魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第39話 潜む者、動き出す

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 ギャン改、という機体をご存じだろうか。

 レン達Spiritsが疑似体験した宇宙世紀と呼ばれる世界。地球連邦と敵対したジオン公国と呼ばれるスペースコロニ―国家が生み出した多くのモビルスーツの中に、ギャン、と呼ばれる機体がある。主武装は高出力ビームサーベル、盾に内蔵されたニードルミサイルの二つ。しかしニードルミサイルは牽制、威嚇用であり、実質武器は高出力ビームサーベルだけと言っても良い。

 つまるところ白兵戦、この場合は対モビルスーツ戦に特化した機体である。しかしモビルスーツ戦は一対一の決闘となる場合が少ない。まして戦争ともなれば多くの機体は入り乱れ、どんな状況にも対応できる汎用性が求められるのは当然の流れだ。ギャンはその中で汎用性に乏しく、運用の難しさからジオン公国の次期主力トライアウトに負けてしまったと言われている。しかし白兵戦、という一点においてギャンは非常に優秀な機体であり特化させたなりの成果は残している。

 その白兵戦一点特化を更に突き詰めたのが、ギャン改なのだ。

 武器は大型ビームソードと盾に内蔵されたニードルミサイル。ギャンと同じではあるが、装甲はギャンに比べて遥かに堅牢になり運動性も飛躍的に向上している。そしてその姿は正に騎士を思わせる風体。汎用性を殺してもなお、そこには開発者の浪漫が感じられる。

 しかし残念な事にこの機体が宇宙世紀の表舞台に出てくる事は無い。残念な事だ。ギャンやギャン改が生まれてから約半世紀後、彼の存在の様に接近戦に主を置くガンダムまで存在したと言うのにだ。

 もしもこの時代にギャン改が製造されていたのならば、また違った結果が生まれていた……かもしれない。

 

「推して参る!」

 

 意気揚々とした声がコックピットに響いた。

 数体のモビルスーツに向けてその機体は大型ビームソードを構える。実体剣複合型のそれは刃の部分にビームを発生させていた。ビームサーベルはそのエネルギーで『焼き切る』という側面が強いが、実体剣複合型であるそれは重さを伴う事でその側面に『叩き切る』という剣本来の側面を生みだす事ができる。

 対するモビルスーツはMMS-01 サーペント。非常に多くの重火器と堅牢な装甲の為に鈍重そうに見えるが、体の各所に高推力のスラスターを設置した事でそれをキャセルする機動性を手に入れた機体である。

 その為汎用性が高く、ある意味ギャン改とは真逆のモビルスーツとも言えた。

 しかしギャン改は退かない。

 サーペントの左腕に装備されたダブルガトリングガンからの弾丸にも臆することなく迎え撃ったのだ。

 驚くべきはその推進力だろう。サーペントの主力武器であるダブルガトリングガンは文字通り弾丸の雨を相手に浴びせる制圧武器だ。そしてサーペントの数は複数。下手な機動力ではあっという間に蜂の巣にされてそれだけで勝負は決する。しかしギャン改は大きく弧を描く軌道でそれを振り切る推進力を見せたのだ。土煙を上げて瞬時に近づくと大型ビームソードを跳ね上げ、一体のダブルガトリングガンを斬り飛ばす。そして返しの刃でサーペントを両断して見せた。厚い装甲を持つサーペントを一刀で、である。

 そして爆発に紛れ離脱。盾からニードルミサイルを放ち爆発を大きくする事でかく乱を誘発する。

 巻き起こる炎にサーペントの一団は案の定ギャン改の姿を見失っていた。その隙を逃す手は無い。

 再び距離を詰めると盾を構え、体当たりを慣行。轟音と共に一体のバランスが大きく崩れた。総重量ではサーペントの方が圧倒的に有利なのだが、当たり負けする事もなく再度大型ビームソードがそのサーペントを両断。すぐさま機体を反転させると、近くの一機に向けて大剣を薙ぎ払い一気に切り抜ける。

 鮮やかな連続攻撃によって瞬く間に二機のサーペントがギャン改の背後で爆散する結果となった。

 だがまだサーペントは残っている。その爆炎の中で、ギャン改に向けられた砲身。背後から撃たれるかと思われたその時だった。

 轟音と共に弾丸の雨が降り注いだ。その雨の中、体中を蜂の巣にされ、痙攣するかの様に震える所へトドメの閃光が貫いていく。

 

『エルフリーデさ~ん、背中ががら空きですよ~♪』

『そう言うなよクレア。そいつを援護するのが俺達の仕事だろ?』

『ビリー! クレア! 助かったぞ』

 

 高台の上で巨大なガトリングガンの砲身から煙を上げたモビルスーツが見降ろしていた。

 RX78-5 ガンダム5号機。白と赤、そして黄色を基調としたRX-78シリーズ5番目のガンダムにして、ビリー・ブレイズの機体である。体の各所についたブースターとマグネットコーティングにより機動力は折り紙付きだ。そして何よりもサーペントを撃ち抜いたジャイアント・ガトリングガンによる高い制圧力が売りの機体である。

 隣には緑色のモビルスーツがスナイパーライフルを構え、同じ様に見降ろしている。

 こちらはGN-002 ガンダムデュナメス。クレア・ヒースローの機体だ。キールのガンダムエクシア、ダブルオークアンタ。そしてブラッドのヤークトアルケーと共に太陽炉を搭載した狙撃を得意とするガンダムだ。しかしその体躯はコートの様に大型のシールドにも覆われ、高い防御能力も兼ね備えた機体でもある。

 

『二人とも、他はもう良いのか?』

『あらかた済ませてきた、と言いたい所だがな。そこは助っ人に任せて、俺達はこっちを優先させたのよ』

『いくらエルフリーデさんでも油断はノンノン。接近戦は後ろからの援護があればこそ、ですよ』

『ふっ。言ってくれるじゃないかクレア。だが私はあれを助っ人などとは思わんぞ。怪しい素振りを見せたら容赦なく斬ってくれる!』

『そいつは俺も同じだ。だがな、協力してくる内はその力を利用してやるまでよ』

『もー、二人とも頭固いな~。今は協力してくれるだけ良いじゃん。そもそも何考えてんのかも分かんないだしさ~』

『それが信用ならんと言ってるのだ!』

 

 エルフリーデの駆るギャン改が再度飛び出した。そしてビリーのガンダム5号機も高台から飛び降りるように機体を躍らせる。そこを狙ってサーペントもミサイルを放つが、ビリーは巧みに機体を操作。機体のブースターを最大限に活かし見事に空中制動を行うと、薙ぎ払う様にジャイアント・ガトリングガンが火を噴いた。不安定な体勢であるにも関わらず、弾丸はミサイルに着弾。一つ残らず空中での撃墜に成功する。そしてその間にギャン改が間合いを詰め、大型ビームソードでサーペントを斬り捨てていった。

 遠方からはクレアのデュナメスが狙撃を行う。エルフリーデとビリーの死角を補うように飛ばされた閃光が正確無比にサーペントを貫いた。攻撃範囲外からの狙撃に、たまらずデュナメスに攻撃目標を変えようとしてもその前にはギャン改とガンダム5号機が立ち塞がり一歩も通しはしない。そこでまごついた所に再びデュナメスの狙撃が襲いかかるのだ。

 その姿、正に一騎当千。

 息の合った連携により、如何に堅牢な装甲と重火器を持つサーペントといえども瞬く間にその数を減らしていく。戦線を維持するどころか、むしろ壊滅させんばかりの勢いだった。

 

 

 

 

 

 

 事の起こりは四時間前に遡る。

 極東支部に突如として警報が鳴り響いた。その時ゼノンの部屋にいたレン達は、外が一気に慌ただしくなる気配を感じる。しかし正直な所状況も分からなければ、何かができるという訳でもない。仕方なく、ゼノンから何か指示が出されるのを待つしかなかった。

 そして電話を切ったゼノンが眉間に皺を寄せている。それだけで良い知らせでは無い事は分かる。

 

「中将、どうしたんです?」

「ああ……。ここから南の海上に小さな島々がいくつもある海域を知っているだろ?」

「ええ。演習で何回か言った事があります。小さな島々と言っても、かなりの面積を持っていて地上と海上。どちらの訓練にも適した場所だったのを覚えてます」

「ならば話は早いな。今日もそこで演習が行われていたのだがその小隊が襲われ、救難信号が入った」

「救難信号!?」

 

 ガタリとレンが立ち上がる。スバル達もその言葉に顔を曇らせている。

 

「相手は!? どれくらいの規模なんです!? いや、それよりも何処のどいつですか!!」

「落ち付けレン。儂もどう説明したら良いか分からんのだ。現時点で分かっている事は二つ。今、その敵は小隊以外の機体と戦闘を繰り広げている。小隊もその機体達に助けられたというのだ。だが問題なのはその機体、動かしているは……ニューロだ」

「はぁ!?」

「だから儂も混乱しているのだよ……」

 

 ニューロ。ジェネレーションシステムの情報端末にして、この世界で半世紀近くに渡り、人と戦争を繰り広げてきた存在。四年前、戦争が終結したと同時に消えたニューロが再び姿を現した。しかも争っていた人間を守るかのように。前とは真逆の動きをするニューロの行動には流石のゼノンもどう捉えて良いか分からないのだろう。だがレンは妙に納得していた。ニューロが人類を守る為に動いたという事は、その裏にはきっとアプロディアがいるはずだ。彼女がシステムに戻ったからこそ、ニューロを動かしたに違いない。

 だがそうなると相手側が気になる。アプロディアがニューロを動かすにはそれなりの理由があるはずだ。

 逆に言えば人間同士の争いならば、彼女が動く理由が無いとも言える。基本的に人類を見守る立場の彼女が人間の争いに介入し、一方にのみ力を貸すとは思えないのだ。あくまでこの世界の人間に対し、彼女は中庸。言ってしまえば自然と同じ存在なのだから。

 ならば何故彼女が動いた? 答えは一つ。その敵がこの世界の異物であり、排除しなければならない敵だと言う事だ。

 改めて敵の存在を問う。そしてゼノンの口から教えられた答えにレンは愕然とするしかなかった。

 

「中将、そいつは何の冗談ですか?」

「バカもん。冗談でこんな事を言うか」

「だったらふざけているにも程がある!」

 

 ダンっと力任せに拳を机に叩きつけた。驚きから怒りに代わるレンの顔。しかし事情を知らないティアナ達は何故レンがそんなに怒っているのかが分からない。事情を聞こうにも聞ける状態では無いのは見ていて分かる。

 ゼノンが告げた相手の名。それはマフティー・ナビーユ・エリン。

 一体それが何だと言うのか。置いてけぼりのティアナ達にゼノンはゆっくりと口を開く。

 それはかつてSpiritsの疑似体験した世界にあったテロリストの組織名だ。三種の言語を組み合わせた造語で『正当なる預言者の王』という意味を持つ。その世界の少女はそれを酷いメドレー。名前じゃないと揶揄してさえいた。

 その組織の実行部隊のリーダーである青年。彼は少年時代に二人の英雄の生き様を間近で見ている。

 一人は人類の可能性に賭けた英雄、アムロ・レイ。

 もう一人は地球を守る為に自ら罪を背負おうとした英雄、シャア・アズナブル。

 二人の英雄は互いに近しい存在でありながらも対立し、共に帰って来る事はなかった。

 それから十余年。一見すれば落ち着いた平和な日々。しかしその世界における地球連邦は腐敗の道を突き進んでいた。一部の高官達による地球の私物化と汚染。それに対し、立ち向かったのがマフティー・ナビーユ・エリンというテロ組織であり、実行部隊のリーダー。ハサウェイ・ノアという青年だった。

 ハサウェイはΞガンダムというモビルスーツを駆り、後一歩という所まで地球連邦を追い詰める。しかし地球連邦の対マフティー部隊の指揮官であり、それと知らずハサゥエイと親交を深めていたケネス・スレッグ大佐の作戦によって反乱は失敗。捕えられたハサウェイは処刑されてしまう。

 

「気持ちの良い物では無かったよ。あの世界に限らず、俺達の疑似体験した世界の戦いは人の思いのぶつかり合いだ。大局的に見れば二つの組織の戦争。でもその中を駆け抜けて戦士達は互いの思いを交差させる。特にこのマフティー動乱は色々と考えさせられたよ」

 

 それから先、連邦は更に腐敗の道を突き進む。そして似た様な事はどの世界に行っても同じだった。

 一部の人間による独裁、それに反する者達。それは『ガンダム』というモビルスーツが存在する世界で避けては通れない宿命の一つと言っても良いと、説明を引き継いだレンは最後に締める。

 

「奴らが何処でマフティーの名を知り、それを語るかは分からん。しかし我々もSpiritsがもたらした情報と記録を見て、多くの世界と組織を反面教師にしてきたつもりだ。それでもなお奴らがこの世界でマフティーを名乗るのであれば、我々はケネス・スレッグにならなければならん」

「分かっていますよ。その為にGeistが動くんでしょ?」

「そうだ。レン、悪いがGeistと共に鑑に乗ってくれるか? マフティーの機体はどうもモビルドールの類らしいし、彼らの腕を信用していないのではないのだが一応の保険はかけておきたい。セリカには儂から話を通しておく」

「了解。ティアナ達は?」

「彼女達は部外者だ。このまま儂と共に支部に残って欲しいのだが……、無理みたいだな」

「ですね」

 

 ゼノンの意見にはレンも共感せざるを得ない。何故なら彼女達の目はレンと共に行くと言って聞かないのだ。時空管理局の一人として、機動六課の一人として。そして仲間が再び戦いの場に出るかもしれないという状況の下、黙って待っていられる玉ではないのはレンが一番知っている。

 しかしこれは魔法世界の様に非殺傷のある戦いではない。そして相手はモビルドール。つまり無人機なのだが、場合によっては人が操るモビルスーツが出てくるかもしれない。それでもそれを撃たなければならないし、最悪彼女達にも危険が及ぶかもしれない。そう考えると素直に連れて行くとも言えず、レンは困った表情を浮かべた。

 そんな彼の手をそっとスバルが握る。瞳は真っ直ぐレンを見ていた。

 

「大丈夫だよレン兄。世界が変われば常識も変わる事くらい、あたし達だって分かってるつもり。もしも人が乗ったモビルスーツが出てきて、レン兄やGeistの皆がそれを撃つ事になってもそれにとやかく言うつもりはないから」

「スバルの言う通りです。それに部外者だなんてとんでもない。あたし達も行かなきゃならない理由がある。そうでしょ? レンさん」

「やっぱりティアナは気付いてたか」

「当然ですよ。ニューロって聞いてピンと来ましたから」

 

 どうだとばかりに片目を瞑るティアナ。これは一本取られたとレンも肩を竦める。

 そう。ニューロが出てきたという事はアプロディアにコンタクトを取れるかもしれないという事だ。

 今は何故か連絡の取れないアプロディアだが、ニューロを介してコンタクトを取れればミッドチルダに帰るチャンスができるかもしれない。上手くいく保証は無いが、アプロディアと接点を持つ為にも今はそこに賭けてみる余地はあるとレンは考えていた。

 

「さて、そうなるとエリオとキャロはどうする?」

「水臭いですよレンさん。僕もお二人と同じで覚悟はできています。だから置いて行くなんて言わないで下さい」

「私は……正直怖いです。人が傷つくのも、傷つけられるのも好きじゃないですから。できるならそんな光景見ずに済めば良いと思います。でもここで一人残るのはもっと嫌です。だから私も頑張ってみようと思います!」

 

 やはり二人もレンと共にGeistに同行する意思が固いらしい。レンとしては正直彼らにこそ残って欲しいのだが、それはやはり無理な相談な様だ。ならばせめてこの子達にそんな光景を見せる事が無い様な状況である事を願うばかりである。

 そしてレンが折れたのを確認したゼノンがセリカに連絡を取った。ここでどんなに彼女達が着いて行く意思を示そうとも、最終的にセリカが拒否をすれば同行する事はできない。しかし意外にもセリカはOKを出す。これで後戻りはできなくなった。

 

「……分かった。ならみんなは自分の身を守る事を優先してくれ。最悪、魔法を使ってでもみんなは生きる事を優先してほしい。俺も……。もしも出撃する様な事態になった時は全力を尽くすから」

「決まりだな。ならばレン。彼女達を連れて5番ポートに向かってくれ。そこにGeistの戦艦がある」

「了解。行くぞ、みんな!」

『はいっ!』

 

 レンの掛け声に四人が立ち上がる。

 そして五人は駆け足で部屋を出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 

「まさかニューロと共闘する事になるなんて思いもしなかったわ……」

 

 空戦を続ける白い小型モビルスーツ。F91 ガンダムF91のコックピットでエリス・クロードは小さく呟いていた。ゼノンが感じていた戸惑いは何も彼だけに限った話だけではない。あの戦争を戦ってきた誰もが感じるものだろう。勿論エリスもその一人だ。彼女も四年前は新兵として戦争に参加していたのだから。

 だが彼女が駆り出された二ヶ月後、戦争はいきなり集結する。

 あの地球圏絶対防衛線を敷いた新西暦201年12月。彼女はあの時の光景を一生忘れないだろう。

 淡緑と蒼炎が走りまわる宇宙。その中心にいた三体のガンダム。全てが溶けあう宇宙を単純に彼女は綺麗だと思っていた。幼い頃見たオーロラの様な幻想的な光景に彼女はそこが戦いの場である事も忘れてただただ見惚れていた。

 そして突然彼女は見る。

 十字架が描かれた書物を手にした女性が炎の中に立つ姿を。

 腰まである銀の髪とルビーの様な透き通る紅の瞳。その瞳から流れ落ちる涙。

 彼女を包んでいたのは悲しみ。そしていつしかエリスも同じ様に涙を流していた。

 

 どうして貴方は泣いているの?

 

 問いかけるエリス。女性は瞳から流れる涙を拭い答える。

 

 悲しいからさ。私の目覚めは即ち世界の終わり。どんなに愛情を注ぎ、どんなに未来を願っても私がそれを見届ける事はできない。待っているのはいつも同じこの炎の世界だ。今度こそは、今度こそはと願っても私にかけられた呪いがそれを許してはくれない。それが堪らなく悲しい。

 

 女性の悲しみがエリスの胸を締め付ける。意味は分からないが言葉の一つ一つが彼女の中に、エリスの悲しみとして流れ込んでくる。

 そんなエリスに女性は微笑む。

 なんて悲しい笑みなんだろう。何か自分では計り知れない物を抱えた笑み。

 そしてそれは全てを諦めた笑みでもあった。

 

 君は優しいね。でも私は運命に抗う事に少々疲れてしまった。この世界を壊して私は眠りに就くだろう。

 ……願わくば、次に目覚めた時が君の世界でない事を。

 

 待って! 貴方は一体……。

 

 必死に手を伸ばす。しかし二人を炎が遮った。不思議と熱は感じない。しかし勢いだけは本物と思える炎が彼女を体を飲み込み、エリスは世界が閉じるような感覚に飲みこまれる。

 気付いた時、オーロラの様な光は消え、彼女の目の前には地獄が広がっていた。今までニューロと戦っていた仲間が仲間を撃墜する。状況が掴めず、様々なチャンネルを開いても聞こえてくるのは阿鼻叫喚か狂ったような声ばかり。そしてその矛先はエリスにも向かってきた。

 意味が分からない。もう聞きたくないとチャンネルを切っても聞こえてくる声の嵐。もう無我夢中だった。死にたくない。生きていたい。その一心が彼女にトリガーを引かせる。

 その後の事はよく覚えていない。ただエリスは機体を損傷しながらもまだまともだった戦艦に収容されたというのだけは辛うじて覚えていたくらいだ。

 結局全ての決着がつき、ニューロの姿が消え、戦争が終わった事を知ったのは敵味方乱れる宇宙の戦場のど真ん中。セリカやレイチェル達に会ったのもこの時だ。つまり、その時のメンバーが今のGeistだという事になる。

 ともかく、彼女の戦争はこうして突然終結した。

 そして今、その時命を賭けて戦っていたニューロと共闘するとは人生よく分からないものだとエリスは苦笑してしまう。まだ若いエリスにはニューロとの戦いに人生の大半を奪われた人の気持ちを全て理解する事はできない。しかし、ニューロがこの世界にもたらした災厄は理解している。故に今も複雑な気持ちで彼女はF91のビームライフルを撃ち続けた。

 しかしそんな物思いにふけったのが不味かったのか、エリスの背筋に悪寒が一気に走ると同時にアラームが鳴り響く。背後から接近するミサイル。迎撃は間に合わない。多少のダメージを覚悟し、エリスはビームシールドを起動させた。

 が、そこに横切る光の帯。見ればニューロの機体、女性型のフォルムが特徴的なレギナがバインダーシールドライフルを構えている。

 

「もしかして、助けてくれたの?」

 

 問いかけてみるが当然答えは無い。しかしF91の横に並び立ったそのレギナは彼女を守る様にライフルを構えて見せた。

 

「……正直、貴方達が本当に味方なのかどうなのか私には分からない」

 

 聞こえているのかどうかは関係ない。だがエリスは横に並ぶレギナにそう語りかけていた。

 やはりレギナが答える事は無い。分かっていた事だ。四年振りに見たニューロに感傷的になっているのかもしれないとエリスが前を見据えようとした。

 

「……?」

 

 誰かに見られている。そんな感覚が突然襲ってきた。敵意は感じられず、むしろそれは心地の良い温かな感覚だ。慈愛、とでも言えば良いだろうか。まるで母親が娘を見守るような温かな感覚。

 この戦場では場違いと言い切っても良いその感覚はエリスを大いに戸惑わせた。それでもF91のビームライフルとヴェスバーで敵を撃ち抜く技量はたいしたものである。その敵はモビルドール、意思を持たぬ機械から発せられる物ではない。

 

「……まさか、貴方なの?」

 

 遂にエリスの感覚は大元に辿り着いた。いや、まさか。否定したい気持ちでいっぱいだが、彼女の感覚は嘘をつかない。紛れも無くあの慈愛の視線と感覚は先ほどエリスを救ったレギナから感じられる。

 ニューロにも意思があるのかエリスには分からない。だが今自分が感じている感覚は紛れも無く本物だ。

 心が安らいでいく。重かった心が軽くなり、更にエリスの感覚を研ぎ澄ませていく。

 

「ありがとう。貴方は私を気遣ってくれたのね。……うん。もう平気だよ」

 

 いつしかエリスはレギナに話しかけていた。先ほどの猜疑心に固まった心ではなく、子共が親に無事を伝えるような心と声で。

 それはきっとレギナに届いていたに違いない。普通に考えればなんとも胡散臭い話だ。しかしエリスは信じてみようと思った。理由を問われれば、自分の感覚を信じたとしか言えないだろう。だが何故かその感覚に迷いを持たず、レギナと共に敵モビルドール、GAT-04 ウィンダムに銃口を共に合わせる。空中での機動力が高い機体だ。しかし共に並んだF91とレギナ。息を合わせた往年のコンビの様な寸分の違いもない銃撃が同時にウィンダムを撃ち抜く。

 いつしかレイチェルのバイアラン・カスタムも他のレギナと連携を取っている姿が見えた。両腕のメガ粒子砲を散弾の様にばら撒き、レギナがトドメをさしていく。

 地上でもエルフリーデのギャン改、ビリーのガンダム5号機。そしてクレアのガンダムデュナメスが地上のレギナ部隊と共にサーペントを押し返している。

 

「行こう! あと一歩だよ!」

 

 勝利はもうすぐ目前まで迫っている。エリスはそう感じずにはいられなかった。

 

 

 

2

 

 

 

「へぇ。あの部隊結構やるじゃん」

「他の地域じゃニューロってだけで一緒の攻撃対象になってんのに不思議なもんッスね~」

「……当然だよ。彼女達はGeist。Spiritsに代わってこの世界を守ろうとしている部隊だからね。何かしらニューロに感じる物があったのかもしれない」

「Spiritsに代わって、ねぇ……。で、あんたはどうしたい? このまま世界の守護者って奴らにやられるのを見ているつもりか?」

「そんな事は無いよ。この世界の真実をGeistはまだ知らないんだ。それに世界の守護者は彼女達じゃない。僕らさ」

「それならいっちょ敵情視察と行くッスか~?」

「ああ。あたしもあいつらの実力を見てみてぇ。それにな……」

 

 

 

「安心しろ。時空管理局はお前の味方だ」

 

 

 

 

 

 

 地上と空。Geistは若干の不信感を持ちながらもニューロと協力し、ウィンダムとサーペントの大群を押し返している。敵の数はもう少数だ。そもそもこれだけの軍を用意できた事にも驚きだが、所詮はモビルドール。パターンさえ読んでしまえばエリス達の敵ではない。

 

『……ねぇエリスさん。なんかおかしいと思わないですか?』

『レイチェルも?』

『うん。敵の目的がさっぱり分からないよ。モビルドールなんか引っ張り出して何がしたいんだろうね?』

 

 レイチェルの言う通りだ。敵の目的がさっぱり読めない。エリスの知る限り、モビルドールはかの大戦の折に実験的に運用されたとしか聞いた事が無い。しかしまるで人が動かしているかのようなニューロの軍勢に対し、決まった動きしかできないモビルドールは期待していた戦果を上げることができなかった。

 結果、この計画は破棄され結局人の手による戦いに戻ったと聞く。

 だからこそおかしい。

 確かにこのモビルドールのAIは優秀だ。まるで人が乗っているかのような動きで、自分達に向かってくる。エリスが知るどんなAIよりも優秀過ぎるのだ。

 そんなものを何故テロリストが持っている?

 何故こんなにも連邦に知られる事無く用意する事ができた?

 そして、何故このタイミングで投入してきた?

 疑問は尽きない。どうやら何かが動きだそうとしている事をエリスが認識したその時だった。

 

 ゾクリ。

 

 体中を走る悪寒。心臓が急に早鐘を打ち始める。

 何が起こったのか分からない。だが確実に何かを全身が感じ、警告を発している。

 これはモビルドールからは決して感じられない、『人』の発する生の感情だ。

 

『レイチェル!』

『分かってます! 何だか分からないけど、何かがこっちに向かって来ます!』

 

 どうやらエリスの感じていた以上の物をレイチェルも感じ取っていた様だ。空を翔ける二機のパイロットは己の五感を研ぎ澄まし、意識を周囲に飛ばす。感じ取ったのは明らかな敵意を込められた何か。そして数瞬遅れて、機体のアラートが警報を鳴り響かせた。

 

「ミサイル! でもこれは!?」

『おかしいですよ! エリスさん!』

 

 レイチェルに言われるまでもなく、エリスもまた同様に違和感を持っている。込められた念、と言うべきか、通常のミサイルには感じられない意思がそこに宿っていた。そしてその正体にいち早く気付いたエリスが声を上げる。

 

『レイチェル、急いでメガ粒子砲で弾幕を張って! 私も可能な限り支援する! これはファンネルミサイルよ!』

『ファンネルミサイル!?』

 

 それはレイチェルも聞き慣れない兵器の名前だった。ファンネルと言えば、パイロットの感応波を受けて自在に宙を舞いオールレンジでビームの雨を降らせる印象が強い。しかしそれを直接相手にぶつければミサイルとしても使用できるという点についてはあまり有名ではなかったりする。何故ならコストが割りに合わないからだ。しかしそれも宇宙世紀という世界における話で、それ以外の世界ではGNファングに代表されるように直接相手にぶつける兵器も存在する。

 話を戻そう。つまり宇宙世紀において、ファンネルとは一般的にオールレンジでビーム攻撃を仕掛ける兵器として運用されるものだった。しかし技術と研究が進むにつれて感応波受信装置も小型化し、本来の誘導兵器の補助として側面を押し出した結果、生み出されたのがファンネルミサイルである。

 バイアラン・カスタムがメガ粒子砲をばら撒きF91もビームライフルで応戦する。相手の意のままに動くミサイルは、普通のファンネルとはまた違った脅威だ。なにせミサイルが相手の意思に従ってビームの雨を掻い潜り、自分からぶつかりに来るのだから。

 二人が必死にミサイルを撃ち落とす中、撃ち落とせなかったレギナが一体、また一体と爆散した。その光景にエリスは顔をしかめつつもトリガーを引き、そして確信する。

 これを放ったのはモビルドールでは無い。

 れっきとした人間、だと。

 

『来たっ!』

『はいっ!』

 

 二人には分かる。飛翔する意思。モビルドールには無い、生身の人の意思を感じる方向に銃身を向け、光を放つ。しかしそれは空中で旋回すると光線を全て避け切ってみせた。

 そもそもファンネルミサイルを搭載した機体は二機しか確認されておらず、特定するのはそう難しい事では無い。問題なのは、そのどちらも高性能機であるという事くらいか。

 大きく鋭角に張り出した肩が特徴的な大型のモビルスーツ。しかしその機動力は見た目とは裏腹に実に高い。マフティーという名前とファンネルミサイルという武装から、ある程度予測はできていた事とはいえ、エリスは当たって欲しくなかった結果に歯噛みする。

 RX-105 Ξガンダム。

 変形無しに空を翔ける事ができる“二番目”のガンダムにして、マフティー・ナビーユ・エリンのモビルスーツ。

 それがエリス達に向けて銃口を突き付けていた。

 

 

 

 上空にΞガンダムが現れたと同じタイミング。

 地上でもエルフリーデ達を阻む様に二機。真紅のモビルスーツが行く手を阻んでいた。

 ZGMF-X09A ジャスティスとMSN-06S シナンジュ。

 そしてエルフリーデ達も気付いている。これはモビルドールでは無いという事に。無機質なモビルドールからは感じられない殺気がひしひしと伝わってくるからだ。クレアはエリスとレイチェルの様な優れた感応力で。エルフリーデとビリーは長年の経験からそれを判断していた。

 

『貴様らに一つだけ問う。……貴様らは何者だ?』

 

 警戒を緩めず、ギャン改からエルフリーデの声が響いた。彼女らしい直球勝負の質問。しかし返って来たのはそんな彼女を小馬鹿にするような女性の声だった。

 

『はぁ? アンタ馬鹿ッスか~? この状況でもうちぃ~っとマシな質問できねぇんッスかねぇ?』

 

 声はジャスティスから。

 びきっとエルフリーデのこめかみに青筋が立つ。しかし努めて冷静に、エルフリーデは言葉を紡ぐ。

 

『……安心しろ。ただの確認だ』

『あっ、そうッスか~。そんならちゃんと答えるのが礼儀ッスね。あたしらはマフティーに協力するもんッス。ちぃっとばっかあんたらが目障りなんで、ここらでぷちっと潰す為に出張って来たんスよ~』

 

 随分と軽い声だ。しかし放たれる殺気は本物。こちらを潰すというのは紛れも無く本気の言葉だろう。

 舐められたものだ。そして気に入らない。

 エルフリーデはすぐにでも斬りかかりたい衝動を押し殺しつつも、それがいつでもできるように操縦桿を握る手に力を込めた。

 それはビリーとクレアにも十分伝わっている。そうでなくても彼女の性格を知っている二人ならば、考えるより先に気付いてしまう。エルフリーデはこういうのが大層嫌いだ。それは彼女が真面目であるが故、騎士であるが故に。

 だからこそ抑えてほしいのだが……、無理だろうと二人は瞬時に同じ結論に達していた。

 そしてそこにトドメの一言がシナンジュから放たれる。

 

『来るならさっさと来いよ。雑魚らしくさっさと片付けてやるからさ』

 

 ブチッ!

 エルフリーデの中で何かが切れた。ビリーとクレアにも聞こえたのは気のせいでは無いだろう。

 

『ビリー、クレア! 援護しろ! あのふざけたモビルスーツをここで排除する!』

『やっぱそうなるよな! 良いぜ、思う存分暴れて来い!』

『で、でも、相手はジャスティスとシナンジュ! どっちも高性能機じゃないですか!』

『構うものか! そんなものどうとでもなる! それにな!』

『コケにされて黙ってられるほど、お人好しじゃねぇんだよ!』

 

 盾を構えて突進するギャン改を支援するようにガンダム5号機のジャイアント・ガトリングガンが火を噴いた。しきりに位置を変え、ギャン改を守るように弾幕を張る。無秩序に見えるその中で先行するギャン改に一発も当てない所はビリーの腕と言った所だろうか。

 そしてエルフリーデの狙いはジャスティスだ。確か資料によればジャスティスは兄弟機であるフリーダムとは違い、どちらかと言えば格闘寄りの機体。それなら彼女の、そしてギャン改の得意分野だと踏んでの狙いだった。

 しかし彼女はこの時、まだ自分の間違いに気付いてはいなかった。いや、彼女だけでは無いだろう。ビリーとクレアもまた同様の間違いに気付いてはいなかったのだった。

 

『甘ぇよ。機体だけでそいつの得意不得意を判断すんなら馬鹿と言われても反論できねーぜ?』

「なん……だと?」

 

 初撃、最高のタイミングで振るわれた大型ビームソード。しかしそれを受けたのはジャスティスでは無く、シナンジュのビームサーベルだ。

 何故シナンジュが前に出たのか分からず、エルフリーデの思考が一瞬ストップする。何故なら彼女の、そして後ろに控えたビリーとクレアの頭の中にシナンジュが前に出てくる事は一切無かったのだから。

 そんな彼女達を嘲笑うかの様に、シナンジュがギャン改を押し戻す。そして右脹脛側面のスラスターを噴かすと強烈な蹴りをお見舞いした。それは見事な回し蹴り。各所に搭載されたスラスターを巧みに使い、まるで本物の人間の動作の如く綺麗な回し蹴りがギャン改を蹴り飛ばす。

 そして一瞬のタイムラグはジャスティスにも有利に働いていた。背中のリフター、ファトゥム-00に乗り一瞬の内にビリーとクレアの上空に陣取ったのだ。

 

『お生憎様~。あたしが得意なのは射撃なんスよね~』

 

 そして降り注ぐ三本の光と実弾にビリーとクレアの悲鳴が木霊する。

 その中、ビリーは最初から読み違えていた事を痛感していた。そもそもジャスティスが格闘寄りの機体だと思い込んでいたのが間違いなのだ。それはSpiritsの見た世界のパイロットがたまたまそういう使い方をしたのであって、実際の所ジャスティスはシナンジュと同じく遠近両方をこなす万能機体なのだから。

 本当に格闘寄りにしたいのならば、その発展機であるインフィニットジャスティスにすれば良い。あちらの方がより格闘に特化した機体なのだから。

 

「ちくしょう! 思いこみってのはやっぱいけねぇなぁ!」

 

 そう愚痴を吐きつつビリーは引き金を引き、ガンダム5号機が上空にハイパービームライフルを撃った。PS装甲を持つジャスティスにジャイアント・ガトリングガンでは効果が望めない。必然的に残された武装はビームライフルとビームサーベルというスタンダードな物に絞られてしまう。だがビリーにはそれで十分だ。攻撃できる手段があるのならば、攻撃を続ける。伊達にあの大戦を生き抜いてきた訳ではない。

 

『ビリーさん! 援護行くよ!』

 

 空に緑色の尾を引くミサイルがばら撒かれた。デュナメスがGNミサイルだ。先も言った通り、ジャスティスの装甲には効果は無いだろう。だが目的はそこでは無い。縦横無尽に空を舞うジャスティスの行動ルートを絞る事こそ本来の目的。巻き起こる煙の中に影を見たビリーはすかさず照準をそれに合わせる。

 だが煙の中から飛び出してきたのは本体の居ない、ファトゥム-00だけだった。リフターがその砲門を開き、ガンダム5号機に向けて一斉発射。ビリーもその雨の中でライフルを撃つが、まるで有人機の様に旋回して避けるファトゥム-00に当たる事は無く、彼はシールドで体当たりを受け止めるしかない。

 吹き飛ばされた衝撃に呻きながらも、本体はどこにいったと目を凝らす。そして目に入って来たのはクレアのデュナメスに飛びかかるジャスティス本体の姿だった。

 クレア自身も持ち前のカンの良さでいち早く危機を察したのは良いが、ビリーにそれを知らせる余裕はなかったのだろう。とっさにGNビームサーベルを引き抜きジャスティスのラケルタビームサーベルを受けるのが精一杯。不意打ちにも等しい一撃を受け止めたクレアに「へぇ」と感嘆の声を上げるジャスティスのパイロット。すかさず後方に飛び退き、引き寄せたファトゥム-00に降りた。だがここであれを逃したらまた集中砲火を浴びてしまう。そう判断したクレアはデュナメスを宙へと浮かせた。

 

『ビリーさん! あたしがフォワードをしますから、援護をお願いします!』

『はぁっ!? そしたらデュナメスの旨味が無くなるだろうが! 元々前に出るモビルスーツじゃねぇだろ! 戻れ!』

『でもこの中で空飛べるのあたしの機体だけじゃないですか! 制空権取られたら後手に回るだけですよ!』

『そんなもん気合いでカバーしろ!』

『嫌いじゃないけど、今はムリー!』

 

 ビリーの制止を振り切り、クレアはデュナメスにスナイパーライフルを構えさせた。渋々彼もガンダム5号機のハイパービームライフルを向ける。クレアの言う通り制空権を取られたら後手に回るしかない。

 それはビリーも分かっている。それほど空から攻撃というのは脅威なのだ。これまではそれを技術で補ってきたが、今はそれだけではなんともできない状況。結局彼はクレアの意見を通すより他なかったのである。

 そしてその合間に周りの状況を確認する。レギナ達は残りのサーペント達を相手にし、こちらに来る事が無い様に奮闘していた。またその内の何体かはエルフリーデのサポートに回ってくれたようだが、残念ながら全てシナンジュに撃墜されてしまったらしい。そしてそのシナンジュに肉薄しているエルフリーデのギャン改。できればフォローをしてやりたいが、位置が悪い。接近戦を続ける二機に対し下手に割り込もうものなら、ギャン改まで巻き込んでしまう。更に言えばあのシナンジュのパイロット、Geistの中でも接近戦においてはトップクラスのエルフリーデを若干押しているようにも見える。

 せめてあと一機。あと一機、あの中に入っても問題無い技量を持つ者がいれば……。

 ふとレーダーにピコンと音を立てて光点と情報が映り込む。

 それは友軍を示す光。彼の待ち望んだあと一機。この状況で出てくる人と言えば、あの人しかいないとビリーはニヤリと笑った。

 

『こちらは私が引き受けます。ビリー、貴方はエルフリーデの援護を』

『了解。隊長もお気をつけて』

 

 送られてきた通信の主に返答を送り、ビリーのガンダム5号機が反転。ギャン改と剣を交えるシナンジュに最速で照準をつけると、ハイパービームライフルから眩い閃光を放つ。しかしシナンジュも盾を構え、直撃を避ける。だがこれで一瞬ギャン改から意識が外れた。それを見逃すエルフリーデでは無い。

 響く轟音。重量と勢いに任せた大型ビームソードの一撃がシナンジュを盾の上から襲いかかり、真紅の機体は後方に弾き飛ばされた。

 大きく斬撃痕を残した盾からゆっくりと姿を見せるシナンジュ。挟みこむように剣と銃が突き付けられている。状況は二体一に変わったにも関わらず、その振る舞いに焦りは見られない。

 

『……認めたくないが、こいつ強いな』

『ああ。これまでのテロリストとは一味も二味も違う』

 

 大戦時のニューロとも違う。この四年で戦ってきたテロリストとも違う。

 ギロリと二機を睨むシナンジュのモノアイの奥、パイロットの闘争心を垣間見てエルフリーデとビリーは一層気を引き締める。そして。

 

『ここで応援が来るのはお約束って奴ッスかね~』

 

 シナンジュの横にジャスティスが降り立った。エルフリーデとビリーの所にもデュナメスが降りてくる。

 それだけではない。更にもう一機、青い翼を広げ、ふわりと三機の前にもモビルスーツが降りた。

 肩から大きくせり出したスラスター。両手に構えたビームライフル。そしてツインアイではなくゴーグルフェイス。

 その機体は見る者が見ればある機体を連想するだろう。

 大戦中においても唯一Spiritsのエースのみが操っていたモビルスーツ、フェニックスガンダムに非常に酷似している。

 

『それを先に行ったのは貴方達でしょう? 援軍には援軍を。当然の事です』

 

 その機体の名はGGS-000 フェニックス・ゼロ。搭乗者はセリカ・アマミヤ。

 そして彼女はいつもの様に、しれっとそう答えるのだ。

 

 一方の上空。

 Ξガンダムと相対するエリスのF91。そしてレイチェルのバイアラン・カスタム。

 そこにもまた駆けつけた機体が一機いた。

 その機体は危うくΞガンダムのビームライフルに撃たれようとしていたレイチェルを庇う様に立ちはだかり、光の壁を作ってそれを防いでいる。

 

『大丈夫か?』

『え? あ、はいっ! ……あれ? なんか雰囲気違いません?』

 

 レイチェルが戸惑うのも無理はない。直感的に感じているのだ。意識が戦闘態勢に入っている彼のその変化に。それはエリスも同じ。普段からは感じられない圧力にゴクリと息を飲む。

 ゆっくりと光が解けていく。それを展開していた発生装置が音を立ててウィングバインダーに収納されていく。そしてその機体は姿を見せた。

 CAT-X1/3 ハイペリオン。

 ミッドチルダにてマリア用に秘密裏に作られたモビルスーツ。そしてレン達と共にこの世界に来た唯一のモビルスーツ。

 

「さぁ行こうかハイペリオン」

 

 静かに、だがそこには微かな希望を抱いて。

 再びこの世界でモビルスーツを駆る決心をしたレン・アマミヤがそこにいた。

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