1
7th day
午後の六課部隊長室。
集まったのは1週間前にキリエを加えた面々。その視線が集まる先には、ティアナが居る。
ティアナの視線は正面の八神はやて部隊長。はやては腕を組み、全員を見渡す。そして最後にティアナに向くと、表情を緩め尋ねた。
「ティアナ、1週間の謹慎どないやった? 少しは頭冷えたか?」
「はい。十分に。正直、謹慎はもうこりごりです」
「そんなら、私が言いたい事は分かるな?」
「はい。何故ホテル・アグスタであのような行動を取ったか、ですよね。お答えさせて頂きます」
すぅっと息を吸う。心臓はバクバク音を立てている。
緊張気味の顔。内心は不安でたまらず、できる事なら逃げ出したい。
これからティアナが話すのは自分の中の奥底。彼女に隠された負の部分。だが、失ったモノを取り戻す為にはそれを晒さなければならない。
それがティアナの歩むべき第一歩なのだから。
「まずは謝らせて下さい。命令を無視した勝手な行動。それによる危険行為。申し訳ありませんでした」
深く頭を下げた。誠心誠意、心から謝罪を述べる。
周りがどよめく。そんなに意外だろうか。確かに一週間前と比べれば、真逆の行動なので仕方ないかもしれないが。
顔を上げ、周りを見渡すとレンと目が合った。1つ彼が頷く。ティアナも頷き返す。そして視線は再度はやてへ。
覚悟はできた。
「あたしは、結果を出したかったんです。自分も強くなってるんだ、凡人でも努力すれば才能の差なんて埋められるんだって証明したくて」
ガタリと音を立て、立ち上がったなのはが何か言おうとしている。しかしそれをフェイトが制した。
まずは話をちゃんと聞こう。彼女の目はそう言っている。その目になのはは一瞬躊躇したが、すぐに席についた。ティアナは話を続ける。
「六課は才能の塊です。皆あたしには無い物をたくさん持っています。でもそれは今に始まった事ではありませんし、最初はあまり気にしていませんでした。今までもそうだったように、今回も努力すれば埋められると思っていました。でも時間が経つにつれて、スバル達がその才能をどんどん伸ばしていってるのが分かって、あたし1人が置いていかれてる気がして……」
「不安、やったんか?」
歯切れ悪く言葉を切ったティアナにはやてが優しく問いかけた。
しかしティアナは首を横に振る。
不安。確かに一面だけ見ればそう見えるかもしれない。だが、ティアナのそれは似て非なるものだ。
「不安よりも、羨ましかったんです。何であたしには、あれほどの才能が無かったんだろう。才能と力さえあれば、置いていかれる事も不安に思う事も無かったのにって」
「……嫉妬、か。だから結果を残したかった。そういう事だな?」
「有体に言えばそうなりますね」
苦笑して見せる。問いかけたシグナムはただ真っ直ぐにティアナを見た。一瞬彼女が何を考えているのか気になったが、今は置いておこう。ティアナは更に言葉を繋ぐ。
「スバル達だけではありません。レンさんやシュテル。ディアーチェ、レヴィ。ユーリ。勿論なのは隊長を始めとした六課フォワードの皆。全てが羨ましかったんです。皆が眩しくて、羨ましくて、……悔しかった。このメンバーが居れば、あたしなんていらない。凡人は必要ない。お前の弾丸は何も撃ち抜けない。そんな風に言われてる気がしていました。だから思ったんです。だったら結果を残してやる。そんな事言わせない結果を残してあたしを認めさせてやる。そして、その結果がアグスタです」
誰1人として言葉を交わさず。誰1人としてティアナから視線を外さない。
誰もがティアナの吐き出した言葉を受け止めていた。
スバル達は少女が自分達をどう見ていたかを知った。
なのは達は少女が抱えた苦悩を知った。
そして全員が悔やんだ。
何故、ティアナの苦しみに気付く事ができなかったのかと。
だが。
後ろから見ていたレンは思う。
気付ける筈が無いのだ、と
そんな簡単な話ではないのだ。なにしろ人は心を、真意を隠すのだから。ティアナもそう。彼女もひたすらに自分の心を隠していた。そこで誰もが止まってしまっていた。それ以上誰も深く追求しなかったし、できなかった。気付いていないのだから当然だ。
しかしチャンスは幾らでもあったのだろう。何しろ、ティアナの様子がおかしい事までは気付いていたのだから。日頃の訓練。出動の後。どのタイミングでも良い。もう少し彼女に向き合っていたなら、こんな事にはならなかったかもしれない。
だが現実はそうはならなかった。現に誰も行動を起こさなかったのだから。誰もティアナなら大丈夫だろうと静観を決め込んだのだから。
行動を起こさず、様子を見ているだけで相手の心情を見抜こうなど、心を読むでもしない限りほぼ不可能に近い。もっと歳と経験を重ねれば分かるのかもしれないが、それにはまだ部隊の誰もが若い。
故に、気付ける筈が無い。
かと言って彼女達だけを責める事はできない。レンにも責任はある。何故なら彼もティアナの様子に気付いていながら、行動を起こさなかった内の1人には変わらないから。ティアナ自身で解決するか。はたまた暴走してしまうか。その瀬戸際を見極めると言いつつも、裏を返せばそれはただの傍観だ。結局はレンも正面からティアナに向き合えていなかったのだろう。今回の事が起こって初めて、彼もティアナと正面から向き合ったにすぎない。
つまり、ホテル・アグスタの一件は起こるべくして起こった事と言えよう。
「ティアナ、よう話してくれたな。自分の心内を晒すんはとても勇気が居る事や。それでもちゃんと話してくれた事。そう決心してくれた事。この一週間は無駄やなかったという事やな」
「はい。色々自分を見つめ直すきっかけになりました」
「そうか。その様子だと心の整理はついたんやな?」
「一応は……」
「そんなら私から言う事はもうないな。ティアナ・ランスター二等陸士。本日この時を以って謹慎を解きます。皆もそれでええな?」
ぐるりと全員を見渡す。反論する者は居ない。はやては満足げに微笑んで見せた。
一礼するティアナ。そして堪え切れなくなったスバル、エリオ、キャロが彼女に駆け寄った。スバルとキャロは目に涙を浮かべ何度も謝っている。エリオも泣いてはいないものの、同じく謝っている。謝られた当の本人は困った顔をしているが。
その様子にほっと胸を撫で下ろしたレン。横目でシュテルを見る。その視線に気付いたのか、彼女もちらりとレンを見ると薄く微笑んだ。
あの時、何故シュテルがティアナの肩を持たなかったのか。その理由は明白。持たなかったのではなく、持てなかったのだ。
もしもあそこでシュテルがティアナの肩を持てば、それはティアナの行為を肯定してしまう事になる。
理由はどうであれ、間違った行動をし、あの場で沈黙という間違いの繰り返しをしたのは事実。故にシュテルは敢えて一線を引き、厳しくティアナを突き離す必要があった。
ティアナの教導を受け持つ身として、同じシューターとして、友として。
間違いは間違いだと、教える為に。
落ち着いて考えれば至る結論だ。何故ならシュテルがティアナを高く評価しているから。そしてシュテル自身の性格。見込みのある者には厳しく接するという性格が故に。
「ティアナにも言えない事情があったのは分かった。なんで訓練を無視した行動をしたかも分かった。それでね、それを踏まえてフォワードの皆には聞いてほしい事があるんだ」
なのはの声が部屋に響く。ティアナにはティアナの事情があった。今度は自分の番だと言うように。
全員の視線が彼女を向いた。
再び部屋が静まり返る。
「ティアナ、正直に答えて欲しいんだ。私の教導って、地味、だよね?」
「え?」
「おい、なのは! お前何言ってんだ?」
「良いんだよヴィータちゃん。……ううん、ヴィータ副隊長。これは必要な事です。ティアナだけじゃない。フォワード達が私の教導の意味を知ってもらう上で、確認しておかなければいけない事です。口答えは許しません」
普段の2人からは考えられない程強い口調だった。そしてそこでヴィータも気付く。なのはがこれから一体何を語ろうとしているかを。だがそれを易々と許すヴィータでは無かった。隊長と副隊長として交わされた言葉であっても、彼女は食い下がろうとする。
しかしそれを止めたのは、またしてもフェイト。なのはと同じ強い視線をヴィータに向ける。
「これはね、私も一緒に考えた事なんだ。そしてなのはの教導の意味を知ってもらうには避けて通れないと思う。だからここはなのはに任せてもらえないかな」
「……オメーはそれで良いのかよ」
「良いも何も、これが最善だと私も思うよ。それにティアナが勇気を出してくれた。私達もそれに応える必要があるんじゃないかな」
「……分かった。ならもう何も言わねぇ」
「ありがと。ヴィータちゃん」
フェイトの言葉に理解を示したヴィータに微笑むなのは。そして視線は再びティアナへ。
暫く考えていたティアナだったが、やがてまとまったのかなのはに向き直る。
「地味……というか、正直先が見えない、というのが正直な意見です。やっている事の重要性は理解できます。でも、どうしてもあたしは強くなっている実感が持てなかった……です」
「そっか。やっぱり実感できなかったかぁ。ごめんね。そこはこっちの落ち度だね。実感が持てなきゃ、確かに先も見えないよね。でもティアナが理解してるって言ったのは、多分私の理由の半分くらいだと思うんだ。だからここで皆に私の教導の本当の意味を知って欲しいと思うの」
「教導の本当の……意味?」
「そう。まずはこの映像を見てほしいんだ」
なのはの目配せにフェイトが出したのは大きなスクリーン映像。
そこに映っていたのは、まだあどけない。普通の少女として過ごしていた頃の高町なのはの姿だった。
映される映像にティアナ達は息を飲む。
それは高町なのはという少女の足跡。魔法と出会い、歩んできた戦いの歴史。
ジュエルシードを巡る戦いは、一転してフェイト・テスタロッサという少女との激しいぶつかり合いへ発展する。とてもではないが、魔法を覚えたての少女が潜り抜けるような修羅場では無いだろう。しかし画面に映る少女は辛くても、苦しくても、自分の意思を貫く姿を見せている。
そしてフェイトとの一騎打ち。海上で繰り広げられる空戦。勝負を決めたのは、その少女の放つ星をも砕く集束砲撃だった。
ただでさえ、砲撃は体にかける負担が大きい。まして魔力を集束させての巨大砲撃だ。それをまだ年端もいかない少女が放っているという事実。それが如何に危険で異常な事か。ティアナを始めとするフォワード達は息を飲んでその映像に見入っていた。
場面が切り替わる。
次に映ったのはヴィータに撃墜される姿だった。レイジングハートが砕け、バリアジャケットも吹き飛ばされ、気を失っている姿がとても痛々しい。
「闇の書事件。その中でなのは隊長とフェイト隊長はあたしとシグナムに撃墜された。だがな、こいつらはそれだけじゃ挫けなかった。より大きな力を得てあたし達の前にもう一度立ったんだ」
「それが当時まだ安全性が確立されてなかったカートリッジシステムだ。そして、高町隊長の切り札は過剰な魔力による体への負担を度外視したフルドライブ。エクセリオンモード」
ヴィータとシグナムの言葉と共に映されたのは、漆黒の翼と十字が描かれた書物を掲げる銀髪の女性。
闇の書の意思、リインフォース・アインス。
そしてエクセリオンモードを展開し、単身挑む少女。
またしても海上で行われる魔法戦。
『……』
「アプロディア?」
『……問題ありません。さぁ場面が変わるみたいですよ』
耳元のアプロディアからの言葉にマリアは頷き、再び画面を見る。
画面ではリインフォース・アインスから分離し、暴走を始めた闇の書の防衛プログラム。それを取り囲むなのは、フェイト達。ヴォルケンリッター。そして八神はやて。
「あの時はアインスから防衛プログラムを切り離したくても、なかなか上手くいかなくてなぁ。私1人じゃどうにもならんっちゅーことで、外に居る魔導士。つまりなのは隊長とフェイト隊長にお願いして協力してもらったんや」
「協力ですか?」
「そうや。純粋魔力でのノックダウン。その隙に私が管理者権限で強制的に切り離したんや」
「純粋魔力のノックダウンって……無茶苦茶ですね」
「でも分かりやすいやろ? 作戦の立案者は無限書庫のユーノ司書長なんやで?」
「……結構無茶するなぁ」
「流石師匠。実にシンプル。見事に分かりやすいです」
スバルの言葉に答えるはやて。あの温和なユーノが過激な作戦を立てた事にレンは苦笑し、シュテルは自分の事の様に小さくガッツポーズを決めている。
更に場面は変わり、仲間達による一斉攻撃。なのは、フェイト、はやてによる一斉砲撃トリプルブレイカー。そして露出したコアが長距離転送によって運ばれた先。宇宙で消滅する姿が映される。
「本当ならまだ続くんだけど。シュテル達とはその後に出会ったんだよ。ともかくそんな感じで、私は自分の意思を貫き通して来た。それで誰かを救える事が嬉しかった。でもね、それ以上に楽しかったんだ」
そう言って目を伏せる。一瞬暗い影がよぎるが、すぐになのはは顔を上げていつもの笑顔を見せた。
「世界が一変したんだもの。魔法を手に入れて、世界が一気に広がって。魔法の訓練も、毎日が新しくて、新鮮で、やればやる程上達してるって実感があったんだ。だからそれに没頭しちゃって、自分の体に起こっている事を全く理解していなかった」
そして映し出された映像。
その光景にフォワード達が目を見開く。レン達もだ。隊長達は悔しげに目を伏せ、その映像を見た事のあるマークとマリアですら、見るに堪えないといった顔をしている。
降り積もる雪の中、砕けて転がるレイジングハート。涙ながらに何度も呼びかけるヴィータ。その腕に抱かれるのは純白の雪とバリアジャケットを真っ赤な鮮血に染めた高町なのは、その人。
「カートリッジシステムの過剰魔力による体への負担。そうでなくてもなのはは砲撃を得意としてたから、体への負担は相当な物だったはず。そしてそれがなのはからいつもの動きを奪った。ほんの些細な判断ミス。そしてそれに体がついていかなかった。その結果、なのはは撃墜され、その翼を奪われた。一度はもう歩けない、魔法が使えないかもって言われてたんだよ」
続けてフェイトが出した映像は全身を包帯で巻かれ、ベッドで治療を受けるなのはの姿。苦悶の表情を浮かべるリハビリ風景。何度も倒れ、それでも立ち上がろうとし、それでもまた倒れる。その繰り返しが画面に流れている。
「結局、私が復帰するまで1年の時間が必要だったんだ。今でも思うんだけど、多分これは運が良かっただけだと思うの。もう少し何かが狂っていれば、私はきっとここには居ないんだろうね」
誰も声を出さない。出せないのだ。
フォワード達にとって、なのはは誰もが知る管理局のエース。どんな状況でも頼れる絶対無敵のエースなのだ。しかし目の前に映る映像は、そんな事は無いと彼女達に告げている。
絶対無敵のエースなどあり得ない。撃墜、挫折、苦悩。目の前のエースとて同じ人間で、同じ様に苦しんできたと。
「だからね、皆にはそんな思いをして欲しくなかった。魔法は確かに強力で、誰かを救える大きな助けになってくれる。でも、それは諸刃の剣なんだ。使いどころを間違えれば、それはすぐに身を滅ぼす凶器になってしまう。だからちゃんと地盤を固めて、しっかりその運用方法を熟知して欲しかったんだけど……。ダメだね。いつの間にかそれにばかり目が行っちゃって、教導を受けてる側がどう捉えているかっていうのが抜けちゃってたんだね」
そう言って寂し気に微笑む。
だがフォワード達。特にティアナはその笑顔を直視する事ができない。
重要性を理解している? とんでもない。半分どころか、全く理解していないではないか。
後悔と自責がティアナの胸を締め付ける。
画面に映ったなのはは、下手をすれば、自分だったのだ。
教導に込められたなのはの優しさに涙が、頬を伝わる。
「だから、これからはいっぱいお話しよ? 皆ももっと意見を出してくれると嬉しいな。私もどうすれば皆がもっと上達するかいっぱい考えるよ。時には意見が合わなくてぶつかるかもしれない。でもそれを怖がらないで。そうやって、皆で強くなっていこう!」
何故、この人はこんなにも笑うのだろう。何故、こんなにも優しい言葉をかけてくれるだろう。
今なら分かる。高町なのはという女性が辿った足跡を知った今だからこそ。
それは自分が経験しているからだ。彼女もまた辛い過去を持っているからこそ、その言葉には説得力があり、心に響くのだ。
涙が止まらない。ボロボロと大粒の涙が零れ落ちていく。
「それにね、皆を選んだのだって色眼鏡で選んだんじゃないからね? ちゃんと厳選して、皆に隠された才能を見つけたからスカウトしたんだよ? だから自信を持って、胸を張って良いんだから! これからもっと皆は強くなれる! ……ううん。絶対に強くしてみせる! だから……こんな不甲斐ない教導官だけど、ついて来てくれるかな?」
「っ!! はいっ! 宜しくお願いします!」
断る理由など無い。ティアナは立ち上がり涙を拭うと、深く深く頭を下げた。
それに触発されてスバル、エリオ、キャロも立ちあがり頭を下げる。
その姿を見て、なのはも瞳を滲ませている。
どうやら、六課分裂の危機は避けられたようだ。安堵すると共にレンは今度ははやてに視線を送る。
どうだい? 大博打に勝ったぞ。
上等。むしろお釣りが来るくらいや。
はやても片目を瞑ってそれに応えた。
だが、その時だった。
突如鳴り響く緊急警報のアラーム。それはガジェットの出現を知らせるもの。
全員に緊張が走る。はやてがすぐに空間モニターを開き、シャーリーに通信を繋いだ。
「シャーリー! 状況説明を!」
『はい! 東部海上にガジェット出現! ……え? 新型! それも大型です!』
送られてきた映像が部隊長室に大きく映し出される。誰もが息を飲んだ。
その姿は深紅の花。5枚の花弁を広げ、それはゆらゆらと海上に浮いている。
問題なのはその大きさだ。
それは次元航行隊の艦体一隻程はあるだろう。これまで確認されたガジェットの中でも、最大サイズの代物だった。
そしてそれに随伴する青い機体。ガジェットハンブラビもまた、レン達の記憶にあるサイズに戻っている。並の魔導士では戦闘すら厳しいだろう。レンは盛大に舌打ちを鳴らした。
『XMA-01ラフレシア。ダウンサイジングしていますが間違いありません。まさかこれをここで見る事になるとは思いませんでしたね。それに……ガジェットは通常のサイズですか』
「ええ。タイミングが良いんだか、悪いんだか。……はやてさん」
「分かってる。本件はSpiritsに一任や」
アプロディアがその機体を分析する。マリアも記憶からそれを思い出し、やれやれと肩を竦めた。
とは言え、これを放置する事もできない。はやての了承は得られた。
マリアは立ちあげると、号令をかける。
「機動六課八神はやて部隊長より、承認が得られました。Spirits各員、直ちに現場に急行。ユーリは到着と同時に封絶型の広域結界を最大展開。誰1人として中に入れず、1機も外に出してはなりません。尚、今回はこれまでのガジェットよりも巨大です。各自フルドライブを許可します」
凛、と声が響いた。
その声にレン達Spiritsは急ぎ部屋を後にする。残されたのは呆然とそれを見送る六課メンバー。
「さてフォワードの皆。貴方達もホテル・アグスタで見た人型機動兵器。それについて実際に映像を見ながら説明するわ。そしてなのはさん。かつて貴方を撃墜したモノの正体。それも一緒にね」
その言葉に部屋が一気にどよめいた。呆けていた頭に冷水をかけられたかの如く現実に引き戻される。
そんな中、なのははじっとマリアを見つめ、ヴィータはきつく唇を噛んでいる。
だがマリアはそれ以上語らず、画面のガジェットラフレシアに鋭い視線を向ける。
(多分敵の狙いは私達にフルドライブを使わせる事。その為のラフレシアと通常サイズのハンブラビね。あっちもこっちの事情は分かってるだろうし。なのはさん達なら対処はできるだろうけど、骨が折れる上に最悪限定解除が必要になるだろうし……。ここは敢えて誘いに乗るしかないわね)
と、そこでマリアはふと思いつく。
(そういえば、ラフレシアって宇宙専用モビルアーマーじゃなかったかしら?)
2
「と、あちらは思っているだろうね」
薄暗い洞窟内部。ジェイル・スカリエッティはほくそ笑む。
所狭しと並べられた機材と巨大なスクリーン。そこに映るのは海上で浮遊するガジェットラフレシアとガジェットハンブラビ。
「だが君達の常識がここでの常識とは限らない。それに、技術とは常に進歩するものだ。そうは思わないかい?」
スクリーン正面。椅子に腰かけ、ジェイル・スカリエッティは肩越しから背後に話しかける。
機材と機材の影が揺らめいた。丁度死角になっているのか、スカリエッティからは見えない。しかしそこに彼が目的とする人物がいる。それは確かで、姿が見えていようといまいと彼にとっては関係ない。
「技術の進歩か……。確かに情報を得ただけでテレストリアル・エンジンを再現する技術は認めよう。それにモビルスーツ、モビルアーマーのサイズダウンも見事。とは言え、今回ガジェットは通常サイズの様だが?」
「彼らに力を使ってもらうには、やはりあのサイズでないと割に合わないだろう? それにしても光栄だな。君にそう言ってもらえると夜鍋した甲斐があるってものだ」
「夜に鍋? それであのようなモノが作れるのか?」
「あはははは! 君は面白い事を言うねぇ。夜鍋とは例えだよ。例え。ウーノ。説明してあげなさい」
「では失礼して」
別の影から女性が姿を現す。紫のロングヘアーの女性だ。彼女は影に向かって説明を始める。
「夜鍋とは夜に鍋を作るという意味から、夜に仕事をするということを指します。つまりこの場合、寝るのも惜しんでガジェットを作り上げたのだとドクターは言いたいのです」
「成程、勉強になった。ヒトの言葉とは難しいものだ」
「言葉というのは不思議なものでね。必ずそこには隠された意味があるのだよ。そしてそれは生命も同じ。生まれたからには意味がある。大なり小なり、必ずね。無意味な物など、この世には1つとして無い。私はそう思っているよ」
「……私にも生まれた意味があるのだろうか……」
彼女の小さな呟き。
背中でそれを聞き、スカリエッティは目を細める。
「当然だよ。……もっとも、その意味を知っているのは彼らかもしれないけどね」
既に彼女の姿は無く、スカリエッティが呟きは影に吸い込まれていくだけだった。
夕暮れの海上。ユーリの展開した封絶型結界が海上を覆い尽くしていく。
これでこの結界には誰も入れず、誰も出る事はできない。
六課に来る前。Spiritsがまだ一部の人間しか知らなかった頃の作戦と同じ展開。
誰の目にも止まらず、誰にもその存在を郊外してはいけない特務部隊。
だが今回は状況が些か違う。この戦いを機動六課が、仲間が見ている。無様な姿は見せられない。
「くっくっくっ……。久方ぶりに全力が出せる機会が来るとはな。腕が鳴るわ!」
「だねぇ。体が疼いちゃって仕方ないよ!」
「2人共、少し落ち着いて下さい。そんなに慌てなくても敵は逃げませんよ。……なぁに。これから徹底的に殲滅して差し上げましょう」
「『怖いわー。この子達めっちゃ怖いわー』」
「お前ら余裕だね」
不敵に笑うディアーチェ達と声を揃えておどけるレンとキリエに、マークは少々頭が痛くなる。だが、それは彼女達の自信の表れだ。自分達が揃えばガジェット等恐れる必要は無い。例えそれが新型であっても、ねじ伏せてあげよう。そう。これまでの様に。
「マーク、結界の展開完了しました」
「よし。ご苦労さんユーリ。……お前ら、相手の目的は俺達にフルドライブを使わせる事。ここは相手の思惑に乗ってやろうじゃないか。相手の掌で踊らされてるなら、とことんまで踊って逆にその目に刻みつけてやれ! そんでその舞台ごと……」
『ブチ壊せ!!』
全員で声を合わせ、拳を力強く突き出した。
瞬間、全員のデバイスが輝きを強める。
紅と蒼。緋色の炎が。蒼雷が。闇が。それぞれ巨大な魔法陣を生みだし、形を成して行く。
紅白と紺色の不死鳥。純白の翼を広げる破壊天使。6本の光剣を構える妖精と白き体に金色の関節が輝く魔王。
5体のガンダムがその姿を顕現する。
眼前には巨大な花弁を広げるガジェットラフレシアと編隊を組むガジェットハンブラビの群れ。
戦いは突然始まる。
放たれるビームの雨。それをものともせず、5体のガンダムは正面からそれを迎え撃ったのだった。
それはフォワード達にとっては衝撃的な光景だった。
荒れ狂うビームの雨の中を人型機動兵器が軽やかに舞う光景に、フォワード達は驚きが隠せない。
確かにホテル・アグスタでハルファスガンダムとダブルオークアンタの激突は見ていたが、こうして改めて見て、初めてその力の大きさが肌に伝わる。
「あれがモビルスーツなんですね……。Spiritsの切り札。レンさん達のフルドライブ……」
「そうよ。私達がこの世界に持ちこんでしまった力。本来この世界にあってはならない力なの。その意味、皆なら分かるでしょ?」
ティアナの呟きに答えたマリアがフォワード達に問いかける。
その問いにティアナはレンの言葉を思い出していた。
誰にも使わせるつもりは無い。この世界。管理局にも。
今ならその意味が分かる。この力は大きすぎるのだ。5機のガンダムが放つビームは魔法で言えば砲撃クラスに匹敵する威力だろう。それが的確にガジェットハンブラビを撃ち抜き、爆散させている。
あれは兵器だ。非殺傷設定などない、純粋な光学兵器。
管理局が禁じた質量兵器そのもの。
それが意味するものは……。
ぶるり。
ティアナの体が震え上がった。
『ディアーチェ! 来ます!』
『応よ!』
ユーリとディアーチェの声にティアナは我に返った。
画面では白いガンダムがガジェットガンブラビに囲まれている。だが、ディアーチェの駆るガンダムは8枚の翼を巧みに操り攻撃を掻い潜っていた。そして両手のライフルを左右に広げ、邪魔だとばかりに撃ち抜く。
しかし爆発の間隙を縫って現れたガジェットハンブラビが何かを射出した。ワイヤー状のそれがガンダムの両手両足に絡みつく。そして、眩いばかりの電撃が襲いかかった。
画面から聞こえるディアーチェとユーリの悲鳴。電撃はモビルスーツの内部を伝わり彼女達にもダメージを与えているのだ。キャロがひっと小さな悲鳴を上げた。安心させるようにその肩を抱くフェイトだが、彼女も耳を塞ぎたくなるほどの悲鳴に目を細める。
「マリア! なんで誰も助けに行かねぇんだ! このままじゃ黒こげにされんぞ!」
「……問題ないからよ。あの程度、私達の世界ではよくある攻撃の1つ。それを潜り抜けてきた事を彼らは知っているから。それにディアーチェとユーリのストライクフリーダムはこの程度では墜ちはしないわ」
ヴィータを一蹴したマリア。
ストライクフリーダム。それがあのガンダムの名前なの?
ティアナが視線を画面に戻した時だった。
『いつまでも……好きにやらせるかぁ!!』
ディアーチェの怒号が響いた。同時にストライクフリーダムの背から射出される8個の小型ユニット。
宙を舞うそれがビームでストライクフリーダムを拘束するガジェットハンブラビを撃ち抜いた。電撃が消え、拘束が解けるストライクフリーダムの背から極光の如く輝く光の翼が姿を見せる。
『スーパードラグーンの制御をユーリに譲渡! 同時に全兵装スタンバイ!』
『了解! ……制御譲渡完了です!』
『行くぞ! 消え去れ塵芥ぁ!!』
両手のライフル、腰から展開した砲台、腹部のビーム砲。そして囲むように展開するスーパードラグーン。それらの一斉発射。飛び交う閃光。逃げる隙など与えない波状攻撃はガジェットハンブラビを貫き、蒸発させ、空に盛大な爆発を起こす。
熱を伴う残骸が海に落ちもうもうと蒸気を上げる中、緑色の瞳を輝かせるストライクフリーダムが佇んでいる。
その殲滅力を六課に見せつけるように。
『あはは~! 王様さっすが~』
『ふん! お膳立ては済んだぞレヴィ。切り込み隊長として戦果をあげてこい!』
『言われなくても!』
『レン! レヴィに続くぞ!』
『了解』
ストライクフリーダムの脇をすり抜けるように飛翔する3機。
レヴィのビギニング30を先頭に、紅白と紺色の不死鳥が羽ばたく。
『エリオとキャロが見てるんだ。レヴィお姉ちゃんのカッコイイ所見せちゃうよ!!』
2人が見ている事を意識してか、レヴィはテンション高く機体を飛ばした。迫るガジェットハンブラビをすれ違いざまに一閃。たちまち2機がビギニング30の後方で爆散する。
だがガジェットガンブラビの攻撃も止まらない。ビギニング30の上方で人型に変形すると、落下の勢いを乗せてビームサーベルで斬りかかって来た。同じビームサーベルで受けるレヴィ。切り結んだ刃が激しく閃光を放つ。たちまちガジェットハンブラビの包囲が進む。このままでは先のディアーチェの二の舞だ。
マークとレンも他のガジェットハンブラビを相手にしており、救援は無い。
だがレヴィはコックピットの中で、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
『足りない! ぜんっぜん足りないね! ボクを落としたいならもっと連れて来なきゃダメダメ!!』
残った左腕、3本のビームサーベルを切り上げる。サーベルの熱でガジェットハンブラビの胴が赤熱。
瞬く間に胴を切断。爆発から逃れると、すかさずビームサーベルをしまいビギニング30はifsユニットを展開。同時にビームライフルを構える。
ライフルの銃口から伸びる光が巨大なビームサーベルへ。レヴィの気合いと共に薙ぎ払われたそれがガジェットハンブラビを一網打尽にする。
『へへーん! どうだ見たか! やっぱりボクって最強!』
『馬鹿! 余裕ぶちかますな!』
『へ?』
マークの怒鳴り声と共にコックピットがアラームを鳴らす。確かにガジェットハンブラビは一網打尽にした。しかしまだ本命が残っている。ラフレシアという本命が。
そのラフレシアから触手の様に伸びてくるマニピュレーター。慌ててビギニング30がifsユニットの翼を広げ回避に移るが、そのマニピュレーター、テンタクラーロッドは執拗にビギニング30を追いかける。
『うえぇぇぇぇ。気持ち悪ッ!!』
『だから余裕かませすぎなんだよお前は!』
割り込んだのは4筋の砲撃だった。レヴィに組みつこうとしたテンタクラーロッドがその砲撃に飲まれ溶解する。更に紺色の機体が割り込んだ。両手にビームサーベル。その4枚の翼からも光刃を放ち、次々とテンタクラーロッドを切り落とす。
『ごっめーん! マークもレンもありがと♪』
『油断するな。まだ来るぞ』
『ったく。お前はいつも危なっかしいな』
ビギニング30の両隣を守る様に立つ2機の不死鳥。
マークのフェニックスガンダムと、レンのハルファスガンダムだった。
「フェニックスガンダムもハルファスガンダムもオールラウンダーの機体。でも2人の癖かな。フェニックスは射撃、ハルファスは近接を得意とするわ。レヴィのビギニング30は言わずもがなね」
各機の説明をマリアが行っている。
それを一同は黙って聞いていた。
モビルスーツの挙動には目を見張る物がある。まるでそれが人であるかように自然だ。しかし先のティアナではないが、全員それが兵器であると認識している。
そして、再び画面のモビルスーツに釘付けになる。
『ディアーチェ。砲撃後、我々も戦線に加わるとしましょう』
『了解だ。シュテル、ぬかるでないぞ?』
『心配は御無用。我は偉大なる紫天の王が一槍。止められる物など、ありはしません』
シュテルが搭乗するは純白の翼を広げるウィングゼロカスタム。海上でホバリングをしつつ、その巨体ほどもあるツインバスターライフルの銃口をラフレシアに向ける。
『ゼロシステムによる照準誤差修正……。行きます!』
膨大なエネルギーが銃口に集中。一気に解き放たれた。
渦巻くエネルギーが海を割り、一直線にラフレシアに向かう。射線上のガジェットハンブラビをも飲み込みながらも全く衰えを見せない光。
ガジェットラフレシアもその脅威に気付いたのか、射線上に光の壁を生みだした。
激突する光と光。しかし、シュテルは構わず更に放出するエネルギーを上げる。
『無駄です。その程度で止められるものではありません』
彼女の言葉の通りだった。ツインバスターライフルの砲撃がガジェットラフレシアの防御壁を貫く。
轟音と共にガジェットラフレシアの巨体が傾いた。煙をもうもうと上げ、バランスを崩したものの、なんとか体勢を保っている。だが、その攻撃は更に苛烈を増した。テンタクラーロッドが蠢き、近くに居たレン達に襲いかかる。そこに花弁から放つ拡散ビームを加えて。
『キリがないよー! うねうねイヤーッ!! めんどいーッ!』
『文句言うなレヴィ! つっても確かにキリがねぇ。……レン! 一気に畳みかけるぞ!』
『了解。上方に行きます』
『レヴィ、道を作れるか?』
『合点!』
マークの指示に応え、ビギニング30がライフルを構えた。銃口に再度ifsユニットが集まる。今度はライフルの威力を増幅。ハルファスの道を作るべく、上空に向けて光が走った。
同時にその道を飛ぶハルファス。フェニックスもラフレシアから距離を取る。
その間に合流したゼロカスタムとストライクフリーダムがビギニング30と共に射撃を放ち、2機の邪魔をさせない。
『我が身は全てを焼きつくす蒼の炎! なんちゃって♪』
『……そんな名乗りの前に準備はできたのか?』
『もー! ハルファスに乗ったレンはノリが悪いんだからー。準備ならとっくに完了よん♪』
『了解だ。行くぞキリエ』
『派手に行っちゃいましょ!』
ガジェットラフレシアの上空高くに舞い出たハルファスが高機動モードに変形。重力加速を伴い、ぐんぐんと落下を始める。その体が、その翼が、その嘴が。真っ青な蒼の炎に包まれた。
そして一度後退したフェニックスもまたその身を赤く燃やし、同様に高機動モードから突撃を始める。
炎に包まれた2羽の不死鳥が、上下からガジェットラフレシアに襲いかかるのだ。
触手も、ビームも不死鳥を捉える事はできない。むしろ、不死鳥の炎にその身を焼かれるだけ。
そして、遂に不死鳥は妖花を捉える。
上空から花弁に突き刺さるハルファス。そのまま周りを焼き、花弁の奥深くへ突き進む。そして下からはフェニックスが花弁の茎を食い破る。
赤と蒼の炎が妖花を蹂躙し、燃え上がった。2種類の炎に焼かれ、ガジェットラフレシアはゆっくりと海に落ち、大きな水しぶきが起こった。
それを眺めるSpiritsのモビルスーツ。
そして、一際大きな爆音と共に水柱が立ち上ったのだった。
「圧倒的、ですね」
全てが終わった画面を見てスバルが呟く。正直、その言葉を言うだけで精一杯だった。まるで夢を見ているような気分だったのだ。目の前で起こっている戦い。それは彼女が知るどんな戦いでもない。
これがモビルスーツ。
これが、レン達が潜り抜けてきた戦い。
自分の知らない、レン達の姿。
でも、それは……。
「いくら魔力運用型って言っても、これじゃ質量兵器って呼ばれても仕方ないのは百も承知よ。でも、これが私達の保有する最大戦力であり、切り札。それを皆にもちゃんと知っておいてほしかったの」
スバルの言いたい事を感じ取っていたのか、マリアが口を挟んだ。
彼女達がそう簡単に受け入れられない事も分かっている。だが伝えておかなければならない事の為、一度モビルスーツとはどんなものであるかを知っておいてほしかった。
だからこそ、マリアは意を決して全員を見る。
不意になのはと目が合った。ヴィータも何も言わずにマリアを見ている。
きっと彼女達は気付いたのだろう。マリアの言わんとしている事に。
画面が切り替わった。それは先ほども見たなのはの撃墜時の映像。時間としてはその直前だろうか。空中で何かとヴィータが何かと争っている。
それは漆黒の人型兵器。仮面を付けた人型の兵器だ。
なのはが誘導弾を放ち、ヴィータがグラーフアイゼンを振る。その兵器も抵抗しているが、2人の波状攻撃に成す術なく、地に落ちた。
降りしきる雪の中、なのはとヴィータも降り立つ。地に落ちたそれを確認すべくヴィータが近づく。
なのはは油断こそしていないまでも、肩の力を抜いていた。
そして……。
『なのはっ!』
ヴィータの声が響く。ハッとし彼女を見るなのは。
まだ生きている兵器の銃口。そこから放たれる一条の光がなのはの体を貫いた。
唖然とそれを見ているヴィータの目の前で、二射、三射と光が放たれ、なのはの小さな体が糸の切れた人形の様に踊り、血が真っ白な世界を染めた。
『う……うああああああっ!!』
咆哮を上げ、グラーフアイゼンを何度も叩きつける。兵器の形も残すまいと、ヴィータは一心不乱にアイゼンを叩きつける。そしてそれが完全に活動を停止するや、一目散になのはに駆け寄り声を上げる。
『医療班ッ! 何やってんだよッ! 早くしてくれよ……。コイツ、死んじまうよッ!!』
2回目となるその映像だが、なのは撃墜前からの様子はこれが初見。しかしスバル達はそこに映っていたモノ。それをしっかりと目に焼き付けていた。
Spiritsの戦いを見た直後であるから、尚更に。
「なのはさんを撃墜したモノ。あれの名はGGH-010 レギナ。そのガジェットと思われるわ」
そして一度言葉を切ったが、すぐに顔を上げて重い口を開く。
「私達の世界にあった……モビルスーツよ」
誰も声を上げない。
夕焼けの光でできた影がマリアの顔を隠し、その表情は読み取れなかった。