魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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どうも。nanaseと申します。
まずはこの作品をクリックしてくれた方に感謝の言葉を。
本ッ当にありがとうございます!


さて。プロローグではシュテル視点にしましたが、ここからは三人称に切り替わります。
舞台も二つに分かれます。
混乱せぬようお気をつけ下さい。

ではでは、第1話。始まります。




Gジェネレーション編
第1話 来訪者


1

 

 

 

 ディーヴァに到着したシュテル達。そこで彼女達は様々な事を知る事になる。

 まず、この世界が数多の次元世界と連結する世界だと言う事。しかしどうやら時空管理局とは無関係の様だ。何故なら彼らは時空管理局の名前すら知らなかったのだから。

 どこかで時間の分岐は発生し、管理局とは無関係の世界が出来上がったのだろうとシュテルは推測する。

 そしてどうやらエルトリアはその世界に属する惑星だったと言う事。あの時、Spiritsが逃げるSystem-∀を追いかけて空間跳躍という一世一代の賭けに出たのらしいというのも彼女にとっては驚きだった。

 一応帰りのことも考えていたらしいのだが、そこも賭けであったらしい。見かねたシュテル達が知識を提供する事でシステムが安定し、こうしてSpiritsは無事地球圏に帰還ができた。

 そして無事にギアーズの二人。アミティエとキリエは復活を果たしている。

 しかし、残念な事に元の体でとはいかなかったというのが事実。彼女達の体はレン達の技術を以ってしても修復が不可能だったのだ。そこでシュテル達は止むなくデバイスの情報も提供する。デバイスのAIシステムを利用し、彼女達の武器。ヴァリアント・ザッパーに彼女達のAIを移植するというものだ。

 結果から言ってしまうと大成功。体については、魔力プログラムでの実体化という形で落ち着く事になる。勿論魔力の供給はシュテル達。魔法が使われなくても、魔力素はあるのが救いだった。

 そしてユーリもまたこの手法が行われる。彼女は体は自己修復していたものの、シュテル達を守る為に無茶をしたらしく、精神系列に重大なダメージを受け意識が戻らなかったのだと言う。なので彼女の核である永遠結晶エグザミアをディアーチェの紫天の書に移動することで、彼女は漸く復活したのだった。

 

 そしてそれから4ヶ月が過ぎた新西暦201年 6月。

 

「ね~え、レン~。今日はシュミレーターしないのぉ?」

「今日は書類整理があるから、こいつが終わってからな」

 

 ……ピクッ。

 

「え~?だって私達の相性最高じゃない?もっとレンと親密になりたいのに~」

「あのなぁ……。書類整理だって立派な仕事なんだ。それに俺はこの部隊じゃまだまだ新米。その分だけ色々やる事あんのさ」

「ぶ~!」

 

 ピクッ!ピクピクッ!

 

 目の前で繰り広げられるレンとキリエの会話に、シュテルはこめかみに青筋を浮かべていた。

 

 

 

 第00遊撃隊Spirits。

 次元連結により様々な次元が交錯する地球。しかしこの事実も最近知られたものである。

 きっかけは半世紀前に突如姿を見せたSystem-∀。当時の地球連邦はこの強大な敵とそれに追随する『ニューロ』と呼ばれる敵に苦戦を強いられていた。だが捨てる神あれば拾う神もまたいる。地球連邦に突如として送られてきたデータ。そこには次元航行システムとモビルスーツの設計図があった。

 差出人の名前は『アプロディア』。だが分かったのは名前だけ。結局は地球連邦の技術を以ってしてもアプロディアとは何者であるか突きとめる事はできなかった。

 しかしそれでも当時の地球連邦は歓喜し、早速この二つの着手に取り掛かる。

 そして半世紀が過ぎ、モビルスーツは地球連邦の主力となっていた。同時に次元航行システム。通称オーバーワールドシステムも完成し、遂に地球連邦は反撃の狼煙を上げる事になる。

 少数精鋭によるSystem-∀の撃破。その為に地球連邦のエースを集めた部隊の設立。

 それが第00遊撃隊Spiritsである。

 そしてレンは新兵でありながら、高い操縦技術を買われこの部隊に属していた。

 だが、System-∀を撃破して4ヶ月。地球は平和そのもの。

 故にレンも通常業務である書類整理に追われているというわけだ。

 

 そして現在。彼らの母艦である『ディーヴァ』のオフィスルーム。レンはディスプレイとにらめっこをしながら、正直冷や汗をかいている。

 その原因は二人の少女。

 自分の膝の上に座り、彼の首に腕を回して抱きついて甘える魔力プログラムの少女。

 キリエ・フローリアン。

 そして目の前で一緒に書類作業に勤しむモビルスーツのパートナー。

 シュテル・ザ・デストラクター。

 傍から見ればなんとも羨ましい状況。しかし、レンにとっては胃が痛くなる事この上ない。

 

「シュテルさ~ん、何を怒っていらっしゃるのですか~?」

「別に怒ってなどいません」

「……その割にはキーボードを叩く音がめっちゃ怖いんですけど」

「これが普通です」

 

 レンの目の前でシュテルはキーボードを親の敵の様に激しく打っているのだ。

 しかも元々表情の少ない彼女。レンが話しかけるとジト目で一瞬彼を見てから、すぐに作業に取り掛かっていく。それを見てレンは心の中で大きく溜息をついた。

 

「もうシュテルちゃ~ん。そんなにツンケンしてたら可愛い顔が台無しよ~?」

「……ツンケンなんてしてません。というかですね、貴方はレンの邪魔をしてるだけではないのですか?」

「あら~?だって私レンのデバイスだもの。こうやって~、ず~っと一緒にいるのは当たり前じゃない?」

「それでレンの作業効率が落ちたら意味がありません。というかレンも何か言って下さい!いつまでも鼻の下をデレデレと伸ばしていても仕事になりませんよ!!」

「ちょ!何時俺が鼻の下伸ばしたよ!」

「今!この時!この瞬間!」

「地味にひでぇ!」

 

 レンとシュテルの会話にコロコロとキリエが笑っている。これがここ最近の三人の様子である。

 ヴァリアント・リッパーに移植されたキリエは、パイロットのサポートシステムとして機能していた。

 つまりはモビルスーツの補助としてパイロットの手助けを行っているのである。

 そしてSpiritsのメンバーの中で最も適合率が高かったレンに彼女は預けられていた。

 キリエもまたレンを大層お気に入りのようで、事ある毎にこのように魔力プログラムとして実体化してはレンにくっついている。

 そのレンのパートナーにはシュテルが選ばれていた。マテリアルの三人にモビルスーツパイロットとして高い適正が見られたのだ。これにはレン達も驚いた。彼女達はその後、瞬く間にモビルスーツ戦の知識を吸収し前線に立てる程になってしまったのである。故にエース部隊とはいえ、慢性的な人不足であったSpiritsにマテリアル達三人が編入されたのは必然的な流れと言えよう。

 だが正直レンはこの決定に不服だった。

 そもそも彼女達が前線に立つというのが気に入らない。上の決定とはいえ、少女がモビルスーツに乗り命をかけた危ない戦場に立つというのが男のプライドとして許せないのだ。

 一度それでシュテルに言ってみた事が彼にはある。

 モビルスーツなんかに乗らないで、自分達の帰りを待っていてくれないか。

 シュテルの様な女の子が危険な事をするのは見ていられないと。

 しかしシュテルは首を横に振る。

 自分達には力がある。

 それで誰かを守る事ができるのなら、それに越したことはない。

 なのにそれをしないで、ただ待っているだけなんて自分にはできない、と。

 

「それに、いざとなったらレンが守ってくれるのでしょう?」

 

 その時見せた笑顔。レンはそれ以上何も言えなかった。

 あまりにその笑顔が綺麗で。そしてそう言われた以上、自分がこの少女を守ると彼が心に決めた瞬間でもある。

 

 なのに……。

 

(シュテルさんが冷たいです……)

 

 レンは本当に泣きたくなっていた。今年でレンは15歳。シュテルは12歳(程度)になるという。

 いつの間にか立場が逆転していた。なんでも完璧にこなすシュテルにレンは先輩としても、年上としても、何より男としてもなんか負けた気がする。

 

「……はぁ……」

 

 そしてこの状況だ。溜息が出てしまうのも当然であろう。

 

「なんですかさっきから。溜息ついても仕事は終わりませんよ?」

「そうそう!レン、ふぁいと!」

「キリエは応援する前にレンから離れて下さい」

「シュテルちゃんの意地悪~!」

 

 目の前で言い合う二人の美少女に囲まれて、本来ならレンだって浮かれたい所だ。

 彼女なんていた試しのない彼にとって、この状況は眼福至福以外の何者でもない。

 なのにちっともそんな気分になれないのは、やはり自分の存在意義について考えてしまっているからだろう。

 流石にシュテルも彼が全く元気を出さない事に心配になってきた。

 少し言い過ぎてしまっただろうか。あまり表情を変えない彼女の目に明らかな狼狽が見える。

 

「レン、本当にどうしたのです?さっきから元気が全く無いのですが……」

「あ~、いや。気にしないでくれ。うん」

 

 手をひらひらと振り、黙々と作業を続けるレン。シュテルはますます不安になってきた。

 自分の性格は分かっている。正しいと思った事を口に出してしまう。妥協ができない。その所為でどこか一歩引いて回りを見てしまう。本当に面倒だとシュテル自身とて分かっているのだ。しかしそんな自分にも普通に接してくれるレンを彼女はこの4ヶ月でパートナーとして認めていたのだ。それ故に先ほどは厳しく言ってしまった。キリエがレンに甘える姿を見て、何故かイラッとしたというのもあるのだが……。    

とにかく自分の言葉がレンを傷つけてしまったのではないか。いや、きっとそうだ。シュテルは切れ過ぎる頭が故に、そう解釈してしまう。

 だからこそ気付かない。その解釈が一方では正解だが、一方では間違いであると言う事に。

 

「おいレン。シュテルが泣きそうな顔してるぞ?お前何やらかしたんだ」

 

 突如そこにかけられる声。レンがめんどくさそうに顔を上げた先には一人の男。

 制服の胸元を大きく開いて着崩している茶色の髪の少年だ。

 

「なんだキールか。生憎俺は暇じゃねーの。暇つぶしなら別の所でやってくれ」

「お前な、同期に向かってそれはねーだろ。っていうか暇つぶし決めつけんな」

 

 適当に追い払おうとするレンにキールと呼ばれた少年は眉をしかめる。

 キール・アルド。

 レンと同じ国『日本』の出身で、かつ幼馴染のハーフ。そして同期である。

 

「でも一体どうしたんです?さっきから見ていましたけど、本当に元気ないですねぇ?」

 

 シュンっという音を立てて姿を見せたのは、ピンクの髪をおさげにした少女。

 アミティエ・フローリアン。通称アミタ。キリエの姉である。

 というか見てたのかよとレンは心の中で舌打ちする。

 

「そうなのよ~。レンったら急に元気無くなっちゃったんだよね~?」

「はい。先ほどからこの調子で……」

 

 キリエとシュテルも心配そうにしているが、レンは口を尖らせたまま。アミタも首を傾げているが、キールは何か勘づいたようだ。ははぁんとニタリと笑い、口元を歪める。

 

「レン~。お前も人並みに考えるんだなぁ?」

「うっせ、バカキール!俺はテメェみたいに単純じゃねーの」

「単純とはまた酷いな。でもな、お前の考えはお前だけの物だ。それでパートナーを悲しませちゃ、先輩として、男としてどうなのよ?」

 

キールの言葉にレンはますます口を尖らせる。

 自分の幼馴染ながら、こういう所でこの男は勘が鋭い。それがますます気に入らない。

 こいつもこいつで何でもできる天才肌だ。そして、今の様にこの男は勘が鋭い。

 なんだかんだで腐れ縁。自分もキールの考えは理解しているし、キールも自分の考えを理解している辺り、信頼に値する人物であるのはレンも認めている。

 そして今もキールの言葉には説得力があった。

 何せ自分の考えている事をさり気なく言い当てられているのだから。

 チラリとシュテルを見ると、彼女はシュンと項垂れてしまっている。頭の良い彼女の事だ。きっと自分を責めているに違いない。それが勘違いだと気付かぬままに。

 

(やれやれ、癪だけどキールの言う通りだな)

 

 レンはそこで自分を卑下するのを辞めた。これではますます男として自分が情けなくなってしまう。

 彼はキリエを自分の膝の上から降ろすと立ち上がり、シュテルの頭を撫でた。

 

「……?」

 

 いきなり頭を撫でられ、シュテルは小首を傾げて見せた。何故頭を撫でられているのか理解できない。

 そんな顔をしている。

 

「ごめんシュテル。でも大丈夫。シュテルは何も悪くないよ。俺がちょっと考え事してテンション下がってただけだから」

 

 そして笑いかける。そうだ。この少女には何の罪も無い。そう。何も悪い事など無いのだ。

 彼女は彼女なりに最善の結果を出そうとしているだけ。ならば、本当に努力するべきなのは自分。

 彼女のパートナーとして恥じない結果をこれから出して行かなければならない。

 そして一番は、彼女がこのような顔をするのは似合わないのだから。

 

「……本当ですか?」

「ああ、本当だとも。さっさとこの書類終わらせて何か食べに行こう。俺の奢りで何でも頼んで良いよ」

 

 パァっとシュテルの顔が輝く。

うん、この笑顔が見たかったとレンは更に彼女の柔らかな髪を撫で続ける。

 

「な、なら、喫茶コーラサワーの特大パフェを所望します!」

「う、うん。全然構わないよ」

 

 シュテルの言う特大パフェ。それを思い描きレンは正直苦笑いした。

 この特大パフェ。ゆうに五人前はあるのだ。自分が食べたら確実に胸やけするレベルである。

 それをこの子は食べると言うのか。甘いものは別腹という事なのだろうか。

 

「ならばレン!急いでこの書類を終わらせますよ!さぁ早く早く!ハリー!ハリー!」

「分かった分かった。そんなに焦らなくてもパフェは逃げないからさ」

 

 すっかり上機嫌のシュテル。レンは満足げに自分の席に戻る。と、その後ろから抱きついてくる影。

 

「レン~?さっきこれが終わったらシュミレーターするって言ってなかった?」

 

 キリエである。囁くようにわざと耳元で話しかけてくる。だがレンも先ほど自分が言った事を忘れた訳ではない。少しドキドキしてしまったのは仕方ないだろう。

 

「分かってるよ。シュテルとコーラサワーに行った後にキリエに付き合うからさ」

「うん!なら良し!」

 

 自分との約束が反故された訳ではないと知り、キリエも満足そうだ。

そんな彼らを見てキールはニヤリと笑っている。レンもまたそんな彼に実際は感謝しつつ、二人は拳を合わせた。

「レン、これで貸し一つな」

「ああ。まぁそういう事にしといてやるよ」

「皆やっぱり仲良しですね~」

 

 ただ一人、アミタだけはのほほ~んとこの状況に笑顔を浮かべていた。

 そしてその様子にキリエは思う。

 ああ、やっぱり姉さんは天然だ、と。

 

 

 

 

2

 

 

 

 新暦71年4月29日

 ミッドチルダ臨海第8空港にて大規模火災発生。

 利用者、職員両方に多数の負傷者を出し、空港施設のほぼ全てを焼失するミッドでも至上稀に見る記録的な事故である。

 だが、それだけの規模の災害を出しながらも死亡者はゼロ。

 そんな奇跡とも呼べる鎮火救出劇において現場に居合わせた三人の魔導士の活躍があった事は、あまり知る者の少ない事実である。

 そしてこの日、この災害において実はもう一つの事件があったというのもまた、同様にあまり知られていない。

 

「ふぃ~、これであらかた鎮火したかな」

「ナカジマ三佐、お疲れ様です」

 

 次第に勢いを失っていく炎。空港全土を巻き込んだ大火災は今やその勢いを失い、ぶすぶすと煙を立ち昇らせているのみとなっていった。

 その様子を指揮車から見ていた初老の男性。ゲンヤ・ナカジマはネクタイの襟元を緩め一人呟く。

 そしてそんな彼に差し出されたのは一杯のコーヒー。差し出したのは黒と金の騎士甲冑に身を纏う黒き六枚羽の少女。

 八神はやて特別捜査官。

 この大火災。その強力な氷結魔法を用いていち早く広範囲の消化を行った人物である。そしてゲンヤが到着するまで現場指揮を取っていた影の功労者だ。

 

「おう。ちび狸もおつかれさん」

「な、なんですか?ちび狸って!」

 

 突然付けられたその愛称にはやては頬を膨らませる。ゲンヤは笑いながらコーヒーを受け取ると、それを一口。漸く肩の力が抜けたのか、大きな溜息をついた。

 

「まぁなんだ。お前さんの初動指揮が良かったからな。こうして被害を最小限に食い止める事ができた。感謝してる。おおっと。それにこっちのおチビさんもな」

「はいですぅ~」

 

 ゲンヤの隣。机に突っ伏しているのは人形の様な大きさの少女。

 リインフォースⅡ。はやてのパートナーであり、融合機の少女。

 

「いえ、その後の情報解析。それに的確な指示。どれも見事でしたナカジマ三佐」

 

 はやても騎士甲冑を解き、特別捜査官の制服姿になるとゲンヤの隣に座り自分もコーヒーを口に付ける。

 しかしその内面は複雑だ。

 もっと初期に必要な魔導士が揃っていれば、被害はもっと少なくて済んだかもしれない。

 もっと自分の指揮が上手くやれていれば、負傷者の数も少なくて済んだかもしれない。

 そう考えるとこの空港火災ははやてにとって、このブラックコーヒーの様に苦い経験となるだろう。

 固くカップを握りしめるはやてを横目で見てゲンヤはやれやれと肩を竦めた。

 

 彼女の噂は聞いている。

 かつて起こった闇の書事件の中心人物。そして歩くロストロギアの異名を持つオーバーSランクの魔導士。局内でも有名人の彼女を知らない人物等居ないだろう。

 そして今回の救助に参加したという彼女の友人もまた、管理局では知らない者はいない有名人だ。

 そんな彼女達が現場に居合わせたのは、偶然にしろ非常に幸運な事だ。魔力を持たない自分は指揮系統を纏める。そんな事しかできない。

 自分の娘がそこに居ると分かっていても、自分で助けに行く事が出来ないという葛藤。

 しかし彼女達には力がある。その力があるからこそ、今回はこの程度で済んだのだ。

 今、彼女が考えているであろう事は所詮『力を持つ者』としての悩みだと言う事に気付いてはいないだろう。そしてそれがいかに贅沢な悩みであるかという事も彼女は気付いていない。

 

(いかにオーバーSランクと言っても、まだまだ子供だな)

「なぁちび狸よぉ」

「またちび狸って……。なんですか?ナカジマ三佐」

「お前の今考えているだろう事はな、結局は結果論でしかない。あの時ああすれば良かった。こうすれば良かったなんてな、所詮はそんなもんなんだよ。だが実際に被害は最小限だったし、お前さんはお前さんが今できる全力を出した。それに一体なんの不満がある?」

「それは……」

 

 何も言えない。

 確かに全力は尽くした。判断が間違っていたとは思わない。そうであれば、確かにナカジマ三佐の言う通り今自分が考えているのは『起こってしまった事に対する結果論』なのだろう。

 

「事件なんてもんはな、何もかもが全て後手なんだ。そりゃ未然に防げりゃ万々歳さ。だがな、起こった原因があるから結果がある。そいつが事件ってもんだ。そんでそれを最小限に食い止めるのが俺達の役割なんじゃねぇのかい?」

「でも!それじゃあ何も変わりません!少しでも被害を最小限に食い止める。それに異論はありません。でも今回の件。主力部隊が到着するまでのロスは非常に大きい。私はそう考えます。そもそも管理局はこの手の問題について動きが遅すぎます!もっと迅速に対処に当たらなければ、事が大きくなりすぎた後では遅すぎるんとちゃいます!?」

 

 ふむ、正論だな。ゲンヤは顎を撫でる。綺麗過ぎる程の正論だ。ここは年長者として、一つ助言をしてみるのも悪くない。

 

「だったらどうする?八神特別捜査官。地上と海を考えてみろ。現状のシステムではこれがある意味限界だろう。そしてお前がその立場である限り、この手のジレンマは何時まで経っても解決されねぇ。上を納得させたけりゃ、結果を出さないといけねぇ。俺の言ってる意味、お前なら分かるんじゃねぇか?」

 

 呆気をとられるはやて。そしてそれも数秒の後、やがて何かを確信したかのように瞳に力がこもっていく。自分のするべき事を見つけた。彼女の大きな瞳はそれを雄弁に物語っていた。

 

「そん時は協力してくれますか?ナカジマ三佐」

「勿論だ。俺も個人的にお前が何をやらかすか見てみてぇからな」

「言質。取りましたからね?」

 

 にやりと笑うはやてにゲンヤも同じ笑みを返す。

 ああ、やっぱりこいつはちび狸だ。ゲンヤは自分の感じた印象が間違いでなかった事に内心ほくそ笑んでいた。

 

 ビーッ!ビーッ!

 

 突然車内のアラームが鳴り響く。

 二人は跳ねるように体を起こすとすぐにモニターを展開、状況確認を始めた。

 

「リイン!これは一体何の警報や!?まさか火がまだ残ってたんか?」

「い、いいえ!現在火災は完全に沈黙しています!これは……転移反応です!」

「なんやて!?」

「こちらでも確認した!おいおい、こいつぁ洒落になんねぇぞ?」

 

 そう言ってゲンヤが映し出す画面。そこには朝焼けに染まる空。だが空間が捻じれ、小規模ながら雷が発生している。

 

『はやてちゃん!応答できる!?』

『こちらでも上空の転移反応を確認。はやて、航空魔導士部隊。ならびに消化班。現在退避してるよ』

 

 突如繋がった通信。

 純白のバリアジャケットを纏うツインテールの少女、高町なのは教導官。

 対照的に漆黒のバリアジャケットに金髪のツインテール。フェイト・T・ハラオウン執務管。

 流石は親友。行動が迅速で助かる。はやてはそう感謝しつつ二人に指示を飛ばす。

 

「何が来るかさっぱり分からん。二人ともまずは身の安全を最優先して!」

『『了解!』』

「さて、何が飛び出してくるか」

「鬼が出るか、蛇が出るか……。ですね」

「はいですぅ~……」

 

 次第に渦を巻く空。三人は外に出てその様子を確認する。

 そしてその渦から見せたモノの姿を見て三人は声も上げることができなかった。

 現れたのは見たことも無い巨人だ。

 いや、巨人と呼ぶには小さいか?それでも人の大きさに比べたら立派な巨人。遠目でもそれが生物で無い事は分かる。それは小さい頃に見たロボットアニメに出てくる……。そう、ロボットだ。

 しかもそれが数体。ただ飛び出してきたのではない。そのどれもがボロボロだった。まるで激戦を潜り抜けてきたかの様に損傷が激しいロボットばかりである。

 更になんとも悪い事は続く。ロボット達はどれも全く動こうとしないのだ。このままでは海なり地上なりに叩きつけられるのは目に見えている。

 

「リイン!すぐにあのロボット達の墜落ルートを検索!」

「もうやってます!……市街地への墜落はありませんが、このままだと海に直撃するです!」

「なのはちゃん!フェイトちゃん!」

『分かってる!できるだけ被害が起きない様にやってみるね!』

『待ってなのは!あれを見て!』

「……なんだありゃあ?」

 

はやてとなのはの通信の最中、フェイトの声が響く。

 その光景にゲンヤも自分の目を疑っていた。

 突如ロボットが光に包まれたのである。そしてその光の中でみるみる姿を小さくしていく。ある程度まで収束した光はそれぞれ勝手な動きを見せていた。

 流星の様に次々と海に落下していくものもあれば、どこかに飛び去っていくものもある。

 はやてはそれを見ると急遽なのはとフェイトに現場へ向かう様に指示、自身もゲンヤの許可を取ると、再び騎士甲冑を身に纏い、リインとユニゾンを果たす。

 

「全速力で行くよ!リイン!」

『はいです!』

 

 漆黒の羽をまき散らし、夜天の王は再び空へと飛翔した。

 

 

 

「本局教導官高町なのは現場到着。今から探索に入ります」

 

 本局に通信を入れて、彼女。高町なのはは辺りを探る。

 既に上空の歪みは消え、元の朝焼けの空へと戻っていた。

 あの流星が何であったかは、到底彼女の考えが及ぶ所ではない。しかしあれを目の当たりにした以上、見過ごすわけにもいかない。

 そして、彼女には気になる事があった。

 何故かあの光を見た瞬間、とても懐かしい気分になったのだ。それと同時に始まる頭痛。

 あの光の正体を自分は知っている?そう思うと彼女は居ても立っても居られなくなり、こうして全速力でここまで飛んで来たのだ。

 

「レイジングハート、何か感じる?」

『はい。この先の海上に生命反応。……これは……』

「レイジングハート?」

 

 彼女の愛機、レイジングハートは何かを感じたようだ。しかし何も語らない。こんな事は初めてだ。

 

「どうしたの?」

『いいえ。まずは現場確認をしましょう』

「うん?」

 

 愛機の声に従い、なのはは飛翔を開始する。

 しかし頭痛はどんどん酷くなる。一体何があったのか。彼女は顔をしかめながらその速度を上げた。

 次第に何か見えてきた。海上に何か浮いている。

 どうやら一組の男女らしい影が見えた。お互いに抱きあい、庇い合うようにして海に浮いている。

 

『……やはり。センサーの故障ではなかったのですね』

 

 頭痛はどんどん酷くなる。レイジングハートが呟いた言葉もなのはの耳には入らない。

 やはりそれは男女だった。

 男は黒いツナギに身を包んでいる。それはなのはの世界にあったパイロットスーツに良く似ていた。

 ヘルメットは無く、伸びた黒髪を一つに結ってそれが波に揺られている。

 そして少女の姿。黒に近い紺色の服。男とは全く違う服だ。

 だがそれよりも何よりも

 

「私、そっくり?……っつぅぅ……」

 

 その顔はなのはと瓜二つ。髪型こそ少女はショートカットだがその顔は幼い頃の自分そっくりなのだ。

 頭痛が更に酷くなる。ガンガンと頭を鈍器で何度も殴られる様な感じ。そしてズキズキと針で何度も刺されるような鋭い痛み。

 同時に頭の中で何かが再生されていく。それは走馬灯のように、なのはの中でしっかりとした映像として再生されていく。互いに譲れぬ物の為に魔法を交え、同調し、最後には手を取り合った。そして、またいつか会おうと約束したあの静かな炎を秘めた少女。

 

「シュ……テル?」

 

 その名を呼んだ瞬間、なのはの中で歯車がカチリと噛みあう。

 一気に頭痛が吹き飛んだ。

 

「シュテル!?シュテル!しっかりして!」

 

 なのははそう叫ぶと海上の少女と少年に向かって急降下していくのだった。

 

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