魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第29話 月下の決意

1

 

 

 

 病室に月の光が差しこんでいた。

 今のミッドチルダは夏。窓を閉め切れば、例え夜といえども蒸すような暑さは免れない。それを嫌がり窓を開けて寝る患者は多い。

 さぁっと風が入り込み、薄手のカーテンが揺れた。1度大きく揺れ、また元の位置へ。そしてまた大きく揺れる様は海の波を思わせる。風があるだけまだ良いのだろう。この風が無ければ、窓を開けていてもやはり暑い。その風だって湿って、熱を孕んでいる。やはり暑いものは暑いのだ。

 その暑さで月の光もどこかぼやけている。これが冬ならばもっと煌々と輝いているのだろう。ミッドチルダに月は2個ある。それはもう明るく照らすに違いない。しかし残念ながら今は夏。夏の夜は空気が湿っている。まるで水の中にいるかのようだ。だから月の光もどこかぼやけてしまう。

 ゆらゆらと。水の中から見上げる月の様にゆらゆらと、ゆらゆらと。

 病室に伸びる影すら揺らすかのようにゆらゆらと、ゆらゆらと。

 そして影はゆっくりと部屋を出て行った。ゆらゆらと、ゆらゆらと。

 

 

「マークさんはまだ目を覚まさないんか?」

 

 病室を出た影に声をかけられる。影は声の方を振り向いた。月の光に彼女の金色の髪が揺れる。

 

「ええ。手術は成功したんですけど、血を多く流し過ぎたみたいです。こればかりは自然に回復するのを待つしかありません……。でも最悪目を覚まさない可能性もあります」

「そうか。辛いやろうけど、気を確かにな。シャマルまで倒れたらあかんよ?」

「分かってますよ。はやてちゃん。それにマリアちゃんも」

「はい……」

 

 廊下にいたのははやてだけではなかった。憔悴したマリアもまた彼女の隣に居た。きっとSpiritsのリーダーとして責任を感じているのだろう。しかしシャマルはマリアを責めることなどしない。いつかこんな事が起こるのではないかとシャマルだって分かっていたのだ。だから責めない。責めるのは筋違いだ。

 そして微笑みかける。貴方は悪くないと。

 

「でも……。もしかしたら別の方法だってあったかもしれない。マーク1人で危険な事をしなくてもデータを手に入れる方法があったかもしれない。なのに私は……」

 

 その微笑みをマリアは受け入れなかった。俯き、スカートの裾を強く掴み、口から出るのは後悔の言葉。

 作戦の決断をしたのはマリアだ。Spiritsのリーダーとして今回マークが動く為の最終決定権はマリアにある。だがこんな事になるならもっと別の方法を模索するべきだったと彼女は自身を責める。

 しかしそれこそ筋違いというものだ。

 結局の所、マリアのそれはただの結果論。誰だって地上本部でマークが襲われると予想どころか、考えすらしていない。

 それをシャマルが認識し、マリアが認識できていない。

 そしてそれがマリアの目を曇らせている。

 傍からそれを見ていたはやてにはマリアの気持ちが痛いほど理解できた。何故なら彼女にも経験があるから。4年前の空港火災の折、彼女も同じ事を考えた。しかしそれは結果論でしかないと教えられた。本来ならそれを伝えるべきなのかもしれない。だがはやては何も言わず静観する。

 

「マリアちゃん、それは違うわ。マークが襲われた理由も犯人もまだ分かっていないのよ。繋げるのはまだ早いわ」

「でも!」

「いい加減にしなさい!」

 

 暗く静かな廊下にシャマルの一喝が響いた。滅多に聞かないその声に家族であるはやてすらビクリと身を震わせている。言われたマリアは言わずもがな。顔を上げて目の前で怒りに肩を震わせるシャマルを呆然と見ていた。

 

「いい加減にして。貴方達に必要だったデータは正攻法で手に入る代物じゃない。だからこそこの方法しかなかったんでしょ? それに貴方がここで弱音を吐いてマークが目を覚ますわけじゃないわ。だったら今するべき事は何? それを見失わないで」

「シャマルさん……」

「大丈夫。マークはきっと目を覚ますわ。だから今は私達にできる事をしましょう。ね?」

 

 マリアの肩に手を乗せて微笑むシャマル。マリアもコクリと1つ頷いた。

 目じりに浮かんだ涙をぐいと拭い、顔を上げる。そうだ。ここで悲しみに沈んでいてはいけない。マークはきっと目を覚ます。だから今は出来る限りの事をしなければならないのだ。

 そしてマリアの肩に置かれるもう1つの手。それははやてのものだ。彼女も片目を瞑って微笑んでいた。さぁ後もう一押し。それははやての役割だ。

 

「今回の件、フェニックスが干渉を受けた形跡がある。ま、データ自体はアプロディアに事前転送されてたから、抜き取られたって事はないんやけど。それにマークさんがクラッキングって手段でデータを手に入れたってのも管理局側にバレてへん。その辺りはレジアス中将が圧力をかけてるみたいなんや」

「中将が?」

「そうや。あの夜、マークさんはレジアス中将と時間まで会ってた事になってる。勿論限界はあるやろうけど、中将の事や。なんらかの手段で事実にしてまうやろうな。ほんと、恐ろしい人や」

 

 そう言って今度は苦笑する。こればっかりはマリアもシャマルも同意せざるを得ない。

 とりあえずこれで当面、データの件は問題ないだろう。そうなるとマークを襲撃した犯人なのだが……。

 

「それについては現在調査中や。でも本日付けでこの件も六課が担当することになったよ。担当はまだ決めてないんやけど……、どうする?」

 

 暗にぼかした言葉回しだ。マリアとてその真意は分かっている。六課にお鉢が回って来たのもレジアスの采配によるものだろう。調査する上でマークの身辺も探られるはずだからだ。叩けば色々と出てしまう身の上、六課に預けたというのはそれを隠す意味合いの方が強い。

 マリアの目に力が戻って来た。1度は消えかかった心の火が再び灯る。

 

「私に担当させて下さい。これは管理局の、六課の問題である同時にSpiritsの問題でもあります」

「そう言うと信じとったで。今日までの調査内容はリインに預けてるからな。直接受け取って下さい。頼んだで。マリア・オーエンス捜査官補佐」

「了解です。八神はやて捜査官」

 

 敬礼をしたマリアはすっかりいつもの凛々しい顔へと戻っていた。満足げに頷くはやて。久しぶりに捜査官と捜査官補佐としての間に戻ったのが何故か少しだけ懐かしくて、2人はふふっと笑いを浮かべる。

 

「シャマルさんもありがとうございます。おかげで目が覚めました。貴方の言う通り、今するべき事を忘れていました。本当にありがとうございます」

「ううん、良いのよ。貴方にとってもマークは大切な人なのは知ってるから」

「……はい。大切な幼馴染で兄の様な人ですから」

「でも渡さないわよ? 私の大事な彼氏なんですから」

「取る気は無いのでご安心を」

 

 少し茶目っ気を出してみたが、冷静に切り返されてしまった。うへぇと顔を歪ませているマリアにシャマルも苦笑してしまう。マリアにとってマークは確かに大切な幼馴染であり、兄の様な存在だが、長年そんな関係を続けていると恋愛対象としては見れないものだ。故にシャマルから奪う気などさんさら彼女には無い。

 

「ではマークの事、よろしくお願いします。はやてさん、表に車回しますね」

「うん。お願いな」

 

 ひらひらと手を振るはやてに再度敬礼するとマリアは病院の暗闇へと走り出す。

 残されたのははやてとシャマル。再び静かな廊下に戻った時、ぺたりとシャマルが廊下へ座り込んでしまった。

 

「だから無理するなって言うてるのに。シャマルも強情やな」

「当然ですよはやてちゃん。ああでもしなきゃマリアちゃんは立ち上がれなかったでしょ? あの子とマークが私とは別の絆で結ばれてるいるのを知ってるもの。だからこそマークが目を覚まさない今、あの人の代わりを私がしなきゃ」

 

 力無く笑うシャマル。少し呆れた顔のはやてが隣に腰を下ろし、そっとその頭を抱いた。

 本当はシャマルだって泣きたいくらいに不安なのだ。

 いくら覚悟があっても現実にそれが起こってしまえば、それは別物。いくら気丈に振る舞って見せても心の奥底ではマークが心配で心配で仕方が無い。だがそれをマリアに見せる訳にはいかないのだ。そんな素振りを見せてしまえば、彼女の心が完全に折れてしまう。真面目であるが故に、自分を責めてしまう。

 それは駄目だ。マリアには六課として、Spiritsとして、皆をまとめてもらう必要がある。

 だからこそシャマルは必死に、気丈に振る舞っていた。

 はやてにはそれが痛いほど分かる。家族の事だからほんの些細な事でも見逃しはしない。

 

「ここには私とシャマルだけや。こんな時くらい甘えてくれてもええんやで? 私達は六課である以前に家族なんやからな」

「はい……。じゃあ、ちょっとだけ」

 

 はやての胸に顔を埋めると、やがて小さな嗚咽が聞こえてきた。優しくはやての手が金髪をすく。

 それはまるで母親と娘のよう。そんな2人に月光が優しく降り注いでいた。

 

 

 

 一方の機動六課。マークが凶刃に倒れた事に多くの局員が動揺している。この食堂でも誰もがその話で持ち切りだった。マークが倒れたという事。そしてそれが地上本部内部で行われたという事がより一層の不安を局員に与えている。

 その様子を横目で窺いながらフェイトは無理も無いと溜息をついた。そして視線は同じテーブルを囲むフォワード達へと向けられる。彼女達もマークを兄の様に慕っていた。レンとはまた別の意味でフォワード達の心の支えになっているのを知っているだけに、今回の事はショックが大きいに違いない。

 

<なんか嫌な感じですね>

<うん。みんなショックが隠せないんだ。……ティアナは大丈夫なの?>

<まぁ……。ショックはショックですけど、なんとなく覚悟はあったと言うか……。フェイト隊長は?>

<ほら、私は2度目だから……>

 

 そう、フェイトにとっては2度目だ。ティアナに念話を飛ばしつつ、苦笑を浮かべながら思い出すのは8年前の事。なのはの撃墜を経験している彼女にとってみれば、このような事はいつ起こってもおかしくはないという認識ができている。無論、管理局として前線に出ているのであればその覚悟を持たなければいけない。

 8年前はそれを理解していなかった。なのはなら絶対大丈夫。そう思ってしまっていた。

 絶対、なんてあるはずが無いのに。

 

「お前ら、何シケた面してんだよ」

「そうですよ。ほらほら、レン特製のカレーです。これでも食べて元気を出して下さい」

「おかわりたっくさんあるからね! じゃんじゃん食べて良いわよ~」

 

 そんな時だ。ドンと音を立てて別テーブルに鍋が置かれたのは。

 驚いてフェイトが顔を上げるとそこにはいつもの甚平を着たレンが腕を組んで立っていた。しかも今日はそれにシュテルとキリエまでいる。彼女達がいるのは別段珍しいという訳ではないのだが、問題はその格好だ。シュテルは割烹着に身を包み、キリエまでピンクのエプロンを身に付けているのは実に珍しい。

 一体何事だろうかと、状況が飲み込めないフェイトとフォワード達を無視し、3人でさっさと自分の皿にカレーを盛り付けていく。

 しかし誰もそれに便乗しようとはしない。そんな気分ではないのだから当然だ。食欲など起きよう筈もないのだが3人は全くお構い無し。手をパンと合わせ元気よくいただきます。さっさと食べ始めた。

 

「うん。今日のスパイスブレンドはなかなかだな。さすが俺」

「悔しいですが認めざるを得ませんね。ディアーチェのカレーに勝るとも劣りません」

「ホント。いつか王様と食べ比べしてみたいわね。あの子ならきっと喜んで勝負受けてくれるわよ?」

「こんな時に貴方達は何をやってるんですか!」

 

 わいわい語る3人に水を差す一言が響いた。スプーンを止めてレン達はその声の主を見る。それはエリオだった。じっと彼ら睨みつけ、怒りを隠そうともしない。普段温厚な彼が見せるその姿に、食堂の誰もが手を止め、話を止めて、視線を彼らに集めていく。

 

「エリオ!」

「良いよフェイト。好きに言わせろ」

「でも!」

「良いから。エリオも遠慮しなくて良いから好きに言ってくれ。全部聞くから」

 

 それに耐えられなくなったのだろう。エリオを注意しようとするフェイトを制し、レンはエリオに次の句を促した。まるで表情を変えないレンの様子に怒りが頂点に達したのだろうか。エリオは立ち上がると人目もはばからず更に声を上げた。

 

「マークさんが倒れたんですよ!? しかも地上本部で誰かに刺されて! 今も意識が戻らない。そんな状況なのにここで暢気にカレーなんて食べられるはずないじゃないですか! なのに貴方達は! それでも同じ仲間ですか!? 少しは心配した顔の1つもできないんですか!?」

「……それで?」

「それでって……。そんな、酷過ぎます!」

「酷過ぎる、か。……なぁエリオ。なら教えてくれよ。ここで俺達がマークさんが倒れた事を嘆けば、あの人は目を覚ますのか?」

 

 カレーを食べる手は止めず、静かにレンは問いかける。

 エリオは答えない。いや、答えられないのだ。

 何故なら答えはすでに出ているから。

 たったその一言でエリオはペタリと椅子に座りこんでしまう。

 そしてレンは再びカレーをスプーンですくい上げ、パクリと口に含む。そしてそれを飲み込むと視線を再びエリオに戻した。

 

「覆水盆に返らず。地球にはこんな言葉があるんだ。盆からひっくり返った水は二度と同じ盆には戻らない。俺が今食べたカレーも二度とこの皿に戻る事は無いのと同じ様に。つまりな、もう起こってしまった事はどうしようもないって事さ」

「そんな……。レン兄はマークさんの事はどうしようもなかった。起こってしまったってそれで済ますって言いたいの?」

 

 次に声を出したのはスバル。悲痛なその声は普段の彼女からは考えられない程に弱々しい。

 

「そうだ。マークさんの事はもう起こってしまった事だ。俺達が嘆こうがどうしようが、その事実は変えられない」

「そんな!」

「待ちなさいスバル」

「ティア!」

 

 レンの物言いに反論しようとしたスバルを止めたのはティアナだった。睨みつけるスバルだったが、その肩に手を置いて彼女は首を横に振る。少し落ち着きなさい。その目は静かにそう物語っていた。そしてスバルが落ち着いたのを確かめると、今度はその視線をレン達に向ける。

 じっとレンを見つめる。スバル達の視線は何度もレンとティアナの間を行ったり来たり。でもきっとティアナなら何か言ってくれるに違いない。そんな期待を込めて。

 そんな期待をよそにティアナは立ち上がり、ゆっくりとレンに近づいた。レンはスプーンを咥えたまま見上げている。何か用か? とでも言いたげだ。

 沈黙が食堂を包んでいた。ティアナが何か言うのか。それより先にレンが何か言うのか。はたまたシュテルやキリエ。スバル達が何か言うのか。局員達が見守り、フェイトはやれやれと呆れる。

 そしてその中、遂にティアナが動く。

 

「カレー。あたしも頂けますか?」

『はぁぁぁぁ?』

 

 その言葉に食堂が一気にざわついた。

 スバル達は目を丸くし、局員は皆唖然としている。その中でティアナはレンに皿を突き出していた。

 その皿とティアナを見比べ、同じく目を丸くしていたレンだったが直ぐにニカリと笑顔を向ける。

 

「おう! たっぷりあるからな。遠慮しないで食ってくれ!」

「ってレンさんライス盛り過ぎです! そんなには食べれませんよ!」

「何を言ってるんだ。少し食べ過ぎなくらいが丁度良いんだって!」

「ちょっとちょっとティア! 何で? 何で何も言わないの? っていうか何で一緒になってカレー食べようとしてんの!?」

 

 レンにライスを山盛りにされて文句を言っているティアナにスバルが抗議の声を上げる。

 当然だ。スバルはティアナがレン達に文句を言うものだとばかり思っていたからだ。しかし蓋を開けてみれば一緒になってカレーを食べようとしている。理解できない。まったく理解できない。

 しかし皿を受け取ったティアナはそれこそ何を言っているとばかりに首を傾げるばかり。

 

「いや、カレーが美味しそうだったから……」

「それは分かる! レン兄のカレーが美味しくないわけないもん……ってそうじゃなくて!」

「ねぇスバル。私達は何?」

「え?」

 

 席に戻りカレー皿をテーブルに置いたティアナからの問いかけ。スバルは意味が分からずにオウム返しをするだけだ。そんな彼女を一瞥し、ティアナはスプーンを手に取ると山盛りのライスを崩し始めた。

 

「私達は時空管理局の管理局員。そして機動六課フォワード。そうよね?」

「う、うん。そうだよ。でもそれが?」

「なら今あたし達は何をするべきなのかな。ここでマークさんの事で落ち込む事? 違うわ。あたし達が落ち込んでる間にもレリックが見つかるかもしれない。そうすればガジェットが出てくるし、それよりヤバイあいつらも出てくるでしょうね。その時に動くのはあたし達なのよ。だから何があってもあたし達は万全の体勢を取らなきゃならない。そうじゃないの?」

「そ、それは……」

「じゃあティアさんもレンさん達と同じでマークさんの事を割り切れって言うんですか!?」

「それは違うよエリオ」

 

 再びエリオが声を上げるも、今度こそフェイトがそれを制した。不満ありありのエリオだが、フェイトの強い眼差しに言葉が詰まってしまう。

 

「マークさんの事を心配はしても良いんだよ。でもね、それと同時にコンディションは保たないといけないって事。この先の事を見据えて、マークさんが目を覚ましてくれることを祈る事と、自分自身のコンディションを保つ事を両立しなきゃいけない。敵はこっちの事情なんか考慮してくれないんだからね」

「それにね、あたし達は知ってる筈でしょ? 自分自身のコンディションを保てないまま出撃して、結果何が起こったのか」

「あ……」

 

 小さくキャロが声を出した。スバルとエリオも漸く気付く。

 彼らも見たのだ。自分自身のコンディションを万全に保てなかった故に、1度折れた翼の事を。

 高町なのは一等空尉。自分達の信頼し、尊敬する教導官。

 

「今ここでマークさんの心配をして凹んでいてもマークさんの意識が回復するわけじゃない。でも心配する事が悪いんじゃない。心配しつつも、自分達のやるべき事をしっかりとする。あの人が目を覚ました時に、少しでも負担が減らせるように」

 

 ティアナの視線がレン達に向いた。そして誇らしげに片目を瞑って見せる。

 

「ですよね? レンさん」

 

 その問いにレンはグッと親指を立てて笑い返した。上出来。それはそう物語っている。

 それに満足したのか、ティアナは漸くカレーを口に含んだ。少し冷めてしまったがまだまだ十分に楽しめるはず。というか、実際問題早く食べたかった。さっきから良い香りが食欲をそそって仕方ない。そして口に含んだ瞬間、思わずスプーンの手が止まった。

 

「やだ。これ凄く美味しい……」

「え? そんなに美味しいの?」

「だってフェイト隊長、ちょっと食べてみて下さいよ」

 

 ティアナからスプーンを受け取りフェイトも一口。途端に頬に手を当て、目が輝き出す。

 

「やだ、本当に凄く美味しい! レン! 私にも1皿、ううん。エリオとキャロにも!」

「フェイトさん!?」

「口ごたえは無しだよエリオ。美味しいものは食べれる時に食べる! じゃないと作った人に失礼なんだよ? キャロも良いね?」

「は、はい……」

 

 勢いに押されたのかキャロも曖昧ではあるが返事を返す。その様子にくすくす笑いながらシュテルとキリエがカレーを運んで来た。目の前に置かれたカレー。エリオとキャロは複雑な顔を見合わせる。そんな2人の前でフェイトは実にご満悦。良い笑顔だ。

 

「う~……。レン兄! あたしにも特盛りで!」

「わーってるよ。ほら、もう準備はできてる!」

「うわーい! さっすがレン兄分かってるぅ!」

「ほんっと調子良いなお前!」

 

 さっきまでの調子はどこへやら。勿論スバルも完全に納得できたわけではない。しかしティアナの言葉はそれ以上にスバルの胸に突き刺さっていたのだ。

 思い出したのだ。自分の立場と言うものを。そして父ゲンヤと母クイントの事を。

 スバルの母も管理局員だった。それこそスバルや姉のギンガよりも優れたシューティングアーツの使い手だった。それでも任務中に命を落とす結果となってしまった。当時幼いスバルは母の死が受け入れられずに泣きじゃくったものだ。だがゲンヤは母の葬儀の後も変わらずに仕事を続けていた。母の死に心を一番痛めていたのはゲンヤに違いない。しかしそれでもゲンヤは管理局員として働き続けたのだ。

 今なら分かる。管理局員とはそういうものなのだという事が。仕事に向かう父の肩にはこの街の力無い人を守る責任があったという事が。そしてそれは今、自分の肩にも乗っている。街中にガジェットが出現したなら誰が市民を守るのか。それは自分達だ。だから嘆いている暇は無い。確かにマークの事は心配だが、それと同じくらいに自分達は市民を守らなくてはならない。

 それが管理局員としての責任と立場だ。

 

「ティア」

「ん?」

「ありがと。あたし頑張るよ」

「……バカ。お礼ならあたしじゃないでしょ。レンさん達に言いなさい」

「うん! って今は無理みたいだね」

「……そうね」

 

 2人が苦笑しながら見つめる先ではスバル達に感化された局員達がレンのカレーに群がっている。

 その対応にレン達はてんやわんわの大騒ぎだ。誰もがティアナの言葉に思う所があったのだろう。自分の今やるべき事をする。その為に自身のコンディションを万全にする。ここにいる誰もが管理局員だという誇りと責任を思い出し、ティアナ達に習ったのだ。

 

「あれ~? なんか賑わってるね~」

「良いにお~い!」

「あ、なのは! ヴィヴィオ! こっちこっち!」

 

 そんな折だ。食堂に姿を見せたなのはとヴィヴィオ。フェイトの手招きに揃ってテーブルにつく。

 一体何事かと首を傾げるなのはにフェイトが事情を説明すると、彼女は周りを見渡して満足げな笑顔を浮かべた。

 

「なるほどね。レン君達らしいや。って私が本来教える立場なんだけど、またお株取られちゃったな~」

「まぁまぁ。今はなのはもしっかり食べてこれからに備えよう? ヴィヴィオもカレー食べたいよね?」

「うん! 食べたい!」

「なら一緒に取りに行こうね」

 

 揃って席を立ちレン達の席へ。彼らも一段落した所らしく、なのはとヴィヴィオの姿に軽く手を上げた。

 

「3人ともお疲れ様の所悪いんだけど、私とヴィヴィオにもカレー貰えるかな?」

「お安い御用だ」

「ほらヴィヴィオ。お皿が熱くかもしれないから気をつけて下さいね?」

 

 シュテルからカレー皿を受け取り、ヴィヴィオはそれをまじまじと見つめる。それはヴィヴィオの皿にだけあるりんごの兎。それを見てヴィヴィオの目がらんらんと輝いていく。

 

「シュテル! 兎! 兎さんがいるよ!」

「ええ。兎さんですね。ヴィヴィオのだけ特別ですよ?」

「やった! 特別だ!」

 

 すっかり上機嫌となったヴィヴィオは一目散に席に戻り、フォワード達にりんごの兎を自慢し始める。

 その様子をなのは達もくすくす笑いながら眺めていた。

 

<なのは、ちょっと良いか?>

<レン君? 念話でなんてどうしたの?>

<いや、ちょっとばかりの忠告だ>

<忠告?>

 

 レンと念話で会話をしながらなのはも席に戻る。マルチタスクを使いながら、なのははレンの声に耳を傾けた。同様にレンもマルチタスクを使いながらなのはに語りかける。

 

<ヴィヴィオの出生の事は理解してると思う。だからこそなのはには聞いていて欲しい>

<うん?>

<俺はかつての世界でヴィヴィオみたいな生まれの人間を多く見てきた。だが、こいつが実に難儀なもんでな。必ずと言って良い程にそいつらは数奇な運命を辿ることになるんだよ。ヴィヴィオも同じとは言わないけど、どうにも頭からこいつが離れなくてな。だからこそなのはには注意していてほしいって話>

<……うん。分かった。ヴィヴィオは絶対に守るよ>

<頼む。……俺ももうあんなのは見たくないんだ>

 

 レンが何を見てきたのかをなのはが問いかける事は無かった。問いかける意味も無いだろう。レンがかつて何を見てきたのかは、最後の言葉だけで十二分に感じ取る事ができる。

 ふと横目で一心不乱にカレーを食べるヴィヴィオを見た。無邪気にカレーを頬張る姿はレンの言う数奇な運命など感じさせないほどに幸せに満ちているように見える。だがレンの予感が外れていて欲しいと思う反面、なのは自身も同じ様な予感に襲われていた。

 

「ヴィヴィオ、カレー美味しい?」

「うん!」

 

 だからこそ守りたいと思う。

 口元についたカレーを拭いてあげながら、なのははそう決意するのだった。

 

 

 

2

 

 

 

 六課隊舎の屋上。空には相変わらず煌々と月が二つ輝いている。

 そこで夜風にあたる少女が1人。レヴィだ。彼女にしては珍しく、1人で静かに空を眺めている。

 

「どうした。珍しく物思いにふけっているではないか」

「王様……」

 

 レヴィに声をかける少女もまた1人。ディアーチェだ。屋上で1人佇むレヴィを見つけ、彼女もまたここに足を運んでいた。そんなディアーチェをレヴィは肩越しに一瞥すると再び月を眺める。ディアーチェもその横に立ち、同じ様に月を見上げた。

 

「大きい月だね」

「ああ。周りの星達に負けぬ見事な月だ」

「……ねぇ王様。ちょっと相談にのって貰って良いかな?」

「何だ何だ、本当に今日は珍しいな。だが他ならぬお前の相談だ。聞いてやるぞ」

「もー、何で素直に聞いてくれるって言ってくれないかなぁ?」

 

 胸を張るディアーチェにレヴィがぎこちない笑みを浮かべている。

 そして柵に体を預け、そっと、ディアーチェにも分からぬ様に唇を指でなぞる。

 

「男の人を好きになるってどういう事なのかな?」

「…………」

 

 言葉が出てこない。というより固まっていた。見事にディアーチェが固まっている。

 尋ねたレヴィもそれ以上言葉が出てこない。むしろもじもじと指で遊んでいる。

 

「い、いや、そんな反応されるとボクも困っちゃうんだけどなー」

「……気は確かか? 作業のし過ぎで知恵熱でも起こしたか?」

「……王様。地味にボクの事馬鹿にしてるでしょ?」

「いやいやいやいや! そんな事はないぞ? というかだな! いきなりそんな事を聞かれて少々度肝を抜かれたというかだな? ああ、いや本当に馬鹿になぞしておらんぞ?」

「説得力ないー」

 

 ぷくぅっと頬を膨らませたレヴィに対し、ディアーチェはあたふたと身振り手振りでアピールするが逆効果だったようだ。とは言え、相談された以上答えなければならない。ディアーチェはこめかみを押さえ「うーん……」と渋い声を漏らした。

 そしてゆっくりと気持ちを落ち着かせて、思考を最大加速させ、ディアーチェの出した結論。

 それは……。

 

(分からん!)

 

 この一言だった。

 そもそもディアーチェに男性との恋愛経験は無い。皆無と言って良いのだろう。むしろ何故自分に聞いてきた? 恋愛相談ならシュテルだろう。いやキリエでも良いかもしれない。いやいや、ティアナやスバルでも……スバルは無理か。とにかく、適任者はいくらでもいるのだ。その手の話が好きそうな輩はいくらでもいる。ほら、現在進行形のシャマルや、自分達より大人なマリアだっているではないか。

 そこまで考えてはたと思考を止める。

 本当に自分は異性に惹かれた事は無かっただろうか、と。そして考える。自分の周りの男性陣を。

 

(レン。……無いな。明らかに無いな。そもそもあのヘタレめ。何時になったら決断するのだ? というか傍から見ていてもどかしいったらありゃしない。というか実は我が知らないだけなのか? いや、それこそ無いな。あ奴がシュテルを選ぼうがキリエを選ぼうが、必ず我の耳に入るし、2人の態度を見れば分かるものな。最近はティアナも様子がおかしいし……。……なんかむかついてきた)

「王様?」

「ちょっと待ってろレヴィ。今暫く時間をくれ」

「う、うん?」

 

 再び思考を巡らす。ならば次はマークなのだが……。

 

(無い! レン以上に無い! まぁ良い男なのは認める。頼れるしな。だが、なんとなく無い! ……ああ、兄の様な存在だ。そうだ。そうに違いない。恋愛対象ではなく、きっと兄がいればあんな感じなのだろう。そうだ。やっぱりありえん)

 

 ことごとく否定する。これで有力候補2人が消えた。さぁ他を当たろう。六課に自分の眼鏡にかなう男がいるだろうか。エリオ、ヴァイス、グリフィス、ザフィーラ、えとせとらえとせとら……。

 

(ふっ……。見事におらん!)

 

 結論は早かった。見事に居ないのだ。惹かれた記憶が全く無い。この場合、ディアーチェの理想が高いのか、それとも単純に男達が情けないのか。それはディアーチェ自身も分からない。

 最早諦めるしかなかった。正直シュテルどころかレヴィにも先を越された様で涙が出そうだが、これ以上考えても答えは出てきそうに無い。ぽかんと見ているレヴィの両肩に手を置き、ディアーチェはがっくりと項垂れたまま、潔く敗北宣言をするしかなかった。

 

「すまぬレヴィ。我ではその問いに答えられそうにない……」

「そっかー。なんとなくそんな気してたんだけどねー」

「うぐっ! 貴様こそ我を馬鹿にしているのではないか?」

「違う違う! だって王様あんまにそういうのに興味なさそうなんだもん!」

「別にそんなつもりは無いんだがな……。一応我も女なのだし、興味が無いという訳ではないのだが何故かそういうのに縁が無くてのぅ……って我の事は良い! 本当にどうしたというのだ? いきなりそんな事を聞いてきてからに」

 

 そう。問題はそこだ。とりあえず自分の事は置いておき、ディアーチェはレヴィを問い詰める。

 最初は嫌がったレヴィだったが、やがて観念したようにぺたりと床に座り込んだ。

 

「王様、ボクの戦闘記録見たでしょ?」

「あ、ああ……」

 

 それだけで察しが付いた。そして同時に後悔した。

 あの戦いの後、誰もがその事に触れずにいたのだ。あんな強姦紛いな事が到底許される筈は無いと分かっていたからこそ、レヴィにその事を誰も詮索する事は無かったのだ。余計な詮索は彼女の心を傷つけると思ったから。だが、レヴィはレヴィなりに悩んでいたのだ。そして今、自分なりの答えを出そうとしている。

 ディアーチェはそこに全く考えが及ばなかった少しだけ先の自分を恥じ、頬を掻くばかり。

 

「シュテるんやキリエを見てるとさ、誰かを好きになるって本当に凄い事だと思うよ。皆を守りたいとか、助けたいとかって気持ちは今までいっぱいあったけど、それとはまた別の気持ちなんだよね。上手く言えないけど、その人の仕草1つ1つが心を揺らす。……そういうもんだと思ってた」

「ああ。あ奴らを見ていると本当にそう思うな」

「でもね、ブラッドは違うみたいなんだ。ブラッドはボクが欲しいんだって。だからあんな事したんだって。ねぇ王様。これも好きって事なのかな。人を好きになるって、そういう事……なのかな?」

 

 最後の方は声が震えていた。膝を抱え、そこに顔を埋めるレヴィに手を伸ばしかけるも、ディアーチェは一瞬それを躊躇ってしまった。果たして自分にそれを答える資格があるのだろうかと思ってしまって。

 だが、彼女はそれでもレヴィの肩を優しく抱きしめる。

 

「焦る事は無いと思うぞレヴィ。人の恋路は千差万別。シュテルキリエの様に相手を一途に想う愛し方もあれば、ブラッドの様に乱暴な愛し方もある……と思う。恋は盲目、愛は陽炎。恋という暗闇の中で想い人という光を求め、愛という熱の中で想い人の虚像を追う。そんなもんではなかろうか?」

「でもそれって結局、どっちも手に入らないってことだよね?」

「そうだな。暗闇の中で必ず光がある訳ではないし、熱の中の虚像も所詮は幻よ。でもな、それが全てそうではない。暗闇の中にだってもしかしたら光が差し込むかもしれない。熱の中の幻だってもしかしたら本物かもしれない。それを掴む手段も様々よ。そしてその恋と愛を実らすとはその手段の思考錯誤の末に運よくそれを掴み取れた事を言うのではないだろうか?」

「……う~……。王様の例えはいちいち難しいよ~。結局何が言いたいのさ~」

「む? そうだろうか。う~む……。つまりだな、結局の所そこに至る術は人それぞれ。レヴィはレヴィのペースでそれを見つけ、理解していけば良いという事だ」

 

 いつしかレヴィの顔をディアーチェを見上げている。その頭を撫で、ディアーチェもまた微笑む。

 レヴィからそれ以上何も言う事は無かった。ただ、いつもの笑顔を向けている。それだけで彼女の中で何かしらの答えは出たようだ。そしてディアーチェもそれを感じ取り、レヴィから離れた。

 

「さぁ戻るぞレヴィ。先ほどマリアから連絡があった。レジアス中将と子鴉の計らいでマークの件は我らSpiritsが担当する事になったからな。M-Systemの準備もしなければならん。忙しくなるぞ」

「そっか。ボクらが直接捜せるんだね」

「そうだ。我ら素性を考慮した結果だろうがな。裏を返せば我らの不始末は我らで解決せよ、という事かもしれんがな。何にせよ、これは僥倖だ。仲間が傷つけられた事を他の誰かに委ねるのは納得できなかった所なのでな」

 

 そう言ったディアーチェの口元には猛獣の如き笑みが浮かんでいる。彼女は仲間を傷つけた相手を許さない。その者には相応の報復を。それが彼女の流儀だ。故に他人任せにするのはその流儀が許さない。

 そしてそれを後ろから眺めるレヴィも分かっている。だから彼女はディアーチェが大好きだ。口ではなんだかんだと言いながらディアーチェは誰よりも自分達を見守ってくれている。そしてピンチの時には体を張って守ってくれる。

 それが王たる者の資質―――であるかどうかはレヴィには分からない。しかし、絶対の信頼を置くには十分すぎる理由だ。

 

「それに王様も守るものが増えちゃったもんね」

「む? ま、まぁな。全くスバル達といい、我が守ってやらねば危なっかしくて見ていられないわ。そ、それこそレヴィ。お前こそエリオやキャロをしっかり守るのだぞ? 子鴉達の情報だと、公開意見陳述会が標的になる可能性が極めて高いのだ。奴らが何を考えているにせよ、もしもの時はお前があの2人を守る立場なのだからな」

「分かってるよ。当日はフェイトも簡単に身動きできないもんね。その分ボクがしっかりサポートする」

「分かっておるなら良い」

 

 ひょこっとディアーチェの横から顔を出し、見上げたレヴィはすっかり調子を戻していた。そしてそのままレヴィはにやりと笑い。すかさずディアーチェの腰に抱きついてきた。驚いたディアーチェが声を上げるのも無視し、レヴィはディアーチェの体に頬をすり寄せている。

 

「なっ、何をしておるかこの馬鹿モンが!」

「いいじゃ~ん。へへ~、王様大好き~」

「分かった! 分かったからいい加減離れんかぁっ!」

「い~や~だ~♪」

 

 必死に引き剥がそうとするも残念ながらディアーチェの力ではレヴィには敵わない。ごろごろと擦り寄る彼女の愛情表現にたじろぐばかり。いくら言っても聞かないので、仕方なくそのまま扉に向かおうとしていたディアーチェだったが、その扉の前に現れた影に一気に顔が青ざめていった。

 

「お、おいレヴィ。頼むから離れてくれんか?」

「え~? やだよ~。このまま行こうよ~」

「頼む。これは本気で頼む。……今、我は目の前の障害をなんとかせねばならん」

「障害? ……あ」

 

 顔を上げると同時に間の抜けた声を上げたレヴィもその意味を察し、すすっとディアーチェから離れる。

 扉の前に居たのは腕を組んで、笑顔を浮かべるユーリの姿。それはいつもと変わらぬ笑顔に見える。しかし見る者が見れば気付くだろう。その笑みはいつも浮かべる太陽の笑みとは真逆の質。普段の笑みが周りを温める春の太陽の笑みであるなら、そこにある笑みは凍てつく極寒の地に輝く太陽の笑み。同じ太陽でも光に温かみは無く、ただただ冷たい光を放つ笑みだ。

 

「なかなか戻って来ないと思ったらこんな所に居たんですねディアーチェ」

「お、おう。レヴィが何やら色々と悩んでいたのでな。その相談に乗っていたのだよ」

「そうですか。ならばディアーチェ。私の相談にも乗ってもらえませんか?」

「な、何だ? 我で解決できることなら何でも聞くぞ?」

「実はですね~、久しぶりに戦闘モードになっちゃいそうです♪」

 

 ぶわっと音を立ててユーリの背に魄翼が広がった。かつてディアーチェが見た魄翼のどれよりも大きい。

 というか、ユニゾンデバイスとなり力は全盛期よりもかなり抑えられているというのに、今感じる魔力はそれなど完全に無視している。

 慌ててディアーチェが駆け寄り、何か必死に言いくるめている。だがユーリの笑顔は徹頭徹尾、変わる事は無い。

 その様子にレヴィはやれやれと肩を竦めてしまう。

 

「これも1つの愛の形って奴なのかねぇ~」

「元はと言えばお前の所為だろレヴィ!」

「あいたっ!」

 

 1人我関せずのレヴィの脳天にディアーチェの全力チョップが叩き落とされた。

 ぶーたれて口を尖らせたレヴィに文句を言いいつつ、すっかりへそを曲げてしまったユーリを必死でなだめるディアーチェ。

 ゆらゆらと揺れる月光の下、喧騒はいつまでも続いていた。

 

 

 ちなみにユーリは機嫌を直す事を条件に、ディアーチェに好きなだけ甘える権利を得たそうな。

 後にレヴィがレン達に語ったことである。

 

 

 

 そして時は流れる。

 不死鳥は未だ目覚める事無く。

 夜の女王は未だ動かず。

 稀代の天才はほくそ笑む。

 鍵はその役目を知らず、扉は静かに銃を握り締める。

 天は己の運命に気付かず、地は己の運命を呪う。

 

 それらの全てを月は見つめ、巡り、公開意見陳述会の朝がやって来た。




漸く投稿できたのにあまり進んでいないという事実……。

ちなみにカレーはこくまろにケチャップでちょっと酸味をつけるのが、自分の作り方だったりします。まぁ甘くなってしまうので、辛みを追加しますが。

はい。全く関係ありませんね。すんません。

ゆっくりとしたペースですが、これからもお付き合いして頂けると幸いです。
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