魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第36話 夜明け

1

 

 

 

「素晴らしい! これがジェネレーションシステム! このシステム凄いよ! さすが世界をまるまる一つ構築するだけのシステムだ!!」

 

 スカリエッティは狂喜乱舞していた。

 画面に映る機動六課と、空に開いた大穴。そこから流れ込んでくる情報に彼はこれまで感じた事の無い喜びに満たされている。

 そしてそれをうっとりと眺めているウーノもまた、この上無い喜びに満たされていた。

 スカリエッティが狂喜すればするほど、それは彼女にとっての快楽悦楽。背中から昇り、脳髄をとろけさせ、全身をゾクゾクさせる高揚は癖になってしまいそうだ。

 

「ああドクター! 素晴らしいですわ! このウーノ。ドクターの喜びを全身で感じてもうどうにかなってしまいそうです!」

「分かるかいウーノ! 私を駆け巡るこの喜びが! ああなんて晴れやかなんだろう! これで私の願いにまた一歩近づいたのだ。こんなに嬉しい事は無い! だがああ、なんてことだ! 足りない、足りないのだよ! 私はもっとこの喜びを表現したいのになんという事だ! これでは私の感じる喜びの万分も表現できない! 教えてくれウーノ。私がもっと喜びを表現する為にはどうすれば良い?」

「踊りましょうドクター! 踊って全身で喜びを表現するのです!」

「そうか! 踊るのか!」

「はいっ!」

「Shall we dance?」

「Sure. I’d love to!」

 

 そう言う事になった。

 

「いやいやどうしてそうなる。ちょっと落ち着けこの馬鹿夫婦」

 

 手を取り合って踊りだす男女に呆れているのは眼帯少女。戦闘機人最古参の一人、No.6 チンクだ。しかしそれも聞こえていないのか、目の前では情熱的な踊りが繰り広げられている。どこからともなく流れてくる音楽はサンバかルンバか。いずれにせよ、妙にキレのある踊りだ。

 

「だからいい加減落ち着けって言ってるだろうが!!」

 

 スパ―――ッン!!

 

 小気味良い音が洞窟中に大きく響き渡った。

 どこからともなく取りだしたハリセンを手に持ち鼻息を荒くしたチンクを、頭を抱えてうずくまる馬鹿夫婦が恨めしそうに見上げている。

 

「……何ですか姉上。その目は」

「いいえ。チンクも立派になったと思って」

「アンタが! ドクターに! 色惚けしてるからでしょーが!!」

「ノリノリなチンク姉ェも大概だと……あ、いや。睨まないで。うん。あたしが悪かった」

 

 チンクにハリセンを渡した張本人、戦闘機人No.11。ピンクの髪をアップで束ねた少女ウェンディが要らぬ突っ込みで睨まれ、彼女のパートナーである燃える様な赤い髪の戦闘機人No.9、ノーヴェの後ろにすごすごと隠れる。盾になった彼女も呆れ顔。その他にもクアットロ、ディエチ、セイン。そしてドゥーエ。地上本部襲撃組がこうして全員そろって帰還している。

 

「やぁお帰り私の愛娘達。地上本部襲撃、見事に達成だね」

「ドクター。今更カッコつけて座っても意味ないから」

 

 椅子に座ってキリッと表情を作ってみても、ディエチに言われガックリと肩を落とす天才が一人。

 

「ふっ……。天才の行動はいつも理解されないものなのだよディエチ」

「何気にショックなのねドクター。大丈夫。理解する気がないから安心して!」

「ディエチちゃ~ん、それ以上はドクターのハートが粉々になるからやめといた方が良いわよ~?」

 

 え? と首を傾げるディエチをクアットロが止める。さすがのスカリエッティも娘にこう言われては堪えるようである。しかしそれでもこのナンバーズ達はマイペース。傷心のスカリエッティを無視し、画面に流れている機動六課の映像に目を向け、皆で歓声を上げていた。

 

「ドクター、ちょっとこれマズイんじゃありません? あの機体、次元の穴を閉じようとしてますわよ?」

 

 危うく真っ白になりかけていたスカリエッティだが、クアットロのその言葉にまるで水を得た魚の様に急に活き活きと目を輝かせて立ち上がる。

 

「いやいやクアットロ。これはこれで素晴らしいサンプルだよ。あの機体、ハルファスベーゼもティーダ君と同じ扉の力を持っているのだ。まぁ手元に無いし、かと言って再現も出来ないから今まで放置していたがね。まさかここでその力が見られるとは私はなんと幸運なのだろうね」

「そ、そうですか。ちなみにティーダさんと同じ力と言う事は、あれもコードを持っている。そういう事なんですか?」

 

 スカリエッティの豹変ぶりに若干引き気味のクアットロだが、彼女も悲しいかなスカリエッティと同じ研究者色の女性。ティーダと同じ力を持っていると聞き、興味を持たないはずが無い。

 そしてスカリエッティも気分が乗って来たのか、段々と弁に熱が入り始める。

 

「正確には違うね。アメリアスに聞いた話だが、あのハルファスという機体には本来ジェネレーションシステムの世界で好きな時間、好きな場所に現れ、そこに自分の意のままに軍勢を送り込む力が備わっているという。まるでジェネレーションシステムが再現した世界、地球に伝わる悪魔ハルファスの様にね。ただ彼女自身もメモリーに残っていただけらしく実際に見た事はないらしいが、一度はジェネレーションシステムの根幹にアクセスしていたんだ。信憑性は高いだろう。どうだい? ティーダ君のコードと似ていると思わないかい?」

「はぁ、悪魔ハルファスですか。ま、確かにそっくりですわ。どちらもジェネレーションシステムの世界の物と考えれば、時空間の解放はむしろ同種類の能力、という事ですか」

「だね。つまりあのハルファスも演算さえ間に合えばあのティーダ君と聖王サマと同じ事ができるってことさ。ただ、演算が間に合っていないというのが残念な所だがね」

 

 くくくっと笑うスカリエッティの視線の先。ハルファスベーゼの体があちこちショートし、小爆発を起こしている姿が入って来る。

 だがそれすらもスカリエッティには貴重なサンプルであり、データ。

 さぁここからどうする?

 その目は期待のこもった子供の様に輝いていた。

 

 

 

 そして機動六課。

 GN粒子の影響が消えた為、ティーダはヴィヴィオを操る術を失っていた。勿論強制起動させられたヴィヴィオも今はカイゼル・ファルベを失い、元の小さな女の子に戻っている。しかし相当な負担だった事には違いない。今もティーダの腕の中ですやすやと規則正しい呼吸をして眠りについている。

 これでこの子が狙われる理由は無くなった。

 その寝顔に安心し、胸を撫で下ろすのも束の間。ティーダは時空の穴を閉じようとするハルファスベーゼに目を向ける。

 ヴィヴィオの力が失われた今、ティーダ単身ではあの穴を閉じる術は無い。折角のコードも演算ができなければただの使えない能力だ。自分で開いてしまった穴はできれば自分で処理したかったティーダだが、こうなってはレンとキリエに託すより他ないというのに、演算が追いついていないのは明白だ。

 その証拠に機体への負荷が随所で機体を破壊している。元々、キール達との戦いでの傷もある。いくらGN粒子を取りこんだと言っても演算能力だけは如何ともし難い状況だった。

 

「これで満足かティーダ」

「マークか。……満足、では無いよ。結局自分で開けた穴を埋める事すらできなかったんだから」

「だがあれ以上続けていたらヴィヴィオの体が保たなかったかもしれない。お前だって分かってたんだろ?」

 

 ホバリングしているフェニックスガンダムから身を乗り出して尋ねるマークにティーダも苦笑するしかない。異変はティーダもとっくに気付いていた。やはり遺伝子の劣化が激しいのか聖王の鎧は不完全だったのだ。しかし開いた穴は閉じなければならない。だから最後はティーダ自身がフェネクスとリンクし、自分で演算の大部分を行うつもりだった。例え、その結果自分の脳が焼き切れたとしても。

 だがその直前でGN粒子が途切れ、ヴィヴィオのとのリンクが強制解除されてしまった。そして彼の代わりにレンとキリエとハルファスベーゼがその役目を引き継いだ。

 しかし演算を処理しきれず、時空の歪みと暴走限界のエネルギーに機体が悲鳴を上げている。このままでは時空の歪みに巻き込まれて粉々になってしまうだろう。

 

「落とし前くらいは自分でつけるさ。だから、この子の事お願いして良いかな? フェイト執務官殿」

 

 向けられた笑みは浮き上がって来たフェイトへの物。眠るヴィヴィオを受け取ったものの、フェイトはなんとも言えない苦い顔をするしかない。分かっているのだ。これから先の事は自分では手が出せない領域なのだと。

 

「おいおい、そんな顔をしないでくれないかな。別に死ぬつもりは無いんだ。死ぬ気ではやるけどさ。ああ、なら一つ約束をしよう。もしも俺が生きてたら君が俺を捕まえてくれ。まっ、俺も全力で逃げるけどね。そうそう簡単には捕まらないから覚悟しておいてよ?」

「……なんですかそれ。自分を捕まえてくれなんて言う犯罪者、初めて見ました」

 

 少し頬を膨らませたフェイトがくるりと背を向ける。そして空を見上げて一人呟く。

 

「でも、そういう事なら覚悟しておいて下さいね。罪状一杯抱えて貴方を捕まえてあげますよティーダさん。勿論地上本部での公然わいせつ罪と痴漢行為も上乗せして、絶対に貴方を捕まえてあげますから。……だから死ぬとかそういう事は考えないで下さい。例え犯罪者でもそういうの、私嫌いです」

「……肝に銘じておくよ」

 

 静かに聞こえた言葉。フェイトは返事を返さずに降りて行った。

 

「ったく、うちの執務官に変なフラグ建てないでくれるかな? それになんだよ公然わいせつと痴漢行為って。お前何やらかしたんだ?」

「プライバシーに関わる為に黙秘させて貰います。それよりマークこそ良いのかい? 下で恋人が心配そうに見上げてるよ?」

「お前こそ人のプライバシーに土足で上がってくんなっての」

 

 そう言いつつもマークもまた祈る様に手を組んで見上げるシャマルに薄く微笑み、敬礼を返す。

 死ぬ為に行く訳ではない。必ず生きて戻る。その決意の表れだ。

 

「悪いねマーク。結局君の力を借りる事になった」

「今回だけだぞ。本当なら俺だってお前を捕まえる立場なんだからな」

 

 説明などしなくても二人がしようとしている事は明確。ティーダが再び力を使い、マークが演算のサポートをする。それでレン達の負担を少しでも減らそうと言うのだ。

 しかしきっと聖王の鎧の演算に遠く及ばないだろう。それでもやらないよりはマシ。ティーダの言う通り、それが彼なりの落とし前の付け方だ。

 

『ちょっとちょっと、勝手に二人で盛り上がらないでくれませんか?』

「アプロディア? 何でお前までここに居るんだよ。ってマリアの奴はどうしたんだ?」

『その話は後々。とにかく貴方達が考えている事は分かります。ですから私も微力ながらお手伝いさせてもらうべく、彼女達に連れて来て頂きました』

 

 そこに姿を見せたのは機動六課フォワードチームとホログラム化したアプロディア。フリードの背に乗り、五人揃ってこの宙域に姿を見せたのだ。唖然とするティーダとマークにティアナは自分の耳についたイヤリングを翳して見せる。

 

『私がレンとキリエの所に行けば演算のサポートができます。それに次元の境界が曖昧になっているあそこならジェネレーションシステムにアクセスできるかもしれない。どうです? 賭けてみるには十分な理由じゃないですか?』

 

 顔を見合わせるマークとティーダ。唖然としているのは変わらないが、次第にその頬が緩み始めた。

 微力どころではない。それだけでも賭けてみるには十分過ぎる価値がある。

 

「ほんと、ここまで俺達にさせるんだ。レンとキリエの奴には後でしこたま酒を奢らせてやる」

「ずるいなぁ。俺はそれに出席できないじゃないか」

「俺達に捕まればできるかもしれないぞ?」

「それは御免だね。なら俺はスカリエッティにたかってやるとしよう」

 

 そう言って男二人が拳を合わせた。

 マークがコックピットに乗り込み、ティーダがマスターフェニックスを起動させる。

 その間にはフリードとフォワード達。

 全員が見据えるのは空に開いた大穴と、孤軍奮闘するハルファスベーゼ。

 目的はレンとキリエの救出。そして次元の穴を閉じる為のミッションが始まろうとしていた。

 

 

 

2

 

 

 

「行くよフリード! M-System、起動!!」

「クワァァァァァッ!!」

 

 キャロのケリュケイオンが輝き、フリードを包み込む。

 光が収まった後に現れたフリードには装甲とも言うべきユニットが装着されており、キャロもまたケリュケイオンがバックラーの様に変化していた。

 彼女のM-Systemの名は『ペーネロペー』。スバルの『ユニコーン』、ティアナの『ストライクノワール』とは違い、彼女のそれはフリードの強化を目的としたものである。

 後衛で皆を守るキャロ自身は最低限の防御強化に留め、フリードがキャロ達を守るべく攻撃力、防御力のアップ。そして飛ぶ際に前方に魔力障壁を生む事で空気抵抗を減らし、最高速度を上げるまさにモビルスーツ、ペーネロペーの技術を取り入れたM-Systemだ。

 その力を得たフリードの速度はモビルスーツにも引けを取らない。だが魔力障壁が風を裂いている事で、背にいるキャロ達はその影響をあまり受けずにいられている。

 風を切り、上昇していく飛竜と二機のモビルスーツ。フォワード全員が緊張の面持ちをしていると、マークとティーダから各自に通信が送られてきた。

 

『良いか、俺とティーダが先行してハルファスの所に行って強制介入を行う。それで次元の歪みをなんとか抑えるからお前らはその後でレン達にアプロディアを届けるんだ』

『抑えるって言っても、完璧にはできない。次元の歪みはどんな影響を及ぼすか分からないからね。無理だと思ったら引き返すんだ』

「それは無理な相談よ兄さん。引き返すなんて選択、あたし達がするわけないじゃない」

 

 ふふんと鼻を鳴らすティアナに画面の向こうのティーダが頭を抱えている。

 知らない内になんでこんな無鉄砲に育ってしまったのか。いや、そんな事言えた義理ではないのは分かっている。分かってはいるのだが、釈然としない。それに頼りがいがあるというのがまた悔しい。

 

『勝手にしろ! 助けてって言っても助けてやらんからな!!』

「どうぞご勝手に! それに成すべき事を成せって言ったのは兄さんでしょ! 兄さんの影を追うんじゃなくて、機動六課フォワードとして仲間を助けに行く。それがあたしの今、成すべき事なの!」

『うぐっ……』

『お前の負けだよティーダ。さぁ兄妹喧嘩はそこまでだ。行くぞ!!』

『あ、おい! 突っ走るな!』

 

 高機動形態に変形したフェニックスガンダムを慌ててマスターフェニックスが掴み、二羽の不死鳥が先陣を切って一気に飛び出した。二機分の推力を得て、不死鳥は電撃の中を真っ直ぐに突き進む。止まる事は考えない。

 気流は乱れ嵐の様な風と電撃が何度か機体を襲うが、それでも不死鳥達は飛び続ける。

 

『ぐあっ!?』

『おいマーク! 本調子じゃないのは分かるが、堪えてくれ!』

『分かってるよ! 少し黙ってろ!』

 

 とは言いつつも、マークの額からは脂汗が滲みだしていた。確かに本調子ではない体にかかるGと衝撃は彼の体力を根こそぎ削り取って行く。だが操縦桿を握る手は緩まる事は無い。むしろもっと強く握りしめ、マークは機体を走らせた。

 無限に続くかと思う嵐と電撃に眩暈がする。違う。それはただ行く手を遮る風と電撃で思う様に進まないだけだ。マークは自分にそう言い聞かせ、無理矢理体に喝を入れる。

 そして荒れ狂う電撃の間隙を縫い、遂に不死鳥達が嵐を突破し空の大穴に飛び出した。

 そこは既にジェネレーションシステムの世界と連結し、反転した世界が向かい合う不思議な光景。先ほどの嵐がまるで嘘の様に静かな世界。しかしそれに見入る事無く、中破したハルファスベーゼに寄り添う二機。

 

『おい! レン、生きてるか!? 生きてるなら返事しろ!!』

『マ、マークさん? それにティーダ……さん?』

 

 弱々しい声がマークの呼びかけに応えた。映像はノイズが走り見る事はできないが、声だけははっきりと聞こえる。しかしレンも衰弱が激しい。無理矢理ハルファスのシステムを起動させたのだから無理も無い。既に神経をすり減らしたレンにも限界が訪れようとしていた。

 

『良いかよく聞け。今から俺とティーダで空間を閉じるサポートをする。お前はそのまま作業を続けろ。俺達の事は考えなくて良い。とにかく今はできる事をやれ!』

『りょ、了解……』

『ティーダも良いな?』

『りょーかい。それじゃバックアップ任せたよ』

『おう!』

 

 マークの力強い声にティーダは気合いを入れ直す。きっとあの声もギリギリの所で出しているに違いない。二人を無事に帰す為にも、ここで失敗する訳にはいかないのだ。

 

「さぁやるよマスターフェニックス。もう一度俺に力を貸してくれ!!」

 

 ギンっとマスターフェニックスの双眸が輝きを増した。そしてティーダも自身に眠るコードの力を全力で解き放つ。全ては次元の穴を修復する事のみに集中。余計な情報は全てマスターフェニックスとマークのフェニックスガンダムへ流し、ティーダは遂に次元の端を掴み取る。

 

 

 

「電撃が弱まった! やったねティア! マークさん達が上手く介入できたみたいだよ!」

「油断しないでスバル! こっからが本当の正念場よ! キャロ、行ける?」

「勿論です!」

「行きましょう! あの人達の所に!!」

「クォォォォンッ!!」

 

 エリオの声に再び羽ばたきだしたフリード。正面に魔力障壁を展開させ飛ぶ姿は流星さながら。弱まった電撃の中を不死鳥が突っ切った様に、今度は飛竜が一直線に突き進む。

 だが弱まったとは言え、電撃が無くなったわけではない。直撃を受ければモビルスーツに乗っていない彼女達ではどうなるか分かったものではない。

 そして遂に電撃が一筋、魔力障壁に直撃してしまった。ぐらりと傾くフリードに四人が悲鳴を上げる。

 

「くそっ! ストラーダ! M-System起動!」

『Jawohl!!』

 

 エリオの呼びかけに応えるストラーダ。今度はエリオが光に包まれた。

そして現れたのは白の王子。金の刺繍を入れた純白のマントに赤の上着と白のスラックスという出で立ちは見ていたティアナ達も驚く程に大人びている。そしてストラーダも穂先が大きくなり、金色に輝く槍となっていた。

 

「バスターランサー、起動!!」

 

そんな彼女達を尻目にエリオは両肩に鎧の如く装着されていた六本のバスターランサーを起動させる。

 宙に浮いたそれは彼とストラーダの意思に従いフリードを守る様に飛び交い、電撃から飛竜を守る避雷針となって彼女達を守り始めた。

 M-System『ビギナ・ロナ』。それがエリオのM-Systemに付けられた名。自在に宙を舞うバスターランサーは本来の使い方ではないが、それは彼のアレンジのなせる業。どこまで保つか分からない。それでも仲間を守る為にエリオは槍を飛ばし続ける。

 それは決して無駄では無い。エリオの必死の防御にフリードも息を吹き返し、再び大きく翼を広げたのだ。そして飛竜もまた大嵐を突破し空の大穴に到着する。しかしそこでキャロとフリードが遂に力尽きてしまった。後もう少しでハルファスベーゼに手が届く所で失速。翼竜の形態から元の小竜に戻ってしまう。

 いきなり空中に投げだされた四人。このままでは地上まで真っ逆様のスカイダイビングだ。

 

「スバルさん! ティアナさんを頼みます!!」

「エリオ!?」

「キャロとフリードは僕に任せて行って下さい!!」

 

 その言葉が嘘では無いと言う様にエリオがストラーダから魔力を噴出させた。そしてキャロとフリードを抱え、なんとか空中で姿勢を維持している。

 それを見て頷きあうスバルとティアナ。どちらとも無く手を伸ばし合い、がっちりと手を取り合う。

 

「マッハキャリバ―――ッ!!」

『Wing road!!』

 

 マッハキャリバーが空に一本の道を生みだす。スバルの先天系魔法、ウィングロードがハルファスベーゼへの道を切り開いたのだ。そしてその上に降り立ったスバルの足元、マッハキャリバーからも一対の蒼翼が広がる。

 

「うおおおおおっ!!」

 

 マッハキャリバーのノズルが煙を噴き出し、ホイールが高速回転を始める。そして解き放たれた矢の様なロケットスタートでスバルはウィングロードの上を駆けだした。

 ローディングされたカートリッジの魔力を全て走る事に注ぐ。風を切り、空色の粒子を散らし、翼を持つ一角獣はただひたすらに前へ。どこまでも真っ直ぐに、誰よりも速く。それがスバルという少女の本質なのだろう。そして相棒であるマッハキャリバーが助け、少女は夜の闇すらも照らす輝きで空中に身を躍らせた。

 レンに呼びかけてコックピットが開くのを待つ程悠長な時間は無い。ならば取るべき方法は唯一つ。

 いつもの様に、塞がる障害をその拳で取り除くまでだ。

 

「ごめんレン兄! 待ってる暇ないから力づくで開けさせてもらうよ!!」

 

 叩きつけられた拳。生半可な装甲で無い事は百も承知。しかしスバルにはそれを突破する力がある。

 今までずっと隠してきた力。いつかそれで大切な何かを壊してしまうのではないかと脅えた力。

 自分は他の人とは違うのだと、嫌でも教えられる忌むべき力。

 

「でも今は! その力で切り開いて見せる! 大好きな人達を助ける為にこの力を使うんだ!! だから……、だから力を借して! マッハキャリバー!」

『Yes, buddy!』

 

 スバルの叫び。マッハキャリバーの咆哮。

 一人と一機の思いが重なり、M-System『ユニコーン』が真の姿を曝け出す。

 リボルバーナックルから伸びた一本のブレードが左右に割れ、左腕のガントレットと盾、両足のレッグアーマーがスライド展開する。そこから溢れだす輝きは彼女の魔力光の様に蒼穹の青。

 そしてスバルの瞳が金色に輝き拳が一瞬ブレた途端、爆発が、拳が遂にハルファスベーゼの装甲を破砕する。

 その力の名は『振動破砕』。スバルの『戦闘機人』としての力。

 

「スバル!!」

「ティア!!」

 

 その威力に吹っ飛んだスバルがウィングロードの上に着地。クロスミラージュを構えて駆けあがってくるティアナとアイコンタクトを交わすと同時に、ティアナがスバルに向けてペンデュラムアンカーを撃った。それを自らの左腕に巻きつけ、スバルが大きくスタンスを取る。ティアナもウィングロードの上から飛び出した。

 

「いっけぇ―――ッ!!」

 

 スバルを振り子の支点として、ティアナの体が大きく空に弧を描いた。飛び出した加速、タイミング共に文句無し。軋む腕も気にせず、スバルは相方を空中高く放り投げる。

 自由落下する体。風を全身に受けながらティアナは闇夜に目を凝らす。

 そこに座っているレンの体はピクリとも動かない。嫌な予感がよぎるがそれを振り切り、彼女は重力に身を任せて漆黒の機体へと向かっていく。

 フォワード全員の力を繋いで目指す目標、ハルファスベーゼのコックピットはもうすぐそこだった。

 

 

 

 風を感じる。とても、とても穏やかな風だ。

 レンは真っ暗な闇の中でそれを感じていた。

 体に走っていた痛みはもう無い。限界を越えて酷使してしまった為に、脳が痛覚を遮断してしまったのかもしれないと妙に冷静にレンは自分の体を判断していた。

 でも風は心地良い。痛みが無くても風だけははっきり感じる。

 このままどこかに体ごと飛ばしてしまいそうな程に、それは優しくレンの体を包み込んでいた。

 

 

 やべぇ。体が動かねぇ。こいつはひょっとすると本当にお迎えが来ちまったかなぁ。

 あ~あ、シュテルとキリエに変なフラグ建てるからだって言われるなぁ。

 

<レン……。レン……>

 

 なんてこった。シュテルの声まで聞こえる。

 幻聴まで聞こえてくるなんて、こりゃ本気でマズいかもしれん。

 

<幻聴などではありませんよ。ちゃんと私は足もあるし、触れる事もできます>

 

 そいつは幽霊と勘違いした時に言う台詞だ。

 

<だったらレンが確かめて下さい。ちゃんと生きて帰って来て私を抱きしめて下さい。力いっぱい、私が生きている事を実感して下さい>

 

 ……良いの?

 

<良いですとも>

 

 抱きしめるだけじゃ止まらないかもよ? もっととんでもない事しちゃうかもよ?

 その辺、OK?

 

<……ドン引きです。ですが、良いですよ。ドンと来いです。だから……>

 

 だから?

 

 

 

 

<いい加減目を覚ましなさい!! この鈍チンヘタレ!!>

 

 

 

 

「そいつはひでぇ!! ……ってあれ?」

 

 絶叫と共に目を覚まし、周りを見渡すとポカンと口を開けたティアナが目に入って来た。

 状況が飲み込めない。どうやら気を失っていたのだけは確かなようなのだが……。

 

「あ~、なんだろうね。とりあえず、おはよう……かな?」

「バカッ!!」

 

 勢いよく胸に飛び込んでくるティアナの衝撃を直に受けて、ぐっと呻いてしまったがなんとか持ち堪える。泣きじゃくるティアナの髪を撫でてあやしていると、ひょこっとスバル、エリオ、キャロがコックピットの中をニヤニヤと覗きこんでいるのが見えた。

 ああ、そういう事か。こいつら、こんな所まで来たのか。ったく、無茶しやがって……。

 それにシュテルもまぁ無茶をする。念話で呼びかけてくれたのは嬉しいけど、最後のアレはやっぱり酷い。喝の入れ方がらしいと言えばらしいけども……。

 ともかく、これで状況は把握できた。ティアナも漸く顔を上げたものの、離れてくれる様子は無い。

 ばつが悪くなり、レンは苦笑を浮かべたまま頬を掻く事しかできなかった。

 

『無茶は貴方ですレン。ハルファスを強制起動させただけではなく、封印していたシステムまで起動させて……。死ぬ気ですか?』

「人の心を読むなよアプロディア。だって分かっちまった以上これしか方法が無かったんだ。ティーダさんの事、ヴィヴィオの事、GN粒子を通じて理解してるよ。それにキールとアミタにも託された。ったくあいつらも人が悪いね。これがあいつらの目的だったんだからな。そんでハルファスのシステムを復活させる為にGNドライブを俺に託してくれたんだ。ま、そんな事ができたのもキリエがハルファスのシステムを掌握してくれたおかげだけどな」

『そうですか。やはりハルファスの進化はキリエの仕業でしたか。あの子も本当に無茶をしますね』

「俺が気を失ってた間も無茶してくれてるけどな。それに、まだ死ねないよ。……俺の人生一大イベントが控えてるからな」

『……は?』

 

 姿を見せたアプロディアが首を傾げている。レンはそれ以上言わずにイイ笑顔を見せているだけ。

 ただティアナは何かを察したのだろう。睨みつける様に見上げるとレンの頬を思いっきり抓りあげる始末だ。

 

「あだだだだだっ!! 何すんだよティアナ! 痛い! 痛いって!!」

「ふんだ! この鈍チンヘタレ!!」

「……お前までシュテルと同じ事言うのな。さて、と。済まなかったなアプロディア。あんたがここに来たって事は目的は一つなんだろ?」

『はい。キリエが行っている演算を私がサポートします。外ではティーダとマークも手伝ってくれていますし、早速始めましょう』

「了解だ」

 

 さぁ再び大仕事だ。だがアプロディアが来てくれた事でハルファスベーゼ。つまりキリエの負担もかなり軽減されるはず。息を吹き返したハルファスベーゼが最後の力を振り絞った。

 ハルファスベーゼ。マスターフェニックス。フェニックスガンダム。

 三機そろった不死鳥が次元の穴を閉じるという目的でその力を合わせる。

 そしてそこにはジェネレーションシステムの女神アプロディアも居る。

 彼女はシステムを演算に割くと共に並列でジェネレーションシステムにもアクセスを試みていた。

 しかしてその結果は予想通り。この場所からならジェネレーションシステムにもアクセスができる。

 システムの力で演算が遂に安定し、みるみる次元の穴が閉じていく。

 地上から見上げるシュテル達も、遠くからそれを見ているゼストやフェイト達も塞がれていく次元の穴に安堵の息を漏らす。

 これで大きな山を越えたと誰もが思っていた。

 

 

 

 しかし。

 

 

 

 

『熱源接近! こいつは……ミサイル! あっちの世界からだ!!』

 

 マークの通信が全てを一変させた。

 同時に雨の様にミサイルが身動きのできない三機に降り注いだのである。

 空に巻き起こる無数の爆発。その煙の中から地上に向けて落下していく三機のガンダム達。

 

「くっ! トーレ! ティーダを!!」

「了解しました!!」

「あ、待てコラ! 勝手に動くんじゃねぇ!」

「この状況で悠長にしてる暇なんて無いでしょう!」

 

 すかさずゼストがトーレに指示を出した。この中で最高速の彼女ならば間に合うはずだ。ヴィータが声を上げるが、オットーが光を放ち近づけさせない。その間にもマスターフェニックスが自動待機モード、フェネクスの姿に戻り、ティーダはトーレにキャッチ。そのまま彼女達はいずこかへ飛び去ってしまった。

 マークはシャマルが使った旅の鏡によって救出されている。

 そしてレン達はというと爆発の余波に巻き込まれ、全員が空中に放り出されていた。

 しかもそのショックで全員が気を失っている。更に間の悪い事に、彼らが落ちて行くのはミッドチルダでは無い。ジェネレーションシステムの世界だ。

 再びシャマルが旅の鏡を使うも、落ちてきたマークとは違い次元の境界が不安定で上手く捕まえる事ができない。

 その様子に声も出ないシュテル達。

 ただただレン達が閉じようとしている次元の穴に落ちて行くのを見ているしかできない。

 

「そんな……。レン! スバル! ティアナ! エリオ、キャロ!!」

 

 どんなに呼びかけ、どんなに手を伸ばしてもその手は届かない。

 もうその姿は次元の穴の中に消えてしまった。

 そしてそんな彼女を嘲笑うかのように閉じて行く次元の穴。

 全てが閉じ切った時、空は闇に閉ざされ星が瞬く元の夜へと戻っていた。

 いや、東を見れば太陽が昇って来る。朝日が夜を裂き、また次の一日を始めようとしている。

 

「いや……。いや―――――――ッ!!」

 

 シュテルの絶叫が木霊する。

 傍らのディアーチェ達も地面に這いつくばり、ハルファスベーゼから待機状態に戻ったヴァリアントザッパーを抱きしめて嗚咽を上げるシュテルに声をかける事もできない。できるのはただただ悔しさに身を震わせて、きつく唇を噛み締める事だけ。

 フェイト達も炎の消えた六課の屋上で力無く項垂れている。

 いつの間にかガンダム達も姿を消し、残ったのはガジェットの残骸と激戦の爪痕だけだ。

 

 逮捕者無し。

 MIA。Missing In Action。

 スバル・ナカジマ。

 ティアナ・ランスター。

 エリオ・モンディアル。

 キャロ・ル・ルシエと翼竜フリードリヒ。

 デバイス、アプロディア。

 そして、レン・アマミヤ。

 

 

 確かに当初の目的であるヴィヴィオを守る事はできた。しかしその代償に若い彼らの姿を別世界へと送った挙句、地上本部襲撃の犯人を誰も捕える事のできないまま。

 機動六課。そして地上本部の完敗とも言える結果だった。




よ、ようやくここまで来ました。
プロット作ってても筆の遅いこと遅いこと。
とりあえず、第二部はこれにて終了。
次からは最終章の第三部となります。

それではまた、次の更新でお会いしましょう。
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