魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第43話 レン・アマミヤ奪還作戦

1

 

 

 

 レンとゼノンが連れて来られたのは、連邦前線基地の一つである。前方には広い海が広がり本来ならば立派に前線基地として使用されて然りな物であるが、ニューロ・レンと取引した一部の連邦の上層部によって基地は彼に譲渡。隠ぺい工作として、息のかかった連邦兵士と大佐を始めとする諜報部が入る事で上辺だけは連邦の基地として機能しつつ、マフティーのテロリスト達が頻繁に出入りする場所となっていた。

 そしてその日も朝から管制室は連邦の兵士によって周辺監視が行われている。

 

「どうです? 周辺に不審な点はありませんか?」

「ハッ! 依然レーダーに不審な点はありません!」

「宜しい。では引き続き警戒を怠らないで下さいね」

 

 そう言って離れる大佐。しかしにこやかに見えるその表情の奥で彼は細い目を不審に光らせた。

 状況が変わらないのは良いが変わらなすぎる。餌をまいたというのに獲物に動く気配が無い。

 予測ではとっくに到達しても良い頃だと言うのに……。

 

(餌をまき過ぎましたかね?)

 

「ん? ……レーダーに機影を確認しました!」

「!! 状況報告を!」

「数は一つ! 大きい! 上空、大気圏からこちらに向かって猛スピードで降下してきます!」

「第一種警戒体勢! きっとそれだけではありません。これからどんどん来ますよ!」

「はいっ!」

 

 基地内に警報が鳴り響き、一気に慌ただしくなる。連邦兵達が次々と早足で駆けていく中、大佐は一人唇の端を吊り上げた。

 ようやく来た。ようやく始まった。随分とじらされたがこれでようやく始められる。

 さぁ手始めにここを君達はどう攻略する?

 彼の胸は期待に昂っていた。どうやら朝から美味いコーヒーが飲めそうだ。

 

 

 

 機体を絶えず襲う衝撃にコックピット内は大きく何度も揺れていた。操縦桿を握る手にも自然に力が入り、彼はバランスを取る事に神経を集中させている。

 

「ったくよぉ! 慣れない機体だってのに隊長も無茶させる!!」

 

 彼はビリー・ブレイズ。Geistのパイロットだ。

 そして彼が操っているのは愛機のガンダム5号機ではない。

 ORX-5 ファイバーと呼ばれる機体だ。ギャプランの改修機TR-5をコアユニットとした拠点強襲用MAである。その運用は大陸間弾道ミサイルに似ており、大気圏から敵拠点目掛けて強襲をかける事を可能としていた。そして今回その本来の運用スタイルをそのまま適用し、こうして突入を行っている。

 しかし突入時のこの衝撃だけは如何ともし難い。大戦中、ガンダム5号機に巡り合うまで数々のモビルスーツを乗り継いだ経験を持つビリーですら、操縦には多大な神経をすり減らしていた。少しでも機体のバランスが崩れれば強襲地点は大きくずれ込んでしまう。この揺れの中で軌道計算の入念なチェックを行う彼の額には玉の様な汗が浮かんでいた。

 雲を突き抜け、眼下に青い海が広がる。目標の基地も見え、ビリーの手に力が入った。

 と、岸壁から砲台が出現しファイバーに向けて機銃が次々と火を噴く。しかし既に最高速に入ったファイバーには当たらない。すでに狙いをつけるという領域の速度ではないのだ。確かに当たれば如何に機銃と言えどこちらの加速度も合わせて洒落にならない威力になるだろう。

 だが当たらなければ良いのだ。当たらなければ。

 ビリーは既に目標を目視に収めている。迫る弾丸も最小限の動きで回避している。数多くのモビルスーツを乗り継いだビリーだからこそ、できる芸当だ。

 基地から機体が出てくる様子は無い。これで出て来られたら奇襲の意味が無いのだから予定通りだ。

 それに出撃しようにももう遅い。既に射程圏内である。

 

「それじゃ、祭りと行こうぜ!!」

 

 速度を維持したまま大型バインダーを四枚羽の様に展開。そこから放たれるのは無数のビームの雨だった。機体を旋回させ、拡散ビームが辺りをまき散らす。逃げ場のないビームの嵐に動けない機銃砲台は格好の的だ。辺りは瞬く間に火の海と変わった。

 コアユニットであるギャプランTR-5よりも巨大なバインダーの為にファイバーは歩行が困難を通りこしてまず不可能。しかしそのバインダーから得られる爆大な推力によって空中戦では見た目以上の軽快さを得ている。その姿は正に拠点制圧に相応しいMAと言えよう。現に今も自由に空を駆け巡り、拡散ビームの雨を降らせている。対抗し飛び立とうとするモビルスーツも制空権を握られてしまい、出るに出られないでいる。

 ならばと地上に展開したサーペントが一斉に対空砲火を行った。ダブルガトリングガンに肩部8連装ミサイルランチャー。そもそも重火器満載のモビルスーツだ。防御には自信のあるこのファイバーも乱れ飛ぶ弾丸とミサイルを立て続けに貰う事は自殺行為の為、距離を取らなければならない。一度上空高く舞い上がり、ガトリングガンの射程から外れると迫るミサイルは拡散ビームで全て撃ち落とす。反撃にロング・ブレード・ライフルを撃つも数で攻めるサーペントには如何せん物足りない。拠点制圧、密集乱戦に強いファイバーでもこれは如何ともし難かった。

 だがビリーの顔に焦りは無い。そろそろ次のシークエンスに入る時間だ。

 そしてその時は訪れた。

 突如飛来したビームの砲撃にサーペントの部隊が飲み込まれる。再び巻き起こる爆炎にサーペントに搭乗していた兵士達は目を見開いた。

 遥か海上遠く、水飛沫を上げながら海面を疾走する新手の影。人が大型の鎧をまとったかに見えるそれが丁度上部の砲台を仕舞いこんでいた。同時に右側面、一門二連装のビーム砲が展開している。

 

「首尾は上々。狙い撃つぜ!!」

 

 そしてビームが放たれた。初撃よりも威力に劣るとはいえ、それは正確にサーペントを撃ち抜く。

 すぐに別のサーペント部隊がその機体に向けて展開された。ファイバーと同様に弾丸とミサイルが次々と火を噴き、その機体を狙う。だが今度は同じとはいかない。機体を囲む緑色の輝きが全て防いでしまったのだ。代わりに今度は左側面のミサイルコンテナから放たれたミサイルが次々とサーペント部隊に雨あられと降り注ぐ。

 

『よぉクレア。なかなか使えてるじゃねーか』

『基本はデュナメスですからねー。むしろビリーさんですよぉ。大気圏からのランデブー、お見事でした!』

『パイロットとしての年季が違うんだよ!』

 

 ファイバーと通信を交わす少女はクレア・ヒースローだった。そして彼女が操っているのはGNアーマー TYPE-D。かつてキールが搭乗したTYPE-Eと同系列のMAだ。TYPE-Eとは違い、純粋に砲撃、射撃に特化しているのはコアユニットがエクシアではなく、射撃、狙撃の機体ガンダムデュナメスだから。

 そしてその機体を熟知しているクレアはGNアーマーを手足の様に操り、上空からの狙撃と爆撃を繰り返す。

 ファイバーとGNアーマー TYPE-Dによる連続奇襲攻撃。だがまだ終わらない。

 突然ビリーとクレアは機体を上昇させた。残されたサーペント部隊は突然二機が上昇した意味が分からず、徹底抗戦を続ける。執拗にダブルガトリングの弾丸とミサイルを撃ち続けていたのだ。

 

『くそっ! 空から俺達を狙い撃ちするつもりか!』

『何をしている! 海上の戦艦に気付かないのか!?』

『何っ!?』

 

 管制室からの通信にサーペントを操っていた兵士の一人は慌てて海を見て顔を青くした。そして自分の機体に映るレーダーにも目を通す。そこにはしっかりともう一つの影が姿を見せていた。ファイバーとGNアームズに固執するあまり、出現した影を見落としていたのだ。

 初歩的なミス。しかし決定的なミス。戦場においてそんな些細な事が死に直結する。

 彼が自分の過ちに気付いた時にはもう遅い。影から放たれた六本の光が彼をその彼方へと消し去っていた。

 

 

 

 

 

 

「見事なまでに連携が取れていませんね。あの地上部隊はテロリストの寄せ集めと言った所でしょうか」

『予想通り、と言った所ですか。連邦は自分達の関与をできるだけ隠し、テロリストを兵士に見せかける。しかしそのテロリスト達で迎撃できないとなれば当然……』

「ええ。正規の連邦兵が出てくる事になるでしょう。それにもうそろそろ体勢を立て直し、航空戦力が出てくる頃会いです」

 

 戦艦のブリッジ。セリカは通信の相手から外の状況に目を向けた。オペレーターが彼女の言葉通り、空戦モビルスーツが射出された事を報告する。勿論、彼女もそれを目視で確認していた。

 

「ここは連邦でも特に守りが固い基地として知られています。当然、目に見える場所以外にもカタパルトが存在していますから当然の結果ですね」

『それにこちらの戦力を考えるとまず確保すべきは制空権。しかしそれは相手も先刻承知。となれば最も有効なのは今回の様な強襲作戦。そこでいかに戦力を削れるかが分かれ道になります』

「今の所は問題なく機能していますね。ですが、これでもようやく少しばかりこちらが有利になったに過ぎません。本来の目的はレン君と中将の救出。壊滅はそれまで引き延ばさなければならないという制限もあります」

『その点についてはご安心下さい。こちらも準備は整っています』

「はい。こちらはできるだけ相手の戦力を削る事に注力する事にしましょう」

『では、失礼致します。……ご武運を』

「そちらも」

 

 互いに笑い合い通信が切れる。目の前の戦場は空対地から空対空に移り変わっていた。

 基地から飛び立つ無数のウィンダム。先のサーペントと同様に以前の様なモビルドールなどではない人間が乗り込んだモビルスーツだ。しかしだからと言ってセリカ達も退く事はできない。例え相手が人間であろうともやらなければならないのだから。

 

「エリス、レイチェル。お待たせしました。出番ですよ」

『了解です!』

『準備万端! 抜かりはありません!』

 

 頼もしい少女二人の返事にセリカも頷く。

 

「では、両機発進して下さい!」

 

 だからこそ彼女も自信を持って出撃の声を上げるのだ。

 そしてセリカ達の戦艦、リーンホースJr.から飛び立つ二機のモビルスーツ。エリスのガンダムF91とレイチェルのバイアラン・カスタムが一直線に砲火乱れ飛ぶ空へと駆けて行く。

 敵はウィンダム。確かに人が乗っているのを二人の優れた感応力が感じ取る。だが二人はそれに怯むことなくトリガーに指をかけた。

 まずはF91のビームライフルを撃つ。空を切り裂く一条の閃光が正確に一体を貫いた。続けてバイアラン・カスタムも飛び出し、接近をしかけながらの拡散メガ粒子砲。拡散と言えども近距離で使えばマシンガンの様に扱う事ができる。標的にされたウィンダムを瞬く間に蜂の巣にし、レイチェルはすぐに機動を変えた。ビームサーベルを伸ばし、迫った一機を薙ぎ払ったのだ。爆発と共に急速離脱。すぐさま別の機体に照準を合わせつつ前身する。

 目標は奮闘するビリーとクレアだ。どちらもXLサイズの機体。このように空中の乱戦となればその巨体は的になってしまう。その援護に向かわねばならない。現に二機とも縦横無尽に空を駆けているものの、それは取りつかれるのを嫌がっているようにも見える。GNアーマーがミサイルをばら撒き、GNツインライフルで迎撃。ファイバーも拡散ビーム砲とロング・ブレード・ライフルで牽制を行っている。

 

『クレアっ!!』

 

 必死に通信で呼びかける。迫るウィンダムを斬り捨て、バイアラン・カスタムは真っ直ぐにGNアーマーへと飛んでいく。

 

『あたしはまだまだ大丈夫だよ! いざとなればパージするさぁ!』

『でも!』

『それにどうのこうの言ってる場合じゃなくなってきたみたいだしね』

 

 クレアの声にいつもの軽さが無くなった。理由はレイチェルにも分かる。ウィンダムの中に一際目立つ機体を見つけたからだ。リフターを背部に装着した赤紫の機体。

 ジャスティスガンダムだ。

 やはり出てきたと二人は気を引き締める。特にクレアはあの機体の力を前回嫌と言うほど味わっているから尚更だ。

 

『レイチェル、周りをお願い。ジャスティスはあたしが相手をするよ』

『無茶よ! クレアだって消耗してるでしょ!?』

『大丈夫。さっきも言ったっしょ? いざとなればパージするし、深追いはしないつもり。でも足止めくらいならなんとかできる。だからレイチェル、行って!』

『……絶対無理しないでね』

『モチのロン!』

 

 その声を聞き、レイチェルは機体を反転させた。向かうはウィンダムの群れ。クレアとジャスティスに邪魔が入らないようにすることが今のレイチェルの務めだ。バイアラン・カスタムがバーニアを噴出させて飛び去って行く。残されたクレアは改めてジャスティスと向き合った。余裕なのか律義なのか、この弾丸とミサイル。そしてビームの飛び交う中で攻撃もせずにその機体は彼女を待っているようだった。

 

『お話は終わったッスか~?』

『ああごめんごめん。いや~、律義に待っててもらって悪いね~』

『なんのなんの。これが最後になるんだから、それくらいは待ってあげても良いかなって思っただけッス』

『言うねぇ~。でも残念。最後にするつもりは全然ないんだな~』

『あははははっ! なかなか上手い冗談を言うじゃないッスか』

『そっちこそ上手過ぎて笑えないよ』

『……』

『……』

 

 ジャキッ!!

 

 ジャスティスのビームライフルとGNアーマーのGNツインライフルが同時に動く。銃口を向け合うと、トリガーを引くまでにお互い、なんの躊躇も無かった。しかしジャスティスは大きく機体を動かし、GNアーマーはフィールドを張る事で互いにこれを凌ぐ。

 開戦の狼煙は上がった。後は互いに全力で戦うだけだ。

 

 始まったクレアの戦いをエリスはF91を操りながら横目で見ていた。レイチェルも彼女の所に余計な邪魔が入らないように一機でも多く撃墜しようとしている。正直その姿に少しだけ安堵を覚えた。

 レイチェルとクレアは確かに親友同士。レイチェルがクレアを気にかけるのは当然予想できていた。

 だがクレアはあの戦い以降、ジャスティスになんらかのこだわりを持っている事をエリスは知っている。

 何度もシミュレーターで訓練をしている姿を見れば、こうなる事は誰でも分かる事だ。例えそれをレイチェルが止めようともクレアは止まらないだろう。それをレイチェルも理解した。だからジャスティスをクレアに任せ、信じたのだ。

 

『心配か? あの二人がさ』

『当然ですよ。仲間ですからね』

『ははっ。違いねぇ。特にお前さんからすればあの二人は妹みたいなもんだからなぁ』

『妹ですか? 私一人っ子なんでよく分かりません。それを言ったらビリーさんだってそうなんじゃないんですか?』

『妹って言うより、やかましい後輩だな』

『まんまじゃないですか』

 

 向かってきたビームをF91のビームシールドで弾くと、エリスはすぐさまライフルを撃った。また一機、その閃光に貫かれ爆散する。同様にF91の近くを飛んでいたファイバーも四方八方にビームの線を描いた。

 逃げ場の無い閃光に捕まり、ウィンダムが一機、また一機と地上に落下していく。

 飛行制御が取れなくなり、地面に叩きつけられた機体達から火柱が次々と立った。

 

『!! 避けろエリス!!』

『えっ!? きゃあ!』

 

 ビリーの声に自然と体が動いた。数瞬前まで機体があった位置を弾丸が貫いていく。

 地上からの射撃だ。もう地上のモビルスーツは殆ど残っていないというのに。

 だがそんな考えも炎の中に佇む一機を見て一気に吹っ飛んだ。

 燃え盛る炎の中を悠然と歩いてくる一機がいる。

 

「……ザク?」

 

 あのモノアイ。丸い頭。エリスが見間違えようはずもない。確かにあの機体はMS-06F2 ザクなのだが、それを感じ取れるのは頭部だけだ。それ以外は正に重装甲。ミサイルポッドや装甲の増設により、全く別の機体に見える。

 そしてその機体がこちらを見上げていた。モノアイがギロリと輝き、エリスのF91を睨みつけている。

 ドクン。

 エリスの鼓動が跳ねあがった。この感じを彼女は覚えている。そう遠くない日に彼女はこの感覚の主と会っている。確実に。

 

『そう。そういう事なのね』

『エリス? ……感じたんだな?』

『はい。あれには間違いなくΞガンダムのパイロット、マフティーが乗っています。そして彼は私を誘っている』

 

 通信越しにもエリスの緊張がビリーに伝わってくる。しかし感応力など無くてもビリーには分かった。

 彼女はこの誘いを受けようとしている。相手は正に大将クラス。一騎討ちのリスクは高いが、もしも落とせるならリターンは大きい。どうやら彼も腹を括らねばならないようだ。

 

『空は任せろ。なぁに、まだまだイケるさ。だから行って来い。だがな、必ず帰って来い。お前も俺の後輩には変わりないんだからな』

『……はいっ!』

 

 ファイバーがF91から離れて行く。彼女に援護する拡散ビームによって再び空に爆発が巻き起こった。

 その光に守られながらエリスはF91を降下させていく。余計な敵をライフルで撃ち抜き、サーベルで切り裂き、純白の機体はどっしりと構える黒と紫のザク目掛けて突き進む。

 そしてエリスがこの勝負を受けた事に気付いたのだろう。左腕に装着されたマシンガンが彼女に照準を合わせた。途端に張り巡らされた弾幕を掻い潜り、エリスもビームライフルのトリガーを引く。しかしザクは見た目からは想像もできない速度でライフルの閃光を避けて見せた。機体重量の増加に伴い、バーニアの出力を上げているのか? エリスは地面に降り立つとライフルとメガマシンキャノンの牽制を行いながら、同時にヴェスバーを起動。一際強烈な光を放った。

 閃光がザクに襲いかかり、爆発が起こった。だが仕留めた感覚は無い。避けられた? レーダーだけでなく、自分の五感をフルに使って周囲に気を配る。

 と、その感覚が迫る何かを捉えた。炎を越えて見えたそれ。エリスはとっさに頭部のメガマシンキャノンを撃つ。

 

「しまった!」

 

 着弾の直前、それが何であるか見えた。それは筒状の爆弾、ハンドグレネード。奇しくもエリスは自分の攻撃でそれを起動させてしまった。間近で起こる爆発にF91の体勢が大きく崩れ、アラームが鳴り響く。

 正直、それはエリスの勘だった。運が良かったと言ってもいいだろう。何かに突き動かされるように彼女はビームサーベルを抜き放ち、それが結果として自身を救っていた。

 閃光の剣が何かに当たり、スパークしている。そして彼女の目の前にはあのザクだ。

 サーベルの刃に当たっていたのはそのザクが構えたヒートホークだ。

 

「くうううっ!」

 

 しかし体勢が悪い。半ば覆いかぶさる形になり、機体の重量に任せてヒートホークが押しこまれてくる。

 このままでは畳みかけられてしまう。

 

『なかなか頑張るじゃないですか。エリス・クロード』

『その声、貴方がマフティーね!』

 

 突如繋がった通信から自分の名を呼ぶ声がする。何故彼が自分の名前を知っているのか、今は問題ではない。それよりも何故だろうか、彼女に別の疑念が生まれていた。

 初めて聞いた感じがしない。いや、実際初めてではないのだが、それでもどこかずっと前から知っている。そんな感じだ。

 

『そうとも。僕がマフティーです。そしてこれが僕の本当の愛機、スーパーカスタムザクF2000。Ξガンダムも良かったんですがねぇ、僕はこういう機体の方が好きなんですよ』

『あんたの趣味なんかどうでも良いわっ! レンさんと中将は無事なの!?』

『中将には手を出していませんよ。ただレン・アマミヤについては、まぁ彼次第と言った所でしょうか』

『レンさん次第? 意味が分からないわっ!!』

 

 再びメガマシンキャノンが火を噴いた。ザクの装甲がそれをいとも容易く弾き返す。だがそれで良い。

 ダメージは与えられなくても、多少押しこみが弱まった。その瞬間を狙い、エリスは背部バーニアのペダルを全力で踏み込む。そして地面スレスレに浮き上がった所でザクの腹を思いっきり蹴りだし、その反動を使ってザクから一気に抜け出す事に成功する。

 しかしザクから無数のミサイルが発射され、F91を追ってきた。ビームシールドを展開しながら地面を滑るように逃げるがミサイルは次々と地面に着弾。彼女にどんどん爆発が迫って来る。

 

「このっ!!」

 

 追い込まれている。ミサイルで退路を塞ぎ、炎の中をザクが迫るのをモニターで捉えながらエリスはライフルを撃ちまくった。しかしザクの装甲がビームを弾きながら、それをもろともせずに突っ込んでくる。

 元々のフルアーマーに加えて耐ビームコーティングとはどれだけ防御を固めたいのだろうか。それにあの突進力、予想が外れていなければハイパーブースターで強化している。細かな機動力は捨てて、一撃の重さで勝負というつもりなのか。更にその為の布石、ミサイルとマシンガン。ビーム系の武器は見られない。ビームに使うジェネレーターを捨て、実弾系に特化すればその強化は高性能TNT火薬で行える。

 全く厄介な機体を使われたものだ。元々の機体チューンナップに加えてこれでは手が出しにくい。

 

『ほらほら! いつまでも逃げてばかりじゃ狩られてしまうよ!』

 

 更にザクが加速した。まだ接近戦には距離があると考えたエリスだが、ザクの背部から姿を見せたそれで瞬時に考えを改める事になる。取り出したのは柄の長い巨大なヒートホーク。通常の何倍もあるヒートホークは刃が更に高熱となり、赤熱化しているほどだ。

 

『そぉらっ!!』

『くっ!!』

 

 リーチもあり、加速も乗ったそれが一気に振り降ろされる。

 轟音爆音。その音すらも衝撃となり、エリスの前で弾け飛ぶ!

 

 

 

2

 

 

 

 一方リーンホースJr.では艦長席に座ったセリカがじっとこの戦いの局面を見守っていた。

 数は圧倒的にこちらが不利。奇襲作戦はそれを埋める為でもあり、それは概ね成功したと言っても良いだろう。しかし相手もエース機を出してきた。連邦の兵士も出してきた。案の定こちらも不用意に前に進めなくなった。明らかに局面はこう着状態に陥っている。

 

「右舷より別働隊! シナンジュです!!」

「やはり本艦を直接叩きに来ましたね」

 

 モニターに映るシナンジュがウィンダムを引きつれて海上を滑るように接近してくる。なるほど、シナンジュの推力なら短時間でも可能だろう。

 

「シナンジュは彼女に任せて、ウィンダムの迎撃に集中して下さい。私もゼロで迎撃に向かいます。回線を開いておきますので、後の事は彼女の指示に従って下さい」

「了解!」

 

 クルーの声を聞き、セリカは回線を開く。そこには軍帽を深くかぶった青い髪の女性が映し出された。

 

「というわけです。この艦の指揮をお願いできますか?」

『相変わらず無茶を言いますね先輩は』

「貴方でなければこんな事頼めないですよ。何しろ貴方は私の優秀な後輩ですから」

『全く。おだてても何もでませんよ? ですが、そう言われては引き下がれません。リーンホースJr.の指揮は任せて下さい』

「はい。お願いしますね」

 

 にこやかな、とても良い笑みを浮かべてセリカが出て行く。すると残されたクルー達は誰ともなく忍び笑いを上げ始める。この戦闘中にだ。その様子に画面の女性はきょとんと目を丸くするばかり。

 

『なんですか貴方達。不謹慎ですよ?』

「すみません。でも隊長のあの様子を見たらいてもたってもいられなくて」

「隊長、本当なら我先に出て行きたかったんですよ。何せ、ご子息のピンチですからね。一人の母親である前にGeistの隊長ですから今まで無理してずっと我慢していたんですよ。でもこれで隊長は大手を振って前に行ける。そう思うとなんだか自分達の様に嬉しくて……」

 

 オペレーターと操舵士がそんな事を言う。画面の女性は一瞬呆れた顔をしたが、すぐに軍帽を目深に被り直した。その下にはうっすらと笑み。自分の知るセリカが何一つ変わっていないこと。いつまで経っても部下に慕われる先輩であった事が嬉しくてつい彼女も笑ってしまった。

 だがそれもすぐに切り替わる。セリカから艦の指揮を任された以上、何が何でもやり遂げなければならない。

 

『さぁ貴方達、おしゃべりはここまでです! 私が状況を知るには今まで以上に詳細な情報が必要です! 些細な報告も怠らないように!』

『はいっ!』

 

 彼女の檄にクル―達も気合いを入れて応えた。

 

 

 

 リーンホースJr.に群がるウィンダムの群れ。本来ならそれを率いているのは真紅のモビルスーツ、シナンジュだ。だが現在シナンジュは攻撃に参加していない。何故か。閉めだされたのだ。この戦闘域から。

 

『ったく、まだ実力差ってのが分からねぇのかよ』

『何分、諦めの悪い性格でな。先日のリベンジ、果たさせてもらうぞ』

 

 二機は海岸滑走路の上で相対していた。

 シナンジュを押し出した機体、それはエルフリーデのギャン改。飛行能力を持たない彼女の機体だったが、決して今回の作戦で不要とはならない。何故なら相手がエース機を出してきた際のエースキラーとして動いてもらわねばならない。しかもピンポイントに対シナンジュとして。

 そして今現在、彼女はようやく回ってきた出番に不謹慎ながらも心が躍るような気分だった。

 正直エースキラーと言ってもシナンジュが出てこなければ、最悪待機もあったのだ。仲間が必死に戦っている中でそれはあまりにも情けない。セリカの事だからそれはそれで別の任務を与えてくれただろうが、やっぱり情けない。だからこうして自分に与えられた役目を、その通り遂行できるのはありがたいとも言える。

 だから彼女は騎士らしく、目の前のシナンジュに対して剣を取り礼の構えを取った。

 

『何の真似だ? あたしを馬鹿にしてるのか?』

 

 どうやらちゃんと伝わってはいないようではあるが。

 

『なに、こちらの話だ。さて、貴公にはしばらく私と踊ってもらうぞ。いや、その声からして女性だからやはり貴女か?』

『お前だって女だろうが。ってか最初と大分違うな。調子狂うったらありゃしない』

『ふっ、安心しろ。正直今もお前達には腸が煮えくり返る気分だ。だがな、流石にあの時の事は私も反省したよ。騎士にあるまじき言動だったとな』

『へぇ。ならその騎士サマはこうしてお仲間を助けにここまで来たって事だ?』

『誤解の無い様一つ断っておこう。私はレン・アマミヤという男が嫌いだ』

『……それで?』

『私はあいつに勝ちたい。だが肝心のあいつがいなければ勝負もできん。だがな、それ以上にお前達の所業は目に余る! よってここで成敗する! それが私がここに居る理由だ!』

『ンだよ。まどろっこしぃ。最初っからそう言えば良いんだっての。良いぜ。やろうか』

 

 大剣と盾を構えるギャン改。シナンジュもビームサーベルを抜き、盾を構えた。

 この戦場において、そこだけが決闘と言うべき空間となる。

 

『我が名はエルフリーデ。エルフリーデ・シュルツだ。貴女の名を聞いておきたい』

『……エンネアだ』

『そうか。ではエンネア、いざ尋常に勝負!!』

 

 エルフリーデは一瞬、決闘の儀礼を行うとギャン改を大きく踏み込ませた。小細工無し。正面から堂々とエンネアのシナンジュに向けて一太刀を振るう。エンネアもこれを正面から受ける体勢を取った。本来ならば距離を取り、ライフルを使えば良い話である。しかしエルフリーデの潔さ、それをエンネアは正面から潰したくて仕方が無かった。彼女も得意とするのは近接戦闘。ここで引くのは彼女のプライドが許さない。

 ゴンッ!! と鈍い音が響き渡った。シナンジュの盾がギャン改の一撃を受けた音である。

 気合いの入った重い一撃が衝撃となってコックピットのエンネアにまで襲いかかるも、彼女はシナンジュの力で一息にその太刀を押し返し、体勢が崩れた所にビームサーベルを薙ぎ払う。が、エルフリーデもギャン改の盾を巧みに置き、胴が真っ二つになるのを避ける。

 しかしまだシナンジュの攻撃は終わらない。盾の先端に生まれたビーム刃、ビームソードアックスを真上から振り降ろしてきたのだ。堪らずギャン改の大剣で受けるエルフリーデ。そしてそれを支点に回転しながらシナンジュの懐に入り込み、一気に地面を蹴り抜いた。

 所謂、当て身という体術だ。モビルスーツの重量。頑強な装甲。エネルギーを過不足なく伝える操縦技術が合わさり、その威力はただの体当たりより数倍に跳ね上がる。むしろ、それをモビルスーツでやる人間は少なくてもエルフリーデくらいだろう。

 堪らないのはエンネアだ。その当て身をシナンジュに直撃で受けたのだ。今まで感じた事の無い衝撃だろう。いくらモビルスーツに乗っていても内部に走る衝撃まではどうしようもないからだ。しかしそれこそがエルフリーデの狙い。どんなに優秀なモビルスーツでも、動かしているのはパイロットだ。これは機体ではなく、パイロットへの攻撃なのである。

 シナンジュが勢いよく吹き飛んでいく。地面を二度転がりつつ、なんとか片膝をついて体勢を立て直そうとしているが、エルフリーデにはまたとないチャンス。大剣を構え、一気に畳みかけようとする。

 しかしここで遂にシナンジュがライフルを撃つ。威嚇の射撃でも効果は十分。それでギャン改の足が止まる。一方、エンネアはコックピットの中で荒い息を吐きながら、唇をぐっと噛み締めていた。

 事実、彼女自身にもダメージは通っている。まさかモビルスーツで当て身を使われるとは夢にも思わなかった。完全な想定外だ。だからトリガーを引いた。近接戦闘で遅れを取り、傷ついたプライドよりも、彼女は生き残る方を選択したのだ。

 そしてエルフリーデもそれを卑怯だとは思わない。決闘の礼式を取ったとはいえ、これは決闘ではなく、れっきとした戦場だ。故に銃があるのならば、それを使うのもまた戦法の一つ。むしろ当然の行動だ。

 それに気付かれる前に決着をつけたかったというのが本音ではあるが。

 

『オーケーオーケー。そういう事かよ。わざわざ騎士だのなんだの強調して、こっちはすっかりあんたのペースに乗せられてたって事だ。ったく、姑息な手を使いやがる』

『私としてはそのまま決闘としても良かったのだがな。これも一つの戦術として割り切っている。が、レン・アマミヤが嫌いだという事と、貴様らに怒りを覚えているというのは事実だ』

『はっ! どうだかな。それも戦術って奴かい?』

『二言は無い。事実だ』

 

 ギャン改が再び大剣を構える。シナンジュもライフルを向けた。

ここからは戦場だ。遠近両方を使えるシナンジュに対し、ギャン改が持つのは大型ビームソードと盾に内蔵されたニードルミサイル。しかしミサイルはあくまで牽制用。やはり最後に頼るのは己の剣のみ。

 ライフルに臆していては始まらない。そう覚悟を決めたエルフリーデがギャン改を前に押し出す。

 そして案の定、二度三度と光が閃いた。機体を通じてエルフリーデに衝撃が伝わる。しかしそれがどうした。耐ビームコーティングはギャン改の表面にも施されている。それにその程度で止まる程、彼女もギャン改もヤワではない。

 突進力に物を言わせて射程圏内にシナンジュを捉えると、ギラリ。大剣のビーム刃が煌めいた。

 加速のエネルギーを余すことなく伝え、逆袈裟からひと思いに斬り上げる。シナンジュの装甲を裂いていく感触が、操縦桿越しにエルフリーデの手に伝わった。画面越しにもシナンジュの装甲が裂かれていくのが見える。しかしエルフリーデは舌打ちをした。

 浅い。刃の入りが甘いのだ。確かにシナンジュの装甲を裂いた。だがそれは何層にもなった装甲の表層に過ぎない。致命傷、決定打というには程遠い。

 

「私の剣もまだまだという事か……」

 

 全ては己の未熟さ故。エルフリーデがそれを痛感すると同時に振り降ろされるビームソードアックスがギャン改の左腕を斬り落とした。爆散する己の左腕に機体がよろける。一瞬閃光で画面がちらついた次の瞬間、飛び込んできたのは足を振り上げる真紅のモビルスーツの姿。

 衝撃がエルフリーデを突き抜ける。

 天地が逆転し、何度もコックピットに体を叩きつけられる。蹴り飛ばされたのだと気付き、体勢を整えるもすぐ目の前に再びシナンジュの蹴りが迫っていた。

 再度体を衝撃が突き抜ける。また天地が逆転する。よく意識が保てるものだ。いっそ気を失えたらどんなに楽だろうかと彼女は自分の頑強さを呪うほどに。

 

『何か言い残す事はあるか?』

 

 コックピットの至る所がショートし、火花が飛んでいる。自分の体も打撲程度では済んでいないだろう。

 頭から流れる血を拭ったエルフリーデの耳にエンネアからそんな通信が入ってきた。

 砂嵐が混じる画面上にはロケットバズーカを装着し、照準を自分に合わせるシナンジュが映っている。

 

『機体は半死半生。中にいるアンタだってただじゃ済んでないだろう? それにあたしもそこそこに楽しめた。遺言くらい聞いてやるさ』

『そうか。それは随分とありがたい事だ。ならば遠慮なく言わせてもらおう。……この勝負、私の勝ちだ』

『ああん!?』

『まだ気付かないのか?』

 

 エルフリーデの言う事が分からず、エンネアは眉をしかめる。だがそうやって一度冷静になった事でやっと気付いた。何かが聞こえる。戦闘の音では無い、別の豪音だ。

 まさか、このタイミングで?

 エンネアの頬を汗が伝う。この音は何かが飛来する音。確実に何かが近づいてくる。

 リーンホースJr.は視界に入っている。となれば、それとは違う、別の何かだ。

 ゆっくりと振り返る。

 そして見た。

 遥か上空から飛来する一隻の戦艦を。まるでそのものが解き放たれた矢であるかの様な灰と赤の戦艦だ。

 誰しもが突如飛来した戦艦に戦う手も止まる。

 連邦の兵士達はそれが何か知っているからだ。

 エンネアもそれを資料だけでは知っている。だがまさか今、このタイミングで自分の目の前に出現するとは思ってもみなかった。

 そして別の場所、エリスと戦闘を続けていたマフティー。いや、ニューロ・レンもまた素直に驚きが隠せない。むしろ驚きを通りこして、笑いが込みあげてくる。

 

「まさか帰還していたとは思ってませんでしたよ。ミネルバ!!」

 

 そう。その戦艦の名はミネルバ。

 四年前、レン達と共に消息を絶ったSpiritsの母艦。

 それが今、長き沈黙を破りこの戦いの場に姿を見せたのだった。




相変わらずマイペースで進めていますが。とりあえず。

リ リ カ ル ど こ 行 っ た ?

今更?
そいつは言いっこ無しの方向で。
それでは今回はこの辺で。
またお会いしましょう~。
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