魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第45話 青い空の下

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 外ではまだ戦闘が続いている。敵モビルスーツの数も後僅か。それにティアナ達が侵入した事でミネルバとリーンホースJr.は無理に攻め込む必要もなく、防衛戦に徹していた。かと言ってこちらの戦力に余裕がある訳でもない。GNアーマーを切り離したクレアのガンダムデュナメス。中破しながらもまだ戦い続けるエリスのガンダムF91とレイチェルのバイアラン・カスタム。唯一損傷らしい損傷の無いセリカのフェニックスゼロ。この四機しかいないのだ。

 そしてミネルバではニキが手元の時計を見て顔をしかめている。

 既にティアナ達が突入してそれなりの時間が過ぎた。いくらなんでも時間がかかっている。

 これ以上の防衛は難しい。むしろかなり厳しい。エネルギーも弾薬もそろそろ底が見え始めている。

 一分一秒がとてつもなく惜しい。省エネもそろそろ限界だ。

 

「艦長!!」

「来ましたか!?」

 

 だからミラがニキを呼んだ時の反応はまさに条件反射と言っても良かった。

 

「違います! あ、ええと違くはないんですが、ちょっと違います」

「何ですか。はっきり言いなさい」

「は、はい! 確かにティアナさん達の反応をキャッチしたんですが……、とにかく映像、出します!!」

 

 どうやら口で説明する事を諦めたらしい。そそくさとスクリーンに彼女がキャッチした映像を出した。

 

 

 

 

 

 基地の内側から飛び出した光の道が二本。その上には白と赤の鳥獣。

 白は一角獣。赤は猛禽。獲物は角である拳と、爪である脚。

 スバルとノーヴェだ。

 そして両者が操るのは空の道。ウィングロードとエアライナー。その上を車輪が唸りを上げて回転し、二人は縦横無尽に駆け回る。マッハキャリバーとジェットエッジ。同じコンセプト、同じ能力。似た者同士でありながら正反対の鳥獣は荒れた空で衝突していた。

 

「あーもう! しつこい!!」

「うるせぇ!! だったらさっさと落とされろ!」

「嫌だっ!!」

 

 リボルバーナックルが唸る。ジェットエッジが空を切る。

 互いの歯車が高速回転し、正面から激突する。スバルはウィングロードの上を滑る様に後退し、ノーヴェは宙返りしながら着地。視線が交差した間、再び両者は飛び出した。

 猛禽が空に跳ね、勢いそのままに一回転して鞭の様に足をしならせた蹴りを放つ。

 一角獣が踏み締め、脚力が過不足なく全身を巡り、弾丸となった拳に集約される。

 もう何度目かの衝突だろうか。拳打と蹴打によって弾かれた二匹の鳥獣。今回先に動いたのは猛禽。身を屈めてからの足払いに一角獣が跳び上がる。しかし逃しはしない。払った足を軸にしてノーヴェの体が伸びあがった。槍の様に突き出す逆足の蹴りだ。

 

『Protection!!』

 

 槍がスバルの盾に突き刺さる。だが一瞬早くマッハキャリバーが動いていた。盾の周辺に生みだした障壁がスバルを救う。一瞬遅れていればいくらM-Systemで強化されていても容赦なくスバルを貫く。そう感じさせる程の蹴りにスバルの頬を冷たい汗が伝わった。

 

「まだまだぁ!!」

 

 しかしそれでノーヴェの追撃が終わる事はない。スバルを追いかけ加速したノーヴェの拳が容赦なく襲いかかる。対してスバルは防戦一方。亀の様に体を縮め必死にその猛攻に耐えるだけだ。まるで反撃する様子がない姿にノーヴェのフラストレーションはどんどん溜まっていく。

 落とされるのも嫌。だからと言って戦う素振りも見せない。だったら最初からこんな所に出てくるな!

 ノーヴェの意思が、拳を通じて伝わって来る。それを体で、心で感じながらもスバルは手を出す事ができない。できないのだ。

 それは脳裏にレンの姿がチラついているから。焦点が合わず、虚ろな目をしたレンの姿を見たのは初めてだった。何故ならスバルの知るレンはいつも彼女に笑ってくれていたからだ。時には厳しく、それでも最後には笑って頭を撫でてくれる。それがとても嬉しくて。自分よりも大きくて、タコがあってちょっとゴツゴツした手をした大好きなお兄ちゃん。

 しかし機動六課襲撃の時、ハルファスベーゼのコックピットで動かなくなったレンを見て、一瞬目の前が真っ暗になった。今も生気のないあの目を見てどうにかなりそうだった。

 どうしてレンがこんな目にあわなければならないのか分からない。エリオが言う通り、このまま終わるお兄ちゃんではないと信じていても、心のどこかでレンが遠くに行ってしまいそうで堪らなく怖い。

 いつまでも一緒に居たいと思う気持ちが自分の我儘だという事は承知している。だから一度は彼がこの世界に留まった方が良いのではとも考えたのだ。

 けれどそれをレンはいつもの笑顔で「この世界でお別れなんてない」と言った。六課の卒業を見届けると約束してくれた。

 なのに、それなのに、こんなのあんまりだ。

 そればかりが頭の中を何度もリフレインしている。目の前のノーヴェよりも、レンの事ばかり考えてしまう。こんなんじゃ戦えない。拳を握れない。

 

 

 

<ホント、兄離れができない妹様だねスバルは>

 

 

 

 ハッと顔を上げる。今、何が聞こえた? 誰の声が聞こえた?

 

<ほれ、ぼぅっとしてんな。正面、右ストレート来るぞ>

 

 声に押され、人より優れた動体視力でスバルは見た。確かにノーヴェの構えは右ストレート。それが分かった途端体が勝手に動く。顔面目掛けての拳は顔を僅かにずらすだけで良い。風を切る音が聞こえ、拳圧がスバルの髪を揺らす。

 

<よしよし。お、次は浴びせ蹴りか。ちゃんとガードしろよ>

<うんっ!>

 

 ノーヴェの足が後ろから大きく弧を描いた。それは浴びせ蹴りというより踵落としだ。猛禽の爪で空を掻き切るが如くノーヴェの踵がスバルを襲う。一見すると強烈な奇襲攻撃。だが分かっていればただ隙の大きい大技に過ぎない。だからスバルはしっかりと腰溜めをしながらそれをガードしていた。盾から嫌な音がしても彼女は腰を据え、たじろぐ事なくノーヴェの踵を防ぎ切る。

 

<行けっ! かましてやれスバル!!>

「うおおおぉっ!!」

 

 狙うは着地の瞬間。無防備になるその一瞬。スバルの意思を汲みマッハキャリバーが唸りを上げて彼女体を前へ押し出す。盾を構えたままの体当たり。今の今まで反撃らしい反撃が無かった事がノーヴェの反応を遅らせ、意識の外から放たれた一撃がノーヴェの体を吹き飛ばす。同時にカートリッジ六発連続装填。魔力がリボルバーナックルのスピナーに乗り渦を、螺旋を描く。

 ゾクリとノーヴェの背筋に悪寒が走る。あれをまともに受けてはいけない。本能が警鐘を全力で鳴らしている。だがもう避けるのは無理だ。ならばせめてと彼女は腕を交差させての防御体勢を取った。

 スバルもそれは分かっていた。だがだからどうしたと言うのだ。あの声が聞けた。もしかしたら都合の良い幻聴なのかもしれないけれど、こうして再び拳を握る事ができた。行け、と背中を押してくれた。

 それだけで十分。スバルを動かすには十分なのだ。

 

「おおおお……りゃあ!!」

 

 一角獣の咆哮。全力を込めた拳が遂に振り切られる。

 腕が軋む。自分の体がミシミシと音を立てているがノーヴェの耳にはっきりと聞こえる。

 だがスバルは拳を振り抜いている。凌いだか? いやまだだ。ノーヴェは瞬時に理解し、自分の置かれた状況に歯噛みするしかなかった。魔力が消えないのだ。螺旋の渦を巻いた魔力が未だ彼女の腕に留まっている。荒れ狂う嵐が牙を潜め、ノーヴェに喰らいつく瞬間を今か今かと待っている。

 飲み込まれるものか。必死の抵抗をしても魔力の螺旋がじわじわとノーヴェのガードをこじ開け、遂に両腕が左右に弾かれる。

 瞬間、世界が渦を巻いた。

 何度も何度も世界が回り、自分の体が渦に飲みこまれたのだと理解する。嵐の中、渦の中に放り込まれ、抵抗は全て無駄で全身がもみくちゃに蹂躙される。抗う事は許されない。できるのはただこの嵐が過ぎ去るのを待つ事だけだった。

 

「あぐっ!!」

 

 体が叩きつけられた。エアライナーから弾き飛ばされて、どうやら基地の屋上に落とされたらしい。

 全身に力が入らない。ジャケットは無残に引きちぎられ、左腕があり得ない方向に曲がっていた。痛みを感じないのは体の危機的状況に脳がリミッターをかけているからか。それが幸せなのか不幸なのか分からないが、それよりも今は悔しい。純粋に負けた事が悔しい。見上げれば拳を振り抜いたまま、肩で息をしているあの自分と同じ顔をした少女。その姿が悔し涙で歪む。

 

「ち、く……しょ……ぅ」

 

 ノーヴェの視界に黒い天幕が下りる。

 何も見えず、何も聞こえなくなった。

 自分の名前を呼ぶ、いつもやかましい姉妹の声すらも。

 

「ノーヴェ! しっかりするッス! ノーヴェ!!」

「退きなさい! これ以上争う必要ないでしょ!!」

 

 空からノーヴェに呼びかけていたウェンディの顔スレスレをオレンジ色の光弾が突き抜けていく。

 睨みつけた先にはフリードの上からこちらを狙っているティアナの姿。そしてウェンディも自身のモビルスーツ、ジャスティスの様に複合兵器ライディングボード。彼女は愛機になぞらえてファトゥムと呼んでいるそれに乗り宙に浮きながら、睨みつける。

 

「退きなさいか。勝ちを確信して上から目線とはヨユーッスね」

「余裕なんかないわよ。でもあんたの相棒は戦闘不能。あんただって一人でどうもできないでしょ?」

「姉からも頼む。ウェンディ、ここは退いてくれ!」

「チンク姉はそいつらと一緒に行くって事ッスか? そいつら管理局ッスよ? あたしらの敵じゃないッスか」

 

 ティアナと一緒にフリードの背にいるチンク。その隣を飛ぶディードと彼女に捕まっているオットーとセイン。ティアナも横目で注意深く彼女達を見ていた。

 成り行き上、確かにこうして一緒にいるが元々は敵だという事を忘れてはいけない。

 

「ウェンディ、確かに君の言う通りだ。彼女達は管理局で我々はそれに敵対する者。だがな、姉達はそっちにいる事に疲れたんだよ。そんな単純な理由だ。勿論ドクターの言いつけは守る。だが同時にドクターは言っていた。こちらの世界では自分の思う通りにやりなさいと! だから姉達は自分の心に従う! そっちには戻らない!!」

「ならあたしらも好きにするッス。チンク姉、この世界ではあたしらがチンク姉達の敵ッス!!」

「ああ。次に会う時は存分にお前とノーヴェの力を堪能させてもらおう。……達者でな」

 

 チンクが微笑んでいた。妹を送り出すその笑みをティアナは知っている。

 それは幼い頃に見たティーダ。そしてスバルを見守るレンとシュテル。

 それと全く同種の微笑みだった。

 ウェンディが踵を返し離脱していく様を、チンクと一緒に見送る。

 だが銃口は。

 銃口はチンクの方を向いていた。

 

「随分とはっきり言ってくれるじゃない」

「嘘は苦手なんだ」

 

 視線は合わせない。

 たったそれだけの短い会話。

 エリオとキャロはハラハラと視線を泳がせ、ディード達も勿論気が気でない。

 そしてゼノンはどっかりとフリードの背に座りながらニヤニヤとそれを見守る。

 しかしティアナは仏頂面のまま銃口を下げた。その行動にチンクもまた笑いかける。

 

「アンタには借りがある。これでそれはチャラよ。できればスカリエッティの目的も教えてくれるとありがたいんだけど?」

「それは勘弁願えるかな。敵に塩を送るのはこれが最後だよ」

「そんな事言って、結局アンタ達もジェネレーションシステムを狙ってる事くらい分かってるわよ」

「それは重畳。説明する手間が省けるというものだ」

「よく言うわ。……変な事したら容赦なく撃つからね」

「肝に銘じておくよ」

 

 どうにか一応のまとまりはついたらしい。それを見計らってゼノンが両方の肩に手を置くと二人は肩を竦めて見せた。だがそれで十分だ。戦闘を終えたスバルもこちらに向かいながら大きく両手を振っている。

 沈んだ顔が嘘の様に晴れ晴れとしているのが気になったが、あの様子だとこちらから声をかけるまでもなく自分から話してくるだろうとティアナも小さく手を振りながら思う。

 それにいつの間にか砲撃が止んでいた。敵モビルスーツが撤退していく姿も見える。

 テロリスト達が基地を放棄したのだ。無論、後追いはしない。こちらの戦力はもうギリギリいっぱい。

 むしろ撤退、基地の放棄まで追い込めたのは大勝利と言えるだろう。

 

「あ~、つっかれた~」

「仮にも女の子だろう。大の字に寝転がるのはどうかと思うね」

「うっさい。こちとら当たれば即ゲームオーバーのジェットコースターやった上に連戦なの。少しくらい大目に見てよね」

 

 チンクの小言にフリードの背に寝転がったティアナはひらひらと手を振る。

 実際疲れた。早くシャワーを浴びてベッドに行きたい。

 しかし問題はとことん山積みだ。相変わらずぐったりとし、目の焦点が合わないレンを逆さまに見る。

 なんとかして彼を治療しなければならない。でなければジェネレーションシステムに行けたとしても、あの世界に帰れたとしても意味が無い。

 

(それに、シュテルもキリエも悲しむわよね……)

 

 レンを想う少女二人の姿が浮かび上がる。

 今、彼女達は何をしているのだろう。シュテルの怪我は大丈夫だろうか。キリエはまだハルファスの中で眠っているのだろうか。

 機動六課は、時空管理局はどうなってしまったのだろうか。

 疑問は次から次へと浮かんでくる。

 

「ティアナさん、着艦しますよ~」

「うん。分かった~」

 

 キャロの声に体を起こすとミネルバとリーンホースJr.がゆっくりこちらに向かってくるのが見えた。

 激戦を象徴するかの如く見事にボロボロ。まるで今の自分達の状況そのものではないか。

 前途多難。一体いつになったらあの世界に帰れることやら。

 深い溜息と共に空を見上げる。

 

 世界が変わっても空の色はどこまでも青かった。

 

 

 

2

 

 

 

 空。

 どこまでも青い空。

 大の字に寝転がり、少女はぼんやりと空を眺めている。

 ただただ流れる雲を見て、吸い込まれそうな青に目を奪われていた。

 初秋の空がとても高い。

 このまま昼寝でもしてしまおうか。

 機動六課部隊長八神はやてはそんな事を思いながら瞳を閉じる。

 

「八神部隊長、サボリはいけないと思います」

「サボリやあらへん。積極的休養って奴や」

「それをサボリと言うと思うんだけどね?」

 

 突然瞼に影を感じたかと思うと、よく聞き慣れた声が聞こえてきた。ただサボリをサボリと認めるのは癪なので屁理屈をこねてみたら、また別の聞き慣れた声で突っ込みが入ってしまった。

 もう十年来の友人の声。はやてはうっすらと目を開く。

 すると腰に手を当てて口を尖らせつつも自分を見降ろす高町なのはと、その横でくすくす笑い、風に髪を掻き上げるフェイト・T・ハラオウンがはやての顔に影を伸ばしていた。

 

「……なのはちゃん」

「なんでしょうか? 八神部隊長殿」

「今日はピンクなんやね」

「そうですけど何か?」

「……少しは恥じらってくれんとおもろないやん」

「お生憎様。お互いもう何度も見てるんだから、はやてちゃんに見られたくらいで恥じらう必要ありませーん」

「フェイトちゃーん。旦那がもう乙女じゃなくなってるでー」

「大丈夫。なのははちゃんと乙女だから!」

 

 あかん。話にならん。っていうか旦那は否定せんのかい!

 そう言いたいのをぐっと堪えてはやては体を起こした。白くつるつるした床面に腰を落ち着け、彼女も吹いてくる風に髪を掻き上げる。

 ここは彼女達にとって思い出の場所。

 時空管理局・巡航L級8番艦。次元空間航行艦船アースラの天辺だ。

 六課襲撃によって本部は壊滅。再稼働したくとも本部が無くてはどうしようもない。そこではやてが目をつけたのが、三人が世話になったこのアースラだった。フェイトの養母であり、はやてとなのはにとっても恩人であるリンディ・ハラオウンから息子のクロノ・ハラオウンに艦長が代替わりしてからも、前線に立ち続けた立派な艦である。しかしそれでも老朽化を免れる事はできず、今は静かにドックでその終わりを待つだけになっていた。

 これが正真正銘最後の航海になるだろう。その幕を自分達の手で引く事ができる。はやてだけでは無く、なのはとフェイトにも感慨深い物があった。

 そして突貫で整備をし、アースラは機動六課の仮本部として再び空を舞う事になる。

 現在は機関系統の最終チェック中。整備したとはいえ、突貫は突貫。整備班も確認を行い、計器機器類を頭に叩き込まなければならない。

 というわけでアースラは一時、海面に着水。今も整備班がアースラ内を所狭しと走り回っているだろう。

 そしてはやては激務の中、リインとマリアの目を掻い潜ってここでサボリと言う名の積極的休養をしていたのだった。

 大方なのはとフェイトはそんな二人に言われて探しに来たに違いない。

 はやてを挟むように座る二人に、なんとも短い休養だったなとはやては溜息をついた。

 

「まったく。私がレンさんに下着見られた時なんて恥ずかしくて顔から火が出そうだったのに。ほんと、おもろないな~」

「はやてちゃん!」

 

 ガシッと音を立てて、なのはがはやての両肩を掴む。

 間近に迫ったなのはの鬼気迫る顔にはやては目を白黒させるばかり。

 一体何事だ?

 なのはの目はまるで作戦中の様に真剣だ。

 

「そこんとこちょっと詳しく!!」

「あ、あれ? なのはちゃん達に話してなかったっけ?」

「ん~、初耳、かな?」

「聞いてない!! 何それ!? レンさんどんだけ手出してるの!? シュテルとキリエさんならいざ知らず、ティアナとスバルもレンさんにべったりだし、挙句の果てははやてちゃんまで!? ま、まさかはやてちゃんから見せたの!? 前にも見えるのがナンボのもんじゃいとか言ってたし……」

「は~や~て。私もちょっと気になるな~」

「ちょ! なんでそうなるん!? 特になのはちゃん、私そんな軽い女ちゃうで!? それにあれは勢いや! とにかくちょっと落ち着いてな? あれは事故。事故なんや!!」

 

 ずいと詰め寄る親友二人をなだめつつ、はやては必死に弁明する。本人がいない所で評判が落ちるのもどうかと思うが、主に自分の為。とにかく自分の純潔、清純、まだ清らかな体である事を証明する為に。

 なのはとフェイトも話を聞くにつれ、少しずつ落ち着きを取り戻していく。

 何故か酷く残念そうな顔をしていたが、そこは突っ込まないでおこうとはやては思いつつ話を続ける。

 

「そんでな、もしもティアナから事情が聞き出せたなら飯奢れって言うから、なんなら一日デート券もつけたげるよ~とか言ったら、んじゃその下着で頼むわ~とか言われたんよ。ま、パンスト履いてるし、暗かったから本当に見えてたか怪しいんやけどね」

「成程ね。そういえばあの時、なのはの事レンははやてから聞いたって言ってたっけ。ふ~ん、そんな事あったんだ~」

「まったく男ってのは本当にしょうもないね~。ね、フェイトちゃん」

「あ、あはは……」

 

 なのはの言葉にフェイトは曖昧な返事をするに留まる。何せ、自分も経験があるからなんとも言えない。

 地上本部襲撃の際、非常時とはいえティーダに対してスカートで蹴りをしてばっちり中を見られているのだから。

 確かその時なのはの目からハイライトが消えていたはずなのだが、今それを蒸し返す必要はないだろう。

 何故なら今なのはは珍しく年相応の少女らしい好奇心ではやてに詰め寄っているんだから、ここで矛先を変えるのは面白くない。

 

「それで!? レンさんと本当にデート行ったの!?」

「なんでそんなに興味津々なん!? 行くわけあらへんやろ!!」

「ぶーぶー! なんで~? 面白くなーい」

「当然や。私だってシュテルとキリエに折檻されたくないもん。そもそもそんな時間だって取れんかったし……」

「ほほ~、なら時間が取れたら行っていたという事ですな? 聞きましたかフェイトさん?」

「聞きましたよなのはさん。なるほどなるほど。はやてはレンみたい人が好みか~」

「ちっがーう!! なんでそうなるんやー!!」

 

 いつからここは女子会になったのだろうか。まだ日も高いというのにノリは深夜のそれだ。実に悪い顔をし、ニヤニヤと笑う親友二人にはやては声を荒げて否定する。

 だがそれはかえって逆効果だ。こんなものは否定すれば否定するほど、深みにハマっていくものなのである。しかし否定しなければ否定しないで、いいオモチャになるのもやられている方は面白くないものだ。

 

「そもそもあのヘタレ、進展しない癖にシュテルとキリエ以外頭にないやろ」

「あ、進展はあったみたいだよ? 六課襲撃のどさくさにシュテルが堂々と告白したってユーリが言ってた。ついでにキリエも抜け駆けなし~とか言ってたらしいからあの人も……なのかな? レンはちゃんと返事をしてないみたいだけど」

「え? えぇっ!?」

「それホンマ!?」

 

 今度はなのはとはやてが驚く番だった。というか、シュテルからというのがまた彼女らしく、返事をしないレンもまたレンらしい。やはりあの男はヘタレだ。そこにキリエもさりげなく入ってるのだから、これまた彼女らしい。三人は一様に複雑な顔をした。

 

「それじゃスバルとティアナは? やっぱり出遅れてる感じなんかな?」

「スバルはね~、なんて言うか本当に兄妹って感じ。好きって言うのがちょっと他と違う印象だよ」

「ティアナは気にしだした頃は友達以上恋愛未満って感じだったけど、やっぱり惹かれちゃったって所かな。でもちゃんと現実も分かってる。ある意味一番大変かも」

「ほんと、なんか知らない所で皆青春しちゃってるんやな~」

 

 しみじみとそんな事を言ったはやてに、なのはとフェイトは顔を見合わせて吹き出してしまった。むっとしたはやてだったがつられて笑いだしてしまう。初秋の空の下、少女達は久しぶりに少女らしい会話ができた事が楽しかったのだ。機動六課というはやての夢。後輩を鍛えるという責任。地上本部と機動六課の襲撃。本当なら今も笑っていられる状況ではない事は分かっている。だがたった一瞬でもこうして年相応の少女らしい会話は張り詰めていた精神を優しくほぐしてくれる。

 はやては立ち上がり、ん~っと声を出して大きく伸びた。

 よし。十分に休養とリラックスができた。後は前へ進むだけ。

 

「ありがとな二人とも。なんかすっきりできたわ。これで任務に集中できる」

「いえいえ、どう致しまして。部隊長の補佐が私達の仕事ですから」

「それ以前に私達ははやての友達だからね。はやてが困ってたら力になるのは当たり前だよ」

 

 本当に頼りになる親友達だ。

 はやては腰に手を当てて、座っている親友達に深く感謝した。深く考え過ぎて自分の世界に入ってしまうのは自分の欠点だ。しかし親友達はそんな彼女の性格を知っているから、こうしてさりげなく手を差し出してくれる。本当にさりげなく。それがなんとありがたい事か。それで何度も助けてくれた自慢の親友達だ。

 

「ただ、途中からわりと本気トークになってたみたいやけどな?」

「はやてちゃん、それは言わないヤ・ク・ソ・ク♪」

「そういう事にしとこうか。そんなら、こっからはお仕事モードに切り替えるよ」

 

 片目を瞑り人差し指を口に当てているなのはにそう言って、はやては再び二人の前に座る。

 目付きが変わった。宣言通り、ここからは機動六課部隊長八神はやてだ。それを感じ取り、なのはとフェイトもまた表情を変える。機動六課フォワード隊、スターズ分隊隊長とライトニング分隊隊長の顔になる。

 

「フェイトちゃんにはまだちゃんと話してなかったな。あの日、私となのはちゃんとレジアス中将が何を見たかについて」

「うん。地上本部襲撃の時、はやてとなのははレジアス中将と一緒に最高評議会の所に行ったんだよね」

「そうや。地上本部のシークレットスペース。本当に限られた人間しか入る事のできないトップシークレット。レジアス中将に連れられて私達はそこに足を踏み入れた」

 

 地上本部襲撃の際、フェイトは先行して地上本部に向かった為にその時の事を知らない。

 はやてが一度なのはを見た。彼女も頷く。ちゃんと語るべきだ。そうなのはの目が言っている様だった。

 

「あの時スカリエッティは最高評議会の映像を出したんやけどな、腑に落ちん事があったんよ。何で自分達の正体をバラされてるのに何も言わないんや? 私とレジアス中将はそれが引っ掛かっていた。だから確かめに行ったんよ。それになのはちゃんにも同行してもらった。ヴィヴィオの事があったから申し訳ないとは思ったんやけど何があるかも分からんかったし、誰か信頼できる人に来てほしかったんや」

 

 その時の事を思いだしたのか、なのはは少し顔をしかめていた。

 レンにヴィヴィオの事を守ると誓ったというのに、その一大事に傍にいてあげられなかった事は今でも悔しく思う。あそこでヴィヴィオを奪われてしまっていたら、ヴィヴィオを失っていたら。考えるだけでゾクリと体が震えあがるくらいだ。

 だが同時にそれは避けようがない事だったとも思う。そういう局面だったと思う。

 ヴィヴィオには多くの味方もいた。しかしはやてはあの時、そんな味方すらいない状況だったのだ。

 シグナムとカリムは傷ついたマリアから動く事ができず、動けたのは自分だけ。

 だからなのはは心を鬼にした。仲間を信じ、ヴィヴィオを託したのだ。

 

「……それではやて達は何を見たの?」

 

 フェイトが続きを促す。

 

「……何も。見たと言えば全てが終わった後、かな」

 

 ポツリとなのはが呟いた。

 フェイトは愕然とした。なのはが言っている意味が分からなかった。聞き間違えたかと耳を疑って、それが聞き間違いではない事を悟り、愕然とする。

 

「どういう、こと?」

「言葉の通りだよ。残っていたのは割れた大きな培養ポッドが三つ。床はそれを満たしていたと思える液体にまみれて、無造作に引きちぎられたコードが垂れ下がっていた。確かに最高評議会はそこにいたんだと思う。でも遅かったんだ」

「多分スカリエッティに連れて行かれた。床の水がまだ新しかったからな。できるタイミングと言えばやっぱり地上本部襲撃の時。あの映像は予め録画か何かだったという事。まんまとスカリエッティの術中にはまったって所やね」

「でもどうしてスカリエッティは最高評議会を?」

「よう分からんって言うのが正直な所やね。あいつの言葉を鵜呑みにするんなら、ミッド産モビルスーツへの人格ダウンロード。若しくはジェネレーションシステムを使った不老不死の再現……かな。研究そのものは確かに真実だってレジアス中将が言ってたからな」

 

 歯切れ悪くはやては答えた。レジアスも最高評議会とスカリエッティの研究については認知しており、あの時スカリエッティが言った事が真実であると公言している。しかしだからと言って本当にそんな事が可能なのだろうか、との疑念も残っていた。不可能だと思いたいが相手はあの稀代のマッドサイエンティスト。本当にやってしまいそうで怖い。

 

「管理局への揺さぶりとかは考えられない? 最高評議会そのものが管理局の暗部みたいな物なんだし、それをネタに脅迫だってできるんじゃ……」

「勿論それは考えたよ。でもそれを言ったらスカリエッティその人だって管理局の暗部にがっつり関わってるやん。今更最高評議会で揺さぶりをかけるんなら、自分でやるんちゃうかなぁ」

「それは……そうかもしれない」

 

 はやての言い分もフェイトには分かる。やはりはやての言う通りなのだろうか。だがそこに最高評議会を連れ去るメリットがあるとは思えない。何故ならその被検体が最高評議会である必要性は全く無いのだから。スカリエッティが良くも悪くも研究者だというのはフェイトが一番知っている。彼の犯罪はどこか自分の研究成果を試している節があったからだ。つまりその点さえ満足できれば、他の事は彼にとってどうでも良いのかもしれない。だからこそ、今回最高評議会を連れ去った意図が分からない。

 

「とにかくこれ以上はどう考えても答えが出てこない。それこそスカリエッティと同じ思考回路にせな、永久に答えなんて出てこないと私は思う」

「随分とぶっちゃけたね」

「仕方ないやろ。相手の思考になって推理推測するんは確かに捜査の手法の一つや。けれど今回は何もかもが規格外。それを読もうとすると頭がおかしくなってくる。ってなわけでここでフェイト執務官に質問や。捜査に行き詰まったらどうすればええんやっけ?」

 

 そう言って片目を閉じるはやてにフェイトもその意図を察し、同様に片目を閉じる。

 

「原点、初歩に立ちかえる。じゃあ、この場合の初歩はなんですか? 高町教導官?」

「えぇ!? そこで私に振る~? え~っと……レリック?」

「「正解っ!!」」

 

 フェイトとはやての声が重なった。それになのはの体がビクッと跳ね上がる。

 はやてを立ち上がると、グッと握りこぶしを作り満足げな顔を二人に向ける。

 

「色々あったけど、そもそも六課は古代遺物管理部や。レリックを追うのは当然の事で、その間にスカリエッティがいるだけの話や。スカリエッティが何を考えて、何を仕掛けてくるかは分からん。けれどその先にレリックがあるなら、私らはそれを叩き潰して進むだけや!」

 

 言い切ったはやての目に迷いは無かった。

 進むべき道を定めた彼女は強い。どんな事があってもそれを達成しようとする意思ははやてを動かす力となる。

 そしてそれは仲間に伝わり、大きなうねりとなっていくだろう。

 それが夜天の王が王たる所以。例え夜の闇に閉ざされても、その闇の中で先頭に立ち、皆に勇気と力を与える事ができる八神はやての資質だ。

 

「乱暴だなぁ」

 

 思わずなのはは苦笑してしまった。つまりスカリエッティが何を考えているかとかは、この際どうでも良い。立ち塞がるなら正面から迎え撃つという事だ。

 

「でも嫌いじゃないよ。そういう考え」

「なのは……」

 

 フェイトに微笑みかける。確かにこれ以上考えてもスカリエッティの思考を先回りすることなど不可能。

 ならば多少後手に回ったとしても、それを速やかに解決するしかないのだ。

 それがどんなに困難な選択であっても、自分達の意思はそれを貫き通す。

 その為の魔法。その為の力。その為の機動六課。

 確かに今回は完敗だった。

 だがまだ事件が終わったとはなのはも思っていない。

 もう一度、必ず何かが起こる。

 その時が最後のチャンスになるだろう。

 不屈の心がふつふつと燃え上がり始めていた。

 

「そうだよ。ここで立ち止まってる暇なんてないんだ」

 

 自分に言い聞かせるようにフェイトも二人に賛同した。

 

「それにね、私思うんだ。レリックを追う先にいるのはスカリエッティだけじゃない。レンやフォワードの四人も必ずいるって。あの子達が簡単に諦めるはずないもの。うん。絶対に諦めてなんかいないと思う」

 

 あの五人だってきっとこの世界に戻る為に行動を起こしているはず。フェイトはそう信じている。

 信じる事。諦めない事。

 それはフェイトがなのは達から教えられ、次の世代に伝えていきたい、伝えなければならない事だ。

 同時にそれが今の彼女の強さでもある。

 心優しき金色の雷神はそこに希望を見出していた。

 三人が頷き合う。

 

「そんじゃええか? 六課はこれより本来の業務であるレリックの確保に動きます」

 

 はやてが拳を前に突き出した。

 

「その先にスカリエッティがどんな策略を巡らせていても、私達は退かず、力の限りそれを突破する」

 

 立ち上がりなのはが拳の先端を当てた。

 

「レンとフォワード達は必ず動いている。だから私達もそれを信じて諦めない」

 

 最後にフェイトが立ち上がり、二人の拳に拳を当てる。

 

「決まりや。……なのはちゃん、フェイトちゃん。力を借してな!!」

「「もちろん!!」」

 

 それは誓い。三人が交わす絶対の誓い。

 もう一度三人は拳を突き合わせる。

 その姿が誰かが見ていたならば、誰もが口を揃えて言うだろう。

 絶対に負ける気がしない。この三人が揃えばどんな困難も乗り越えられる、と。

 それほどまでに三人の顔には自信が溢れ、凛々しくもあったのだ。

 

「よしっ! なら後は行動するのみだね。という訳で、差し当たっては……」

 

 不意になのはがはやての腕の組む。さっきの凛々しさは何処へやら。はやての顔が青くなった。

 

「私達は私達の責務を果たすとしようね」

 

 今度はフェイトが反対側の腕を組む。はやての顔がますます青くなる。

 

「「八神部隊長をリイン空曹長とマリア准空尉の所までお連れするであります!!」」

「ちょ―――ッ!?」

 

 声を上げ、じたばたと最後の抵抗をみせるはやてだったが、悲しいかな。はやての背はなのはとフェイトに比べて頭一つ分ほど小さかったりする。両方から支えられ、ひょいと持ち上げられれば足なんか床から離れてしまうのだ。

 はやても無駄だと悟ったのだろうか。そのままなのはとフェイトに連行されていく彼女は無気力、無力、無抵抗。これから待っているであろうマリアとリインの小言を想像して、薄ら笑いをしているくらいだ。

 

「せっかく仕事モードに頭切り替えたんだから素直にそのまますれば良いのに」

「そうなんやけどなぁ。待ってるのが書類の山かと思うと気が滅入るというかなんと言いますか……」

「仕方ないよ。それがはやての仕事なんだから」

「相変わらずフェイトちゃんは真面目やね~」

「はやてだって真面目にすれば楽勝でしょ?」

 

 できるにはできるけど、モチベーションが上がらんのですよ。

 とりあえずそうは思ってみてもはやてがそれを口にする事はなかった。やれやれ仕方ない。確かにフェイトが言った通り頭を切り替えたのだから、さっさと処理してしまおう。

 

「二人はこれから王様の所?」

「うん。私とフェイトちゃん用のM-System最終調整。こんな状況だからちょっと急いでもらったんだ」

「フォワード達と違って私達の基礎データはレイジングハートとバルディッシュにあるからね。それを使ってかなり工程を短縮できたみたいだよ」

「それは良い報せや。予算とか資材とか色々調整した甲斐があったわ」

 

 アースラの中に入り、ようやく解放されたはやてが安堵の溜息を漏らす。

 フォワード達にも採用したM-Systemは基礎理論こそシュテルとレン。そしてキリエが構築した物だが、ディアーチェ達も開発には同じくらい関わっている。それをなのは達に転用できれば、戦力を欠いた六課にとってそれは大きな力となるだろう。むしろはやてはそれに賭けていた。本当ならできるだけ配備したい所だが、現状M-Systemを使いこなせる人員は限られている。その限られた人員の為に予算と資材を調整するだけの価値は十二分にあると言っても良かった。

 そして彼女達以外にも六課の戦力として数えられるのはSpiritsだ。レンとシュテル、キリエを欠いた状態ではあるが、マリアは先日復帰済み。あの後病院に送り返されたマークも今日から合流する手はずとなっている。

 着々と準備は整いつつある。しかし完璧ではない。

 やはり最後のピースは彼らだ。

 次元の穴に飲み込まれたレンとフォワード達。

 

(早ぅ帰って来い。あんたらがいないと終わらせられへん)

 

 立ち止まり窓の外を見上げる。

 世界が変わっても空は青いのだろうか。

 そんな事を思い浮かべ、はやては再び前へ歩きだした。

 

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