、現れたのは人物こそレヴィと会話していた人物。

 黒のインナーとズボン。血色のロングコートをバックルで閉じたボサボサの髪の青年だ。青年はニヤリと口元を歪ませ、その背丈はあろうかという大剣を肩に担いでいる。

 瞳だけが異様にギラついている。飢えた狼の様な目で。

 それはエリオとキャロが今まであった事のない人種の目だ。

 ギロリと睨まれ、2人は思わず竦み上がり、フリードが威嚇の唸り声を上げる。

 瞬間、電撃が鞭となって青年に放たれた。しかし青年も大剣を振り払い、電撃を弾く。

 だが青年は楽しそうだ。レヴィもまた行動とは裏腹に笑顔を浮かべている。

 

「うちの甥っ子と姪っ子を威嚇しないでくれるかな? 脅えちゃってるじゃないか」

「ハッ! この程度でビビるくらいなら最初から戦場に出てくんじゃねぇよ」

「ったく相変わらずだね。ブラッド」

「ああ。お前も変わらず……いや、あのジャリがよくもまぁそこまで女らしくなったもんだな。レヴィ」

「少しは見違えたかい?」

 

 場にそぐわない会話というのはこういう事を言うのだろうか。

 互いに臨戦態勢でありながらも、交わされる言葉はとても穏やかだ。

 状況が全く掴めないエリオとキャロは、2人の会話に入っていく事すらできない。

 とは言え、いつまでもこの状況に甘んじる事もできないのも事実。エリオは恐怖に竦む自分を奮い立たせ、ストラーダを青年。レヴィがブラッドと呼んだ青年に向けた。

 

「じ、時空管理局機動六課エリオ・モンディアル三等陸士です! お姉ちゃん、じゃなかった。レヴィ空曹のお知り合いの様ですが、この状況の説明を願います!」

「ああ? テメェ、バカか? ガジェットがあって、その後に俺が出てきて、説明もクソもねぇだろ。ちったぁ自分の頭で考えろ。それとも何か? そこの騎士気取り。勇敢な三等陸士様は俺が味方にでも見えるってのか?」

「み、見えません! でも貴方はレヴィ空曹のお知り合いなんでしょう? できれば手荒な事はしたくありません。武器を捨てて投降して下さい」

 

 エリオの言葉にブラッドは何も言わずに目を細めた。一度レヴィを見るが、彼女は何も言わない。

 するとブラッドは少しおどけた様に肩を竦めて見せた。

 

「オーケーオーケー。テメェの言い分は分かった。アンタじゃ自分達には敵わない。だから武器を捨てて投降しろ。そうすれば無駄な血を流さずに済む。勇敢な三等陸士様はそう言いたい訳だ」

 

 エリオは答えない。しかし、不意にブラッドが穏やかな笑みを浮かべた事で少しだけ。ほんの少しだけホッとした。どうやら話が通じないという訳ではなさそうだ。決してブラッドが言った事が本心ではないが、そう思っているのならそれでも良い。それで事が収まるならば。

 だが。

 

「頭に乗るんじゃねぇよ。クソガキがぁ!!」

 

 その願いはブラッドの言葉と共に砕け散った。咆哮と共に爆発、噴出する赤い粒子。それはブラッドを中心に渦を巻き、突風がエリオ達に吹き付ける。一瞬浮かべた穏やかな笑みも、今は修羅の如き形相へと変わっていた。その形相にエリオが怯む。何がいけなかったのか。何故、そこまでの怒りを示すのかエリオには分からない。

 ただ1つ言えるのは、『怖い』。先ほどまでとは異質の恐怖がある。それだけだ。

 

「テメェと相手の力量も測れないようなクソガキが舐めた口ほざいてんじゃねぇぞ。テメェには現実ってのを教えてやる。己の力量を測れなかった結果、どうなるかをなぁ!!」

 

 それは一瞬の瞬きにも似た刹那。ブラッドが一跳びでフリードに乗るエリオまでの距離を詰めていた。

 距離としてはそんなに遠くない。だが一跳びで埋めるには、一瞬で詰めるには遠い。その筈だった。しかしそんな距離等最初から無かったかのように、ブラッドはエリオの眼前まで一瞬で迫り、大剣を振りかぶっている。

 やられる。全く反応できない。

 後ろでキャロが息を飲むのが分かる。口元を醜悪に歪めたブラッドと目が合う。

 全てがスローモーションの様に感じる刹那の時。

 エリオとブラッドの間に電撃が割り込んだ。3本の魔力刃が大剣を受け止め、バチバチと電撃が走る。

 受け止めていたのはレヴィだ。そしてその光景にブラッドは忌々し気に舌打ちをする。

 

「退けレヴィ。このおぼっちゃんにこれから少しばかりお仕置きすんだからよ」

「……やだ。退くならブラッドが退きなよ。この子達はボクが守るんだから」

「守る? この世間知らずを? 冗談も休み休み言え」

「冗談? それはこっちの台詞。いきなり現れたかと思えば、理由も言わない。うちの甥っ子達にはキレる。もー、ホントにね……」

 

 俯いたままのレヴィ。両手のバルニフィカスがガシャンと音を立て、カートリッジをロード。同時にレヴィが纏う電撃がより一層激しさを増し荒れ狂った。全く抑える気の無い電撃は縦横無尽に空間を走る電撃はさながら竜の様だ。エリオとキャロ。そしてフリードに被害が及ばない様にしているものの、空気はその煽りを受けて帯電し、2人と1匹の毛を逆立ててしまう程の電撃。

 

「ボクは怒ってるんだぞ―――ッ!!」

 

 そしてその竜を纏う電光の妖精が遂にその怒りを爆発させた。

 ブラッドを無理矢理リニアレールまで押し出し、叩きつける。そして完全解放された電撃がレヴィとブラッドを包み、轟音と閃光を響かせる。

 それは心優しき電光の妖精が、怒りの雷神へと豹変した瞬間だった。

 

 

 天を衝く淡緑光の粒子。爆発の余波で吹き飛んだ車両から突然発せられた輝き。

 姿を見せたのは、1人の青年。

 黒のインナー。青のパンツ。上半身はそれに白のショートジャケットを羽織り、青の具足は膝まである。

 そして特徴的なのは左肩にある大きな盾。緑色の刃が羽の様に付いた青色の大きな盾だ。両手には盾にある刃と同種のエッジが銃口からグリップまで伸びる銃を持つ茶髪の青年だ。

 彼は静かに前に出る。ティアナ達は身構え、警戒の眼差しを彼に向けた。

 するとどうだろう。青年は彼女達を見るや溜息をつき、ぽりぽりと頭を掻いて困った顔を見せるではないか。

 まるで敵意等無いかのように。あたかも、散歩に来たら巻き込まれましたと言わんばかりだ。

 

「あ~、まぁなんだ。色々言いたい事はあるだろうけど、取りあえず話を聞いてくれないか?」

 

 そして出てきた言葉もティアナ達の毒気を抜くかの様に穏やか。

 だがそれをおいそれと信じる彼女達では無い。警戒は弱めず、無言で青年を見る。返事の無い事に彼はもう一度溜息をつく。そして銃を腰のホルダーに収め、両手を上げて降参のポーズ。

 

「俺は少なくてもあんたらに危害を加えるつもりは無い。こっちの要求に応じてくれれば、何もせずにここを立ち去る事を約束する」

「要求?」

 

 スバルが首を傾げる。すると青年は安堵の表情を浮かべた。

 

「そう。要求だ。俺から出す要求はたった1つ。……あんたらの手にあるレリックを渡してくれれば良い」

「お断りよ! これはロストロギアなのよ!? 何処の誰だか知らないけど、あんたにこれを渡す訳にはいかない!」

「だよなぁ。ま、お譲ちゃん達の目的もレリックなんだもんな。そりゃ渡せないよなぁ。……はぁ。仕方ない。面倒だが、強行手段と行きますか」

 

 急に雰囲気が変わった。途端に重苦しいプレッシャーが3人を襲う。

 来る。

 予感とも、直感とも取れるそれを3人が感じたその時だった。

 

「きゃあ!!」

 

 ティアナの耳に響く悲鳴。それはスバルの物だった。慌てて彼女の方を向く。そこには何時の間に移動したのか、青年がスバルに廻し蹴りを放った姿が見えた。全く反応のできなかった事に驚くティアナだが、リインの迎撃準備の声にすぐ意識を切り替える。

 片手でレリックのケースを抱えたまま、ティアナはクロスミラージュを青年に向けた。視界の横ではリインも飛びあがり、魔法の詠唱に入ろうとしている。恐らく足止めの魔法を使う筈だ。そしてそこにティアナが一撃を撃ち込む。現状でできる最速の対応だろう。だが、それに気付いた青年が掌を向けた瞬間、緑色の鎖が小さな体を絡め取った。しかも鎖に絡まれた事で詠唱が中断してしまう。

 

(バインドの処理速度が早い!)

 

 あっという間の出来事だが驚いている暇は無い。ティアナに向けて青年の銃から放たれる魔力弾。連射で放たれたそれを彼女はバックステップで避け、反撃の魔力弾を撃つ。青年も横っ跳びで避ける。

 近距離での銃撃戦。ティアナは神経をギリギリまで研ぎ澄ませ、これに対応していた。一瞬でも予測を見誤れば、撃ち抜かれる。誘導弾を使う事でなんとか狙いを定めさせずにいるが、一瞬の攻防にも関わらずティアナの神経は悲鳴を上げ始めていた。だが負けられない。注意をこちらに引き寄せる事ができれば、チャンスは来る筈だと信じて。

 そしてティアナの期待に応える裂帛の気合。割り込んだのはスバルだ。

 廻し蹴りのダメージから急速に復帰し、一瞬の間隙を縫って青年との距離を詰める。

 拳が唸る。リボルバーナックルで放たれるスバルの一撃必倒。上半身を強化する魔法、ナックルダスターの一撃だ。

 だが誤算が起こる。青年の反応は2人の予想を遥かに上回っていたのだ。

 スバルは確かに青年の右側。盾の無い、防御の手薄だと思われる方から回り込んでいる。しかし青年は体を回転させ、スバルの眼前にその盾を突き出していた。展開される淡緑色の光壁がスバルの拳の軌道を逸らし、青年はスバルの懐に入り込む。

驚愕に歪むスバル。対して無表情の青年。2人の視線が交差する。そして放たれたのは零距離からの銃撃。悲鳴を上げる事すらできず、スバルの体が宙を舞った。

 

「スバルっ!」

「余所見している暇は無いぞ」

 

 青年の動きは早かった。ティアナがスバルの名を呼ぶ一瞬に、その距離が詰められている。

 銃のエッジがティアナに襲いかかる。慌ててクロスミラージュで防ぐが、大きく上に弾かれてしまう。

 すかさず青年は反転。左銃から魔法弾を放たれ、ティアナの手にあるレリックのケースが弾き飛ばされる。慌てて動くが、眼前に突きつけられた銃口。見れば冷たい視線で青年はティアナを見降ろしている。

 ガシャンと音を立てて、ケースが床に落ちた。

 

「チェックメイト。お前のパートナーは動けないし、あのちっこいのも俺のバインドを解除できない。お前は俺に敵わない。これ以上手は打てないだろ?」

 

 悔しいが彼の言う通りだ。3人とも身動きが取れない。

 せめてこの状況を打破できるきっかけが欲しい。何かきっかけがあれば……。

 そしてティアナは青年を見上げたまま、口元を歪める。

 

「そうね。あたしじゃアンタにはまだ届かない。悔しいけど、これ以上私達に手は打てないわ。でも忘れてない? あたし達には仲間がいるってこと!」

 

 ティアナが動いた。横に転がり銃口から逃げる。青年が銃を動かした瞬間、彼の眼前を魔法弾が通り過ぎる。流石に青年も反応できない。できたとしても既に遅い。魔法弾はケースの寸前で着弾し、それを大きく上空に弾き飛ばす。

 そしてそれを掴む者がいた。血色の空に広がる紺色の翼。殲滅服を纏い、ルシフェリオンを向ける少女。

 シュテルだ。

 そして別方向から飛来する蒼炎の魔法弾。青年は後方に跳んでこれを避ける。そして彼は嬉しそうに声を上げた。

 

「来たか! レンっ!!」

「キールぅぅっ!!」

 

 舞い降りる漆黒の不死鳥。レンは滑空してきた速度のまま、青年を正面から突撃。レン手には2本の片手剣。青年は銃のエッジを立ててその刃を受ける。

 しかしレンの勢いは止まらない。そのまま彼をリニアレールの外に押し出し、上空へ。

 

「何やってんだよキール! 何でお前がレリックを狙う!」

「聞かれたからって簡単に教える事はできなねぇな!」

「なら無理矢理にでも聞き出す!」

「やってみろ! お前にそれができるならな!」

 

 弾かれる様に距離を取る2人。互いに手に持つは2挺の銃。

 レン・アマミヤとキール・アルド。

 4年振りに再会した親友同士。それが何故銃を向け合うのか。

 そしてそれはかつての再現だ。ジェネレーションシステムにおいて2人はぶつかり合った。その時キールが操られていたとはいえ、確かに2人は武器を手に取った。

 この衝突も本来レンにとってみれば、不本意な物だ。だがそれでも今は銃を手に取らなければならない。

 それはレンが時空管理局の一員であり、機動六課の一員であり、Spiritsの一員であるが故に。

 苦渋の決断で彼は銃を取る。

 

「「ファイネストカノン!」」

 

 一方は蒼炎の巨弾。もう一方は淡緑光の巨弾。足元には同じ魔法陣、フォーミュラプレート。

 空中で正面衝突する同種の魔法が炸裂し、血色の空に閃光が走る。

 閃光の中で2人の衝突は続く。レンの剣をキールの銃、エッジに刃を滑らせる。そして反転しながらもう1挺の銃をレンの胸に突きつける。そこから放たれる連射。しかしレンも体を反転し避けつつも剣を薙ぎ払う。その剣を再度銃のエッジで受けるキール。

 防がれるや否や、レンは残ったヴァリアントザッパーを手の中で回転。剣は銃へと変わり、蒼炎の弾丸を連射。キールは後方に離れつつ射線を絞らせない。

 

「フェザーファンネル!」

「GNソードビット!」

「「アサルトシフトッ!!」」

 

 展開はまたしても同時。レンの周りをハルファスガンダムのフェザーファンネルが。キールの周りを盾から分離したGNソードビットが取り囲む。

 

「「シュ―――トッ!!」」

 

 互いに突撃形態で放たれる誘導制御型魔法だ。互いの魔力を纏い、各6基。相手を目掛けて飛翔する。

 だがそれもまた正面からの激突で、空に爆炎の華が咲いた。

 

「キリエ、アミタの反応は?」

<さっきからずっと呼んでるんだけど、無視されちゃってる! もーアミタのバカーっ!>

「愚痴を言っても始まらん! 一気にケリを付けるぞ!」

「だからお前にそれができんのかよっ!」

 

 爆炎の中から飛び出したキールの手には両刃の長剣が握られていた。

 ヴァリアントザッパー“GNソードV”。愛機ダブルオークアンタの持つ長剣と化したヴァリアントザッパーを振りかぶり、キールはレンを狙う。咄嗟にフェンサーモード、片手剣を交差させてこれを受けた。

 互いの魔力を帯びた刃が火花を散らし、ギャリギャリとした音が耳をつんざく。

 

<アミタ! お願い、反応して! 反応してったら反応してよ! お姉ちゃん!>

「そうだアミタ! お前までなんだ! キールと一緒にこんな事して、一体何が起こってるんだ!」

 

 その間にもレンとキリエはそこに居るであろうキリエの姉、アミタに呼びかける。

 キールの魔法陣はレンと同じフォーミュラプレートだった。そして使っているデバイスもヴァリアントザッパー。ならば、その管制人格はアミタに違いない。キールに問いかけても彼から答えが返って来る事は無いだろう。だったら望みはアミタだった。

 しかしそれでもアミタからの返事は無い。

 もしかして読み違えたか? 火花散る中、レンに迷いが生まれていた。

 

 

 

2

 

 

 

 一方の機動六課。

 突如として連絡の取れなくなった前線部隊に、ロングアーチは盛大に混乱していた。

 送られてくる筈の画像は砂嵐。音声もノイズが酷くて聞き取れない。

 状況報告が飛び交う中、はやてはチラリと隣のマリアを見上げる。先ほどから彼女は黙して何も語らず。

 ただ顎に手を当てて、何か考え込んでいるようだった。

 

<マリアさん。貴方ならこの状況の理由、説明できるんとちゃう?>

 

 恐らく彼女が何も語らないのには理由があるに違いない。

 考えられる理由としては1つ。Spiritsに関する事。2つ。それ以外にもこの場で語られない事が存在する事。この際、分かっているのに故意に情報を出さない、という選択肢は外しておく。

 まがりなりにもこれまで共に仕事をしてきた仲だ。信頼関係は結べていると思っているし、何よりも彼女を信じている。だから敢えてその選択肢は外した。

 だから声に出さず、念話で呼びかけたのだ。

 マリアにもその意図は通じたのだろう。はやてを見るとはにかんだ笑顔を見せた。

 

<ごめんなさい。驚いちゃって頭の中を整理していたの>

<という事は、やっぱりあそこで何が起こっているのか分かってるんやな?>

<ええ。それはアプロディアにも確認を取ったから間違いないと思う>

<ほんなら教えてもらおか。あそこで何が起こってるかを>

<……今起こっている通信障害。正体はGN粒子と呼ばれる粒子よ。それは特性上通信障害を引き起こすの。映像が乱れる直前、空が赤くなったでしょ? 使われたのはGNステルスフィールドという技術。そしてそれを使えるのは私の知る限りただ1人……。私達のガンダムがデバイスになったのなら、決してあり得ない話じゃないわ>

 

 マリアが言わんとしている事ははやてにも理解できた。むしろその可能性を否定したいのだろう。 しかしどう考えてもその結論に行きついてしまった。そしてアプロディアがそれの駄目押しをしたに違いない。

 それは同時に新たな謎を生みだすのだが、今はそれを後回しにする。

 

<一応、答えを聞いておこうか>

<あれを生みだしているのはきっとブラッド・ラインハルト。彼が私達の世界で乗っていた機体、ヤークトアルケーガンダムに搭載されていたシステムこそがGNステルスフィールド。……まさか魔法通信にまで影響を与えるとは思わなかったわね>

<はぁ、成程な。納得や>

 

 念話越しに溜息をつく。マリアの予測が正解であるならば、先にも言った通りそれは新たな謎を生む。

 そして一瞬だけ見えたあの赤い空の下。確実に何かが起こっているに違いない。

 はやてはマリアをチラリと見ると、もう一度深い溜息をつく。

 厄介な事になった。

 2人の瞳は雄弁にそう語っているようだった。

 

 

 空に飛び交う光線。降り注ぐそれを掻い潜り、なのはは誘導弾、ディバインシューターを展開する。

 ガジェット・ハンブラビの動きはこれまでのガジェットボールとは比較にならない程に高機動だ。

 その点では自身も動きながら撃てるディバインシューターでの迎撃が好ましい。

 

「シュートッ!」

 

 桜色の魔法弾が一斉展開。それぞれに弧を描き、次々と撃ち落とす。

 しかし何処から湧いてくるのか、ガジェット・ハンブラビは嘲笑うかのように旋回を続けていた。

 そしてなのはの魔力も無限ではない。残りのカートリッジも後僅か。このままではジリ貧になってしまう。遠くに見える電撃と蒼炎。一刻も早く助けに行きたい。しかしそれもままならない。

 次第になのはの顔に焦りが見え始めていた。

 

「なのは大丈夫?」

「なんとかね。フェイトちゃんこそ、無理してない?」

「無理は承知の上だよ。でも、これじゃキリが無い。六課にも繋がらないし、どこかで突破口を開かないと押し切られるよ」

 

 やはり考える事は同じか。背中合わせに浮かぶフェイトになのは頷いた。

 レンとレヴィがフォワード達から相手を離してくれたのは僥倖だった。初出動でこれだ。気付かずとも体力と精神力の疲弊は相当な物の筈だ。その状態でレンとレヴィと互角の相手と渡り合うには無理がある。

 そして現在合流している4人にはシュテルとリインが付いているし、レリックも無事だ。

 つまり、ここに長居をする意味は現在の所皆無に等しい。

 

「一発大きいのいっちゃう? それでガジェットを一網打尽にできれば離脱のタイミングも取れると思うんだけど……」

「でも追撃を振り切るだけの魔力は残しておかないと。ヴァイス陸曹の所までフォワード達を運んでも、逃げ切れる保証は無いよ? その時は私達が殿をしてガジェットを引きつけないといけないし……」

「だが、ガジェットを一網打尽にするという考えは正しいぞ」

 

 ひらりと不死鳥が舞い降りた。2人を守るように2挺の銃で牽制をかけるマーク。

 

「今のままじゃ確かにジリ貧。だが2人とも忘れてないか? 俺達Spiritsに魔力制限は無い。そして、ずっと待機してて、鬱憤の溜まった奴が1人いるんだな」

「「あっ!!」」

「そうだ。待たせたなディアーチェ! お前とユーリお得意の広範囲殲滅だ! 思いっきりやれ!!」

<おうよっ!>

 

 短距離念話で聞こえてきたディアーチェの嬉々とした声。見上げるなのはとフェイト。ヴァイスの乗るJF704式ヘリの前で揺らめく闇の巨大な翼を広げたディアーチェが、闇色のベルカ式魔法陣の上でエルシニアクロイツを掲げている。

 

「さぁユーリ。我らの本領発揮と行こうぞ」

<はい。やりましょう。我が闇統べる王!>

 

 紫天の書が宙に浮き、パラパラとページをめくる。そしてその動きが止まったと同時。3人は思わず息を飲んだ。見上げた空。真っ赤な空に黒い輝きを持つ小剣が星の様にギラギラと輝いているのだ。

 どう考えても嫌な予感しかしない。ディアーチェに思いっきりやれと言ったマークですら、口元をヒクつかせている程だ。

 

<ディアーチェ……、何だか物凄く嫌な予感がするんだけど……>

「む? ああ、確かにそうだな。フェイトよ。後でなんだと言われてもアレなのでな。先に言っておくぞ」

 

 魔法発動まで後もう少し。不安そうなフェイトの念話。そしてディアーチェが浮かべる黒い笑み。

 

「まぁお約束というヤツだ。……自分の身は自分で守れよ?」

<やっぱり!? ちょ、ちょっと待ってディアーチェ!>

「待たん! さぁユーリ行くぞ!」

<はいっ!>

「<エルシニアダガー・ジェノサイドシフト!!>」

 

 大きく振り降ろされたエルシニアクロイツが合図となり、小剣が一斉発射。

 降り注ぐ小剣の流星雨。際限なく、隙間なく、無慈悲に。闇の流星雨はその眼前にある物全てを貫き、砕き、屠る為に無常に降り注ぐのだ。当然巻き込まれたガジェット・ハンブラビにそれを防ぐ手立ては無い。いかにAMFを張ろうとも、その処理速度を越えた圧倒的な物量の前には無意味。そして巻き込まれたのはガジェットだけでは無く、なのは達もまた必死に旋回しこれを避ける。そう、必死にだ。

 次々と起こる爆発を見て、ディアーチェは口元を釣り上げる。久しく忘れていた感覚だ。  

 Spiritsとしての作戦任務中でもここまで大規模な魔法運用は滅多にある物ではない。

 これこそが自分の真骨頂。全ての障害を圧倒的な力でねじ伏せる広域殲滅。

 遂に高笑いを上げ始めたディアーチェはすっかりその力に酔い痴れていた。

 

 

 ディアーチェの広域殲滅魔法の光景は合流していたフォワード達からもよく見える。

 降り注ぐ闇の流星雨。起こる爆発の数々。誰もが言葉を失っていた。

 ただ1人。グッと拳を作るシュテルを除いて。

 

「流石我が王。見事な広域殲滅魔法です」

「ないわー。あれはないわー。そもそもなのはさん達があそこに居るのお構いなしに撃ってるよね、あれ」

「更に言えば、レン達もお構いなしですね」

「それもっと酷くない!?」

 

 スバルの言う通り、空中に居たのはガジェットとなのは達だけでは無い。レン達もまた空中で戦っている最中だ。見ればレン達も必死で旋回している様が見える。だがそれでも尚、ぶつかる事を止めない。

 エリオとキャロはフェイトとレヴィをはらはらとした様子で眺め、スバルとリインは何処か達観。いや諦めも入った様子だ。そしてシュテルはいつも通り。心配ごとなど何もないと言わんばかりの冷静な顔をしている。

 だが1人。この状況を良しとしない人物も居る。ティアナだ。

 自分が手も足も出なかった相手に互角の戦いを見せるレン。その相手と同レベルであろう相手に一歩も退かないレヴィ。圧倒的な魔力でガジェットを殲滅したディアーチェ。その高密度の魔法を回避するなのは達隊長陣。

 そこにあるのは飛び越えるには広い溝。乗り越えるには高すぎる壁。隊長達はまだ理解できる。彼女達は管理局でも有名なトップエースだし、実際に訓練を受けていてその実力は嫌という程味わった。

 だが問題はレン達だ。訓練校時代はいつか越えてやると思っていた同期の背中。主席で卒業して少しは追いついたかと思ったが、現場に出てみればどうだ。その背中はまだ遥か遠くにあるではないか。

 戦闘に参加していないシュテルもきっと同じレベルに違いない。

 

「……さて、漸く尻尾を掴みましたよ」

「え? どうしたのシュテル姉?」

 

 彼女を現実に引き戻したのはそのシュテルの呟きだった。急にシュテルは明後日の方向を向き、逆手に持つルシフェリオンを構え出す。並々ならぬ雰囲気に全員が思わず息を飲む。

 そんな全員を無視してルシフェリオンが緋色の翼を広げ、カートリッジをロード。同色のミッド式魔法陣が広がる。ルシフェリオンの先端に炎を伴う魔力が集まる。

 

「影でコソコソと。いい加減姿を現しなさい! ディザスター……ヒ―――トッ!!」

 

 そして放たれた灼熱の三連砲撃。赤い空を裂き、緋色の砲撃が走る。それは何かに直撃し、空に一際大きな爆発が起こった。

 驚くティアナ達。シュテルはルシフェリオンを向けたまま、虚空を睨みつけている。

 

「シュテル、どういう事ですか? 何で砲撃を撃ったのです? それに何に当たったのですか?」

「質問が多いですね。私がただここで貴方達と傍観していた訳ではないという事ですよ。ほら。私の砲撃で鼠が炙りだされてきましたよ」

 

 リインがシュテルの指さす先を見ると、空が晴れていた。そこから波紋の様に空が晴れて行く。

 赤い空に隠されていた物を暴きながら。

 

「おかしいと思ってサーチャーを飛ばして正解でしたね。この赤い空は隠れ蓑。そしてブラッドとキールは私達の目をそちらに釘付ける為の布石。空には我が王が待機し、ここには私がいる。故に迂闊に手が出せなかった。ディアーチェなら私達がここに居ても躊躇なく魔法を撃ち込むでしょうから。私も敵ならばそれが見知った顔であっても容赦なく魔法を振るいます。……そうですね? ラナロウ、ゾディアック。そして、コードフェニックス」

 

 空には人がいた。フォワード達が見上げる先に居たのは6人。

 肩に大きな髑髏を付けたマントを羽織るラナロウ。灰色のコートに身を包み、大きな鍵爪のある盾を持つゾディアック。そして元の世界と同じ姿をしたコードフェニックスがそこに居る。その後ろには槍を構える壮年の男性と紫の髪の少女。少女の肩にはリイン程の大きさの赤髪の少女が控えていた。

 見降ろす彼らにシュテルは再びルシフェリオンを向け、尋ねる。

 

「確認します。貴方達は敵ですか?」

「それは君達次第という事になるねシュテル」

 

 応えたのはゾディアック。それは最初キールも纏っていた穏やかな空気。あくまで友人に語りかけるかの如く、ゾディアックは微笑んだ。しかしシュテルは尚も厳しい目で彼を見据える。

 そしてそこに合流するキールとブラッド。決して無傷では無いようだが、そこにはまだ余裕すら感じられる。

 

「今日はあくまで様子見。ああ、それとシュテル。1つ訂正をしておきましょう。君は自分とディアーチェがいたから僕らが介入できなかったと言いますが、それは違います。介入出来なかったのではなく、介入しなかった。これが正解です。懸命な君の事だ。これがどういう意味かは分かるでしょう?」

 

 全員の視線がシュテルに集中した。ルシフェリオンを向けたまま彼女は何も言わない。だがティアナは見た。シュテルの一見冷静に見える顔に伝わる汗を。そして焦りにも似た表情の変化を。

 無言がゾディアックの言葉の真実味を増す。

 だがしかし、冷静に考えてみれば的を射ているとティアナは思う。シュテル1人で自分達を守りながら戦う。その事の無謀さがよく分かる。だからこそ悔しい。足を引っ張っている自分自身の力の無さが。

 

「ですが君達が元気そうなのを確認できて良かったですよ。それだけでも今日の所は収穫があったというものです」

「これだけの事をしておいてよくもまぁ言えたもんだな、ゾディ」

「本心ですよ。マーク」

 

 シュテル達の所にもマーク達が合流する。

 皮肉気に口元を歪めるマークに対し、ゾディアックは変わらぬ笑みを浮かべたまま。そして傍らの少女の頭を撫でた。それが合図であったかの様に少女が魔法を発動する。広がる紫色のベルカ式魔法陣。

 キャロがあっと声を上げた。それは彼女もよく知る魔力の流れ。召喚魔法だ。

 

「キール!」

「……レン。レリックを追い続ける限りまた会えるさ。俺達ファントムペインはそこに居る」

 

 これ以上語る事は何も無い。キールはそれ以上レンの呼びかけに何も答えなかった。尚も呼びかけようとするレンだったが、思わずそれが止まってしまう。キールの横に現れた少女。アミタの姿が見えたから。

 一瞬だったが確かにレン達は見た。彼女の悲しそうな瞳を。

 そして紫のベルカ式魔法陣が弾け、彼らの姿も消える。それは召喚魔法を使った転送魔法の完了を示していた。

 残されたレン達は誰も言葉を発しない。

 各々が思う事は様々。

何故こんな事になってしまったのか。Spiritsの面々はそれに苦悩する。

 もっと強くならなければ。フォワードとなのは達は決意を新たにする。

 ロングアーチとの通信が回復し、はやてとマリアの問いかけが響くが、応えられる者は誰1人としていない。

 

 ただ、谷底から吹きつける強い風の音だけが響いていた。

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