魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第32話 崩壊の序曲 ③

1

 

 

 

 十年前の事である。

 その頃、時空管理局ではある事件の話題で持ち切りだった。

 ロストロギア“闇の書”。管理局でも手を焼いていたこのロストロギアの完全沈黙に成功したというのだ。

 しかも誰一人として犠牲者を出さず、有能な魔導騎士達も得たとあれば話題にならない方がおかしい。

 しかしそんな華々しい話題の裏で、公になっていない事件もまた存在する。

 それは突如として雪深いミッドチルダ山奥で起こった時空震だった。規模としてもそんなに大きい物ではなく、別段珍しい物でもない。当時から地上本部の幹部に昇り詰めていたレジアスは当然この対処に、信頼する友人ゼストのチーム、ファントムペインと魔導士を派遣する。

 なんの事は無い、よくある事件としてそれは処理されるはずだった。

 しかし状況は予想外の方向へ転がっていく。

 次元震から一隻の艦船が姿を見せたのだ。

 次元航行部隊の船ではない。管理局が禁止する質量兵器で武装した艦船。所々傷つき、何か大きな戦いを終わらせてきたかの様なその船が、次元震の起こる空から雪と共に地上にゆっくりと降下してくるではないか。

 居住区どころか、人も寄りつかない地域だったのが幸いした。今も若干吹雪いている為、管理局以外の人間がそれを目にする事は無いだろう。だからと言ってこのままにもしておけない。すぐさまゼストに調査の命令を下そうとしたその時だった。

 オープンチャンネルから悲鳴が聞こえてきたのだ。

 すぐさま画面を切り替えると、そこには更に目を疑う事が起こっている。

 

「な、何だアレは……!」

 

 レジアスが目を疑うのも無理は無い。それは巨大な人型の兵器。所謂、ロボットと呼ばれる類の物。

 しかし大きい。人の何倍もある漆黒の、どこか女性を思わせるシルエットのロボットが艦船から剥がれ落ち、雪の積もる地面に降りたのだ。純白の雪の中に立つ漆黒のフォルムが異様に目立つ。だがそれにも無数の傷跡、破壊痕が見えた。艦船と戦いをしてきたのだろうか? 立つ事もままならず、それは這う様に魔導士達に向けて進み、その手を伸ばしている。

 まるで助けを乞う様にも、最後の悪あがきにも見えた。しかし油断はできない。人間とは違い、無機質なその瞳の輝きからは一切の感情が読み取れないからだ。

 一体どうしたものかと判断に迷っていたその時、耳をつんざく悲鳴にレジアスは顔を上げる。

 突如始まったロボットの攻撃。扇型に開いた光刃が魔導士の一人を焼き切った際の悲鳴。

 最早迷っている暇は無い。今、あのロボットは敵意を見せているのだ。

 やらなければ、こちらがやられる。

 レジアスはそう判断すると、ゼストに攻撃の命令を下す。

 そして瞬く間に雪山は戦場の劫火に包まれた。

 

 

『レジアス、お前はアレをどう見る?』

「どうもこうも無いだろう。次元世界にはまだ我々の知らぬ技術がある。それが何の因果かこの世界にやってきた。……正直、一体だけでもこれだけ手こずったのだ。半壊していたにも関わらずな。もしも万全の体勢であれが数と共にこのミッドに攻めてくるかと思うと、儂は気が気ではないよ」

『そうだな。正直俺もアレと正面から戦うのは御免被りたい所だ……』

 

 しんしんと降り続ける雪を見上げ、ゼストは溜息と共に白い息を吐き出していた。

 戦いは辛くもゼスト達の勝利に終わった。しかし広がる景色は果たして勝利と呼べるものなのだろうか。雪を被っていた大地はロボットの放つ光線と光刃、そして最後の爆発によってその肌を露出している。ゼスト達も負傷者が多数。その呻き声が辺りから聞こえてくる。

 そして何よりもその戦いの最中、艦船が消えてしまった。突如光に包まれたかと思うと、忽然とその姿を消してしまったのである。解析班の結果待ちだが、ゼストとレジアスは揃ってどこかに転移したのだろうという結論に達していた。

 長年現場に居る者の勘、とでも言えば良いだろうか。

 しかしそれでも気付かない事もある。

 ゼスト達が漆黒のロボット。いやモビルスーツ、レギナと時空管理局の初邂逅の時に彼らも知らぬ別働隊がこっそりと艦船に侵入し、少女を一人連れ去っていた事に……。

 

 

『かくしてこれが始まり。この脳だけとなった英雄達が抱いた野望と幻想の始まり!』

 

 スカリエッティは両手を広げ、高らかに声を上げた。

 この脳だけとなった英雄、最高評議会と称される者達が何を求めていたのかを暴露すべく、白衣を着た語り部は身振り手振りを加えて語りを続ける。

 

『最高評議会すら知らぬ未知の技術と共に現れた来訪者。それが意味する物は何か? それは新たな知識を得るチャンスだ! 彼らは彼女を仮死状態にし、その記憶を読み取る事で自分達の知識にしようとした。その結果! 彼らは驚愕の事実を知る事になる!』

 

 自分達の事だというのに、脳は一切語ろうとしない。勿論、脳みそだけだから表情も分かる筈が無い。それを良い事にスカリエッティは芝居がかった語りを止める事は無い。

 正にスカリエッティの一人舞台だ。

 

『彼女の世界は虚構の世界! ジェネレーションシステムと呼ばれる超巨大演算システムの中に生み出された世界だったのだよ! それはいわばシミュレーテッドリアリティ! 仮想現実の住人だったのだ!』

 

 自分の言葉に興奮してきたのか、スカリエッティの顔が上気している。言っている事は荒唐無稽。普段ならば集まった高官達も鼻で笑うだろう。しかし場は既にスカリエッティの話術に引きこまれている。そしてレジアスを始め、はやて達はそれが真実である事を知っている。十年前のこの事件が現在にどう繋がって行くかもだ。

 

『皆様はこの意味がお分かりだろうか? 仮想現実の中に生命が存在するというこの意味を! それは人格、記憶、命! その全てがプログラム化できるという事だ。システムを掌握すれば、プログラムは思いのまま。もちろん不老不死だって夢じゃない!』

 

 会場が一気にざわついた。無理も無い。不老不死などこのミッドでも夢物語だ。目の前の最高評議会でも自らの肉体を捨て去り、培養ポッドの中に存在する脳だけとなる事で今まで生き永らえてきたのだ。それが五体満足で存在し続ける事ができる。さぞ魅力的に映った事だろう。

 なのにスカリエッティは手で顔を覆い隠し、全身で嘆きの声を上げていた。

 

『だがしかし! しかしだ! 彼女の記憶を以ってしてもジェネレーションシステムのある世界が分からない。地球と呼ばれる星、その世界は既に管理局でも認知されていたのだ。パラレルワールド? 同名の名を持つ別の次元世界? いずれにせよ、行き方が分からなければ不老不死も夢物語。仕方なく最高評議会はもう一つのプランを進める事になる』

 

 続けてスカリエッティが何かを組み立てている映像が流れる。

 サイズは小さくなっているものの、作られているのは紛れもなくあの漆黒のモビルスーツ。

 何故スカリエッティが? という疑問の声が口々に聞こえてくる。当然の疑問にして、それは無意味だろう。既に話は大きく飛躍している。理解の範疇を越え始めているのだ。

 思考が飛び始めた高官達に向け、スカリエッティは今度は静かに、ゆっくり語り聞かせるように言葉を紡ぐ。

 

『不老不死とは肉体の事のみに非ず。要はその者の記憶、人格が未来永劫残っていれば良い。肉体など枷に過ぎないのだよ。自分と同じ記憶と人格さえあればそれはある意味、もう一人の自分だ。最高評議会はそこに注目した。そして私に依頼したのだ。人格、記憶のコピーと何者にも負けない強靭な体をね。つまりはこういう事だ。モビルスーツを解析し、ミッド産のモビルスーツを作る。そこに自分達の記憶と人格をダウンロードしようとしたのだよ』

 

 また映像が切り替わる。今まで黙って聞いていたはやて達だったが、こればかりは全身の血が沸騰し、一気に駆け巡るのを感じた。

 映像は八年前。雪の中で血まみれになって倒れる高町なのはの姿と、佇むレギナ。なのはが撃墜された時の映像が晒されているのだ。

 

『試作品が完成したのが八年前。出来は上々だったよ。その結果こうして管理局の若きエースを撃墜する事ができたのだからね。いやはや、予想以上の結果とデータに我々は心が躍る気分だったよ!』

「ふざけるなっ!!」

 

 限界だった。はやての怒りは笑い声を上げるスカリエッティの声を遮って会議室に響く。注目が集まる中、立ち上がったはやてが肩を震わせて画面のスカリエッティを睨みつけていた。

 

「人を……、命をなんだと思ってるんや! 人を実験動物の様に扱って、何が胸が躍る気分だったや! その所為であの子が、なのはちゃんがどれだけ苦しんだかも知らんくせに!! 人の命はそんなに軽いもんなんかやない!」

『ああ知らないね。撃墜されたエースがどれだけ苦しんだなんて私の知る所ではない。……そういえば彼女は君の友人だったねぇ。機動六課部隊長、八神はやて君? 君は私達の方針に大層ご立腹の様だが、勘違いしてはいけないよ。私にとっては君の友人もただの実験動物。データを採取する為の大切なモルモットさ。そんなモルモットの命が軽いとか重いとか、どうでも良い事なんだよ』

「どうでも良いって……この、外道が!!」

『なんとでも。私はこの考えを変えるつもりはない……って、つい最近同じ問答をした記憶があるなぁ。ねぇ? コードフェニックス。ああいや、今はティーダ・ランスターだったね』

「……黙れ。俺はそれに賛同したつもりはない」

『つれないなぁ。既にこうして君が私と同じ側に立っている限り同じ穴のムジナだよ?』

 

 そんな事を言われてもティーダとて気持ちの良い話ではない。むしろ怒りははやてと同じだ。吐き捨てるように言うティーダにスカリエッティは残念だとばかりに肩を竦めている。

 しかし気を取り直したのか、スカリエッティは再び語り始めた。

 

『その後も紆余曲折を繰り返し、転機が訪れたのが四年前。再び次元震が起こった。そう、皆様も知っているあの空港火災だ! しかしその頃には私と最高評議会は研究の方針が些か食い違っていてねぇ。彼らは独自にまた歩き出そうとしていたわけだ。その結果がこの映像だ!』

 

 それはどこかの研究施設。何名か白衣の人間が機材を操作している。

 そしてその目の前で柱に括りつけられているのはティーダ達だ。キール、ブラッド、ゾディアック。はやて達も知る現ファントムペインのメンバーが全身にコードを繋がれている姿が流れている。

 誰もが息を飲む姿だった。彼らの顔は憔悴しきり、体中に痣や傷が見える。それだけでそこで何をされたかは想像に難くない。

 

「これは……流石にむごいな」

 

 怒り冷めやらぬはやての横でシグナムが呟く。古代ベルカで彼女が見てきた拷問でもここまででは無かった。これではスカリエッティの言う通り、ただのモルモット。人の尊厳など微塵も無い。

 

「ここからは俺が引き継ごう。正直これ以上お前に話されるのは気分が悪い」

『おやおやそうかい? ま、良いだろう。実際に受けた人間が話す方が説得力あるからね』

 

 語りを引き継いだのはティーダ。スカリエッティの言葉に眉をしかめながらも、彼は改めて周りを見渡してからゆっくりとその口を開く。

 

「元首都航空隊ティーダ・ランスターです。俺はこの世界で一度死に、スカリエッティの言うジェネレーションシステムの世界で再び命を与えられました。どうしてそんな事になったかは割愛しますが、再びこの世界に戻ってきた俺と仲間達はこうして最高評議会に捕えられ、実験と言う名の拷問を受けたのです」

 

 ティーダは語る。朝から晩までデータを取られる日々。眠る事さえ満足にできず、異世界からやってきたというだけでモルモットにされてしまう、命の危険も何度か経験した地獄の日々を。

 そんな彼らを助けたのがゼストだった。どこから情報を仕入れてきたのか、彼とその協力者の襲撃により研究所は壊滅。そこでティーダ達は捕まってから十ヶ月も時間が過ぎた事と、最高評議会の存在を知る事になる。

 しん、と静まり返った。聞こえるのは映像から絶えずティーダ達の苦悶の声。

 取り調べが行き過ぎる事は往々にしてある。それを是とする訳ではないが、ここに集まった高官達も一度は経験してきている事だ。

 しかしこれは度が過ぎている。見ているだけで、聞いているだけで気が狂いそうになる。

 

「管理局に戻り、全てを告発する手段もありました。しかし管理局には最高評議会がいる。事を起こす前に握りつぶされる可能性もあった。だからこうして身を隠し機会を待っていたのです。決して正しい方法であったとは思いません。ですが、貴方達に知っておいて欲しかった。考えても欲しかった。このままで良いのか、このまま最高評議会の好きにさせて良いのか。貴方達が願った法と秩序とは一体なんだったのか! 俺とゼストさんはこの現状を見てもまだ貴方達が次元世界を守ろうとする意思があるのかを確かめたいんだ!」

 

 それこそがティーダとゼストが確かめたかった事。最高評議会という暗部を見てもなお、管理局に次元世界を守ろうとする意思があるのかを。

 多くの者はすぐに答えが出ないだろう。だがティーダとゼストは問題を示した。目を逸らす事を許されない状況を作りだしたのだ。

 

「ゼスト、お前は……」

「そうだレジアス。かつてお前が掲げた理想は今も生きているか? それを確かめる為に俺はここまで来たのだ」

 

 そしてゼストもまたレジアスに問いかける。かつてレジアスが掲げた理想に殉ずる覚悟のあったゼスト。

 それを今、再びレジアスにその理想を問いかけているのだ。

 

「儂は……」

「ティーダさん、貴方の言っている事は分かったわ。でもだからこそ貴方は、ううん。貴方達は管理局に来るべきだったのよ。そうすればこんな事を起こす必要だってなかったんじゃないかしら?」

 

 レジアスが手を伸ばしかけた時だった。その声は後方から。全ての人間が後方に視線を集める。そこには体をなのはに支えられ、荒い息をしたマリアの姿。彼女が押さえているのは自分の脇。そこにはガーゼが当てられ、赤い血が染み出していた。

 

「マリアさん!!」

 

 その姿に驚いたはやてが飛び出す。その後ろをカリムとシグナムも続いた。

 そんな3人に軽く微笑むと漸くマリアはその場に座りこむ。そうしている間にも血は染み出してくる。

 

「はやてさん、ごめんなさい……。最後の最後で下手を打ったわ。実戦経験の少なさが出ちゃったみたい」

「そんなんええ!! それよりも早く治療を!」

「大丈夫。少しずつだけど自然治癒魔法が効いてるから。それよりも……ティーダさん。先ほどの答えを聞かせてくれるかしら?」

 

 顔は青冷めながらも声は凛としている。そして視線はしっかりとティーダとゼスト。そして画面のスカリエッティを向いていた。

 

「マリアさん……。アプロディア……」

「堪えろ。ここで出て行く事は俺が許さん。さっきの事をもう忘れたのか?」

「……分かってます。分かってますとも」

 

 ティーダも唇を強く噛み締めている。ゼストに言われなくても分かっている。ここで出て行っては全て水の泡だと分かっているからこそ、彼は唇を強く、強く噛み締め、血が流れようとも尚も強く噛み締める。

 そして答えようとした刹那、代わりに口を開く者がいる。スカリエッティだ。

 

『管理局に行った所でどうする? 彼らの声など誰かが握りつぶしてしまえば同じ事さ。だから彼らは管理局に行かずに私の下に留まった。私が彼らに力を与え、願いを叶える場を用意する。その代わり、彼らは私の研究に協力する。ギブアンドテイクは契約の常識だろう? ……さてティーダ君、ゼスト。そろそろ時間切れだ。そろそろ動かないと間に合わないんじゃないかな?』

 

 その言葉と共に映されたのは燃え盛る機動六課だった。ガジェットの群れに囲まれ、夜の闇を赤々と染めている。

 それを上空から悠々と見ているのは、青に染まり赤き翼を広げるバルバトス・ミラージュ。

 新たに出現したモビルスーツにレジアスを始め、全員がどよめき立つ。

 驚いたのは彼らだけではない。ゼストとティーダもまた目を大きく広げていた。しかしすぐに画面のスカリエッティを睨みつける。

 

「スカリエッティ!! 彼女に攻撃を許可したのか!?」

『ゼスト、勘違いしないでほしいな。私の目標は変わらずレリックと“鍵”の奪還だ。君達の目的は第一に最高評議会の存在を世に知らしめる事。まぁ私も最高評議会なんて気に入らないので協力したがね。だが私を出し抜こうとするのは契約違反じゃないかな?』

「くそっ! セイン!! 俺達を外に出してくれ!!」

「え? え? 何がどーなってんの!? 正直話についていけないんだけど……」

『セイン、彼らの言う通りにしてあげたまえ』

「まぁドクターがそう言うなら。ほんじゃ、皆さんここらで失礼しまーす!」

「待て! ゼスト!!」

「レジアス、答えはいずれまた聞きに来る」

 

 それだけを言い残し、ゼストはティーダ、セインと共にまたも床に吸い込まれていった。残されたのはレジアスを始めとする高官達。そして画面のスカリエッティと最高評議会。

 

「何をしている八神はやて! 機動六課が襲撃されているのだろう! さっさと行って被害を食い止めて来い! ええい、他の者達も部隊を動かせる者は機動六課の救援に向かわんか!」

 

 そんな時だ。レジアスの檄が飛ぶ。そこで漸く正気に返った高官達が一斉に動き始める。そしてレジアスもはやて達の所に駆け寄って来た。

 

「レジアス中将……」

「だから何をしているのだ八神はやて。マリアの事は安心しろ。すぐに医療班を寄越させる。……それまで我慢できるな?」

「ご迷惑を、おかけします……」

「ふん。お前には借りが多いからな。……しかし随分と派手にやってくれたな。この落とし前、高くつくぞ」

 

 相変わらず笑みを浮かべるスカリエッティと物言わぬ最高評議会。

 それを鬼の形相でレジアスは睨みつけていた。

 

 

 

2

 

 

 

 ダブルオークアンタのGNガンブレイドが光をばら撒く。それをハルファスガンダムは高機動モードで旋回しながら避けていた。そしてある程度振り切った所で変形、クロス・メガビームキャノンを放ちGNガンブレイドの光弾を飲み込みながら、直接クアンタを狙う。

 爆発が夜空に起こる。しかし爆煙の中から飛び出したクアンタがGNソードVを振りかざす。

 だがレンも巧みに機体を操作して避けると、その回転を利用してビームサーベルを薙ぎ払う。キールも返す刃でビームサーベルを受ける。

 光と光が弾け、何度目かのスパークが暗闇を照らしていた。

 

「俺達はただ運が良かっただけなんだ」

 

 ハルファスの操縦桿を握り、カメラから走るスパークに目を細めながらレンは不意にそんな事を呟いた。

 ホログラム化していたキリエもその言葉に顔を伏せる。

 そう。運が良かっただけなのだ。

 最高評議会に囚われる事無くこの世界の表を生きてきたレンと、最高評議会に囚われてこの世界の裏を生きてきたキール。ただ彼らを助けたのが心ある者であったか、そうでなかったかという点だけ。一歩間違えれば、レンとキールの立場は逆転していてもおかしくはない。

 

『そうだ。俺達はただ運が悪かっただけなんだ』

 

 クアンタのコックピットでキールもまた同じ様に目を細めながら呟いた。

 そしてキリエ同様にアミタもまた顔を伏せている。

 こればかりはどうしようもないのだ。それを今更責める事などしない。

 だがやり切れない。何でこうなった? どこで二人の道は違えてしまった?

 譲れないものがある。ただそれだけだと言うのに、どうして戦わなければいけないのか。

 ハルファスとクアンタが弾かれる様に距離を取った。

 譲れないものがあるから衝突する。それのなんと悲しい事か。衝突する事でしか、譲れないものを守れないなんて悲しすぎる。だが男達は剣を取った。女達はそんな男達を支えると決めた。

 それが悲しい事だと知りながらも、衝突するしかなかった親友と姉妹はその道を進むと決めたのだ。

 

「どうして俺達はこの世界に来てしまったんだろうな。お互いが傷つくだけのこの世界は俺達にとって何の意味があるんだろう」

『それが分かれば苦労しないさ。ただ、いつも一緒だった俺達が四年という時間の中で別々の道を歩いた結果が今ってだけだ』

「悲しいね。時の操主だとか運命の守護者だとか言っても、結局過ぎてしまった時間はどうしようもできないんだから。アミタもそう思わない?」

『……』

 

 アミタもキリエと同じ思いなのだろう。コックピットに映るアミタが苦笑している。そんな姉を見てキリエも薄く微笑んだ。そうか、やっぱりそういう事か。以前から感じていた疑問。こうして落ち着いて彼女を見ていれば直ぐに気付いたのに、今まで彼女とキールを止める事で頭が一杯で気付く事ができなかった。たった二人の姉妹なのにと、キリエは一瞬目を伏せる。

 

「声、出せないんでしょ? その様子だと念話もみたいだけど、いつからなの?」

 

 ビクリとアミタの肩が震える。キリエの隣でレンも目を丸くしている。

 ただキールだけが冷静にその声を聞き、アミタの代わりに口を開いた。

 

『漸く気付いたか。……アミタが声を失ったのはこの世界に来た時からだ。送られてきた時のバグだと踏んではいるんだが、本当の原因は分からん』

「そっか。……ごめんね。直ぐに気付いてあげられなくて」

 

 ふるふるとアミタは首を振った。そんな事は無いと音の出ない声で必死に呼びかけているのが分かる。

 

『気付いた所でどうする? まさか管理局に行けばどうにかなったとでも言わないだろうな? 四年間、スカリエッティの所であらゆる方法を試しても駄目だったんだ。管理局の所でなんとかなったとは到底思えない』

「かもね。悔しいけどスカリエッティは天才よ。そんな男がアミタの声を取り戻せないなら管理局でも無理だと思うわ」

 

 やけにあっさりとキリエはその事実を受け止めた。レンも言葉にはしないが、キリエと同意見だ。

 彼女のメンテナンスを機動六課で行った時も、モビルスーツの詳細については分析しきれなかったのだ。

 キリエがプロテクトをかけていた、というのもあるが長年モビルスーツの研究を行ってきたスカリエッティの方が一日の長がある。それでも駄目なのならば、管理局でも同じ結果になるだろう。

 

「でもね、だからと言ってスカリエッティの側に居る事を認める事もできないわ。うん。それだけは断言できる」

『それでも俺達は……』

『そこまでだよキール!』

 

 割り込み回線だ。同時に鳴り響くアラームにレンは素早くハルファスの手にもう一本のビームサーベルを握らせる。と、衝撃がコックピットを揺らした。ビームサーベルの光刃が何かを受け止めたのだ。

 

『時間だ! スカリエッティは俺達の計画に気付いてるぞ!』

 

 それはマスターフェニックスのクロスバインダーソードだ。マスターフェニックスに押され、レンは身動きが取れない。だがティーダの焦った声から何か想定外の事が起こったのは確かだ。そしてそれを聞いたキールもまた明らかに動揺している。

 

『襲撃はオットー達だけじゃなかったのか!?』

『だからスカリエッティが予定を変更したんだよ! あいつ、予定を繰り上げた挙句にアメリアスを動かしたんだ!!』

「キール!! ……まさか機動六課か!?」

 

 呼びかけるが返って来たのは苦虫を噛み潰したような表情。それで十分だった。機動六課が襲撃されているのは知っていたが、キール達がいる以上持ち場を離れる事もできない。だから先に向かったヴィータとリイン。そして後から飛び出したフェイトに任せたのだ。

 しかしアメリアスが出てきたとなれば話は別だ。状況は最悪を通り越して最大級に最低で最悪になってしまっている。

 

『……レン、話はここまでだ。ま、どこまで行っても平行線でしかないんだがな』

「おいこら待て! 何がどうなってんのかちゃんと説明しやがれ!!」

『相変わらず鈍いねぇ! レンちゃんはよぉ!!』

 

 再びアラームが響いた。迫る血色の刃。それがGNファングだと気付くや、レンはマスターフェニックスを蹴る反動でそこから離脱する。しかしそこに狙いすましたかのように迫った鉄球には対処できず、ハルファスの胴にそれが直撃した。

 またもや、いや今度は明確なダメージと共に与えられた衝撃にコックピットが大きく揺れる。しかも体勢が大きく崩れてしまった。くるくると旋回し、漸く体勢を整えた時には既にGNバスタソードを振り上げるヤークトアルケーの姿。

 間に合わない!

 それは絶対にしたくはない確信だったが、間一髪。間に割り込む影が一刀を受けてハルファスの窮地を救う。

 

『二人とも注意力が散漫ですよ』

「面目ない」

「ごめ~んシュテルちゃん。助かっちゃった」

 

 それはウィングゼロカスタム。シュテルの操るガンダムのビームサーベルがヤークトアルケーからハルファスを守ったのだ。そして。

 

『ボサっとするな! カウンター行くぞ!!』

『しっかり避けてね! 巻き添え食っても知らないゾ☆』

 

 とてもじゃないが、それだけは御免被るとレンは慌ててハルファスを動かした。シュテルもゼロカスタムのマシンキャノンで牽制しつつ距離を取る。

 代わりに飛来したのは青の小型誘導兵器と光の戦輪。誘導兵器スーパードラグーンの光線と戦輪ifsユニットの光刃が今度はブラッドのヤークトアルケーに襲いかかる。流石の彼もこれには手を焼くのか、機体を下がらせていった。代わりに前に出たのはゾディアックのアマクサだ。鉄球を大きく振りまわせばそれは巨大な盾となる。それで光線と光刃からブラッドを守っていた。

 

『やれやれ。二人は相変わらず容赦無いですねぇ』

『はんっ!! どうせ近づこうものならそのまま粉砕するつもりであった癖に。どちらが容赦ないものか』

『それは当然でしょう。振りかかる火の粉はなんとやら、です』

『あ、それ知ってるよ!! 飛んで火に入る…………なんだっけ?』

『分かってねぇじゃんか!! 夏の虫だ!! 覚えとけ!!』

『ブラッドも意外とそういう所ノリが良いですよね』

『あ、分かりますかユーリ? ブラッドって意外と面倒見が良くてですねぇ……』

『お前らうっさい! ほっとけ!!』

 

 ユーリどころかゾディアックにまで言われて悶絶しているブラッドを尻目に、ハルファスとゼロカスタムの横にストライクフリーダムとビギニング30が舞い降りる。なんだか親に幼少の頃の黒歴史を晒された場面に遭遇してしまったかのように、なんとも微妙な空気が辺りに満ちていた。助けられたレン達にしてみても、なんとなく声をかけづらい。

 

「え~っと……どん、まい☆」

『うっせーキリエ!! お前絶対笑いこらえてるだろ!! お前らからその口塞いでやっか!?』

「あらイヤだ。残念ながらそういうプレイは趣味じゃないのよね~。たまにならちょ~っと良いかもだけど、貴方はお断りよ。ブラッドってガツガツしてそうなんだもん」

『そういう意味じゃねぇ! 俺だってお前はお断りだ!! この淫ピが!!』

「誰が淫ピよ!! ピンク馬鹿にすんなこの野獣! ロリコン!! 見境なし!!」

『誰が見境なしだ!!』

『はいはい、ブラッド君。少し黙って、頭冷やしてねっ!!』

『おおおおおっ!?』

 

 突然ヤークトアルケーの腕を掴んだのはマスターフェニックスだ。そしてそのままぐるっと一回転すると機体を放り投げる。投げられた先で待っているのは環状に展開させたクアンタのソードビット。その中にヤークトアルケーが吸い込まれるや、どこかに転送されていってしまった。

 

『量子ワープ!?』

『その通りだよディアーチェ。時間が無いもんでね、キールとアミタにちょっと頑張ってもらったのさ』

『行かせませんよ!』

 

 シュテルの声に全員が動いた。銃と砲を起動させて環状のソードビットを狙いに付ける。しかしそれよりも早くまずはアマクサが飛びこんだ。続けてマスターフェニックスが。最後にクアンタが飛びこみ、ソードビットがそれを追う。一瞬遅かった。丁度空間が閉じた所にレン達の集中砲火が空しく空を切る。

 

「くそっ! 逃がしたか!!」

「ほんと! ブラッドにはあったま来ちゃうわ! ピンクを何だと思ってるのかしら!!」

『キリエ、微妙に論点がズレています。まぁそれはさておき、私達も急いだ方が良いですね』

『シュテルの言う通りだな。奴らが向かったのは十中八九、機動六課だ。今から我らが全速力で向かえばもしかしたらまだ間に合うかもしれん』

 

 それが希望的観測である事はディアーチェも承知している。

 アメリアスの機体、バルバトス・ミラージュならば機動六課の防御を突破する事など雑作も無いだろう。

 しかもそこに戦闘機人が加わっているのだ。主戦力を欠いた機動六課が落ちるのは必然にして当然。どう考えても悪い結果しか考えられない。

 しかしだからといって、ここに全てを諦める者はいない。

 後悔は今できる全力をやってからでも遅くはない。勿論、後悔などしたくはないが……。

 ならば彼女達がするべき事は唯一つ。機動六課に向かう事だ!

 

『聞こえているか子鴉。どうせずっと聞いていたのだろう? 我らはこれから全速力で機動六課に向かう。ああ、許可なぞいらん。こっちは勝手にやらせてもらうからな』

『勿論止める気はさらさらあらへんで。ただな王様。その前に一緒に連れて行ってほしい人がおんねん』

『連れて行って欲しい人だと?』

「それなら俺が連れてくよ。ハルファスの高機動型ならすぐに追いつけるからさ。王様達は先に行っててくれ」

『……そうか。ならば悪いな。頼むぞレン』

 

 はやてとの通信で露骨に嫌な顔をしたディアーチェだったが、レンが間に入る事で渋々納得したようだ。

 次々と飛び出すモビルスーツ達。そして最後にゼロカスタムが動こうとした時だ。

 シュテルがモビルスーツの目でハルファスを一瞥した。それに応えるようにレンもハルファスの親指を立てる。音声通話に切り替えた為に、シュテルの顔は見えない。しかしレンは映らない画面の向こうでシュテルが微笑んだ気がした。

 ゼロカスタムが翼を広げて飛び去って行く。そしてレンとキリエもまた踵を返して地上本部に向かうのだった。

 

 

 地上本部襲撃によりミッドチルダ中の病院は負傷した魔導士達でごった返している。

 空ではモビルスーツ同士がぶつかり合っていたが、地上でもガジェットが次々と出現し、局の魔導士達は不慣れなAMF領域下での魔法戦を強いられていたのだ。

 高ランクにでもなれば対処は可能であっても、全員がそうではない。まして、地上本部内部にいた魔導士はデバイスすら持ち込めていないのだ。

 結果、多くの魔導士が何も出来ずに負傷する事になっていた。

 そしてここ聖王教会病院も緊急搬送されてきた魔導士達の看護で大騒ぎである。

 そんな中とある病室。そこに寝ているはずの人間の姿が忽然と消えていた。

 ただ窓が開かれ、カーテンが風に揺れている。

 しかしそれに気付く者は誰一人として居なかった。

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