魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第2話 オーバーワールド

1

 

 

 宇宙。

 それは静かな闇の海。

 恒星の輝きが無ければ、光等存在しない穏やかな世界。

 だが、それは表向きの世界だ。本来の宇宙は最悪とも呼べる環境である。上も下も左右も存在せず、空気も無いとなれば本来地球の生物はそこで生活する事すら不可能。

 だが人には知恵がある。技術がある。

 この二点を駆使し、人は宇宙での生活を可能とした。

 人々の拠点は地球という母星から広大な宇宙へと移り変わっていったのである。

 

 

 新西暦201年 7月。

 

「なんだよこれ……」

 

 機体の駆動部から蒼い炎の輝きが見える機体。実際の炎ではなく、システムの影響による熱を持たない炎。搭乗者の感応力を強化するシステム『ナイトロ』を装備した機体、ガンダムデルタカイに搭乗した少年、レン・アマミヤが呟く。

 彼が属する第00遊撃隊Spiritsは5ヶ月前に半世紀も前に出現し、無差別に『破壊活動』をしていた兵器『System-∀』の撃破に成功したエリート部隊。だが突然鳴り響いた警報によりこの広大な宇宙に再度出撃していた。

 敵はかつての戦いでも見られた自分達とはまた違うモビルスーツの軍団。

 

 MS-06 ザクⅡ。及びRMS-106 ハイザック。

 

 レン達がSystem-∀を倒す為に次元航行システム『オーバーワールドシステム』によって疑似体験した並行世界の戦士達の機体だ。

レン達の機体はそれらを解析し、作りあげられた物。プログラムと材料さえあれば機体を組み上げられるシステムはレン達の世界独自の技術だが、目の前にいる機体達はそれとはまた別物だ。

 それを操っているのは『ニューロ』と呼ばれる未知の生物。いや、生物と呼んで良いものか。それはモビルスーツに寄生し、操縦者が居なくてもモビルスーツを単独で動かす事ができる光の球体なのだから。

 ニューロの再出現に地球連邦は次々と応戦。Spiritsもまたその戦線に加わっていたのである。

 

「なんで……。なんでまたこれが出てくるんだよ!」

「レン!惑わされないで!あれはニューロだよ!」

「分かってる!分かってるけどさ!」

 

 彼がそう叫びたくなるのも無理は無い。

 デルタカイの操縦席にホログラムとして浮かび上げるキリエの声に返事をしながらも、レンは右へ左へ機体を動かす。戦場で足を止めるのは自殺行為だ。故にレンはデルタカイの機動性を活かし、他の機体から迫りくるビームと弾丸の嵐を掻い潜るようにして宇宙を駆ける。

 

「んなろっ!」

 

 画面のロックオン表示が灯った瞬間、操縦桿のトリガーを引く。それに連動し、デルタカイはその手に持つロングメガバスターを発射した。手持ちの銃としてはビームライフルの威力を大きく上回るその砲撃が一体、また一体とニューロモビルスーツを撃ち抜いていく。但し、この銃の難点は連射が効かない事だ。

 一体一体確実に当てていかなければいけない中、確実に必中させていく事ができるのはレンの技量もさることながら、サポートしているキリエの活躍も大きい。そしてこの機体には操縦者の感応力を拡張させるナイトロが積んである。当てられない方が問題だ。

 

「後方から機体が向かってくるよ!」

「ちぃっ!」

 

 キリエの索敵にレンは思わず舌打ちする。振りむいてからの射撃では間に合わない。咄嗟にビームサーベルを抜き放ち、目の前に振り降ろされたニューロモビルスーツの一撃を受ける。だが、不安定な体勢で受けたのがいけなかった。バーニアを噴かす暇も無く、デルタカイは後方へ後退させられる。

 そして相手も悪かった。並のモビルスーツならここまでデルタカイが押し負ける事は無いだろう。

 しかし彼に向ってきたのは、ニューロが模した英雄達の機体の内の一体。

トリコロールカラーの機体。赤と黒の大きな高機動バックパックを背負ったガンダム。

 

「エールストライクガンダム……」

 

 思わずレンが呟いた。コズミックイラと呼ばれる世界で彼が何度も見たガンダムの一機だ。

 そのガンダムがビームサーベルを手にこちらを見降ろしている。

 

「不味いな。ここでこんなエース機が出てくるなんて……。ん?待てよ?エールが出てきたって事は!」

「レン!ロックされた!」

「やっぱりな!」

 

 キリエの叫びと同時かレンが早いか。彼はバーニアを噴かし、とっさに機体を動かす。そしてそれが後数秒遅れていたら、彼の機体はそこを通り過ぎる極太のビームに焼かれていただろう。

コックピット内に再度警告音が鳴り響く。しかしレンもそれは分かっていた。ビームサーベルの出力を最大限まで上げて、迫りくる巨大な対艦刀の一撃を受ける。閃光が宇宙に走る中、レンは咄嗟に機体で前蹴りを繰り出していた。甲高い音が鳴り響く中、その機体は後退していく。

 

「やっぱりエールが出てきたんなら、ソードとランチャーも出てくるよな」

 

 目の前に並ぶ三体のストライクガンダム。高機動型のエール。砲撃型のランチャー。接近戦型のソード。

 ストライカーパックと呼ばれる換装システムによるストライクガンダムのバリエーションが今、レンの目の前で揃っていた。

 悪夢としか言いようがない。一体だけでもエースの機体。それを三体同時に相手にしなければならない。

しかも全て得意レンジが違うと来た。これを悪夢と言わず何と言うだろうか。

 

「キリエ。ちょいと地獄まで付き合ってくれるか?」

「もちろん。でもできるなら天国でお願いね♪」

「オーライ。じゃあいっちょ派手に行きますか!」

 

 覚悟を決めた二人。レンは操縦桿を固く握りしめ開幕の挨拶とばかりにロングメガバスターを発射した。

 それが開戦の狼煙となる。三機のストライクは散開し、それぞれの得意レンジへと移動。

 すかさずその内の一体に目を付け、レンはデルタカイを前進させる。

 まず狙うはエールだ。高機動型のエールが得意とするのは中距離。確かに一発の威力はソードとランチャーに劣るが、この機体の最大の特徴はその機動性だ。ソードとランチャーはその大型武器でどうしても大振りに成らざるを得ない。しかしエールが支援攻撃を行う事でその隙をキャンセルする事ができてしまう。単機撃破を狙うのであれば、まずはその支援砲撃を止めなければならないだろう。

 

「おおおおっ!」

 

 ソードの一撃を潜り抜けるとレンは一直線にエールの下へ。

 エールも近づけさせまいとビームライフルを撃つが、錐揉み旋回でこれを避け、ビームサーベルを薙ぎ払った。しかし流石は高機動型。その一撃は空を切る。すかさずエールがビームライフルで牽制。しかしそれも先刻承知だ。再びロングメガバスターを発射。慌てて避けようとしたがエールのビームライフルは間に合わない。ビームライフルの砲身がビームに巻き込まれて融解。爆散する。

 だが油断はできない。キリエの警告とコックピットの警告音。デルタカイに向けて迫るランチャーの砲撃。今度はレンがそれを避ける番だった。だが、先のエール同様に後一歩間に合わない。砲撃に巻き込まれたロングメガバスターがみるみる融解していく。更に間の悪い事にソードが後もう少しという所まで迫っていた。その巨大な剣を振り上げて。

 とっさにレンは融解するロングメガバスターをソードに向けて放り投げる。

 すでに爆発臨界点に達する寸前だったのだ。ロングメガバスターはソードの目の前で爆散。

 だがダメージは無い筈だ。ストライクの装甲はフェイズシフト装甲と呼ばれ、ミサイルや爆発といった打撃によるダメージを全て受け流してしまう。それでもレンにしてみればそれで十分。元よりダメージを狙った物ではない。ダメージは無くとも爆発の衝撃は発生する。それによるソードの足止めが目的だったのだから。

 見ればエールは体勢を整え、盾を構えながらビームサーベルで突っ込んできた。

 すかさずレンは左腕にあるシールドを向ける。そこにあるのは砲身。ビームならまだある。すでにそれ

のチャージも終了している。メガ粒子砲をモビルスーツレベルまでダウンサウジングしたハイメガキャノンだ。

 ロングメガバスターよりも更に太い光線が一直線にエールへ向かう。

 攻撃を中止しエールはシールドで防御するが、威力が先とは段違いだ。しかもチューンナップされておりその出力は更に上がっている。さしものエールも防ぎきれず、盾と一緒に腕が弾き飛ばされ爆散した。

 

「今だ!」

 

 すかさず飛行形態であるウェイブライダーへ変形すると、エールに向けて突貫。先端にあるハイメガキャノンで体当たりを食らわし、そのまま押し出して行く。

 これなら支援は難しいだろう。この距離でランチャーやソードが支援を行おうものならエールを確実に巻き込むからだ。そしてエールもまたいきなりの突貫に動きが止まっていた。

 更にそこで一気に逆噴射。強烈なGにレンとキリエが呻き声を上げる。急停止したデルタカイとそこから離れるエールストライク。そこでレンはすぐに操縦桿のトリガーを引く。ほぼ零距離からのハイメガキャノン。閃光がエールの胴を撃ち抜き、爆散していった。

 そのまま更にブースターを噴かす。一度急ブレーキをかけたにも関わらず今度は再度ロケットスタートをかけたのだ。再度襲いかかる強烈なGにレンは胃の中の物が逆流する。しかしそれを気力で抑え込み、デルタカイは蒼炎の軌跡を描きながら宇宙を旋回する。

 支援の要を失ったストライク二機。ソードがこちらに向かってくるがそれは悪手だ。いくらストライクとはいえ、ソードとランチャーはエールに比べて機動性に劣る。故に高機動形態となったデルタカイに追いつける道理は存在しない。

 そして次の目標はランチャーだ。いくら機動性に欠けると言っても流石にあの320mm超高インパルス砲『アグニ』は脅威の一言に尽きる。掠りでもしようものならデルタカイの装甲を一気に持っていってしまうだろう。

 幸いソードは置いてけぼり。元々距離を取っていたランチャーを守る機体は存在しない。

 再びウェイブライダーからモビルスーツへ変形。その勢いのままビームサーベルを叩きつける。

 だがランチャーも肩のバルカンを連射し簡単には近づけさせてはくれない。

 それでもレンは前に出た。ここで時間をかければソードが戻って来てしまう。それではアドバンテージが無くなったも同然。しかし、それは同時にレンの焦りにも繋がっていた。

 この機体のパイロット『キラ・ヤマト』の技量をコピーしているのだろうが、本物には及ばない。しかしそれでもその技量は並のパイロット以上だと言わざるを得ないだろう。

 接近戦を不得手とするランチャーでレンの攻撃を捌いているのだ。

 対するレンだが、焦りによって攻撃が大振りになっている。これでは当たる物も当たらないだろう。

 自分が相手に対し弱点と見なしていた事を自分が行うという悪循環だ。そしてその大振りが逆にレンに隙を生む結果となる。

 振り抜いたビームサーベル。そのタイミングを狙われた。カウンターでランチャーの拳がデルタカイの顔面を捕えたのだ。衝撃でメインカメラのレンズが砕ける。一瞬コックピットの全天候モニターにノイズが走ったが、なんとか損傷は無さそうだ。

 しかも追撃で放たれたミサイルの雨。とっさにガードするも何度も爆発と衝撃がレンとキリエを襲う。

 

「うわあああっ!」

「きゃあああっ!」

 

 たまらず悲鳴を上げる二人。しかも攻撃はこれで終わらなかった。

 突如右側に感じる衝撃。見れば腕を掴んでいるアンカーが見えた。レンがランチャーに手間取っている間にソードが追いついたのだ。そして目の前にはアグニを構えるランチャーの姿。

 

「ちっくしょおおおおっ!」

 

 それはほぼ無意識に近かった。思いっきりペダルを踏みバーニアを噴かす。デルタカイの体が急激な推力と共に動きだす。そしてその動きに巻き込まれる形になったのはソードだ。今ソードとデルタカイはアンカーで結ばれている。そしてデルタカイの推力はエールならいざ知らず、ソードのそれを上回っているのだ。結果は当然ソードがデルタカイに引かれる形となる。しかもソードを支点としてデルタカイがまるでバック宙をするかの様な形になる。右腕の関節が悲鳴を上げ、コックピット内に危険域を知らせるブザーが鳴り響くのも無視し、レンはペダルを踏み込んだ。

 ランチャーのアグニは既に発射準備が整っている。なのに突然目標が目の前から姿を消し、代わりに姿を見せたのは味方機であるソード。発射は止まらない。止める事ができない。

 そして引き起こされるのはフレンドリーファイア。つまり味方への誤射、である。

 アグニの砲撃がソードの左腕を吹き飛ばす。それと同時にデルタカイとソードを繋ぐアンカーのワイヤーも切れた。ソードはその武器の大半が左に寄っている為、これはレンとキリエにとって幸運としか言いようがない。

 

「キリエ!フィンファンネル!」

「了解!」

 

 この偶然を逃す手はない。デルタカイの背中に着いた羽が分離し、独立飛行を始める。

 プロト・フィンファンネル。後にνガンダムに搭載される事になるフィンファンネルの雛型になったニュータイプ専用装備。レンにもニュータイプと思わしき素質があったものの、これまでは力量不足から使う事ができなかった。しかし今は違う。キリエがサポートし、ナイトロがレンの精神を増幅させている今だからこそ使える装備である。

 頭の中にプロト・フィンファンネルの軌跡をイメージ。同時に見えてくるランチャーとソードの挙動。

 

「そこだぁあああっ!!」

 

 気合いと共に意識を解き放つ。レンの思い描くイメージに沿ってジグザグに飛行する二翼がビームを放ち、ランチャーの肝であるアグニを破壊。強烈な爆発を起こしランチャーの体勢を大きく崩した。

 これで相手の主力武器は全て破壊できた。後はトドメをさすのみ。この好機を逃す訳にはいかない。

 丁度目の前にはこちらを向いたソードの姿。レンは思いっきりその腹に蹴りを叩き込んだ。大きく吹っ飛んだソードの射線上にはランチャーの姿。二体のストライクがぶつかり、その動きを止める。

 一気に前進するデルタカイの右手には最大出力のビームサーベル。このまま二体ごと貫かんとする勢いで距離を詰めて行く。しかしランチャーも残ったバルカンとミサイルを同時発射。ソードも頭部にある機関砲、イーゲルシュテインで牽制。近づけまいとする。

 しかしそれくらいでレンは止まらない。ミサイルと弾丸の直撃を食らい機体の各所が小規模な爆発を起こすのも無視し、彼は突貫。遂にその光の剣がストライクの体を貫いた!

 バチバチと放電し、小刻みに震える二体のストライク。

 デルタカイもまた、体中から細かい放電と蒼炎を上げている。

 

「じゃあな。コズミックイラのエース機」

 

 スッとビームサーベルから手を離し、ハイメガキャノンを突きつけてレンはトリガーを引く。そして一条の閃光が二機のモビルスーツを貫いていった。

 

 

「いや、参った参った……」

「うん。デルタカイもボロボロだね」

「でもあのエース機を三機同時ってどんな無理ゲーだよ。むしろこれくらいで済んだのが奇跡ってもんさ」

 

 宙を漂いながらレンは大きく息をついた。コックピット脇。機体に直接挿入されているヴァリアント・ザッパーに小さく浮かび上がるキリエがくすくすと笑う。

 

「はぁ……こりゃカチュアにどやされるなぁ……」

「あの子、怒ると怖いもんね……」

 

 システムチェックをしながら整備班長の少女を思い浮かべ、二人はげんなりする。各部小破。機体を動かすには問題ないが、戦闘となると厳しいだろう。残った装備はビームサーベルが一本。ハイメガキャノンとプロト・フィンファンネル。装備に問題はない。しかし先ほどソードを無理矢理引っ張った所為で右腕の関節にエラーが出ている。どうやら変形機構にもエラーがあるようだ。

満身創痍。正にギリギリの勝利と言えよう。

 

「じゃあさっさとディーヴァに帰ろ?」

「そうだな。このまんまじゃどうしようもないもんな」

「うん」

 

 そしてデルタカイが反転しようとしたその時である。

 突如、警戒音が鳴り響いた。驚く二人に迫るニューロモビルスーツの群れ。ニューロは独自のネットワークを構築していると考えられている。先ほどのストライクが撃墜された事を感知し、やってきたのだろう。その数はざっと見ても二十は固い。

 

「くっそ!こんな時にニューロかよ!」

 

 動くのは左腕のみ。ハイメガキャノンだけでは無数のモビルスーツを相手にするのは難しいだろう。

 せめて右腕が使えれば。こんな状況で無い物ねだりと分かっていても、そう考えてしまう。

 モニターを見ればまだ戦いは終わっていない。遠くで色とりどりのビームが飛び交っているのが見える。

 

「ちくしょう。モテモテじゃねぇかよ」

「今頃気付いた?」

「生憎、あんな無機物に好かれても嬉しくないねぇ!」

 

 名無三!とばかりにデルタカイがハイメガキャノンを向ける。ここが自分の墓場か?レンがそんな事を考えつつトリガーを引こうとした。

 が、そこから砲撃が放たれる事は無かった。

 彼の後方より迫る渦を巻く光線。その光線がモビルスーツの一体を一撃で貫いていく。

 そして彼を通り過ぎる四枚羽の飛行機。その飛行機が変形しガンダムへと変わると、傷ついたデルタカイを庇うようにその前でニューロモビルスーツの前に立ちはだかった。

 

『レン!キリエ!無事ですか!?』

「シュテルちゃん!」

 

 繋いできたのはシュテル。その顔は鬼気迫るものがある。思わずキリエが歓喜の声を上げると、ほっとしたように表情を緩めた。

 彼女の機体はガンダムAGE-2。レンと同じ可変式モビルスーツであり、先の渦巻くビームはこの機体のハイパードッズライフルの一撃だった。

 

『すみません。こちらもニューロのガンダムに対応していたもので援護が遅れてしまいました』

 

 どうやらシュテルもまたガンダムに襲われていたらしい。その割には損傷は少ないようだが……。

 それをレンが指摘すると彼女ははにかんだ笑顔を見せた。

 

『はい。運よく近くにレヴィとディアーチェが居たものですから。彼女達と協力したのでこちらの損傷は軽微で済ます事ができました』

『そういうこと~♪』

『はんっ!レンよ、ボロボロではないか。後は我らに任せるが良いぞ!』

 

 更に通信が入った。そこに写っていたのは上機嫌のレヴィと得意げな顔のディアーチェ。ディアーチェの後ろではユーリがニコニコとVサインを出している。

 そしてデルタカイの隣を高速で駆けて行く二機のガンダムタイプモビルスーツ。

 一機は青色が眩しいモビルスーツ、アストレイブルーフレームセカンドL

 単純明快で接近戦を好むレヴィの機体である。武装は背中のタクティカルアームズを剣とガトリングにする二種類しかないが、レヴィはそれを巧みに使いこなし武装の少なさを全く感じさせない働きを見せていた。

 もう一機は白と黒のボディに蒼い六枚羽、フリーダムガンダム。

 こちらにはディアーチェとユーリが搭乗。彼女の得意分野である広域殲滅のハイマットフルバーストをマルチロックで行える機体である。オリジナルと違い副座式になったこの機体を主に操作をディアーチェが、サポートをユーリが行っている。息のあったそのコンビは流石と言えよう。

 

『シュテるん、レンがピンチだって知って慌てて飛んで来たんだよ~』

『レヴィ!!』

『にゃはは~♪』

 

 まったくこの子は……とシュテルは顔を赤くしているが、こんな二人の会話を聞けるのも生きているからこそ。レンはそれがとても心地よく、同時に安らげるものだった。

 

『レン、何を笑っているのですか?』

「うえっ?俺笑ってた?」

「そりゃもうバッチリ~♪」

 

 シュテルのジト目とキリエの楽しそうな顔。レンは思わず苦笑してしまう。シュテルを怒らせるなんて怖くてできない。だからこの場は話題を強制的に切り替える事にする。

 

「いや、それにしてもナイスタイミングだったよシュテル。流石は俺の相棒だ」

『んなっ!……コホン。そんなの当たり前です。……なんならもっと褒めても良いのですよ?』

 

 そっぽを向き頬を赤らめているシュテル。レンはキリエと目配せし合うと彼女に気付かれないようにこっそり口元に笑みを浮かべた。だが、これはレンの素直な気持ち。全く本当に良いタイミングだった。

 

「ああ、いくらでも褒めてやるよ。なんならまた特大パフェ奢っちゃうぞ!」

『パフェ!……うん。その言葉忘れませんからね』

「おー。お兄さん嘘つかなーい」

『お前ら、暢気に色惚けしてる場合か?デートの約束ならここを乗り切ってからにしろよ?』

 

 通信と共に不死鳥の如きガンダムがデルタカイを通り越し戦場に向かっていく。

 フェニックスガンダム。Spiritsのエースが駆る真紅の機体。そしてそれを駆るのはこの部隊のリーダーにしてトップエース。マーク・ギルダーだ。

 

「マークさん、ご迷惑をおかけします」

『ああ?そんなのは俺とタメ張れるようになってから言いな。この程度、迷惑でもなんでもねぇよ』

 

 通信モニターの先、灰色の髪を揺らしマークが笑っていた。

 

『つまり良くやったと言いたいんですよマークは』

『ここから先は俺達に任せろって意味も含まれてるな』

『あ、こらゾディ!ラナロウも何言ってやがる!』

「ゾディさん!ラナロウさんも!」

 

 次に通信を繋いできたのは黒髪に糸目の青年と、バンダナを巻いた勝気な顔の青年だった。

 黒髪の青年はゾディ。本名ゾディアック・シンルー。搭乗する機体はハイゼンスレイⅡ・ラー。

 そしてラナロウ・シェイドがバンダナの青年。搭乗する機体はスカルハート。正式名称クロスボーンガンダムX1改・改。

 二人ともマークと共にこの部隊トップ3の実力者である。

 

『ハッハー!!随分ボロボロじゃねぇかレン!ま、こっから先は俺達に任せておきなぁ!!』

「ブラッドは相変わらずね……」

「全くだ」

 

 一方的に送られてきたハイテンションな通信にレンとキリエは苦笑してしまう。通信の主はブラッド・ラインハルト。好戦的で命令違反上等の問題児だが、その天才的な技術はモビルスーツでも生身の体でもトップクラス。いずれマークとも肩を並べる素質を持っている青年である。そんな彼が駆るのはガンダムアストレアタイプF2。そして更に緑色の量子を放つガンダムがやってきた。

 アヴァランチエクシア。キールの機体である。

 

『まぁそう言うなよ。あいつもあいつなりにお前の心配してんだ……と思う』

「キール、できればそこは言い切って欲しかったな」

『何にせよ、本当に無事で良かったですよ。レンもキリエも』

「うん。心配掛けてごめんねお姉ちゃん」

 

 キールの横でキリエの様にホログラム化したアミタが笑っている。そんな姉の様子にキリエもまたほっとした様な笑顔を見せた。

 

『後は雑魚のみだ。マークさんじゃねぇけど後は俺達に任せておけ』

「ああ。素直にそれに応じるとするよ」

 

 レンが応じるのを確認し、アヴァランチエクシアは緑色のGN粒子をまき散らしながら戦場へ。

 すでに目の前の戦場ではマーク達が獅子奮迅の活躍を見せている。

 戦場が収束するのは時間の問題だろう。

 

『レン君、大丈夫?』

「ええ。マリアさんもご心配をおかけしました」

『うん。ならシュテルちゃん。レン君の機体を回収してディーバに帰還して下さい。良い?』

「了解しました」

 

 ゆっくり近づいてくるディーバ。母艦の副艦長でありモビルスーツのパイロットでもあるマリアからの通信にシュテルは返事二つで返す。

 

『さぁレン。帰りましょう。パフェが待っていますよ!』

「お前、俺よりそっちが大事なの?」

 

 目をキラキラさせているシュテルに若干辟易しながらも、レンは機体を動かすべく操縦桿に手を伸ばす。

 

「あ、あれ?」

 

 急に目の前が真っ暗になった。

 突然の事にレンは対処できない。意識が急に遠のいていく。

 遠くでシュテルとキリエが自分を呼ぶ声が聞こえるが、全く反応できない。

 次第に考える事も億劫になってきたレンは……。

 そのまま意識を手放した。

 

 

 

2

 

 

 新暦71年5月14日

 

「…ン!……レン!」

「ん~。……ん?シュテル……?キリエも……。お前ら何で泣いてんの?」

 

 意識が急速に戻る。体中の気だるさは気になるが、レンは自分を呼ぶ声に意識を覚醒させていった。

 目の前には二人の少女。ショートカットを揺らし、いつものポーカーフェイスからは考えられない程目に涙を浮かべたシュテルと、同じく目に涙を溜めたキリエの姿。

 

「ばかっ!」

 

 勢いよく抱きついてきたキリエに目を丸くしたまま、体を起こし首を傾げているレン。未だに状況を飲み込めていないのだ。シュテルも彼の手を取ると不安げに瞳を揺らしている。

ゆっくりと周りを見渡す。そこで漸く自分の状態を少しずつ理解できてきた。

 

「え~と、ここは?これは入院服?ってことはここは病院?」

「そうです。ここは聖王教会管轄の病院。私達はここに現在入院しているという扱いになります」

「聖王教会?なんだそれ?っていうか、あれから一体何が起こったんだ?」

 

 自分はシュテル達と共に戦っていた筈。そして全てが終わったと思った瞬間、爆発に巻き込まれて……どうなった?何故いきなり目が覚めてみれば病院に居る?しかも聖王教会なんて聞いた事が無い。

既に泣きやみ、ゴロゴロとレンに抱きついて甘えているキリエを引っぺがしてシュテルは再度ベッドの脇に腰を落ち着ける。

 ごくりとレンは唾を飲んだ。それほどまでにシュテルの瞳は真剣だったから。 

 

「レン。これから話す事は全て真実。驚く事は有るでしょうが、心して聞いて下さい」

「……分かった。教えてくれ」

 

 ならば、こちらも真剣に対応するしかあるまい。レンは気持ちを引き締め、彼女の言葉に耳を傾けた。

 

「レン、以前私が異世界に居たという事を話した事を覚えていますか?」

「ああ。俺達とはまた違う時間の分岐を辿った地球。オーバーワールドシステムでも連結しなかった別の可能性の地球でシュテルは生まれたんだよな」

「ええ。私はその地球で生まれた魔法プログラム構成体。理のマテリアル……です」

 

 自分の正体を再認識したのか、そこまで言ってシュテルの顔が曇る。

魔力プログラム構成体。その言葉が自分とレンは違うという事に。

 目を伏せて言葉の途切れたシュテルの頭をそっと撫でる手がある。顔を上げれば、レンが微笑んでいた。

 そしてその手が降りてきてシュテルの頬を撫でる。くすぐったそうにする彼女にレンは微笑む。

 

「大丈夫だよ。シュテルはシュテル。人間だとか、魔力プログラム構成体だとか関係ないから」

「……はい」

 

 頬を撫でる彼の手に自分の手を重ねて、シュテルも落ち着きを取り戻す。

 

「ぶーぶー。レンってばシュテルちゃんに甘いわよ!私だって魔力プログラム構成体なのよ?」

「大丈夫だって。キリエだって同じだからさ」

「うん♪なら良し!」

 

 ……ピクッ!

 隣で喚くキリエにシュテルのこめかみがピクリと動いた。

 何だか、邪魔されたのが気に食わない。

 しかしそれを抑え込むと彼の手を離し、シュテルは再びレンの瞳をじっと見つめ、話を再開させようと口を開く。

 

「とにかくです。話を続けて良いでしょうか?」

「ああ。頼む」

「その地球が属する次元。その次元を管理するのが時空管理局。レン。率直に言います。私達はその時空管理局発祥の地。ミッドチルダに来ているのです」

「……マジで?」

「マジです。大マジです」

 

 しばし二人は見つめ合う。その時間たっぷりと一分強。

 そしてふっとシュテルが視線を逸らす。唇に指を当てて、頬を赤く染めて。

 

「……レン、そんなに見つめないで下さい。恥ずかしいです」

「いやいやいやいや。そこでその反応はおかしいだろ」

 

 漸く現実に戻れた。レンはとにかくシュテルの言った言葉を頭の中で整理する。

 シュテルが自分達に出会った際に話には聞いていた。彼女達が別の可能性の地球からやってきた異邦人である事。そしてその世界には『魔法』が存在し、それを使って数多の次元世界を管理しているのが時空管理局。彼女はレヴィ、ディアーチェと共にその世界で管理局の少女達と共に一つの戦いを終わらせてから、エルトリアにやってきたという事。

 初めて魔法を見た時は心が躍った事を覚えている。そして、彼女に頼んで何度も魔法を見せて貰ったのは良い思い出だ。

 

「成程な。まぁよくよく考えてみればあり得ない話じゃない。あの時は正直何が起こってもおかしくなかったからな。そうかそうか。俺達次元の壁を越えちまったのか」

「その割には落ち着いてるね?」

「だってよキリエ。シュテルが嘘付くはずないし、現に俺はシュテルから魔法を何度も見せて貰ってるからね。いや、正直驚いてるよ?でもさ、あのシステムはそもそも数多の次元を繋ぐ装置でもあるんだ。可能性はゼロじゃない。いちいちそんなので騒いでたらキリが無いじゃん?」

「さっすが。その切り替えの早さはお見事」

 

 ベッドに腰掛けるキリエに頭を撫でられつつ、レンは肩を竦めて再びシュテルを見る。

 

「という訳だ。つまり俺達はそのミッドチルダ。え~っと聖王教会って奴の病院に搬送されたんだな?」

「そうなります。ちなみにレンがこの世界に来てから約半月の時間が経過しています。その間レンはずっと昏睡状態だったのですよ?」

「わーお。道理で頭がすっきりしてる訳だ」

 

 言われてみれば体が少し痛い。流石に半月も寝ていれば筋肉が固まってしまうのは道理だ。

 と、そこまできて初めて気付いた。

 

「そう言えば他の奴らは?俺達だけってんじゃないんだろ?」

「それは……「レ―――――ンッ!!」……まぁこういう事です」

 

 シュテルが仲間の状況を言おうとしたその刹那。いきなりレンの視界が真っ暗になった。そして何かに抱きつかれると同時に勢いに負けた彼の後頭部がベッドのパイプに直撃。レンは痛みに悶絶する事になる。

 

「うわーい!レンが目を覚ました!やったやった―――ッ!」

「うーッ!うーッ!」

 

 顔面に押し付けられる柔らかい物。頭を抱き締められているという事実と声からそれが誰で、柔らかい物が何であるかをすぐに察知してレンはバシバシとベッドを叩いてもがきまくる。このままでは窒息してしまう。彼女の発達したその柔らかい物で男としては羨ましく、傍から見れば滑稽な形で死んでしまう。

 

「うーっ!……っはぁ!こらレヴィ!俺を殺す気か!」

 

 漸く引き剥がしたそれ。水色の髪をいつものツインテールからストレートに降ろした少女は一瞬きょとんとしていたが、すぐにふにゃっと笑いかけてきた。

 

「そんな事有るわけないじゃん!だってレンが目を覚ましてボク、すっごい嬉しかったんだもん!」

「……あー。うん。そうだな。レヴィは無邪気の塊だもんな……」

 

 自分が何をしていたのか、全く分かっていないレヴィ・ザ・スラッシャー。

 むしろ言うだけ無駄かと、レンはそれ以上の言葉を諦めた。

 レンに馬乗りになったまま腰に抱きつき、ゴロゴロと喉を鳴らすレヴィの頭を撫でつつ、レンはシュテルとキリエを見る。苦笑する二人にレンはなんとなく次に来る物が予想できた。

 

「な―――はっはっはっはっ!レンよ!貴様、塵あく「ディアーチェ。病院では静かに」……ぐすん」

 

 予想通り。部屋の入り口で声高らかに、腰に手を当てて大声を上げるドヤ顔のディアーチェをレンは一蹴する。まさかの途中ストップに入院服のディアーチェは若干涙目を浮かべていた。

 

「そうですよ王。病院では静かにして下さい。他の人に迷惑です」

「やーい、王様怒られた~」

「レヴィも病み上がりにいきなりタックルはいけません。またレンが昏睡状態になったらどうするのです」

「……は~い」

「でもでも~。レンが目を覚ましてくれて本当に良かったですよ~。ディアーチェも本気で心配していたんですよ~?」

「こ、こら!ユーリ!余計な事を言うでない!」

 

 シュテルに窘められてもレヴィはまだゴロゴロと喉を鳴らしている。もしかしたらちゃんと聞いていないのかもしれない。

 そしてディアーチェと共にレンの隣に来たゆるふわ系金髪少女。ユーリに言われディアーチェは慌てて否定するが、シュテル、レヴィ、キリエの三人の生温かい視線に思わず言葉を詰まらしてしまった。

 

「そっか。ディアーチェも心配してくれたんだ。ありがとな」

「ふん!下僕の事を気にかけるのも王の務め。当たり前の事だ」

 

 赤くなりながらもそっぽを向く彼女にもしも尻尾があるとすれば、きっと全力で振っているに違いない。

 まさかこれで全員なのか?妙に不安になった所に皆と同じ入院服を着たマークとマリアが入って来る。

 

「やっと目を覚ましたのね。待ちくたびれたわよ?」

「よぉ寝ぼすけ。漸く目が覚めたらハーレムか?」

「あははっ。マリアさんもマークさんも元気そうで何よりです」

 

 マークにわしわしと乱暴に頭を撫でられる。乱暴だが、それもまた彼の愛情表現だ。

 しかしそれ以上誰も入って来る気配は無い。これで全員か。レンは少しだけ目を伏せた。

 

「これで、この病院に居るメンバーは全員になります。尤も、転移されてきたのはガンダムのみ。その数と母艦が転移してきていない状況から推測するに恐らくキール、アミタ、ゾディアック、ラナロウ、ブラッドの五人もこちらに来ていると思われます。それについては現在時空管理局が探してくれている最中です」

「……そっか」

 

 シュテルの言葉がそれを裏付けた。

 だがレンはあまり心配をしていない。彼らの事だ。きっとこの世界で元気にやっているに違いない。

 何故かは分からないが、そんな確信めいたものがある。

 とはいえ、これで自分以外。行方不明のメンバーを除いて皆健在である事が分かった。

 となると残る心配は自分達の身の振り方である。

 ミッドチルダに来たのはまぁ良いだろう。しかし、いきなり放り込まれてしまって右も左も分からない。

 入院している間は良いが、退院したら生活していかなければならない。自分達のモビルスーツはどうなった?母艦『ミネルバ』は?そもそも元の世界に戻れるのか?

 疑問と不安が次々と湧いて来てレンは正直投げ出したくなってくる。

 

「今はとりあえず体の治療に専念するべきだわ。特にレン君はまだ目が覚めたばっかりなんだし」

 

 マリアはレンの思いに気付いたのだろう。

 そしてその言葉の通りだ。まだ自分は目が覚めたばかり。これからの事も大事だが、まずは人並みに生活できる状態にする方が大事だ。

 それに頷きバタリと横になる。レンはとりあえず問題を先送りにする事に決めた。

 




戦闘描写……。難しいです……。
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