魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第40話 世界の摩擦

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 極東支部格納庫。

 Geistの母艦であるリーンホースJr.の発進作業が進められる中、セリカを加えたレン達の前で一機のモビルスーツがハンガーに佇んでいた。

 CAT-X1/3 ハイペリオン。それがこの機体の名である。

 だがこれはこの世界で生まれた物では無い。レン達がミッドチルダで秘密裏に作成し、共にこの世界へ渡ったモビルスーツ。しかしこの機体はずっとマリアのイヤリングで待機状態にあるはずだった。

 では何故この機体がここにあるのか。それはレン達が極東支部に来てからの約二週間に答えがある。

 マリアのイヤリングにアプロディアは居なかった。魔力を失ったレンに応えなかったわけではなく、スバル達が呼びかけても同様の反応なのだから最早疑いようもない。しかしデバイスとしての機能が失われた訳ではなく、単に管制人格が失われただけなのだ。ならば起動そのものについては問題ないはずと彼らは考える。そこで魔法の存在を知るゼノンとセリカ立ち会いの下、スバル達による起動実験が行われた。

 簡単に言ってしまえば、マッハキャリバー達をイヤリングに接続し、強制的に起動させようと言うのである。もしかしたらアプロディアが何か痕跡を残していないかと思っての調査であったが、残されていたのはこのハイペリオンのみ。結果、強制的にフルドライブを行いハイペリオンを顕現。レン達が中心となって調査を行っていたのだ。

 しかしその甲斐も空しく、結果は得られていない。ならば使えるようにしてしまおうと、思い切って炉の交換が行われた。魔力炉は再びイヤリングの中にデータとして残され、こうしてハイペリオンはこの世界で本当の意味での完成を迎えることになる。

 

「そもそもさ~、ガンダムタイプって高性能機なんでしょ? いっぱい作って配備した方が良いんじゃないの?」

 

 コックピットでレンの最終調整が続けられる中、不意に上げられた疑問。しかし彼は一つ溜息をついて、コックピットを覗きこんだ質問の主、スバルの頭をくしゃっと撫でた。

 

「確かにそういう考え方はある。俺達が体験した世界でもガンダムはその時代毎に高性能機の一端を担っていたのは認めるよ。でもな、その分だけ扱いが難しい機体でもあるんだ。ある程度の技術が無いとまず間違いなく機体に振りまわされる」

「それにね、スバルさん達は気付いていますか? この世界の技術形態が凄まじくアンバランスだということに」

「アンバランス……ですか?」

 

 どうやらセリカの言葉をピンと来ていないスバル。首を傾げてきょとんとしている。

 だがここでも理解が早かったのはティアナだ。なるほどとばかりに頷き、スバルに驚かれている。

 

「つまりね、レンさん達が持ち込んだ技術と実際の技術のレベルが違い過ぎるのよ。え~っと、確かサイコフレームだっけ? それとかGNドライヴ。どれも夢みたいな物だし、そんな技術があるならとっくに一般的にも普及してるはずでしょ? なのに一般には出回っていない。つまりレンさん達が持ち込んだ技術っていうのは、この世界でもオーバーテクノロジーで、手に余る技術ってことよ」

「そういう事。時代が進み、世界が変わればテクノロジーとモビルスーツはどんどん進化していく。特にガンダムって奴はそのオーバーテクノロジーの塊みたいなもんだったりするんだ。なんせ試作機、ワンオフ機のオンパレードだからな。正直、そんなもんバシバシ量産できんのよ。コスト度外視だったりするし、技術だってどれもこれもまだ解明できない部分が多い。なのに出来てしまう。技術の原理と結果があべこべな世界。それが今のこの世界なんだわ」

「そ、それって凄く危ないんじゃないんでしょうか……」

「そのとーり……」

 

 エリオの指摘にレンはまた溜息をついた。いくらニューロとの戦争を終わらせる為とはいえ、自分達が持ち込んだ技術なのだから溜息の一つも出よう。それにそれは世界を進める度にSpiritsや軍の中でも疑問視されていた事だ。そして今まさにその問題がどんどん浮き彫りになってきている時代だというのだから頭が痛くなる。

 結果、連邦が行ったのは技術及び新規配備に対する規制だった。

戦後連邦はとりわけ扱いやすい物のみを戦後の主力にしたのである。一定以上のテクノロジーレベルを持つ機体を希望配備する際には搭乗者試験を行い、それをクリアした者のみにその機体を与える事にしたのだった。しかも必ず合格者がでる訳でもなく、高性能機になればなるほどその難易度はうなぎ昇り。

 この四年間で何人ものパイロットが涙を飲んだか分からない現状だ。

 しかしそうなると得をしたのは大戦中に高性能機を与えられたパイロット達。しかもこれでは若手が育たず不満も出る。そこで一度試験に落ちても同機体であれば三年、別機体であれば一年のインターバルを置く事で再チャレンジが可能である処置がとられている。

 

「そうなると実はクレアさんって凄いんですか?」

「ああ、あの子は極端ですから……」

 

 キャロと共にセリカが向ける視線の先にあるのはガンダムデュナメスとその搭乗者クレア・ヒースロー。

オーバーテクノロジーの最高峰、GNドライウを搭載した高性能機だ。セリカも正直、クレアがどうして試験をクリアできたのか分からないのが本音である。クレアの実力が無い、という訳ではない。 Geistに所属し、セリカに鍛えられているのだから並のパイロットよりは高いと言える。それでも最難関の試験を一発で、それも高得点でクリアしたと聞いた時は流石のセリカも耳を疑い気を失いそうになったことを思い出す。

 すると話題の少女が、駆け足でこちらに歩み寄って来た。目を爛々と輝かせ、鼻息荒く何かおもしろい物を見つけたかの如くだ。

 

「ピッキーンとなんか来ましたよ! 何かここで良からぬ事言ってませんでしたか?」

「いえいえ、良からぬ事など何も言ってませんよ。ただクレアがデュナメスの試験を一発合格したのが凄いですねってお話をしていたのです」

「あ~、その話ですか~。実の所、あたしも驚きなんですよね~。筆記試験はまぁなんとかって思ってましたけど搭乗試験の時になんとな~く、あの子の使い方が分かったって言うか、馴染むって言うか。そんな気がしたんですよ」

 

 その時の様子をクレアはけらけら笑いながら語る。しかしいまいちピンと来ないスバル達。セリカにしてもそうだ。もう何度も聞いた話だが、彼女とて全ての意味が分かったわけではないのである。

 しかしレンは素直にそれに驚いていた。それはまるで、彼が疑似体験した世界のガンダム乗りに通じる所があったからだ。

 ガンダム乗りは例外なく、数奇な運命を辿る。そしてその出会いもまた運命的だ。

 乗り手がガンダムを選んでいるのか、それともガンダムが乗り手を選んでいるのか。

 若しくはクレアの秘めた感応力のなせる業なのかもしれない。かのアムロ・レイ、カミーユ・ビダン、ジュドー・アーシタなど、優れた感応力を持つパイロットはすぐに機体を動かす事ができたのだから。

 と、ピコンと音を立てて最終チェックが完了したアラームが響く。

 これで準備は整った。

 後は願わくば、出撃の機会が無い事を願うのみ。その時のレンは本気でそう考えていた。

 

 

 

 

 

 

 だが、レンの願いは叶わなかった。

だからこうしてハイペリオンに搭乗し、Ξガンダムと対峙している。

 機体を飛ばしているテレストリアル・エンジンは良好。機体の各計器も想定通りの数値を示している。

 武装は右手のビームナイフ、ロムテクニカRBW7001。左手にはRFW-99ビームサブマシンガン、ザスタバ・スティグマト。今までとは勝手が違う武器だが文句は言っていられない。

 そして目の前ではΞガンダムが相変わらず不気味なほど静かにビームライフルを向けている。

 どうやらハイペリオンの出現にも動じる事はないらしく、戦意はまったくと言って良い程衰える様子が無かった。

 

(かと言ってこのまま睨み合っても埒が明かない、か)

「だからまずはセオリー通り、牽制から仕掛ける!」

 

 ザスタバ・スティグマトを薙ぎ払う様に撃ち、光弾をばら撒く。

 それを盾で防ぎながら前に出るΞガンダム。ビームサーベルが抜き放たれるのが見えた。

 レンもビームナイフの出力を上げてこれに対抗する。

 すれ違い様に切り結ぶ二機のガンダム。互いの後方へ流れたかと思いきや、すぐさま反転し両者は銃を構えた。

 閃光が走り、光弾が飛ぶ。

 それは互いの脇をかすめ、空の彼方に消え去る。構わずに両者は引き金を引き続けた。

 円を描く軌道で的を絞らせない。しかしこの瞬間、優位に立ったのはレンだった。

 差を分けたのは銃の連射性。こと連射に優れるビームマシンガンの絶え間ない銃撃が一発ごと僅かにタイムラグを生じさせるビームライフルを上回ったのだ。堪らず盾で防ぐΞガンダム。逃す手は無かった。

 レンはそこで砕けろとばかりにペダルを踏み込み、テレストリアル・エンジンの出力を上げる。

 それに呼応してスラスターの噴出が強まり、ハイペリオンをロケットスタートの如き勢いで押し出す。

 

「……そこだ!」

 

 照準がロックした。すかさずレンはトリガーを引きザスタバ・スティグマトを撃つ。

 連続着弾。盾で防がれてもその勢いはΞガンダムの足を止める。

 ナイフの出力と同時に集束率を上げる。一瞬で逆手に持ち変えると、加速のままにレンはナイフを振り抜いた。

 空に走る光が一筋。

 静寂もまた一瞬。

 次の瞬間にはΞガンダムが後退していた。悔しさに舌打ちする。タイミングは良かった。しかしそれ以上に相手の反応が良かった。ナイフが裂いたのはΞガンダムの盾だけ。真っ二つに裂かれた盾が落下していく。

 

「キリエ、奴の位置は!? シュテルはえん……ご……。くそっ!!」

 

 自分で言って嫌になる。答えは今の言葉が全てを物語っているだろう。

 いつも隣に居た少女が今はいないのだ。絶えぬ笑顔を見せる可憐な花の様な少女がいない。

 そしていつもならそれをカバーしてくれる少女も居ない。隣に居たのが可憐な花の少女なら、彼女は静かに燃え輝く星の様な少女。暗闇の中でも絶えず輝き、照らしてくれた少女もここにはいない。

 あの二人がいないだけでなんてザマだ。二人がいない事がこんな所で堪えてくるなんて。

 そして衝撃がレンを襲った。一瞬の隙にハイペリオンの背後に回ったΞガンダムの放った蹴りがコックピットを大きく揺らす。シートベルトをしているとはいえ、衝撃を完全に吸収することはできない。

 内蔵どころか、脳までシェイクされ一瞬意識が飛びかける。

 

「……ちぃっ!」

 

 だがこれで漸くはっきりした。改めて自分が今一人なのだという実感が生まれる。

 飛びかけた意識を無理矢理繋ぎ止めた。同時に頭に走るノイズ。フットペダルをこれでもかと踏み込み、ハイペリオンが急上昇する。

 案の定、閃光が飛んで来た。しかしすでにハイペリオンはそこにはいない。空しく空を切るだけだ。

 レンはフットペダルを戻し、機体の足を振り上げた。推力を失い、振り子の様に振り上げた足が新たな慣性を生む。胴を支点にして宙返りしながら背中のウィングバインダーを同時展開。天地逆さまに映るモニターにΞガンダムを捕えた瞬間、ハイペリオン最大のビーム兵装、フォルフォントリーのトリガーを引いた。

 ハイペリオンから放出される膨大な破壊の光が空を裂く。

 Ξガンダムの右足が飲み込まれ、一瞬にして融解。爆発が起こった。だがΞガンダムも反撃のファンネルミサイルを放つ。相手パイロットの意思を汲み取ったミサイルに対し、レンはザスタバ・スティグマトを闇雲にばら撒き弾幕を張るしかない。爆発は爆発を呼び、無数の爆炎が空を覆い尽くした。

 視界が塞がる。レーダーも一時的に機能障害を起こしている。

 しかし頭のノイズは報せている。まだ終わっていないと。

 

「来る!」

 

 ハイペリオンがビームナイフを取った。そして爆炎の中から飛び出すΞガンダム。

 光刃が交わり、バチバチと閃光が飛び散る。だがもう一本のビームサーベルが迫る。レンもザスタバ・スティグマトに装着されたビームナイフを起動、辛うじてその一撃を受け止める。

 更に激しい閃光が二機を包んだ。互いに退かぬ所へΞガンダムのバルカン。ハイペリオンの装甲を剥ぎ取り、ツインアイの片方が潰れる。そして残った足での前蹴り。ハイペリオンが大きく揺れ動いた。

 

「くうぅぅっ!」

 

 衝撃に苦悶の声が上げながら、自分に鞭を打つ。

 悔しいが相手パイロットは優秀だ。だが自分にも意地がある。守らなければならない約束がある。

 ここで朽ちる訳にはいかないのだ。

 

「だから……、お前は邪魔だ!!」

 

 迫ったビームサーベルの光が視界を埋めた刹那、レンは素早く機体を翻し銃剣の刃がΞガンダムの左腕を斬り飛ばした。爆発の中続けてビームナイフを斬り上げる。Ξガンダムはもう片方の光刃でそれを受ける。三度閃光が炸裂する中、ハイペリオンが銃剣のトリガーを引くのと、Ξガンダムのファンネルミサイルが射出されるのはほぼ同時。爆発がたちまち二機を飲みこんでいく。そしてその爆発の中から飛び出すハイペリオンとΞガンダム。

 ハイペリオンは右腕と左足を失い、Ξガンダムも先の斬撃で左腕を失い、胸部装甲が爆ぜている。更に二機とも爆発の余波で各所がスパークを起こしていた。

 しかしこれを逃がす手は無かった。レンは再度フットペダルを踏み込み、傷ついたハイペリオンを急加速。一気に勝負を仕掛ける。

 逃げるΞガンダム。追うハイペリオン。

 それはさながら戦闘機のドッグファイトの様に、二機は空を縦横無尽に翔けた。その速度は既に最高点に達している。加速Gも容赦なくレンにのしかかる。デルタカイ、ハルファスと乗り継いだ彼ですら苦悶の表情を浮かべる程なのだ。機体も各所計器がアラームを響かせ、警告を報せている。

 だがまだだ。まだ足りない。後もう少しという所までΞガンダムを追い詰めているのだ。

 ここで加速を緩める選択は微塵も無い。

 しかし前方のΞガンダムからばら撒かれるファンネルミサイル。急制動の時間は無い。とっさにフォルフォントリーを起動させるも、速射ではチャージが足りず全てを破壊するに至らない。爆炎の中から飛び出したファンネルミサイルが真昼に咲く花のように爆炎の花弁を一斉に空に咲き誇らせた。

 

「レンさんっ!!」

 

 その光景にエリスは声を上げた。レンの腕を疑っていたわけではない。むしろ元々空を飛ぶ事のできない機体でここまで肉薄している事で評価を底上げしていたくらいだ。

 第00遊撃隊Spiritsの実力の高さを改めて認識せざるを得ない程に。

 しかしそのレンですら爆炎に包まれたのなら、次は自分がやるしかない。

 ……自分で太刀打ちできるのか? あのレベルまで自分を持って行けるのか?

 動きを止めたΞガンダムを凝視し、彼女はギュッと操縦桿を握り直す。

 しかし次の瞬間、炎の中から飛び出す光の塊が見えた。

 

 アルミューレ・リュミエール。

 

 ハイペリオンに搭載された防御壁。着弾する寸前で展開が間に合ったのだ。

 そしてレンはアルミューレ・リュミエールを前方に集中。光の塊は更に光度を上げ、ハイペリオンを燃え輝く恒星へと変える。

 

「ハイペリオン。お前が高い天を往く者の名を持つのなら、ここでそれを証明して見せろ!」

 

 そしてレンは遂にテレストリアル・エンジンのリミッターをカット。ハイペリオンのブースターが更に勢いを増し、殺人的なGが更にレンの体を押し付けた。しかし構うものかとレンはスピードを緩めずにトリガーを引きながら空を駆け巡る。

 ザスタバ・スティグマトの絶え間ない弾幕に足を止められ、何度も何度もアルミューレ・リュミエールに弾かれるΞガンダムは最早逃げる事も、抵抗する事もできずに蹂躙されるだけだ。

 そして今や直視する事も叶わぬほどに輝くハイペリオンが、空を裂く流星へと昇華する。

 

「アルミューレ・リュミエール・ランサー!! ブチ抜けぇっっ!!」

 

 そしてその時は訪れた。

 流星が遂にΞガンダムを貫くその瞬間である。

 エリスが、レイチェルが歓喜の声を上げようとする刹那。

 流星がΞガンダムの右肩を貫く刹那。

 永遠の一瞬。

 そう。刹那の時の中、レンの頭の中に突如としていくつものイメージがなだれ込んできた。

 

 

 

 残骸だらけの宇宙。

 

 ボロボロになったモビルスーツ。

 

 頭を抱え叫ぶ少年。

 

 闇の中で輝く双眸。

 

 手を差し伸べる二人の少女。

 

 燃え上がる蒼い炎。

 

 猛り、猛り、猛り、どこまでも、レンの全てを焼き尽くすかのように。

 

 飲み込まれる。

 

 レンは直感的にそう感じ、

 

 恐怖した。

 

 

 

「ッはぁ!!」

 

 大きく息を吐き出すと共に戻る意識。心臓はバクンバクンと痛いほど音を立てて鳴り響き、水を浴びたかのように体中から汗が噴き出している。

今のイメージは一体何だ? 気が狂いそうなほどの情報の奔流。あと少し戻って来るのが遅かったら、完全に情報に飲みこまれて意識を持っていかれたかもしれない。

 いや、むしろあの刹那、自分は意識を飲みこまれていた。戻って来れたのは……運だろうか。

 考えれば恐ろしくなる。何度かGN粒子の意識共有を行った事はあっても、それはレンが知るそれよりもっと深い所までレンを引きずり込もうとしていたのだ。

 そしてそれをしようとしていたのは、おそらくΞガンダムのパイロット。

 そう言えば、Ξガンダムはどうなった? 今更ながらその事に気付き、モニターに目を凝らすとΞガンダムが半身を砕かれ落下していく姿が見えた。

 完全破壊まではいかなかったが、フライトユニットも破壊されΞガンダムは自力で飛ぶ事すらできないでいる。そして遂にΞガンダムが爆発し、機体は空の藻屑へと消えていった。

 結局、あの機体のパイロットを生きたまま捕獲する事はできなかったという事か。

 捕獲できれば全容も暴けたかもしれないが、そんな余裕がレンに無かったのもまた事実。

未だ整わない息を吐きながら、アルミューレ・リュミエール展開ユニットを収納。レンは呼吸を整える為に深くシートに体を預けた。

 頭の中はあのイメージで塗りつぶされている。もう一度思い出し、体がぶるりと震えあがった。

 

『レンさんっ!』

 

 突然掛けられたエリスの声にハッとする。いつの間にかまたもや警報が鳴り響いていた。そしてハイペリオンを狙い、下からビームが伸びてくるではないか。

 撃っているのはジャスティス。レンは必死に機体を動かしてなんとかこれを逃れるも、各計器が報せる情報に顔をしかめるしかない。

 やはり無理をさせ過ぎたのか、今のハイペリオンは満身創痍だった。テレストリアル・エンジンは限界を迎え、今や浮いているのがやっと。アルミューレ・リュミエールも悲鳴を上げ展開する事ができず、更に機体も過剰なGと衝撃により各所でエラーが出ている。

 口惜しさにレンは溜息しか出てこない。追いついたエリスとレイチェルの機体に助けられ、漸く機体が安定しなければならない今の状況では戦う事など不可能だ。

 そんな三機をジャスティスが見ている。どうやら先の射撃は威嚇の為だったらしい。シナンジュは独自に撤退したらしく、地上は既に戦いを終えている。あれだけ居たウィンダムもエリス達とレギナによって全て撃墜されていた。

 

『さすがはレン・アマミヤ。Spiritsの一人という事ですか』

『!! お前、Ξのパイロットか!?』

 

 突然オープンチャンネルで開いた回線。その声に思わず身を乗り出す。見ればジャスティスの手に人影が見えた。どうやら爆発の直前に脱出し、回収されていたらしい。いや、それよりもその声は思っていた以上に若く少年とも言うべき男の声だった。そして彼は自分の事を知っている? その事にレンは戸惑うばかりだ。

 

『ええ。僕がΞのパイロットです。時間も無いので簡単にいきましょう。……僕の記憶を見ましたか?』

『記憶? あぁ、あのイメージか。あれがお前の記憶なのか?』

『そうです。ああ思った通り貴方はやっぱり素晴らしいや。宇宙の声を聞き、更には僕の記憶に引きずられる事無く戻ってこられたのですから!』

『……用件は何だ。簡単にいくんだろう?』

 

 熱のこもった感嘆の声。しかし逆にレンの声は酷く冷たいものだった。素晴らしいと言われても何の感情も湧いてこない。それよりもそんなイメージを叩きつけられて頭が痛いのだ。できるならこの場で撃ち落としてしまいたいくらいである。

 だがそんなレンの状況などお構い無し。少年は「くくくっ」と笑うだけだった。

 

『単刀直入に言いましょう。貴方もマフティーに加わっ』

『断る』

『……つれないなぁ。即答ですか。しかも全部言わせないなんてまったくつれない人だ』

『聞くまでも無い。初めからその選択肢はないだろうが』

『ならば特典をつけましょう。ミッドチルダに貴方とそのお仲間を帰還させてあげます。これでどうです?』

『なっ!?』

 

 何故そこでミッドチルダの名前が出てくるのか。

 しかも帰還させてあげる?

 予想もしなかった言葉に再びレンの鼓動が高鳴った。

 脳裏にフラッシュバックする仲間の顔。シュテルの、キリエの顔。もう一度彼女達に会えるのか? このどうして良いかも分からないこの世界でそれはまるで再び差した希望の光に見えた。

 

『まぁ今すぐにとは言いません。答えはいずれ聞かせてもらいますよ。……そう遠くないうちにね』

『そんじゃ、まったね~☆』

『待て! お前は一体何者だ! 目的はなんだ!!』

『なんだよ~。またねって言ったじゃないッスか~』

『まぁそう言わないで。折角尋ねられたんだから答えておくとしようよ。……そうですね。お前と言われるのもあれですので、そのままマフティー・ナビーユ・エリンと呼んでくれて結構ですよ。目的はさしずめ、世界平和って所ですか』

『なんだって!?』

『それでは今度こそおさらばです。地上本部特別遊撃隊Spirits、レン・アマミヤさん』

 

 ジャスティスが遠ざかっていく。追おうにもハイペリオンは動く事もままならず、それを支えるF91とバイアラン・カスタムも手が塞がっている。

 戦いには勝った。しかしこれは勝利と果たして言えるのだろうか。

 微かに見えて希望の光が果たして本当の光なのか、今のレンにはその判断を下す事すらできずにいた。

 

 

 

2

 

 

 

「レン君。そこに座りなさい」

「今は勘弁してくれないか。ちょっと考えたい事が……」

「い・い・か・ら! 早く座りなさい!」

「なんだよ……。ったく」

 

 極東支部へと戻る最中のリーンホースJr.内、格納庫。

 マフティーの言葉が頭から離れないレンを呼び止めたセリカが有無を言わさず彼を椅子に座らせた。

 母親の強い口調、それがセリカでなくても言いたい事は分かる。きっとハイペリオンで無茶な操縦をした事だろう。しかし今のレンはそれどころではない。マフティーの言葉と一緒に整理したい事があるのだ。

 ポケットに入れたメモリーチップで遊びながらレンはそっけなく返す。

 

「言いたい事があるなら後で聞くよ。本当に今それどころじゃないんだ」

「あのマフティーの言葉ですか? だとしたら貴方は少し頭を冷やすべきですね」

 

 オープンチャンネルで交わされた会話だ。セリカに聞こえていても不思議ではない。それにセリカにはミッドチルダに戻りたい旨は伝えてある。レンの気持ちが分からない彼女でもないだろう。

 しかしだからこそセリカはゆっくりと、解きほぐす様にレンに語りかけた。

 

「ミッドチルダに帰還させてあげます……ですか。この際、どうして情報が洩れたのかは棚に上げておきましょう。ですが、敵の言葉に嘘が無いと言い切れないとは思いませんか?」

「ああ……。もしかしたら嘘をついている可能性はある。けど、あいつは知っていた。俺が、Spiritsがミッドチルダで呼ばれていた部隊名を……」

「それも情報が洩れていた線を否定する材料にはなりません。地上本部特別遊撃隊という名は私も貴方達から聞いて知っている事です。つまりあのパイロットが言っていた事で、貴方達が私に言った事以外に新しい情報が無いのですよ」

 

 急速に熱が引いていく気がした。

 冷静になって考えてみればごくごく当たり前な事。それにも気付かないとは余程頭に血が昇っていたらしい。ミッドチルダに帰れるかもしれない。その光明が差した事で、自分でも意外なほど冷静さを失ってしまっていた事をレンは素直に恥じた。その事をセリカも感じたのだろう。席を立ち横まで歩いてくると、レンの頭を優しく撫でる。それは優しい笑顔を浮かべている母親の顔だった。

 

「頭に血が昇りやすい所は何時になっても変わりませんねぇ」

「ほっといてくれ」

「生意気な所も相変わらず。もう少し私達を信用して下さいな。今は道が見えなくても、きっと手はあるはずです。もしも相手が本当にレン君達をミッドチルダに帰す手段があり、レン君がその方法を取るということは貴方が私達に見切りをつけてあちらにつくと言う事。その覚悟が貴方にあるというのならば止めはしませんよ」

「……卑怯だなぁ。そんなのできっこないでしょ」

「はいっ♪ お母さん信じてますよ」

「はぁ……」

 

 母はご満悦で息子の頭を抱きしめている。久しぶりの親子のスキンシップと言えば聞こえはいいが、レンとて既に二十歳だ。いい加減子供扱いは止めてほしいのが本音だが……、セリカには何を言っても無駄だろう。結局母にとって子はいつまでも子なのだ。

 

「そう言えばレン君。あのファンネルミサイル。よく間に合いましたね?」

 

 ビクリとレンの体が震え硬直した。逃げようにもがっちりホールドされている為それもままならない。

 しまった。全てセリカの掌の上だ。最初から彼女はレンが裏切るなどとは微塵も考えていない。むしろレンの性格を見抜いた上で、その話題から切り出したのだ。

 つまりこれが本命。というか、最初は気付いていた筈なのに。セリカに乗せられ、既に自分がまな板の上の鯉だと気付くにはとうに遅かった。

 そして、その鯉はにへらと誤魔化すように笑う。

 

「……実は結構ギリギリでした」

「はい、素直で宜しい♪ その上ハイペリオンまであんな状態にして……。あれほど無茶をするなと言ったのに、貴方と言う人はもう。これはお仕置きですね!!」

「ちょ! 母さんマジきっつい! タップタップ! マジでタップ!!」

「駄目です! 今日という今日は逃がしませんよ!!」

「いつも逃がしてくんねぇじゃん!!」

 

 抱きしめた腕に力を込め、セリカは万力の様にレンを締め上げ始めた。机を何度も叩き抗議の声を上げるもそれで彼女が離してくれるわけもなく、細身の体のどこにそんな力があるのかという程の締め上げがレンの頭部を襲う。

 その悲鳴に何事かと人が集まり始めた。しかしセリカは気持ちの良い笑顔でレンを締め上げ、レンは顔を真っ赤にしながらも必死に振り払おうとしている。

 いつしか二人を中心にできた人だかりからはやし立てる声が巻き起こり、格納庫はちょっとした騒ぎになってしまう程だ。

 

「いいぞ~! そこだ! もっとやれ!!」

「レンさ~ん! もうちょっとですよ~。もうちょっとで外れますよ!」

「隊長! 俺も抱きしめて下さい!!」

「どさくさに紛れて人の母親口説いてのはだれ……ぐへっ!」

「はい残念。もう一締め行きますよ! あと安心なさい。私は貴方の父親一筋ですから♪」

 

 気を抜いた瞬間、更に強く締めあげられた。なんだか最後にあまり母親の口から聞きたくないような言葉が聞こえた気がしたが、さすがに意識が朦朧として全く頭に入って来ない。

 そして数分後、レンはぷっつりと意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 

 もう少しでリーンホースJr.が帰って来る。

 イレギュラーはあったものの、欠員が出る事もなく無事の帰還だ。報告で受けたハイペリオンの損害も問題無いとは言えないがまぁ、修理の許容範囲内だ。レンが高機動戦に持ち込むのはもう癖だし諦めている。今更それをどうこう言うつもりはゼノンには無かった。

 だが喜ばしい事だけでは無い。

 マフティーを名乗り、あまつさえΞガンダムで現れたアンノウン。そして随伴するジャスティスとシナンジュ。規制によって簡単には製造できなくなったモビルスーツばかりだ。その目を掻い潜って製造されたとなれば、連邦の沽券に関わる一大事である。

 そして最も厄介なのはマフティーの活動が世界中で起こっている事だ。

 戦場はGeist達の戦った島だけではなかったのである。それも軍事演習や連邦の基地を狙ってばかりで主要都市には一切立ち入らない。それは連邦そのものがターゲットになっていると言っても過言ではなかった。

 だからこそ余計に意図が見えない。ゼノンも過信しているつもりはないが連邦の力は強大で、それこそ世界を守る巨大な組織に二言は無い程に。それに正面から喧嘩を売るなど正気を疑いたくなる。

いや、そんな正気とも思えぬ連中は確かにいるのだ。マフティーに限らずこの四年で小規模ながら各地で起こっているテロがそれだ。その理由は様々だが、共通して言えるのは各々がそれぞれに主義主張を押し通そうとする所だろうか。

 ニューロという目の前の敵が消え、人々は再び自由を手にした。その自由を謳い、自分勝手な主義主張を言いだし、互いに互いの主張のみを通せば当然摩擦が発生する。自分の意見を言い、行動することは確かに自由だ。しかしそれのみに固執し、それを通す為に武力という力を持ち出した時点で自由はその意味を失う。自由が暴力に変わるのだ。傍若無人な振る舞いを決して自由と認めてはいけない。

 連邦はこの世界を守らねばいけない。決してそんな自分勝手な暴力に屈してはいけないのだ。

 

「ふぅ……」

 

 椅子に深く腰掛け、ゼノンは大きく息を吐いた。

 自由というのは一見すると聞こえが良いが、とても扱いが難しいものである。あれも自由、これも自由というのはすでに自由ではなく、自由という名に踊るただの愚者だ。自らを律する事ができない自由になんの意味も無い。

 そもそも人との関わりがある以上、真の自由など不可能だ。意思が摩擦を生み、制限が生まれる。 できることとできないことがそこに発生する。無限大に、限界という枷が発生する。

 それでも十分に世界は回る。制限付きの自由でも、それが個人によって制限の限界が違っても。

 

「だから全てを円滑に進める為に世界は管理されなきゃならない。それを行っているのが今の連邦ってわけだ」

 

 ゼノンの正面に少女が座っていた。細い体に白いワンピースを着た水色の髪の少女だ。

 しかし清楚な見た目とは裏腹に口には歪な笑み。そして視線は冷たく鋭い。

 

「異なる主義は必ず摩擦を生む。摩擦は大きければ大きいほど熱を持って火に変わる。火は束になって炎になる。炎は燃え広がって全てを焼き尽くす。まるでこの世界みたいじゃないか」

 

 まるでその炎が世界に広がるのが楽しいかのように少女は「くくくっ」と笑っている。

 冗談ではない。ゼノンは眉間に皺を寄せて頭を振った。

 その摩擦を生んでいるのはどこの誰だ?

 

「君にそれを言う権利があるのかね? マフティーの使者であるお譲さん?」

「やだなぁ。そんな呼び方しないでよ、オ・ジ・サ・マ❤」

「確かに君ほどの歳の子にしてみれば儂はおじさんだろう。お爺ちゃんと呼ばれないだけまだマシと言う事だな。では君の事はなんと呼べばいいのかな?」

「そうだぁ。エクスィって呼んでよ」

「ではエクスィ。儂の事もゼノンと呼んでくれ」

「了解。ゼノンおじさま❤」

「その『おじさま』を止めてほしいのだがね……」

 

 頭を抱えるゼノンがおもしろいのか、目の前の少女は笑いを堪えている。

 なんとも不思議、いや面妖な事だ。リーンホースJr.帰還の連絡を受け、ほっと一息ついた瞬間。この水色の髪の少女がいつの間にかソファーに腰掛けていたのだから。しかも自分はマフティーの使いだと言う。

 すぐさま机の中の銃を取ろうとしたが、それもいつの間にか彼女の手の中。ご丁寧に外への連絡も出来ない様に細工されてしまっていた。何から何まで手が込んでいる。最悪力づくでなんとかしてやろうかとも思ったが、彼女が一体どんな手でここに現れたのかが分からない以上、下手な行動も取れずにいた。

 しかし埒が明かない。ゼノンは息を整え、打って出る事にする。

 

「さていい加減本題に入ろうじゃないか。エクスィ、君は何をしにここに来たのだ?」

「その前に一つ質問。ゼノンおじさまは今の連邦でこの世界が平和になると思うかい?」

「質問に質問で返すのはあまりよろしくないな。しかし良いだろう。答えようじゃないか。今の連邦でこの世界に平和になると儂は信じている。少なくとも、そうであらなければならないと思っている」

「ふ~ん。オーバーテクノロジーが先行して、人と人の信頼が一度壊された世界なのに?」

 

 痛い所を突いてくれる。ゼノンの眉が僅かに動いた。エクシィは目を細め、そんな彼を見据えている。

 確かに人と人の信頼という鎖は一度破壊されてしまった。だが完全ではない。それでもまだその鎖は残っている。でなければ戦後この世界はもっと混迷を極めただろう。そうならなかったのは、この世界の人間がまだ信頼で繋がっているからだ。それにオーバーテクノロジーが先行するからこそ、それを連邦が管理し規制も行っている。そしていつかはそれもオーバーテクノロジーでは無く、広く民間にも普及する技術になるだろう。そう、きっと遠くない未来に、確実に。

 するとエクスィは手を叩いて笑い声を上げた。一体何がおかしい。睨みつけるが彼女は構わず笑い続ける。そして気が済むまで笑った後、また清々しい笑顔に戻る。

 

「いやいやゼノンおじさまはとんだロマンチストだね。うん、そういう夢のある考え方は嫌いじゃないよ。今はそれで良いかもしれない。でもさ、これから先は分からないじゃないか。現に人は裏切るという事を知った。それに人の欲望には限りがない。今のテロ達が良い見本だろ? これから先、連邦の中にそういう奴らが出てこない保障はないじゃん」

「悪い方にばかり考えても仕方が無い。そうならない為にも次の代に儂らの意思を引き継いでもらうのだよ。それとも何かね。マフティーならそうならない組織を作り上げる事ができると言うのかね?」

「あ~、それはきっと無理。うん、きっとじゃないな。絶対無理」

 

 それはあまりに拍子抜けする返答だった。一体この娘は何が言いたいのだ。ゼノンはエクスィの意図が読めずに眉をしかめるしかない。しかし当のエクスィはひらひらと手を振り、まるで他人事のような話しぶりだ。

 

「だって連邦はやっぱ大きいもんね。そんな大きい力に対してマフティーみたいな小さな組織が正面から喧嘩売って勝てる筈ないじゃん。そんなマフティーができるのはね、力を奪う事だけだよ」

「力を奪う、だと?」

「そう、大きくなり過ぎた力を奪う事だけ。制御できない力なら最初から持ってない方が良いに決まってる。でもさ、もうこの世界はその力を持ってしまった。しかも使う人間はどれも不安定。だったら今ある力をできるだけ奪って、それを制御できる別の組織が管理してやれば良い。そう思わない?」

「まさか。連邦以外にそんな組織など……」

「あるんだなぁ、これが。連邦よりも、この世界の何処よりももっと技術の進んだ世界。そこならこの世界のオーバーテクノロジーも制御できる」

 

 何を言っているか分からなかった。いや、分かっていてゼノンはそれを否定していた。

 彼女は『世界』と言った。彼の中で『世界』という単語はつい最近、別の意味を含むようになった。

 そう。帰還した彼とその世界から来訪者たる彼女達の存在で。

 そしてエクスィがゼノンの否定を砕くトドメの一言を言い放つ。

 

「時空管理局さ。この世界が時空管理局の庇護を受ける。そうする事でこの世界に新しい潤滑油が生まれ、摩擦は小さくなるんだ」

「馬鹿なっ! そんな都合の良い話あるものか!」

「時空管理局には実績があるんだよ。数多の次元世界を平定してきた実績がね。それだけじゃないよ。ゼノンおじさまはピンと来ないかもしれないけど、次元世界でオーバーテクノロジーなんてのは珍しいもんじゃない。所謂オーパーツと言っても良いものだってある。時空管理局はこれらが悪用されないように管理してきたんだ。さてここで問題。時空管理局からしたら、この世界のオーバーテクノロジーはどう見えるだろうねぇ?」

 

 なんと意地の悪い問題だろうか。言わずともゼノンの答えは決まっていた。

だから答えられない。答える事ができない。

 

「更に追加だ。時空管理局は質量兵器を原則禁止している。モビルスーツはもうれっきとした質量兵器だよね。だからその数は減らしておくに限るんだよ。マフティーはその手助けをしてるってわけ。時空管理局がこの世界を管理しやすいようにさ」

「ふざけるな! それは管理という名の支配だ!」

「それはちょっと違うな~。支配って言うのは、実権を管理局が握るってことでしょ? 管理局はあくまで技術の管理と治安維持が目的。主権はそちらさんにあるのさ。それにね、管理局には魔法がある。誰も傷つけずに相手をノックアウトさせることができる夢のような力さ。それがあれば今世界で起こっているテロも管理局が部隊を派遣することで万事解決! あ、勿論復興作業だって援助するよ。どう? そちらさんにとって悪い話じゃあないだろ?」

 

 確かに美味い話だ。

 しかし『美味過ぎる』。

 こちらにメリットがあり過ぎる。それでは時空管理局は次元世界を股にかけるボランティア団体の様ではないか。果たしてそれは真実なのかと疑いたくなる内容ばかりである。

 腑に落ちない点は諸々ある。しかし今そのカードを切るには早い。カードを切る為の情報が足りなさすぎる。

 

「……時間をくれないか」

「どうぞどうぞ。確かにゼノンおじさまが思っている通り話が美味過ぎるもんね。そろそろ時空管理局の特殊部隊にいた連中も帰ってくる頃だし、エクスィさんは帰らせて頂きますよ~。あ、でもこれは忠告。ちゃんと話を聞いてくれたゼノンおじさまを想ってエクスィさんから一つばかり、本当の忠告です」

 

 それは今まで見せなかったエクスィの真剣な顔。笑顔の絶えなかった彼女が見せた本気の真剣。

 目からは冷たい鋭さが消え、別の意味の鋭さを持っている。

 

「多分、悠長にしている時間は無いと思うな。決断と行動は早くしないとおじさま達、身動きとれなくなるからね」

「……どういう意味だ? それに何故そんな事を?」

「意味は言えない。理由はさっき言っただろ? ちゃんとあたしの話を聞いてくれた。それに、おじさまがあたし好みの渋いイケメンだから」

 

 そして彼女は指で銃の形を作る。それをゼノンに向けて「ばぁん☆」と一発。ウィンクと一緒に撃ってみせた。

 呆気に取られるゼノン。そんなゼノンを尻目にエクスィは堂々と扉から外に出る。

 最後にしっかり「バイバイ」と手を振りながら。

 慌てて扉から外を覗くがすでにエクスィの姿は無い。まるで先ほどの事が全て夢か幻であるように、長い廊下には誰一人として姿は無い。

 まるで狐につままれた気分のまま、ゼノンは頭を掻きながら部屋に戻るしかなかった。

 

「まったく……。儂には妻もいるというのに。それに孫より若く見えるお譲さんに口説かれてもな」

 

 椅子に深く腰掛け窓の外を見やる。

 そこには夕日を背に帰港しようと高度を下げてくるリーンホースJr.が見えていた。

 

 

 

 

 

 

 そして翌日、極東支部長室。

 

「これは一体なんの冗談だね?」

「冗談なんかでこんな事はしませんよ」

 

 目の前のゼノンに向けられたティアナの厳しい目。彼女を囲むスバル達とセリカもまた同じ目を回りに向けている。そんな彼女達を囲むエリス達Geistは困惑しながらも、銃を向けている。

 だがゼノンは微動だにせず、椅子に座ったまま鋭い視線をティアナに返した。

 

「ではどういう事なのかね?」

「……単刀直入にお聞きします」

 

 

「レンさんは何処にいるんですか?」

 

 

 ギラリと輝くクロスミラージュの銃口がゼノンに向けられた。

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