魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第3話 真紅と漆黒の不死鳥

1

 

 

 ニューロの再出現から1ヶ月。

 ボロボロになったガンダムデルタカイの修復も終わり、レンも現場復帰していた。

 あの時レンが意識を失ったのは、極度の精神疲労によりブラックアウトしてしまった為。

 母艦に収容された彼が次に目を覚ましたのは医務室のベッドの上だった。

 その後シュテルに散々説教をされ、約束の特大パフェで手打ちにしてもらう。

 だが彼の敵はそれだけではなかった。整備班長のカチュア・リイスが小さな体を精一杯ふんぞり返らせてレンを怒鳴りつけたのである。若干12歳ながらその機械工学に関しては天才と呼ばれる彼女。ボロボロのデルタカイは彼女を怒らせるには十分な材料だった。

 それでも現場を指揮し、短期間で修復を完了させる辺りは流石と言える。

 その仕事の早さにはレンとキリエも舌を巻く以外なかった。

 

 

 そしてSpiritsは現在、また危機に直面している。

 小惑星アクシズが突如、出現したのである。その軌道コースは地球を直撃するように設定されている事が判明。急遽全艦隊に出撃命令が下される。アクシズの落下を防ぐ為に。

 

「まさかアクシズを持ってくるとは思わなかった」

「っていうか誰も考えないでしょ」

 

 デルタカイのコックピットで呟くレンにキリエもまた呆れたように応える。

 ニューロの目的は未だ不明だ。何故自分達を襲ってくるのか。そもそもニューロとはどんな存在なのかすらちゃんと分かっていない。

 そして問題は今回小惑星アクシズを具現化させた事だ。

 今まではモビルスーツばかりだった。しかし今回、遂に小惑星まで具現化させてしまったのである。

 しかもご丁寧に地球落下コースだ。

 

 ますます以ってニューロの目的が分からなくなる。小惑星アクシズはかつてレン達が疑似体験した世界でも地球への落下を行った。その時はνガンダムのサイコフレームと呼ばれる人の精神に反応する素材が多くのパイロット達の精神に感応してエネルギーフィールドを形成。偉大な英雄アムロ・レイとその生涯のライバル、シャア・アズナブル両名を行方不明にしながらも、その軌道を変える事に成功していた。

 しかし今回はそんな奇跡起こらないだろう。そう断言する程にあの光景は奇跡としか言いようがないとレンは思っている。

 幸い今回はまだ時間がある。アレを地球に落とさせる事はできない。

 

『レン!行きますよ!』

「あいよ!シュテル!」

 

 ニューロモビルスーツと地球連邦がぶつかり合う中、二機の飛行機が宇宙を駆ける。

 デルタカイとAGE-2。レンとシュテルだ。

 二機は互いに並行しつつ、ビームを放つ。レンがハイメガキャノンを撃てば、その隙を埋めるようにシュテルがハイパードッズライフルを撃ち、更にレンがその隙を埋める。

 絶え間なく放たれるビームはニューロモビルスーツを次々と貫き、二機は螺旋を描きながら曲芸飛行を続けた。互いの癖を知っているからこその飛行。そして互いが何を考えているからこそ分かる飛行。一分の隙も無いそれは見る者全てを魅了するランデブーだった。

 

「シュテル!一気に蹴散らすぞ!」

『了解です!』

 

 螺旋を描くその飛行から寸分のズレも無くモビルスーツへと変形。背中合わせの状態から円を描く様に各々のビームを薙ぎ払う。二人を囲むように展開していたニューロモビルスーツは成す術も無くあえなく爆散、宇宙に爆発の輪が生まれた。

 一見すれば順調。このままならきっとアクシズの落下も止められるに違いない。だがレンは微妙に胸騒ぎを感じていた。それが何かは分からない。しかし、戦場では些細な胸騒ぎを無視して撃墜される事もある。故にレンは一度ディーバに戻る事を提案した。

 シュテルとキリエもそれに異論は無い。シュテルの指示でキリエが索敵を広げる。そして二機はそのまま一度母艦へと進路を取るのだった。

 

 

 一方、レヴィとディアーチェもまたニューロモビルスーツに八面六臂の活躍を見せていた。

 

「うぬら!ここは後退せい!ここは我とレヴィが引き受けた!」

『そうそう!あっちの部隊の編隊が崩れてるからそっちのサポートに行ってあげて!』

『了解!支援感謝する!』

 

 返信してきたのはこの部隊の隊長だろうか。彼の指示でモビルスーツが撤退していく。

 残されたのはディアーチェとユーリの駆るフリーダムガンダムと、レヴィの駆るブルーフレームセカンドLのみ。敵はRMS106-CSハイザック・カスタムとRGM-79Qジム・クゥエルの混成部隊。数は十機程のと言った所か。

 

「ふん。雑魚がたかだか十匹程度。このディアーチェの敵ではないわ!」

「ディアーチェ!準備整いました!」

 

 ユーリの声と共にフリーダムが翼を広げる。そして羽に隠れたM100パラエーナプラズマ収束ビーム砲と腰にマウントされたMMI-M15クスィフィアスレール砲。そして手に持ったルプスビームライフル。

 フリーダムに搭載された射撃武器が全てセットされる。

 そしてそれら全ての火器が一斉に火を噴く。フリーダムガンダムの一斉射撃ハイマットフルバーストだ。

 光線と実弾が一発の外れも無く次々とニューロモビルスーツを貫き、爆散させていく。暗闇の宇宙が特大の花火と閃光に包まれた。

 

「あーっはっはっはっ!我らに刃向う等十年、いや三十年早いわ!」

「早いですよー♪」

 

 色とりどりの光が走る中、優雅に翼を広げ、敵を殲滅する姿は堂々とした王の佇まい。閃光は王の采配に従う兵士。その閃光はニューロモビルスーツを瞬く間に蹴散らす。

 ディアーチェとユーリの笑い声もついでに響く。上機嫌な絶対強者による愉悦の笑いだ。

 

『ちょっと王様!ボクの分まで取らないでよね!』

「何を言うレヴィ。お前の相手はきっちり残してあるぞ?」

 

 頬を膨らませたレヴィの通信にディアーチェはクイと指さした。そこには他の部隊からこちらに照準を変えただろうニューロモビルスーツの群れが見える。

 

「寛大なる我に感謝するが良い。あ奴らにレヴィの実力を教えてやるのだ!」

『うわっは!ありがと王様!』

 

 ブルーフレームのバーニアを歓喜の声と共に噴かせ、その群れに突っ込んでいくレヴィ。

 それはまるで水を得た魚の様に活き活きとしており、彼女の瞳はその機体のツインアイの様に輝いていた。早速背中のタクティカルアームズを起動。台座式のガトリング砲に変形させると弧を描く様に弾丸をばら撒いていく。それで足を止めさせると、すかさずタクティカルアームズは大剣へ変形。 それを両手で掴み、レヴィは斬りかかっていった。

 重量に任せた一撃だが、その分威力は申し分ない。ニューロモビルスーツをまるで紙の様に切り裂き、勢いを殺さずに反転。振りむき様に薙ぎ払いもう一体の胴を真っ二つにする。

 慣性に逆らわず、大剣を振るうその姿は迅雷の様に力強く、舞を踊っているかのように鮮やかだ。 その舞を色づけるのはニューロモビルスーツの爆発。その中をレヴィは軽やかに、無双の舞を踊り続ける。

 

『これでぇぇぇラストだ!』

 

 舞の終焉。敵は残り一体。レヴィは声を張り上げ、ブルーフレームが大剣を投げつけた。ざっくりと突き刺さるそれに追いつき、力任せに切り上げる。そして仕上げとばかりに蹴りを加えると、最後の一体もまた爆発し四散していった。

 反撃等させない完勝。終わってみれば接近戦を得意とするレヴィの独壇場だ。

 タクティカルアームズを肩に背負い。フリーダムにVサインを見せるブルーフレーム。

 

『いぇーい!勝利のVっ!』

「うむ!それでこそレヴィだ。では次の場所へ……」

「待って下さいディアーチェ!転移反応!来ます!」

「ちっ!」

 

 唯でさえアクシズ落下の危険がある現在。またエースクラスの機体が出てくるのか。

 レヴィも本能で感じ取ったのか、先ほどまでの陽気な様子は無い。黙ったままタクティカルアームズを構えている。

 ディアーチェもまた背筋に冷たい物が流れるのを感じていた。まだ転移完了していないというのに、威圧感が半端ではない。間違いなくエースクラスのモビルスーツがやって来るのは間違いないだろう。

 とりあえず仲間に救援信号を出しておく。これで最悪の事態は回避できるに違いない。

 

 唐突に空間が歪み、電撃が走った。転移完了を合図するその電撃。さぁ何がやってくるのか、ディアーチェは盾とルプスビームライフルを構えながら唇を舐める。

 通信からレヴィが『すごい!おっきい!カッコイイ!』と言っているのが聞こえる。先ほどまでの真剣な様子は何処に行った?とりあえず無視するが、後ろでユーリも息を飲んでいるのが分かる。

 それもその筈。目の前に姿を見せたのは最早モビルアーマーと呼ばれる類の物だった。

 フリーダムよりも、ブルーフレームよりも大きいそれは戦艦クラスの大きさの翼を広げた鳥の様にも見える。そしてギロリとモノアイで二機を見つめていた。

 

 ユーリがデータと照らし合わせるが該当無し。という事はレンやマーク達も遭遇した事の無いモビルアーマーだと言う事になる。

 アクシズだけでも場は相当大変な事になっているというのに、この様な物まで出てくると一気に戦局は覆されかねない。となればやる事は一つだ。

 この正体不明のモビルアーマーを押さえる。互いに目配せし、ディアーチェとレヴィが一斉攻撃を開始しようとする。

 しかし。

 

『こいつをやらせる訳にはいかないな!』

 

 突如通信への割り込みと共に飛来するモビルスーツ。大きなウィングバインダーが特徴的な真紅のモビルスーツだった。そして三人はそこにある機体を連想する。

 

『フェニックスガンダム?』

『それは半分正解で半分間違いだよ。アストレイのお譲さん』

「何奴だ!」

『俺はコードフェニックス。こいつは俺の愛機マスターフェニックスだ。出会った早々で悪いんだけど、このバルバドロを撃墜させる訳にはいかないんだ。出来ればこの場を退いてくれるとありがたい』

 

 それは男の声。自分はコードフェニックス。目の前の機体はマスターフェニックスだと言う。

 ディアーチェは油断無くそのモビルスーツに銃を向けながら観察する。

 フェニックスガンダムに似たそれは、より人の形に近かった。しかし見れば見る程酷似している。先ほどレヴィの呟きに男は半分正解で、半分間違いだと言った。恐らく系列を辿れば分かるかもしれない。

 しかしディアーチェはすぐに頭を切り替える。今重視すべきはその提案だ。勿論それを素直に受け入れられない理由がディアーチェ達にはある。

 

「ふざけた事をぬかすな!どうせお前もニューロの仲間なのであろう?意思疎通ができるのには驚いたが、だからと言ってそのバルバトロやらを見逃す訳にはいかん!」

『血気盛んなのは良い事だけどねお譲さん。アクシズの落下もバルバドロの出現も最終的にはお譲さん達の為なんだよ?』

「ぬかせ!」

 

 遂にディアーチェが引き金を引いた。緑色の光線が一直線にマスターフェニックスを狙う。

 しかしそれを難無く避けるマスターフェニックス。それに追いすがるようにレヴィが大剣を振るった。

 だがそれも半歩下がる事で避ける。代わりに僅かな隙を狙い、カウンターの拳を叩き込んでいった。

 

『いつつ……王様!こいつ強いよ!』

「ああ。お前に一撃入れたのだ。やはり一筋縄ではいかんという事だな」

 

 とはいえ、レヴィのあの一撃を難無く避けた上にカウンターまで入れたのだ。これは本当に洒落にならない事態とも言える。

 既に腕前は上級者レベルのディアーチェ達だが、それでもまだマーク達には敵わない。このマスターフェニックスの相手をするにはマークやゾディアック、ラナロウといった歴戦の勇士でなければならないだろう。

 だがディアーチェにも意地がある。最悪バルバドロの対処はレン達がやってくれるだろう。無責任かもしれないが、今ここでマスターフェニックスを抑える事こそ得策であると彼女は判断した。

 

「行くぞレヴィ!ユーリ!」

「『おう!』」

『やれやれ……。警告はしたからな!』

 

 二人の意思を確認し、フリーダムは再びその翼を広げた。パラエーナプラズマ収束砲が閃光を放つ。

 二本の閃光が一直線にマスターフェニックスを狙うも、急加速したマスターフェニックスはそれすらも避けてしまった。だが、後続にはレヴィが控えている。

 迫る大剣。二度、三度振られるもその剣はやはりマスターフェニックスを捕える事ができない。

 そうこうしている内にバルバドロが動きだす。アクシズの後を追う様にその巨体が飛翔を開始した。

 だがディアーチェ達はそれを追わない。今は目の前のマスターフェニックスに集中する。

 急遽ブルーフレームが離脱した。その影に隠れていたフリーダムが再びパラエーナプラズマ収束砲を放つ。個々で駄目なら複数で対処する。そう考えた故の一撃だ。

 しかしマスターフェニックスの手に生まれた炎が光線を弾いた。そしてその炎の中から出てきたのは二振りの大剣。タクティカルアームズ程の大剣を軽々とマスターフェニックスは両手に一本ずつ構える。

 

『確かに筋は良い。だがまだまだ。それに聞き分けの無い子はお仕置きだ!』

 

 大剣を銃の様に持ちかえると、そこから一気に砲撃が放たれた。

 驚いたのはディアーチェ達だ。展開が早い。チャージ時間が予想以上だ。魔法でもモビルスーツでも威力のある砲撃には必ずチャージ時間が存在する。理論上それと射線を確認してからでも回避が間に合う。格上の相手と戦う場合、それを見極めるか否かが勝負の鍵となる場合もあるのだが、今回はその時間すら彼女達には与えられなかった。

 

『王様!後ろに隠れて!』

 

 一瞬早く反応したのはレヴィ。タクティカルアームズを盾代わりにしてブルーフレームが前に出る。

 レヴィが何を考えているかはディアーチェにも理解はできる。

 

(確かにタクティカルアームズはラミネート装甲。ビームには耐性があるが……しかし!)

 

 ラミネート装甲。フェイズシフト装甲とは違い、こちらは耐ビームのコーティングである。

 レヴィは避けられないと悟ると、その特性を活かし自ら盾となったのだ。しかしラミネート装甲は展開すれば物理攻撃をほぼシャットアウトするフェイズシフト装甲とは違い、上限値が存在する。

 それがディアーチェの懸念。つまり防御能力以上のビームは防ぎきれないのだ。

 そしてマスターフェニックスのビームはその出力が桁違いとなれば……。

 

『うわっ!』

 

 遂にタクティカルアームズが限界を迎えた。大剣が爆散し砲撃がブルーフレームを直撃。幾分か威力が削がれていたとはいえ、直撃を受けたブルーフレームの両腕を吹き飛ばす。

 だがそれは逆にディアーチェにとってチャンスとも言える状況だ。

 全身から火花を散らすブルーフレームの背後から飛び出したフリーダム。フリーダムの特徴はハイマットフルバーストだけではない。その高い機動性もまたフリーダムを支えている要因だ。

 砲撃は避けられてしまう。ならばディアーチェに残された手はその機動性を活かした接近戦だった。

 桃色の光がフリーダムの手に宿り、すれ違い様に一閃。

 文句無しのタイミングだ。

 

 相手がマスターフェニックス。ひいてはコードフェニックスが相手でなければ。

 

『狙いは悪く無かった。だが後ワンテンポ遅かったよ』

「なっ……」

 

 本来ならば下段から一気に切り上げられて、腕の一本でももぎ取っていただろう。

 しかしマスターフェニックスは砲撃に使った大剣を盾代わりにして、その一撃を防いでいた。

 丁度レヴィがそうやって彼の砲撃を防いでいた様に。

 

『すまないが堕ちてもらうよ!』

 

 ギラリと掲げた大剣が光を反射する。フリーダムは今から姿勢制御しても間に合わない。

 ディアーチェは思わず唇を思いっきり噛み締めるのだった。

 

 

 バルバドロがその巨大な翼を宇宙に広げる。

 その姿は鳥の様。例えるならアラビアンナイトに出てくるロック鳥と言った所か。

 予期せぬ来訪者に地球連邦は混乱の極みに達していた。そうでなくてもアクシズの落下はまだ止まっていない。そこにこの怪鳥の出現。その翼から放たれる黒色のビームとも鞭とも思えるそれに地球連邦の機体は次々と破壊されていく。

 それを形だけでも立てなおしたのはSpiritsの女性艦長ニキ・テイラーだった。

 

『あのモビルアーマーは我々Spiritsが対応します。それ以外の各部隊はアクシズの落下を何としても阻止して下さい!……さぁ皆さん、舞台は整いました。これより第00遊撃隊Spiritsはあの正体不明のモビルアーマーの撃墜を試みます。宜しいですね!』

 

 彼女の凛とした声が戦場に響く。戦場の女神と名高い彼女の声に地球連邦のパイロット達は歓喜の声を上げ、一度は萎えていた気力を振り絞る。

 レン達もその声に呼応し、バルバドロへ攻撃を開始する。

 

 まずはレンとシュテルが前に出た。機動力でかく乱すべく二体の飛行機はバルバドロの周りを周回し、ビームを撃ち続ける。バルバドロの巨体に比べれば、二体はきっと鳥に群がる虫の様だろう。しかし加えられる攻撃はそうもいかない。二機の動きに痺れを切らしたバルバドロの羽が開き、あの黒色の光線が全方位に放たれる。

 しかし降り注ぐ黒色の光の中を二機は旋回しながら避けて行く。交わす一瞬のアイコンタクト。上下左右。機体をバレルロールさせては光を掻い潜り、更に攻撃を加えた。バルバドロはその巨体故に動きは散漫だ。その代わり全方位に向けて攻撃ができるが、それも当たらなければどうしようも無い。その弱点を攻める事。それが彼らの作戦だった。

 それを支援するのはゾディアックのハイゼンスレイⅡ・ラーとブラッドのアストレアタイプF。

 二機はその手に持ったライフルやビームキャノンをフルに放ち、レンとシュテルを援護。それに乗じて二人も攻撃の手を更に強めた。そして遂にバルバドロが沈黙する。

 

『キール!ラナロウ!』

 

 それを機にニキが声を上げた。弾かれた様に飛び出すのは二機のモビルスーツ。

 緑色の輝きを放つアヴァランチエクシアと、ドクロのマークと背中のX型スラスターが特徴的なスカルハート。

 接近戦を得意とする二機は好機とばかりにバルバドロへ。

 そしてまずはキールがエクシアの切り札を起動させる。

 

『トランザムッ!!』

 

 太陽炉と呼ばれる永久機関の出力を最大にする事で機体の性能を底上げするエクシア最大の攻撃だ。

 白と青の機体が赤熱したように赤に染まる。エクシアが急加速し残像を残したままバルバドロへ一気に詰め寄ると連撃を放った。

 加速は斬撃の威力を高める。そのエクシアの斬撃にバルバドロも反撃しようともがくが、それをラナロウが許さない。

 大型ビームサーベル、ビームザンバーがバルバドロの羽を切り裂いたのだ。

 爆散と共に八枚の羽が一枚落ちる。

 いける。いかに強大なモビルアーマーであろうとも無敵ではない。

 そう彼らが確信した時だった。

 突然バルバドロの頭部近くから鍵爪にも似た腕が伸びた。有線式のそれはキールとラナロウの機体を薙ぎ払い、爪で切り裂く。

 

「キール!先輩!」

「駄目だよレン!まだあれは生きてるよ!」

 

 救援に向かおうとするレンだったが、キリエの言う通りバルバドロはまだ健在だ。羽を一枚失くしたものの、まだあの恐るべき威力を誇る光線は十分に発射可能なのだから。

 再び降り注ぐ黒色の光線。二人に近づく事すらままならず、レンはそれを避けるのに精一杯。キールとラナロウは先の鍵爪でバランスを崩した所に光の雨。光に翻弄された二機。弾かれ、貫かれ、次々と機体の四肢が、装甲が剥ぎ取られていく。

 

「ちくしょう!諦めてたまるか!」

『そうです!ここでこの機体の好き勝手にはさせません!』

 

 レンの叫びにシュテルも呼応した。二機はモビルスーツとなり、迫りくる光線をものともせずにバルバドロに再接近を行う。

 その時だった。

 

 

『よくぞ吠えた。人の子よ!』

 

 

 それはどこからともなく聞こえてきた女性の声。

 突如全回線に向けて介入してくる。それと同時に二人の前に紫炎の塊が飛来した。

 紫炎の中で何かが雄々しく翼を広げる。それは黒き不死鳥の機体。

 肩にある大きな四枚の羽はどことなくマークのフェニックスガンダムを彷彿させる。だがそれよりも更に攻撃的な姿だ。翼を広げる姿は不死鳥と呼ぶよりも破壊と殺戮。そして勝利を呼ぶケルトの女神、モリガンと言う方が相応しいか。

 

『聞け!我が名はアプロディア。あれの名はバルバドロ。地球を滅ぼさんとする悪しき鳥!心ある者は我とこのハルファスベーゼに続け!この世界を正しき姿にするのだ!』

 

 

 この場に居るどのモビルスーツよりも気高く、どのモビルスーツにも無い圧倒的な存在感。

 それは異質でありながら、この混沌とした戦場に最も適した存在。

 何よりも驚愕なのは、彼女が自ら名乗ったその名前だった。

 

「アプロディアだって!?」

『アプロディア……。レン達の世界にオーバーワールドシステムとモビルスーツを教えた人物でしたね』

「ああ。だがそれはもう半世紀前の話だ。いきなり目の前にそのアプロディアが出てきても俄かに信じられないぞ?」

 

 シュテルに頷きながらもレンは、いまいち信用できないでいる。いや、そう考えているのはレンだけではない筈だ。この場にいる全ての地球連邦のパイロット達が信じられないでいる事だろう。

 しかしそれでもアプロディアを名乗る女性は尚も声を上げた。

 

『我に時間の概念は通用せぬ。我は地球の守護者。あの時うぬらにシステムの根幹とモビルスーツの設計図を渡したのは、地球が人の子によって守られながらも成長する姿を見届ける為。うぬらは見事その期待に応えた。ならば今こそ我も共に剣を取ろう!共に地球を脅かす悪魔を倒そうではないか!』

 

 そして高速で動きだす黒き不死鳥。その手には全てを刈り取らんとする大型のビームサイズ。

 バルバドロのビームを掻い潜り、みるみるその距離を詰めて行く。そしてバルバドロは再びあの鍵爪を伸ばした。

 

 一閃。

 

 交差すると共に、ビームサイズの一撃が伸びてきたバルバドロの鍵爪を斬り落とす。

 再び旋回し一度距離を取ると、アプロディアを名乗る女性は声高らかに呼びかける。

 さぁ行動は示した。次はお前達の番だと言わんばかりに。

 

『もう一度言おう!心ある者は我とこのハルファスベーゼに続け!この世界を正しき姿にするのだ!』

『レン、シュテルちゃん!悩んでいる暇はないわ。あれが本当にアプロディアなのかどうかは置いておいて、これはチャンスよ。協力してバルバドロを攻撃して下さい!』

 

 マリアからの通信にモニター越しにレンとシュテルは頷きあう。

 確かに今、黒き不死鳥に搭乗しているのが本物のアプロディアなのかどうかは分からない。しかしこちらに協力してくれるのであれば、今はそれに乗じるのが最良の一手。

 レンとシュテルは頷きあうと機体を発進させる。デルタカイとAGE-2。二機は黒き不死鳥に連なり、巨大な怪鳥に再び戦いを仕掛けて行った。

 

 

 

 二つの閃光が螺旋を描く。

 互いに真紅の体を持ち、不死鳥の名を冠する機体が何度もその位置を交差させては刃を斬り結んでいた。

 

『あらら!ハルファスが出てきたか』

『どうやら勝利の女神は俺達に微笑んでくれているみたいだな!』

『俺には勝利の女神よりも、地獄へと誘う死神の姿に見えるけどなっ!』

 

 マスターフェニックスの大剣、クロスバインダーソードが唸りを上げる。それを受け止めるのはマークが搭乗するフェニックスガンダムだった。二挺のビームライフルを変形させた、高出力のビームサーベル。

 刀身は通常のビームサーベルより短いが、その分出力と収束率は高い。むしろそれくらいで無ければ、クロスバインダーソードを正面から受ける事など不可能だろう。

 

 あの時ディアーチェを救ったのはマークが放ったビームライフルの一撃だった。

 そしてマークはディアーチェにレヴィの護衛を頼むと、単身マスターフェニックスに戦いを挑んだのである。実力は拮抗し、互いに決め手に欠ける時間が過ぎる中、アプロディアを名乗る女性の声により状況は動きだそうとしていた。

 

 切り結び、衝突する中マークは注意深く相手の機体を観察する。恐らくあの機体は接近戦に特化した物であろう。接近戦において大剣を手足の様に扱うその姿には微塵の隙も無い。だが離れすぎればレヴィを撃墜したあの砲撃が来る。それは共に戦場を駆け、チューンナップした愛機のそれを上回る事は間違いない。 

 ではどうするか。何であればフェニックスガンダムがあのマスターフェニックスを上回る事ができるか。

 それはスピード。何度かのぶつかり合いの中でマークはそれを確信していた。スピードならフェニックスガンダムの方が上であると。

 そしてまた何度目かの交差。スパークする閃光が二機を包み込んだ。

 

『うちのお姫様達に手を出したんだ!それ相応の報いを受けて貰うぞ!』

『そんなにあのお譲さん達が大事かい?なら部屋に置いて鍵でもかけておく事をお勧めするよ!むしろ戦場に出してくる方がおかしいんだ!』

『確かにな!だが戦場に出る事はあいつらが望んだ事!大人がそれを止める権利なんかない!』

 

 フェニックスガンダムから飛翔する小型の羽型遠隔武装。フェザーファンネルだ。硬直した二機の間を飛びまわり、無数の光線がマスターフェニックスを捕える。

 

『戦う事を決意したガキを守るのが大人の務めってもんだろうが!』

 

 そして遂にフェニックスガンダムがマスターフェニックスを捕えた。ビームサーベルを一閃し、右腕を斬り飛ばす。だがマスターフェニックスも大剣を振り、フェニックスガンダムの右ウィングバインダーを斬り落とした。

 爆発により距離が離れる二機。

 マークのフェニックスガンダムは右ウィングバインダーを失い機動力が半減。対してコードフェニックスのマスターフェニックスも右腕を失い攻撃力が半減。どちらも互いの長所を完全に失っていた。

 

『あいつらはもう俺達の家族だ。お前が何を企んでいて、どんな奴かは関係ない。俺達の前に立ち、攻撃を仕掛けてくるなら容赦はしない』

 

 ビームライフルを向け照準を合わせる。

 

『……結果、それで大怪我をしてしまうとしてもかい?もしかしたら死んでしまうかもしれない。本人がやりたい事をやらせる事だけが大人の務めとは限らないだろう?力があるから、周囲の期待があるからと言って子供は無茶をする。それを止めるのもまた大人の務めじゃないのかい?』

『……何だと?』

 

 意味深なコードフェニックスの発言。マークがそれに疑問を覚えた時だ。

 後方で大きな熱反応と転移反応を検知する。どうやらアプロディアとレン達の攻撃によりバルバドロが逃走を図ったらしい。そしてそれと同時にアクシズも霧の様に消えてしまった。

 

『どうやらバルバドロは逃げたみたいだね。まぁ、あいつがアクシズを呼んだんだ。あいつが消えればアクシズも消えるって寸法さ』

『ったく。一体お前らは何がしたいんだ?そもそもお前はニューロなのか?』

『その答えはこれから自分の目で確かめるんだね。言っておくけどこれで終わりじゃないぞ?俺とバルバドロはこれから何度でも姿を現す。俺達の目的の為にね』

『言ってる意味が分からん。そもそもその目的って何なんだよ』

 

 呆れたように頭を掻くマークに、それは教えられないなと笑うコードフェニックス。

 

『一応名前を聞いておこうか。俺と同じフェニックスを駆るパイロット』

『マーク。マーク・ギルダーだ。お前は?』

『コードフェニックスだ。じゃあなマーク。また会おう』

 

 その言葉だけを残しマスターフェニックスは後退していった。

 追撃しようにもこちらもまた被害が大きい。深追いは厳禁だ。

 一人残されたマークは退いていくマスターフェニックスを見ながら溜息を吐く。彼が残した言葉の通りまた会いそうな気がしてならない。そんな予感めいた物を感じるマークが機体を反転させた時だ。

 

『こらー!カッコつけてる場合かこのドあほぉ!さっさと迎えに来んかい!』

『ディ、ディアーチェ……。それはちょっと言い過ぎですよ~』

『そうだよ王様。助けてくれたんだからお礼言わなきゃ』

『ふん!……まぁ下僕の分際でよくやった。褒めてやるぞ!』

『だから王様、それ。お礼になってないってば~』

 

 通信ウィンドウが開きディアーチェの怒声が飛んで来た。ユーリが窘め、レヴィが苦笑しているがディアーチェは平常運転。いつもの彼女だ。

 どうやら機体の損壊のわりにレヴィも元気らしい。マークは安堵すると共に口元に笑いを浮かべる。

 

『な、何を笑っておる!さっさと迎えに来い!』

『へいへい。ったくうちのお姫様達は元気だこと。今から迎えに行きますよっと』

『我は姫ではない!王だ!』

『わーってるよ。王女サマ』

『分かってなーい!!』

 

 顔を真っ赤にして何か言っているようだが、マークには関係ない。

 ブルーフレームを抱えるフリーダム目指して、マークはフェニックスガンダムを走らせるのだった。

 

 

 

2

 

 

「こいつは驚いた。レヴィが大人になるとああなるんですね」

「全くだ。しかしレヴィの性格を考えるとあれは凶器だな。というか現在進行形でレヴィは色々と不味い」

「ええ。そうなる前にあの性格を直さないといけませんね。現在進行形で色々と不味いですし」

「……お主らは一体何を言っておるのだ?」

 

 レンが聖王教会の病院で目を覚ましてから一週間が過ぎていた。マーク達は既に終えていたらしいが、レンを待っていたのは精密検査の雨あられ。

 今日でやっとそれも終了し、ぐったりしたまま病室に帰ってきたレンを待っていたのは金髪の美人。

 いや、それだけならまだ驚きはしないだろう。精々レンとマークが「いよぉっしっ!金髪美人ラッキー!」と小躍りするくらいだ。

 だが流石にレンもそう歓喜するだけの余裕が今回は無い。

 いや、実際はしかけたのだがその顔を見て歓喜するよりも驚きが勝ってしまったのだ。

 その顔がレヴィとそっくり。いや、双子の様に同じ顔だったから。

 

「初めまして。君がレン・アマミヤ君だね?」

「は、はぁ。貴方は?」

 

 レヴィとは全く真逆の大人びた笑みと差し出された手にドキドキしながら、レンは彼女と握手を交わす。

 

「私は時空管理局本局執務管フェイト・T・ハラオウンです。そして……」

「ボクのオリジナルだよ!ねー♪オリジナル~♪」

「う、うん。だからねレヴィ。何時になったらちゃんとフェイトって呼んでくれるのかな~」

「無駄ですよフェイト。レヴィのそれはもう癖みたいなものですから」

 

 フェイトに抱きついたレヴィは無邪気に笑っているが、自分の名前をちゃんと呼んでくれない事に彼女は若干肩を落としている。ベッドの上でお茶を啜っているシュテルに突っ込まれて更に彼女は肩を落とす。

 

 その会話を聞いてレンは一人納得していた。シュテルが以前話していたが、こうしてみると本当に同じ顔だ。

 シュテル達はある人物達を素に生み出されたマテリアル。魔力構成プログラムだと本人達は言っている。

 見た目は人間と何ら遜色ない。成長もすると言うし、あまりレンは気にしていなかった。

 しかしそのオリジナルの一人が目の前に居ると、否が応にも納得せざるを得ない。

 

 改めて彼女を見た。するとマークが彼の肩に手を置き、無言で頷いている。

 返すレンもまた無言の頷き。

 圧巻だったのだ。そのグラマラスなプロポーションが。服の上からでも分かる完璧なボディライン。

 男二人の視線は次にレヴィへ。現在進行形で『色々と』発達しているレヴィ。

 一方は格段に落ち着いており、少女から大人への過渡期にある金髪の女性。

 もう一方は無邪気な笑みを浮かべている、純真無垢な水色の髪の少女。

 

 そして冒頭の台詞へと繋がる。

 

「レン……後でお仕置きですね」

「そうだね~。私もその意見には賛成かな」

「ちょっ!?シュテルならいざ知らず、キリエまで!?」

「マークもね」

「マリアさん!?」

「うちの男共は馬鹿ばっかだな」

「あはは~……いっぺん死んでこいです」

「「?」」

 

 残りの女性陣に白い目で見られ、男二人は「理不尽だ」とその場に崩れ落ちた。

 レヴィとフェイトはその様子に首を傾げている。

 とりあえず未だ崩れ落ちたままの男二人は放っておいて、フェイトはレヴィを椅子に座らせる。

 改めて全員の顔を見る。いつしかその顔は執務管の顔になっていた。

 

「今日はレヴィ達の友人としてではなく、一人の執務管として皆さんの前に来ました。少しお時間を頂きますが、構いませんか?」

「遠慮なさらずに。時間ならたっぷりありますから」

 

 マリアの言葉にフェイトは安堵したように微笑む。

 そして彼女は語りだす。

 まずは彼らの現状について。

 レン達は今の所、所謂『難民』扱いという事。本来ならば元の世界に帰さなければならないが、その世界そのものが見つからない。故の難民扱い。となれば、ミッドに住むという選択肢が生まれる。フェイトはその為の書類をレン達に見せた。

 

「戸籍を取るというのはミッドにおいてはさほど難しい問題ではありません。むしろ、皆さんのように次元漂流者を受け入れるというのがミッドでは日常茶飯事でもあります」

「そんなにその次元漂流者ってのは多いのか?」

「残念ながら」

 

 マークの問いにフェイトは少し苦笑してみせた。

 数多の次元世界と連なる世界ミッドチルダ。次元を繋ぐと言う事は、世界という空間に一種の繋がりができると言っても良い。それは時としてほんの僅かなゆらぎから無差別に空間を繋ぐという現象を引き起こしていたのだ。故にミッドでは年に数件。多い時でも十数件。マーク達の様な次元漂流者が姿を見せるのだと言う。

 

「そしてここからが本題です。マークさん、マリアさん、レン君。貴方達にリンカーコアがある事が分かりました」

「……どう言う事?」

 

 マリアが問いかける。話が唐突過ぎて理解が追いつかない。

 それを聞いてディアーチェが盛大に溜息をついた。

 

「マリア、以前にも話した事があっただろう?つまりはお前達にも魔法を使う素質があると言う事だ」

「リンカーコアとは魔法を使う為の器官。空中に漂う魔力素を体内に取り込み魔力とする、いわば魔導士の必須条件なんですよ」

「それは分かるわよ。でも私達にはその器官が無かったはずじゃないの?だから私達の世界では魔法が使えなかったんじゃない。それなのにいきなりそう言われても……」

 

 ユーリがディアーチェの言葉を引き継いで当たり前の様に説明を続けた。しかしマリアにしてみればそこが問題なのではない。マリアの言う通り、もしも自分達にリンカーコアがあるのならば、本来の世界でも魔法が使えた筈なのだ。なのに何故?

 

「……これは一般論として聞いて下さい」

 

 マリアの問いに口を開いたのはフェイトだった。

 彼女は三人を見渡すと、ゆっくりと語り始める。

 

「リンカーコアは確かに本来先天的な物ですが、決してそれにばかり当てはまる物ではないのです。極々稀に後天的に突然発生するパターンも存在します。正直な所、後天的に発生する原因というのはまだ解明できていません。今回何らかの要因でマリアさん達にもリンカーコアが発生した。そう考えて頂く他ありません」

 

 そこで言葉を切る。

 その言葉は真実。しかしフェイトは全てを語った訳では無かった。黙っている事に気も引けたが、ここで全てを語る必要はないだろう。後天的に発生した場合の『異常性』。後にフェイトはそれを自らの目で確認することになる。

 

「そこでこれは相談です。皆さんには二つの道が選択できます。一つは民間人としてこのミッドで普通に生活する事。仕事等は適正を見て、こちらから紹介しますし住居もこちらで提供します。もう一つはこれから魔法の勉強をして時空管理局に入隊する事。これもサポートはこちらでしますし、管理局に入る為の学校への資金もこちらで用意します。すぐに返事を下さいとは言いません。少し考えてみてください」

 

 敢えて強制ではなく、自らの意思で決めてほしい。それがフェイトの願い。

 

 民間人として生きて行く選択をするのも有りだろう。聞けば彼らは元の世界で長い戦いを繰り広げてきたらしい。ここで新しい生活をするのも悪くは無いはずだ。

 時空管理局に入るというのもまた有りだろう。実戦経験のある彼らならきっと優秀な魔導士になるに違いない。魔力ランクが如何程かは別にして、何よりもその知識と経験はきっと役に立つ。

 つまりどの道を選んでも、フェイトは彼らを全力でサポートするつもりでいたのだ。

 何よりもあのレヴィ達の友人。自分もまた彼らと友人になりたいと思っていたのだから。

 

「ですが、分からない事が一つだけ。貴方達が元の世界に乗っていたという機動兵器。えぇと、ガンダム……でしたか。それが今何処にあるのか分からないのです。貴方達が転移してきた時、確かにガンダムを私達は目撃しています。でも、唐突にそれは光になって消えてしまった。その後調査を行いましたが、結局見つからなかったのです」

 

 フェイトが目を伏せたまま告げる。レン達の転移後、管理局でもガンダムの事は大いに話題になっている。見た目が見た目だ。質量兵器を禁止するミッドチルダに於いて、ガンダムは立派な質量兵器に相当するだろう。

 最悪、管理局で没収もあり得る。

 

「ねぇフェイト。一つだけ聞いても良い?」

「キリエ?どうしたの?」

「もしもの話よ?もしもガンダムが“今は簡単に扱えない状態にある”ってなったらどうなるの?」

「それは起動できない、と考えて良いのかな」

「そう取って貰っても構わないわね~」

 

 しばしフェイトは考え込む。

 質量兵器。簡単な例を上げれば、銃がそれに該当するだろう。一部魔力の無い管理局員が護身用に許可を取って持ち歩いているし、実質その技術が完全に失われた訳でもない。

 そもそも質量兵器の定義は“魔力運用を必要としない大量破壊兵器”だ。スイッチ一つで子供でも無差別な破壊行為を行えてしまう為に管理局は質量兵器を禁止した。

 ではキリエの言う通り、簡単に起動できない状態ではどうか。

 

 これは限りなくグレーだ。

 

 簡単に起動できない。つまりは誰でもそれを扱う事が出来ないという事。

 簡単に誰でも使えないと考えれば、除外できるかもしれない。

 だが定義からすれば、魔力運用しない兵器という時点で該当してしまう。

 その旨をキリエにフェイトは伝える。するとキリエは更に条件を追加した。

 

「なら動力が魔力であればどう?」

 

 それであれば話はまた別物だ。魔力運用の兵器は制限こそあれ、確かに存在している。

 これも身近な例ではあるが、かつてフェイトが在籍していたアースラの魔導砲アルカンシェルがこれに該当するだろう。

 

「多分それなら条件付きで大丈夫だと思うけど……まさかキリエ。貴方、ガンダムが今何処にあるのか分かるの?」

「まぁね~。分かるか分からないかという質問なら、分かると答えておくわ」

 

 相変わらず曖昧な返答だ。思わずフェイトは眉をしかめる。昔もそうだった。人を煙に巻くような返答で相手を混乱させる。そしてその真意を悟らせまいとする。

 真面目なフェイトにとって最もやりにくいタイプだろう。

 しかしそんなフェイトの心情を察したのだろう。それにこれ以上は無意味。キリエにとって必要な情報はもう十分に引き出せた。

 彼女は立ちあがると、レンのベッドの脇にある引き出しから一枚のカードを取り出す。

 大きく翼を広げる不死鳥が描かれたそれを手渡され、フェイトは首を傾げる。

 

「これは?」

「ん~、私のヴァリアントザッパー待機状態。それで、その中にガンダムは存在しているわ」

「え!?」

 

 思わず声を上げて驚く。彼女だけではない。初耳だと言わんばかりにレンとマーク、マリアの三人も声を上げた。しかし対照的にシュテルとディアーチェは諦めた様な溜息。レヴィとユーリは互いに苦笑いをしている。

 

「……どういう事?キリエ、説明してもらえる?」

「それについては私よりもシュテルちゃんに聞いた方が確実かな。シュテルちゃん、お願いできる?」

「……はぁ。できれば黙っていたかったのですがね。この際仕方ありません。説明しましょう」

 

 シュテルは語る。

 そもそも話は彼女達がエルトリアに居た頃まで遡る。エルトリアは当時、生態系が非常に不安定で下手をすれば戦闘になる事も多々あった。そんな中、シュテル達が目を付けたのはエルトリアの優れた科学技術である。それでデバイスの能力拡張を行ったのだ。言ってみればメモリー拡張だ。魔力運用の効率化ならびに処理速度の向上などを目的にそれは実行される。

 そしてミッドに飛ばされたあの日。キリエとユーリ。そしてシュテルのルシフェリオンとレヴィのバルニフィカスは独自にある判断を実行する。

 それはガンダムのデータ化。

 ガンダムをデータ化し、デバイスの中に保存したのだ。図らずも、エルトリアでメモリー拡張を行っていた事でガンダム程の大きなデータも保存する事ができたのである。

 キリエ曰く、それでもそれは完全に賭けだったらしい。彼女達もキリエに言われて各自のデバイスチェックをした際には目を丸くしたものだ。

 

「そんな……。兵器のデータ化?そんなの聞いた事が無いよ!あり得ない!」

「貴方が信じる信じないは問題ではありませんよフェイト。現にこうして私達のデバイスにはガンダムが保存されています。……もっと言ってしまえば、私達が居た世界の物だからこそ、可能だったと言うべきでしょうが……」

「それはどういう……」

「あーはいはい!!そこはあまり突っ込まないであげてねー♪そんな訳で、実は現在データ化したガンダムを見直しててね、この世界にあった動力方式にプログラムを修正中なの♪」

 

 意味深なシュテルの言葉にフェイトが尋ねかけたが、それを止めたのはキリエ。そして告げた言葉はフェイトに更なる衝撃を与えた。この世界にあった動力方式。それはつまり……。

 

「魔力運用型にするという事?」

「だってそうでもしなきゃ、もう真っ黒の質量兵器なんだもん。でもまだ上手くいってなくてねー。だから簡単には起動できないって言ったの。どう?これなら質量兵器に該当しないでしょ?」

「全く……。こじつけもいい所だよ……」

 

 もうほとほと呆れたとばかりにフェイトは大きな溜息をつく。まさかこんな裏技で質量兵器を回避するとは思わなかった。黙ってそれを聞いていたレン達も同様に開いた口がふさがっていない。

 

 だが問題はまだ解決していない。百歩譲ってキリエ達のデバイスにガンダムが保存されたのは理解できた。しかし数が一致しない。デバイスの数は4。ディアーチェとユーリは一つのガンダムに乗っていたとしてもまだ足りないのだ。

 マークとマリアのガンダムが。

 

「ああ、それなら問題ない。二人のガンダムもこの紫天の書に保存してある。そうさな、ユーリ。あ奴と変わってくれるか?」

「はーい。それでは……」

 

 ディアーチェに促され、軽く返事をしたユーリ。そして一度目を伏せ、次に彼女が目を開いた時だ。

 雰囲気がガラリと変わった。

 いつものゆるふわな彼女は居ない。代わりに彼女が発していたのは、外見からは想像できない程落ち着いた女性のそれ。

 あまりの変化にフェイトはおろか、レン達も声が出ない。そんな状況がおもしろいのか、ユーリの姿をした別の存在はクスリと軽く微笑む。

 

「まさかここまで驚かれるとは思いませんでしたね。ディアーチェ」

「当たり前だろう。最初は我らとて同じ反応をしたであろう?なぁ、アプロディア」

「「「はぁ!?」」」

 

 病室に叫び声が響く。

 相変わらず微笑を浮かべるユーリ。いやアプロディア。

 もう完全に腰を抜かしてしまったレン、マーク、マリアの三人。

 事情を知っているのか、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべたディアーチェ達四人。

 

「もう、何が何だか全然理解できないよ……」

 

 一人状況についていけずに取り残されたフェイトが、肩を落としてポツリと呟いた。

 

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