魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第30話 崩壊の序曲

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 公開意見陳述会。

 それは地上部隊の運営方針を議論する重要な会議である。1年、または2年に1度開かれ、その後の地上部隊運営方針が決定する事から、各世界からの注目も高く中継までされるという代物だ。特に今回は地上本部が建造し、運用を求めている地上防衛用巨大魔力砲撃兵器“アインヘリアル”に争点が集中するだろう。

 この大舞台に当然地上部隊は総力を結集して警備に当たっている。加えて今年は聖王教会騎士カリム・グラシアの預言の件もある為、例年にない程厳重な警備が敷かれていた。

 地上部隊の1つである機動六課も勿論例外ではない。前日の夜からフォワード部隊とSpiritsことトランプ部隊は現地入りし、夜通しで警備に当たっている。

 できる事なら預言が外れて欲しい。だが預言が的中するのであれば万全の体勢で迎え撃つ。

 何時来るかも分からぬ脅威に神経を研ぎ澄ませている地上本部に、今日も朝日が差し込んできた。

 

 

 

「すごく……目の奥が痛いです……」

「あ~、分かる分かる。徹夜明けの目に日の光って突き刺さるよな~。俺も徹夜で飲んだ後に何度これを味わったか……」

「そこはせめて徹夜で仕事したって言った方が良いと思うんスけどねぇ」

「バ~カ。そんなもんしょっちゅうで面白味も何もねぇだろうが」

「別に面白味を求めてるわけじゃねぇっス。あ、目薬使います?」

「お、悪いね。……つ~……。こりゃ効くわ~」

「ですねよ~。……あ~……効くわ~」

「……何してんのアンタ達は……」

『まだ若いのにそこだけ聞くと全くそれを感じませんね』

「ま、まぁまぁマリアさんもアプロディアも。レンさんとヴァイス陸曹、お茶の差し入れですよ」

 

 JF-704式によりかかり、揃って目薬の心地よい痛みに耐えていたレンとヴァイス。声をかけたのはマリアとアプロディア。そして六課に出向してきたギンガだった。腰に手を当てて呆れ顔のマリアと同調するアプロディアに苦笑を浮かべつつギンガが紙コップを差し出す。湯気を立ててそれに注がれた液体を2人は美味そうに口に含んだ。独特の苦みが徹夜明けの頭を急速に覚醒させていく。やはり徹夜明けは緑茶に限る。少々苦み強めであること大前提だが。

 

「全くしっかりしてよね。ヴァイス君はこれから六課に戻るんでしょ? 途中で居眠りして墜落しても知らないわよ?」

「マリア、そいつは言いっこ無しだ。むしろ俺よりお前らだろ? その預言って奴が的中しちまった時に寝不足で満足に動けないって方が洒落にならんだろ」

「あら残念。こっちはシフトの合間に仮眠を取らせてもらったから寝不足なんて事はないのよね。昨日もしっかり寝たし、体調はばっちりなのよ」

「うわ、ずっけぇ! こちとらヘリの整備だのなんだので碌に寝てねぇってのに!」

「体調管理も仕事の内。休める時にしっかり休むのもまた仕事です!」

「はぁ。優等生はこれだから……あだだだだだっ! 抓るな! 痛い! マジ痛い!」

「ん~、聞こえな~い♪」

 

 ヴァイスの悲鳴を無視したマリアの顔は実に清々しい。見ているレンとギンガの所にまでギリギリという音が聞こえてきそうな程なのだが、彼女の笑顔は崩れない。むしろ日頃の鬱憤をヴァイスで晴らしている様にも見える。だがここ最近マリアがせわしなく働いている姿を見ている2人なので、止める事はしない。この公開意見陳述会という張り詰めた空気の中では、肩の力を抜く場面というのはなかなか無いだろう。ガス抜きには丁度良い感じだ。

 

「っと、そろそろ俺も時間だな。じゃあ俺そろそろ戻るッス」

「あ、私も一緒に行きます。マリアさん、こちらの方で準備は進めますのでもう少し休んでいて下さいね」

「ありがと~。じゃあまた後でね」

「あだだだだだっ! マリア! いい加減やめて! マジで痛い!」

「い・や♪」

 

 まだ悲鳴を上げているヴァイスを置いて2人は足を進めた。途中会った地上部隊の魔導士と挨拶をかわしながら、くまなく全体を見渡す。特に怪しい様子は今の所無い。しかしレンの胸中はいつになく重いものだった。

 

「はぁ……」

「何ですか。溜息なんかついて」

「いや、なんとなく襲撃の方法が思いついちゃったのに、どうにもできないってのがもどかしくてね」

「……やっぱりモビルスーツで来るでしょうか?」

「うん、多分」

「で、でも地上本部への襲撃なんて過去に例がありませんし、レンさんも知ってるでしょ? 地上本部の守りの堅さを」

「そりゃそうなんだけどさ……」

 

 ギンガの言い分はもっともだ。地上本部の守りの堅さは有名過ぎる。確かに過去を紐解いても直接の襲撃は例が無い。まして公開意見陳述会という大舞台だ。その堅牢さは何時にも増している。しかし如何に堅牢な守りと言えど、完璧ではない。守りというのはそれを構成する全ての要素が最大限に働いた時こそ真価を発揮するもの。ふとした何かのきっかけでその要素が欠落した時、案外簡単に崩れてしまうものだ。

 そしてその為のカードをあちらは持っている。

 モビルスーツ。この世界に自分達が持ちこんでしまったイレギュラーな力。

 確かに地上本部はこれまで襲撃された経験が無いだろう。だがそれは対魔法に特化した最高レベルの防御壁を有しているからであり、魔法文化であるこのミッドチルダだからこそ成し得た事だ。しかしモビルスーツによる襲撃は想定していない。もしもレンがスカリエッティと同じ立場であったなら、迷わずこれを使うだろう。それ程までにモビルスーツはそれを可能にしてしまう力を秘めてしまっているのだ。

 ギンガも六課でモビルスーツ戦の記録映像を見た時は目を疑ってしまった。だがそれでもまだ実感が湧いて来ない。当然だ。

 魔導士の誰もが対モビルスーツ戦など想定しておらず、本当の恐ろしさを知らないのだから。

 そして今警備に当たる者の殆どがその存在を知らない。結果、キール達がモビルスーツで出てくるのであれば、対抗できるのは今のところレン達だけ。

 これのどこが堅牢であろうか。状況はこちらが確実に不利なのである。

 

「で、でもなら何故上層部はモビルスーツの件を公表しないんですか? そんなに危険ならもっと警備を厳重にする必要があるんじゃ……」

「確かにね。でも公表しないのには理由がある。もの凄くくだらなくて、打算的な理由がね」

「え?」

 

 レンの言っている意味が分からない。首を傾げているギンガに振り返り、レンは皮肉のこもった笑みを浮かべる。

 

「俺達はレジアス中将の客寄せパンダって事さ」

 

 やはりギンガにはレンの言っている意味が分からなかった。

 

 

 

 午後2時。

 遂に公開意見陳述会が始まった。レジアス中将の演説を皮切りに1つずつ答弁が繰り返されていく。

 だがそれは前哨戦に過ぎない。真の議題の為のジャブ。お互いを牽制し、真の議題でどれだけ優位に立つ事ができるかの様子見が続く。

 そして開始から4時間が経過。

なのはとフェイトも内部警備を続けていた。外にはフォワード達とヴィータ。それにSpiritsが居る。

 デバイス持ち込み不可の為、いつも傍にいたレイジングハートの姿は無い。その事に一抹の不安と寂しさを感じながらも彼女は窓から夕焼けに染まる外を見ていた。

 嫌な予感が頭から離れない。六課に置いてきたヴィヴィオの事が引っ掛かる。

 

(出発間際にあんな事があったからナイーヴになってるのかな……)

 

 瞳を閉じれば昨夜のヴィヴィオの姿が浮かぶ。なのはがどこかに出かける時はいつも不安そうな顔をしていたが、昨夜はいつにも増して不安気だった。その時はいつもより緊張感のある六課に脅えているものだと思っていたが、それは形の無い不安となって彼女の胸を締め付けくる。

 

(大丈夫。無事に任務を終わらせて帰ればいつも通りだ。そうしたら約束したキャラメルミルクを作ってあげよう。そうだ。久しぶりにクッキー焼いてみようかな。そしてフェイトちゃんやみんなとお茶会をしよう。ヴィヴィオ喜ぶだろうな~)

 

 不安を振り払うかのように楽しい事を考える。不安げな顔ではなく、懸命にクッキーを頬張るヴィヴィオの笑顔を考える。自然に口元がほころんできた。胸を締め付ける不安も嘘の様に緩まっていく。

 ……よし。切り替えは出来た。

 

<なのは、ちょっと良いか?>

<ヴィータちゃん? 何かあった?>

<いや、そういう訳じゃねぇんだけどよ。……今回の件、お前どう思う?>

 

 突然入って来たのは外の警備をしているヴィータの念話だった。その言葉になのはも顔を引き締める。

 ヴィータが言っているのは恐らく、地上本部襲撃の件だろう。

 

<色々腑に落ちないんだよな。内部クーデターの線は無いんだろ? ってなると、やっぱりスカリエッティ一味の襲撃ってなるんだろうけどさ。動機が分からねぇ>

<う~ん……。兵器の威力証明、かな。地上本部を襲撃して無力化する事ができれば、それを欲しがる人達はたくさんいるはずだよね>

<だとしてもリスクが高すぎる。むしろこのタイミングでそれをやってくる意味がねぇ。だったら他のもっと手薄の時にやった方が確実性あるんじゃねぇのか?>

<いいえ。むしろこのタイミングだから意味があるんですよ>

 

 更に回線に割り込みがかかった。この声はシュテルだ。はぁ? というヴィータの声が聞こえてきたが、それは聞き流すとしよう。それよりもシュテルの言葉の意味が気にかかる。

 

<シュテル、どういうこと?>

<確かに普通ならヴィータの言う通りでしょう。しかし相手は普通ではありません。むしろそれを可能とする兵器があちらにはあります。余程自信があるのでしょう。これだけの守りであっても無力化できるという自信がね>

<モビルスーツのガジェット、だね>

<ご明察。一番守りの堅いこの時だからこそ、兵器の威力証明にはもってこいなのではないでしょうか>

<確かに、今の地上本部の守りは最高レベル。だからこそ突破し、無力化する事に意味がある、か。でも……>

<でもよ、それもなんかおかしくないか? そもそもあいつらの狙いはレリックだろ? 今まであいつらがレリック狙ってたのはなんでだ?>

<当て馬、という事になるのでしょうか?>

<よりガジェットの完成度を高くする為の実験、ってこと?>

<はぁっ!? ってことは何か? あたしらはみすみすあいつらのガジェットのデータ取りに使われてたってことか?>

<あくまで可能性の話ですがね>

 

 シュテルの位置からヴィータの姿を捉える事はできないが、きっと鼻息荒く憤慨しているのは容易に想像できる。だが怒った所で仕方が無い。結局今の今までスカリエッティ一味を捕えられなかったツケの様な物だ。捕えられなかったという事はそれだけ相手に兵器の完成度を上げる時間をくれてしまったのと同じ。それ故の今の状況だ。

 

(とは言え、本当にそれだけでしょうか?)

 

 壁に寄りかかり、シュテルは1人思案する。

 先も言った通り、ガジェットの完成度を確かめるのに今回の舞台はまたとない機会だろう。地上本部を無力化できたとなれば、なのはの言う通り裏社会では引く手数多に違いない。

 だがそれだけでは弱いのだ。

 今まで何度かガジェットと交戦して思うのは、その完成度の高さだ。キール達やアメリアスがバックに居るからと言って、モビルスーツをあのサイズまで縮小化できる技術を持っている者がその威力証明だけにこんな大博打をするだろうか。そもそも裏社会でガジェットの技術を売りに出す事にどんなメリットがあるだろう。金? 権力? 裏社会を牛耳る為の地盤固め? いや、それであるならガジェットである必要が無い。それだけの技術があれば別の方法を取ることだってできるはずだし、スカリエッティ程の頭脳があればもうとっくにやっていてもおかしくはない。というか、経歴を見る限りそう言う事を望む人物には思えない。むしろ自分の研究の為に手段を選ばない、という方がしっくりくる。そして必ず当初の目的を達成する。そう。どんな手段を使っても、だ。

 

(……! まさか!)

<ナノハ、六課が回収したレリックは今何処にあるのでしたっけ?>

<え? 六課で厳重に……まさかシュテル!>

<もしかしたら、私達は大きな勘違いをしていたのかもしれません>

<は? おいシュテル、なのは。どういう事だよ>

<ヴィータ、貴方が先ほど言っていたではないですか。あいつらの目的はレリックではなかったのか、と。レリックは今、何処にありますか?>

<お、おい、それってもしや……>

 

 念話越しにヴィータが息を飲む音が聞こえてきた。

 無論シュテルとて辿り着いた仮設を信じたくはない。

 地上本部襲撃は陽動。真の目的は機動六課にあるレリックなどと。

 だが悪い予感が止まらない。と、視界に違和感を感じ顔を上げた途端、シュテルの顔が凍りついた。

 

<はやてちゃん! 応答して! はやてちゃん!>

<ナノハ>

<ごめんシュテル! 今はやてちゃんに事情を説明して……>

<一歩、遅かったようです>

 

 窓の外に視線を向けるなのは。その顔が驚愕に染まる。

 ヴィータもまた、別方向からそれを見て奥歯をギリっと噛み締める。

 

「始まってしまいましたね」

 

 夕焼けの空を裂く光の柱。

 東西南北、地上本部を囲む様に四本の光柱がそびえ立つ。

 姿は見えずとも、それだけで分かる。気付いた時は既に手遅れ。体勢を整える事もできないままに、決戦の鐘は鳴り響いてしまった。

 全てはスカリエッティの掌の上なのか。

 シュテルはその光柱を忌々しげに睨みつけた。

 

 

 

2

 

 

 

 ああ、実に愉快だ。

 親愛なる我がスポンサー達よ。

 貴方達は所詮二流の指揮者だ。有能な演奏家がいくら揃っていても、貴方達ではその魅力を十分に引き出す事はできない。それはいけない。実に勿体ない。これだけ有能な演奏家が揃っているというのに、貴方達の指揮はエゴが過ぎる。自分達に都合の良い指揮ばかりで、それが演奏家を殺してしまっている。

 それでは面白くないだろう? だから私は壊すのだ。貴方達が指揮し、奏でるこの世界を。そして新たに奏でるのだよ。この私、ジェイル・スカリエッティがね。

 これが愉快と言わず何と言おうか!

 

 シュテル達が地上本部を四方から囲む光柱に気付く、数分前。

 椅子に座ったスカリエッティは笑いを噛み殺しながら、小さく肩を震わせていた。

 これから始まる事を考えると、どうしても笑いが抑えきれない。

 地上本部襲撃というこの世界にいる人間ならばイカレてると言われてもおかしくはない事をやってやろうと言うのだ。狂人? 何とでも言うが良い。何故ならこれは後世まで語り継がれる偉業だ。それが善であるか、悪であるかは関係ない。

 地上本部襲撃をやってのけた、という事実だけで良い。

 それはまさに自分が歴史に名を残す瞬間に他ない。それに歴史に名を残す偉業を成し遂げた人物は誰しも万人に理解などされないものだというのは、歴史そのものが証明しているだろう?

 だからこそ実行する。それこそが私の生きたという証であり、私という虚ろな存在の証明だ。

 

「クククッ。ああ、あの老いぼれ共め。その腐りきった脳髄は今何を考え、思っているだろうねぇ。まさか私がこうも正面から裏切るなどとは思ってもいないだろうよ。だが生憎と私はいつまでも首輪を繋がれたままというのは趣味ではないのでね。そろそろもっと違う世界を見たくて堪らないのだ。地上本部と老いぼれ。そして若き魔導士は全て私の為の犠牲、生贄を糧にしてね」

「ご機嫌ですねドクター」

「ああウーノ。今の私は堪らなく機嫌が良い。そして堪らなく歓喜に溢れ、堪らなく興奮している。私の夢という名の欲望への第一歩。それを踏み出そうとしているのだからね」

 

 椅子に座りながらすっかり自己心酔に陥ったスカリエッティだったが、話しかけたウーノもまたこんなに楽しそうなスカリエッティに心が躍る。

 彼女の願いはスカリエッティの願い。彼が満たされるのであれば、何でもしよう。そしてそのスカリエッティが歓喜に震えている。それはウーノにとって至上の喜びだ。

 全員が配置についている。既に賽は投げられた。後はスカリエッティの一言で始まる。

 

「さぁ始めよう! そして奏でよう! 私の夢、私の証明、私の欲望! 新たなステージに昇る為の第一楽章! ここに開演だ!」

「はい!」

 

 椅子から立ち上がり、スカリエッティは両手を広げ、天を仰ぐ。

 まるでピアノの鍵盤の様なコンソール。ウーノは音楽を奏でるかのように、軽やかに指を這わせる。

 スカリエッティにとっては歓喜の歌。

 管理局にとっては悲哀の歌。

 指揮を取るは狂気の科学者。演奏はミッドチルダの魔導士。

 荘厳で残酷な舞台が遂に幕を上げる。

 

 

 そして時間はシュテル達が光の柱を目撃した時に戻る。

 スカリエッティの宣言と同時に弾ける光柱。上空高くから飛び出したのは4体のモビルスーツ。

 ダブルオークアンタ、X1フルクロス、ヤークトアルケー。そしてアマクサ。

 上空、雲の上から急降下するかの様に4体が真っ直ぐ地上本部を目指してくる。重力加速も相まってそのスピードはグングンと増していった。

 その動きを感知した地上本部警備隊もただちに緊急警報を発令し、サイレンが全域に鳴り響く。しかし如何に訓練された魔導士達といえども、足並みの遅れは否めない。そして何より彼らにとっては未知の敵襲。ましてや相手は更にスピードを増し、補足するのですら困難な状況に陥っていく。

 だがその時、再び彼らは驚愕した。

 今度は地上本部からそれに向けて飛翔する4つの輝きがあったからだ。そしてそれはまるで地上本部を守ろうとするかのように、それぞれに向けて急上昇していくではないか。

 一体何が起こっているのか、魔導士達は誰1人として理解できない。

 そしてそれは管制室も同様。地上本部に向かうそれと、地上本部から飛び立ったそれは魔導士とは到底思えぬスピードと質量。今までに観測したことのないそれに管制室は大きなどよめきに包まれていた。

 

「一体何なんだアレは! 質量兵器だとでも言うのか!?」

「目標、速度更に上昇! 地上本部から飛び立ったアンノウンも更に速度を上げていきます!」

「魔力障壁最大出力! アレが何であろうと絶対に地上本部を守り抜け!」

「了解!」

 

 室長から檄に局員が答え、局員の1人がコンソールを素早く打ち込む。だが次の瞬間、彼らにとっても信じられない事件が起きた。

 巨大スクリーン一面に走る赤。それは警告であり、エラーを示す色。けたたましく鳴り響く警告音と共に管制室は赤一色に染まった。

 

「何事だ!」

「プログラムエラー……いえ、これはウィルスです! 魔力障壁最大出力を発動キーに設置されていたものと思われます! そのウィルスが次々とプログラムを書き換えています!」

「何だと!? くそっ、ウィルスの侵攻を……いや、システム強制終了! 再立ち上げ準備急げ!」

「駄目です! こちらの干渉を一切受け付けません!」

「何と言う事だ!」

 

 オペレーターからの報告に室長は拳を机に叩きつけ、この状況に苦虫を噛み潰したような苦悶の表情を浮かべる。その心中は推して知るべし。何故なら公開意見陳述会に合わせて入念なシステムチェックを入れていたにも関わらず、ウィルスの侵攻を許してしまったのだから。更にこちらの干渉を受け付けないという事は、遠隔操作を封じられたという事。このままでは魔力障壁の出力を上げる事ができず、むしろ最悪解除されてしまう。となれば唯一残された手は動力炉を直接操作しての出力上昇しか残っていなかった。

 

「全員、ウィルスの除去を最優先! 何か方法はあるはずだ! 私はこれから動力炉に行き、直接出力を上げる。何名か私と共に……」

 

 そこまで言った時だ。強烈な閃光が管制室に走る。それと同時にもうもうと煙が部屋の内部に立ちこめた。閃光で視覚を奪われた管制室の局員はその煙に気付かない。気付いた時には全身が麻痺し、1人、また1人と倒れていった。

 いや、その中で1人。むくりとその体を起こす女性がいる。衣服を手で払い、彼女は周りをゆっくりと見渡した。その表情は実に満足げ。そして天井に向けて声を上げる。

 

「セイ~ン。制圧完了よ。降りてらっしゃい」

「はいは~い。ドゥーエ姉もお疲れ~ってわぉ。いつ見てもドゥーエ姉の変身能力は流石だね。誰だか本当に分からないや」

「それが私のISの真骨頂だもの。そう易々と見破られても困るわ」

 

 彼女は先ほど室長に受け答えをしていたオペレーターである。そして彼女に呼ばれて、水の中から飛び出したかのように天井から姿を現すのはセミロングにした水色の髪に、小生意気な笑いを浮かべる少女だった。

 そして同時にオペレーターも姿を変える。一瞬蜃気楼の様にその体が揺らめき晴れる。現れたのは腰まである美しい金髪に蟲惑的な笑みを浮かべる女性。

 2人に共通するのは、全身を包む青いボディースーツ。

 スカリエッティの娘達。戦闘機人、ナンバーズだった。

 

「まずは作戦第一段階終了ね」

「だね。管制室の麻痺。そして次に起こるのは……」

 

 水色髪の少女、セインの言葉が終わるか否か。地響きと共に地上本部が揺れる。それを確認し、セインと金髪の女性、ドゥーエはニヤリと微笑み合った。

 

「チンク姉が動力炉を爆破。これで完全に地上本部の防御システムは沈黙するってわけだ」

「まだ油断しちゃ駄目よ。ドクターの計画はこれから本番なんだから。それにセインもまだ仕事残ってるでしょ?」

「まぁね~。あたしは直接戦闘要員じゃないから、後は上手く身を隠しながら任務を遂行するよ。むしろドゥーエ姉の方が色々大変だと思うよ?」

「否定はしないわ。でもね、これくらいずっとやってきた事だし、なんの問題も無いわ。さぁ早く行きなさい。ここで話をして計画に支障をきたすわけにはいかないもの」

「はいよ~。それじゃまた後で」

 

 再びセインの体が水面に吸い込まれていくように床に落ちて行った。その様子を見てドゥーエは少し肩を竦める。

 ISディープダイバー。まったく便利な能力だ。セインにとって壁は全く意味を成さない。この通り、どんな壁も彼女は泳ぐようにするりと潜り込んでしまう。諜報活動にこれほど適した能力は無いだろう。そして本人は直接戦闘要員ではないと言っていたものの、彼女にインストールされているもののおかげで戦闘能力だってある。主に奇襲と言う面において、戦闘機人の中でもトップの実力を持っているに等しい。

 

「さて、じゃあ私も動くとしたいのだけれど。やれやれね。そうも言ってられないみたい」

 

 そう呟いたドゥーエは口元を歪ませると入り口に視線を送った。セインを急がせたのはこの為。余計な心配と無駄な労力を使わせない為だ。

 

『大気成分分析完了。即効性の麻痺毒と催涙ガスと判明。バリアジャケットの防護展開完了。行けますよマリア』

「うん、ありがとアプロディア。さて、これはどういう状況か教えてくれるかしら? 戦闘機人さん?」

 

 ちっとドゥーエは少しだけ舌打ちした。確かあの女はマリア・オーエンス特別捜査官補佐。   

 Spiritsであると同時に機動六課に属する女だ。

 しかしいち早くここに乗り込んできた事は敵ながら称賛に値するが、それだけだ。

 ドゥーエが知る限り、マリアが表に出る事はない。いつも戦闘は他人任せ。そんな人間がたった1人で乗り込んできた所で怖くもなんともない。とんだ判断ミスだわ。ドゥーエは心の中でニタリと笑みを浮かべる。だが、それはマリアの発した次の言葉で一気に崩れさる事になる。

 

「って、聞くまでもなかったわね。貴方達の犯行は全て確認させてもらってるから」

「なっ!?」

「注意力が足りないのよ。知らなかった? ここは地上本部の管制室よ? 監視カメラがあるとは考えなかったの?」

「馬鹿な! ここの監視カメラの位置は全て把握してるし、対策も打ったわ!」

「だから注意力が足りないって言うのよ。これだけ広いんだもの。ここ全体を見る事のできるカメラがあるでしょ? 例えばこんな所にね」

 

 マリアは室長の机をコンコンと叩く。その意図を察しドゥーエの顔色がさぁっと青くなった。

 なんて単純な見落としだったのだろう。考えてみれば簡単な話だ。マリアの言う通りここは地上本部の守りの要、管制室だ。そしてそれを監視するのは、それを取り仕切る室長の役目。つまり、全体を見渡す為のカメラがそこにあるということだ。

 

「まさかハッキングしたとでも言うの!?」

「ご明答。非常時だもの。中の様子を探るにはそれしか方法が無かったわ。そもそも守りの堅い所を崩すには内側からっていう貴方達の発想は正しい。如何に地上本部の魔力障壁が鉄壁でも発動できなきゃただのハリボテ。私が貴方の立場でも同じ事をしたでしょうし。だから私は管制室に、仲間が動力炉に向かったの。結局間に合わなかったけど、それでも私にとってはおかげで有益な情報を得ることもできた」

 

 マリアの顔つきが厳しい物へと変わる。そして杖をドゥーエに向ける。

 

「貴方の能力を見て確信したわ。マーク・ギルダー。彼を刺したのは貴方ね? 動機は……そうね。1人でも多く地上本部からモビルスーツを使える人物の数を減らしたかった。今日、この日の為に。どう? 当たらずも遠からずって所でしょ?」

 

 ちっとドゥーエは舌打ちを鳴らした。たったこれだけの情報でよくもここまで辿りついたものだ。呆れを通り越し、感心すらしてしまう。だがそうも言っていられない。ISライアーズ・マスク。自分の体を他者と同じ姿にしてしまうこの能力を使い、人混みに紛れてしまえば逃げ切る自信はある。 しかしここは密室。誰かの姿を真似たくても、他の局員が気を失っている今では全く意味が無い。

 そもそも逃げ切るにはマリアを突破しなくてはならないのだ。

 

「……いけ好かない女。でもそう簡単に私を捕える事ができるかしら?」

「やってみせる。私だってSpiritsだもの!」

 

 マリアの手にある魔道書がパラパラと音を立ててページをめくり、杖がヒュンと風切り音を立てた。

 杖の軌跡に合わせて生まれたマジックミサイルが尾を引いてドゥーエを狙う。

 面喰ったのはドゥーエだ。仮にもマリアも管理局員であり、ここには動けない局員も居る。にも関わらず彼女はなんの躊躇いも無く魔法を行使した。慌てて避けると後方から閃光と爆音がドゥーエを飲み込んで初めて気付く違和感。本来来るべきもの、衝撃が全く襲って来ないという違和感だ。

 

「まさか!」

「そのまさかよ!」

 

 判断が一瞬遅れた。その一瞬は致命的な一瞬。ドゥーエがマリアに気付いた時には、既に目の前で杖を大きく振りかぶっている。

 しまったと思った時にはもう遅い。腹を突き抜ける鈍い衝撃。しなやかなドゥーエの体にマリアの杖がめり込み、体を大きく「く」の字に曲げる。

 魔導士にとって杖は魔法を行使する為の媒介の1つで形状は様々だ。しかし考えて欲しい。それなりの質量を持ち、身体強化の魔法が存在するこの世界でそれを全力で振るえばどうなるかを。

 答えは一目瞭然。それ自身が凶悪な鈍器となる。

 その鈍器の一撃をまともに受けたドゥーエの体が簡単に宙を舞い、壁に叩きつけられた。轟音と共に崩れ落ちるドゥーエに近づき、マリアは魔道書のページをめくる。

 

「ショートカット、転移方陣起動!」

『アクセス! 転移方陣起動します!』

「なんですって!?」

 

 マリアとアプロディア、そしてドゥーエの体を黄色のミッド式魔法陣が包みこみ、体が何かに引っ張られる感覚が意識を切り離す。しかしそれも刹那の事。ドゥーエが意識を取り戻したのは地上本部のヘリポート。今朝までヴァイスとJF-704式があった場所だった。

 指しこむ夕日と吹き抜ける風が頬を撫でる。だがそれを堪能する事無く、ドゥーエは体を動かした。

 痛む腹に鞭打ち、バック転で距離を取る。そしてそれは正解だろう。何故なら先ほどまで彼女が居た場所に黄色の光を放つチェーンバインドが放たれていたのだから。

 荒く息をつき、ドゥーエは目の前で杖と魔道書を構える女を睨む。正直、マリアの実力を見誤ったとしか言いようがなかったからだ。ドゥーエの中ではマリア・オーエンスという女はまるっきり頭脳担当だと思い、直接の戦闘参加は無いと見下していた所がある。

 だが今の状況は何だ。管制室と局員はドゥーエにとってみれば人質の様な物だったのに、逆にそれが仇となってしまった。それが彼女の思考を狭め、『周りを巻き込む魔法は使って来ない』と頭から決めつけてしまったのだ。だから魔法が撃たれた時にパニックになってしまった。

 それがダミーであるというのに!

 いや、まずは落ち着かなければならない。起こってしまった結果を悔いても始まらないからだ。不利な状況であるならば尚の事まずは落ち着く必要がある。

 

「全くとんだ猫被りね。まさかこんな手を使ってくるなんて思いもしなかったわ。でも、転移なんかしないでさっさと拘束すれば良かったじゃない」

「そうね。さっさと使えば良かったって言うのは一理あるわ。でも、これでもう1つはっきりした事があるもの。場所も変えたし、これで心おきなくバインドが使えるわね」

「一体何がはっきりしたのかしら?」

「貴方自身にAMF発生能力が無いってこと」

 

 そういう事か。つくづくやりにくい女だとドゥーエは思う。恐らくマリアは戦いながら1つ1つ確認しているのだ。もしも自分にAMF発生能力があったのならば、管制室でのバインドは意味が無い。解除させられて終わりだからだ。だからここに場所を移し、バインドを試し、それを自分は避けた。 マリアの言う通りAMFが無いのだから当然だ。そしてここには自分とマリア以外に人は居ない。先の管制室よりも更に状況は悪くなる一方だ。

 本当にやりにくい。そして腹立たしい。前言撤回だ。落ち着くどころの話ではない。そもそも自分の力が分析され暴かれるというのがこんなにも腹立たしい事なのか。相手の掌で踊らされるというのがこんなにも屈辱的なのか。

 

「本当にイラつく女ね。良いわ、貴方の評価を訂正してあげる。ここから先に油断は無いわ。全力で貴方を刻んであげる」

 

 侮蔑を込めた視線と言葉をマリアに送り、ドゥーエは親指で喉を掻き切る仕草。そしてその親指を下に向けるジェスチャー。逃げる事敵わず。ならば戦って刻むのみとのドゥーエの意思表示。それを象徴するかのように右手には3本、刺突用の光爪。そして左手に召喚装着された盾からも2本の、それも右手よりも大きな斬撃用の光爪が伸びた。

 戦闘態勢に入ったドゥーエを見やり、マリアは眉をひそめる。彼女の武器には見覚えがあった。

 あれは何と言うモビルスーツだっただろうか。

 

『どうやら彼女はゲイツの特性をインストールされているみたいですね』

「ああ、成程。確かZGMF-600 ゲイツだっけ? コズミック・イラの世界で生まれたモビルスーツよね?」

『そうです。投入された当初の能力は高かったのですが、時期が遅かった為に日の目を浴びる事がなかった不遇のモビルスーツです』

「とは言え、能力が高いという事は変わらないわ。ならこっちも出し惜しみ無し。新モードのお披露目と行きましょう」

『了解です』

「何をぶつぶつと。ヤル気がないならこちらから行くわよ!」

 

 痺れを切らしたドゥーエが跳ねた。左手の2連装ビームクローが唸りを上げる。しかしマリアは落ち着いて魔道書のページをめくった。同時に弾ける閃光にドゥーエの爪が阻まれる。何が起こったかは理解できた。やはり情報は圧倒的に不足しているのは大きい。ドゥーエにとってはやりにくいことこの上ない。

 

「……私、やっぱり貴方嫌いだわ。ここまで相性が最悪だと、いっそ清々しくなるくらいね」

「生憎と私も貴方が好きになれないわ」

 

 そう答えたマリアの体を光の盾が包み込んでいる。魔力によって生まれたそれは全身を繭の様に包むプロテクションだ。マリアの新モードの基盤となるモビルスーツの特徴を再現した魔法だった。そしてそれを使うモビルスーツはドゥーエにも聞き覚えがある。

 

「確かアルミューレ・リュミエール、だったかしら? CAT-X1/3 ハイペリオンガンダムの特殊兵装だったわよね?」

「またまたご明答よ。ま、私もここまで相性が良いとは思わなかったけど、これならいけそうね」

『プログラムを組んだカチュアには感謝しないといけませんね』

「そうね。これが済んだら何か買ってあげなくちゃ」

 

 光を解き杖と魔道書を構え直すマリア。

 対するドゥーエは氷の視線でマリアを見据えた。今更ながらジェネレーションシステムからの来訪者達のデバイスと魔法は、彼女達が搭乗していたモビルスーツの特徴を色濃く反映している。そして彼女が知る限り、マリアは確かセカンドVだった筈だ。ここに来て新機体にデータを組み変えてきた事は情報不足に拍車をかける。

 だが計画が順調に進んでいるならば、チャンスはまだある。

 ドゥーエは戦場と化している空を横目で見るのだった。

 

 

 ヘリポートでマリアとドゥーエが戦闘を開始した頃、地上本部の上空でも8つの光が衝突を繰り返していた。地上本部に向けて飛翔したファントムペインのモビルスーツ。そして地上本部を守る為に飛翔したSpiritsのモビルスーツ。魔導士達では手を出す事ができない質量兵器同士のぶつかり合いだ。

 

「まんまと引っ張り出されたのは俺達という事か」

『そうだ! 俺達がモビルスーツで出てくる以上お前達もモビルスーツで対抗するしかない! だが俺達がそれを見越して計画を立てていなかったとでも思ったか!?』

「五月蠅い。管制室に直接襲撃したのは驚いたが、だからと言って地上本部の魔導士ナメるな! あそこには俺達の仲間も居る。機動六課の仲間がこの状況を打破してくれるって俺は信じている!」

『笑わせるな! お前は何も知らないからそんな事が言えるんだ! 管理局がしてきた所業の数々をお前は知らないからそんなことが言えるんだ!』

 

 ハルファスガンダムの翼から放たれたクロス・メガビームキャノンをダブルオークアンタの盾が防ぐ。

 その光を押し返し急接近したクアンタの蹴りがハルファスを直撃した。錐揉み急降下する漆黒の不死鳥を射抜かんとキールはクアンタが握るGNガンブレイドを連射。レンも素早く体勢を整えるとビームサーベルで光線を防ぐ。光線は四散し、レンの乗り込むコックピットを眩い閃光が包み込んだ。

 

「分かってる! もう全部知っているさ! 10年前の事! 8年前の事! そして俺達が来た4年前。俺達が管理局に助けられた時、お前達が何処でどんな目に会っていたか。そしてジェネレーションシステムが何であるか。俺達はもう全部知ってるんだ!」

 

 レンの声が空に響いた。その声に引き金を引く手が止まる。キールは呆然と漆黒の不死鳥を見つめていた。横でアミタもまた口に手を当てて、同じ様に不死鳥を見ている。

 ハルファスがゆっくりとビームサーベルを下ろした。光線と光剣がぶつかり合った熱でハルファスの周りは煙が立ち込めている。その中でハルファスは、レンは声を上げる。

 

「お前が管理局を信じられない気持ちも分かる。俺だって同じ境遇だったら耐えられないだろうし、信じたくもなくなるだろうからな。でもな、俺はそれが全てじゃない事も知っている。管理局の中には本当にこの世界を守ろうとしている奴だっている事を知っている! なんとかしようとしている奴がいる事を知っている!」

『……分かってるさ。俺達だってそれくらい分かってるさ!!』

 

 キールがペダルを強く踏み込むと同時にクアンタが飛び出した。緑色のGN粒子をまき散らし、一瞬で最高速に達したクアンタが盾からハルファスに激突。轟音と共にハルファスが再び弾き飛ばされ、レンとキリエの悲鳴が木霊する。

 

『俺達だって分かってる! だがそれを台無しにしようとしている奴が居るのも事実だ! だからこそ管理局は問われるべきなんだ! 内側に溜まった膿をさらけ出して尚、この世界を守る意思があるかをな!』

「キール、お前は……」

『でなければ、管理局と世界を守る為の犠牲になった者達の魂が浮かばれないじゃないか!』

 

 GNソードビットが弧を描き、ハルファスに襲いかかる。操縦桿を巧みに操りレンはハルファスを翻した。群がる刃をビームサーベルで弾きながら逃げるハルファスだが、刃は追尾を止めない。畳みかけるようにキールはGNガンブレイドから光を放ちハルファスが爆炎に包まれたものの、四筋の閃光が爆炎を吹き飛ばしてクアンタに走る。今度はクアンタが閃光と爆炎に包まれた。しかしこちらも剣の一薙ぎで炎を蹴散らす。GNガンブレイドを収め、抜き放ったGNソードVがソードビットを集めバスターソードへ。ハルファスもビームサーベルを交差させ、2機は真っ向正面から刃を交える。

 

「だからって、地上本部を襲って、大勢の人を巻き添えにする権利はどこにも無い!!」

『そうする以外に管理局の膿を絞り出す方法も無い!!』

「この大馬鹿野郎がぁぁっ!!」

 

 明滅するコックピットからレンが叫ぶ。そこには素のレンが居た。ハルファスに搭乗した際のレンとは違う素のレンの叫びが響き渡る。

 しかしキールも退く事は出来ない。管理局の膿を絞り出す。確かにそれも目的の1つだが、彼はもう1つ先の目的がある。その目的達成の為、今は全力でレンと、キリエと、ハルファスガンダムとぶつかる必要があるから。

 そして。

 

『レン、そうキールを責めないであげてくれるかな』

「通信!? どこから……、いやこの声は!」

「レン! あそこ!」

 

 割り込んできた通信の声には覚えがある。ホログラフィー化したキリエの指さす先には、炎の翼を広げて飛来するモビルスーツの姿があった。そしてモニターが開くと、仮面の下で少しだけ苦笑した青年が映し出される。

 

「コードフェニックス!」

『久しぶり。こうして君と直接話すのは本当に久しぶりだね』

「御託は良い! あんたこそ何考えてんだ! あんただって元管理局員だろ? それが何でこんな事をするんだよ!」

『キールの言った通りさ。俺は……俺達は確かめなければならない。確かにやり方は決して褒められた物じゃないけれど、このチャンスを逃す手は無かったんだ。地上を統括する上層部が一堂に集まるこの日をね』

『本当にすまないと思っている。だが我々の死に意味があったのか。その是非を問う為に我々は行かねばならない。若き魔導士。そしてそのモビルスーツの躁主よ。これは我々にしか問えぬ事なのだ。管理局の掲げる正義に殉じた我々だからこそ問わねばならん事なのだ』

「ゼスト……グランガイツ……」

 

 クアンタの猛攻に押し戻されながらも、確かにレンは見た。コードフェニックスの後ろに居た人物を。

 ゼスト・グランガイツ。元地上本部所属の騎士にして、レジアス中将の知人であった人物。そしてコードフェニックスが仮面を取り去り、ティーダ・ランスターに戻るその瞬間を。

 ハルファスの横をティーダ・ランスターの駆るマスターフェニックスが抜き去る。手を伸ばすが間に合わない。既に最高速に達したマスターフェニックスはあっという間に届かない所に行ってしまった。

 

『レン、最後に1つ忠告だ。俺達はジェイル・スカリエッティの目的に便乗して自分達の目的を達しようとしている。俺達の目的とジェイル・スカリエッティの目的は似て非なる物だ。それを混同してはいけないよ』

「何を言って、うわっ!」

「駄目! もう間に合わない! 悔しいけど今はキールに集中してレン!」

『そうだ。こっちを見ろレン! お前の相手は俺とアミタだ!』

「ちくしょう……。ちくしょ――――ッ!!」

 

 キリエの、キールの言う通り今レンの目の前にいるのは、キールであり、アミタであり、ダブルオークアンタだ。

 シュテルのゼロカスタムが、レヴィのビギニング30が、ディアーチェとユーリのストライクフリーダムが、それぞれの相手に背を向けてでもマスターフェニックスを止めようと向かってくる。レンもキリエの制止を振り切り、キールの声を無視し、ハルファスガンダムでマスターフェニックスに手を伸ばす。

 皆、間に合わないと分かっているだろう。だが諦めきれないのだ。

 感情が、認める事を、諦める事を決して許さないのだ。

 

 だがやはり、現実は現実。

 届かないものは届かない。

 

 必死に手を伸ばす彼らの目の前で、マスターフェニックスは地上本部に突撃したのだった。

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